日本繁殖生物学会 講演要旨集
第104回日本繁殖生物学会大会
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優秀発表賞(口頭発表二次審査)
内分泌
  • 後藤 哲平, 冨川 順子, 深沼 達也, 安部 仁美, 高瀬 健志, 今村 拓也, 三宝 誠, 冨田 江一, 平林 真澄, 束村 博子, 前 ...
    セッションID: AW-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】キスペプチンはKiss1遺伝子にコードされる神経ペプチドであり,げっ歯類の脳内では前腹側室周囲核(AVPV)および視床下部弓状核(ARC)に発現ニューロンが局在する。AVPVのキスペプチンニューロンはGnRHのサージ状分泌を制御し,ARCのキスペプチンニューロンはGnRHのパルス状分泌を制御すると示唆されているが,脳領域特異的なKiss1発現の制御機構は不明である。本研究ではAVPVあるいはARC特異的なキスペプチン発現制御領域を同定するため,トランスジェニック(Tg)マウスを用いたin vivoレポーターアッセイを行った。【方法】GFPをレポーターとして前核注入法により3種類のコンストラクトを導入したTgマウスを作出した。得られたTgマウスから脳切片を作製し,二重免疫組織化学によりキスペプチンとGFPの共存を確認した。【結果】Kiss1遺伝子の周辺領域30 kbを導入したTgマウスにおいて,AVPVおよびARCのほとんどのキスペプチン免疫陽性細胞にGFP発現が観察された。上流域を欠損させたコンストラクトを導入したTgマウスにおいても同様に両神経核にキスペプチンとGFPの共存が確認された。一方,下流域を欠損させたコンストラクトを導入したTgマウスでは,AVPVのキスペプチン陽性細胞にGFP発現がほとんど認められなかった。このTgマウスのARCのキスペプチン陽性細胞にGFP発現が観察された。以上より,AVPV,ARCそれぞれに特異的なキスペプチン発現制御領域が存在し,AVPVでのキスペプチン発現にはKiss1遺伝子下流域が必須であることが示唆された。また,GFPによるキスペプチンニューロン可視化マウスが得られ,in vitroでの機能解析が可能となった。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。
  • 笹川 佳倫, 猪飼 耕太郎, 上野山 賀久, 本道 栄一, 前多 敬一郎, 束村 博子, 井上 直子
    セッションID: AW-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】Kiss1遺伝子にコードされるキスペプチンは生殖機能制御に重要な神経ペプチドである。本研究では,スンクスの排卵制御機構におけるキスペプチンニューロンの役割を明らかにするため,スンクス脳におけるキスペプチンニューロンの分布ならびにc-Fosを指標とした交尾後のキスペプチンニューロンの活動を組織学的に検討した。 【方法】KAT系統雌スンクスを用い,未処置群,卵巣除去群,卵巣除去エストロゲン投与群の動物を作製後,4%PFAにて灌流固定,脳の凍結切片を作製し,in situ hybridizationによりKiss1 mRNA発現を解析した。交尾後1時間で脳を採取した群(交尾群)と未交尾群を用い,Kiss1 mRNA発現をin situ hybridization,c-Fosを免疫組織化学により二重標識し,交尾刺激によるKiss1 mRNA発現細胞の活性化を解析した。 【結果および考察】Kiss1 mRNA発現細胞は,視索前野(POA)および視床下部弓状核(ARC)の2つの領域に局在していた。卵巣除去エストロゲン投与群および未処置群では,卵巣除去群と比してPOAに多数のKiss1 mRNA発現細胞がみられた。卵巣除去群のARCでは未処置群および卵巣除去エストロゲン投与群と比して,顕著なKiss1 mRNA発現細胞がみられた。未交尾群では,POAおよびARCのKiss1 mRNA発現細胞にc-Fos発現はほとんどみられなかったが,交尾群ではPOAのKiss1 mRNA発現細胞に顕著なc-Fosの共発現がみられた。さらに,交尾群のPOAにおけるKiss1発現細胞数は,未交尾群と比較して有意に増加した。以上より,スンクスにおいてキスペプチンニューロンはエストロゲンによる正負のフィードバックを仲介すること,さらに交尾刺激はPOAのキスペプチンニューロンの活性化を介して排卵を誘起することが示唆された。本研究の一部は生研センター「新技術・新分野創出のための基盤研究推進事業」の補助による。
精巣・精子
  • 林 誠, 長坂 安彦, 吉崎 悟朗
