日本泌尿器科学会雑誌
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89 巻, 8 号
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  • 松田 久雄
    1998 年 89 巻 8 号 p. 683-692
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) M. leprae が産生する phenolic glycolipid-I (PGL-I) と類似した物質の腎腫瘍マーカーとしての可能性を検討した.
    (方法) 抗PGL-Iモノクローナル抗体 (SF-1) を作製し, これを用いて抗PGL-I類似抗体, PGL-I類似抗原の検出, およびPGL-I免疫組織染色を行った.
    (結果) 抗PGL-I類似抗体価を測定したところ, 陽性コントロールであるL型ハンセン病患者血清群において0.520±0.071, 健常者群で0.062±0.011, 腎細胞癌患者群で0.283±0.103であった. 腎細胞癌患者群では分化度が上がるつれ抗PGL-I類似抗体価が高くなる傾向が見られ, また腎細胞癌の進展度が高くなるほど血清抗体価は高値を示す傾向があった. また尿中のPGL-I類似抗原も同様であり腫瘍の進展度を把握するのにも有用であると考えられたが, 尿中抗原は特に分化度とは関係しない結果であった.
    PGL-Iの糖鎖構造のエピトープ解析により, 腎細胞癌患者血中にはS1-βのみを認識する抗体が存在していると考えられた. また, 正常腎組織には M. leprae が特異抗原として有しているPGL-Iの末端糖 3, 6-dimethyl glucose と共通抗原性を有する物質が存在する可能性が示唆された.
    (結論) PGL-I類似抗原および抗PGL-I類似抗体は腎細胞癌マーカーとして精度の高い測定方法を提供するものと思われた.
  • 原田 泰規, 瀬口 利信, 野々村 祝夫, 児島 康行, 三木 恒治, 奥山 明彦
    1998 年 89 巻 8 号 p. 693-697
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 膀胱上皮内癌70例について臨床的検討を行った.
    (対象と方法) 膀胱上皮内癌を随伴性を除き原発性, 続発性に分類した. 原発性31例, 続発性39例であり, 平均年齢63.1歳, 男61例, 女9例であった.
    (結果) 5年生存率は原発性89.1%, 続発性91.4%, 膀胱の5年温存率は各々54.5%, 57.6%であった. 浸潤癌に進展した症例は各々3/31例, 4/39例であり進展率に差はなかった. 原発性, 続発性共に初回治療として膀胱全摘除術を施行した群は, その他の群に比べて生存率に有意差を認めなかった. 膀胱内注入療法に関しては, BCG療法の接近効果としてのCR率が原発性78.6%, 続発性83.3%であり, BCG以外の薬剤では各々33.3%, 50.0%であった. 膀胱温存率では有意差は認められないもののBCG注入群, BCG以外の薬剤群, 膀胱内注入療法非施行群の順に高い傾向が見られた.
    (結論) 原発性, 続発性膀胱上皮内癌共に5年生存率は約90%, 膀胱の5年温存率は約50%であり両者に差はなかった. 初回時膀胱全摘除術施行群は初回以降全摘除術施行群や非全摘除群に比べ生存率に有意差は認めなかった. 膀胱内注入療法の近接効果ではBCG注入療法が著効を示した. 膀胱温存率についてはBCG注入群, 他剤注入群, 非膀注群の順に高い傾向がみられた.
  • 塚本 拓司, 藤岡 俊夫, 山内 智之, 森 義明, 長久保 一朗
    1998 年 89 巻 8 号 p. 698-704
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 深達度Taの膀胱癌, 特に再発を繰り返した症例の長期予後につき検討を加えた.
    (方法) 当院にて1971年から1990年の間に初回治療としてTUR-Btを行ったTa膀胱癌のうち, 5年以上経過観察を行った88例を対象とした.
    (結果) 88例中53例が再発し, その再発回数は1~11回に及んだ. 初回再発の5年, 10年非再発率は53.4%, 37.1%であった. 2回目の再発に関する非再発率は5年25.7%, 10年15.9%であった. 初回再発の非再発率は2回目再発以降のそれに比べ有意に高かった. 一方, 2回目再発以降の非再発率の間には有意差は認めなかった. また, 多くの頻回再発例では, ある時期再発間隔が延長する傾向が認められた.
    今回の検討中, stage-up を8例認めたが, 頻回再発例を含め stage-up の危険因子は同定できなかった.
    (結論) 再発の多い症例においても, ある時期再発間隔が延長するか, あるいは停止する可能性があると考えられた. 加えて, 再発回数は stage-up の危険因子ではなく, 頻回再発例は予後不良とは思われなかった. 従って, 頻回再発例に関しても, 他のTa膀胱癌と同じく膀胱温存に努めるべきと思われた.
