日本泌尿器科学会雑誌
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84 巻, 7 号
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  • 特に早期癌発見のために
    今井 強一, 山中 英寿
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1175-1187
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    前立腺癌のスクリーニング検査として, 症状・直腸診 (DRE)・transrectal ultrasonography (TRUS)・prostate specific antigen (PSA) の評価と, mass screening (前立腺癌集団検診, 集検) の現状と将来について検討した.
    早期前立腺癌発見のためには, DREはTRUSに比べ specificity に優れるが, sensitivity に劣る傾向にあった. PSAは前立腺癌症例の経過観察には優れるが, specificity や sensitivity に劣るが, 状況に合わせた cut off 値の設定が良好な結果を招くと思えた. また, それぞれの検査法で発見できる前立腺癌は必ずしも同一ではないと思われる. 現段階で完全な前立腺癌スクリーニング検査はなく, 高い発見率を期待するならば, これら3方法を同時に使用するのが良いであろう. 診断医はそれぞれの検査法の特性を熟知し, 各施設に適した検査 chart を持つことが肝要である.
    本邦での前立腺癌の集団検診は開発段階をほぼ終了し, 試行段階に入る所である. しかし, 試行段階では5から10万人規模の無作為割り付けによる研究, ないしはそれに準ずる研究を行うのが望ましい. この施行段階による検討を行うためには全国規模での集検体制が組織されなければならない.
  • 表在性膀胱癌の自然史について
    小橋 賢二
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1188-1196
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1961年から1985年までの間に岡山大学泌尿器科において初回治療がなされ, 臨床記録の整備されている表在性膀胱癌336例を, 1988年12月まで経過観察し (中央値68ヵ月), 初回に膀胱全摘や不完全治療が施行された9例を除いた327例に関して, 再発に関する検討を行うとともに, Coxの比例ハザードモデルを用いた多変量解析により再発関連因子を評価した. 検討因子として採用したのは, 年齢, 性別, 腫瘍数, 腫瘍の大きさ, 深達度, 異型度, 形態, 再発回数, 手術方法, 再発予防注入療法, 再発予防全身化学療法, 放射線療法, 手術年月日の計13因子である.
    経過観察期間中, 327例中179例は再発を認めなかったが, 残りの148例は1回から11回のべ406回の再発を認め, 特に, 3回以上の再発を認めた57例では, 最終治療後24ヵ月以上の disease free を確認し得た症例はわずか4例にすぎなかった.
    また多変量解析の結果, N初発時では, 腫瘍数が最も重要な再発危険因子であると示された. 一方, 再発406回の内, 不完全治療や膀胱全摘が施行された68例を除いた338回を338例の再発症例として, 解析すると, 再発回数が, 腫瘍数に次いで重要な再発危険因子となった. このことより, 腫瘍の多発性とともに再発間隔が, 再発性表在性膀胱癌の予後にとって重要な因子であることが示唆された.
  • 古田 希, 仲田 浄治郎
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1197-1205
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    薬剤性腎障害, とくに近位尿細管障害をきたす薬剤である抗癌剤シスプラチン (CDDP), β-ラクタム系抗生剤セファロリジン (CER) およびアミノグリコシド系抗生剤ゲンタマイシン (GM) 投与時の尿中および腎組織内γ-GTPの推移を検討し, 腎障害の発症と経過を考察した.
    Fischer 344雄性ラットに, LD50の75%濃度のCDDP (7mg/kg), CER (2,000mg/kg) およびGM (500mg/kg) を腹腔内投与し, 投与後12時間, 1, 3, 7, 14日目にそれぞれ採血, 採尿, 最後に腎を摘出した. 得られた各検体により血清Cr値, Ccr, 尿中および腎組織内γ-GTPを測定し, あわせて腎の組織学的検討も行った.
    血清Cr値の上昇とCcrの低下は, CDDP投与群で3日目, CER投与群で12時間目に始まり, 前者は7日目, 後者は3日目がピークであった. 尿中γ-GTPの変動は, 血清Cr値やCcrの変化より早期におこり, 各薬剤とも投与後12時間目から尿中逸脱を認めた. しかし, 尿中γ-GTPのピークは薬剤により異なり, CERは投与後12時間以内, GMは24時間後, CDDPは3日後であった. 腎組織内γ-GTPはCDDPとCER投与群で対象群の約40%の低下を認めた. 腎組織像では, CDDP投与群が皮髄境界外側部, CER投与群が皮質表層部の近位尿細管で障害が強く, GM投与群は大きな変化はなかった.