    セッションID: AW-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】ニジマス精原細胞を孵化稚魚腹腔内に移植すると、一部のA型精原細胞(A-SG)のみが生殖腺へと生着し、ドナー由来の機能的配偶子を生産する。しかし、宿主生殖腺への生着能を有しているA-SGを移植前に同定する方法は確立されていない。もし、移植前にこの細胞を濃縮することができれば、移植効率の飛躍的上昇が期待される。そこで、本研究では、宿主生殖腺への高い生着能を有しているA-SGを、移植前に濃縮するための方法を開発することを目的とした。 【方法】材料には精原細胞移植技術が確立されているニジマスを用いた。宿主生殖腺に生着したA-SGは継続して配偶子を生産し続けることから、高い生着能を有しているA-SGは精原幹細胞(SSC)であると考えられる。SSCを濃縮する手段として、Side Population(SP)に着目した。造血細胞を核染色試薬のHoechst 33342で染色すると、染色性の低い細胞集団(SP細胞集団)に造血幹細胞が濃縮されることが知られている。本研究では、まずHoechst 33342によるA-SGの染色条件を検討した。次に、SP細胞の塗抹標本を作製し形態観察を行った。さらに、哺乳類で既知の各種SSCマーカーの発現をRT-PCRにより解析した。最後に、SP細胞の宿主生殖腺への生着能を解析するため、SP細胞を孵化稚魚腹腔内へと移植した。 【結果】5µg/mlのHoechst 33342で16℃にて10時間染色を行うことにより、A-SG中にSP細胞集団が認められた。次に、形態観察を行った結果、非SP細胞に比べSP細胞は大型で核小体数が少ないことが明らかとなった。さらに、SSCのマーカーであるGFRα1Plzfが、非SP細胞に比べSP細胞で強く発現していることが明らかとなった。最後に、宿主生殖腺への生着能を解析したところ、非SP細胞移植区に比べSP細胞移植区で有意に高い生着率が観察された。以上の結果より、SPを指標として、宿主生殖腺への高い生着能を有しているA-SGを濃縮できることが示された。今後、SP細胞濃縮法を、海産有用種における精原細胞移植へと応用していく予定である。
  • 渥美 優介, 池上 啓介, 小野 ひろ子, 村山 至, 中根 右介, 太田 航, 新井 菜津美, 手賀 明倫, 飯郷 雅之, 吉田 松生, ...
    セッションID: AW-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】多くの動物は、特定の季節だけに繁殖活動する「季節繁殖」という戦略をとり、性腺を繁殖期にだけ発達させ、他の季節は退縮させている。長日繁殖のモデル動物であるウズラを使った近年の研究により、春(長日)の光刺激が中枢内で甲状腺ホルモンの活性化を促し、季節性の性腺発達を制御していることが判明した。一方、秋(短日)の性腺退縮には光だけでなく、低温の刺激も重要であることが知られているが、その作用機序は不明のままである。そこでウズラに短日、低温刺激を加えて季節性の精巣退縮を誘導し、そのメカニズムを解明することを目的とした。【方法】ウズラの精巣を長日条件により発達させた後、短日及び低温の刺激を加えて精巣退縮を誘導した。その際、精巣の形態変化、遺伝子発現、及び血中ホルモン濃度の変化を調べた。さらに低温刺激によって精巣が退縮する際、活性型甲状腺ホルモン(T3)の血中濃度が上昇していたため、T3の慢性投与をおこなった。【結果および考察】長日条件にて約100倍に発達した精巣は、短日条件でゆっくり退縮したが、完全には小さくならなかった。一方、短日刺激と低温刺激を同時に加えると15日目から急に退縮した。この時、短日条件によって減数分裂マーカーのSCP3陽性細胞が減少しており、低温刺激を加えると、さらにアポトーシスが急増していた。つまり、季節性の精巣退縮は、減数分裂の停止とアポトーシスによって起こることが明らかになった。次に、血中ホルモン濃度を測定したところ、アポトーシスの際に血中T3が増加しており、精巣内ではオタマジャクシの変態期に尾を退縮させる遺伝子群の発現も増加していた。そこで長日条件で飼育したウズラの腹腔内にT3を慢性投与したところ、遺伝子発現、アポトーシス、精巣退縮など、低温刺激の効果が再現された。本研究の結果から、甲状腺ホルモンは、春には中枢にて精巣発達を誘導する一方で、秋には末梢でカエルの変態を制御する遺伝子群を活性化することで、精巣退縮を誘導することが解明された。
性周期・妊娠
  • 仲屋 友喜, 越 勝男, 馬場 健司, 木崎 景一郎, 小林 剛, 今川 和彦, 橋爪 一善, 宮沢 孝幸
    セッションID: AW-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】祖先動物の生殖細胞に感染し、子孫にゲノムの一部として遺伝したレトロウイルスは内在性レトロウイルス(ERV)と定義される。多くのERVは変異や欠失によりそのオープンリーディングフレーム(ORF)を失っているが、一部のERVにはORFが保存され、宿主の生理機能を担うものが存在する。ヒトやマウスでは、胎盤形成時に必須である栄養膜細胞同士の融合をERVのエンベロープ(遺伝子;env,タンパク;Env)が担うと考えられている。ウシ胎盤においては、栄養膜二核細胞(BNC)と子宮内膜細胞(EMC)との融合細胞の存在が報告されているが、その形成に関わる機構は明らかになっていない。本研究では、最近我々が同定したウシ胎盤で発現する、ウシERV(BERV)-K1およびBERV-K2 envの融合細胞形成への関与を明らかにすべく実験を行った。
