(目的) 前立腺癌の内分泌療法後には, 一般的にPSAは低下するが, 再燃時にほとんどの例で上昇する. しかし, その上昇の速度には症例によってかなりの差がある. 今回われわれは, 内分泌療法により一旦PSAが低下し, その後再上昇した例についてPSA倍加時間 (PSA-DT) を測定し, 他のパラメーターとの関係について検討した.
(対象と方法) 対象は, 1991年から98年までの間に診断され, 初期治療として内分泌療法を受けた前立腺癌患者で, 一旦PSAが10ng/ml以下に下降し, その後持続的に再上昇した55例である. まず, 再上昇時のPSAの上昇が直線的であるのか指数関数的であるのか, それぞれの場合における時間とPSAとの相関係数をもとめた. その後, PSA-DTをもとめ, 臨床病期, 組織学的分化度, 臨床的再燃部位, 治療開始からPSA再燃までの期間, 治療前PSA値, 予後との関係について検討した. 各群間におけるPSA-DTの差の検定は Kruskal-Wallis 検定で, 生存率の差の検定は log-rank 検定にて行った.
(結果) 再燃後のPSAは, 指数関数的に上昇した. 全症例でのPSA-DTは0.5~26.3ヵ月まで分布し, 平均4.4±4.8 (S.D.) ヵ月, 中央値2.5ヵ月であった. 初診時に進行している例ほど, 治療開始からPSA再燃までの期間が短いほど, 治療前PSA値が高いほど再燃時のPSA-DTが有意に (p<0.01) 短かった. 初診時の分化度が低いほど再燃時のPSA-DTが短い傾向であったが, 有意差はなかった. 遠隔転移による再燃例の方が局所再燃例よりもPSA-DTが短い傾向であったが, 有意差はなかった. PSA-DTが短い例ほど, 有意に診断時からまたは再燃時からの予後が悪かった.
(結論) 内分泌療法後に再燃した前立腺癌のPSAは, 指数関数的に上昇した. そのPSA-DTはかなり広範に分布し, これが癌の悪性度, 予後を反映していると考えられた. PSA-DTが再燃後の治療方針をたてる上で, ひとつの判断材料になると思われた.
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