人口学研究
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30 巻
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表紙・目次
論文
  • リャウ カオリー
    原稿種別: 本文
    2002 年 30 巻 p. 1-22
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/09/12
    ジャーナル フリー
    本論文は,高齢者の移動を理解する四つの理論的な見方を現実のデータにより,検討しようとするものである。第一は,定年退職後の発展の見方(post-retirement developmental perspective)である。この見方によれば,高齢者達が自活能力の変化に伴う三段階で移動する可能性が高いと思われる:良い居住環境への移動,家族や友人の定住地への移動,施設に入居する移動。第二は,長い生涯の見方(life-course perspective)であり,若い頃に生計を立てるために経済機会の良い地域へ移動した高齢者が郷里へ移動する強い傾向が予想される。第三は,世代関係の見方(intergenerational perspective)であり,高齢者が成人子供の定住地に強く吸引されることが考えられる。第四は,経済的な見方(economic perspective)である。この見方によれば,高齢者が生活費の低いところへ移動しやすい一方,経済力の弱い地方が裕福な高齢者の流入を促すことは予想できる。これら四つの理論的な見方が高齢者の移動パターンと選択性を説明する能力は,社会経済の背景によって,異なるのである。第一の見方がアメリカの白人の主な州間移動パターンをよく説明できるが,そこの黒人やカナダの高齢者の州間移動に対して,第二の見方の説明力が強い。第三の見方に従う移動研究によって,個人主義が最も進んできたと思われるアメリカでさえ,成人子供の定住地が高齢父母を強く吸引していることは明らかになった。つまり,世代間の繋がりが弱くなっていなくて,成人子供が高齢父母と助け合っていけるという明るい見通しが示唆された。第四の見方は,フロリダとカリフォニアの両州での高齢者移動パターンの大きな違いを説明できる一方,良い居住環境に恵まれた経済力の弱い地域が高齢者移動の強い選択性により,裕福な高齢者を多く吸引する画策の作り方に有効な思案を提供できるのである。高齢化が深刻になっていく21世紀を考えながら,著者が強調したいのは世代関係の見方である。この見方から獲得した研究成果は,核家族化が必ず成人子供と高齢父母との繋がりを弱くしていく考えを否定したものである。日本のような核家族化した社会に,同居していなくても,成人子供は身体が不自由になった高齢父母の暮らしに重要な役割を果たしつづけるはずであろう。
  • 別府 志海
    原稿種別: 本文
    2002 年 30 巻 p. 23-40
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/09/12
    ジャーナル フリー
    生命表形式による結婚の分析はいくつかの方法がある。本稿では離死別からの再婚を考慮に入れた多相生命表形式により,1955,1975,1995年と,戦前の例として1930年の結婚の分析を行った。結婚の多相生命表から得られたライフサイクル指標によると,1930年と比べて1995年は死亡率の低下により平均結婚期間と平均未婚期間の二つが大きく伸張した一方で,平均死別期間と平均離別期間に大差はなく,また1975年以降は平均結婚期間が減少傾向にあることがわかった。このライフサイクルの変化を多相生命表を用いて要因分解したところ,1930-55年,55-75年では平均未婚期間および平均結婚期間の変化に対して死亡率改善の効果が大きかったが,75-95年では主に未婚化と離別・再婚の増加により,むしろ配偶関係間異動率変化の効果が大きくなった。戦前に比べ戦後はとりわけ若年齢の死亡率低下を反映し,死別期間は1975年までむしろ短くなったが,以降は高年齢の死亡率低下のため逆に長くなっている。再婚は期間を通して半数以上が離別再婚である。しかし戦前に比べて戦後の死別再婚確率は減少している一方で,離別再婚確率は増加している。各歳別にみた場合,戦前に比べ戦後の「適齢期」が男女ともに短くなっているという結果を得た。また最近では離別の増加から,再婚者との初婚により中高年齢での結婚期待率・平均未婚期間が男女で逆転している。1930年は戦後のパターンと比べ,40-50歳代での結婚期待率が男女ともに高く,低下がなだらかな点が大きく異なっている。初婚のみが対象だが,戦前と戦後の結婚パターンの違いの一端を示していると考えられる。
  • 村越 一哲
    原稿種別: 本文
    2002 年 30 巻 p. 41-54
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/09/12
    ジャーナル フリー
    本稿は,江戸時代後半(18世紀半ば以降)における武士,なかでもとくに大名家臣を対象として彼らの人口再生産レベルを検討した。江戸時代の武士については,人口の単純再生産すら困難であったと推測されてきた。たしかに,これまでいくつかの藩の大名家臣に関しては,彼らの出生力は低かったことが報告されている。しかしながら,低出生力とはいえ,それが単純再生産を下回る水準にあったかどうかは検討されていない。なぜなら武士人口を考察する際に利用されるおもな記録史料である系譜からはそれを検討するための再生産率などの出生力指標が得られないからである。そこでマイクロシミュレーションの手法を用いて,この間題に接近した。いくつかの藩では,大名家臣の系譜から,当主がもうけた成人男子の平均や既婚当主がもうけた男子の平均などがすでに求められている。それらとシミュレーションの結果との比較によって,再生産レベルを推測することができると考えた。用いたプログラムはケンブリッジグループにおいて開発されたCAMSIMである。このシミュレーションプログラムによって,単純再生産を実現する仮想人口を作り出した。さらに,シミュレーションのなかで"当主"を定義したうえで,"当主"のもうけた,15年以上生存した男子の平均や既婚"当主"のもうけた男子の平均を計算した。そして,系譜から求められているそれぞれの数値との比較を試みた。シミュレーションの結果から得られた数値と系譜から求めた数値はほぼ等しかった。このことから,少なくとも,これまで平均男子数が求められているいくつかの藩の大名家臣については,自らによって人口を再生産していた可能性が十分にあることを指摘することができた。
