日本繁殖生物学会 講演要旨集
第103回日本繁殖生物学会大会
選択された号の論文の168件中1~50を表示しています
優秀発表賞(口頭発表二次審査)
卵・受精
  • 山下 泰尚, 岡本 美奈子, 菱沼 貢, 島田 昌之
    セッションID: AW-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】我々は,顆粒層細胞特異的Erk1/2KOマウスでは,hCGを投与しても卵子成熟が全く生じないことを報告した.また, ERK1/2の持続的な活性化が卵子成熟に必須とも報告されている.そこで本研究では,ブタ卵丘細胞卵子複合体(COC)を用いて,ERK1/2の活性化機構に果たす,FSH,PGE2とEGF-like factor(AREGおよびEREG)の関係について検討した.【方法】FSHにPTGS2阻害剤(NS)を添加し,ブタCOCを培養した.培養後,卵丘細胞の遺伝子発現,cAMP濃度とリン酸化ERK1/2を検出した.【結果および考察】FSHにより早期にAregEregTace/Adam17(AREGおよびEREGの切断酵素)Ep2Ep4Ptgs2の遺伝子発現,cAMP濃度の上昇とERK1/2のリン酸化が誘起された.NSは1および5時間において影響しなかったが,10時間以降で卵丘細胞のAregEregおよびTace/Adam17の遺伝子発現,cAMP濃度とERK1/2のリン酸化を抑制した.この時,ERK1/2の標的遺伝子(Has2およびTnfaip6)の発現,卵丘細胞の膨潤と卵子の減数分裂再開も抑制された.これらの抑制効果はさらなるPGE2の添加により回復した.以上の結果から,FSHはcAMP合成を介してEGF like factorを発現させ,EGF受容体を介してERK1/2系が活性化される結果,Ptgs2が発現することによりPGE2を分泌させることが明らかとなった.また,本実験より,FSH受容体は早期に分解されるが,合成・分泌されたPGE2がEP2,EP4を介してcAMP合成を促進し,EGF-like factorの発現を介した持続的なERK1/2の活性化をもたらすことも明らかになった.さらに,このPGE2とERK1/2によるポジティブフィードバック機構が卵丘細胞の膨潤と卵子成熟に必須であることが明らかになった.
  • 西村 鷹則, 藤井 渉, 加納 聖, 内藤 邦彦
    セッションID: AW-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】哺乳類の卵巣内の未成長卵は減数分裂の再開能(MR能)を持たない。我々は、ブタ未成長卵を用いた以前の研究で、Cdc2を抑制的にリン酸化するWee1Bの活性が体外でも維持されることが、M期促進因子を不活性化し減数分裂の再開を抑制する一因であることを示した。本研究では未成長卵がMR能を持たない本質的な原因がWee1Bを活性化するcAMP依存性キナーゼ(PKA)の活性制御機構にあると考え、未成長卵のcAMP濃度とPKA活性の測定、およびPKAの触媒サブユニット(C)とCに結合してその活性を抑制する制御サブユニット(R)の分子遺伝学的な解析を行った。 【方法】cAMP濃度は酵素免疫測定法により測定した。PKA活性は、Rが持つ自己リン酸化サイト(15アミノ酸残基)のGST融合タンパク質を作製し、それを基質として32P-ATPを用いて測定した。さらに、R(I及びII)とCの遺伝子をクローニングし、これらの人為的な発現制御による未成長卵のMR能への影響を解析した。 【結果】未成長卵のcAMP濃度は体外培養により成長卵と同様に低下した。PKA活性測定の結果、成長卵と異なり未成長卵では体外培養してもPKA活性は維持されていた。そこで未成長卵に対しCの発現抑制やPKI注入によりPKA活性を低下させたところ減数分裂が再開した。よって未成長卵ではPKA活性が維持されることがMR能を持たない原因と考えられる。PKA活性維持の原因がRの不足によると考え、RIまたはRIIの強制発現を行った結果、RIIの強制発現はdbcAMPで減数分裂再開を抑制した成長卵に減数分裂を誘起したが、未成長卵では予想に反しRI、RIIどちらの強制発現によっても減数分裂を再開させることはできなかった。以上より、ブタ未成長卵はPKA活性が維持され続けるためにMR能を持たないこと、その原因はCの発現量に対する単純なRの不足では説明できず、未成長卵ではより複雑なPKAの時空間的制御機構が働いていることが示唆された。
  • 平舘 裕希, 門脇 茜, 星野 由美, 佐藤 英明
    セッションID: AW-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【背景】卵巣内において卵丘細胞-卵毋細胞複合体(COC)は顆粒層細胞と接着した状態にあるが、顆粒層細胞が卵毋細胞の減数分裂再開に及ぼす影響は必ずしも明らかではない。本研究ではブタ顆粒層細胞とブタ卵毋細胞またはマウス卵毋細胞を接触培養することで顆粒層細胞による減数分裂再開抑制作用を検討した。また、顆粒層細胞と接触培養させた卵丘細胞においてマイクロアレイによる遺伝子発現量の比較を行ない、GVBD抑制作用を有する候補因子の探索と機能解析を行なった。【方法】卵巣から採取したブタ顆粒層細胞および未成熟卵毋細胞はNCSU23培地、ブタ顆粒層細胞とマウス卵毋細胞はWaymouth’s培地でそれぞれ接触培養した。GVBD 阻害効果はGVの有無を観察することで判定した。培養後、顆粒層細胞と接触培養したマウス卵丘細胞からtotal RNAを抽出し、マイクロアレイ解析に供した。【結果】ブタ顆粒層細胞と接触培養したブタおよびマウスCOCで有意にGVBDが抑制された。マイクロアレイによる解析の結果、卵丘細胞において心房性(ANP)及びC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の発現が上昇していることが明らかとなった。そこでマウスCOC、及び裸化した卵毋細胞(DO)に対してCNPを添加し培養を行なったところ、CNPはいずれにもGVBD抑制作用を示した。一方でCNP存在下でギャップ結合の阻害剤であるcarbenoxolone(CBX)を添加したところ、GVBDが観察された。【考察】CNPはブタおよびマウスの卵毋細胞に対してGVBD 抑制作用を示したことから哺乳類に共通して卵丘細胞および卵毋細胞に対応する受容体が発現している可能性がある。一方、ギャップ結合の阻害によりGVBDが観察されたことから、主に卵丘細胞でCNPにより産生されたcGMPがギャップ結合を通過していると考えられる。また顆粒層細胞には卵丘細胞に対してCNPの発現を促進する作用が存在し、CNPが他のGVBD抑制因子と協調してGVBD抑制に関与することが示唆された。
性周期・妊娠
  • 松本 悠, 白砂 孔明, 小林 明由未, 松井 基純, 清水 隆, Heinrich Bollwein, 宮本 明夫
    セッションID: AW-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】ウシにおいて妊娠認識時(Day 16)の胚が産生する妊娠認識物質IFN-τの作用は子宮内に限定されていたが近年、妊娠認識時にIFN-τ刺激の指標であるIFN -stimulated gene(ISG)15 mRNA発現の増加が子宮内膜や末梢血白血球、さらにヒツジ黄体細胞で報告された。胚のIFN-τ mRNAは妊娠Day 5から検出可能であるため、全身系での母体の妊娠認識はDay 16以前から始まる可能性がある。本研究では、1)妊娠認識時におけるウシ黄体および末梢血白血球のISG15 mRNA発現、2)妊娠認識時以前のこれら組織・細胞におけるIFN-τ濃度依存・時期依存的な効果について調べた。【材料と方法】1)妊娠認識時にあたる発情周期Day 16と妊娠 Day 16のウシから末梢血白血球および黄体を採取した(排卵日=Day 1)。2)発情周期Day 4-5・Day 7-8・Day 10-12の黄体と、末梢血単核球(リンパ球・単球)と多形核白血球(好中球・好酸球・好塩基球)を採取し、組み換えウシIFN-τ(0.1-10 ng/ml) を添加した。培養後、回収した黄体組織および免疫細胞のISG15 mRNA発現を測定した。【結果】1)妊娠Day 16の末梢血白血球および黄体でISG15 mRNAが増加したことから、ウシでは胚からの妊娠シグナルが全身系へ伝達される可能性を示した。2)発情周期を通して低濃度のIFN-τ添加により、黄体および免疫細胞におけるISG15 mRNA発現が増加し、IFN-τに対する反応性は発情周期時期依存的に増加した。以上より、IFN-τはDay 16より1週間以上前の黄体組織および免疫細胞に作用可能で、IFN-τの反応性は発情周期時期依存的に増加することから、妊娠認識時よりも早期に全身における母体の妊娠認識が起こることが示唆された。
生殖工学
  • 久米 佐知, 伊原 祥子, 吉崎 悟朗
    セッションID: AW-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    [目的]魚類受精卵へ導入した外来遺伝子は、プロモーター非依存的かつ一過的に多くの細胞で発現するため、毒素遺伝子を用いたcell targetingが利用できない。そこで、Cre/loxPを利用し、コンディショナルに毒素を発現させれば、当該細胞除去個体の大量生産が可能になる。遺伝子knock out個体の作製が困難な動物種では、本法を駆使した細胞除去が繁殖生理学研究の強力なツールとなると期待される。しかし、Cre/loxPの利用は細胞温度が比較的高い種に限られ、冷水魚への使用例はない。そこで本研究では、Cre/loxPがニジマス胚で機能しうるか解析した。[方法]全身で発現するHSC71遺伝子のプロモーターの下流にDsRed遺伝子をloxP配列で挟んだ状態で接続し、その下流にEGFP遺伝子を接続したベクターを構築した。得られたベクターをニジマス受精卵に顕微注入後、10℃で1年間飼育し、得られた精子を野生型の卵と受精させF1個体を作出した。得られた受精卵にCre mRNAを注入し、初期胚のDsRedとGFPの蛍光観察を行った。また、受精後40日の個体からゲノムDNAを抽出し、2つのloxP配列の外側に設計したプライマーを用いてPCRを行い、Cre酵素によるDsRed遺伝子の切り出しを確認するとともに、切り出し部位の塩基配列を解析した。[結果]遺伝子導入F1胚では全身でDsRedが発現していたのに対し、F1受精卵にCre mRNAを注入した胚では、全身または体の一部がGFP蛍光を発していた。また、これらの個体からのゲノムDNAを抽出しPCR解析と塩基配列解析を行った結果、全身でGFP蛍光が観察された個体ではDsRed遺伝子が除去されたDNA断片のみが、体の一部でGFP蛍光が観察された個体ではDsRed遺伝子が除去されたDNA断片と除去されていないDNA断片の両者が検出された。[考察]上記の結果から、本来37℃で機能するCre酵素が、飼育水温10℃のニジマスにおいても正常に機能しうると考えられた。
  • 的場 章悟, 小倉 淳郎
    セッションID: AW-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    哺乳動物では、生殖細胞は胚発生の初期に始原生殖細胞(PGC)として出現した後、周囲の生殖腺体細胞の影響を受けながら、性分化、減数分裂、エピジェネティックなゲノム修飾など、複雑な分化成熟を経て配偶子を形成する。この複雑な過程を人為的に再現すべく多くの検討がなされてきたが、PGCから機能的な配偶子を得るin vitro培養系は雌雄ともに存在していない。一方でin vivo 移植系は、雄においてマウス新生仔の精細管内環境を利用することでPGCから機能的な精子の作出に成功しているものの、初期PGCを用いた場合にはゲノム刷込みの異常が報告されている。また、雌に至ってはin vivo移植系そのものが存在しない。今回我々はマウスをモデルとし、胎仔生殖腺の体細胞を利用したin vivo移植系を検討した。胎齢12.5日のBDF1胚から性分化直後の雌雄PGCを単離し、同時期かつ同性の生殖腺体細胞と再凝集塊を形成させ、腎臓被膜下へ移植した。その結果、移植4週後にはそれぞれ精巣と卵巣様の構造が形成され、精巣様構造内では円形精子細胞まで、卵巣様構造内では発育(fully grown)卵核胞(GV)期卵が認められた。雄では移植後8週目でも精子発生が継続していた一方で、雌では4週目をピークとする一過性の卵成熟を示した。これらの卵・精細胞の機能的な正常性を検討すべく顕微授精を行った。移植片由来の円形精子細胞を用いたROSIにより、5.9%(8産仔/135胚移植)の確率で産仔が得られた。GV期卵はin vitro maturationによりMII期卵へと成熟し(84.3%)、ICSIによって卵割を開始した(69.0%)。胚移植の結果、25.0%が着床し、5.8%(6産仔/104胚移植)の確率で産仔を獲得した。以上のように、PGCから機能的に正常な雌雄配偶子を作出する簡便な実験系を樹立した。今後は、この実験系を応用することで、ES細胞からの誘導PGCや、異種由来PGCからも安定して産仔を得ることが可能になると期待される。
一般口頭発表
生殖工学
  • 申 承旭, 野老 美紀子, 李 香欣, 西川 慧, 畑中 勇気, 西原 卓志, 武本 淳史, 岸上 哲史, 佐伯 和弘, 細井 美彦, 入谷 ...
