1968年3月から1985年12月までの18年間に広島大学医学部附属病院泌尿器科で腎摘除術を施行した腎癌患者85例について, 腰部斜切開, 傍腹直筋切開, 上腹部正中切開, 肋骨弓下横切開, 経胸腹膜的切開などによる各種の腎到達法別に手術時間, 術中出血量, 術中および術後合併症などの比較, 検討を行った.
1) 手術時間の比較では単純腎摘除術が多い腰部斜切開が最短で, 肋骨弓下横切開は根治的腎摘除術に所属リンパ節郭清術併用例を多く含むため最長であった.
2) 術中出血量を経腹膜的経路で比較すると, 各種皮膚切開の中で所属リンパ節郭清術施行例を多く含むためにもかかわらず肋骨弓下横切開が最少であった.
3) 術前の腎動脈塞栓術は腰部斜切開による腹膜外的経路においては術中出血量の減少が認められた. しかし経腹膜的経路においては腎の剥離操作前に腎茎部の処理が可能であるから, 術前の腎動脈塞栓術併用の有無による手術時間, 術中出血量などに差は認められなかった.
4) 所属リンパ節郭清は経腹膜的経路あるいは経胸腹膜的経路による根治的腎摘除術の症例にのみ行われたが, この操作に要する平均手術時間は105分で, 平均術中出血量は72mlであった.
5) 術中合併症は16例, 19%に認められ, 脾損傷と血管損傷が主たるもので, 腎到達経路別では上腹部正中切開に36%と最も高頻度に見られた. 所属リンパ節郭清術に起因する術中合併症はとくに認められなかった.
6) 術後合併症は腰部斜切開, 傍腹直筋切開に多く見られ, 高度の術後創部痛は肋骨弓下横切開では最も少なかった. またリンパ節郭清術が関与した合併症としては, 急性膵炎3例, リンパ漏1例, イレウス1例などが認められた.
以上より著者らが現在主として行っている肋骨弓下横切開による経腹膜的腎到達法は, 腎癌に対する根治的腎摘除術に適した腎到達経路で, 併用する所属リンパ節郭清術にも好都合な十分の手術野が得られることを認めた.
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