家畜繁殖研究會誌
Print ISSN : 0453-0551
9 巻, 3 号
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  • III. 錠剤形式による牛精液の凍結保存について
    永瀬 弘, 丹羽 太左衛門
    1963 年 9 巻 3 号 p. 73-77
    発行日: 1963/10/20
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    濃厚な希釈精液をドライアイス上に直接滴下して凍結するいわゆる"錠剤化凍結法"を考案し,この方法によつて凍結した精液の精子生存率に及ぼす各種条件を検討して次の如き結果を得た。
    1)錠剤化凍結法では凍結速度が従来よりも相当速く4~5分で3~4°Cから-79°Cに達するにも拘わらず,グリセリンを含まない卵黄ブドウ糖液中の精子でも生存する。
    2)錠剤化凍結法と2段階凍結法との精子生存率を比較した成績では,両凍結法に有意の差は認められないが,同一凍結法でグリセリンを加えた卵ク液,卵黄ブドウ糖液の比較では卵黄ブドウ糖液の生存率が良好でその差は有意であつた。
    3)錠剤化凍結精液の精子生存率に及ぼすグリセリン濃度,ブドウ糖濃度,錠剤の大きさの影響を吟味した結果,凍結用希釈液として卵黄ブドウ糖液を使用した場合良好な精子生存率を示したのは,グリセリン7%-ブドウ糖7.5%区,グリセリン3.5%-ブドウ糖5.5~8.25%区,グリセリン1.75%-ブドウ糖5.5%の各区でこれらの間には有意差は認められず,添加するグリセリン量は相当軽減できることが判つた。
    錠剤の大きさはグリセリン3.5~7.0%では大きいもの(精液量0.1~0.2cc)において,1.75%の場合は小さいもの(0.013~0.05cc)において精子生存率が良好であつた。
    4)本凍結法は多くの利点を持ち,今後牛精液の凍結保存技術の改良と普及ならびに他の動物精子の凍結保存にも貢献するところが相当大きいものと考えられる。
  • IV. 錠剤化凍結精液の保存ならびに受胎成績について
    永瀬 弘, 丹羽 太左衛門, 山下 清一, 入江 壮
    1963 年 9 巻 3 号 p. 78-81
    発行日: 1963/10/20
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    錠剤化した濃厚な牛凍結精液の保存ならびに授精試験を実施して,次の如き成績を得た。
    (1) 凍結用希釈液に卵黄ブドウ糖液を用いて錠剤化した凍結精液を-79°Cのアルコール中およびドライアイス粉末中に1~2カ月間保存した場合,精子生存率の低下はきわめて僅かであつた。
    (2) 2段階凍結および1段階凍結精液(対照)と錠剤化凍結精液の受胎率の比較を行なつた試験では,錠剤化凍結精液の受胎率(76.4%)は対照(2段階凍結および1段階凍結精液)の受胎率(40.0%および59.6%)に比し相当良好で,その差は統計的にも有意であつた。
    (3) 夏季受胎率低下時における錠剤化凍結精液の利用価値を見るために行なつた授精試験では57.5%の受胎率を得,並行して行なつた4°C保存精液の受胎率(41.8%)に比しその成績は良好であつた。
    以上の結果から,錠剤化凍結精液は精子活力の保存性ならびに受胎成績も良好であり,他の利点とも合わせ考えて,実用価値の高い凍結保存法であると考えられる。
  • II. 各種保存液ならびに抗菌性物質の添加が精子の代謝におよぼす影響について
    瑞穂 当, 丹羽 太左衛門, 副島 昭彦
    1963 年 9 巻 3 号 p. 82-86
    発行日: 1963/10/20
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    各種保存液および各種抗菌性物質を精液に添加した場合の精子の代謝ならびに生存性について実験し,次の結果を得た。
    (1) 牛乳あるいは卵黄を主体とした保存液の添加は精子の活力に好影響があつたが,これは精子の呼吸あるいは解糖を促進する効果のためであると考えられる。
    (2) 牛乳系統の保存液は精子の解糖を促進する効果において卵黄系統の保存液よりもすぐれたが,精液温の急冷から精子を保護する効果は卵黄系統のものの方がまさるように認められた。
