日本泌尿器科学会雑誌
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90 巻, 5 号
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  • 執印 太郎
    1999 年 90 巻 5 号 p. 533-540
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    現在までの疫学的また分子生物学的な解析より4つのカテゴリーの遺伝性ヒト腎細胞癌が存在することが報告されている. 我々はこの論文でこの4種類のヒト遺伝性腎細胞癌の分子生物学的な発生機構について概説した.
    Von Hippel-Lindau (VHL) 病と一般に発生する淡明細胞型腎細胞癌ではVHL病癌抑制遺伝子がその原因遺伝子であり, この遺伝子の不活性化か発生の初期機構である. 家族性乳頭型腎癌と一般に発生する乳頭型腎細胞癌の一部ではc-MET癌遺伝子の活性化がその原因であることが明らかとなった. また, 染色体3番に転座をもつ遺伝性腎癌の家系も報告されているがその原因遺伝子は明らかではない. 結節性硬化症の一部のものでは腎細胞癌が発生するため結節性硬化症の原因遺伝子TSC 1, TSC 2の不活性化かその原因とみなされている. 今後の分子生物学的な研究でヒト腎癌の発症に関わる新たな癌遺伝子や癌抑制遺伝子が発見されると考えられる.
  • 藤井 昭男, 武中 篤, 結縁 敬治, 小野 義春, 山本 博丈, 木崎 智彦, 郷司 和男, 岡本 雅之
    1999 年 90 巻 5 号 p. 541-547
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 一施設における根治的恥骨後式前立腺全摘除術施行例の臨床的検討.
    (対象と方法) 1985年4月から1997年7月に, リンパ節郭清術施行73例を含む76例の前立腺癌に対し, 恥骨後式前立腺全摘除術を行った. その年齢と観察期回中央値は68歳と44ヵ月, 病期はpT0 6例, PT2 29例, pT3 39例, pT4 2例, pN+ 22例であった.
    (結果) 切除断端部癌はpT2では10%, pT3では61%に陽性であった. 12例が再発し, その再発所見は生物学的再発が4例, 臨床的再発 (局所再発4例, リンパ節1例, 骨3例) が8例であった. 5年無病生存率 (Kaplan-Meier) はpT0が100%, pT2が82%, pT3が72%, pT4が50%, pN-が77%, pN+が75%, 断端部癌陽性が73%, 陰性が83%で, これら諸因子間に有意差は認められなかった. しかしながら, pT3低分化における術後放射線+ホルモン併用療法施行例は術後ホルモン療法例と比較し, 5年無病生存率において明らかに優れていた (100% vs 27%; p=0.011). 疾患特異別5年生存率はpT0とpT2が100%, pT3が92%, pT4が50%, pN-が94%, pN+が93%, 断端部癌陽性が93%, 陰性が98%, 前述したpT3低分化で併用療法施行例が100%, 非施行例が86%で, これら諸因子間に有意差は認められなかった.
    (結論) 我々の成績は根治的前立腺全摘除術が限局性癌と非限局性癌の両方に有用であることを示している. 術後の放射線+ホルモン併用療法はpT3低分化例の再発防止効果に優れている.
  • 前立腺全摘術標本における病理組織学的パラメータとの比較
    飯沼 昌宏, 佐藤 一成, 小川 修, 佐々木 隆聖, 加藤 哲郎
    1999 年 90 巻 5 号 p. 548-556
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 術前の末梢血中 prostate-specific antigen mRNA (PSAmRNA) と前立腺全摘標本の病理組織学的パラメータとの関連を解析し, その臨床的有用性を検討した.
    (対象と方法) 前立腺全摘術を施行した限局性前立腺癌患者30例を対象とした. 前立腺全摘術の術前に採取した末梢血から total RNA を抽出し nested reverse transcriptase-polymerase chain reaction (RT-PCR) 法に hybridization 法を組み合わせてPSAmRNAの検出を行った.
    (結果) 本解析でのRT-PCR法の感度は, 血液5ml中の単核球分画内にLNCaP前立腺癌細胞が1コあればこれを検出できる感度であり, 健常人15例では偽陽性は認められなかった. 解析症例30例中16例 (53%) で末梢血中にPSAmRNAを認め, このうち7例は病理組織学的に前立腺癌が腺内に限局している症例であった. PSAmRNA陽性率と臨床病期, 治療前PSA値, 術前補助療法の有無, 病理病期, 精嚢浸潤の有無, リンパ節転移の有無, 血管侵襲の有無, Gleason sum との間には, それぞれ有意な相関を認めなかった.
    (結論) 本解析では, 臨床病理学的パラメータと末梢血中PSAmRNAとの相関は認められなかったが, 今後症例数を増やして検討を継続し, 長期予後との関連も検討していく必要があると思われた.
