日本泌尿器科学会雑誌
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85 巻, 5 号
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  • Colon Bladder Replacement における新膀胱の多角的機能評価
    安野 博彦, 荒川 創一, 山中 望, 守殿 貞夫
    1994 年 85 巻 5 号 p. 705-714
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    尿道温存可能と判断し得る男性膀胱癌患者32名に対し, 膀胱全摘出術後に, 原則として脱管腔化右結腸を代用膀胱とする膀胱再建術 (Colon Bladder Replacement) を実施し, 新膀胱機能を多角的に評価した. 術後早期合併症は10例にみられ, reservoir の部分的壊死を認めた1例は結腸導管造設術に変更された. 腎機能は長期観察例においても良好で, 水腎症は尿管吻合部狭窄をきたした1例のみにみられた. VURは全例において認めなかった. 血清電解質, 酸塩基平衡上も特記すべき異常を認めなかった. 自己導尿中の1例を除き, 全例で自然排尿が可能であり, 尿禁制率は73.9%であった. 尿流動態学的検討では, 新膀胱内圧は低内圧であり, 最大尿流量率は平均15.3ml/sec, 最高尿道閉鎖圧は平均62.8cmH2Oであった. reservoir における膿尿陽性率は17.4%, 細菌尿陽性率は8.7%であった. 術後の quality of life の調査では, 術後の復帰率は就業状況が59.9%, 性機能が39.2%と低下しており, 睡眠障害が14.3%にみられた. しかしその他の日常生活や自覚的健康状態については術前に比し, 著明な悪化傾向を認めなかった. 以上より, Colon Blad der Replacement は, 膀胱再建術として極めて有用な術式と考えられた.
  • 星 宣次, 折笠 精一, 吉川 和行, 斎藤 誠一, 大山 力, 佐藤 信, 川村 貞文, 鈴木 謙一
    1994 年 85 巻 5 号 p. 715-721
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    教室では1985年より, 浸潤性膀胱癌の深達度診断, neoadjuvant 療法の評価に, 膀胱全層生検を行っている. 全層生検は恥骨上部の正中より経皮的に行ってきたが, 今回新たにより非侵襲的な経尿道的全層生検法を開発した. 方法は仙骨麻酔下に, 新たに作製した18G. の35cmの Crown-Core-Cut 生検針 (日本ユーロテック), BIP自動穿刺装置 (日本ユーロテック), 経尿道的に挿入した20Fの硬性腎盂鏡を用いて行った. 腎盂鏡を通して生検針を腫瘍まで誘導したら, 縦切りの経腹的USにて針の先端から腫瘍部の膀胱漿膜までの距離を測定する. 自動穿刺装置にセットされた穿刺針は穿刺時2.5cm前進するので, 穿刺時膀胱を僅かに貫くように針先の位置を調節して穿刺する. これまで浸潤性膀胱癌を疑われた11例に対し neoadjuvant 療法前後で経尿道的全層生検を行い, いずれも粘膜, 筋層, 漿膜と連続した標本を採取することができ深達度診断が可能であった. 腹膜に覆われた部位でも超音波で針先を監視できるので安全に穿刺ができた. neoadjuvant 療法にて腫瘍が縮小し, USでは確認できなくなった腫瘍でも膀胱粘膜には scar, xanthoma などの変化が残っており, ここを直視下に生検できる. 本法は neoadjuvant 療法により, CR, PRを得た症例の筋層や漿膜の残存腫瘍の有無を検索するのに, とくに適している.