    (3) 糖液の添加は精子の呼吸および解糖を抑制した。したがって糖の利用に当つては過量:を避け,他の保存液と適宜併用すべきものと考えられる。
    (4) グリシン,グルタミン酸ソーダは精子の活力ならびに代謝に効果を示さなかつた。KRP液および食塩水は精子の代謝を促進しない反面抑制する作用も少なかつたので,精液の単なる増量の目的には適しているものと思われる。
    (5) 抗菌性物質の中には細菌の増殖を抑制する濃度において精子の代謝にはむしろ良効果を示すものがあつた。この所見は従来から適当な抗菌性物質の添加によつて精子の生存時蘭の延長が見られていたことの一原因と考えられる。
    (6) 実験に供したサルファ剤13種の中ではホモスルファミンが抗菌力,精子の生存性ならびに代謝量,水に対する溶解性の各項目においてすぐれており,これに次いでは,サルファメラジンナトリウム,サルファメサジソナトリウム,サルファイソミジンナトリウム,スルファミンが良好であつた。
    (7) 抗生物質6種の中ではストレプトマイシンおよびペニシリンが良好で,カナマイシンは精子に対する害は少なかつたが潮解性が強いことが実用上の不便となると思われる。他の3種は何等から難点が認められ,特にオーレオマイシソは細菌を抑制する濃度では精子に著害を示し,精液に添加する抗菌性物質としては利用しがたいものと認められた。
    (8) 硼酸およびフェニール砒酸は利用可能の余地はあると考えられたが,グアノフラシンは不適当であると認められた。
  • III. 温度ショックならびに希釈ショックと精子代謝との関係について
    瑞穂 当, 丹羽 太左衛門, 副島 昭彦
    1963 年 9 巻 3 号 p. 87-91
    発行日: 1963/10/20
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    精子の温度ショックならびに希釈ショック現象と精子の代謝との関連について実験を行ない次の結果を得た。
    (1) 精液温の急冷は精子の呼吸ならびに解糖量を著しく低下せしめ,精子活力も障害された。なお,豚精子の場合,精液温の急冷によつても温度ショックが認められない温度差は10°C以内であつた。
    (2) 精液に卵ク液が添加された場合は精液温の急冷によつても精子の代謝能力の低下は少なく,卵黄が温度ショックから精子を保護する効果が認められたが,その保護効果にも限度があり温度差が大きすぎる場合には精子のショックを防止し得なかつた。
    (3) 同一温度差の精液温急冷の場合でも,高温度域において行なわれた場合は低温度域におけるよりも精子の代謝障害は少なく,精子活力の低下も軽微であつた。
    (4) 精液温を保存適温まで降下せしめる場合に,豚精液では1時間程度を要して徐々に行なえば温度ショックは防止され,所要時間の短縮に伴つて精子の代謝量ならびに活力に対する障害が大となつた。
    (5) 精液を瞬間的に希釈した場合は,希釈倍率が大となるほど精子の代謝量ならびに活力が障害され,且つその障害度には使用した希釈液の種類による差はほとんど認められなかつた。
    (6) 精度を徐々に希釈する場合に,10倍希釈の場合は1時間程度を要して行なうのが適当であつた。また徐々に希釈を行なう場合は希釈液の種類によつて差が認められ,精子の代謝を促進する効果を有する希釈液を使用した場合の方が好結果を示した。
    (7) 保存適温に保存され運動静止状態にある精子は希釈ショックを受けることが少なく,優良な希釈液を使用すれば極端な高倍率希釈でないかぎり精子の代謝量はむしろ増進される結果を得た。
    (8) 希釈時の精液温は高温にある方が低温にある場合よりも希釈ショックが緩和された。
    (9) 温度ショックあるいは希釈ショックを受けた精子は時間の経過によつても恢復することはなく,また一方ショックの程度が時間の経過に伴なつて累進されることも見られなかつた。
    (10) 以上の結果を綜合的に考察すると,精子のエネルギー支出が獲得量を超えるような条件が与えられたときに,精子はショックを受け活力を害されるに至るものであるという考え方が成立するように思われる。
  • IV. 精子代謝量の季節的消長について
    瑞穂 当, 丹羽 太左衛門, 副島 昭彦
    1963 年 9 巻 3 号 p. 92-96
    発行日: 1963/10/20
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    精液性状ならびに精子代謝量の季節的変動を,豚,牛山羊,馬について検索し,次の結果を得た。