    【方法】FLAGタグ付BERV-K Env発現プラスミドを構築し、Cos-7細胞に導入後、イムノブロット(IB)により細胞溶解液中における両Envの検出を試みた。各Env発現Cos-7細胞を、初代培養ウシEMCと共培養し、細胞融合依存的ルシフェラーゼアッセイにより両Envの細胞融合活性を調べた。さらに、妊娠約30、90、150、230日齢のウシ胎盤組織における、両envmRNAならびにBERV-K1 Envの発現を、in situハイブリダイゼーション(ISH)ならびに免疫組織化学染色(IHC)により調べた。
    【結果と考察】IBの結果、BERV-K1およびBERV-K2 Envともにその発現を確認できたことから、両envはEnv産生能を有することが明らかとなった。さらに、BERV-K1 Envの細胞融合活性は、陽性対照と同様に高い値を示したのに対し、BERV-K2 Envの値は低かった。ISHの結果、ウシ胎盤ではBERV-K1 envのみ検出でき、その発現はBNCに特異的であった。そこで、BERV-K1 Envに対する抗体を作製し、IHCを行ったところ、ISHの結果と同様に、BERV-K1 EnvはBNC特異的に発現していることが明らかとなった。以上の結果より、BNCとEMCとの細胞融合過程に、BERV-K1 Envが中心的な役割を担うことが強く示唆された。
生殖工学
  • 早川 晃司, 大鐘 潤, 田中 智, 塩田 邦郎, 八木 慎太郎
    セッションID: AW-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    哺乳動物のゲノム上には組織・細胞種依存的なメチル化可変領域(T-DMR)が多数存在し、T-DMRのメチル化・非メチル化の組み合わせであるDNAメチル化プロフィールは細胞種固有の機能発現に重要な役割を果たしている。ヒストンH1ファミリーに属するH1fooは、卵核胞期から受精後2細胞前期までの限られた時期・細胞のみで発現する。H1fooは T-DMRを有し、雌性生殖細胞系列でのみ脱メチル化され、体細胞および雄性生殖細胞系列ではDNAメチル化によって発現が抑制されている。H1fooは体細胞核のリプログラミングや卵成熟に関わることが知られているが、その機能については明らかでない。そこで本研究では、マウスES細胞にH1fooを強制発現させることで、H1fooの機能解析を行った。H1foo発現ES細胞(H1foo-ES)を胚様体または神経細胞へと分化させる条件で培養すると、H1foo-ESはコントロールES細胞(Control-ES)で認められた分化に伴うマーカー遺伝子群の発現変化が起こらず、未分化細胞と類似した発現パターンを示した。発生・分化に伴いメチル化状態が変化するT-DMR(196遺伝子)をバイサルファイト法により調べた結果、H1foo-ESでは分化に伴う変化が認められず、特にControl-ESで分化後にメチル化される遺伝子群において顕著であった。一方で、H1foo-ESでは未分化条件下でも11のT-DMRにおいてControl-ESとDNAメチル化状態の差異が認められた。その中にはNoboxなどの卵特異的な遺伝子が含まれており、Control-ESに比べH1foo-ESおよび未受精卵で低メチル化状態だった。さらに、クロマチン免疫沈降法により、これらの領域へのH1fooの結合が認められ、H1fooによるT-DMRのメチル化変化であることが示唆された。これらの結果は、H1fooは特定の遺伝子領域のメチル化状態を変化させ、未分化ES細胞のDNAメチル化状態を維持することを示している。すなわち、H1fooは、卵および初期胚に特異的なDNAメチル化プロフィール形成に関与し、それゆえに非発現細胞ではDNAメチル化により発現が厳しく抑制されていると考えられる。
一般口頭発表
生殖工学
  • 的場 章悟, 井上 貴美子, 水谷 英二, 越後貫 成美, 杉本 道彦, 阿部 訓也, 小倉 淳郎
    セッションID: OR1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】哺乳類の体細胞核移植によるクローン個体作出効率は数%と極めて低い。最近我々はこの低効率の原因のひとつとしてX染色体の不活性化を制御するXist遺伝子の異常発現を報告した。Xistノックアウトマウスの体細胞を用いた核移植クローンでは産仔率が7-8倍も改善するが、Xistがどのタイミングでクローン胚の発生に悪影響を与えているのかは明らかでない。そこで、本研究では、RNAiノックダウンシステムを利用して、その発現を一過性に抑制することで、Xistが胚発生に悪影響を与える時期を明らかにすることを目的とした。