日本泌尿器科学会雑誌
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84 巻, 12 号
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  • 在胎週数とネフロンの発育
    島田 憲次, 細川 尚三, 東田 章
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2091-2096
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    出生前超音波診断の普及により, さまざまな尿路奇形の報告が増加しているが, それに伴いこのような症例に対する診断と治療上の問題も増えている. なかでも胎児治療についてはその是非や適応時期についてのヒトにおける基礎的な検討がほとんど成されていない. このような観点から, 先ず正常胎児の腎組織を調べ, 在胎週数による腎の発育の違いを検討した.
    対象は当センター病理部で剖検が加えられた胎児の内で, 腎尿路に異常が見られなかった60例87腎である. その結果, (1) ネフロン形成層はGW35~36週にかけて消失していた. (2) medullary ray に沿って並ぶ糸球体数 (RGC) はGW30週頃までは直線的に増加し, その後36週を過ぎれば12個前後と一定の値に落ち着く. RGCは子宮内での胎児の発育状態には影響を受けていなかった. (3) 糸球体の大きさは均一ではなく, medullary ray に沿って深部から表層に向かうに従い, 徐々に小さくなる. (4) 最も表層の糸球体はいずれの在胎週数においてもその大きさに差は見られなかった. 傍髄質部の糸球体も在胎週数による有意差はなかった.
    胎児腎のこのような形態上の特徴に注目すれば, 病的腎の病態を解明する手がかりが得られると考えられた.
  • 胎児治療に対する病理学的背景
    島田 憲次, 細川 尚三, 東田 章
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2097-2102
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    出生前診断される腎尿路異常症例が増加するに従い, その治療法として胎児治療を真剣に考えねばならない症例にも遭遇している. 今回はヒト胎児水腎症を組織学的に検討し, 先に報告した正常胎児の腎発育と比較しながら, 胎児治療に対する病理学的背景を考察した.
    対象は過去約10年間に剖検が加えられた胎児水腎症21例32腎で, 基礎疾患は尿道閉鎖/狭窄7例, 膀胱腸裂3例, 水子宮腟症2例などであった. 腎皮質の嚢胞形成は12例に見られ, 主として糸球体嚢胞と考えられた. 大小の嚢胞が多数見られた7例は, いずれも両側の高度の水腎症であった, ネフロン形成層は軽~中等度の水腎症ではGW33週頃まで見られたが, 嚢胞形成が著しい腎ではすでにGW28週でも消失していた. 尿細管・集合管の所見としては, 管腔の拡大あるいは逆に間質の増生が著しいための管腔萎縮像が見られた. 拡張した管腔や腎皮質の嚢胞は腎実質に均等に見られるのではなく, 腎の区域により差が見られた. 腎異形成は6例10腎に見られ, いずれもGW30週以降の症例であった. 高度の水腎症ではGW30週近くになると糸球体数の減少が明らかであった.
    以上の結果から, 胎児の腎機能が回復するか否かはネフロン形成層が残されているか, あるいは腎異形成が完成しているか, の2点にかかっており, 尿路を減圧する胎児治療はGW20週を越えた頃, あるいはそれ以前に適応される必要がある.
  • 秋山 昭人, 山本 真也, 鉾石 文彦, 小川 正至, 相沢 卓, 松本 哲夫, 三木 誠
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2103-2108
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    異なる測定原理を用いた6種の血清PSA (Prostate Specific Antigen: 前立腺特異抗原) 測定キットについて検討を行った. これらのうち, polyclonal 抗体を用いたものが2種類 (EIKEN, MARKIT-F), monoclonal 抗体を用いたものが4種類 (BALL ELSA, DELFIA, MARKIT-M, TANDEM-R) であった. これらの各キットを用いて12例の女性血清, 5例の膀胱前立腺全摘術後患者血清, 2例の進行性前立腺癌患者血清について測定を行った. 女性血清の測定では, polyclonal 抗体使用キットで最小検出感度を上回る数値を示すものがいくつか認められたが, monoclonal 抗体使用キットではいずれもPSAは検出されなかった. PSA高濃度血清を用いた希釈試験では各キットとも満足のいく結果が得られたが個々の数値には相違が見られた. 微量域での安定性の面から, 前立腺癌の再発・再燃の検出などの点では, monoclonal 抗体使用キットが有利と考えられた. これらの結果から, 実際にPSAの測定を行う場合, データを読む際には使用したキットの特性を十分に理解しておくことが重要と思われた.