    これらの結果から, 尿中γ-GTPは薬剤による近位尿細管障害を鋭敏に反映する指標になりうると考えられた.
  • 雑賀 隆史, 津島 知靖, 那須 保友, 野田 雅俊, 明比 直樹, 郭 春鋼, 高松 正武, 大森 弘之, 宇埜 智, 城仙 泰一郎
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1206-1210
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    表在性膀胱癌に対する膀胱腔内注入療法における adriamycin (ADM) と, その誘導体である (2″R)-4′-0-tetrahydropyranyladriamycin (THP) の二剤について, その有用性を比較検討する目的で膀胱腫瘍部および非腫瘍部への移行濃度について検討した.
    対象および方法は, 表在性膀胱癌21例に対し, 抗癌剤による治療歴のある10例と治療歴の無い11例の2群をADM群とTHP群に randomize した. ADM 30mgまたは, THP 30mgを生理食塩水30mlに溶解し, 膀胱内に注入し, 1時間後に腫瘍組織および正常組織を生検鉗子にて採取した. 組織内ADMおよびTHP濃度は高速液体クロマトグラフィ (HPLC) を用いて測定した. その結果, THPはADMと比較して, より高濃度に腫瘍に移行しており, THPの有用性が示唆された. また, 抗癌剤による治療歴のある10例と治療歴の無い11例を比較すると, 腫瘍部平均濃度は前治療のある群では前治療のない群と比較して低値であり, 治療歴が腫瘍内取り込みに影響を与えることが示唆された. さらに, 治療歴のある症例においても, THPはADMに比べて, より高濃度た腫瘍に移行していた. 以上より, THPは表在性膀胱癌に対する膀胱腔内注入療法に適した薬剤と考えられた.
  • 水野 禄仁, 後藤 章暢, 守殿 貞夫, 北澤 荘平
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1211-1218
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    精巣セミノーマの in vitro および in vivo 実験系の確立を目的としてヒト精巣腫瘍から培養細胞株の樹立を試みた. その結果, 精巣セミノーマ患者 (35歳男性) の原発巣 (pure type classical seminoma) よりセミノーマ由来細胞株TCam-2を樹立した. 培養には10%FCS加GIT培地を用い, 5%CO2 incubator 内で静置培養した. 形態, 増殖特性, 免疫組織化学的特性, 染色体分析, 異種移植について検討した.
    TCam-2は円形の大きな核を持ち, 多稜形でグリコーゲン顆粒に富み, 細胞内小器官, 細胞間接着装置に乏しい細胞である. 敷石状配列を示して増殖し, doubling time は55.3時間である. 染色体分析では mode 92で, 7つの marker 染色体を持つ. TCam-2の scid mouse 背側皮下への移植腫瘍組織はセミノーマが大部分を占め, 一部に胎児性癌を認めた. TCam-2は始めてのセミノーマ樹立細胞株で, セミノーマの胎児性癌への分化を研究する興味あるモデルになるものと思われる.
  • 牧 佳男
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1219-1226
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    同種血輸血に伴う感染症や合併症を防止する目的で術前貯血式自己血輸血を試みた. 1990年4月より1991年3月までに27例 (平均年齢72.5歳) の経尿道的前立腺切除術を施行した. うち18例 (平均年齢73.9歳) で手術3週間前に200~400ml, 平均244mlの自己血の貯血を行ない, 16例で自己血輸血をした (うち5例は自己血だけでは足りず, 同種血の追加輸血を要した). 同種血のみを輸血したものは3例だった. 貯血前の平均ヘモグロビン量は13.7±0.4g/dlで, 術前の平均ヘモグロビン量は12.8±0.5g/dl, 回復率92.5±2.7%だった. 自己血輸血群 (11名) では輸血に伴う感染症, 合併症は認められなかったが同種血輸血群 (8名) では1例に輸血中発疹が見られ, 1例に術後1ヵ月後にC型肝炎の発症が見られた.
