日本泌尿器科学会雑誌
Online ISSN : 1884-7110
Print ISSN : 0021-5287
ISSN-L : 0021-5287
87 巻, 11 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 辻畑 正雄, 室崎 伸和, 三宅 修, 関井 謙一郎, 伊東 博, 板谷 宏彬
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1207-1213
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) DDV-Lを用いた前立腺全摘除術における術中出血と術後尿失禁について検討した.
    (対象と方法) 1979年5月より1995年5月までに前立腺全摘除術を38例に施行し, そのうち1994年10月から1995年5月までの14例にDDV-Lを使用した.
    DDV-Lは, 経尿道的に使用し, 左右の lateral pelvic fascia をみながら, deep dorsal vein complex の外側に針を出して, 一部尿道を含んだまま deep dorsal vein complex を結紮するための disposable な器具である.
    (結果) DDV-Lを使用した14例と使用していない14例について比較してみると, 平均手術時間は使用群が178.6minで非使用群が188.0minであった. 平均出血量は使用群が735.7mlで, 14例中2例 (14.0%) に輸血を行っているのに対し, 非使用群は1250.2mlで, 14例中10例 (71.4%) に輸血を行った. また, pad を必要とする術後尿失禁は使用群が14例中1例 (7.1%) で, 非使用群は14例中5例 (35.7%) に認めた.
    (結論) 以上よりDDV-Lを用いて手術を行った方が, 術中出血, 術後尿失禁に関して明らかに成績は良好であった.
    その理由として, DDV-Lにより deep dorsal vein complex の処理を容易に行えるため, 過剰な止血や電気凝固をしないで尿道切断が可能で, しかも膜様部尿道を十分長く残すことができるためと考える.
    DDV-Lは, 前立腺全摘除術において非常に有用であると考える.
  • 鴨井 和実
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1214-1220
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 内陰部静脈の潅流不全は, 骨盤内静脈うっ症候群 (Intrapelvic venous congestion syndrome, IVCS) に特徴的な所見である. 本報は, IVCSにおける内陰部静脈の病態生理学的な意義を解明することを目的とした.
    (対象と方法) IVCSと診断された27例 (IVCS群) とIVCSのない9例 (control 群) を対象として, 3次元MR静脈造影法 (3D-MRV) を施行し, 内陰部静脈の潅流状態について検討した. 冠状断2次元MR画像から, 座骨直腸窩部における内閉鎖筋と傍直腸脂肪組織の厚み, および両側の座骨結節間隔を計測した. さらに献体11体を用いて骨盤腔内の解剖を行い, 内陰部静脈の走行について検討した.
    (結果) 3D-MRVによる検討では, IVCS群全例において内陰部静脈の上行部で途絶所見が認められた. 内閉鎖筋の厚みは両群問で有意差を認めなかったが, 直腸傍脂肪組織の厚みはIVCS群が control 群に比べ有意に薄かった (3.0±0.4 vs 3.6±0.1cm, p<0.01). 座骨結節間隔は, IVCS群が control 群に比べ有意に狭かった (7.9±1.1 vs 9.4±0.5cm, p<0.01).
    内陰部静脈の上行部は, 解剖学的検討によって内陰部動脈・陰部神経とともに陰部神経管 (Alcock 管) の中を通過している部位であることが確認された.
    (結論) 傍直腸脂肪組織の厚みが薄いことや, 座骨結節間隔が狭いといった解剖学的要因が, Alcock 管の圧排を引き起こし, IVCSの発生に関与している可能性が示唆された.
  • 石浦 嘉之
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1221-1230
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 脳血管障害後の膀胱機能障害に関する実験的研究はこれまでに報告がなく, その病態は不明な点が多い, そこで, 脳梗塞モデルを作成し検討した.
    (方法, 結果) S-D種雄性ラットの左側内頚動脈より中大脳動脈起始部へ4-0ナイロン糸を留置して左側中大脳動脈領域の脳梗塞を作成し, 覚醒, 拘束下にて膀胱内圧測定を行った. 塞栓より14, 21, 28日後の脳梗塞群の膀胱容量は非梗塞群の半分以下であった. 膀胱容量は梗塞巣の面積と負の相関を示した. 脳梗塞群では oxybutynin, nifedipine の投与にて膀胱容量の有意な増大を認めたが, 非梗塞群では有意な増大はみられなかった. atropine の投与により, 両群ともに膀胱容量の増大, 残尿量の増大, 最大膀胱収縮圧の減少がみられたが両群間の有意差はなかった. 利尿筋切片を作成し, in vitro で atropine とα,β-methylene ATP前処置後の経壁電気刺激による収縮反応を測定した. その結果, 脳梗塞群と偽手術群との間では神経収縮におけるムスカリン作動性成分とプリン作動性成分の構成比に相違はみられなかった.