    セッションID: OR1-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    初期胚における遺伝子制御支配が母性から胚性に移行する時期(Maternal-to-zygotic transition, MZT)では、母性タンパク質や酸化ストレスなどによる異常タンパク質の分解は正常な胚発生のために重要である。近年、母性タンパク質の分解にはユビキチンープロテアソーム系が関与することが報告されている(Stitzel M.L. and Seydoux G., 2007)。しかし、その詳細なメカニズムは不明である。我々は、20Sプロテアソームの形成に関与しているPOMP(proteasome maturation protein)と相互作用する遺伝子DD2-2を同定し機能解析を行っている。DD2-2とPOMPはマウスMZT時期に特異的に発現しており、これらの遺伝子をノックダウンすることにより胚発生が1細胞期で停止することと、停止した胚においてはユビキチン化タンパク質が分解されなかったことが明らかになっている。これらのことから、DD2-2はプロテアソームの形成に関与する可能性が示唆された。本実験では、DD2-2とPOMPをノックダウンした胚から、細胞周期制御タンパク質や母性タンパク質を解析することにより、DD2-2がプロテアソームの形成にどのような影響を及ぼすかを検討した。方法として、DD2-2とPOMPをノックダウンした胚と、プロテアソーム阻害剤(MG132)処理を行った胚を回収し、細胞周期制御タンパク質や母性タンパク質、ユビキチン抗体を用いて、ウェスタンブロッティングと免疫沈降を行った。その結果、DD2-2とPOMPをノックダウンした胚においては、MG132処理した胚と同様に細胞周期制御タンパク質や母性タンパク質が分解されなかった。分解されなかったそれらのタンパク質はユビキチン化されていることが確認された。これらのことは、DD2-2やPOMPをノックダウンすることによりプロテアソームが形成されなかったため、ユビキチン化されたタンパク質は分解されなくなったと考えられる。以上のことから、プロテアソームは胚発生のために重要であり、DD2-2遺伝子はプロテアソームの形成に関与する可能性が示唆された。
  • 櫻井 隆順, 小林 久人, 秦 健一郎, 河野 友宏
    セッションID: OR1-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    <目的>哺乳類には2本ある対立遺伝子(アレル)のうち親の性依存的に片方のみが発現する“インプリント遺伝子”が存在し、このような遺伝子の多くはアレル間でDNAのメチル化状態が異なる領域(DMR)によって発現が制御されている。当研究室では、マウス単為発生胚のマイクロアレイ解析によって、初めてマウス1番染色体(ヒト2番染色体)にインプリント遺伝子 Zdbf2 と、その約5 kb上流にある父方メチル化DMR( Zdbf2 -DMR)を同定した[小林ら Genomics 2009]。本研究では、 Zdbf2とDMRの関連性の検証と共に、この領域における発現制御機構の解明を目的とした。
    <方法>実験にはC57BL/6(以下 B6)、JF1系統の野生型マウス、 Dnmt3Lノックアウトマウス(B6系統)を供試した。母方インプリントが欠如した胚(Dnmt3Lmat-/-胚)、野生型胚、胎齢9.5日を用いて Zdbf2 の定量的RT-PCR、発現アレル解析を行った。また、Dnmt3Lmat-/-胚における Zdbf2 -DMRのメチル化状態をバイサルファイトシークエンスで解析した。さらにBJF1(B6雌×JF1雄)胚盤胞を用いて Zdbf2-DMR以外のCpGリッチな領域のメチル化解析を行った。各アレルの由来はB6、JF1間の多型によって判別した。
    <結果および考察>発現解析より、Dnmt3Lmat-/-胚では Zdbf2 の両アレル発現が示された。この結果は、 Zdbf2 が母方インプリントの制御下にあることを意味している。一方、メチル化解析からDnmt3Lmat-/-胚では Zdbf2-DMRが両アレルとも高メチル化されており遺伝子発現と相関が見られた。また、BJF1胚盤胞を用いたDMR候補領域のメチル化解析から Zdbf2の約68 kb上流に母方メチル化DMRが見つかった。このDMRが Zdbf2のインプリント制御領域となっている可能性がある。これらの結果は1番染色体におけるインプリント遺伝子の発現制御機構の解明につながると考えられる。
  • 原 聡史, 高野 喬, 尾畑 やよい, 河野 友宏
    セッションID: OR1-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    <目的>DNAメチル基転移酵素であるDNMT3Aおよびその補因子DNMT3Lは、生殖細胞におけるインプリント遺伝子のメチル化に不可欠なことが知られている。しかし、DNAメチル化インプリントの分子機構については不明な点が多く、DNMTsの発現が生殖細胞におけるメチル化インプリント確立の十分条件であるかは明らかにされていない。本研究では、生殖細胞特異的にDNMTsを過剰発現するトランスジェニック(TG)マウスを作出し、メチル化インプリントが確立されていない非成長期(ng)卵母細胞におけるDNAのメチル化状態を評価することで卵子におけるDNMTsの役割を明らかにすることを目指した。
    <方法>CAGプロモーター下流にloxP-EGFP-polyA-loxP-mCheery-2A-Dnmt3a-polyAとなるようベクターを構築した。このベクターが導入されたTGマウスではEGFPが発現し、Creリコンビナーゼ存在下でのみDNMT3Aが発現するよう設計した。また、2A配列を挿入することで、DNMT3Aの発現をmCherryにより追跡できるよう設計した。作製したTGマウスとCreリコンビナーゼを生殖細胞特異的に発現するTNAP-Creマウスを交配し、コンディショナルTGマウス(conTG)を得た。conTGマウス由来ng卵子におけるmRNAの発現はリアルタイムPCRにより、タンパクの発現はウェスタンブロットにより、DNAのメチル化はsodium bisulfite法により解析した。
    <結果>conTGマウスより採取したmCherry陽性ng卵子においては、野生型と比較して6倍のDnmt3a mRNAおよび3倍のDNMT3Aタンパクが検出され、インプリントが確立する時期の野生型雄性生殖細胞と同程度発現していることが明らかとなった。しかしこのng卵子では野生型と同様に、Igf2r、Lit1、SnrpnおよびH19遺伝子が非メチル化状態であることから、DNMT3A単独での発現はメチル化インプリント確立の十分条件でないことが明らかとなった。今後はDNMT3AとDNMT3Lを共発現させるconTGの実験系を構築し、生殖細胞におけるメチル化インプリントの成立機構の解明を進めていきたい。
  • 池田 俊太郎, 杉本 実紀, 久米 新一
    セッションID: OR1-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    [目的]Methionine adenosyltransferase(MAT)は,メチオニンを,DNAやヒストンのメチル化反応に必要なメチル基供与体(S-アデノシルメチオニン)に変換する酵素であり,食餌由来の栄養因子とエピジェネティクスを仲介する酵素の一つである。今年になって,ウシの卵母細胞および着床前胚において,Matを含むメチオニン代謝経路の酵素群の遺伝子が発現していることが相次いで報告された(Ikeda et al., 2010,Kwong et al., 2010)。Matの内,肝臓特異的とされてきたMat1aが卵母細胞においても発現しており,その発現は胚盤胞期までには消失する。肝臓におけるMat1aの転写は,5'側非翻訳領域のメチル化・脱メチル化によるエピジェネティクス制御を受けていることから,卵母細胞や着床前胚においても同領域のメチル化が動的に変化していることが考えられる。本研究では,マウスとウシの卵母細胞および胚盤胞におけるMat1aの5'側非翻訳領域のメチル化を解析した。[方法] ICR系雌マウスよりMII期卵母細胞および胚盤胞を,食肉市場由来ウシ卵巣からの採卵および体外受精によりGV期卵母細胞および胚盤胞を得た。それぞれの卵母細胞および胚盤胞からDNAを抽出し,バイサルファイトシークエンス法を用いてMat1aのCpGのメチル化を解析した。マウスにおいては既報の転写調節領域における6つのCpGを,ウシにおいてはヒトの転写調節領域と相同性の高い領域における8つのCpGについて検討した。[結果]マウスの卵母細胞において検討した6つのCpGは全くメチル化されておらず,胚盤胞ではこの内一つのCpGにおいてその50%がメチル化されていた。一方,ウシの卵母細胞においては検討した8つのCpGは全てメチル化されており,胚盤胞においてはそれぞれのCpGの30~60%がメチル化されていた。これらの結果から,マウスおよびウシの着床前発生において,Mat1a遺伝子のメチル化が動的に変化していることが示唆された。
  • 金田 正弘, 渡辺 伸也, 赤木 悟史, ソムファイ タマス, 原口 清輝, 下司 雅也, 平子 誠, 永井 卓
    セッションID: OR1-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】体細胞クローン動物は,ドナー細胞と同一のゲノムを持つが,DNAのメチル化などのエピジェネティックな情報が正しくリセット(リプログラミング)されないために,遺伝子発現に乱れが生じ,胎子の発生異常や胎盤の過形成,出生異常や生後直死の頻発に繋がると考えられている。また,一卵性双生児においても,ゲノムは同一であるがエピゲノム(ゲノム全体のエピジェネティックなパターン)は異なることが報告されている。エピゲノムは加齢,環境や栄養などの影響を受けやすいことから,同一ゲノムを持つ複数個体のエピジェネティックな状態を解析することで,エピゲノムがどの程度環境から影響を受けるのかを検証することができる。そこで,同一ドナー細胞由来のクローン牛の各個体・各臓器のDNAメチル化レベルを比較し,クローン牛および非クローン牛間でのエピジェネティックな状態の相違について解析した。
    【方法】体細胞クローン牛5頭および非クローン牛5頭から,肺・心臓・肝臓・脾臓・腎臓・小腸・骨格筋・脊髄それぞれのDNAを回収し,バイサルファイトシーケンス法によりインプリント遺伝子であるH19およびPEG3のメチル化レベルを解析した。これまでの研究から,H19は精子でのみ,PEG3は卵子でのみメチル化されるインプリント遺伝子であることが明らかになっている。
    【結果】解析したいずれの領域についても,個体間・臓器間でメチル化の程度に大きな差があった。H19は0.5~69.8%の範囲(平均28.3±13.9 %),PEG3は8~98.7%の範囲(平均 45.8±17.4 %)であり,バラツキの程度にやや臓器間の差はあるものの,クローン牛・非クローン牛間で顕著な違いは見られなかった。これらの結果は,ドナー細胞そのもののエピジェネティックな状態というよりも,発生過程・成長過程における環境要因がエピゲノムに影響を及ぼした結果であり,ゲノムがその変化に及ぼす影響は大きくないと考えられる。
  • 松原 圭吾, Lee Ah Reum, 鎌田 悠, 孫谷 匡輝, 三谷 匡, 加藤 博己, 安齋 正幸, 佐伯 和弘, 松本 和也, 入谷 ...