    経尿道的前立腺切除術では前立腺重量, 出血量, 手術時間の3因子相互間に正の相関関係が認められ, 前立腺切除重量と出血量の相関係数は0.80, 出血量と手術時間の相関係数は0.77, 前立腺切除重量と手術時間の相関係数は0.85だった. 従って前立腺重量の超音波計測により出血量, 輸血必要量の術前予測が可能であった. 前立腺肥大症の手術には緊急性がなく, 術前貯血が可能なので前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除は自己血輸血のよい適応である.
  • 内藤 誠二, 小藤 秀嗣, 熊澤 浄一, 尾本 徹男, 伊東 健治, 畑地 康助, 清水 保夫, 横山 譲二, 永芳 弘之, 鷺山 和幸, ...
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1227-1235
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    福岡県内の12施設を対象に, 1987年から1991年までの5年間にわたるドック前立腺検診の実態について調査し, その現状と問題点について検討した. 5年間のドック前立腺検診受診者総数は16,126名で, 年次別にみると年々増加の傾向にあった. しかし, 希望者のみを前立腺検診の対象としている5施設でみると, 前立腺検診受診者はドック検診受診者の20%前後と低いレベルで5年間一定していた. しかも年齢階層別受診者数は50歳代, 40歳代に多く, 前立腺癌好発年齢である70歳以降の受診者は極めて少なかったことから, 前立腺癌に対する啓蒙活動がいまだ不十分であると思われた. ドック前立腺検診による癌発見率は16,125名中6名, 0.04%であったが, 年齢階層別にみると, 50歳以上では12,638名中6名 (0.05%), 60歳以上では2,513名中2名 (0.08%) と, 受診者の年齢の上昇とともに発見率は高くなる傾向がみられた. PSAの sensitivity と specificity はそれぞれ83.3%と84.8%と高く, 実際検査法別発見率は直腸診のみでは0.01%であったのに対し, PSA測定との併用では0.15%と有意に高く (p<0.01), ドック前立腺検診におけるPSA測定の有用性が示唆された. 前立腺癌確定者6名の病期は stage B 5名, stage C 1名と早期癌が多く, stage B症例ではすべて根治的前立腺全摘除術が行われており, ドック前立腺検診の意義が示唆された.
  • 頴川 晋, 劉 星星, 桑尾 定仁, 内田 豊昭, 横山 英二, 真下 節夫, 小柴 健
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1236-1243
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    北里大学病院泌尿器科を受診し, 種々の理由で前立腺超音波検査の必要性を認めた234名の男性患者に対して直腸診, 血清前立腺特異抗原測定, 経直腸的超音波法を行い, このうちの71名に経直腸的生検術を施行した. その結果, 生検によって19例 (26.8%) に前立腺癌が発見され, これは234名の8.1%に相当していた. 便宜的に前立腺特異抗原値を<2ng/ml, 2~10ng/ml, >10ng/mlの3群に分類すると, 生検による癌陽性率には前立腺特異抗原値に応じて大きな差異が認められた. 即ち, 直腸診上癌が疑われた場合では各々3.3%, 77.8%, 100% (全体では32.6%) の陽性率であり, 直腸診上癌の疑いなしと判定された場合は, 各々5.9%, 28.6%, 100% (全体では16.0%) の陽性率であった. 各検査法の positive predictive value は, 直腸診単独では32.6%であったのに対し, 直腸診での異常所見に加えて前立腺特異抗原値の上昇が認められた場合には87.5%であった. 局所限局性前立腺癌との診断下に根治的前立腺全摘除術を施行した9例中5例には既に精嚢浸潤および閉鎖リンパ節転移が認められ, 実際には進行性病変であった.
    わが国においても診断技術の進歩により今後前立腺癌検出率が増大していくものと推察される. 前立腺癌の生物学的悪性度を予測する方法の開発や諸検査陰性例に対しても連続的, 経時的な追跡を行うことなどにより局所限局性で根治可能な前立腺癌をより多く検出する一層の努力が必要であるものと思われる.
