日本泌尿器科学会雑誌
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87 巻, 5 号
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  • 鈴木 和雄, 青木 雅信, 水野 卓爾, 石川 晃, 影山 慎二, 宇佐美 隆利, 麦谷 荘一, 牛山 知己, 藤田 公生
    1996 年 87 巻 5 号 p. 809-814
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 腹膜外到達法による腹腔鏡下副腎摘除術について手技的問題を中心に検討した.
    (対象・方法) 1994年7月より1995年3月までに副腎腫瘍9例 (男4例, 女5例, 30歳から79歳, 平均56歳) に対して本手術を施行した. 術前診断は原発性アルドステロン症2例, 18-ハイドロキシコルチコステロン産生腫瘍1例, プレクッシング症候群5例, 内分泌非活性腫瘍1例であった. 手術は全身麻酔下, 側臥位にて施行した. 皮膚小切開よりバルーンにて後腹膜腔を剥離後炭酸ガス送気を行った. トロカールは計4本留置した. 腎上極を露出後, 腎周囲脂肪組織を上内側に向かい剥離した. 副腎全周を剥離後副腎静脈にクリップをかけ切断した.
    (結果) 9例全例に腫瘍摘出に成功した. 平均手術時間, 平均出血量はそれぞれ53ml, 168分であった. 術中合併症は見られなかった. 術後後腹膜血腫が1例に見られたが5日間の安静にて軽快した.
    (結論) 腹膜外到達法の有用性は開放性手術において既に確立されている. 腹膜外到達法腹腔鏡下副腎摘除術は, 術野が狭く, 手技がやや難しいといった問題点はあるものの, 安全かつ低侵襲であり, 褐色細胞腫を除いた片側性の小さな副腎腫瘍に対して有用な手術法と考えられた.
  • 舛森 直哉, 塚本 泰司, 田中 吉則, 熊本 悦明
    1996 年 87 巻 5 号 p. 815-821
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 最近の臨床現場では, 排尿に関する自覚症状を評価する際, 症状の頻度を問う International Prostate Symptom Score (I-PSS) が使用される場合が多い. しかし, symptom score が低いのにもかかわらず排尿状態を不満と感じている人がしばしば存在する. この場合, 症状の頻度のみでは評価できない何らかの自覚症状が患者の苦痛に結び付いていることが推測される. そこで,閉塞症状の程度と頻度のどちらがより本人の苦痛に結び付いているのかを検討した.
    (対象と方法) 40歳以上の前立腺集団検診受診者739名を対象に排尿に関する自覚症状の評価を行った.
    (結果)“排尿開始の遅延”,“排尿時間の延長”,“排尿時の腹圧”および“尿勢の減弱”の程度あるいは頻度は, ともに苦痛度と相関を示したが, 頻度の方が程度よりも相関が高かった. しかし, 程度のみを自覚していてもそれが本人の苦痛に結び付く場合があったため, 症状の程度の評価が不満の原因の特定のために有用である症例も存在すると考えられた. また, 症状の頻度が“全くない”と回答した人でも, 程度に関しては比較的軽度ではあるが“症状あり”と回答した人が存在したことより, 程度の自覚の方が頻度の自覚に先立ち出現すると推測された. すなわち, 症状が軽微なうちは, これを程度の変化としては認識できるが, 頻度の変化とまでは表現できない可能性が示唆された.
    (結論) 症状の程度の評価が必要な症例も存在すると推測された.
  • 小島 圭二, 鳴尾 精一, 金山 博臣, 香川 征
    1996 年 87 巻 5 号 p. 822-830
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    G0期以外の増殖期 (G1, S, G2, M期) にある細胞の核に発現するKi-67抗原を認識するMIB-1抗体を用いて, 腎盂尿管癌の増殖動態を免疫組織化学的に検討した. ホルマリン固定パラフィン包埋切片をMIB-1を1次抗体とするSAB法で免疫染色し, 染色された核の比率をKi-67 index とした. Ki-67 index は grade と良く相関し, grade 3のKi-67 index は grade 1, grade 2のそれと比べて有意に高値であった (p<0.01). また, stage ともに良く相関し, pT3以上の群は, pT1以下の群と比べて有意に高値であった (p<0.05). 更に, Ki-67 index は再発ならびに予後とも良く相関しており, 再発群では非再発群や膀胱内再発のみの群と比べて有意に高値 (p<0.01) であり, 癌死群ではNED (no evidence of disease) 群と比べて有意に高値であった (p<0.0001). また, Kaplan-Meier 法による生存率の比較では, Ki-67 index が22%以上の群は22%未満の群と比べ有意に予後不良であった (p<0.0001). これは, 同一 grade の症例をKi-67 index の値によって細分類した場合も同様で, Ki-67 index が22%以上の症例は有意に予後不良であった (p<0.01)
    MIB-1抗体を用いた腎盂尿管癌に対するKi-67抗原の検討は予後を反映しており, 予後因子として有用である可能性が示唆された.