    セッションID: OR1-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の一つであるトリコスタチンA(TSA)処理は卵子においてタンパク質の高アセチル化を誘導する。これまでTSA処理によりクローン胚の大幅に発生率が改善されることが示されている。一方、受精胚においてはTSA処理により発生率が低下することが知られている。このことからHDACは初期胚の発生やリプログラミングに大きく関与していると考えられる。しかし、HDACはヒストンに加えてp53やチューブリンなどの非ヒストンタンパク質の脱アセチル化にも関与する。このような非ヒストンタンパク質のアセチル化の動態を明らかにすることは初期発生やリプログラミング機構を解明する上で重要であると考えられる。
    本実験では未受精卵と活性化後10時間の体外受精胚、単為発生胚の前核期胚に対して抗アセチル化リジン抗体を用いた免疫組織化学染色により解析を行った。その結果、前核では体外受精胚、単為発生胚共に高いアセチル化が認められた。一方、細胞質では体外受精胚、単為発生胚共にタンパク質のアセチル化が減少することが明らかとなった(n>10)。また、TSA処理を行うことで、細胞質のアセチル化が2倍以上に亢進された。興味深いことに、体外受精胚の雌雄前核間でアセチル化量を比較すると、雄性前核においてアセチル化量が有意に高く、TSA処理を行ってもこの雌雄前核間のアセチル化状態の差は解消されなかった。
    以上のことから活性化によりヒストン、非ヒストンタンパク質を含めた胚のアセチル化状態が大きく変化していることが示された。また、TSA処理によって細胞質もアセチル化が亢進されていることから、非ヒストンタンパク質のアセチル化も大きく変化している可能性が示唆された。さらに、雄性前核と雌性前核のアセチル化量の差がTSA処理によっても解消されなかったことから、この雌雄前核のアセチル化状態の違いはHDACの活性の違いによるものではないと考えられる。
  • 渡邊 將人, 梅山 一大, 松成 ひとみ, 高柳 就子, 春山 エリカ, 中野 和明, 藤原 主, 池澤 有加, 中内 啓光, 長嶋 比呂志
    セッションID: OR1-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】最近, ZFNが高効率なKOラット作出に有効なことが示された (Science, 2009)。我々は, ブタ初代培養細胞内でもZFNにより, ターゲット配列の切断・変異による遺伝子KOが起こり得るか否かを検証することを目的とした。【方法】EGFP遺伝子が導入されたブタ胎仔線維芽細胞(106個)に, EGFP配列をターゲットとするZFN発現mRNA (2µg)をエレクトロポレーションにより導入した。ZFNによるターゲット配列の切断・変異はCEL-1 nuclease assayにより検出した。EGFPの発現強度の変化およびKO細胞の出現頻度をFlow cytometryにより解析した。また, ターゲット領域の切断・変異が確認されたZFN処理細胞集団から, EGFP発現陰性(-)細胞をクローニングし, 遺伝子変異をDNA解析により決定した。【結果】合計3回のZFN導入実験を行った結果, 全例においてCEL-1 nuclease assayによりターゲット配列の切断・変異が確認された。Flow cytometryによる解析では, EGFP蛍光発現の消失もしくは減衰が確認された。クローニングしたEGFP(-)細胞のDNA解析から, ZFNターゲット領域に, 予想されるdeletion, insertionなどの変異が生じていることが明らかになった。【考察】以上の結果から, ブタ初代培養細胞内においてZFNが機能し, 外来遺伝子であるEGFP配列を認識・切断すること, また, 生じた変異によるEGFP遺伝子機能の破壊すなわち遺伝子KOが起こり得ることが示された。ZFN技術は今後KOブタ作出に非常に有効な技術として利用できるものと思われる。本研究はJST/ERATO中内幹細胞制御プロジェクトの助成を受けた。
  • 梅山 一大, 渡邊 將人, 松成 ひとみ, 中野 和明, 藤原 主, 日高 龍路, 竹内 靖浩, 望月 寛徳, 関口 渓人, 長嶋 比呂志
    セッションID: OR1-8
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】我々は本学会第102回大会において、若年発症成人型糖尿病の原因遺伝子である変異型ヒト肝細胞核因子1α (HNF-1α)遺伝子を導入したトランスジェニッククローン(Tg-C)ブタが糖尿病の症状を発症することを報じた。本研究では、得られた Tg-Cブタ(Founder)の後代産仔を作出し、そのブタの病態(表現型)の後代への伝達を解析することを目的とした。【方法】体細胞核移植法によって作出された糖尿病発症Tg-Cブタを、インスリン治療を施しながら性成熟期まで飼育した。8ヶ月齢及び12ヶ月齢に糖尿病発症Tg-Cブタから精巣上体を摘出し、Niwa and Sasaki Freezing法により精子を凍結保存した。融解した精子をPMSG及びhCG投与により排卵誘起した未経産ブタ(hCG投与後44.5-47.5時間)の卵管へ注入した。誕生した後代については、血漿生化学値の測定、経口糖負荷試験、インスリンに対する反応試験などを行い、対照の健常個体およびTg-Cブタと比較した。【結果】精子を注入した4頭の母豚のうち1頭が妊娠し、この母豚から8頭の仔ブタ(内2匹死産)が誕生した。PCR解析の結果、生存産仔6頭の内4頭がTg個体である事が判明した。Tgブタの誕生時体重は平均863gであり、Tg-Cブタ(平均603g)よりも有意に大きかった。Tgブタは生後9日以降200mg/dl以上(210-600mg/dl)の随時血糖値を示した。血中1,5-anhydroglucitol濃度が対照個体に比べて低いことから、この高血糖状態は恒常的であったと診断された。インスリンの皮下投与により、血糖値の降下を確認した。これらの表現型はFounderと同じである。さらに、経口糖負荷試験では、糖尿病患者で確認される症状と一致し、血糖値の回復が健常個体より顕著に遅延した。【結論】糖尿病を発症するTg-Cブタの特徴(表現型)は有性生殖で得られた後代産仔でも忠実に再現される事が明らかとなった。本研究は「JST, ERATO, 中内幹細胞制御Project, 東京」および「JST, シーズ発掘試験」の助成を受けた。
  • 松成 ひとみ, 小林 俊寛, 渡邊 將人, 梅山 一大, 高柳 就子, 中野 和明, 藤原 主, 池澤 有加, 本田 香澄, 前原 美樹, ...
    セッションID: OR1-9
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】多能性幹細胞から臓器・組織を構築することは,再生医療の究極的目的の一つである。我々は臓器を欠損するブタを作り,その“空き”スペースをnicheとして利用することを目指している(小林ら,2010)。そこで本研究では,膵臓形成不全トランスジェニック(Tg)ブタの作出を目的とした。
    【方法】マウスPancreatic duodenal homeobox gene 1 (Pdx1)プロモーターの下流にHairy and enhancer of split 1 (Hes1)遺伝子を連結したコンストラクト(mPdx1-Hes1; 8.8kb)を,ICSI-mediated gene transfer法を用いてブタ体外成熟卵に導入し,その後発情同期化した借り腹雌に移植した。妊娠ブタを剖検し,Tg胎仔(38-86日齢)を同定・回収し,膵臓形成を確認すると同時に,初代培養細胞を樹立した。膵臓形成不全が認められた胎仔の細胞を用いて体細胞核移植を行い,得られたクローン個体の表現型を調べた。
    【結果】862個の顕微授精胚を9頭の借り腹雌に移植(53-132個/頭)したところ,6頭の妊娠雌から12頭の胎仔が得られ,その内5頭がTg個体であった。2頭(雌雄)に顕著な膵臓形成不全(通常の5-10%)が認められ,雌胎仔は単一の腎臓並びに鎖肛という表現型を示した。これらの2胎仔からの体細胞核移植により,雌細胞からは1頭(58日齢),雄細胞からは9頭(59あるいは110日齢)のクローン胎仔を得た。雌細胞由来クローンには膵臓形成不全が再現され,腎臓や肛門の異常は認められなかった。59日齢の雄由来クローン5頭では,全例に膵臓形成不全が認められたが,110日齢胎仔の観察では,4頭中の1頭に正常個体の50%程度の膵臓形成が見られた。出生個体(1頭)は分娩後約24時間で死亡し,剖検により顕著な膵臓形成不全が確認された。以上より,mPdx1-Hes1の過剰発現により,ブタ胎仔期の膵臓形成不全が誘起され,その表現型は体細胞クローン個体に継承されることが明らかとなった。
     本研究はJST,ERATO,中内幹細胞制御プロジェクトの助成を受けた。
  • 藤井 貴志, 平山 博樹, 森安 悟, 橋爪 力, 澤井 健
    セッションID: OR1-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】哺乳動物の体細胞クローン(NTSC)に頻発する様々な異常は,ドナー細胞核の初期化不全による胚の遺伝子発現異常に起因することが考えられる。最近我々は,ウシ初期胚における内部細胞塊(ICM)および栄養膜細胞(TE)への組織分化制御に,OCT-4,CDX-2,TEAD-4,GATA-3,NANOG,FGF-4遺伝子が関与することを示唆した。そこで本研究では,ウシNTSC胚の胚盤胞(BC)期および伸長(EL)期における上記組織分化制御遺伝子の発現動態を検討することにより,ウシNTSC胚の組織分化制御機能を評価した。【方法】ウシ線維芽細胞をドナー細胞に用いてNTSCを行い,NTSC後8日目にBC期胚を得た。また一部のBC期胚をレシピエント牛に移植し,NTSC後16日目にEL期胚を得た。また対照区には体内受精-体内発生(Vivo)由来のBCおよびEL期胚を用いた。得られたBC期胚はICMおよびTEに,EL期胚はED(胚盤)およびTEに,それぞれ分離し,RT-リアルタイムPCR法を用いてOCT-4,CDX-2,TEAD-4,GATA-3,NANOG,FGF-4各遺伝子のmRNA発現量解析を行った。【結果および考察】BC期のVivo胚におけるOCT-4,NANOG,FGF-4遺伝子の発現量は,TEと比較してICMで有意(P<0.01-0.05)に高い値を示した。一方,NTSC胚におけるOCT-4,NANOG,FGF-4遺伝子発現量はICMおよびTEともに低く,各組織間に有意な差は認められなかった。また,BC期におけるCDX-2発現量は,Vivo胚ではICMと比較してTEにおいて有意(P<0.01)に高い値を示した。一方,NTSC胚ではTEにおけるCDX-2発現量がICMと比較して高い傾向を示したものの,各組織間に有意な差は認められなかった。TEAD-4,GATA-3発現量はBC期胚の由来に関わらず各組織間に有意な差は認められなかったが,両遺伝子ともにVivo胚と比較しNTSC胚において低い値を示した。EL期では,全ての遺伝子発現量においてVivo胚とNTSC胚間に有意な差は認められなかった。以上の結果より,ウシNTSC胚においては初期胚の組織分化制御遺伝子の発現に異常がみとめられ,これら遺伝子の発現異常が,NTSC胚の発生異常を引き起こしている可能性が示唆された。
  • 成瀬 健司, 伊賀 浩輔, 竹之内 直樹, 志水 学, 平尾 雄二
    セッションID: OR1-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】cAMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼIIIを阻害するミルリノンは,ウシ卵母細胞の細胞質の成熟を促進し,体外受精胚の発生率および細胞数を増加させることが報告されている。本研究では,成熟培地へのミルリノン添加がウシ体細胞核移植胚の作成効率に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】直径2~6 mmの卵胞から卵丘・卵母細胞複合体を採取し,培養18時間後までcdc2 kinase阻害剤butyrolactone-1(BL-1, 100µM)を含む培地で成熟を抑制した後,ミルリノン(100µM)の添加区および無添加区に分けて,BL-1を含まない培地で成熟を誘起した。20時間後,極体を放出した卵子をレシピエントとして用いた。ドナー細胞には培養した卵丘細胞を用い,電気刺激と,シクロヘキシミドおよびサイトカラシンB処理を併用して活性化を誘起した。作出した核移植胚をIVD101(機能性ペプチド研究所)で培養し,活性化後72時間および192時間で,それぞれ分割率および胚盤胞への発生率を調べた。【結果】ミルリノン添加区における除核率(81%)は,無添加区(65%)と比較して有意に高かった(P=0.036)。融合後の分割率および胚盤胞形成率においては両区間に有意な差はなかった。使用した複合体数に対する胚盤胞形成率は,ミルリノン区(18%)が無添加区(5%)よりも高い傾向にあった(P=0.062)。以上の結果,成熟培地へのミルリノン添加は,成熟培養後のウシ卵母細胞の除核率を高めることが示された。また,胚盤胞の作成効率が改善される可能性が示唆された。
  • 堀居 拓郎, 柳澤 永吉, 木村 美香, 森田 純代, 畑田 出穂
