(背景) 前立腺癌において超音波ガイド下系統的生検の普及により, transition zone (TZ) 癌の発見の機会が増加している. 今回, 我々はTZ部癌巣を主腫瘍とする, いわゆるTZ癌症例における, 併発非TZ部癌巣の臨床的意義を検討した.
(対象および方法) 根治的前立腺全摘術または膀胱前立腺全摘術が施行されたTZ癌症例20例を対象とし, 階段組織切片にてTZ部癌巣と併発非TZ部癌巣について臨床病理学的に検討した.
(結果) TZ部癌巣により被膜外浸潤, 精嚢腺浸潤, 切除断端陽性, 膀胱頸部浸潤は各々5例 (25%), 2例 (10%), 6例 (30%), 4例 (20%) に認められ, 被膜外浸潤は全例前立腺前方で, 切除断端陽性は全例前立腺尖部側の前方で生じていた. 一方, 併発非TZ部癌巣は17例 (85%) に認められ, 16例は多発していた. これらにより被膜外浸潤, 精嚢腺浸潤は各々3例 (15%), 1例 (5%) に認められ, また, 1例 (5%) では神経温存手術のための切り込みにより切除断端陽性となった. 被膜外浸潤, 切除断端陽性は全例前立腺後側方にて生じていた. 3例において主腫瘍であるTZ部癌巣は前立腺限局癌であったにもかかわらず, 併発非TZ部癌巣が被膜外浸潤, 精嚢腺浸潤, 切除断端陽性の原因になっていた.
(結論) TZ癌症例において, 併発非TZ部癌巣の存在も念頭に置く必要があり, 神経温存手術の選択などには注意が必要であると考えられた.
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