以上の成績を総括すると次の通りである。
1)臨床上大半不妊の故を以つて廃用とされた,比較的臨床経歴の詳しい牝牛生殖器87例(A群)を基とし,屠殺牝牛286例(B群)を対照として計373例につき病理形態学的立場より不妊原因を検討した。
2)器質的疾患としてはA群に於て慢性カタール性子宮内膜炎(44.8%),卵巣嚢腫(40.2%),慢性カタール性膣炎(36.9%),卵巣の小嚢胞性変性(26.4%),慢性カタール性頸管炎(24.1%),輸卵管水腫(9.2%),子宮周囲炎(6.9%),子宮内膜嚢胞性増殖(6.9%)等が高頻度に認められた。
3)B群に於ては膣炎(43.4%),卵巣嚢腫(18.5%),膣の嚢胞形成(11.8%),子宮内膜炎(10.8%),頸管炎(9.8%),卵巣の小嚢胞性変性(8.0%),輸卵管周囲嚢腫(7.1%),子宮内膜の嚢胞性増殖(5.2%),黄体嚢腫(4.5%),膣嚢胞性腺腫(3.9%)等が高頻度病変として確認された。
4)特に興味を惹いたのは比較的高頻度に認められた卵巣の小嚢胞性変性で,不妊牛(A群,26.4%)に多く,性周期を乱す不妊の一因子と考えられた。
5)次に卵巣嚢腫と子宮内膜炎を除くと,輸卵管病変が不妊の重要因子と考えられ高頻度に認められた。臨床上癒着と見做された子宮周囲炎は又臨床病理学的に重要と考えられる。
6)子宮内膜の嚢胞性増殖は卵巣嚢種と関係があると解されたが,慢性カタール性子宮内膜炎については今後の検討を必要とする。
7)膣炎及び頸管炎が予想以上に高頻度であつた。
8)不妊症解明に当つては今後器質的疾患はもとより,広く臨床,病理,細菌,化学,卵巣を中心とした内分泌学及び遺伝学的に検討を必要とする。特に非伝染性疾患にもとずく全身性栄養不良,全身性内分泌機能障碍,全身性疾患の部分症,素因等の問題を深く掘下げて追求する必要があると考えられる。
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