新飼料資源の栄養価のみならず, 家畜, 家禽ならびに肉や卵を介して人間に対する安全性を評価するための試験方法を検討する目的で, 5カ年計画の共同研究を行なった。飼料中の未知もしくは予期しない有害成分の存否を試験する方法として, ふ化試験は, 専問的な知識や技術なしで奇形の発生率の推定ができること, 卵の食品としての安全性を同時に評価できることなどの有力な長所を持っているので, この共同研究において20回のふ化試験を行ない, 死ごもり卵をすべて割卵して, 鶏胚の奇形を観察し, 分類して, その発生頻度を検討した。
対照を含む8種類の試験用飼料を与えた鶏の卵を, 1回のふ化試験につき, 100コ以上を目標にして集め, ふ卵器に入れた。入卵後, 満18日から22日の間に死ごもりとなった卵について調べ, 奇形を28種類に分類して, 予め用意した調査票に記録した。
成績を検討したところ, 給与した飼料, 飼養した試験場あるいは鶏の世代や週齢などの実験条件の差異が, 特定の種類の奇形の発生に影響するとはいえなかった。試験飼料は, 7種類の微生物蛋白質を含むもので, これらに催奇形性があるとはいえない。
そこで, 同種のデータ192区を合併し, 合計752区のデータから, 約100コずつ入卵してふ化試験を行なう場合の母平均, 標準偏差および平均値の99%信頼上限値を推定した。受精卵78,311コのうち1,216コの鶏胚に奇形が認められた。奇形の種類では, 短嘴などの嘴の異常が最も多くて合計578例あり, 発育異常と〓ヘルニヤがこれにつづいた。脳や眼の奇型も多く, 合計279例あった。
死ごもり卵を検査することは, 経験, 労力, 時間を要することであるが, 発育中卵発生率 (x
1%), 奇形ヒナ発生率 (x
2%) およびふ化率 (y%) との間に, (1)式で示される関係が認められたので, ふ卵場の通常
y=94.36-1.0519x
1-1.5586x
2……(1)
の仕事として測定する発育中止卵発生率とふ化率とから奇形の発生率を推定することができる。
ふ化試験成績や奇形の種類ごとの平均値とその99%信頼上限値が求められた。ただし, ふ化率は下限値が示されている。飼料原料中の未知もしくは予期しない催奇形性因子の存否をチェックする簡便で有効な方法としてふ化試験が推奨されたが, ふ化試験の成績が正常値の範囲内にあるかどうかの判断基準として, 99%信頼上(下)限値が有効である。
たとえば, 55%以下のふ化率あるいは8%以上の奇形発生率推定値がえられた場合, 何らかの原因で異常事態が発生したと考えて, 原因追及の活動を開始することになる。ただし, この程度のデータは, 普通の場合でも, 100回のテスト中1回程度はえられものであることを知っておく必要がある。
なお, 奇形鶏胚のサンプルおよびそのカラー写真は, 名古屋大学医学部解剖学教室に保存してある。
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