  • 白岩 浩志, 西島 由貴子, 赤座 英之, 内田 克紀, 河合 弘二, 佐々木 明, 服部 一紀, 宮永 直人, 小磯 謙吉
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1244-1247
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌患者における腫瘍側腎動脈血および腫瘍側腎静脈血間でのリンパ球サブセットを比較検討した. 対象は, 15例の腎細胞癌患者で, 過去に他の治療歴がなく, 初回治療として根治的腎摘出術を行った患者である. 根治的腎摘出術時に患者より腫瘍側の腎静脈血および動脈血を採取し, 単核球を分離後, flowcytometric analysis をおこなった. Surface marker として, CD3, CD4, CD8, CD11b, CD16, CD25, CD57, Leu8, およびHLA-DRについて検討した. 15例全体では, CD25陽性細胞が, 腫瘍側腎静脈血で動脈血に比べて有意な増加を認めたが, 他の表面マーカーには, 有意な差を認めなかった.
  • 太田 章三, 近田 龍一郎, 折笠 精一, 久慈 了, 坂井 清英, 金田 隆志, 池田 成徳, 阿部 優子
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1248-1254
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    一側水腎が, 対側腎にどのような影響を及ぼすかについて, 腎が発育過程にある幼若S-Dラット (体重80~90g) を用いて以下の実験を行った.
    一側 (左) 尿管完全閉塞 (CUUO) を作製し, 3日後閉塞の解除 (閉塞解除群), 閉塞腎の摘出 (閉塞腎摘出群), 開腹のみで閉塞は継続 (閉塞継続群) の3群に分類した. この操作前後で各群対側健腎の腎皮質血流量 (レーザー微小循環血流計を使用) 及び糸球体容量の変化を観察し比較検討した. なお, コントロール群としては0, 3日に開腹のみを行ったラットを用い, 右腎に対して同様の検討を行った.
    単位体積あたりの腎皮質血流量は, 各群ともに漸増したが, 全期間にわたり各群間に有意な差はなかった. 腎全体の血流 (単位体積あたりの血流×腎湿重量) でみると, 腎発育の程度と平行して増加し, 閉塞腎摘出群ではコントロール群や閉塞解除群に比べ有意な増加を示した.
    糸球体容量についてみると, 閉塞解除群では解除後2日目から11日目まではコントロール群に比し有意な増大を認めたが, 18日目にはコントロール群と同レベルとなった. これに対し, 閉塞腎摘出群, 閉塞継続群では2回目の操作後, コントロール群に比べ有意に大きいまま推移した. 腎皮質血流との関係を見ると, 閉塞腎摘出群, 閉塞継続群では腎全体の血流にほぼ平行し糸球体容量が増大した. これに対し, 閉塞解除群では, 血流はいずれの時期でもコントロール群と有意の差はなく, 糸球体容量の変化とは必ずしも一致しなかった.
    この結果は, 糸球体容量の増大には血流増加以外の因子も関与している可能性を示唆するものであった.
  • 近藤 俊, 森田 隆
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1255-1261
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    放射性リガンドを用いた実験により, ヒト膀胱平滑筋のムスカリン受容体のサブタイプを検討した. ヒト膀胱平滑筋には 3H-pirenzepine, 3H-AFDX, 3H-4DAMPで標識される, M1, M2, M3の各ムスカリン受容体サブタイプが存在することが判明した. 各サブタイプを量的にみた順位は, M3>M1≧M2であり, M3はM1あるいはM2の約10倍多く存在することが判明した. 3H-QNBの結合に対する, ムスカリン受容体サブタイプ選択性薬剤の親和性を比較した実験では, 抑制定数 (Ki) が pirenzepine, AFDXは4DAMPの50~100倍もの高値であり, 順位は, pirenzepine>AFDX>4DAMP であった. 従って, M3選択性薬剤である4DAMPのKiが小さいことから, ヒト膀胱平滑筋ではM1やM2よりM3受容体に対する親和性が強いことが判明した. これらの結果は, ヒト膀胱平滑筋のムスカリン受容体サブタイプは, 生化学的にみて, M3が優位であることを示唆している.
  • 吉田 雅彦, 押 正也, 阿曽 佳郎, 柳沢 良三, 岸 洋一, 石田 仁男
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1262-1268
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    癌化学療法 (CAP療法6名, PEB療法3名) を受けた泌尿器科悪性患者9名において, 遺伝子組換え型顆粒球コロニー刺激因子 (recombinant human granulocyte-colony stimulating factor, rhG-CSF) の併用効果を, 好中球数およびその活性酸素産生能の両面から経時的に検討した. 活性酸素産生能は chemiluminescence (CL) 法により測定した.