【方法】Xistは雌個体では正常発生に必要であるため、雄由来のセルトリ細胞クローンを使用した。Xistに対するshort interfereing RNA (Xist-siRNA)および非特異配列に対するコントロールsiRNAを合成し注入に用いた。培養96時間目(blastocyst期)までのXistの発現パターンをRealtime RT-PCRおよびRNA-FISHにより解析した。また、一部の胚は胚移植し、産仔率により胚発生能を評価した。【結果】コントロール群では48時間目からXistの発現が始まり、96時間目にかけて上昇した。Xist-siRNA群では、Xistの発現は72時間目(morula期)まで顕著に抑制されたが、96時間目ではコントロール群と同程度まで発現が上昇しており、一過性の発現抑制を示した。これらの胚を移植した結果、産仔率はコントロール群の1%に対して、Xist-siRNA群では12%まで上昇した。以上の結果から、クローン胚でみられるXistの異常発現による悪影響は、morula期までに限局しており、この時期までのXist発現を抑制することで、クローン胚の発生能が劇的に改善することが明らかになった。
  • 伊佐治 優希, 村田 萌子, 高口 尚也, 今井 裕, 山田 雅保
    セッションID: OR1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】マウス体細胞核移植(SCNT)胚では、X染色体の不活性化やOct4の発現に異常があることが知られている。また、Oct4がX染色体の不活性化の調節に関与していることから、SCNT胚でのOct4の発現を促進することによって、X染色体の不活性化状態が改善され、クローンマウスの作出効率が向上する可能性が考えられた。本研究では、SCNT胚におけるOct4の発現異常を改善する目的で活性化後にバルプロ酸(VPA)処理を行い、その効果について検討した。【方法】B6D2F1系雌マウスの卵丘細胞をドナーとし作出した再構築胚を単為発生的に活性化した後、0-24、24-48、あるいは48-72時間に1mM VPAで処理し、胚盤胞期への発生率を無添加対照区と比較した。さらに、得られた胚盤胞におけるOct4の発現、総細胞数および内部細胞塊(ICM)細胞数、そしてX染色体の不活性化状態について検討した。【結果】活性化後0-24、24-48、あるいは48-72時間にVPA処理を行った場合の胚盤胞への発生率は、無添加区と比較し有為な差は見られなかった。しかし、免疫蛍光染色の結果、Oct4の発現強度が強い胚盤胞の割合および10個以上のOct4発現細胞を持つ胚盤胞の割合が無添加区(それぞれ28%、21%)と比較し、特に活性化後48-72時間にVPA処理した場合に最も効果的に増加した(それぞれ82%, 77%)。また、活性化後48-72時間のVPA処理によって発生した胚盤胞の総細胞数は変化しないものの、ICM細胞数が無添加区(平均7.5個)と比較し有意に増加した(平均13.6個)。さらに、トリメチル化ヒストンH3K27の局在を指標としX染色体の不活性化状態を調べたところ、VPA処理によって改善される傾向のあることが示唆された。以上より、活性化後48-72時間のVPA処理はSCNT胚の胚盤胞期への発生には寄与しないが、Oct4の発現を促進し、ICM細胞数の増加すること、およびX染色体の不活性化状態を改善することが明らかとなった。
  • 寺下 愉加里, 山縣 一夫, 李 羽中, 若山 清香, 野老 美紀子, 佐藤 英明, 若山 照彦
    セッションID: OR1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】体細胞核移植技術は、絶滅危惧種の保存、有用家畜の増産などへの応用が期待されている。しかしクローン出生率は極めて低く、実用化には至っていない。クローン胚の異常はエピジェネティック制御不全に起因すると考えられ、ヒストン脱アセチル化に関しては多くの研究が行われてきたが、ヒストンメチル化については未だ報告がない。本研究ではヒストンメチル化に注目し、クローン出生率の改善を試みた。 【方法】クロマチン構造に関わるH3K9のメチル化を制御するため、H3K9ジメチル化酵素G9aの阻害剤(BIX-01294)を用いた。はじめにBIX処理したIVF胚の出生率を求め、BIXの毒性を調べた。次にクローン胚を異なる濃度のBIX及びTSAで処理し、一部の胚は前核期及び2細胞期に免疫染色を行いH3K9me2及びacH3K9レベルを確認し、残りは胚盤胞及び産仔への発生率を調べた。またBIXが作用する時期を特定するため、ドナー細胞への前処理やPVPへの添加も試みた。 【結果および考察】IVF胚を用いた毒性実験によりBIXの試験濃度を3, 30, 300nMに決定し、クローン胚の活性化から10時間後まで、各濃度のBIXをTSAと同時に処理した。その結果、300 nMでは胚盤胞形成率が低下したが、3 nMでは84% に達し、未処理区(63%)より高い発生率が得られた。偽妊娠マウスへ移植後、3 nM BIXで処理したクローン胚の産仔率(13.3%)は未処理区(7%)と比較し有意に増加した。一方、BIXをドナー細胞へ前処理しても効果は見られなかったが、PVPに添加すると効果が見られたことから、BIXは核移植直後から効果を及ぼすと考えられた。免疫染色の結果、3-300 nM BIX処理によりクローン胚前核期のH3K9me2レベルは未処理区に比べ低下したが、acH3K9レベルは変化しなかった。現在、H3K9me2が発現調整に関わるMagea遺伝子の発現レベルを解析するとともに、他の阻害剤も用いて初期化におけるヒストンメチル化の重要性を調べている。