  • 村木 淳郎, 小林 実, 菅谷 泰宏, 橋本 紳一, 森田 辰男, 小林 裕, 徳江 章彦
    1996 年 87 巻 5 号 p. 831-841
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 腎癌のうち一部の腫瘍はインターロイキン6, 8などの炎症性サイトカインを産生し, 臨床的には血清中CRP, IAPの上昇や血沈値の亢進が観察される. このような性質を有する腎癌は進行が早く予後不良であるが, 未だにその機序は解明されていない. 今回我々は腎癌症例において, 炎症性サイトカインにより誘導され血管内皮細胞に発現する細胞接着因子E-セレクチンが, 腎癌の転移と予後に関与するか否かを臨床的に検討した.
    (対象と方法) 治療前の腎癌患者89例の血清中E-セレクチンをELISA法により測定し, 腎癌の病期, 予後との関係について検討した. また, 炎症反応パラメーターである血沈値, 血清中CRP, IAPとの相関について検討を加えた.
    (結果) 血清中E-セレクチンが高値を示した症例ほど, 転移の頻度は少なく, 予後も良好であった. またB-セレクチンと血沈値, 血清中IAP, CRPとはそれぞれ負の相関を示した. In vitro において腎癌細胞と血管内皮細胞との接着について検討した結果, IL-1β刺激により両者の接着は増強し, 培養上清中に過剰のE-セレクチンが存在する条件下では逆に細胞の接着が抑制された.
    (結論) 腎癌と血管内皮細胞の接着にはE-セレクチンが関与し, 血管内皮細胞膜上に発現するE-セレクチンは癌細胞の転移には促進的に働くが, 過剰な産生はむしろ転移には抑制的に作用する可能性が示唆された.
  • 開腹手術との侵襲性の比較検討
    馬場 志郎, 中川 健, 中村 薫, 出口 修宏, 畠 亮, 村井 勝, 田崎 寛
    1996 年 87 巻 5 号 p. 842-850
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 143例の腹腔鏡下手術の手術成績を報告し, その有用性を開腹手術と比較検討した.
    (対象と方法) 手術時間, 術中尿量, 術後歩行開始時期, 食事開始時期, 鎮痛剤の投与回数, 術後から退院までの期間を副腎摘除術, 腎摘除術, 骨盤リンパ節郭清術ならびに精索静脈瘤結紮術で検討した.
    (結果) 手術成功率は95.8% (137/143) と高かった. 腹腔鏡下手術で鎮痛剤の投与回数は有意に少なく, また術後の歩行や食事の開始までの期間が統計学的に有意に短く早期の社会復帰を実現することが明らかとなった. (p<0.01). 手術時間は副腎摘除術, 腎摘除術および骨盤リンパ節郭清術の開腹手術との比較に限られるが, 腹腔鏡下手術でやや長くなる傾向が見られた. 143例のうち腹壁吊り上げ法による8例を除く135例での気腹操作に特異的な合併症発生頻度は8.1%であった. 手術中の出血により輸血を3例に必要とし, また開腹手術に移行した症例は5例 (出血4例) であった. 腹腔鏡下手術での術中尿量 (ml/kg/hr) は開腹手術群に比べ有意に減少するが (p<0.02), この術中の乏尿は術後数時間で回復した.
    (結論) 腹腔鏡下手術は従来の開腹手術に比べより侵襲が少なくかつ同等の正確な操作性をもつことを示唆した. 気腹により一時的な乏尿をおこすが, 回復は早く安全な手術手技であると考えられた.
  • 太田 智則, 赤座 英之
    1996 年 87 巻 5 号 p. 851-856
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    筑波大学泌尿器科にで1983年から1993年の間に, はじめに経尿道的切除術を施行した表在性膀胱癌111例につき検討した. 経過観察中に54例 (48.6%) で再発を認め, このうち7例 (13%) でT2以上の腫瘍の進展を認めた. のべ再発回数は108回であった. これらを対象に, 腫瘍増殖速度 (再発時点の総腫瘍量の和を再発間隔で除したものと定義した) を求め, 表在性膀胱癌の様々な予後因子との関係を検討した. また, 各再発症例ごとに全再発間の腫瘍増殖速度の平均を求め, 同様に各因子と比較検討を行った.
    予後因子に年齢, 性別, 再発回数, 腫瘍数, 腫瘍の大きさ, 深達度, 異型度, 形態, 膀胱内注入療法, 再発間隔を盛り込んだ. 各再発間の腫瘍増殖速度は予後因子との間で有意な関係は認めなかった. 各症例ごとに全再発問の腫瘍増殖速度より求めた平均値では, T2以上の腫瘍の進展を認めたものが, 進展を認めなかったものに比べ有意 (進展例vs非進展例: p<0.05) に大きかった. この結果は, 表在性膀胱癌の生物学的活性の動的評価が, 癌の進展性を決める重要な予後因子となる可能性を持っていることを示唆するものと思われる.