    セッションID: OR1-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    ES細胞を利用した再生医療は,今日では欠くことのできない手法である。ヒトES細胞は,全てが体外受精と体外培養を経て作製された胚から樹立される。しかし,体外操作された胚はしばしばゲノムの刷り込み異常を示し,時にはAngelman症候群やBeckwith-Wiedemann症候群などのエピゲノム疾患を生じる可能性が指摘されている。それにも関わらず,体外受精や体外培養を行うことによって樹立されたES細胞にどのようなエピゲノム変異が生じているのか詳しい報告がない。そこで本研究では,マウスにおいて体外受精および体外培養を経た胚から樹立したES細胞(Vitro ES)と体内から取り出した胚から直接樹立したES細胞(Vivo ES)を用いて,樹立直後(継代数2)とある程度継代数を経た場合(継代数5)の刷り込み遺伝子のDNAのメチル化状態および遺伝子発現を調べることにした。まずES細胞樹立直後において,刷り込み遺伝子H19, Snrpn, Igf2rのメチル化領域のメチル化状態を調べたところ,Vitro ESでより高いメチル化異常が見られる傾向があった。また,この時期のVitro ESとVivo ESの遺伝子発現量を比較したところ,ES細胞マーカー,DNAメチル基転移酵素などで発現量の違いが見られた。しかし,ある程度継代数を経た場合では,Vitro ESとVivo ES両者に決定的なメチル化状態や遺伝子発現の違いは見られず,いずれにおいてもメチル化異常が高頻度で確認された。また,分化誘導実験においても両者に分化能の差は見られなかった。本研究より,ES細胞を再生医療などの目的に使用する場合,樹立直後のVivo ESを使用することが最も望ましいことが明らかとなった。しかし,ヒトES細胞のようにVivo ESを得ることが困難な場合は,メチル化異常を起こしていないVitro ESを選別して使用することが望ましいと考えられる。
  • 木藤 学志, 荒牧 伸弥, 丹生 聡, 宗 知紀, 山内 伸彦, 服部 眞彰
    セッションID: OR1-13
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】ニワトリはその独特な発生学的特徴からノックアウトやノックインといった遺伝子改変動物の作出は困難とされてきたが,近年の研究から生殖系列幹細胞である始原生殖細胞(PGC)での遺伝子操作を行うことによる遺伝子改変動物作出の可能性が示唆されている。効率的な遺伝子操作を行うためにPGCの増殖や分化機構の解明が益々重要性を増してきている。我々は、シングルセルサブトラクション法により,PGCにおいて神経細胞の分泌性増殖因子cNENFをコードする遺伝子が発現していることを明らかにした。神経細胞ではNENFがオートクリン因子として細胞増殖を促すことから,ニワトリの胚発生初期においてはPGCの増殖因子である可能性が示唆される。これまでPGCではオートクリン作用をもつ増殖因子は見つかっていない。本研究では、cNENFの発現と機能を解析するためにcNENFの特異的抗体を作製し,PGC増殖に対する中和活性を調べることによりcNENFがオートクリン性増殖因子として作用する可能性を検討した。【方法】大腸菌で作製したリコンビナントcNENFをウサギに免疫することで抗cNENF抗体を作製した。アフィニティー精製したその抗体を用いてPGCの蛍光免疫組織化学を行った。抗体の中和活性については、ニワトリ初期胚(Stage X)の胚盤葉を採取して,15_%_KSRとLIFを含む培地により形成されるコロニーに含まれるPGCに対して評価した。増殖したPGCは抗CVH抗体を用いた蛍光免疫組織化学により陽性細胞をカウントした。【結果】血中PGCをサンプルとした抗cNENF抗体および抗CVH抗体による二重蛍光免疫組織化学の結果,いずれの抗体もPGCに陽性反応を示した。コロニー形成の培養系で抗cNENF抗体を添加すると,コロニー中に含まれるPGC数が減少したことから,抗cNENF抗体は中和抗体であることが認められた。これらの結果から,PGCで発現するcNENFはオートクリン性のPGC増殖因子の可能性が考えられた。
  • 阿部 朋行, 増田 茂夫, 田中 裕次郎, 高橋 宏典, 林 聡, 花園 豊, 長尾 慶和
    セッションID: OR1-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】我々はこれまでに、ヒト造血幹細胞(以下、HSC)を妊娠1/3期(満期147日)のヒツジ胎子に移植することで、骨髄中に1-8%の割合でヒト造血細胞をもつ(以下、骨髄キメラ率)ヒツジの作出に成功した。しかしながら、末梢血中にヒト血液細胞はほとんど出現しなかった(0.01%以下)。そこで今回は、骨髄キメラ率の向上を目的に、ヒト臨床において造血抑制剤として用いられているbusulfan(以下、BU)に着目し、移植前のヒツジ胎子へのBU投与により骨髄キメラ率を向上しうるか否か検討した。 【方法】実験1:妊娠48-52日齢のヒツジ胎子に対し、母体重量換算で3および7.5 mg/kgのBUを母体静脈内から投与した(無処置群, n=5; 3 mg群, n=6; 7.5 mg群, n=5)。投与9-14日後に、胎子肝臓における造血能をコロニーアッセイ法で評価した。実験2:妊娠42日齢のヒツジ胎子に対して母体重量換算で3 mg/kgのBUを母体静脈内投与し、ヒト臍帯血CD34陽性細胞を投与から2および6日後に胎子肝臓内に注入した(対照群, n=3; 2日間隔群, n=4; 6日間隔群, n=4)。産子の骨髄キメラ率は、PCR法により評価した。 【結果】実験1:ヒツジ胎子肝臓由来の造血細胞コロニー数は、無処置群に比べて3および7.5 mg群で有意に低下し(p<0.01)、7.5 mg群では造血コロニーが得られなかった。実験2:対照群では全例で0%、2日間隔群では1例のみで2%(平均0.6%)ならびに6日間隔群では全例で1-3%(平均1.9%)の骨髄キメラ率が得られた。対照群に比べ、6日間隔群では有意に高い骨髄キメラ率が得られた(p<0.01)。 【まとめ】母体重量換算で3 mg/kgのBUを母体経由で投与することで、妊娠維持に影響なく、胎子造血能を一時的に抑制できることが示された。また、HSCが胎子体内に残存するBUに暴露されるのを避けるために、BU前処置から間隔をあけて移植を行なうことで、効果的に産子の骨髄キメラ率を向上しうることが示された。
  • 喜多 章太, 堤 晶, 大丸 泰知, 竹尾 透, 中潟 直己
    セッションID: OR1-15
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】ES細胞株を樹立する際に汎用されている129系統マウスは, 体外受精における受精率が, 不安定かつ極めて低い値を示すことが知られている。そこで我々は, 129系統マウスにおいて, 安定して高い受精率が得られる体外受精法の確立を目指して, methyl- β-cyclodextrin (MBCD) を添加した精子前培養培地の応用を試みた。さらに, 129系統マウスの凍結精子を用いた体外受精におけるcTYH の有効性も検討した。 【方法】129T2/SvEmsJおよび129X1/SvJの2系統のマウスを使用して, 各系統で新鮮精子および凍結/融解精子を用いた体外受精を行った。精子の凍結保存は, グルタミン含有18% raffinose pentahydrate/3% skim milk溶液を使用した。新鮮精子あるいは凍結/融解精子は, 2種類の精子前培養培地 (human tubal fluid: HTF (control), modified Krebs-Ringer bicarbonate solution containing MBCD: cTYH) を使用し, それぞれの受精率を比較した。体外受精は, HTF中に未受精卵を回収し, 前培養した精子を添加して共培養した。体外受精の翌日, 胚を観察して受精率を算出した。 【結果】新鮮精子を用いた体外受精において, cTYH は HTF に比べて, 顕著に受精率を改善した (129T2/SvEmsJ; HTF: 20.3% vs. cTYH: 60.1%, 129X1/SvJ; HTF: 47.2% vs. cTYH: 85.1%)。さらに, 凍結/融解精子においても, 同様の傾向が認められた (129T2/SvEmsJ; HTF: 23.8% vs. cTYH: 43.5%, 129X1/SvJ; HTF: 45.8% vs. cTYH: 64.7%)。以上, 本研究により, 体外受精の精子前培養培地に cTYH を用いることで, 129系統マウスの新鮮精子あるいは凍結/融解精子から, 効率的に受精卵の作出が可能であることが示唆された。
  • 平田 統一, 新免 明恵, 池田 明子, 佐藤 麻衣
    セッションID: OR1-16
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】生体内卵子吸引-牛胚体外生産系において,個体別に少数胚を体外で成熟,受精,発生培養することが求められている。卵子1個あたりの至適培養液量や集合培養の胚発生促進効果について論議があり,どのような培養系で個別少数胚培養を行うか試行が続いている。本研究では,ART Culture Dish 12(ニプロ)用いて,well当たりの培養卵子数や各wellを被うように培養液を入れ,半個別培養した場合の胚発生率を検討し,実用的個別培養法を確立することを目的とした。【方法】実験には食肉処理場由来の卵子を用いた。成熟培養液は10%牛胎児血清,LH,FSH,エストラジオール,シスタミン加m-199,体外受精液はIVF-100(機能性ペプチド研究所),前期発生培養液(媒精後約90時間まで)はLuのCDM-1,後期発生培養液はIVC-101(機能性ペプチド研究所)を用いた。対照区は,成熟培養および前期発生培養50個/1ml・4穴ディッシュ(ヌンク),後期発生培養25個/200ul・6穴ディッシュ(機能性ペプチド研究所)で培養した。ART Culture Dish 12の各wellに80ulの培養液を加え卵子を10個導入したものを10/80ul区,2mlの培養液で12well全体を覆い,個々のwellに卵子を10個導入したものを10*12/2ml区,well当たり卵子数を5個とした5/80ul区,5*12/2ml区を設定し成熟,発生培養を行った。媒精は50ulのドロップ中で実施した。媒精後48時間前後の分割率,6~9日後の胚盤胞への発生率を観察した。【結果】対照区,10/80ul区,10*12/2ml区,5/80ul区,5*12/2ml区の分割率は,それぞれ58.6(544/928), 66.8(282/422), 65.6(307/468), 68.3(239/350), 61.0(211/346)_%_で試験区の方が高い傾向であった。胚盤胞への発生率は, それぞれ25.1, 29.6, 33.0, 27.4, 26.6_%_で概ね変りなかった。ART Culture Dish 12を用いて成績に悪影響なく成熟から発生培養まで一貫して個別に培養・管理でき,実用的な培養方法であった。また,ART Culture Dish 12の各wellを覆い半個別培養にした場合と完全個別培養した場合で発生成績に変りなく,集合培養の胚発生促進作用を確認できなかった。
  • 金 時宇, 柏崎 直巳, 舟橋 弘晃
    セッションID: OR1-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】苦痛やストレスが極めて少ない非外科的受精卵移植によってラットで産仔が得られるか否かについて検討した。また、子宮収縮作用および子宮内多核白血球出現抑制作用が期待できるオキシトシン投与がラットでの非外科的受精卵移植効率に及ぼす影響について検討を行った。 【方法】発情前期膣スメア像(有核細胞)を示すWistar系成熟雌ラットを同系成熟雄と一晩同居させ、翌朝膣内に精子を確認した個体を妊娠Day1とした。移植胚は妊娠Day5.5のラットの卵管・子宮をHEPES緩衝‐mR1ECMで灌流して得た。得た胚盤胞を偽妊娠Day4の同系雌ラットの子宮に外科的・非外科的に移植(10-20個/匹)し、その後の着床・発生を観察した。外科的受精卵移植は、開腹後に27ゲージの針で子宮先端を穿孔し、パスツールピペットで受精卵を移植した。非外科的受精卵移植は、オキシトシン1/800IUを両卵巣部位に注射または無処理後30-60分以内に小児用耳鏡を用いて膣内の子宮頚管中隔突出部子宮口から先端を丸く加工したガラスピペットを子宮内に挿入して受精卵を注入した。 【結果】外科的受精卵移植による着床率は、移植後9日目でそれぞれ66.0%であった。非外科的受精卵移植による移植後9日目での着床率は、オキシトシン処理区16.0%、同未処理で32.4%であった。また、非外科的受精卵移植により、オキシトシン処理・未処理の両区(それぞれ10匹およおび5匹に156個および99個の受精卵を移植)でそれぞれ2および13匹の産仔を得た。 以上の結果から、ラットでの非外科的受精卵移植は外科的移植に比べて未だ効率は低いものの、産仔が得られることを初めて示した。また、非外科的受精卵移植へのオキシトシンの適用は、産仔率の向上には寄与しないことが示唆された。
卵・受精
  • 高野 智枝, 酒出 はるな, 佐藤 英世, 戸津川 清, 木村 直子
    セッションID: OR1-18
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】低分子抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)は、哺乳類卵でも検出され、受精卵の初期発生で重要な役割を果たしているものと考えられている。シスチン・グルタミン酸トランスポーター(xCT)は、GSHの前駆体であるシスチンの細胞内への取り込みを担っており、培養系ではシステインが酸化されるため、シスチンの取り込みが重要であることが予測される。本研究では、培養系マウス卵の初期発生におけるGSHおよびxCTの役割を明らかにすることを目的に、xCT遺伝子欠損(KO)マウスの生殖能およびxCTKO由来卵の体外発生能を評価した。【方法】自然交配によりC57BL/6系xCTKOマウスの生殖能を評価した。またxCTKOおよび野生型(WT)未成熟マウスへ過排卵処理を行い、排卵卵子あるいは体外成熟(IVM)卵を得た後、WTおよびKO由来精子を用いて体外受精-体外発生(IVFC)させた。また、成熟培地へのβ-ME、GSH-OEt、NACの添加も行った。この過程で、卵および卵丘細胞におけるxCTの発現、排卵数、成熟率、受精率、発生率を調べた。一方、雌マウスから得た各発生段階のVivo受精卵および同発生段階のIVMFC卵の卵内GSH含量を測定した。【結果および考察】xCTKOマウスの平均産仔数はWTと比較して有意に低かった(KO 6.3匹/産, WT 7.7匹/産)。卵および卵丘細胞でxCT mRNAの発現が確認され、Vivo由来と比較して体外成熟系では有意に高かった。過排卵処理による排卵数、卵成熟率、IVFCおよびIVMFCでの受精率にKO・WT間で有意な差はみられなかった。しかし、IVMFCではKO卵で著しい発生率の低下がみられた(胚盤胞率:KO 6.3%, WT 30.6%)。100μMのβ-ME添加により発生率が上昇した。GSH含量はMII期で最も高く、発生に伴い減少する傾向がみられた。またIVM後のKO卵は、WT卵と比較しGSH含量が著しく低かった(KO 0.7pmol, WT 1.5pmol)。以上から、体外成熟系でのGSH合成におけるシスチンの取り込みはxCTに依存していること、このGSHの蓄積が受精後の発生に重要であることが示された。