  • 小川 純輝, 小澤 政之, 三好 和睦, 吉田 光敏
    セッションID: OR1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】ミニブタにおける体細胞クローン技術は,高付加価値の遺伝子改変個体を作出する方法として有望である。本研究では,遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚の活性化後のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(ヒドロキサム酸タイプ)であるスクリプタイド(SPD)またはスベロイルビスヒドロキサム酸(SBHA)による処理が体外発生に及ぼす影響を検討した。【方法】食肉センター由来ブタ卵を体外成熟培養後に除核した。除核卵はヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したクラウン系ミニブタ腎由来細胞と電気的に融合,その後電気的に活性化してクローン胚を作出した。実験1では,クローン胚を活性化後,0 または500nM SPDを添加した発生培地で16時間培養した。その後,SPD無添加発生培地に移して培養を継続し,体外発生状況を比較した。実験2では,クローン胚を活性化後,0 または50µMのSBHAを添加した発生培地で16時間培養した。その後,SBHA無添加発生培地に移して培養を継続し,体外発生状況を比較した。【結果】実験1では,活性化2日後の卵割状況はSPD添加の有無で差はなかった。6日後の胚盤胞形成率はSPD 処理区(31.6%)で無処理区(7.8%)と比べて有意に増加した(P<0.01)。胚盤胞細胞数はSPD添加の有無で差はなかった。実験2では,活性化2日後の卵割状況はSBHA添加の有無で差はなかった。6日後の胚盤胞形成率はSBHA 処理区(10.8%)では無処理区(20.0%)と比べて差はなかった。また,胚盤胞細胞数にもSBHA添加の有無で差はなかった。以上の結果から,活性化後のSPD処理はSBHA処理と比べ,遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚の胚盤胞への体外発生能を顕著に改善することが示された。
  • 杉村 智史, 山之内 忠幸, 橋谷田 豊, 相川 芳雄, 大竹 正樹, 小林 修司, 小西 一之, 今井 敬
    セッションID: OR1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】生育可能なウシ体外受精(IVF)胚盤胞の選択技術の開発を目的とし,Time-lapse cinematography(TLC)解析によるウシIVF胚の受胎成否予測因子の探索を行った.【方法】5-25個のOvum pick-up (OPU)-IVF胚を125µlの5%CS添加CR1aaのWell of the Well (WOW) 培養皿に導入し,168時間TLCにより体外発生過程を追跡した.得られた胚盤胞は仮親に移植した.移植した胚盤胞の第一卵割の割球数とタイミング,およびlag-phase(第4もしくは第5細胞周期に認められる胚発生の一時休止)の細胞周期,継続時間と開始時の割球数を解析し,受胎性との関係をロジスティック回帰により分析により分析した.【結果】Lage-phaseが観察された細胞周期およびその継続時間と受胎性に相関は認められなかった.第一卵割の割球数とタイミングおよびlag-phase開始時の割球数と受胎性に相関が認められた(P < 0.05).第一卵割のタイミングにおいて,27時間以前に卵割した胚の受胎率は44.1%(19/43),27.25時間以降に卵割した胚の受胎率は17.6%(3/17)であった.また,1細胞から一度に3-4細胞に卵割した胚では14.3%(2/14), lag-phase開始時の割球数が4-5個であった胚では10.0%(1/10)の受胎率であった. 一方,27時間以内に2割球に分裂し,さらにlag-phase開始時の割球数が6個以上であった胚の受胎率は59.2%(16/27)であった.以上,第一卵割の割球数とタイミングおよびlag-phase開始時の割球数が受胎成否の予測因子として有効であること,また複数の予測因子を組み合わせることで,より正確な受胎成否の予測が可能になることが示唆された.本研究は生研センター異分野融合研究支援事業の助成を受けた.
