日本プロテオーム学会誌
Online ISSN : 2432-2776
ISSN-L : 2432-2776
3 巻, 1 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
2011 年学会賞受賞者論文
総説
  • 山田 哲司
    2018 年 3 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/21
    ジャーナル フリー

    大腸がんの90%以上の症例でAPCCTTNB1TCF7L2等のWntシグナル伝達経路の遺伝子に変異があり,同経路が恒常的に活性化している.Wntシグナルは細胞増殖,細胞死の抑制に加え,幹細胞機能の維持にも重要であり,このシグナルを遮断することで大腸がんが治療できると考えられてきたが,医薬品として実用化されたものはない.これは,大腸がんの80%以上でAPC遺伝子に機能喪失変異があり,その下流でWntシグナルを遮断する必要があるからである.我々はAPCの下流でWntシグナルの実行因子として働くTCF4(T-cell factor-4)転写複合体と相互作用する分子を徹底的にプロテオーム探索し,TNIK(TRAF2 and NCK-interacting protein kinase)キナーゼを同定した.TNIKはWntシグナルの活性化,大腸がん細胞の増殖に必須であり,その活性を抑える化合物はヒト大腸がんマウス移植腫瘍に対し著明な増殖抑制効果を示し,有望な臨床候補化合物と考えられた.

総説
  • 野村 文夫
    2018 年 3 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/21
    ジャーナル フリー

    質量分析技術(MS)の臨床現場での活用が加速している.MALDI-TOF MSを用いて病原菌の菌体プロテオームを解析し,その結果から菌種を同定する手法を用いると,従来法よりも約1日早く病原菌種名を知ることが可能となり,臨床微生物検査に革命的な変化が起きている.当初は培地上のコロニーを検体としていたが,近年では血流感染症(敗血症)や細菌性髄膜炎の診断においても活躍している.しかし,抗菌薬に対する感受性・耐性の判別はMALDI-TOF MSのみでは限界があり,LC/MS/MSや遺伝子レベルの手法との併用が必要となる.臨床化学の領域においても,従来の主流であるイムノアッセイによる測定では抗体の特異性に限界があり,MSの導入が始まっている.MS技術が今後臨床検査において広く活用される事に備えて,日本医用マススペクトル学会では2013年に医用質量分析認定士制度を発足させ,現時点ですでに298名が認定を受けている.

  • 岡西 広樹, 増井 良治, Kwang Kim, 倉光 成紀
    2018 年 3 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/21
    ジャーナル フリー

    タンパク質が広範な働きを果たすためには,多様な化学的性質を備えている必要がある.翻訳後修飾は,タンパク質に化学的多様性を付与する重要な生命現象である.その中でもLys残基のアシル化は,正電荷を持つLys残基に,電荷の状態や大きさの異なる様々なアシル基が結合する点で,非常に興味深い.近年,質量分析技術の発達により,複数の新規アシル化修飾が発見されるとともに,これらの修飾が真核生物と原核生物の両方で,非常に多くのタンパク質に同定されるようになった.そこでまず,複雑なアシル化修飾システムの中で,生物が共通して持つ基本的な働きを理解するために,生体システムが単純な生物を研究対象とすることが有効と考えられる.本稿では,著者らがバクテリアをモデル生物として新規アシル化修飾の探索を行った結果に加えて,同定された修飾の働きを推定するのに有用であったタンパク質の立体構造情報の活用および計算科学の手法を紹介する.

2018 年奨励賞受賞者論文
総説
  • 武森 信曉
    2018 年 3 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/21
    ジャーナル フリー

    質量分析によるタンパク質の高精度な定量解析には,安定同位体標識ペプチドが内部標準として用いられる.プロテオーム動態の相対的な定量化には安価な粗精製ペプチドの利用例が近年増加しているが,目的とするタンパク質の絶対量計測には高品質な精製ペプチドが必要であり,そのプロテオームワイドな入手は困難な課題である.一方,Quantification Concatamer(QconCAT)と呼ばれる内部標準ペプチドの連結体を用いる定量アプローチが提案されているが,その普及にはQconCATの安定した生合成系の確立が大きな課題となっている.本総説では,強力なインビトロ翻訳を可能にするコムギ無細胞合成系を活用したQconCATの合成戦略について紹介する.著者らが開発したコムギ無細胞系におけるQconCATの多重共発現法は,大規模な内部標準ペプチドライブラリーの迅速な構築を可能にし,様々な生命現象におけるプロテオームの定量化に向けた試みを強力に加速するだろう.

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