  • 仙賀 裕
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2109-2117
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    腎癌の grade 診断に客観的な判断を加える目的で, 52例の腎癌に対して抗Leu-M1抗体, 抗EMA抗体を用い, 免疫組織化学的検討を行った. 抗Leu-M1, EMA抗体に対する反応の組み合わせから, 52例は4 group に分類可能であった. 正常腎と胎児腎におけるLeu-M1とEMAの反応から考え, 通常は近位尿細管細胞由来と考えられる腎癌では, Leu-M1 (+) EMA (-) の症例が最も近位尿細管細胞の性質を保持していると考えられ, (++) (-+) (--) の順に性質を失っていくと考えられた.
    (+-) を免疫組織化学的異型度1 (IG1), (++) をIG2, (-+) をIG3, (--) をIG4とし, 個々の症例をHE染色で決定した grade と比較検討した. 大多数の症例で従来の grade とIGは一致したが, 2段階以上 grade が解離した例も認められた. G1でIG3, G2でIG4の例で予後不良例があり, 逆にG4でIG2の例で治療によりCRになった例を認めた. これらの解離例を分析し, 従来の組織学的異型度と対比しながら, 腎癌の免疫組織化学的異型度の有用性について論じた.
  • 橋本 潔, 貴島 洋子, 大西 規夫, 江左 篤宣, 杉山 高秀, 朴 英哲, 郡 健二郎, 秋山 隆弘, 栗田 孝
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2118-2123
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    神経因性膀胱に続発した膀胱尿管逆流症に対し内視鏡的逆流防止術を1988年5月から1991年10月までに施行し, 以前に報告した当科における開腹手術の治療成績と比較した.
    対象は4歳から77歳までの7症例, 12尿管である. 術後平均観察期間は25.1ヵ月で12尿管中10尿管 (83.3%) で逆流が消失した. 開腹手術の成績は1977年6月から1987年6月まで施行した11症例20尿管で, 16尿管 (80%) で逆流が消失しており, 内視鏡手術は開腹手術と比較しても遜色のない結果であった. 内視鏡手術後, 一過性の水腎症を1例に認めたが, 全例に水腎症の増強したものはなく, 他の副作用も認めなかった. 当術式は侵襲も少なく, 手技も容易であり, 神経因性膀胱に続発した膀胱尿管逆流症に対し第一選択と成り得る術式と考えられた.
  • 田口 圭介, 熊本 悦明, 塚本 泰司, 山崎 清仁, 渋谷 秋彦, 高橋 敦, 高塚 慶二, 高木 良雄
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2124-2130
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    Clinical stage C以下の前立腺癌症例42例を対象に骨盤リンパ節郭清 (うち前立腺全摘除術27例を含む) を施行し, リンパ節転移と原発巣の病理組織像や腫瘍マーカーとの関係を検討した. 42例中18例にリンパ節転移が認められた. 組織分化度別リンパ節転移の頻度は, 分化度が低くなるにつれて増加する傾向を認め, Gleason 分類においても Gleason's sum が高くなるにつれて増加した. リンパ節転移陽性例は陰性例に比べて術前PSA, PAP値が有意に上昇しており, 特に高度に上昇していた症例ではリンパ節へ転移している傾向が強かった. したがって, 術前のPSA, PAP値が高値の場合にはリンパ節転移の存在も考慮しなければならないと考えられた. しかし, 分化度が中分化, 低分化型の症例では腫瘍マーカーが高度に上昇していない場合でもリンパ節転移を有する症例があり, 特に低分化型でその傾向は強かった.
  • 小原 健司, 高橋 等, 武田 正之, 佐藤 昭太郎
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2131-2136
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は夜間頻尿患者の昼夜尿産生量と血漿 Arginine vasopressin (AVP) 日内変動を調べ, 1-deamino-8-D-arginine-vasopressin (DDAVP) 点鼻療法の効果を検討することである.