  • 森 美幸, 笠 正二郎, 山口 昇一郎, 磯崎 良寛, 上田 修二, 服部 眞彰
    セッションID: OR1-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】P糖タンパク質は,細胞の代謝物や毒性化合物等の細胞外排出を行う膜タンパク質であり,細胞の代謝機能の維持に重要な役割を担っているが,卵子や胚でのP糖タンパク質に関する報告は非常に少なく,ウシでは全く明らかにされていない。本研究では,ウシ卵子と体外受精由来胚におけるP糖タンパク質の発現を調査するとともに,体細胞のP糖タンパク質発現を高めることが知られているリファンピンとフォルスコリンを発生培地へ添加し,胚のP糖タンパク質発現および発生率,凍結後の生存性へ及ぼす影響を調査した。【方法】と畜雌牛卵巣から回収した卵子を用い,未成熟卵子から体外受精後の各発生ステージの胚を供試した。試験1:未成熟卵子,20時間成熟培養卵子,受精後2日目8細胞期,4日目16細胞期および7日目胚盤胞におけるP糖タンパク質の発現状況について,ウエスタンブロッティングにより調べた。試験2:体外受精後(Day0)の発生培地へ,10μMリファンピン(R区),10μMフォルスコリン(F区),10μMリファンピン+10μMフォルスコリン(R+F区)を添加して7~8日間発生培養した。無添加で発生培養した胚を対照区として,胚盤胞のP糖タンパク質発現と胚発生率,緩慢凍結により保存した胚の融解48時間後生存率,透明帯脱出率を比較した。【結果】試験1:未成熟卵子から胚盤胞までの各発生ステージにおいて,P糖タンパク質の発現が認められたが,相対的なP糖タンパク質発現量は,発生が進むに従って有意に減少した。試験2:胚盤胞のP糖タンパク質発現量は,R区,R+F区が対照区に比べ有意に高かったが,胚発生率には有意な差は認められなかった。胚の凍結融解後の生存率は,F区,R区,R+F区が対照区より有意に高く,脱出率はR+F区が対照区と比べ有意に高かった。以上から,胚のP糖タンパク質発現は凍結融解後の胚の生存性に関与することが示唆され,胚のP糖タンパク質の発現を高めることで,凍結胚の生存性が改善する可能性が示唆された。本研究は,「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」により実施した。
  • 小川 英彦, 後藤 詩織, 岸 靖典, 曹 峰, 河野 友宏
    セッションID: OR1-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】マウスにおいて、雌ゲノムのみからなる雌核発生胚は妊娠9.5日までに致死となる。本研究では、マウス雌核発生胚が致死に至る分子メカニズムを明らかにするために、胚盤胞期胚における内部細胞塊および栄養外胚葉における網羅的遺伝子発現解析を行い、コントロール胚との比較を行った。【方法】B6D2F1雌マウスから排卵卵子を回収し、定法に従い雌核発生胚を作出した。作出した雌核発生胚から得られた拡張胚盤胞(直径100 µ以上)をBio-Cut Bladeを用いて内部細胞塊を含む極栄養外胚葉と壁栄養外胚葉(MTE)とに分離した。また、免疫手術により内部細胞塊(ICM)を単離した。受精卵由来拡張胚盤胞から同様にして得られたサンプルをコントロールとした。MTEおよびICMからtotal RNAを抽出後、ビオチン標識したcRNAを合成し、GeneChip Mouse Genome 430 2.0 Array(Affymetrix)にハイブリダイゼーションさせた。得られたデータは遺伝子発現解析ソフトGeneSpring X 11.0で解析し、MTEおよびICMにおいて雌核発生胚とコントロール胚との間で2倍以上発現差のあった遺伝子を検出した。【結果】雌核発生胚とコントロール胚との間で遺伝子発現を比較した結果、雌核発生胚のICMで発現上昇した遺伝子は425個、発現低下した遺伝子は271個であった。また、雌核発生胚のMTEで発現上昇した遺伝子は467個、発現低下した遺伝子は204個であった。さらに、雌核発生胚のICMで発現上昇した遺伝子425個のうち、16個(3.8%)はコントロール胚ではMTEで発現上昇する遺伝子であった。一方、雌核発生胚のMTEで発現上昇した遺伝子467個のうち、78個(16.7%)はコントロール胚ではICMで発現上昇する遺伝子であった。以上の結果から、マウス雌核発生胚で発現異常を示す遺伝子の一部は、異所発現することが明らかとなった。
  • 稲葉 泰志, 高橋 利清, SOMFAI Tamas, 下司 雅也, 永井 卓
    セッションID: OR1-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】血清を用いた発生培養系で発生したウシ体外受精胚は,脂肪滴の沈着などにより体内由来胚と比較して耐凍性が劣ることが知られている。一方、脂質の代謝に大きく関与するL-カルニチン(LC)は,エネルギー生産の場であるミトコンドリア内膜へ生体内の脂肪酸を運搬する役割を担っていることが知られており,胚への脂肪の沈着を防ぐ効果があると考えられる。そこで本研究では,発生培地へのLC添加が,ウシ体外受精由来胚盤胞の脂質含量および耐凍性に及ぼす影響について検討した。【方法】食肉処理場由来のウシ卵巣より卵丘卵子複合体を採取し,20時間成熟培養後に6時間体外受精(Day0)を行った。体外受精後に裸化した受精卵を、5%CS加CR1aaを発生基礎培地とし,LCを無添加あるいは0.3, 0.6, 1.2 mg/ml添加して,38.5°C,5%CO2 ,5%O2 ,90%N2 の環境下でDay7まで培養した。Day7に得られたGrade1の拡張胚盤胞を家畜改良センター定法により凍結・融解・培養し,24時間ごとに72時間まで生存率を調査した。