  • 阿部 宏之, 山下 祥子, 星 宏良
    セッションID: OR1-19
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】培養液の組成は受精卵の品質に大きな影響を及ぼす。ウシ体外受精卵の培養では、培養液に添加する血清が胚の耐凍能低下の要因になっている。しかし、血清添加による胚の品質低下の機構は不明な点が多い。そこで本研究では、胚の品質に密接に関係しているミトコンドリアに着目し、無血清培地と血清添加培地の異なる培養液で発生したウシ胚のミトコンドリア呼吸機能を、電気化学計測技術及び細胞生物学的手法により解析した。【方法】屠体雌牛卵巣より未成熟卵子を回収し、無血清培養系ではIVMD101培地(機能性ペプチド研究所)、血清添加培養系では5%子牛血清を加えたHPM199培地(HPM199+CS)を用いて、それぞれ22-24時間体外成熟させた。胚の培養は、無血清培養系は5% O2/5% CO2/90% N2 , 38.5℃の低酸素条件下、血清添加培養系は5% CO2/95% air, 38.5℃で行った。それぞれの培養系において2細胞から胚盤胞の発生ステージの胚を回収した。胚の呼吸量は、走査型電気化学顕微鏡(受精卵呼吸測定装置:HV-403)により測定した。一部の胚は、血漿リポタンパク質(LP:300 µg/ml) を添加したIVMD101培地で培養し、スダンブラックによる組織化学染色と電子顕微鏡による微細構造観察を行った。【結果】無血清培地及び血清添加培地で培養したウシ体外受精胚の呼吸活性は、8細胞期までは非常に低く両者に有意差は認められなかった。無血清培地胚では桑実胚期以降、血清添加培地胚と比べて顕著な呼吸量の増加とミトコンドリアの発達が観察された。LP添加培地で培養した胚盤胞では、細胞内に大型の脂肪顆粒が多数存在し、ミトコンドリアの多くは小型でクリステの発達していない未成熟な形態であった。本研究の結果、血清添加培地で発生したウシ胚は呼吸活性が低く、その原因として血清によるミトコンドリアの発達抑制が示された。また、このミトコンドリア機能抑制には、血漿リポタンパク質が関与している可能性が示唆された。
  • 高崎 裕一, 福井 良太, 西原 健司, 長尾 慶和
    セッションID: OR1-20
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】イヌ卵巣から採取される未成熟卵子を用いて産子を得ることができれば、盲導犬の効率的な繁殖等の様々なメリットが考えられるが、未だ体外成熟法は確立していない。そこで本研究では、イヌ卵子の体外成熟培養時の卵丘細胞の裸化のタイミングと成熟培養中の酸素濃度について検討した。【材料と方法】動物病院で避妊を目的に摘出された様々な犬種のイヌ卵巣から細切法により未成熟卵子を採取し、無血清成熟培地で60時間成熟培養した。成熟培養後に固定標本を作製し、ヘキスト染色により核相を評価した。実験1:酸素濃度を5%O<SUB>2</SUB>区および20%O<SUB>2</SUB>区、卵子周囲に卵丘細胞が十分均一に付着している卵丘卵子複合体区(COC区)および卵丘細胞を除去した卵丘細胞裸化区(DO区)とし、各区を組み合わせた計4区を設定した。実験2:COCを60時間成熟培養した区を対照区とし、成熟培養開始0、12、24および48時間後に裸化処理をして、さらに計60時間になるように成熟培養を継続した区を実験区として設定した。実験3:成熟培養12時間後に裸化処理を行った後、さらに0、3、6、9、12、24、36、48および60時間成熟培養した。【結果】実験1:5% O<SUB>2</SUB>DO区において、20%O<SUB>2</SUB>COC区と比べて、有意に高い減数分裂再開率を示した。実験2: 12h後裸化区において、対照区と比べて、有意に高いM_I_期率を示した。実験3:成熟培養12時間で裸化後、経時的にM_I_期率が上昇し、9h継続区で高いM_I_期率が観察された。これらの結果から、卵丘細胞は成熟過程の初期にのみ必要で、中期以降は卵子と卵丘細胞のギャップ結合の解離が成熟をさらに促進させる可能性が示唆された。また、裸化卵子の培養に低酸素濃度環境が有効なことが示唆された。一方で、今回の方法では多くの卵子がM_I_期で成熟を停止していることから、M_I_期からM_II_期への進行にはさらに何か別な要因を必要としていることも明らかとなった。
  • 松本 舞, 北村 尚也, 南 直治郎, 山田  雅保, 今井  裕
    セッションID: OR1-21
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】
     体細胞を未分化細胞へと効率的にリプログラミングできれば,クローン技術による個体生産やiPS細胞のような多能性幹細胞の樹立への応用が可能となる。演者らはこれまで,ブタの卵核胞期卵(GV卵)から調整した卵抽出液が,ブタの体細胞に対しリプログラミングを誘導することを報告してきた。しかし,他の哺乳類体細胞へのリプログラミング誘導能については明らかとなっていない。そこで本研究では,マウス胎仔線維芽細胞に誘導されるリプログラミングの性質と効率的な誘導方法について検討した。
    【方法】
     卵抽出液は,約1000個のブタGV卵を超遠心分離(370,000g×2,20分および15分)することにより調製した。体細胞は,梅山豚の腎臓およびマウスの胎児から線維芽細胞を採取し,界面活性剤であるDigitonin(7.5~13µg/ml)を用いて細胞膜を透過した。リプログラミングの促進に有効であるといわれているTricostatinA (0.5µM)を加えた卵抽出液中で,膜透過後の線維芽細胞を1時間培養した。その後,Ca2+を含む培地(DMEM+20%FBS,LIF)中で培養することで膜修復し,その後同培地にて培養を継続し,培養12日までの細胞の形態観察,細胞増殖および多能性マーカー遺伝子の発現の変化について検討した。
    【結果及び考察】
     ブタGV卵抽出液処理により,マウス線維芽細胞はコロニーを形成するが,その効率はDigitonin濃度に依存的であった。これらの細胞における,多能性マーカー遺伝子Nanogの発現は,ブタ線維芽細胞で見られるものより遅く,一方でブタ線維芽細胞では見られないSox2の発現上昇を示した。さらに,細胞増殖は対照区のBuffer処理細胞よりも高まった。これらのことから,ブタ卵抽出液は,ブタ体細胞だけでなくマウス体細胞にも部分的なリプログラミングを誘導する活性を持つことが示唆された。さらに,Digitonin濃度を高めることにより,リプログラミング効率が改善される可能性が示唆された。
  • 長友 啓明, 岸 靖典, 詫摩 哲也, 山中 賢一, 曹 峰, 和田 康彦, 高橋 昌志, 河野 友宏, 川原 学
    セッションID: OR1-23
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】胚盤胞期胚は,構造的に内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)に二分される。さらに,TEはICMへの隣接の有無から極栄養外胚葉(pTE)と壁栄養外胚葉(mTE)に分類される。ウシ胚では,これらの細胞での遺伝子発現プロファイルは十分に理解されていない。そこで本研究では,ウシ胚盤胞期胚の部位ごとに細胞を分別してマイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析を行った。【方法】マイクロアレイ解析には灌流採取した体内由来胚(vivo胚),体外受精由来胚(vitro胚),体細胞クローン胚(SCNT胚)の3種類について,透明帯を除去した全体胚,および,ICM側(ICM + pTE)とTE側(mTE)を顕微操作により機械的に分断した部分胚を使用した。定法により調整したサンプルをマイクロアレイにかけて,主成分分析(PCA)や解析サイトFatiGOでのオントロジー分析を行い各サンプル間での遺伝子発現パターンの相違を調べた。【結果】マイクロアレイの結果,PCAにより遺伝子発現パターンを俯瞰したところ,それぞれの部分胚においてvivoおよびvitro胚由来では近似した発現パターンを示した。しかし,SCNT胚由来ではそれらとは異なる発現パターンを示し,この傾向はオントロジー分析の結果でも同様であった。ICM側およびTE側部分胚で有意に発現レベルが異なっていた遺伝子を調べたところ,vivo胚で984個,vitro胚で2279個,SCNT胚では2599個であった。これらの結果から,胚盤胞期胚においてICM側とTE側の部分胚を使ったマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により部位特異的に発現する遺伝子群を探索できる可能性が示された。
卵巣
  • 坂田 恭平, 米澤 智洋, 塩谷 篤史, 久留主 志朗, 汾陽 光盛
    セッションID: OR1-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    ラットでは、黄体形成から3日目にあたる発情休止期2日目(D2)の午前までに、プロラクチン(PRL)の刺激があれば黄体は機能化するが、それ以降にPRL刺激があったとしても速やかに退行することが知られている。これまでに我々は、黄体で発現するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)がD2午後に増加すること、GnRHのアンタゴニストであるCetrorelixを卵巣嚢内に連続的に投与すると、PRLの黄体刺激に反応する期間が延長することを見出した。本研究では、GnRHがPRLの黄体機能化作用に及ぼす影響についてさらに詳しく検討した。D2午前の卵巣から摘出した黄体を、メッシュを用いて培養液水面付近に維持し、40% O2・5% CO2存在下で器官培養した。培養液にはGnRHアゴニストである酢酸フェリチレリン(GnRHa)もしくはCetrorelixを添加した。24時間後、培養液中にさらにPRLを加え、48時間後に黄体および培養上清を採取した。Cetrorelixを前処置した場合、PRLの添加によって、黄体組織中の3β-HSD転写活性と培養上清中のプロジェステロン濃度が増加した。さらに、アポトーシスシグナルであるBaxおよびCleaved caspase 3のタンパク質発現が減少した。しかし、GnRHaを前処置した場合には、それらの変化はどれも消失した。次に、オスモティック・ミニポンプを用いて、成熟雌ラットの卵巣嚢内にGnRHaもしくはsalineを発情期より連続的に投与した。このラットに、D2の午前からPRLを1日2回投与して、その後の血中プロジェステロン濃度を測定したところ、PRL投与2日目以降にsaline投与群でみられたプロジェステロンの増加が、GnRHa投与群では観察されなかった。以上の結果より、ラット性周期黄体において、GnRHは黄体に直接作用し、PRLの黄体機能化作用を抑制することが明らかになった。
  • 白砂 孔明, Jiemtaweeboon Sineenard, Sybille Raddatz, Heinrich Bollwein, Ha ...
    セッションID: OR1-25
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】黄体は妊娠成立・維持に重要であるプロジェステロンを産生する。ウシでは妊娠不成立の場合,PGF(PGF)が子宮から放出され,黄体機能低下と構造崩壊が起きる。免疫応答を司る白血球の一種である好中球は,炎症部位に速やかに動員され貪食殺菌を行う,最も重要な生体防御機構を担う。退行中の黄体内ではマクロファージやリンパ球が動員されるが,ウシ黄体退行中の好中球の局在・動員機構および黄体機能における影響は不明である。本研究では,炎症局所に迅速に動員される好中球に着目し,退行中のウシ黄体内への好中球動員および動員機構を検証した。 【方法】実験1:中期黄体(Days 10-12)を持つウシにPGFを投与(=0 h)し,0,5,15,30分および2時間で卵巣を採取した。黄体を回収し,PAS染色で好中球数を,real-time PCR法で好中球遊走ケモカイン(interleukin-8:IL8)および白血球接着分子(E-selectin)の遺伝子発現を解析した。実験2:発情周期中期のウシ末梢血から好中球を単離し,PGFによる好中球遊走アッセイを行った。また,好中球におけるPGF受容体(FPr)の遺伝子と蛋白発現を調べた。実験3:中期黄体由来血管内皮細胞(EC)にPGFを添加して5分後に細胞を固定し,E-selectinの蛍光免疫染色を行った。 【結果】実験1:PGF投与後5分で黄体内好中球数が有意に増加した。IL8 mRNA発現はPGF投与後30分で増加したが,E-selectin mRNA発現は5-30分で減少した。実験2:好中球でFPr は発現せず,PGFは好中球遊走性に影響しなかった。実験3:PGF添加後5分でECにおけるE-selectin発現が増加した。 以上から,ウシ黄体退行現象ではPGFは全身系で好中球に作用するのではなく,PGFが黄体内血管内皮細胞のE-selectin発現を迅速に刺激し,好中球の血管内皮細胞への接着が増加することで,黄体内に好中球が5分で動員されることが示唆された。
  • 橋本 周, 鈴木 直, 五十嵐 豪, 山中 昌哉, 松本 寛史, 大田 聖, 竹之下 誠, 矢持 隆之, 細井 美彦, 石塚 文平, 森本 ...