    (1) 繁殖季節を限定されない豚および牛においても,季節により殊に夏季において精子生存性が不良となる傾向があつたが,その程度には個体差があるように認められた。
    (2) 繁殖季節が限られる山羊および馬でも,この実験に供した材料の範囲では,精液の性状ならびに精子代謝量が繁殖季節において特に良好となる傾向は見られなかつた。
    (3) 精子の生存能力の良否と単位時間内の精子代謝量との関連は小さかつた。ただ,呼吸量よりも解糖量の方が生存性との関連がやや大きい傾向は認められた。
    (4) 精子の解糖総量は射出時にすでに定まつた限界が与えられていると認められる結果を得た。解糖総量は個体により差があり,また同一個体でも季節により,あるいは射精のつど差があるものと思われ,その結果として精子の生存性の良否が発現するものと考えられる。
    (5) 一般的には,精液の糖含量と精子の生存性との関連は乏しいものと言える。ただし同一個体については,精液の糖含量の多いときは性機能が好調であり,精子の生存性も良いと言うことはできよう。
  • V 凍結保存と精子代謝能力について
    瑞穂 当, 丹羽 太左衛門, 副島 昭彦
    1963 年 9 巻 3 号 p. 97-100
    発行日: 1963/10/20
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    精液の凍結保存と精子代謝能力との関係について実験を行ない,次の所見を得た。
    (1) 凍結精液製造のために添加する抗凍結物質3者の比較においては,グリセリンが精子の代謝能力ならびに活力の面では最適と考えられ,エチレングリコールがこれに次ぎ,プロピレングリコールは最も劣るもののように認められた。
    またこれら抗凍結物質の性質として,高温度条件においては精子に有害に作用し,低温度においては有効に作用するという知見が得られた。
    (2) 精液の凍結過程において精液温が-15°C以下となつた場合に精子が活力を害されるのは,精子の解糖能力の低下に原因するものと認められ,呼吸能力の低下はあまり顕著ではなかつた。
    (3) 長期間凍結保存された場合においても,生き残つた精子の呼吸能力の低下は少なかつた。乳酸蓄積量から推察した解糖能力は低値ではあつたが,保存期間の延長による低下は少なかつた。このような代謝能力の長期持続が精子の生存維持の裏付けとなつているものと考えられる。
  • 岩野 忠吉, 西川 春雄
    1963 年 9 巻 3 号 p. 101-103
    発行日: 1963/10/20
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    (1) 性腺刺激ホルモンの卵巣直接注射による各種卵巣疾患の治癒成績は極度の栄養失調のもの或は子宮疾患を合併していないものであれば比較的短時日に受胎せしめ得ると思われる。特に治療した中には相当数重症例があつたが,従来の皮下又は筋肉内注射のホルモン療法で数ヵ月以上治癒し得なかつたものが1乃至2回の注射で受胎したので,診療費も安く且つ受胎迄の所要日数が非常に短縮することが出来たので将来重症例に直面した場合畜主に概ねの治癒し得る時期を告げる事も出来ると考えられる。
    2) 124例中2例のみプロセリンの注射によつて副作用が発生したが此の副作作の状態は卵巣直接注射後数分以内に10秒~20秒の間後駆をやや下げて全身特に後駆に痙攣を発し又小刻みに排尿するものもあつた。しかし此の副作用の発生した乳牛は注射の場合特別に注射が難しい事もなく又特に患畜が騒擾したものではなかつた。幸い副作作も短時間で回復し,その後は何等異常を認めなかつたし,又注射後発情までの日数の問題とか,又は受胎に特別に異つた事もなく,1例は注射後20日目に発情あり1回の種付で受胎している。他の1例も注射後30日目に種付して受胎している。
    (3) 治療中に於て子宮内膜炎を発情時に発見して卵巣注射の効果を判定するに支障を来して治療中止したもの十数例に及んだが,直検により子宮の状態を詳細に診断し,若し卵巣疾患に子宮疾患等を併発してある様なものは卵巣直接注射と同時に子宮疾患の治療も行えば注射日より受胎日までの所要日数を著しく短縮出来得るものと考える。
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