  • 那須 誉人, 中根 比呂志, 鎌田 清治, 三井 博, 林田 重昭, 篠原 陽一
    1996 年 87 巻 5 号 p. 857-864
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 膀胱癌に対する術前放射線併用化学療法の有用生を検討するためその効果及び長期成績を検討した.
    (対象と方法) 1981年10月から1986年12月までの44症例の膀胱癌に術前に放射線併用化学療法を主治療とし行い, その近接効果の結果で手術療法を選択する方針で膀胱癌の治療をおこなった. 放射線療法は小骨盤腔内に1クール15Gyのリニアック照射を行うと共にADM, CDDP, FT, PEPの多剤併用全身化学療法を行った. 本療法は2クール施行した. 対象は, 男性34例, 女性10例で年齢は40歳から82歳 (平均年齢65.8歳) であった. 臨床病期はTa 4例, T1 25例, T2 11例, T3 4例であった. 平均観察期間は83ヵ月 (最大146ヵ月) であった.
    (結果) 本療法の近接効果はCR 5例, PR27例, NC12例 (有効率: 72.8%) で, 本療法後の施行手術はTURbt28例, TUF 2例, 膀胱部分切除4例, 腫瘍切除4例, 膀胱全摘3例, 手術無し, 2例, 手術拒否1例であった. 観察期間中の転帰は, 癌死4例, 他病因死9例であった. 表在性膀胱癌の5年, 10年生存率はそれぞれ92.4%. 浸襲性膀胱癌の5年, 10年生存率はそれぞれ83.9%であった. 一方 Kaplan-Meier 法による表在性膀胱癌の3年, 5年非再発率はそれぞれ, 75.8%, 66.9%, 侵襲性膀胱癌の3年, 5年非再発率は73.8%と良好であった. また, 経過中, 治療後9~11年目で3例に上部尿路腫瘍 (尿管腫瘍: 2例, 腎盂腫瘍: 1例) の発生を認めた.
    (結論) 術前放射線併用化学療法は膀胱癌の治療上有効な治療法と考えられる.
  • 伊藤 尊一郎
    1996 年 87 巻 5 号 p. 865-874
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 結石マトリクスとしてカルシウム (Ca) と結合能の強いオステオポンチン (OPN) とカルプロテクチン (CPT) が報告されている. これらの物質は共にマクロファージ (Mφ) から分泌されることと, 動脈硬化や骨形成におけるCa沈着にMφとサイトカインが関与していることから, 結石形成経過においてもMφとサイトカインの関与が推察され, OPN, CPT, Mφ, サイトカインの関与について検討した.
    (対象と方法) 対象はグリオキシル酸を腹腔内投与した結石誘発ラット腎組織と腎結石にて手術を受けたヒト腎組織である. 結石誘発ラット腎組織ではOPNの発現様式をそのmRNAは in situ hybridization 法で, 蛋白は免疫組織染色で調べ, 発現強度を northern blot 法で検討した. また, 結石形成ヒト腎組織におけるOPN, CPT, Mφ, サイトカインの局在を免疫組織染色で検討した.
    (結果) OPNのmRNAは遠位細管細胞のみに発現し, 蛋白は遠位尿細管細胞と結石原基に発現した. 発現強度は対照ラット腎と比べて結石誘発ラット腎では非常に強かった. 結石形成ヒト腎組織において, OPN, CPT, Mφは遠位細管細胞, 結石原基に陽性所見を示した. また, CPT, Mφでは腎間質にも陽性所見を認めた. サイトカインでは, Interleukin (IL)-1, 6, tumor necrosis factor α, transforming growth factor βが, 遠位尿細管細胞に陽性所見を示した. IL-2, 4, 5は陰性であった.
    (結論) 以上から, 結石形成の場所は遠位尿細管細胞近辺であること, 結石形成機序にはOPN, CPT, Mφ, サイトカインの関与があることが推察された.
  • 釜井 隆男, 當眞 嗣裕, 増田 均, 兵地 信彦, 奥野 哲男, 米瀬 淳二, 福田 博志, 立花 裕一, 石渡 大介
    1996 年 87 巻 5 号 p. 875-879
    発行日: 1996/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    stage IV (UICC分類) の退形成性セミノーマを来した46歳男性に対し, 長期間にわたる化学療法を施行したところ汎血球減少が認められた. 骨髄穿刺にて急性骨髄性白血病, French-American-British 分類はMOと診断された. 染色体分析にて, t (8; 21) (q22; q22) と均衡型の構造異常を呈した染色体異常も認められた. 本症例ではアルキル化剤とエピポドフィロトキシンを長期間投与したが, その臨床的・細胞遺伝学的特徴よりエピポドフィロトキシンに起因した二次性白血病を併発したものと考えられた. 精巣腫瘍に対するエピポドフィロトキシンの長期投与中に, 二次性白血病の併発を見たのは, 検索しえた範囲では自験例が, 本邦初の報告であると思われる.
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