    セッションID: OR1-26
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]卵巣組織内に存在する前胞状卵胞を凍結保存することは生殖細胞に影響する治療を受ける若い女性あるいは絶滅危惧種の雌性生殖細胞の保存につながる。しかし、卵巣組織の凍結方法は十分に確立されていない。本研究では超急速法 (UV)、急速法 (CV)、緩慢凍結法 (Slow)により凍結したカニクイザル卵巣皮質の融解後の卵胞形態、異所性自家移植後のホルモン動態、そして移植組織からの卵母細胞の回収とICSI後の受精能を検討した。[方法]9頭の成熟雌カニクイザルより両側卵巣を卵管とともに切除し、胞状卵胞を除去後、卵巣皮質部分を細切し、各区に配分した。UV区では1 x 0.5 x 0.1 cmのサイズで、UVを除く凍結区と対照は皮質切片を1-2 mm角に細切し、凍結した。CVとUV区ではガラス化溶液として5.6 M ethyleneglycol + 5% PVP + 0.5 M sucrose (Hashimoto ら2010)を使用した。ガラス化溶液に浸漬した切片をCV区はストローに充填し、UV区は直接、液体窒素に浸漬した。Slow区は1.5 M propanediol と0.1 M sucroseを凍結溶液とし、緩慢に冷却した。卵胞の形態評価は原始~一次卵胞の形態をHE染色あるいは電顕画像により比較した。卵巣皮質の移植は対照区1頭、Slow区1頭、CV区4頭、UV区3頭に実施した。各区1頭の移植後のE2値とP4値の変動を測定した。卵母細胞の回収は対照1頭とUV区3頭から行った。[結果]形態正常な卵胞の割合はUV区で93%とCV区の63%ならびにSlow区の59%に比べ有意に高かった (P<0.05)。卵母細胞にリソソームが占める面積割合はSlow区で2.6%とUV区 (1.3%)に比べ有意に高かった (P<0.05)。凍結組織を移植後、すべての区において3ヵ月程度でE2とP4値の上昇が認められたが、Slow区は対照に比べ低く、間もなくホルモン値の周期的な上昇が消失した。移植卵巣組織から卵母細胞の回収を試みたところ、対照から12個、UV区3頭から9個が回収され、ICSI後、それぞれ9個、7個の受精卵が得られた。[結論]UV法は卵巣組織のダメージが少なく、受精能力のある卵母細胞が回収されることが示された。
臨床・応用技術
  • 鈴木 治, 小浦 美奈子, 野口 洋子, 山田-内尾 こずえ, 松田 潤一郎
    セッションID: OR1-27
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】生物学研究の促進には実験動物資源の保存と増産が重要である。しかし,シリアンハムスターの系統保存法として配偶子の凍結保存は容易ではないのが現状である。そこでより簡便な卵巣凍結保存法を活用するべく操作手技の簡便化を検討した。これまでの検討から卵巣採取時の週齢は,卵巣が小さく,かつ,搬送が必要な可能性などを考慮して個体として扱いやすい離乳直後の3週齢が良いと思われた。融解卵巣の借腹雌への移植時の麻酔は,注射による麻酔よりも麻酔深度調整が容易で導入および回復が非常に早いガス麻酔(イソフルレン)が簡便かつ効果的であった。これらをふまえて凍結時の卵巣サイズの影響を調べるため,心筋症モデルJ2N-k系の正常対照系統であるJ2N-n系(毛色:白色)シリアンハムスターの3週齢個体の卵巣をサイズを変えて凍結保存した後,解凍して借腹雌へ卵巣移植し,交配試験により凍結保存卵巣の生存性を調べた。【方法】J2N-n系3週齢雌から得られた卵巣を分割無し(長径約3.5 mm,短径約2 mm),2分割(長径約2 mm,短径約1.5 mm),4分割(長径約1.5 mm,短径約1 mm)の3条件でそれぞれDAP213を用いてガラス化凍結保存した。過去の研究で4分割凍結卵巣にてすでに産仔が得られていることから(第101回本大会にて報告),J2N-n系由来の凍結卵巣のうち,分割無し卵巣と2分割卵巣を解凍し,それぞれ3個体と6個体の借腹雌(Slc:Syrian,毛色:野生色)の卵巣嚢内に移植した。術後回復したのち,J2N-n系雄と交配して産仔の作出試験を行った。【結果と考察】産仔作出試験にて分割無し卵巣由来産仔は得られなかったが,2分割卵巣移植雌(6匹中1匹)で移植卵巣由来産仔が得られたことから,凍結保存時の卵巣サイズは,手間をかけて小さくする必要はなく,2分割程度,すなわち約2ミリ角以下にすればよいことがわかった。
  • 西園 啓文, 佐藤 佑一朗, 上村 尚美, 太田 成男, 阿部 宏之
    セッションID: OR1-28
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】精子凍結保存技術は,遺伝子改変マウスの系統保存など日常的に実用されているが,主要系統であるC57BL/6マウス精子について,凍結融解後の体外受精率が10%未満に低下することが問題となっていた。我々は以前この受精率低下の原因を明らかにし,その後メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)を用いた精子前培養培地を開発することで,体外受精率を向上させることに成功した。しかし未だ,様々な動物種の精子機能を高レベルに維持したまま凍結保存するという命題を解決するに至っていない。そこで我々は,C57BL/6凍結精子においてミトコンドリア内膜の破損が頻発している点に着目し,ミトコンドリアを凍結傷害から保護するという新しいタイプの精子凍結保存技術の開発を目指した。
    【方法】始めに,ミトコンドリア細胞死抑制因子Bcl-xLの細胞死抑制活性を強化し,さらに細胞膜透過領域(PTD)を融合させたPTD-FNKタンパク質を作製した。次に,既存のマウス精子凍結保存液(R18S3)に様々な濃度でPTD-FNKを添加した精子保存液(10nM添加群、100nM添加群)を作製し,実際にC57BL/6マウスの精子凍結を行い,R18S3(対象群)と各群間での精子生存率,運動率,ミトンドリア活性,体外受精率の評価を行った。
    【結果】PTD-FNK添加各群で,従来のR18S3に比べて,凍結融解後の精子生存性(R18S3:11.5%、10nM添加群:24.2%),運動性(R18S3:7.5%、10nM添加群:10.0%、100nM添加群:11.5%)ともに向上した。ミトコンドリア活性についても,対照群に比べて10nM添加群で1.76倍,100nM添加群で1.90倍活性が高く,体外受精率は10nM添加群(21.57%)で,対照群(12.5%)よりも向上した。これらのことから,新規細胞死抑制タンパク質PTD-FNKを用いることで,より精子機能を高レベルに維持したまま精子凍結保存することができることが示唆された。
  • 岡田 幸之助, 若井 葉子, 佐藤 聡季, 松田 ゆかり, 牛島 仁
    セッションID: OR1-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ハタネズミ属には64種が分類されており,このうち10種類が絶滅危惧種としてレッドリストに記載されている。国内にも日本固有種であるホンドハタネズミが生息しているが,一部地域では準絶滅危惧種に指定されている。ハタネズミは複胃を有し,草食に適応した前胃発酵消化機構を有するため,他の草食性動物の栄養生理に関する研究のためのモデル動物としての有用性が期待されている。これらの観点から動物遺伝資源としてのハタネズミ属の保全が必要となる。本研究では,ハタネズミ属における個体再生/増殖法の確立を目的として,ホンドハタネズミ精子の凍結保存を試みるとともに凍結-融解後のDNA損傷レベルを調べた。また,凍結-融解精子が卵活性化能を維持しているか否かを異種間ICSI法により評価した。【方法】当研究室で系統維持している21~27週齢の雄ホンドハタネズミ(5頭)を実験に用いた。精管および精巣上体尾部より精子を採取し,凍結保護剤(18 %ラフィノース5水和物,3%スキムミルク)中に浮遊させた。その後凍結チューブに分注し,液体窒素中で少なくとも1週間保存して実験に供した。凍結前後の精子生存性およびDNA損傷レベルについて,エオシン-ニグロシン染色およびアルカリコメットアッセイ法を用いてそれぞれ調べた。次に,過剰排卵処理したB6D2F1雌マウスから採取した体内成熟卵母細胞にハタネズミの凍結-融解精子を顕微授精して卵活性化能を検討した。【結果】ハタネズミの新鮮および凍結-融解精子の平均生存率は,それぞれ92%および65%であり,凍結-融解後にハタネズミ精子の生存性は有意に低下した。DNA損傷率については,それぞれ9%および15%であり,凍結-融解後に有意に値が上昇した。次に,マウス卵母細胞にハタネズミの新鮮あるいは凍結-融解精子を注入したところ,それぞれ84%および78%の卵母細胞が減数分裂を再開して前核を形成した。本種におけるDNA損傷レベルはやや高いものの,凍結前後の生存性はマウスと同等であった。また,凍結-融解後もハタネズミ精子は卵活性化能を十分に有していることが示された。
  • 本田 香澄, 松成 ひとみ, 藤原 主, 竹内 靖浩, 中野 和明, 池澤 有加, 前原 美樹, 梅山 一大, 渡邊 將人, 長嶋 比呂志
    セッションID: OR1-30
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】トランスジェニック(Tg)ブタの遺伝資源を有効活用するため,少数精子の卵管内注入による受胎成立条件を明らかにすることを目的とした。【方法】eCG(1000IU)およびhCG(1500IU)の投与により排卵を誘起した未経産雌をレシピエントとして使用した。丹羽ら(1989)の方法に準じて凍結保存した赤色蛍光蛋白Kusabira-Orange遺伝子導入Tgクローン(huKO)ブタ,変異型ヒト肝細胞核因子1α遺伝子導入Tgクローン(HNF-1α)ブタおよび非遺伝子改変(non-Tg)ブタの精子を用いた。凍結精子は,融解後,0.1%BSA含PBSで1回洗浄し,BTS(Pursel&Johnson,1975)で懸濁後に注入に用いた。hCG投与後44.5–52.5hにレシピエントを外科的に開腹し,卵管膨大部に精子を注入した。片側卵管当たりの注入精子数は,運動性良好精子を0.8×107(Tgブタ)あるいは0.2–0.4×107(non-Tgブタ)とした。得られた産仔は,PCR解析によりTg判定を行った。【結果】huKOブタ精子を注入(hCG投与後44.5–46.5h)した4頭中2頭が受胎し,合計12頭の産仔(内3頭死産仔)が得られた。生存産仔中3頭がTg個体であった。HNF-1αブタ精子を注入(hCG投与後44.5–47.5h)した4頭中1頭が受胎し,8頭の産仔(内2頭死産仔)が得られた。生存産仔中4頭がTg個体であった。non-Tgブタ精子を注入(hCG投与後48.0–52.5h)した5頭中2頭が受胎し,合計9頭の胎仔(28,29日齢)が得られた。【結論】hCG投与後44.5–46.0hの範囲におけるTgブタ精子の卵管内人工授精によって,受胎例が得られることが明らかになった。また,排卵から時間が経過した場合にも,受胎し得る可能性が示唆された(non-Tgブタ精子,hCG後49.0–50.5h)。胎仔・産仔数が少ない理由として,卵管内精子注入による多精子受精率の増加の影響が考えられる。
  • Indunil PATHIRANA, Kakeru TANAKA, Makoto TSUJI, Shingo HATOYA, Toshio ...
    セッションID: OR1-31
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    Cryptorchidism occurs frequently in dogs. Estrogens and environmental xenoestrogens are known to inhibit testicular descent in rodents, but their effects on testicular endocrine functions of dogs are unknown. This study was performed to examine the effects of estradiol-17β (E2) and phthalates on testosterone secretion in cultured testicular cells of cryptorchid and normal dogs.
    Testicular cells were obtained from retained testis of cryptorchid dogs or testis of normal dogs of small breeds. Testicular tissues were dispersed and cells were plated for 18 h in multiwell-plates. Two concentrations of E2 (36.7 and 367 nM), monobutyl phthalate (MBP; 0.8 and 8 mM) and mono(2-ethylhexyl) phthalate (MEHP; 0.2 and 0.8 mM) were compared with non addition control with or without 0.1 IU/ml hCG.
    Testosterone in medium was measured by EIA.
    The addition of 367 nM E2 without hCG significantly increased testosterone secretion compared with control in cells of normal dogs, but did not affect clearly the secretion in cells of retained testis. The addition of both concentrations of MEHP without hCG significantly increased testosterone secretion compared with control in normal cells while such stimulation was observed only at 0.8 mM MEHP in cells of retained testis. The addition of 8 mM MBP with hCG significantly decreased testosterone secretion compared with control in cells of retained testis while such clear inhibition was not observed in cells of normal dogs.
    These results suggest that E2 and MEHP may increase basal testosterone secretion from testis in normal dogs. MBP may exert inhibitory effects on LH-induced testosterone secretion in the retained testis of cryptorchid dogs.
  • Gokarna Gautam, Toshihiko Nakao, Kyoji Yamada, Chikako Yoshida
    セッションID: OR1-32
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    The objectives of this study were to derive a useful case definition of delayed resumption of ovarian activity based on factors that were associated with reduced fertility, and to assess its impact on subsequent reproductive performance in Holstein cows. Milk samples were collected twice weekly from 219 cows from four commercial dairy herds, and progesterone in whole milk was assayed using ELISA. Ovulation was considered to have taken place five days before the first rise of milk progesterone concentration above the basal level. Survival analysis was used to derive a case definition of delayed resumption of ovarian activity postpartum based on factors that were predictive of reduced pregnancy rate. First postpartum ovulation occurring beyond 35 d postpartum was associated with reduced pregnancy rate (Hazard ratio=0.50; P<0.001) and, thus, was defined as delayed resumption of ovarian activity. A total of 75 (34.9%) cows had delayed resumption of ovarian activity postpartum. Cows with delayed resumption of ovarian activity were more likely not to conceive on first AI (Odds ratio [OR]=2.85; P=0.01), more likely not to become pregnant within 100 d (OR=3.30; P=0.001) and 210 d (OR=3.20; P<0.001) postpartum as compared with cows with normal resumption of ovarian activity. Mean days open were more (P=0.0002) in cows with delayed resumption of ovarian activity (213 d) than in cows with normal resumption of ovarian activity (152 d). In conclusion, first ovulation occurring beyond 35 d postpartum was defined as delayed resumption of ovarian activity postpartum that adversely affected the subsequent reproductive performance in Holstein cows.