    対象は, 心, 肝, 腎疾患がないにもかかわらず夜間多尿に伴う夜間頻度を訴える8症例 (男7例, 女1例, 44歳~72歳) であり, うち3例は自律神経障害を伴っていた. 全例が, 抗コリン剤の内服治療, 水分制限を受けたにもかかわらず症状軽減が見られなかった. 全例, 就寝中の尿量が個々の膀胱容量を上まわっており, 血漿AVP日内変動では, 就寝中に上昇する正常なリズムは認められなかった. DDAVPは, 就寝前に5~10μgを点鼻にて投与した. 夜間尿回数は, 治療前平均4.6回から治療後2.5回となり有意に改善した (p<0.01). 覚醒中の尿量と就寝中の尿量の比率も治療前1.33から治療後3.22と有意に上昇した (p<0.01). また, 就寝中尿量の膀胱容量に対する割合も3.7から1.5と有意に減少した (P<0.01). 副作用では1例に頭痛, 鼻閉症状, 低Na血症を認めたが, 軽度であった.
    DDAVPは夜間多尿による夜間頻尿を訴える患者のなかで, 血漿AVPの夜間上昇の見られない患者に有効な薬剤であると考えられた.
  • 寺沢 良夫, 福田 陽一, 鈴木 康義, 森田 昌良, 加藤 正和, 鈴木 騏一, 今井 恵子, 高橋 寿, 鈴木 富夫, 関野 宏
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2137-2145
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1985年4月から1992年9月までの7年6ヵ月において, 当院での血液透析症例1,556人に, 腹部超音波検査 (US) を行い, 腎癌を36人 (41腎癌) 診断し, 手術で組織学的に確認した. 血液透析症例の腎癌の検出率は2.3% (43人に1人の割合) で, 健常人発生の腎癌 (当院健診センターで延27,933人のUS検査のうち22人の腎癌, 0.079%) の29倍高頻度発生であった. 36人の内訳は, 萎縮腎発生15人, ACDK (acquired cystic disease of the kidney) 発生18人, 腎移植後の固有腎発生3人で, ACDKの8人が1側腎多発, 5人が両側腎多発であった. 腎癌の診断率はUS 100%, CT 68%, 血管造影55%で血液透析症例における腎癌の診断にはUSが最も優れた検査法であった.
  • 若林 賢彦, 岡田 裕作, 椋本 一穂, 濱口 晃一, 小西 平, 友吉 唯夫
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2146-2151
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    膀胱CIS 7例および mitomycin C膀胱内注入療法後の再発腫瘍6例, 計13例に対してBCG膀胱内注入療法をおこなった. CIS症例7例中4例 (57%) は, CISが消失し再発も認めていない. 他の3例 (43%) は, 再発もしくは進展を認めたため膀胱全摘除を施行した. mitomycin C膀胱内注入療法後の再発腫瘍6例中3例 (50%) は, 再発を認めなかったが, 2例 (33%) に再発を認め, 1例 (17%) に前立腺部尿道への再発に対して膀胱全摘除を施行した.
    13例中4例 (CIS 3例, mitomycin C膀胱内注入療法後の再発腫瘍1例) にBCG膀胱内注入療法後, 前立腺への移行上皮癌の進展, 再発を認めた. また上部尿路への進展がこれら4例中2例にみられた. 膀胱全摘除後の経過観察中, 2例に局所再発もしくは遠隔転移を認めた.
    表在性膀胱腫瘍に対するBCG膀胱内注入療法後, 移行上皮癌の前立腺や上部尿路への進展, 再発について厳重に注意すべきである.
  • 呉 一心, 河辺 香月
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2152-2157
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    前立腺肥大症患者9名から摘出した前立腺組織より間質系細胞の初代培養を行った. Confluent 後, norepinephrine や α1-alocker である prazosin を作用させ, 細胞の数や3H-thymidine の取り込みによるDNA合成を調べた. さらに flowcytometry によって間質系細胞の増殖・肥大に対する影響を調べた.
    Norepinephrine による細胞増殖, あるいは prazosin による抑制効果はいずれも認められなかった. また血清刺激による細胞肥大に対しても Prazosin の抑制効果が認められなかった. 本実験結果は前立腺肥大症において,α1-受容体が間質系細胞の増殖及び肥大に関与していないことを示唆するものである.