研究ノート
  • 清水 昌人
    原稿種別: 本文
    2002 年 30 巻 p. 55-68
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/09/12
    ジャーナル フリー
    Understanding the idiocyncracies of various migration definitions constitutes basic prerequisites for migration research. The purpose of this paper is to compare the data of 'the last moves within five years' with those of 'residence five years earlier', and examine how these definitions differently delineate the same migrantions. The data used for the study stem from the Fourth Migration Survey, which was conducted in 1996 by the National Institute of Population and Social Security Research, Japan. Analyses show the following points; 1) Total number of migrants is larger in the 'last migration' data, since the data of 'residence five years earlier' cannot grasp those who moved out and returned to the same place within five years. 2) An examination by place of the previous residence reveals that as the distance of move increases, the number of migrants by 'residence five years earlier' rises relative to the one by 'last migration'. This tendency would be explained by the characteristics of multiple moves within five years. While the data differences between the two definitions are caused by multiple moves (including return migrations) within five years, distance patterns of these moves seem, as far as the present dataset is concerned, to be predominantly 'long-to-short' in their sequences. Since the data of 'residence five years earlier' grasp the earlier moves and 'the last move' data focus on the more recent, the former tend to outnumber the latter in the longer distance moves, and the vice versa in the shorter movements. 3) The above pattern of migration distance seems to be influenced by the lifecycle-related characteristics of migration, namely long-distance moves for educational advance or job search in the late teens or early 20s, followed by short-distance relocation for better housing. But this pattern is not necessarily observed among older migrants. 4) In term of reasons of move, higher percentages of 'residence with/near parents' and 'marriage/divorce' are observed in return migrations. Some other multiple moves also seem to show idiosyncrasies in their reasons and migrants' attributes. It could be concluded that the relationships between the migration indicators concerned would not remain constant but change in relation to temporal fluctuations in the trends of return migration, reasons of moves, and attributes of migrants, which are shaped by time-to-time socio-economic situations.
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