  • 住友 誠, 丸茂 健, 中村 薫, 橘 政昭, 馬場 志郎, 村井 勝
    1998 年 89 巻 8 号 p. 705-711
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 腎細胞癌脳転移症例の臨床病理学的特徴および治療効果の検討を行った.
    (方法) 1976年6月より1996年5月までの20年間に慶応義塾大学病院を受診し, 長期に経過観察した腎細胞癌306例中, 脳転移を認めた20例 (6.5%) を対象とした. 転移出現率, 生存率は Kaplan-Meier 法を用いて算出し, log-rank 法を用いて有意差検定を行った.
    (結果) 脳転移が診断された時期に関しては, 初診時すでに脳転移が認められたものが6例で, 他の14例は原発巣の病理学的診断後に診断されており, 脳転移出現までの期間は平均53.9ヵ月で, 転移までに長期間を要する傾向が認められた. 脳への単独転移は2例のみで, 20例中17例 (85.%) が肺転移を, また10例 (50.0%) が骨転移を合併しており, 腎細胞癌の脳転移は他臓器転移を伴う傾向が認められた. 治療法として, 免疫療法は18例に施行されたが, 単独で転移巣の縮小を認めた例はなかった. また, 肺転移症例において, Interleukin-2 には脳転移出現を惹起する可能性があることが示唆された. 手術療法は20例中9例に施行されたが, 手術群は非手術群より予後良好である傾向がみられ, 脳転移後5年以上生存した症例は2例のみであったが, 2例とも脳転移巣の外科的切除を施行されていた.
    (結論) 腎細胞癌脳転移症例においては, 免疫療法による治療効果には限界がある一方, 転移巣が摘除可能であれば, 外科的治療を施行することにより, 予後の改善が得られる可能性があることが示唆された.
  • 木村 仁美
    1998 年 89 巻 8 号 p. 712-720
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 近年, 小核試験は放射線感受性試験のひとつとして期待されている. 小核試験の有用性をNBT-2, T24, PC3, OS-RC-2, RERF-LG-AIの5種類のヒト由来泌尿器癌細胞株を用いてMTT試験, コロニー形成試験との比較により検討した. またこの試験の結果とヌードマウス移植腫瘍の放射線治療効果とも比較し小核試験の有用性を検討した.
    (方法) 小核試験では2Gyの小核の出現率, MTT試験, コロニー形成試験では2Gyの細胞生存率を求める3試験の相関関係について検討した. 癌細胞をヌードマウスに移植し control 群と10Gy照射群に分けて腫瘍の大きさを3~7日毎に計測した. control 群に対する照射群の腫瘍体積比を求め放射線照射効果とし, 各試験における2Gyの値との相関について検討した.
    (結果) 小核出現率とコロニー形成試験の細胞生存率は統計的に有意な相関が認められた (r=0.941, p=0.0169). 小核出現率と in vivo の腫瘍体積比は統計的に有意差が認められた (r=0.990, p=0.0011). コロニー形成試験の細胞生存率と腫瘍体積比も統計的に有意差が認められた (r=0.914, p=0.0298). MTT試験と腫瘍体積比は統計的に有意差が認められなかった.
    (結論) 小核試験はヌードマウス放射線照射効果と最も良い相関を示した. 小核試験が放射線感受性試験としてコロニー形成試験よりも優れた予測方法である可能性が示唆された.
  • 片桐 明善, 冨田 善彦, 高橋 公太
    1998 年 89 巻 8 号 p. 721-725
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的と方法) 1987年9月から1996年11月まで新潟大学泌尿器科および関連病院にて根治的腎摘除術が施行された腎癌238例を調査し, リンパ節郭清 (LND) の意義と適応について検討した.
    (結果) LNDは238例中187例 (78.6%) に施行され, 不完全郭清が5例あった. pN+は18例 (不完全郭清を含めたLND施行群の9.4%) であり, pT, M, pV, Grade, 腫瘍径, 生存率ともpN0と比べ有意に悪かった. pN+M1の7例はいずれも長期寛解を得られなかった. pN+M0の11例中遠隔転移が出現していない6例 (LND施行群の3.2%) はLNDが有効であった可能性が考えられた. リンパ節転移の術前画像診断または術中診断 (cN) での診断率は感受性85%, 特異性96%, 陽性率57%, 偽陰性率は2.1%であった. cN0の確認できた142例中pN1の3例 (2.1%) はM1または腫瘍径の大きい症例であった. CRP上昇および発熱はcN+, pN+に多かった. リンパ節腫脹の残存または再発した12例中9例はIFN-α(増量) にて治療され, PR1例, NC1例, PD7例てあった.
    (結語) pN+は Stage も高く予後不良であり, LNDは予後の予測に役立つと考えられた. 治療的LNDの適応はM0ではcN+または腫瘍径の大きい症例, M1では更に進行が緩徐で遠隔転移巣の寛解治療可能な症例のみでよいと考えられた.