  • 遠藤 なつ美, 永井 淸亮, 田中 知己, 加茂前 秀夫
    セッションID: OR1-33
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】泌乳牛において繁殖性が低下していることが指摘されている。本研究では,その原因追究の一端として泌乳牛における卵巣と血漿中プロジェステロン(P4),エストラジオール-17β(E2),および黄体形成ホルモン(LH)濃度の変化を非泌乳牛(乾乳牛)と比較した。【方法】正常な発情周期を反復しているホルスタイン種泌乳牛4頭(分娩後102.0±7.5日,乳量27.9±3.5 kg/日)と乾乳牛3頭を供試した。連続した2発情周期(第1および第2周期)に渡って超音波検査による卵巣の観察と採血を行った。第1周期の黄体退行開始後から排卵まで3時間間隔で採血すると同時に排卵時期を調べた。さらに,第2周期の排卵後2,4,6,8,14日に15分間隔で8時間採血を行った。【結果】排卵後8-14日における黄体直径の平均は,泌乳牛が乾乳牛よりも大きく(25.6±2.3 vs. 23.5±1.9 mm,P<0.01),同時期のP4濃度も泌乳牛が高かった(4.5±1.1 vs. 4.0±0.9 pg/ml,P<0.05)。第1卵胞波の主席卵胞の最大直径は泌乳牛が乾乳牛よりも大きかったが(17.3±1.7 vs. 14.2±1.6 mm,P<0.01),第1卵胞波の主席卵胞の発育期におけるE2ピーク値に泌乳牛と乾乳牛で差はみられなかった(3.8±1.2 vs. 4.2±2.6 pg/ml)。周排卵期において,排卵卵胞の最大直径は泌乳牛が乾乳牛よりも大きかったが(17.2±2.0 vs. 14.0±2.2 mm,P<0.05),E2ピーク値に泌乳牛と乾乳牛で差はみられなかった(14.2±3.1 vs. 12.8±1.3 pg/ml)。また,LHサージのピーク値に泌乳牛と乾乳牛の差はみられず(12.9±6.2 vs. 34.2±33.0 ng/ml),LHサージから排卵までの時間も同様であった(26.5±1.5 vs. 27.0±0.0 h)。排卵後のLHパルス頻度は,泌乳牛が総じて乾乳牛よりも多かった(P<0.01)。以上のように,泌乳牛と乾乳牛では卵巣および内分泌動態に違いがあることが認められた。
  • 村上  正浩, 千葉 祐一, 出田 篤司, 中村 雄気, 酒井 伸一, 浦川 真実, 大野 喜雄, アコスタ アヤラ, 奥田 潔, 青柳 敬 ...
    セッションID: OR1-34
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】MOETにおける供胚牛と受胚牛は,直腸を介して子宮操作が行われるため,その刺激により子宮内膜からPGFの産生が誘発される。ウシ胚の体外培養系において,PGFは胚の品質を低下させることが報告された。刺激によって誘発されるPGFは,COX2を介して子宮内膜で合成される。これらのことから,COX2阻害剤であるメロキシカムを供胚牛や受胚牛の子宮操作前に投与することによって,子宮内膜からのPGFの産生を抑制し,ET後の受胎率向上に寄与するかもしれない。そこで本研究では,メロキシカム投与がMOETにおける受胎率に影響をおよぼすか調査した。【方法】供胚牛として黒毛和種経産牛100頭,受胚牛としてホルスタイン種およびF1種未経産牛172頭を供試し,採卵あるいはETの10~60分前にメロキシカム(メタカム2%注射液,6 ml:メロキシカムとして120 mg/頭)を皮下注射した(供胚牛43頭,受胚牛87頭)。対照区は無投与とした(供胚牛57頭,受胚牛85頭)。無作為に選抜した牛からの(各区10頭)採血をメロキシカム投与前と採卵・ET直後に行い,血中PGFM濃度をEIAにて測定した。また,供胚牛から回収した胚を受胚牛に移植し受胎率を調査した。【結果および考察】無投与区の供胚牛と受胚牛は,子宮操作によりPGFM濃度が有意に上昇したが,メロキシカムを子宮操作前に投与することで,その上昇は抑制された。メロキシカム投与区の受胎率は81~84%と高い値を示したが,無投与区の受胎率(81%)と比較して差は認められなかった。以上の結果から,メロキシカム投与は子宮からのPGF産生を抑制することが明らかとなった。しかしながら、受胚牛が未経産牛の場合においてはメロキシカムを投与してもMOETによる受胎率に影響しない可能性が示された。
  • 竹之内 直樹, 伊賀 浩輔, 志水 学, 成瀬 健司, 平尾 雄二
    セッションID: OR1-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】日本短角種は現在でも自然交配ならびに粗放的な飼養形態を主体としており、人為的繁殖技術に関する知見は未だ少ない。そこで今回、日本短角種での繁殖機能制御法として、分娩後早期に排卵同期化を行い、生殖機能の早期回復への有効性について黒毛和種と比較し検証した。 【方法】日本短角種(n=11)および黒毛和種(n=18)を供試し、分娩後11~34日目にCIDRの留置を開始した。なお、黄体が存在する個体および一部の牛ではCIDR処置と同時にPG (クロプロステノールとして0.5mg)を投与した。留置開始後8日目にCIDRを抜去し、次いで24時間後にGnRH-A (酢酸フェルチレリンとして100μg)を投与した。また、日本短角種の9頭ではGnRH-A投与20時間後に定時人工授精を行いその後の受胎性を調べた。全頭について処置開始から18日目まで、適宜、直腸検査ならびに超音波画像診断装置により、生殖器の変化を追跡した。またCIDR抜去から排卵までの間、発情行動の有無を調べた。蓄積したデータについて両品種で比較検討した。 【結果】日本短角種全頭でGnRH-A投与後2日目に排卵が誘起され、排卵までの間、いずれの牛でも乗駕許容を伴う発情行動は認められなかった。一方、黒毛和種での排卵誘起率および無発情率はいずれも95.0±2.2%(最小自乗平均±標準誤差)であり、両品種で同等であった。子宮内の超音波画像では、処置開始時に日本短角種および黒毛和種でそれぞれ牛群の77.3±8.8、63.4±13.9%で悪露と考えられるhigh echo levelの所見が観察された。この所見は、両品種とも処置経過に伴い有意(P<0.01)に減少し、排卵後6日目には全頭で消失した。日本短角種における受胎結果では、現在6頭中2頭で受胎を確認している。 【考察】以上の結果から、日本短角種における分娩後早期の排卵同期化は、卵巣機能の賦活化および子宮機能の清浄化に有効であり、生殖機能を早期に回復させうる技術であることが明らかとなった。
精巣・精子
  • 山下 佳佑, 舟橋 弘晃
    セッションID: OR2-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
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    【目的】細胞質での蛋白質合成を阻害するcycloheximide(10 mg/ml)とミトコンドリアでの蛋白質合成を阻害するchloramphenicol(0.1 mg/ml)の存在が精子生存率、精子内RNA量および運動性に及ぼす影響について検討した。 【方法】バークシャー種雄豚から採取した濃厚部新鮮精液を実験に使用した。cycloheximide(10 mg/ml)またはchloramphenicol(0.1 mg/ml)の存否条件下で洗浄精子(1.0×108 cells/ml)を15℃で5時間培養後に精子RNA量を測定すると共に、生存指数、生存精子率および精子運動性解析システムで精子の運動性を解析した。 【結果】10 mg/ml のcycloheximide存在下ではRNA量(p=0.40)、生存指数(p=0.93)、生存率(p=0.92)およびすべての精子運動パラメーター(P>0.47)に変化は見られなかった。しかし、0.1 mg/ml のchloramphenicol存在下では、生存率に変化は見られなかった(p=0.70)ものの、精子内RNA量が増加(p<0.01)し、生存指数が減少(p<0.01)するとともに、精子の曲線速度も低下した(p<0.01)。また、RNA量と生存指数または生存精子率(蛍光顕微鏡法及びフローサイトメトリー法)との間にはそれぞれ負の相関(r=-0.600、r=-0.550、r=-0.483、p<0.05)が存在した。 以上の結果から、細胞質での蛋白質合成阻害は精子の運動性及びRNAに影響を及ぼさないが、ミトコンドリアでの蛋白質合成阻害は、精子の生存性に影響することなしに精子のRNAを増大し、運動性を低下させることが明らかになった。また、RNA量と生存率および生存指数の間に相関がみられたことから、細胞内RNA量を指標とした精子の品質評価の可能性が示唆された。
  • 奥山 みなみ, 福井 大祐, 中村 亮平, 高橋 伸広, 下鶴 倫人, 坪田 敏男
    セッションID: OR2-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】アライグマ(Procyon lotor)は、北海道において外来種として個体数を増やし分布域を広げてきている。その一因として高い繁殖力をもつ可能性が考えられるが、アライグマにおける繁殖生理には未だ解明されていない点が多い。特に、様々な種において個体の分散は若齢雄から始まるとされており、分布域拡大の要因を探る際に雄の性成熟時期の特定は不可欠といえる。そのため本研究では、北海道の雄アライグマがいつ性成熟を迎えるのかを明らかにすることを目的とした。【方法】2008年5月~2010年4月に北海道内で捕獲殺処分された234頭の野生雄アライグマを用いた。歯根の年齢線により区分された0、1、2および3歳以上の4グループにおいて、各月ごとに外見的特徴(精巣サイズ、陰茎露出の可否)、精巣組織所見(精細管径、精細胞発達ステージ、精巣上体管腔内精子存在率)を調べた。また、飼育下の0歳齢個体1例について、2008年12月~2010年3月までの毎月、精巣組織所見を調べた。【結果】野生の雄アライグマでは3~5月の出産期に生まれた後、体重増加と共に精巣重量が増加した。1歳の5月までは精細管内には精原細胞のみが認められた。その後、精巣重量は急増し、精細管径も大きく増大した。精原細胞は減数分裂を始め、10月には精子形成が認められた。また、ほとんどの個体で1歳の5~10月の間に陰茎が包皮から露出可能な状態になっていた。以上より、北海道では多くの個体で1歳の5月から春機発動が始まり、1歳の冬の交尾期には精子形成が完成すると考えられる。一方、個体によっては1歳に至る前に精子形成が観察されたものが数例存在した。これらの個体は農家の納屋などで捕獲されており、他の0歳齢個体と比べ体格が大きかったことからも、十分に餌資源を確保できる環境で生息していた可能性が高い。また、飼育下の0歳齢個体は生後1年足らずで精子形成が確認された。以上より、十分な餌資源のもとではより早期の精子形成が可能になる例があることも明らかになった。
  • 与語 圭一郎, 戸嶋 英博, 大野 絢也, 高坂 哲也
    セッションID: OR2-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
     我々は、マウス精子形成過程において生殖細胞特異的に発現する膜タンパク質遺伝子群を網羅的に探索・同定し、機能解析を進めている。今大会では、Samt-1と名づけた新規遺伝子に着目し、その発現ならびにタンパク質の細胞内局在を解析したので報告する。
     Samt-1は4回膜貫通型の膜タンパク質をコードすると予測される遺伝子である。これまでに、既知の機能ドメインをもたないこと、58~79%の相同性を有する3つのファミリー遺伝子(Samt-2, -3, -4)が存在していること、これらの遺伝子はX染色体上でクラスターを形成していること等がわかっている。マウスにおけるSamt遺伝子ファミリーの発現組織をRT-PCRで調べたところ、いずれの遺伝子も精巣特異的な発現を示した。また、生後5~45日齢精巣における遺伝子発現を解析したところ、25日齢以降に発現を開始することが判明した。次に、Samt-1に対する特異的抗体を作製し、精巣組織におけるタンパク質の発現を免疫染色によって調べると、精細管内腔の精子細胞にのみ発現していることがわかった。さらにSamt-1の発現時期・細胞内局在について詳細に解析したところ、1)Samt-1は頭帽期から先体期までの精子細胞において発現し、成熟期精子では消失すること、2)Samt-1は細胞内で複数のドット状に局在し、その局在はGolgi medullaおよび多胞体(Multivesicular body)のマーカータンパク質であるMARCH-XIと一致すること、3)COS7細胞で発現させると、Samtファミリータンパク質は共局在すること、などが明らかとなった。このほか、Samtは糖鎖の修飾を受けるとともに、その修飾は発現に重要な役割を持っていることも見出した。
     以上より、Samtファミリータンパク質は、精子完成過程の特定ステージにおいてGolgi medullaと多胞体に局在し、細胞内小胞輸送やタンパク質分解に関わる新規膜タンパク質であると考えられた。
  • 飯野 佳代子, 蔡 立義, 太田 昭彦, 加藤 たか子, 加藤 幸雄