    化学療法のみを施行した化療単独期の好中球活性酸素産生能は好中球数の減少と同様な経過で低下し (p<0.01), 好中球減少の nadir (最低) とほぼ同時に最低となり, 次の化学療法前には回復する事が認められた. rhG-CSF (75μg) を化療終了72時間後から14日間連続皮下投与したG-CSF併用期では, 好中球数の減少は軽度で (p<0.01), 減少期間と回復に要する日数が短縮し (p<0.01), rhG-CSF最終投与翌日を zenith (最大) とする著しい好中球増加 (p<0.01) が認められた. また活性酸素産生能も低下は軽度で (p<0.05), rhG-CSF投与中はたとえ好中球減少の nadir 時でも化療前より亢進し (p<0.05), 好中球増加の zenith 時にはさらに亢進する (p<0.01) 事が認められた. rhG-CSFの好中球機能亢進作用は, 分化成熟段階で癌化学療法により傷害された後に成熟し末梢血に出現してきた成熟好中球に対しても有効であると考えられた. 以上の結果から, rhG-CSFは好中球の数の面からだけでなく機能の面からも, 癌化学療法時の感染防御能低下の軽減に寄与しうる有用な薬剤であると考えられた.
  • 山崎 雄一郎, 龍治 修, 伊藤 文夫, 中村 倫之助, 合谷 信行, 中沢 速和, 東間 紘, 板岡 俊成, 横山 正義
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1269-1274
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1985年1月から1992年11月までに当科において治療した下大静脈内腫瘍血栓を伴う腎癌症例は12症例であった. このうち腫瘍血栓が右房にまで達していたのは4症例で全例に根治的腎摘出術と腫瘍血栓摘出術を施行した. 4例中1例に局所リンパ節転移を認めたが遠隔転移を認めた症例はなかった. 腫瘍血栓の摘出にあたり全例に人工心肺を併用し右房切開を施行, 直視下摘出を可能とした. また術中に経食道超音波内視鏡を用いて心房内腫瘍血栓の動きをモニタリングした. 平均出血量は10,430mlで, 1例は術死し他の1例は早期に下大静脈血栓を併発し死亡した. しかし残る2例は生存しており腫瘍の再発を認めていない (平均観察期間21ヵ月). 症例数は少ないが, これらの結果より右房内腫瘍血栓を伴う腎癌症例はそれ以下の下大静脈内腫瘍血栓症例にくらべ予後が悪いと考えられた. その一因として複雑な周術期管理があるが, 手術時のキーポイントとしては腫瘍血栓の完全摘出のコントロールが考えられた.
  • 米山 健志, 片山 靖士, 武田 正之, 佐藤 昭太郎, 石田 道雄, 吉沢 浩志
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1275-1280
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    過去5年間に出生前超音波検査により異常を指摘され, 当科または当院産科を受診した腎尿路奇形12例に臨床的検討を加えた. 12例中11例はルーチンの超音波検査であった. 羊水減少は1例に認められたが, 子宮内治療は行われなかった. 出生後治療は1例を除く全例に施行し, うち8例に開腹手術を施行した. また尿ドレナージとしての経皮的腎瘻造設術 (PNS) を6例7腎に施行したが, DMSA腎摂取率による検討では, 新生児期または乳児期の一時的PNSは腎機能保存に有効であると思われた.