  • 玉田 博志, 鈴木 泰, 田村 元
    1994 年 85 巻 5 号 p. 722-730
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    58例から手術的に採取した膀胱癌のホルマリン固定, パラフィン包埋組織を用い, p53およびRb癌抑制遺伝子のヘテロ接合性の消失 (loss of heterozygosity, LOH) を検索し, 臨床病理学的事項との関連について検討した. p53のLOHは polymerase chain reaction (PCR)-restriction fragment length polymorphism 法により, RbのLOHは PCR-single-strand conformation polymlrphism 法によった. p53については60.3% (35/58例) がヘテロ接合体であり, このうちの60.0% (21/35例) にLOHを認めた. p53のLOHの出現率は, pT1までの表在性癌では61.9% (13/21例) であり, pT2以上の筋層浸潤癌でも57.1% (8/14例) と両者におけるp53のLOHの出現率はほぼ同率で, p53のLOHは筋層浸潤以前にも出現していた. Kaplan-Meier 法による累積5生率はp53にLOHを認めない症例では76.9%であるのに対して, LOHを認めた例では25.1%で, p53のLOHの検出例では生存率が有意 (p<0.05) に低下していた. 多発膀胱癌で, p53が欠失しているときには同一アレルに生じていたことより, 同一膀胱の癌病巣は共通のクローンより発生している可能性が示唆され, 多発している腫瘍は転移によったと推測された. 一方, Rbは51.7% (30/58例) がヘテロ接合体で, このうちの16.7% (5/30例) にLOHを認めた. RbのLOHは, 表在性癌では6.3% (1/16例) であったのに対し, 筋層浸潤癌では28.6% (4/14例) と多く認められる傾向があった.
  • 出村 孝義, 大山 格, 富樫 正樹, 大橋 伸生, 力石 辰也, 平野 哲夫, 小柳 知彦
    1994 年 85 巻 5 号 p. 731-737
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1988年4月から1992年10月までに市立札幌病院泌尿器科または北海道大学医学部附属病院泌尿器科において生検またはTUR-Pにより病理組織学的診断を行った221例 (no cancer (NC) 130例, 前立腺癌 (CaP) 91例) に対し, 術前に血清PSA値とγ-Sm値を測定し, その比率 (P/S Ratio) を求める事により前立腺癌の診断が可能かどうかを検討し, 以下の結論を得た.
    1) 130例のNC群のP/S Ratio は0.919±0.563 (mean±SD) であり, 一方, 91例のCaP群のP/S Ratio は12.447±44.353, PSA≦10.0ng/mlのCaP群39例のP/S Ratio は2.052±0.751であり, いずれもNC群より有意に高かった (Wilcoxon; p<0.0001).
    2) P/S Ratio の cutoff 値を検討したところ, cutoff 値1.45のときに最も高い efficiency 83.4を示し, そのとき sensitivity は91.2%, specificity は91.5%であった.
    3) P/S Ratio≧1.45であったのは臨床病期A1では6例中3例, A2では6例全例, B1では19例中17例, B2では11例中10例, Cでは13例中12例, D1では3例全例, D2では33例中32例であった.
    4) P/S Ratio が1.2未満の症例は111例中5例 (4.5%) のみがCaPであった. P/S Ratio が上昇するに従ってCaPの割合は増加し, 2.0以上の症例は71例中67例 (94.4%) がCaPであった.
    5) PSAが10.1ng/ml以上のCaP群ではP/S Ratio はPSA値の上昇と共に増加し, 両者はよく相関した (相関係数0.7585) が, PSA値が10ng/ml以下のCaP群およびNC群では両者は相関しなかった (相関係数; CaP群: 0.1305, NC群: 0.1502).
  • 特に治療別にみた腎実質瘢痕の新生・進展の検討
    松尾 康滋, 小川 修, 波多野 智巳, 佐久間 孝雄, 宍戸 清一郎, 中井 秀郎, 川村 猛
    1994 年 85 巻 5 号 p. 738-746
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1歳未満の膀胱尿管逆流106例177腎について腎瘢痕, 逆流性腎症について検討した.
    その特徴として以下のことが挙げられる.
    (1) 男児が82.1% (87/106) と多数であり, 高度逆流症例 (VUR Grade III以上) が83.1% (147/177) を占めた. その特徴より Fetal Vesicoureteral Renux の関与が考えられる.
    (2) 初診時すでに実質に及ぶ腎瘢痕を有する腎が57.1% (101/177) 存在し, 18.9% (20/106) の症例に腎機能低下 (s-Cr≧0.6mg/dl) を認めた. また, 8.5% (15/177) に異形成・低形成腎を認め, VURの胎生期正常発生に対する影響が示唆された.
    (3) 両側に複数個の腎瘢痕を認める群は他の群に比べ, 有意に尿細管・糸球体機能障害を認め, すでに逆流性腎症が発症していたことが疑われた.