  • 守屋 仁彦, 信野 祐一郎, 川倉 宏一, 森田 穣
    1999 年 90 巻 5 号 p. 557-563
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 腎血管筋脂肪腫 (AML) の治療方針をより明確にするために, 経過観察を行ったAMLの自然経過を retrospective に検討した
    (対象及び方法) 1982年5月より1997年12月の問に経過観察を行ったAML症例14例18腎 (男性2例2腎, 女性12例16腎, 27~80歳, 平均55.7歳, 結節性硬化症症例なし) を対象とし, 受診契機・初診時腫瘍径・腫瘍径の変化を検討した.
    (結果) 無症候偶発例は10例14腎, 自覚症状を有していた症例は4例であったが, うち1例は腎摘除を行った対側AML腫瘤によると考えられる疼痛・腹部腫瘤であった. 故に経過観察症例でAMLによる症状を呈したのは残る3例 (2.0cm, 3.5cm, 3.8cm) であった. 6ヵ月以上経過観察を行えた11例15腎中, 片側単発症例6腎全例と両側多発症例の1腎で腫瘍径の増大を示さず, 8腎では増大がみられた. 増大した症例は全て両側症例か同一腎多発症例であった. 片側単発症例に比して両側症例や多発症例は有意に最大腫瘍径の増大を認めた (p<0.01). 初診時腫瘍径や初診時年齢には差はみなかった. 経過観察中4cmを越えた2腎, 側腹部痛を呈した1腎及び初診時より4cmを越えていた1腎については腫瘍動脈の塞栓術を施行した.
    (結論) 片側単発症例は増大傾向に乏しく両側例や多発例とは異る経過をたどると考えられた.
  • 石田 俊哉, 下田 直威, 佐藤 一成, 小川 修, 西澤 理, 加藤 哲郎
    1999 年 90 巻 5 号 p. 564-571
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 神経成長因子 (NGF) は膀胱でも産生されることは確認されているが, 膀胱機能に及ぼす影響は十分には解明されていない. また虚血が膀胱機能に与える影響も不明な点が多い. そこでラットを用いて膀胱虚血が血流や組織所見と共に膀胱機能とNGFに与える影響を明らかにすることを目的とした.
    (対象と方法) 両側内腸骨動脈を結紮し, 膀胱虚血を作製した. 結紮直後, 1日後, 1週後, 2週後, 4週後の各時点における膀胱の血流, 組織形態, 機能, NGFを検討した.
    (結果) (1) 血流; 虚血直後に正常の18%まで低下し, その後徐々に増加し虚血4週後には66%まで回復した.(2) 組織; 虚血1日後と1週後では膀胱平滑筋の著明な菲薄化が見られたが, 2週後から修復が認められた.(3) 機能; 静止時膀胱内圧は虚血直後に著明な上昇を認めたが, その後徐々に低下した. 膀胱収縮力は虚血直後から1日後において著明に低下したが, その後徐々に回復した. 排尿頻度は虚血1日後に約2倍に増加したが, その後減少した. 排尿効率 (排尿量/排尿量+残尿量) は虚血直後から低下し1週後に最低値となったが, その後増加して4週後にはほぼ正常化した. (4) NGF: 膀胱NGFは虚血1日後に正常の2.4倍に増加し, その後急激に低下した.
    (結論) 1. 両側内腸骨動脈結紮というきびしい膀胱虚血を施しても膀胱は壊死には陥らず, その4週後には組織学的にも機能的にも回復してくることが示された. 2. 虚血直後と1日後に膀胱機能ならびに膀胱組織の著明な障害性変化が認められ, その変化は虚血1週後以降に徐々に回復に向かった. 以上のことより, 虚血後の経時的変化を急性期 (障害期) と慢性期 (回復期) とに分けて見なすことができた.3. 膀胱血流の再開が虚血に陥った膀胱組織を回復させる主体ではあろうが, 膀胱が障害をうけて間もない虚血急性期において膀胱NGFは膀胱機能の保持, 回復に関与している可能性が示唆された.
  • 蓄尿・排尿機能の評価を中心に
    妹尾 康平, 山口 孝則
    1999 年 90 巻 5 号 p. 572-578
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    膀胱外反症に対して, 後方到達式・両側腸骨々切術を併用した一期的膀胱・尿道閉鎖術を行って以後, 15年にわたって管理・追跡した女児症例の経過を報告する.
    初回の膀胱閉鎖後, 創の移開に到ったため, コルセット装着により恥骨結合の離開張力を抑制して再縫合を行った. 修復した膀胱頸部には左右の恥骨端より剥離した intersymphyseal band で巻くように前面で縫合した.