  • 小野寺 恭忠, 濱島 寿充, 池内 隆夫, 吉川 裕康, 佐々木 春明, 長谷川 和則, 与儀 実夫, 井口 宏, 松本 恵一, 甲斐 祥生
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1281-1285
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    膀胱腫瘍の深達度に粘膜下造影法を用い検討した. 対象は膀胱腫瘍10症例ですべて移行上皮癌である. 方法はヘーベル付き膀胱鏡を用い, 腫瘍から1cm尿道側より1ヵ所に1ccずつ, 1から3ヵ所膀胱注射針で粘膜下に注入した. 造影剤は, 水溶性造影剤イソヘキソールを用いて, 注入後30分以内に, 正面と側面像をX線撮影した. 検討方法は, 同一症例において粘膜下造影法, 経腹的超音波断層撮影法, CTおよびMRIを施行し術後の病理組織学的深達度と比較した. 膀胱粘膜下造影法の深達度は3型に分類された. I型は, 造影剤の拡散がまったく障害されていないもので, diffuse 型, II型は, わずかに拡散が障害されているもので, I型とIII型の中間型 border-line 型, III型は, 完全な拡散障害があるもので, defect 型とした. 正診率は, 粘膜下造影法 (70%), 経腹的超音波断層撮影法 (62.5%), CT (44.4%), MRI (66.7%) であり, 粘膜下造影では正診率はTa, T2以上で高く, T1で低かった.
  • 出村 孝義, 渡井 至彦, 富樫 正樹, 大橋 伸生, 力石 辰也, 平野 哲夫, 野々村 克也, 小柳 知彦
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1286-1292
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    我々はヒト副腎組織に guiena pig 副腎皮質で見いだされた progesterone 結合蛋白 (P4-BP) と同様な蛋白が局在していないか確かめるため, 正常副腎および各種副腎腫瘍の核の progesterone 結合活性を検討した. ヒト副腎から核分画を調製し, steroid binding assay 法により副腎核中の progesterone 結合活性を測定した. 6例の正常副腎組織中には progesterone の高親和性結合は認められなかったが, ACTH非依存性に steroidogenesis が亢進していた5例の Cushing 症候群患者から採取した副腎腺腫組織中には全例結合活性を認めた (Kd=13.85±1.99nM (mean±SD), Bmax=1.95±0.37pmol/mg DNA (mean±SD)). しかし, 内分泌非活性副腎腺腫や原発性アルドステロン症を呈する副腎腺腫では progesterone 結合活性は同定できなかった. 結合活性は progesterone に特異的であり, 5α-pregnane-3, 20-dione は中等度の競合阻害を示したが, 17β-estradiol, testosterone, cortisol やその他のステロイドは弱い競合阻害しか示さなかった. 以上より, ヒト副腎組織の核には guinea pig 副腎皮質のP4-BPと同様の解離定数と特異性を有する progesterone 結合活性が存在することが判明した. 薄層クロマトグラフィーによりクッシング症候群を呈する副腎腺腫だけでなく正常ヒト副腎組織の核にも〔3H〕progesterone が結合する事から, ヒト正常副腎組織においては progesterone 結合活性が非常に低いため通常の steroid binding assay 法では同定されない可能性がある.
  • 内田 豊昭, 呉 幹純, 頴川 晋, 青 輝昭, 桑尾 定仁, 横山 英二, 真下 節夫, 遠藤 忠雄, 小柴 健
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1293-1300
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    前立腺肥大症の診断にて経尿道的前立腺切除を施行した2,008例中107例 (5.3%) の前立腺偶発癌 (Stage A) が発見された. 病理組織学的悪性度と切除組織切片の割合から Stage A1と Stage A2に分類し生存率を検討した. 病理組織学的に高分化型の生存率は10年63%, 中分化型はそれぞれ37%, 低分化型は12%であった. Gleason 分類別にみるとスコア2~4群の10年生存率は63%, スコア5~7群は42%, スコア8~10年は5%と Gleason 分類による生存率がより差を認めた. また Stage A1群 (悪性度が高分化型あるいは Glesaon スコア2から4でかつ腫瘍切片数が総検索切片数の5%以下) の10年生存率が63%に対し Stage A2 (Stage A1以外に該当する場合) は41%であった. 前立腺癌死特異的に両群の生存率をみると Stage A1群は10年生存率96%に対し Stage A2群は64%であった. 前立腺癌の癌死率について見ると, Stage A1群では30例中1例 (3.3%) であったが, Stage A2では77例中14例 (18.2%) と高率であった.
    Stage A1群とStage A2群では生存率に差が認められた. Stage A2症例に対しては積極的な治療が望まれる.