    (4) 2年以上の経過観察で28.4% (29/102) で瘢痕の新生・進展を認めた. VUR Grade III以上では初回入院より3ヵ月以内で手術を施行した早期手術例は14.3% (5/35) が瘢痕の新生・進展をみたに過ぎないが, 晩期手術例では48.6% (18/37) に, 逆流防止術非施行例では38.5% (5/13) に瘢痕の新生・進展が見られた.
    VURを有する乳児に対し, 早期手術は乳幼児の未熟な腎組織に対する環境を改善することにより腎瘢痕新生・進展を回避し, 正常な腎発達を期待するために有効であり, とくに高度VUR例には積極的に施行するべきと考えられる.
  • 郭 時英
    1994 年 85 巻 5 号 p. 747-752
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    マウス精巣間質にはトルイジンブルー染色陽性の肥満細胞は認められないがヒトではこれが認められ, 特発性不妊症においてはその数が増加している. 肥満細胞の精巣間質浸潤の機序解明の目的で14週齢ddYマウスの左精巣を経腹膜的に360度捻転させた. 肥満細胞の精巣間質浸潤は術後4週目より始まり3~24週目でプラトーとなった. これらの肥満細胞は円形を示し精巣上体や精巣白膜にみられる同細胞とは形態学的に明らかに異なっていた. しかし対側精巣重量には変化はなく組織学的に精細管の萎縮, ライディヒ細胞の変性あるいはリンパ球の浸潤は認められなかった. 本実験における肥満細胞浸潤の機序は明らかではないが少なくとも同細胞はいったん導入されると長期にわたり精巣間質内に存在し続けることが示唆された.
  • 國見 一人, 天野 俊康, 長谷川 徹, 森下 裕志, 打林 忠雄, 大川 光央
    1994 年 85 巻 5 号 p. 753-759
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    膀胱壁部分切除を伴う腎尿管摘除術もしくはそれに所属リンパ節郭清術が併施された上部尿路移行上皮癌患者34症例について, リンパ節転移および術後再発様式について検討した. 所属リソパ節郭清術が併施された14症例中8例に病理学的に近接リンパ節転移巣が確認され, うち2症例にはスキップ転移が同時に認められた. 膀胱内再発は, 12例 (35.3%) に認められ, 原発巣が非乳頭状増殖を呈し, かつpR1であった1例を除き, いずれも原発巣は乳頭状増殖を示していた. 平均9.4ヵ月の観察期間中, 他臓器遠隔転移が, 6例に認められ, いずれも原発巣がpT2以上の浸潤癌であった.
  • 同手術の長期予後成績を基に
    塚本 拓司, 藤岡 俊夫, 波多野 智己, 中野 浩之, 石川 清仁, 長久保 一朗
    1994 年 85 巻 5 号 p. 760-767
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    T1b及びT2膀胱腫瘍における経尿道的膀胱腫瘍切除 (以下TUR) の適応を明らかにする目的で, 1981年より1987年までの7年間当院で加療した膀胱腫瘍181例の長期予後を検討した.
    TURで治療を行ったT1b 29例の5年生存率は, 82.5±7.1, 10年生存率73.4±8.8%であった. 16例 (55%) は, TURのみで治癒可能であったが, 一方, 癌死を7例 (25%) 認めた. これらは, 全例初発腫瘍と同じ部位にT1b以上の腫瘍が再発した例 (以下, 同部位浸潤癌再発) であった. T1b腫瘍に関しては, その半数がTURで治癒可能であることから, TURが初回治療として選択されるべきと思われた. 今回の検討で予後不良であった同部位浸潤癌再発は, TUR後の不可視な腫瘍の残存が一因と考えられ, 従って, 一定期間後, 再度TURを行い (re-TUR), 残存腫瘍の有無を検索することが必要と思われた. re-TUR で切除部位に腫瘍の残存が認められる場合には, 同部位浸潤癌再発の可能性が高く, 膀胱全摘を施行すべきであると考える.
    T2腫瘍19例中11例に膀胱全摘を施行し, 5年, 10年生存率は63.6%±14.5%であった. 一方, TUR施行例8例は, 1例を除き, 全例膀胱内に浸潤癌再発を来し癌死している. 即ち, T2腫瘍に関してはTURによる治療は不十分であり, 初期より膀胱全摘を施行すべきと思われた.
