本研究は,ニワトリにおいてガンマー線を照射したドナー系統の精子を用いて,レシピエント系統ヘドナー系統がもつ卵殻色遺伝子の導入を試みた。まず,ドナー系統であるロードアイランドレッド種Y8系(RIR-Y8)の精子にコバルト60を線源とするガンマー線770Gyを照射し,レシピエント系統のホワイトレグホーン種G系(WL-G)の雌に人工授精した。次いで24時間後,WL-Gの非照射正常精子を人工授精した。
その結果,77羽のWL-G雌より合計956個の卵が得られ,その内の714個が孵化(孵化率75%,雄378羽,雌336羽)した。孵化した雛を遺伝子導入系第1世代(WL-r1)とした。産卵を開始したWL-r1雌312羽の内で12羽(3.8%)が着色卵を産卵した。WL-r1の産卵性能はWL-Gとの比較においても差はなかった。この第1世代以降は選択交配を行い次世代を作出した結果,着色卵を産卵した個体はWL-r2で8/297(2.7%),WL-r3で8/74(10.8%),WL-r4で19/62(30.6%)であった。卵殻色の測定には測色色差計を用い,L値(明るさ),a値(赤色),b値(黄色)の3成分を測定した。WL-r4における卵殻色の平均値は他の世代に比較して,より着色程度が高いものであった。WL-G系統においてはこれまで着色卵の産卵は確認されていなく,また,WL-r1ではホワイトレグホーン種とロードアイランドレッド種とのF
1で見られるような羽毛形質は確認されなかった。これらのことから,WL-r系での卵殻色形質はRIR-Y8の照射精子由来である可能性を示唆するものであると考えられる。
本研究で用いた遺伝導入技術は,目的とする遺伝子のみの導入が困難であるために,形質の発現をもとに選択交配をおこなっていく必要がある。しかしながら,ニワトリの高い繁殖性を利用することで,比較的短期間で特定の質的遺伝子の導入を目的とした育種改良が行える可能性を持つものである。今後,ドナー照射精子由来DNAの確認などが望まれる。
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