N-butyl-N-butanol (4) Nitrosamine (以下BBNと略す) 投与初期から発癌に至る過程のラット膀胱において解糖系の代謝活性と諸酵素の変動を組織学的変化と対応して, 経時的に検討した.
14CO
2 production により Embden-Meyerhof pathway (以下EMPと略す), hexose monophosphate pathway (以下HMPと略す) の代謝活性を測定し, さらにHMPの律速酵素である glucose-6-phos-phate dehydrogenase (以下G 6-PDHと略す), 6-phosphogluconate dehydrogenase (以下6-PGDHと略す) の活性についても検討した.
1) 組織学的には, BBN投与10週で移行上皮の過形成が, 15週以後では全例に上皮性腫瘍を認めた.
2) 好気的条件下では,〔1-
14C〕glucose,〔6-
14C〕glucose からの
14CO
2産生は, ともに発癌過程の進行とともに有意に増加し, また, BBN投与群ではEMPが優位となった. 一方, 嫌気的条件下では,〔1-
14C〕glucose からの
14CO
2産生が, BBN投与群で有意な増加を示し, 嫌気的条件下でHMPが作働していることを明らかにした.
3) G6-PDHの酵素活性は, BBN投与後1週よりすでに有意な増加を示し, 5週で対照群の3倍, 20週で5倍となった. 6-PGDHは, BBN投与5週以後で有意な増加を示した.
BBNラット膀胱腫瘍では, 発癌過程の進行に伴いEMP, HMPの代謝活性の亢進を認めたが, とくにHMPについてはG6-PDH, 6-PGDHの活性増加が認められた. さらにG6-PDHは, BBN投与1週目より増加しており, 発癌機構の解明のみならず, 臨床的には癌の早期診断にも応用し得る可能性をも含むものと思われる.
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