また,LC添加(0.6 mg/ml)および無添加において生産した胚をNile Redを用いて染色し,その蛍光強度により脂質含量を測定した。【結果】培養後24,48,72時間の生存率は,0.3 mg/ml(それぞれ、86.5, 65.4, 63.5%)および0.6mg/ml(それぞれ、88.1, 69.5, 59.3%)のLC添加区が無添加区(それぞれ、62.3, 35.8, 37.7%)と比較し有意に高い値を示した(P<0.05)。また,生産胚の脂質含量(蛍光強度)は,無添加区を1.0とした場合,LC添加区(0.6 mg/ml)で0.67となり,有意に減少した(P<0.01)。以上の結果から,発生培地への0.3および0.6 mg/mlのLC添加は,ウシ体外受精由来胚盤胞の脂質含量を低下させ耐凍性を向上させることが示唆された。
  • 高橋 利清, 稲葉 泰志, SOMFAI Tamas, 下司 雅也, 永井 卓, 眞鍋 昇
    セッションID: OR1-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】脂質の代謝に大きく関与するL-カルニチン(LC)は,エネルギー生産の場であるミトコンドリア内膜へ生体内の脂肪酸を運搬する役割を担っていることが知られている。一方,ウシ体外生産胚は脂肪滴の沈着などにより,体内由来胚と比較して品質が劣ることが指摘されている。そこで本研究では,発生培地へのLC添加がウシ体外受精胚の発育および品質に及ぼす影響について検討した。【方法】食肉処理場由来のウシ卵巣より卵丘細胞-卵子複合体を採取し,20時間成熟培養後に6時間体外受精(Day0)を行った。体外受精後に裸化した受精卵を,5%CS加CR1aaを発生基礎培地とし,LCを無添加あるいは0.3,0.6,1.2 mg/ml添加して,38.5°C,5%CO2,5%O2,90%N2の環境下でDay7まで培養した。Day2における卵割率およびDay7までの胚盤胞期への発生率を調査した。さらに,Day7に発生した胚盤胞および拡張胚盤胞について,二重蛍光染色法により内細胞塊細胞数,栄養膜細胞数および総細胞数を計測した。また,発生培地にLC添加(0.6 mg/ml)および無添加して生産した胚のアポトーシス細胞数をTUNEL染色により測定した。【結果】各試験区の卵割率(74.6-76.5%)に有意な差は認められなかったが,0.3および0.6 mg/mlのLC添加区では,無添加区と比較して,胚盤胞期への発生率(40.2 vs 44.6 vs 32.3%),栄養膜細胞数(40.5 vs 43.5 vs 34.4個)および総細胞数(127.5 vs 131.3 vs 106.3個)が有意に高くなった(P<0.05)。しかし,生産胚のアポトーシス割合は,無添加区で11.4%,LC添加区(0.6 mg/ml)で8.2%となり,有意な差は認められなかった。以上の結果から,発生培地への0.3および0.6 mg/mlのLC添加は,ウシ体外受精胚の発育および品質を向上させることが示唆された。
  • 的場 理子, 吉岡 一, 相川 芳雄, 大竹 正樹, 小林 修司, 橋谷田 豊, 今井 敬
    セッションID: OR1-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】GnRHによる排卵誘起を併用した多排卵処置牛から成熟卵子を採取する時間について卵子の形態をもとに検証し,性選別精子を用いて体外受精を実施し,胚発生を検討した。【方法】ホルスタイン種乾乳牛21頭に,CIDR挿入(0日目)し,5日目にGnRH 100 μgの投与または直径8 mm以上の卵胞の吸引除去を実施し,6日目夕方からFSH計30AUを夕朝2回,4日間漸減投与した。8日目夕方にPGF投与とCIDR除去(実験2では9日目朝にCIDR除去)を実施し,10日目朝にGnRH 200 μg(以下GnRH)を投与した。事前の試験ではGnRH投与後26時間目以降に排卵が集中した(日本畜産学会第114回大会で報告)ため,排卵直前となるGnRH投与後25~26時間目に直径5 mm以上の全卵胞を吸引し,卵子を採取した。実験1(n=9):得られた卵子の卵丘細胞の膨潤化を確認したのちに卵丘細胞を剥離し,第一極体の放出をGnRH投与後30時間目まで確認した。実験2(n=12):GnRH投与後30時間目に性選別精液を用いて体外受精を実施した。最終精子濃度を500万精子/mlとし,媒精は6時間,体外発生培養は9日間実施し,胚盤胞への発生を評価した。【結果】実験1:採取卵子数は9.1±2.4(Mean±SEM)個,卵丘細胞層が膨潤化した卵子数は6.0±1.6個で全採取卵子数の71%だった。この卵丘細胞層の膨潤化した卵子のうち,5.0±1.5個,82%がすでに第一極体を放出し,4時間培養後にその数は5.1±1.6個,83%となった。実験2:採取卵子数は20.6±3.1個で,そのうち69%(14.3±2.4個)の卵丘細胞層が膨潤化していた。体外受精に供試した卵子数,胚盤胞数,胚盤胞発生率とcode1の胚盤胞数はそれぞれ13.8±2.3個,6.5±1.4個,46%と2.0±0.6個だった。以上より,GnRH投与後26時間目までに採取された卵子の多くは第一極体放出が終了しており,性選別精液を用いた体外受精によって高率な胚発生が可能であった。本研究の一部は新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業(22016)の助成を受けた。
  • 小林 久人, 櫻井 隆順, 高橋 望, 福田 篤, 尾畑 やよい, 佐藤 俊, 中林 一彦, 秦 健一郎, 外丸 佑介, 鈴木 穣, 河野 ...