  • 工藤 誠治, 佐藤 敦
    1994 年 85 巻 5 号 p. 768-777
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    免疫抑制剤 cyclosporin A (CsA) による腎毒性を予防するためCa拮抗剤 diltiazem (DIL) について検討した. まず Wister 系ラットにCsAを経口投与して血液および尿検査, 腎の病理組織学的検査によりCsAの腎毒性を調べた. その結果, 尿中Na/Kの低下が認められ, 腎尿細管の組織学的変化と平行していた. 次に血中CsAの腎毒性に及ぼすDILの影響を調べた. その結果, DILの併用により血中濃度は有意に上昇した. したがって, DILの併用によりCsA投与量の減量が可能で, CsAの腎毒性発現を抑制できると思われた. また, DILは尿中Na/Kの低下を抑制したことより, CsAの腎尿細管障害を低下させると推測された. 次に, in vitro にて健常人末梢血リンパ球を各種サイトカイン下に刺激し, proliferation assay によるリンパ球の増殖能と51Cr-replease assay による cytotoxic activity をCsAとDILの存在下に検討した. その結果, CsAとDILは共に両者を抑制した. 特に, 51Cr-release assay ではDILは著明にCsAの免疫抑制効果を増大させた. この実験から, CsAの投与量を減量してもDILの併用によりCsA単独投与時と同じ免疫抑制効果を得られることが判明した.
  • 経腹的・経腰的・経腔鏡手術の比較検討
    森田 研, 榊原 尚行, 関 利盛, 佐々木 芳浩, 久島 貞一, 伊藤 勇市
    1994 年 85 巻 5 号 p. 778-784
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1982年3月から1983年4月までの11年2ヵ月間に副腎腫瘍手術を25例経験した. 年齢は34歳から66歳で平均52.7歳, 性別は男性8女性17であった. これらの症例を対象に臨床的に検討を加えた.
    臨床診断は, 褐色細胞腫6例, Cushing 症候群8例, 原発性アルドステロン症4例, インシデンタローマ7例であり, 病理学的には, 褐色細胞腫6例, 皮質腺腫17例, hyperplasia with hypercortisolism 1例, 神経鞘腫1例であった.
    褐色細胞腫では術前耐糖能異常のみられた4例全例で術後正常化した. Cushing 症候群4例で術前精神障害がみられたが, 術後2例で改善した. インシデンタローマは7例中4例で, 術前みられた高血圧などが術後改善した. 内分泌非活性腫瘍でも術後高血圧などが改善することがあるので積極的に手術をするべきである.
    動脈造影・部位別採血は局在診断法としては有用でなかった.
    褐色細胞腫や両側性腫瘍が疑われる場合は経腹的到達法が適しているが, 術後の回復は遅い傾向を認めた. 経腰的手術法では40%に胸膜損傷の合併症をみ, 鎮痛剤の使用回数も多かった. また, 腹腔鏡手術は最近の4例に施行したが, 他の到達法に比較して疼痛も軽度で最も術後回復が速やかであった.
  • 術後水腎症の検討
    岡田 英一郎, 岩坪 暎二, 竹原 俊幸, 玉田 耕治
    1994 年 85 巻 5 号 p. 785-791
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    63名の神経因性膀胱による二次性膀胱尿管逆流に対して, 1980年から1992年の間に行われた尿管膀胱新吻合術68例の膀胱造影, 尿路造影, 膀胱尿道内圧測定成績を解析し, 術後の水腎症に関係する要因を検討した. 手術直後の水腎症の出現または増悪は26例に観察された (悪化群). それ以外の42例 (非悪化群) と比較すると膀胱変形, VURグレード, 術前の水腎症, 膀胱内圧曲線タイプ (areflexia, hyperrefiexia), 手術要因のどれも違いは無かった. Hyperreflexia 例の場合, 最大膀胱容量, 最大膀胱内圧, 最高尿道内圧は両群間で有意差が無かった. しかし areflexia 例では最大膀胱内圧, 最高尿道内圧は差が無かったものの, 悪化群の最大膀胱容量 (290±35ml) は非悪化群 (370±35ml) より有意に小さく (p=0.03), 10ml/cmH2O以下の低コンプライアンス膀胱の割合は悪化群に有意に多かった (p=0.05). また膀胱変形例が悪化群に多い傾向があった (p=0.06). Hyperreflexia では排尿筋の過活動が術後水腎症に寄与する割合が大きいのに対し Areflexia ではそれが乏しいため, 膀胱変形や小容量, 低コンプライアンス膀胱が術後水腎症の悪化に直接反映されると推測される. 経過観察中 (6~132ヵ月, 平均42ヵ月) に水腎症や腎瘢痕の進行例や再手術例は認められず, 大半例で水腎症は消失した. 水腎症に関して神経因性膀胱の尿管膀胱新吻合術は原発性VURの場合と変わらず晩期合併症は少ない.
