ニホンウズラの耳房(ear tuft, ET)系統と喉房(throat tuft, TT)系統との交雑から得られたF
1,F
2世代および両系統への戻し交配世代における突然変異形質の出現頻度を調査し,以下の結果を得た。
(1) 交雑個体群中には,両親系統と同様の房毛,耳口異常,および咽喉部に突出した骨を有するものが観察された(外部異常)。これらの異常のうち少なくとも1つを有する孵卵15日胚の出現頻度は,F
1,F
2世代およびET,TT両系統への戻し交配世代において,それぞれ,33%,28%,27%,および51%であった。これらの出現頻度は,以前の研究で明らかにされている第一鰓裂(hyomandibular furrow, HF)異常を有する孵卵5日胚のそれぞれの交配世代おける出現頻度,59%,60%,58%,および64%よりも有意に低いものであった。しかしながら,外部奇形を示した大部分の胚は,TT型奇形を示すもの及びET型奇形を示すものに分類することができ,それらの分離比はTT型奇形がET型奇型に対し優性であると仮定した場合の分離比に一致した。この結果は孵卵5日胚のHF異常を指標にして行った実験の結果と同様であった。孵卵15日胚の異常はすべてHF異常に起因すること,孵卵5~15日の間に胚の集中的な死亡はみられなかったことから,5日胚に生じたHF異常の一部が修復されたために,孵卵15日胚で異常出現頻度が減少したと考えられた。
(2) 交雑個体には上述の外部異常の他に,両親系統と同様の頭部骨格異常が発見された(内部異常)。孵卵15日胚におけるこの異常の出現頻度は上述の各交配世代においてそれぞれ,61%,72%,59%および77%であった。これらの値は,上述の外部異常の出現頻度と比較して有意に高いものであった。この結果は,遺伝子作用が種々の異なった器官または組織において発現するような場合には,それぞれの形質を総合的に検討しそれぞれの形質がもつ特徴間の差異を把握することが重要であることを示している。
(3) また,上述の各世代において観察された59~77%の頭部骨格異常の出現頻度はいずれも,ET系統,TT系統における頭部骨格異常の出現頻度(共に約90%)よりも有意に低いものであった。ET系統あるいはTT系統と正常対照系統との交雑を行った場合,いずれも,F
2および戻し交配世代において23%および45%程度の頭部骨格異常胚が出現すること,すなわち,ET,TT両系統が保有するそれぞれの突然変異遺伝子の浸透度は約90%で一定であることが知られている。これに反し,本研究では,ET系統とTT系統を交配した場合には,頭部骨格異常の出現頻度が両親系統よりも有意に低下する現象が観察され,これはそれぞれの突然変異遺伝子ならびに両系統の遺伝的背景の相互作用によるものと解釈された。
(4) ET形質とTT形質は互いに対立形質であることが,孵卵5日胚のHF異常を指標にした対立性検定の結果確認されている。一方,本研究では,孵卵15日胚の頭部骨格異常は対立性の検定を行う際の指標として不適当であることが判明した。これらの事実は,遺伝分析を行う際,着目する形質と観察の時期が極めて重要であり,遺伝様式の分析には高い浸透度で発現される形質が,対立性の検討には遺伝子作用の特徴が強く反映される形質が有効であることを示している。
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