    セッションID: OR2-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々が作製した、ブタFSHβ鎖遺伝子上流域をHSV1-tk(ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ)遺伝子に連結したキメラ遺伝子を導入したトランスジェニック(TG)ラットは、HSV1-tkをFSHβ依存的に下垂体組織で発現しているが、精巣の円形精子細胞でも異所性に高レベルで発現している。HSV1-TKはガンシクロビル(GCV)のようなヌクレオシド類似体を基質とし、リン酸化する。リン酸化された基質は、その後、三リン酸化物まで変換され、合成中のDNA伸長を阻害して分裂細胞のアポトーシスを引き起こす。本研究は、精巣の生殖細胞でのGCV投与後の細胞毒性を検討することを目的とした。 【方法】成熟TGと正常ラットに、0.1M NaOH-生理食塩水に溶かしたGCV(pH 11.0)を30mg/kgの投与量で、一日2回2週間にわたり腹腔に投与した。対照動物には、0.1M NaOH-生理食塩水(pH 11.0)を投与した。 【結果】GCV処理TGラットの精巣と精巣上体の重量は、対照動物と比較して、有意に減少していた。アポトーシスは円形精子細胞だけでなく、精原細胞と精母細胞でも観察され、最終的にセルトリ細胞とアポトーシスを起こした精子がわずかに存在しているのみだった。予備的な実験としてFSHを測定したところ、GCV処理ラットではいずれも低下していた。 【考察】以上の結果から、導入遺伝子の発現は円形精子細胞のみで、精原細胞での発現はみられないという、これまでの研究の結果と併せると次のような機序が推察できる。GCVはまず円形精子細胞でリン酸化され、次に、リン酸化したGCVはセルトリ細胞にファゴサイト-シスあるいは細胞間接着を介して取り込まれる。その後、近隣の精原細胞に漏出して、分裂中の精原細胞に取り込まれたGCVリン酸化物が、DNA合成を阻害し細胞死に導いたと考えられる。また、セルトリ細胞と生殖細胞間のコミュニケーションが最終的に損なわれるためと考えられた。  セルトリ細胞を介した生殖細胞消失の機序を明らかにすることは、ラットにおける生殖細胞とセルトリ細胞間の相互作用の更なる理解に寄与すると考えられる。
内分泌
  • 今村 拓也, 束村 博子, 前多 敬一郎, 森 裕司
    セッションID: OR2-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
     ほ乳類において、タンパクをコードするゲノム領域に発現するノンコーディングRNAは数万に上り、機能RNAの普遍的な重大さを示唆している。ところが、遺伝子発現制御域に発現するRNAについては、種間相同性も低く、機能解析まで系統的に試みる必要がある。これまで、脳で機能的であるSphk1遺伝子のプロモーター領域に内在性アンチセンスRNA、Khps1、を発見し、一本鎖RNAが配列特異的な脱メチル化に機能していることを報告した。本研究では、核内受容体である性ステロイド受容体遺伝子(AR・ERα・PR)のプロモーターに発現するアンチセンスRNA群の同定し、脳における機能解析を行った。AR・ERα・PR遺伝子座に発現するアンチセンスRNA群(ARas・ERαas・PRas)は、二本鎖で働くsiRNAなどとは異なり、コード遺伝子発現と正に相関しており、アンチセンスRNAはコード遺伝子の発現上昇に機能することが推測された。各遺伝子について、細胞株にアンチセンスRNAを一過性に強制発現させたところ、いずれも遺伝子特異的脱メチル化/mRNA発現上昇を誘導した。ARas・ERαasを全身性に強制発現するトランスジェニックマウス(ARas-Tg・ERαas-Tg)を作製したところ、同様に遺伝子特異的脱メチル化/mRNA発現上昇が認められた。サイズに性的二型性のある神経核について、正常成体のDNAメチル化性差は、ERαでは分界条床核がARでは腹内側核に認められ、いずれもメスで高メチル化状況にあった。ARas-Tgメスでは腹内側核がオス様に拡大していた。これらのTgメスには妊性があるが、いずれもメス型の性行動であるロードシスを殆どせず、特にARas-Tgメスについてはオス型の性行動であるマウンティング行動が頻繁に観察された。したがって、ERαas・ARasは個々のコード遺伝子の発現を介して構造的・機能的脳性分化に関与すると考えられた。
  • 村尾 恵梨奈, 太田 昭彦
    セッションID: OR2-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】マストミスは雌にも前立腺が存在する稀有な実験動物である。これまでの研究で、雌性前立腺は、雄の前立腺と同様にandrogenの標的器官であり、雌性前立腺において、TestosteroneをDHTに変換する5α-reductase type1、type2の二つのisozymneのmRNAが雄前立腺と同程度に発現していることが示されている。さらに、雌性前立腺内の5α-dihydrotestosterone(DHT)量は非常に高く保持されていることが明らかとなっている。しかし、雌における血中アンドロジェン濃度は雄に比べて著しく低い。したがって、雌性前立腺においては独自にDHTの前駆体となるアンドロジェンを合成している可能性が考えられる。そこで、本研究では、雌雄マストミス前立腺におけるアンドロジェン合成酵素のmRNA発現を雄前立腺と比較しつつ検討した。【方法】成熟Jms:CHAM系マストミスを用いた。マストミスにおける性ステロイド合成に関与する4つの酵素(P450scc、P450c17、3βHSD1、17βHSD3)のcDNA塩基配列を精巣由来cDNAより、RACE法にて決定した。それをもとに設計したプライマーを用いてリアルタイムPCRを行い、雌雄前立腺におけるこれらの遺伝子の発現量を測定した。【結果】雌雄前立腺において今回解析した酵素すべてのmRNA発現が確認された。雌雄前立腺でP450scc、17βHSD3の発現量に有意差は認められなかった。一方、雌性前立腺において、P450c17、3βHSD1の発現量は雄と比較して有意に高かった。以上により、雌雄前立腺においてDHTの前駆体となるアンドロジェンを合成している可能性が示唆された。さらに雌性前立腺においては雄前立腺と比較して、アンドロジェン合成能が高いことが考えられた。近年、前立腺内でのアンドロジェン合成の増加が、去勢抵抗性前立腺ガンの進行機序の一つと考えられている。したがって、雌マストミスはこのような低アンドロジェン環境下における、前立腺内アンドロジェン合成亢進モデルとして有用である可能性が考えられる。
  • 美辺 詩織, 上野山 賀久, 前多 敬一郎, 束村 博子
    セッションID: OR2-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    近年,遺伝子工学の発展に伴い,様々なノックアウトマウスの作出が可能となり,生理学実験のモデル動物として用いられている。ヤギやラットなど多くのモデル動物では頻回採血により得られるパルス状LH分泌動態が性腺機能の指標として用いられているが,小型動物であるマウスでは手術あるいは採血量などの問題から,これまでパルス状LH分泌動態を調べた報告はほとんどなかった。本研究では,マウスを用いた生殖神経内分泌メカニズム研究を可能とするため,頸静脈留置カテーテルを用いた無拘束・無麻酔下でのマウス頻回採血法および少量血液サンプルの採取法の確立を目的とした。実験では,卵巣または精巣除去を施した雌雄CD1系統マウスを用いた。雌マウスでは卵巣除去群に加えて,低濃度エストロジェン代償投与群および48時間絶食群を用いた。右側頸静脈から挿入したシリコンカニューレを右心房に留置し,3分間隔で採血量20 μlの頻回採血を1.5時間行い,パルス状LH分泌動態の解析を行った。血中LH濃度は,125Iで標識されたLHを用いてラジオイムノアッセイにより測定した。併せて,頻回採血がおよぼすストレスの有無を検出するため,血糖値をモニターした。本研究の結果から,解析した全個体で血糖値の上昇はなく,明瞭なLHパルスが観察された。さらにエストロジェン代償投与群における平均血中LH濃度は卵巣除去群に比べ,抑制されて,負のフィードバック効果が確認された。さらに48時間絶食群では,自由摂食の対照群に比べ,著しくLHパルスが抑制されていた。以上のことから,本研究で用いた頻回採血法が,無麻酔・無拘束条件下におけるマウスのLH分泌を解析する上で妥当であることが示された。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。
  • 渡邊 あい子, 米澤 智洋, 一瀬 龍太郎, 久留主 志朗, 長谷川 喜久, 汾陽 光盛
    セッションID: OR2-8
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    GnRHは、下垂体前葉ゴナドトロフでゴナドトロピンの合成・放出を促進するとともに、ゴナドトロフの増殖・分化も促進する。我々は、ゴナドトロフにおいて、カルシウム依存性リン脂質結合タンパク質のひとつであるアネキシンA5 (Anx5)が、GnRHの刺激で増加し、黄体形成ホルモン(LH)分泌に促進的に影響することを報告した。GnRHのゴナドトロピン分泌促進作用に必須と考えられるAnx5が、GnRHの細胞増殖に対する作用にも関与するのかに興味が持たれる。そこで本研究では、GnRH産生能を欠く突然変異マウスであるhypogonadal (hpg)マウスにGnRHを投与し、ゴナドトロフの増殖に伴うAnx5の動態を検討した。まず、下垂体におけるLHβおよびAnx5の転写活性をRT-PCR法で測定すると、成熟雌hpgマウスで野生型マウスに比べて著しく低かった。さらに、免疫組織化学法を用いて、下垂体前葉におけるAnx5の発現と分布を観察すると、野生型マウスのAnx5陽性細胞は、LH陽性細胞と同様に、下垂体前葉全体に散在した。Anx5は細胞内で主に核膜および細胞質に局在していたが、hpgマウスではこれらがほとんど観察されなかった。続いて、hpgマウスにGnRHアゴニストである酢酸フェリチレリン(GnRHa)を1.0 µg/0.2 ml/head/dayで7日間皮下投与すると、下垂体におけるLHβ、およびAnx5の転写活性は大きく増加し、Anx5陽性細胞が下垂体前葉の中葉に面する中心側辺縁部付近に多く認められるようになった。この結果は、下垂体の発生過程でゴナドトロフが中心側辺縁部付近より増殖するという正常動物での観察結果に符合すると考えられた。この時、Anx5は、核膜にのみ局在し、正常動物と分布を異にした。本研究の結果から、GnRHの持続的効果によってAnx5発現の維持されることが明らかになり、GnRHのゴナドトロフ増殖促進作用にも関与することが示唆された。
  • 植木 紘史, 西村 育広, リエンラクオン ドワンザイ, 米澤 智洋, 久留主 志朗, エルンスト パーセル, 汾陽 光盛
    セッションID: OR2-9
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
     アネキシンA5は、カルシウム依存性にリン脂質に結合する蛋白質であり、細胞内シグナル伝達や胎盤由来の抗血液凝固因子として機能することが推定されているが、未だ実際の機能は明らかでない。我々はAX5KOで2割ほど産仔数の減少することを観察した。本研究では、AX5KOで見られた産仔数の減少についてより詳細に検討した。AX5KOの産仔数は、初産、経産、母体の日齢にかかわらず、野生型マウス(C57BL/6J)と比べ有意に少なかった。膣スメアを観察し、発情期午前中に卵管内の卵を数えると、AX5KOとC57BL/6Jに差は見られず、排卵数には差のないことが明らかとなった。そこで、妊娠12日目と18日目に胎児数を調べると、妊娠12日目の胎児数は排卵数と差がなく、18日目に減少することが示され、妊娠後半に胎児の損耗することが明らかとなった。AX5KOとC57BL/6Jの交差交配実験を行うと、AX5KOが母胎の時にのみ産仔数の減少が見られ、妊娠後半の母胎の妊娠維持機構に何らかの障害のあることが示された。AX5KOの妊娠18日目には、子宮内に他より明らかに小さな胎児の混在することが観察され、子宮内で発育の遅延後に胎児の消失することが示唆された。マウスに頚静脈カニューレを装着し、低ストレス環境下で採血し黄体刺激ホルモンであるプロラクチンを測定したが、AX5KOとC57BL/6Jの間に差は認められなかった。両者の性周期、妊娠期間に差はなく、血中イオン濃度、白血球数と組成にも差はなかった。心採血によって得た血液(0.5 ml)を37℃で完全に凝固するまでの時間を測定すると、AX5KOで凝固が速やかに起こることが示された。以上の本研究の結果から、まずAX5KOで見られる産仔数の減少が、妊娠後半に母胎側の影響によって生じることが明らかになった。更に、AX5KOで血液凝固が起こりやすかったことから、ヒトの抗アネキシンA5自己抗体保有者で疑われている胎盤内血栓による流産との関連が推定された。
  • 冨川 順子, 小澤 真貴子, 吉田 佳絵, 上野山 賀久, 前多 敬一郎, 束村 博子
    セッションID: OR2-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    会議録・要旨集 フリー
    キスペプチンは強力なゴナドトロピン放出能を有する神経ペプチドであり、生殖機能制御において重要な役割を果たす因子として注目されている。げっ歯類脳でのKiss1遺伝子の発現は、前腹側室周囲核(AVPV)ではエストロジェンにより亢進され、弓状核(ARC)では抑制される。Kiss1遺伝子の転写調節因子はERαの他にSp1やSp3が報告されているが、これらは一様な発現を示すため、Kiss1の発現特異性を説明することはできない。そこで、Kiss1遺伝子の発現がDNAメチル化を含むエピジェネティック機構により制御されている可能性を検証した。マウス脳で機能するKiss1遺伝子の転写開始点を同定するとともに、レポーターアッセイによりプロモーター活性が認められた領域のメチル化状態を解析した。マイクロダイセクション法を用いて採取したKiss1陽性細胞および視索前野のKiss1非発現細胞群を用い解析した結果、Kiss1遺伝子上流域はその発現状態に関わらずメチル化されていた。Kiss1発現が抑制されているマウス胎仔視床下部由来細胞株N-6においても同領域のメチル化が認められたが、N-6細胞にDNAメチル化阻害剤(5-aza-dC)およびヒストン脱アセチル化阻害剤 (TSA) を添加することによりその抑制が解除された。Kiss1遺伝子は複数の転写開始点を有することから、各variantの転写状態を詳細に解析した結果、5-aza-dCのみによっては主に胎盤、卵巣での発現が報告されているvariantの発現が増大し、TSAのみによっては脳において発現するvariantの発現が増大することが示された。以上の結果から、Kiss1遺伝子がDNAメチル化およびヒストン修飾によるエピジェネティック制御を受けること、各転写開始点からの発現制御に異なる機構が寄与し、脳ではヒストンのアセチル化状態が抑制機構の主体となっていることが示唆された。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。
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