本研究は短期間の低カルシウム飼料が,卵殻質(比重,卵殻比率,卵殻厚)と小腸及び卵殻腺カルシウム結合蛋白質(CaBP-D
28K)mRNA量に与える影響を検討した。5日間,低カルシウム飼料(0.5%カルシウム,低カルシウム給餌群)を産卵鶏に与えると,産卵鶏は卵殻質の悪い,壊れやすい卵を産むようになった。卵殻質の指標として卵殻比率(卵重に対する卵殻乾燥重量比率)を検討したところ,低カルシウム飼料を与えて2日目には有意に卵殻比率が減少した。他の比重,卵殻厚の指標も卵殻比率と同様な変化となった。低カルシウム飼料給餌後5日目には血中カルシウム濃度もコントロール群に比べ有意に減少した。5日間低カルシウム飼料を与えた後,5日間3.5%カルシウムを含む標準カルシウム飼料を与えたところ,卵殻質は改善され,血中カルシウム濃度もコントロール群と同じレベルにまで上昇した。低カルシウム飼料を5日間与えた後,次の排卵8時間後に小腸及び卵殻腺粘膜を採取し,CaBP-D
28K mRNA量をノーザンブロット法によって定量した。カルシウム再給餌群は低カルシウムを5日間給餌した後,5日間標準カルシウム飼料を給餌し,最終日の排卵後8時間にサンプリングを行った。小腸では低カルシウム給餌群とカルシウム再給餌群におけるCaBP-D
28K mRNA量はコントロール群に比べ約2倍有意に増加した。これは,低カルシウム飼料により血中カルシウムが減少した結果,パラサイロイドホルモン(PTH)が分泌され,腎臓における1,25(OH)
2D
3の合成を刺激したためと考えられる。カルシウム再給餌群では,血中カルシウム濃度はコントロール群と同じレベルに戻っていたにもかかわらず,CaBP-D
28K mRNA量が高かったのは骨の再生とカルシウム貯蔵により多くのカルシウムが必要だったためと考えられる。しかし,卵殻腺CaBP-D
28K mRNA量は5日間の低カルシウム飼料を与えたにもかかわらず有意な変動はみられなかった。この結果より血中カルシウム低下による卵殻質低下は卵殻腺のCaBP-D
28K mRNA産生には影響しないと考えられた。
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