(背景) Bayoumi らが指摘しているように (J. Natl. Cancer Inst. 2000, vol 92, p1731), Luteinizing Hormone Releasing Hormone (LHRH) analogue による前立腺癌の治療は去勢術に比べて費用が高い. しかし, 実際の診療においては LHRH analogue を使用している場合が大多数と思われるが, 泌尿器科医は, より費用が高く Quality-Adjusted Life Year (QALY) が低い治療を選択しているということであろうか. そこで, LHRH analogue は strictly dominated (高費用, 低効果) な治療であるのかどうかという点について, 泌尿器科の立場から再検討した.
(方法) 我々は, Bayoumi, et al が用いた仮定を基本的に利用し, meta-analysis と文献検索に基づいて作成した Markov model を用いて, 保険者の立場で費用効用分析を行った. 基本症例は, 症状を呈する転移性前立腺癌の65歳の男性とした. モデルの time horizon は10年とした. 初期治療として5種類のホルモン療法について検討した: diethylstilbestrol diphosphate (DES), 去勢術, 去勢術+non-steroidal antiandrogen (NSAA), LHRH, LHRH analogue+NSAA. 効果の評価にはQALY, 総医療費, incremental cost-effectiveness ratios (増分費用/増分効果) を用いた.
(結果) DESの費用が最も安かったがQALYは最低であった. 一方 LHRH analogue は2番目に費用が高かったがQALYは最高であった. DESと比較したLHRHの incremental cost-effectiveness ratios (\4,288,295/QALY) は, LHRHに対する去勢術の quality of life (QOL) weight を0.94と仮定した場合, 去勢術の Incremental cost-effectiveness ratio よりも低かった. 一方, LHRH+NSAAは strict dominance により選択から除外され, Orchiectomy+NSAA は extended dominance (増分費用/増分効果が相対的に高い) によって除外された.
(結論) LHRH analogue は去勢術に比べて費用がかかるが, よりよいQALYを提供することができる. DESと比較したLHRHの費用/QALYは\4,288,295/QALYであり, 去勢術のQOL weight が0.94より低いと感じているのであれば, 許容できる範囲内である. どの治療法を選択するかは患者の選択による.
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