本研究は,人口変化の産業構造の変化に対する効果について資本蓄積の観点から分析を行い,人口変化は,資本蓄積に大いに影響を及ぼし,産業構造の変化に重要な役割を及ぼすということを見出した。本論文では,Kinugasa and Mason(2007)の世代重複モデルと,Yamaguchi(1973,1982,2001)の一般均衡的成長会計モデルを融合させ,人口変化の産業構造の変化に対する影響として,農業部門,非農業部門の生産,労働,資本に対する影響についてシミュレーション分析を行った。まず,子供,成人,老人の三世代を考慮した世代重複モデルを構築し,人口変化,とりわけ,子供の数成人寿命,幼児生存率が総資本の成長率にどのくらい影響を及ぼすか分析を行った。次に,一般均衡的成長会計分析モデルで計測された成長率乗数により,総資本の成長率の農業と非農業の産出・投入の成長率に対する貢献度が如何なる大きさになるかについての分析を行った。1890年から2000年までの日本のデータを用いてシミュレーション分析を行ったところ,1960年代から1990年代において,急速な子供の数の減少や成人寿命の伸長は資本蓄積を促し,非農業の重要性を高めてきたという結果が得られた。この期間においては,シミュレーション分析により推定された資本の成長は,非農業生産と非農業資本を農業生産や農業資本よりも増加させ,さらに,非農業労働を増加させ,農業労働を減少させてきた。しかし,近年は,成人寿命は伸び続けている一方で,他の世代よりも通常では貯蓄が多い生産年齢人口が減少しつつある。それゆえ,今後急速な総資本の増加は望めないと考えられる。よって,近い将来,非農業部門の農業部門に対する優位な状態は継続できなくなる可能性があり,農業の重要性が相対的に増大するであろうと考えられる。
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