    (結論) カルシウム拮抗剤の投与により, 脳梗塞ラットに有意の膀胱容量の増大が認められたのは, 末梢の神経筋系に変化が生じたためでなく, 中枢での薬剤感受性が変化したためと考えられた. また, これまで oxybutynin は末梢作用が主と考えられていたが, 脳梗塞では中枢作用も存在すると考えられた. このモデルは, ヒト脳血管障害による排尿障害の病態や治療法の解明に有用であると考えられた.
  • 陰茎海綿体動脈 Resistance Index の評価
    奈路田 拓史, 山中 正人, 松下 和弘, 木村 和哲, 川西 泰夫, 沼田 明, 湯浅 誠, 田村 雅人, 香川 征
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1231-1235
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 静脈性インポテンスは pharmaco-dynamic infusion cavernosometry and cavernosography (pharmaco-DICC) によって診断されるが, 侵襲的検査である. 今回われわれは, 非侵襲的な検査であるカラードプラ超音波検査が, 静脈性インポテンスの診断に有用であるか検討した.
    (対象と方法) 静脈性インポテンスを疑う49症例に pharmaco-DICC とカラードプラ超音波検査を行った. Pharmaco-DICC により17例は静脈閉鎖機能正常, 32例は静脈性インポテンスと診断した. 一方, カラードプラ超音波装置にて陰茎海綿体動脈の peak systolic velocity (PSV) と end diastolic velocity (EDV) を測定し, resistance index (RI) をRI=(PSV-EDV)/PSVで求め, RIと pharmaco-DICC の結果を比較した.
    (結果) 静脈閉鎖機能が正常な症例のRIは0.895±0.092, 静脈性インポテンス症例のRIは0.742±0.095であり, 統計学的有意差を認めた. さらに receiver-operating-characteristic curve を作成し, cut off 値を0.75と0.90に設定した. 0.90<RIである10例中9例 (90%) は静脈閉鎖機能正常, 0.75<RI≦0.90である17例中7例は静脈閉鎖機能正常, 10例は静脈性インポテンス, RI≦0.75である22例中21例 (95.5%) は静脈性インポテンスであった.
    (結論)0.90<RIであれば静脈閉鎖機能正常,RI≦0.75であれば静脈性インポテンスと診断が可能であり, 0.75<RI≦0.90の症例にのみ pharmaco-DICC が必要であると考えられた.
  • 特に逆流性腎症進展早期指標としてのα1-microglobulin の有用性
    太田 章三, 近田 龍一郎, 坂井 清英, 久慈 了, 畠山 孝仁, 阿部 優子, 竹田 篤史, 千田 尚毅, 折笠 精一
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1236-1242
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 膀胱尿管逆流 (VUR) 消失後10年以上経過観察しえた小児を対象に, 尿α1-microglobulin (α1m) が逆流性腎症の予後の把握に有用な指標となりうるか否かについて検討した.
    (対象・方法) 小児原発性膀胱尿管逆流 (VUR) 症例のうち, VUR消失後10年以上観察しえた25例 (初診時年齢1~10歳 (平均4.6歳), 男児14例・女児11例) を対象とした. 腎機能は逆流消失後2年以降のDMSA腎摂取率, 尿中α1m, albumin を用いて評価した.
    (結果)尿α1mの経過を見ると, 高値が持続する例, 一過性に高値を示す例, 正常範囲のまま推移する例が観察された. 経過観察中に尿α1mが高値を示した13例中9例に, 総腎摂取率の低下を認めた. 尿 albumin 高値は7例に認め, その後正常化した2例はいずれも尿α1mが正常であった. 残りの5例はいずれも尿α1m高値であった. 総腎DMSA摂取率の低下, 尿 albumin 値の上昇は, いずれの症例も思春期以降に顕著となった.
    (結論) VUR消失後も一部の例では総腎摂取率の低下, 尿 albumin の増加などの腎機能障害が進展することが明らかになった. 尿α1m高値の例は, 思春期以降に腎機能障害の進展が起こることが多く, 尿α1mは逆流性腎症の進展を早期に把握する有用な指標となる可能性が示唆された.
  • 山口 孝則, 永田 豊春, 濱砂 良一, 長田 幸夫
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1243-1249
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) われわれは長期遠隔成績を調査しえた小児精巣・精索水瘤患児について自然歴を中心に検討し, 本症の手術適応についての考察を行った.
    (方法) 1978年から1994年までに当科外来を初診し, 平均4.7年の長期にわたって遠隔成績を調査しえた生後5日目から13歳までの患児149例160水瘤を対象にした. 手術適応については穿刺法による功罪, 水瘤の形態, 交通性, 大きさ, 初診時年齢, 精巣の発育の6つの観点からこれを検討した.
    (結果) 160水瘤のうち66水瘤 (41%) が穿刺を受けていたが, 穿刺を受けた症例ほど要手術水瘤が増え, 穿刺治癒率はわずか24%であった. また穿刺で治癒する水瘤の大多数は非交通性であった. 形態的には精巣水瘤よりも精索水瘤の方が, 非交通性よりも交通性の方が, また水瘤が大きいほど, 年長児で発生するほど手術を必要とする症例が多かった. また自然治癒までの期間も水瘤が大きいほど, 年長児で発生するほど期間を要した. 精巣の大きさについては正常対象群と比較し, 精巣の発育は良好であった.
