卵巣の濾胞および黄体の機能については,これまでの研究により明らかにされつつあるが,機能の異常性に関する研究報告は比較的少ない。婦人においては黄体機能不全の区分4)があり,牛においてはHANSEL他5)のオキシトシン注射による黄体形成の不全,および結締織化の報告があり,その他,性周期が正常であつて黄体嚢腫が発生し,不妊の原因となるというMC ENTTEE6)の報告が見られる程度で,濾胞および黄体の機能の異常性についでは,なお不明な点が多い現状である。
一方低受胎牛では,性周期が明瞭でありながら不受胎なものであるから,卵巣または子宮に軽微な異常が存在するが,その異常性の診断が比較的困難であるものが含まれることが考慮される。従つて正常牛における診断技術を確立し,それと比較しながら,低受胎牛の診断を行う必要性が考えられる。
この目的で,卵巣の濾胞および黄体の形状と同時に,子宮の収縮力,弾力について調査した結果,発情期における濾胞の形成不全ならびに,黄体期における黄体の機能不全が低受胎牛の発生と関係することが推定された。さらに黄体嚢腫の発生が意外に多く,これらの治療成績。については,既に報告したが,診断にさいしては,黄体突出部の直下を指先で加圧して,内部よりの液体の排出の有無により決定し,また粘液性子宮については,妊娠診断の要領で子宮を撮み,内部に存在する濃厚粘液の存在により決定した。
従つてこれらの疾患は低受胎牛とは区別して考える必要があるものと考えられ,さらにその他の疾患のものが含まれているのであろうが,胎児の早期流産ならびに診断が困難な疾患を含めて,これを低受胎牛と区分することが適当であろうと考察される。
なお以上の成績は,これまでの診断書を整理,集計したものであり,また直腸検査による触感を基にしたものであって,個人的な相違は免れ得ない。従つて現在実験的証明につき研究中である。
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