以上性機能障害牛として交尾欲欠如症(発育不良のものを含む)4頭,精子減少症5頭計9頭に対してVetro-phinによる治療を行ない,性行動,精液検査,biopsyによる精巣紐織検査を実施して経過を観察した。交尾欲欠如症4頭のうちNo.B1はVetrophin投与開始後12日目に射精可能となった。またNo.B2は発育不良で体重220kg程度であったが,No.B1よりも投与量を増し5RUを連日5回静注した結果6日目に始めて射精した。本牛は若令牛でありながら精液性状も短期間に促進されて良好な精子を生産した。No.FB15は黒毛和種,体重975kgで交尾欲が廃絶し精液採取不能となったが,No.B1同様testosteroneの投与で効果を表わさなかった牛である。勿論相当多量(300mg)のtestosteroneを投与すれば,交尾欲が発現したかもしれないが,testosteroneの投与によって下垂体機能が抑制され,精液性状が1時的に低下すること,さらにtestosteroneの投与によって発現した交尾欲が長く持続するとは限らないので,Vetrophin 5 RU連日10回筋注を試みた結果投与終了後9日目から交尾欲が発現し精液性状も改善された。FB36は陰茎の勃起突出が不十分で,時折精液を包皮内に射出したが,その後採取不能となった。本牛はVetrophin 10RUを連日5回皮下注射したが,ホルモン投与後直ちに採取可能となった。しかし未だ正常牛より精液採取に時間を要する。
このことから交尾欲,射精能の減退~欠如している症例に対してVetrophin投与は奏効することが認められた。
次に精子減少症を呈する牛5頭の内No.B3,No.FB23は障害の程度が軽く,No.FB17,No.FB27は極めて重度な造精障害と考えられ,とくにNo.17は予後不良と診断した。No.FB20は供用開始時より精液性状が不良で,今日まで治療が試みられていたが,供用可能な程度には好転することなく長期間造精機能の減退した状態が持続していた。これらの障害牛はVetrophinの投与によって精子数の増加,精子活力の増進,奇形率の減少など精液所見の改善が認められたが,一方間質結合織の増生或は線維化が時日の経過とともに漸次高度に進行する様な症例6)や,広汎な石灰変性の認められるものでは治療効果が期待できなかった。しかし,No.FB20,FB27は体重1,500kg程度であり,投与量の増加,投与期間の延長,投与方法を変ることによって,さらに増進するかもしれないが,Antihormoneの産生が考慮されるので,一応1クールを10回までとして次回は別のgonadotrophin製剤の投与に切り替えることにした。以上今回の治療試験から明らかな様に精巣の病変の程度を良く理解した上で処置しないと折角の治療も無効となる様に思われた。
すなわち間質組織に著しい変化がなくて,主として精娘細胞~精子細胞の段階で精子形成が遅滞している程度の造精障害牛では早期に治療すれば,かなりの効果が得られるものと考える。
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