    (結論) 本症はきわめて自然治癒傾向の強い疾患であり, 今回の検討から本症の手術適応についてはまず鼠径ヘルニア, 停留精巣などの合併例, 幼児期以降の発症で2~3年以上治癒傾向を示さない水瘤, 日常生活に支障をきたすような巨大交通性水瘤などが手術適応になると考えられた.
  • 西阪 誠泰, 和田 誠次, 池本 慎一, 杉村 一誠, 仲谷 達也, 堀井 明範, 山本 啓介, 岸本 武利, 河野 学, 安本 亮二, 辻 ...
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1250-1257
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 浸潤性膀胱癌に対して術前化学療法としてM-VACを行い, その治療効果および臨床経過について検討した.
    (対象と方法) 対象は全身状態が良好で高度の合併症がなく, M-VACの full dose の投与が可能であった患者16例である. 男性14例, 女性2例, 年齢は45歳から77歳, 平均59.4歳であった.
    (結果) 化学療法施行回数は1~3コース, 平均1.7コースであった. 12例に膀胱全摘術が施行され, 4例は膀胱温存であった. 臨床評価はCT, MRI, エコー, 細胞診, 膀胱鏡, random biopsy で行い, PR以上の奏効率は62.5%であった. 手術標本による病理組織学的評価では奏効率は68.8%であり, 16例中5例 (31.3%) に評価の相違を認めた. また, 膀胱温存を行った4例中2例に早期再発が見られ, それらは grade 3あるいは多発性腫瘍であった.
    (結論) 術前化学療法の近接効果は高率に認められたが, その指針, 評価法, 評価時期についてさらなる検討が必要で, また術前化学療法および膀胱温存の適格例の検討についても新たな方向性が必要と考えられた.
  • 松村 剛, 木原 和徳, 後藤 修一, 大島 博幸
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1258-1260
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    71歳の男性. 2年前より指摘されていた高血糖が増悪し, 体重減少, 全身倦怠感, 口渇, 多飲多尿を訴えて他院を受診し, その精査中に右腎腫瘍を指摘された. 当院内科入院時, 空腹時血糖729mg/dl, 尿ケトン体陽性であったため, 血中Cペプタイド2.6ng/mlであったがインスリンの投与を開始した. 34単位/日のインスリン投与で血糖値はコントロールされ, 右腎腫瘍の治療目的で当科に転科した. 腫瘍は右腎上極にあり, 8×6×8cmの大きさであった. 1992年11月4日経腹膜的根治的右腎摘除術を施行した. 術直後より高血糖は著明に改善し, 術当日以降インスリン投与は中止した. 術後2週間で空腹時血糖110mg/dlとなり, 術後2ヵ月の75gブドウ糖負荷試験では境界型となった. 1994年4月現在, 無治療にて空腹時血糖値は正常範囲内である. 病理診断は腎細胞癌G1>>G2, pT2であった. 術前の血中グルカゴン値は正常で, 免疫組織学的に摘除標本のグルカゴンとソマトスタチンはともに陰性であったため, 高血糖の原因となる内分泌病変は解明できなかった. 原因として, 未知の腎細胞癌由来のインスリン作用阻害因子, あるいは糖新生増加因子の存在が想定された.
  • 井口 靖浩, 東間 紘, 奥村 俊子, 高浜 素秀
    1996 年 87 巻 11 号 p. 1261-1265
    発行日: 1996/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    後腹膜腔から発育した悪性中皮腫の症例を報告する. 患者は39歳男性で1993年4月に右無機能腎を主訴に当科入院した. その6ヵ月前より右腰背部と陰嚢に鈍痛を自覚していたが徐々に痛みは増強した.
    他院にてIVPを施行され, この時右無機能腎を指摘された. 当院にて膀胱鏡検査, 逆行性腎盂造影, 経皮的腎盂造影, CT, 超音波エコーなどを施行し後腹膜腔に原発不明の腫瘍があることが判明し, これにより右尿管は完全に閉塞されており, 右腎は無機能となっていた. 右腎摘と右尿管部分切除が施行されたが腫瘍は周囲の筋肉, 骨に浸潤しており切除不可能であった. 病理組織学的に腫瘍は悪性中皮腫であった. 術後, 化学療法を施行したが無効であった. 腫瘍は急激に成長し, 最初の手術後8ヵ月目に多臓器不全にて死亡した.
    悪性中皮腫は一般に漿膜面より発生すると云われており, そのため腹膜, 胸膜原発の事が多い, しかし本症例では後腹膜腔に発育しており, 非常にめずらしい症例なので文献的考察を加えて報告する.
feedback
Top