  • 植村 匡志
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1301-1307
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    日本で新しく開発された免疫抑制剤の Deoxyspergualin (DSG) の in vitro での免疫抑制作用機序について検討した. DSGは水溶液中で不安定であり, 容易に2つの成分に分解され薬理作用を失うため, DSGのメチル体であり, 水溶液中で安定している Doxymethylspergualin (MeDSG) を今回の検討に使用した. 対象は正常ヒト末梢血リンパ球と当教室で樹立した T cell clone を使用した. MeDSGはMLRを用量依存的に抑制した. CsAとは異なり薬剤の添加を3日後に遅らせた場合もMLRを用量依存的に抑制したが, 4日目に遅らせた場合にはその抑制効果は消失していた. MeDSGは, 細胞障害性T細胞 (CTL) が誘導されていると考えられる2ndMLRを抑制せず, helper T cell clone の増殖も抑制しなかった. IL-2R, DR抗原の発現に対しても抑制効果を示さなかった. 免疫反応におけるCTLの分化, 活性化に必要とされる各種のサイトカインであるIL-1, IL-2の産生は抑制しなかったが, IFN-γでは1μg/mlでのみ抑制効果を示した. MeDSGのCTLの分化, 活性化の抑制はIFN-γの機能抑制が深く関与しているものと考えられた.
  • 大山 力, 折笠 精一, 川村 貞文, 佐藤 信, 鈴木 謙一, 斎藤 誠一, 福士 泰夫, 吉川 和行, 星 宣次
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1308-1315
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    anti-Gb3 monoclonal antibody である1A4を用いて, 精巣腫瘍及び各種正常組織における免疫組織化学的検討を行った. ホルマリン固定パラフィン包埋切片31例では, Gb3は精巣胚細胞腫瘍のすべての element に陽性例が認められ, 特にセミノーマ (16例), 胎児性癌 (6例) では全例陽性であった. これに対し, 精巣悪性リンパ腫の4例はすべて陰性であり, 又, 正常組織においては, 精巣組織肝, 腎, 膵, 脾, 回腸, 直腸に極めて弱い染色性を認めたにすぎなかった.
    精巣胚細胞腫瘍組織10例の凍結切片においては, 風乾のみによる固定, アセトン10分, 4%パラホルムアルデヒド固定が各々, ホルマリン固定パラフィン包埋切片と同様の陽性率を呈した. しかし, 染色性の強さを比較すると, 4%パラホルムアルデヒド固定, 風乾のみ, アセトン10分, ホルマリン固定パラフィン包埋切片の順に高く, 抗原性の保持には, 4%パラホルムアルデヒドによる固定がもっとも優れていることがうかがわれた. さらに, アセトン30分, 90%エタノール10分固定, クロロホルム: メタノール (2:1, v/v) 10分固定では染色性は著しく低下したことより, Gb3は主として糖脂質の形で存在するものと考えられた.
    Gb3は精巣胚細胞腫瘍にほとんど例外なく大量に蓄積されており, その抗原性は通常のパラフィン包埋切片のみならず, 凍結切片を用いた迅速な固定操作においても十分に保存されることから, 精巣胚細胞腫瘍の新たなな組織学的マーカーとして有望であると考えられた.
  • 関戸 哲利, 林 独志, 白岩 浩志, 服部 一紀, 菊池 孝治, 内田 克紀, 赤座 英之, 小磯 謙吉
    1993 年 84 巻 7 号 p. 1316-1319
    発行日: 1993/07/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    20歳男性. 主訴は射精後痛. 約2年前より射精後の肛門痛を自覚し, 次第に増強したため近医を受診. 前立腺炎の診断のもとに治療を受けたが痛みは改善せず, 落痛のコントロールが困難となったため1991年9月24日当院入院となった. 入院時, 直腸診にて前立腺の左方に嚢胞状の腫瘤を触知したが圧痛はなかった. IVP上左腎・尿管の描出がなし. CT上も左腎は認められず骨盤内に2つの嚢胞状腫瘤が認められた. 膀胱・尿道鏡所見では左尿管口および左三角部の形成を認めず. 膀胱頸部および尿道には異常所見は認められなかった. 左尿管の精嚢または射精管への異所開口の診断のもとに1991年10月3日左尿管精嚢摘出術を施行した. 病理所見上, 左腎は無形成. 尿管は射精管または, 精嚢下部に開口しており, 尿管上皮は円柱上皮にて覆われていた. 異所開口尿管が円柱上皮を示した症例は本邦3例目である.
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