  • 頴川 晋, 川上 達央, 西巻 博, 桑尾 定仁, 内田 豊昭, 横山 英二, 真下 節夫, 小柴 健
    1994 年 85 巻 5 号 p. 792-801
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    根治的前立腺摘除術を施行した18症例を対象として, 直腸診, 経直腸的超音波断層法 (TRUS), magnetic resonance imaging (MRI) および computed tomography (CT) の前立腺癌の局所浸潤度診断における有用性を検討した. 全体として, 被膜外浸潤, 精嚢浸潤などの局所腫瘍進展を診断する上での positive predictive value (PPV) は, 直腸診で100%, TRUSで88.9%, MRIでは80.0%であり, 正診率は各55.6%, 66.7%, 61.1%であった. 同様にT2以下の症例13例に限って検討すると, 直腸診のPPVは0%, 正診率は38.5%であったが, TRUSではPPV75.0%, 正診率53.8%, MRIでは各66.7%, 53.8%であり, TRUS, MRIの方が直腸診より有用であった. さらに, TRUSとMRIの所見が一致した症例では, PPV, 正診率ともに各々単独よりも高く, 診断能が向上する傾向が伺えた. 所属リンパ節転移の診断において, CTでは偽陽性例が多く, MRIでの正診率がCTを上回った.
    現状では画像診断法による前立腺癌の局所浸潤度診断の信頼性には限界があり, 今後とも総合画像診断, 新しい診断法の開発・工夫などの努力が必要であるものと思われた.
  • 藤田 公生, 松島 常, 仲野 正博, 金子 正志, 宗像 昭夫
    1994 年 85 巻 5 号 p. 802-805
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1990年7月から1992年12月までの30ヵ月間に経尿道操作を行った1,249例について, 操作後の尿路感染の発生率を検討した. 全体としての発生率は21例, 1.7%であった. 3日間の経口予防投与は対照群の16/459 (3.5%) と比較して5/790 (0.6%) と, 有意に (p=0.0004) 発生率を低下させていた. 経尿道的操作の内容では, 尿道ブジー拡張法や逆行性尿道造影による危険度は低く, 重要なのは男性に対する膀胱鏡検査であり, 予防投与を行った女性125例には感染症は発生しなかったが, 男性では予防内服にもかかわらず347例中5例 (1.4%) に発生した. 高齢者に感染の発生率が高かった. 予防投与にもかかわらず起きた感染症の起炎菌として, P. aeruginosa が重要な役割を占めていた.
  • 井上 克己, 酒井 真人, 狩野 宗英, 小田 裕之, 北原 研, 金村 三樹郎, 大坂 守明, 横山 正夫
    1994 年 85 巻 5 号 p. 806-810
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    悪性腫瘍の転移浸潤による上部尿路閉塞88例に対して, まず尿管ステント留置を試み, 不可能な場合には経皮腎瘻造設を行った. 初回治療は, 尿管ステント留置69例, 経皮腎瘻造設19例で, 尿管ステント69例のうち, 後に経皮腎瘻に変更したものは13例であった. 術後平均生存期間は5.7ヵ月と短かったが, 60.2%が一時的にせよ退院し, 在宅療養が可能となった. ステントの交換回数は, 平均1.8回. ステントのみで経過した症例の79%が2回以内の交換であった. ステント閉塞までの期間は平均72.4日で, 水腎症にたいして予防的に留置した群, 術後に肉眼的血尿の見られなかった群で, 閉塞までの期間が長かった. ステントの径による差は見られなかった. また, performance status の悪い群は良い群に比べ術後30日以降に閉塞する率が高い傾向にあった. 悪性腫瘍による上部尿路閉塞は, 潜在的にもっと多いと考えられ, 経皮腎瘻造設及び尿管ステント留置が末期癌患者の quality of life 改善にはたす役割はますます大きくなると思われる.