  • 久保田 恭代, 古谷 雄三, 植田 健, 市川 智彦, 井坂 茂夫, 伊藤 晴夫, 松嵜 理
    1998 年 89 巻 8 号 p. 726-729
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    患者は46歳女性. 近医で高血糖の精査中, 腹部超音波検査で両側の副腎に直径約8cmの腫瘤を指摘され当科紹介. 家族歴は姉と姪が von Hippel-Lindau 病 (VHL). CT, MRIにて両腎の嚢胞, 小脳の血管芽腫を認めた. 血圧200/100mmHg, 空腹時血糖138mg/dlで, 血中, 尿中のノルアドレナリンが優位に上昇し, 131I-MIBGシンチで両側の副腎に著明な集積がみられた. VHLに合併した両側の褐色細胞腫と診断し, 1996年9月25日経腹的両側副腎摘除術を行った. 右は, 75×60×120mm, 450g, 左は45×70×110mm, 330gであった. 病理診断も褐色細胞腫であり, 術後血圧, 血糖値, ノルアドレナリンともに正常化し, 術後約15ヵ月の現在経過良好である.
    VHLに合格した両側褐色細胞腫は, 自験例が本邦7例目である. 家族歴に褐色細胞腫のある患者はVHLの合併も考慮して, 中枢神経系, 網膜や腎臓, 膵の検索も必要であると思われた.
  • 影山 進, 上田 朋宏
    1998 年 89 巻 8 号 p. 730-733
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    32歳, 男性. 1994年12月, 病期I精巣腫瘍にて高位精巣摘除術施行. 病理診断は胎児性癌に未熟奇形腫の混在した奇形癌であった. 再発予防の化学療法は行わず, 無治療経過観察 (surveillance policy) としていた. 1996年1月, alpha-fetoprotein (AFP) が133.8ng/ml, hCG-βが0.8ng/mlと上昇, また腹部CTにて後腹膜リンパ節転移を認め再発と診断し, CDDP, VCR, MTX, PEP, Etoposide からなるCOMPE化学療法を行った. 5コース施行後にはAFPおよびhCG-βは陰性化したが腫瘍は縮小せずむしろ増大したため, 同年5月22日, 残存腫瘍の摘出術を行った. 病理診断は成熟奇形腫で残存癌組織は見られず, 臨床経過から growing teratoma syndrome と診断した. 現在, 術後17ヵ月が経過しているが再発を認めていない.
    精巣非セミノーマではAFPやhCG-βといった腫瘍マーカーの推移が腫瘍量をよく反映する. そのため画像上の腫瘍の大きさとともに治療効果の判定によく用いられ, 通常, マーカーの減少は腫瘍の縮小と相関する. しかし, ごく一部の症例では化学療法による腫瘍マーカー下降に相反して腫瘍増大が見られ, その組織では悪性成分を認めず成熟奇形腫のみがみられることがあり, Logothetis らはこの病態を growing teratoma syndrome と報告した. 治療に関しては摘出可能な大きさのうちに残存腫瘍の完全切除を行うことが第一とされており, 手術施行例では非常に良好な転帰が報告されている. Growing teratoma syndrome という病態を認識することは, 有転移非セミノーマの治療において手術時期を逸しぬためにも重要であると思われる.
  • 栗崎 功己, 石塚 修
    1998 年 89 巻 8 号 p. 734-737
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は71歳, 女性. 無症候性肉眼的血尿を主訴に1995年11月20日当科を受診した. 患者は2年5ヵ月前に当院外科にて肺癌のため右下肺葉切除術を受けており, その病理組織診断は, 気管支原発唾液腺型悪性混合腫瘍であった. 膀胱鏡検査では, 膀胱内に腫瘍や結石は認めなかったが, 右尿管口からの血尿を認めた. 排泄性腎盂造影, 右逆行性腎盂造影で右腎盂壁の不整を認め, CTでは右下腎を占拠する腫瘍を認めた. 尿細胞診は自然尿, 右尿管カテーテル尿とも Class IV で, いずれも移行上皮癌の疑いであった. 初診時すでに両肺に多発性転移を認めたが, 肉眼的血尿が持続したため, 右腎盂腫瘍の診断で根治的右腎摘除術を施行した. 術中下大静脈に腫瘍血栓を認めた. 病理診断は唾液腺型悪性混合腫瘍の主に筋上皮, 軟骨様成分の遠隔転移であった. 本腫瘍は唾液腺に発生する頻度が高いため超音波およびCTにて唾液腺の検索を行ったが, 異常所見は認められなかった. 術後食欲不振, 両側胸水貯留など徐々に全身状態は悪化し, 102日目に死亡した.
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