  • 後藤 百万, 吉川 羊子, 榊原 敏文, 小林 峰生, 絹川 常郎, 小野 佳成
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2158-2161
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    機能的単腎に発生した腎細胞癌に対し, 体外手術による腎部分切除, 自家腎移植を施行した1例を報告した.
    症例は62歳, 女性で, 超音波, CTにより偶然右水腎, 左腎腫瘤を指摘され当科へ入院した. 右腎は先天性腎盂尿管移行部狭窄のため水腎となり, 高度な機能低下を認めた. 左腎には上極から腎門部にかけ腎細胞癌と思われる腫瘤を認めた. 左腎癌に対し体外腎手術による腎部分切除, 自家腎移植術を行った. 腫瘍は35×55×40mmで, 腎細胞癌であった. 術直後より移植腎からの尿流出は良好で, 人工透析を要せず, インターフェロン治療後, 術後3ヵ月で退院した. 退院時の血清クレアチニン値は1.4mg/dlであった.
  • 村木 淳郎, 中薗 昌明
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2162-2165
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    18歳男性, 他院にて左精巣腫瘍 (胎児性癌+奇形腫+卵黄嚢腫瘍, Stage IIB) に対して高位精巣摘除術を施行後, VAB-6化学療法が計3クール施行されたが, 後腹膜リンパ節の巨大な転移巣が残存したため当センターを受診した. 腫瘤摘出術を施行, 後腹膜リンパ節の組織型は成熟型奇形腫であった. 術後BEP療法を2クール追加し外来通院とした. 6ヵ月後, 腹部CT検査にて直径1.5cmの後腹膜リンパ節の腫大を確認し, 広汎な後腹膜リンパ節廓清術を行った. 病理診断では, 腺癌を有する悪性化奇形腫であった. 原発巣の再切り出しの結果, 奇形腫部分の一部に類似の腺癌構造が認められた. 術後, アジュバント療法としてEAP療法を2クール追加し, 現在まで21ヵ月再発なく経過している. フローサイトメーターを用いた腫瘍のDNA分析では, 原発巣の胎児性癌, 奇形腫, 後腹膜リンパ節の成熟型奇形腫, さらに悪性化奇形腫のDNA index は1.23~1.40といずれも aneuploid pattern を示した. 成熟型奇形腫は組織学的に正常組織に類似の組織構造をとるとはいえ aneuploid pattern を呈し, 本症例のように悪性転化をきたす可能性があり生物学的には悪性の性格を有するとの報告が多い, 原発巣に奇形腫成分が存在し, 化学療法後に腫瘍を確認しえた場合は, 大きさにかかわらず, 積極的に切除すべきと考えた.
  • 関戸 哲利, 林 独志, 白岩 浩志, 服部 一紀, 内田 克紀, 島居 徹, 赤座 英之, 小磯 謙吉
    1993 年 84 巻 12 号 p. 2166-2169
    発行日: 1993/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    40歳の男性. 人間ドックの超音波検査にて左腎内にエコーレベルの高い腫瘍が3ヵ所に認められ, CT上, 左腎外側に脂肪吸収域を有する腫瘍も認められたため, 精査・治療目的で当院入院となった. 入院後, 超音波検査・CT・MRI・血管造影を施行したが腎血管筋脂肪腫と後腹膜脂肪肉腫との鑑別が困難なため, 経皮的針生検を行った所, 高分化型脂肪肉腫との病理学的診断を得た. このため, 腫瘍を含めて根治的左腎摘出術を施行した. 組織学的に, 腫瘍は左腎に浸潤しており, 腎内の3コの黄色の結節は, 腎への転移巣と考えられた. 術後, 接摘出部位に50Gyの放射線を照射した.
    腎被膜原発の脂肪肉腫は腎外性に発育する腎血管筋脂肪腫との鑑別が必要であり, 画像診断に苦慮する場合は, 生検による病理組織学的検索が必要であると考えられた. また, 文献上, 腎転移を有する脂肪肉腫の報告は本症例が第1例目であると考えられた.
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