    膀胱容量は150ml以上に増加し, urodynamic study の結果, 十分な排尿筋圧を示すほぼ正常膀胱内圧パターンに, 括約筋筋電図測定からは利尿筋・括約筋の協調性も証明された. 尿道圧の計測では尿禁制を保つに必要な尿道抵抗が得られた. ここで最も重要な役割をはたしたのは intersymphyseal band によって膀胱頸部を支持したことである. また, 膀胱容量100ml以上となって施行したVUR防止手術によりVURは消失し, 以後, 上部尿路には形態的にも機能的にも新たな障害は認められなかった.
  • 石戸谷 滋人, 尾形 幸彦, 稲葉 康雄, 太田 章三, 斎藤 英郎, 山下 安夫, 大沼 徹太郎
    1999 年 90 巻 5 号 p. 579-585
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 前立腺癌の早期診断においてPSAと6ヵ所6分割の多所生検が広く用いられるようになった. 外来診療でPSAと多所生検によるスクリーニングを行った場合どの程度癌を検出できるのか, また経会陰的に生検を行っても経直腸的と同程度の成績が得られるのかを検討した.
    (対象と方法) 1994年6月より1997年3月までの間に当科を受診した50歳以上の男性に対して, Tandem-R によるPSA測定と直腸診を施行した. PSAのカットオフ値を4.0ng/mlとし, 4.1ng/ml以上であった159例中118例と4.0ng/ml以下であったが直腸診にて所見を認めた11例の, 計129例に対して経会陰的6ヵ所6分割生検を施行した.
    (結果) 129例中52例 (40.3%) に癌を検出した. gray zone (PSA 4.1~10.0ng/ml) に限ると64例中17例 (26.6%) の癌検出率であった. 従来式の6ヵ所未満の生検を施行した gray zone 症例23例からは2例 (8.9%) しか癌を検出しなかった. 多所生検は経会陰的に施行したが合併症は殆どなく, その検出率も他施設の経直腸的多所生検の結果とほぼ同等のものであった. PSAのカットオフ値を4.0とした場合その特異性は低いが, PSADを併用しても gray zone の偽陽性を減少させる効果を認めなかった.
    (結論) 外来受診患者を対象としたPSAと6ヵ所6分割生検によるスクリーニングで, gray zone の約4人に1人から癌が検出されることが判明した. PSAを積極的に外来診療で活用し, 生検経路に関わらず均等にまず6検体採取してくることが前立腺癌の早期発見の観点から重要と考えられた.
  • 鈴木 基文, 深澤 瑞也, 原 徹
    1999 年 90 巻 5 号 p. 586-589
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    64歳女性. 顕微鏡的血尿にて当科初診となる. 腹部にやや軟な可動性に乏しい腫瘤を触知し, 術前画像検査で小腸との瘻孔形成を疑われる嚢胞性腫瘤が確認された. 骨盤内膿瘍を疑い, 骨盤内臓全摘術まで念頭に入れ手術療法を施行した. 腫瘤は周囲臓器と広範に渡り癒着していたため, 腫瘤・虫垂・子宮全摘術及び一部回腸及び膀胱合併部分切除術を施行した. 腫瘤は直径8cmの球状で, 内容は腐卵臭のする大体と緑白色の膿汁であった. 膿汁の培養では緑膿菌が検出された. また病理組織診断は卵巣甲状腺腫として知られる甲状腺濾胞を含む左卵巣類皮嚢腫で, 緑膿菌による二次感染を起こしたものと思われた. また腫瘤内壁側からの検索で, それぞれ回腸と膀胱に通じる独立した2つの瘻孔の存在が明らかとなった.
  • 岡根谷 利一, 村田 靖, 杵渕 芳明
    1999 年 90 巻 5 号 p. 590-593
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    73歳男性, 前立腺癌の診断で前立腺全摘除術がなされた後に, フルタミドと酢酸ゴセレリンの併用療法を受けていた. 投与開始後8週目に, 無症状であったが定期検査で肝機能異常 (GPT 3,045IU/l) を認めたためフルタミドを直ちに中止し入院した. その10日後に十二指腸潰瘍からの出血がみられ, さらに十二指腸穿孔により腹膜炎を起こしたため緊急手術を行った. その後肝不全が軽快しないため血漿交換を繰り返し受けていたが, 2ヵ月後に肺炎のため死亡した.
    剖検により萎縮した肝臓に胆汁うっ滞がみられたが, 肝硬変は明らかでなく, フルタミドによる肝障害は胆汁うっ滞が主たるものと思われた.
    自験例でみられたフルタミドによる肝機能障害は不可逆性であり, 遷延した.
    フルタミド投与開始後は定期的に肝機能検査をすべきであり, 特に最初の3ヵ月間は肝障害が発症する可能性がもっとも高いとされているので頻回に検査をすべきである. そして肝機能異常がみつかったならばすみやかにフルタミド投与を中止すべきである.
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