癌患者にはしばしぼ白血球増多症がみられ, 従来より leukemoid reaction としてしられておりその成因はよくわからなかつた. 今回我々は従来の leukemoid reaction の定義とは多少異なる好中球増多症を呈した腎細胞癌を経験し, 内外の分献を調べてみると, この症例はCSF産生腫瘍の可能性が強く疑われたので報告する.
症例は62歳男子で血尿と右腰部痛を主訴として1980年5月8日初診, 即日入院となつた. 排泄性腎盂撮影, CT scan, 細胞診などより腎細胞癌と診断した. 胸部X線にて肺転移を認めた. 全身状態の悪化のために腎動脈撮影は施行できず, 癌化学療法を行う機会もないまま入院後24病日で悪液質と肺転移巣の増加による呼吸困難のため死亡した. 白血球数は最高111,000/mm
3にも達し, 90%以上が好中球であり, 幼若細胞の末梢血中への出現はみられなかつた. 序々に血清Ca値も上昇した.
発熱などの感染を疑わしめる臨床症状はなく, 骨X線, 骨スキャン, 骨髄穿刺などの検査でも骨転移は認められないため, 好中球増多は腫瘍より産生する液性因子が強く疑われ, CSF測定を試みたが, 残念ながらうまくいかなかつた. 本邦でCSF産生腫瘍の報告は5例みられるだけであり, いまだ泌尿器悪性腫瘍の報告はない.
抄録全体を表示