  • 浮村 理, 細井 信吾, 伊藤 英晃, 小島 宗門, 渡辺 泱, 南川 哲寛
    1994 年 85 巻 5 号 p. 811-814
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    44歳男性で, 初診時よりすでに肝, 腎, 肺およびリンパ節に多発性転移を認めた右副腎原発悪性褐色細胞腫の1例を経験した. 手術的治療は不可能と判断し, まずはじめに131I-MIBG放射線療法 (総投与量4810MBq) を施行し, ひき続きCVD (cyclophospamide, vincristine, dacarbazine) 化学療法を計7回施行した. これにより, 一時, 原発腫瘍の縮小, 肝転移およびリンパ節転移巣の縮小, 1日尿中カテコラミン排泄量抑制, 高血圧発作頻度の抑制を認めた. しかし, 7回目のCVD化学療法施行時には, とくに肺, 肝, リンパ節の転移性腫瘍は治療に抵抗して進展した. 原発腫瘍が残存するにもかかわらず16ヵ月の長期にわたり経過観察し得たことは, 今回の治療により, 病勢の鎮静効果と延命効果を得られたものと考えている.
  • 相澤 卓, 栃本 真人, 伊藤 貴章, 辻野 進, 秋山 昭人, 並木 一典, 三木 誠, 上田 正山
    1994 年 85 巻 5 号 p. 815-818
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    当院で過去5年間に骨シンチグラフィーや腫瘍マーカー等で経過観察された前立腺癌患者77例中1例に flare response と思われる骨シンチグラムを認めたので報告する. 症例は51歳男性. 腰痛の為, 近医で加療するも改善せず, 本院受診. 精査の結果, 前立腺癌の骨転移と診断した. 前立腺生検で中分化型腺癌, 腹部CTにて後腹膜リンパ節腫大を認めた. 骨シンチグラムにて多数の異常集積あり. 初診時のPAPは320ng/ml, γ-SMは15ng/mlと異常高値を示していた. 抗男性ホルモン療法を開始し, 約1ヵ月後の腹部CTではリンパ節は著明に縮小, 臨床症状も改善, PAP, γ-SMもほぼ正常域となった. 同時期の骨シンチグラムでは治療効果に反して集積の上昇ならびに new lesion を認め, flare response と考えられた.
    flare response は治癒過程における一過性の異常集積と考えられ, 治療開始後1~3ヵ月後に多く見られる. Imaging agent, 疾患, 治療内容には関係しない. 骨シンチグラフィーで骨病変の初回治療効果を判定する場合, 短期間内の施行は flare response の出現により病勢を正確に反映しない可能性がある.
  • 胸壁腫瘤を形成した前立腺癌骨転移の1例
    金子 裕憲, 中内 浩二, 間島 寧興, 川上 睦美, 熊川 寿郎
    1994 年 85 巻 5 号 p. 819-822
    発行日: 1994/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    内分泌療法に抵抗性となった Stage D2前立腺癌例に対し, diethylstilbestrol diphosphate (DESP) の大量投与療法を行うにあたり, 31P magnetic resonance spectroscopy (31P MRS) による治療効果の早期判定の可能性を検討した. 症例は83歳男性で1984年3月初診. 除睾術を施行後, chlormadinon acetate 及び cyclophosphamide を中心とした内服治療で経過観察をしていた. 1991年12月頃より腫瘍マーカーの再上昇があり, 1992年4月貧血と右胸壁腫瘤が認められ, 5月6日当科に入院した. 胸壁の腫瘤は生検の結果, 前立腺癌の肋骨転移と診断され, 6月11日よりDESP500mg/日の点滴静注を開始した. 初回投与4時間後の31P MRSで, 高周波領域成分の広範囲な増加とともに, phosphodiesters (PDE), phosphomonoesters (PME) のピークの増高が認められ, すでに治療に反応して腫瘍の細胞に変化が生じていることが示唆された. 同様の所見はその後も継続して観察され, 細胞の破壊が進んでいるものと思われた. 臨床的には10日目頃より腫瘤の縮小が認められ, 腫瘍マーカーも低下して治療の効果が確認された. 以上の結果から, 31P MRSは臨床所見や画像診断に先んじて治療の有効性を早期に判定できる可能性が考えられた.
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