正常性周期を1~2回繰返し,発情徴候を示すたびに卵胞嚢腫と診断され,試験開始日の直腸検査では直径2.5cm以上の嚢腫卵胞(FC)と直径1~2cmの正常様卵胞(GF)が共存していた卵胞嚢腫牛(FC-GF牛)10頭に対し,ホルモン剤の投与を行わず,外部的発情徴候,卵巣の変化ならびに脱脂乳中プロジェステロン濃度(P
4値)の変動を5日間隔で,約20日間にわたって調べ,発情徴候を10日間以上も持続または無発情で経過していたGFが共存しない卵胞嚢腫牛(FC牛)9頭と比較した結果,次のような成績を得た。
1.FC-GF牛10頭の外部的発情徴候は正常性周期牛と同様な変化を示し,6頭が20日目そして4頭が21~24日目に発情を回帰した。一方,FC牛では,6頭が観察期間の20日間にわたり発情徴候を持続し,他の3頭は無発情で経過した。
2.FC-GF牛の試験開始日における卵巣所見は,GFがFCと同側卵巣に共存していたものは6頭で,対側のものが4頭であった。これらのGFはすべて2日以内に破裂し,以後黄体化•退行そして新たなGFの発育という一連の過程が順調に営まれた。しかしFCは破裂することなく20日間以上存続した。一方,FC牛ではFCの破裂はなく,いずれの観察日においても数と位置には大きな変化が認められなかった。
3.FC-GF牛のP
4値は,試験開始日が0.6±0.2(Mean±SD)ng/m
lと低く,5日目2.0±1.4ng/m
l,10日目4.5±2.1ng/m
lそして15日目1.9±0.7ng/m
lと高くなったが,20日目にはふたたび0.6±0.2ng/m
lと全頭が1.0ng/m
l以下の低値を示した。一方,FC牛では0.5±0.3ng/m
l(試験開始日),0.6±0.2ng/m
l(5日目),0.6±0.3ng/m
l(10日目),0.7±0.4ng/m
l(15日目)そして0.8±0.3ng/m
l(20日目)と低値のままで経過し,周期的変動を示さなかった。
以上の結果からFC-GF牛では,FCの破裂はないが,GFは破裂•黄体化し,その後も順調に黄体退行と新たなGFの発育がみとめられ,外部的発情徴候ならびにP
4値の変動も正常発情牛と同様な傾向を示したことから,このような卵胞嚢腫牛ではホルモン剤の投与を行わなくとも,正常周期発情日に授精を行えば,受胎する可能性のあることが示唆された。
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