乳牛の二排卵した時の人工授精後における臨床内分泌学的な基礎資料を得ることを目的として,ホルスタイン種経産牛で自然発情期に人工授精して,二排卵した後に2個の黄体の形成が認められた17例と一排卵し正常黄体を形成して受胎した8例について卵巣の変化を調べるとともに末梢血中progesterone(P)およびestradiol-17β(E
2)濃度の消長を,受胎例では排卵後30日まで,不受胎例では次回排卵日まで比較検討した.さらに,二排卵後受胎例については,産子数を調べた.
その結果,17例中5例は双子,4例は単子を分娩し,2例は授精後それぞれ95日と106日に双子を流産した.受胎しなかった6例における次回排卵までの日数は,2例では20日と21日であり,他の4例では26~58日であった.双子分娩1例と単子分娩4例では,2個の黄体のうち1個が排卵後14~42日の間に,また不受胎で性周期が延長した4例では黄体の1個が排卵後15~33日に,他の1個が21~53日の間に退行し始めた.血中P値は,全例で排卵後12~13日まで一排卵受胎例の平均値±2SD(以下,基準値)の範囲内で推移したが,単子分娩1例と不受胎で性周期が延長した4例では,1個の黄体の退行に伴って低下した.一方,E
2値は,受胎例では基準値の範囲内で推移したのに対して,不受胎例では,基準値の上方またはそれを上回る値で推移し,変動の範囲は広い傾向がみられた.
以上の成績から,二排卵後には胚の死滅が高率に発生し,血中E
2値が高い傾向にあることとの関連が推察された.
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