    セッションID: OR1-11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】ダイナミックなDNAメチル化の変化は哺乳類の個体発生、配偶子形成に必須なプロセスである。近年のタイリングアレイや次世代シーケンサーの普及により、ゲノム広範囲なメチル化プロファイル(DNAメチローム)が様々な細胞で解析されているが、生殖細胞における解析実績は極めて限定的である。本研究では、マウス精子・卵子のDNAメチロームマップとRNAトランスクリプトームマップを作成し、各配偶子におけるDNAメチロームの特性・遺伝子発現との関連性について解析した。【方法】C57BL/6マウス精巣上体尾部由来の精子、ならびにプールしたGV期卵子からゲノムDNA、トータルRNAを回収し、ショットガンバイサルファイトシーケンス用のDNAライブラリー、ならびにmRNA-seq用のcDNAライブラリーを作製した。それらをイルミナ社のGenome Analyzer II 、HiSeq 2000により大規模シーケンス解読を行い、DNAメチロームマップならびにトランスクリプトームマップを作製した。【結果】DNAメチローム解析の結果、精子はゲノム全体にわたり高メチル化状態(平均メチル化:86.3%)である一方、卵子では高メチル化・低メチル化状態に二分しており、全体として中程度のメチル化状態(44.5%)を示した。一方で、CpG密な領域:CpGアイランドの解析より、卵子で高メチル化な領域の数が精子で高メチル化な領域より多く、また、ゲノムインプリント制御領域における精子・卵子での明確なメチル化差異があることを確認できたと同時に、新規の732の卵子型メチル化差異領域(DMR)と69の精子型DMRを同定した。さらにトランスクリプトーム解析結果との比較において、マウス卵子においてmRNA転写量と遺伝子内のメチル化(Gene-bodyメチル化)に強い正の相関性が見られた。本発表では、配偶子におけるゲノムインプリント確立機構とGene-bodyメチル化との関わりについて、詳細なメチローム解析結果とともに報告する。
  • 原 聡史, 小肩 実央, 尾畑 やよい, 河野 友宏
    セッションID: OR1-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>DNAメチル基転移酵素であるDNMT3Aおよびその補因子DNMT3Lは、生殖細胞におけるインプリント遺伝子のメチル化に不可欠なことが知られている。しかし、DNAメチル化インプリントの分子機構については不明な点が多く、DNMTsの発現が生殖細胞におけるメチル化インプリント確立の十分条件であるかは明らかにされていない。本研究では、生殖細胞で高発現するDNMT3A2およびDNMT3Lを本来発現していないマウス体細胞へ過剰発現させ、雌雄アレルs間で異なるメチル化状態の領域(DMR)のメチル化状態を解析することにより、DNMT3A2/DNMT3Lが体細胞におけるメチル化インプリントへどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目指した。<方法>CAGプロモーターからDnmt3a2/Dnmt3Lを発現させるベクター(pTUA-3a2-3L)、Dnmt3a2を発現するベクター(pTUA-3a2)を構築し、マウス胎仔繊維芽細胞(MEF)に導入した。その後導入している細胞をFACSで分取し、導入から48時間後のDNAメチル化状態をBisulfite sequencingにより解析した。<結果>pTUA-3a2-3L、pTUA-3a2およびコントロールとしてpmCherry-N1をそれぞれ導入した。導入後48時間まで細胞増殖に顕著な差は見られなかったが、導入後96時間から細胞増殖が有意に抑制された。次に各ベクターを導入したMEFにおいてメチル化解析を行ったところ、受精後の脱メチル化を受ける領域であるIgf2 DMR2およびα-actin CpG sitesにおいて有意な高メチル化を誘導した。しかしインプリント遺伝子H19、Lit1、Igf2rおよびPeg1の各DMRの非メチル化アレルのメチル化状態はコントロールとの間に有意差はなく、全て低メチル化状態を維持していた。これらのことから、インプリント遺伝子DMRの非メチル化アレル特異的にメチル化をブロックする機構が存在していることが示唆された。
  • 櫻井 隆順, 小林 久人, 松居 靖久, 河野 友宏
    セッションID: OR1-13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>始原生殖細胞(PGC)は生殖細胞のもととなる細胞である。PGCは胎齢6.25日目(E6.25)前後に胚体外外胚葉からのBmp4シグナルに後部胚体外胚葉の一部の細胞が誘導され、E7.25に尿膜基部に出現する。そこからE13.5まで細胞増殖しながら後の生殖巣である生殖隆起に移動する。この期間には、ゲノム刷り込みの消去を含むダイナミックなエピゲノムの変化と生殖細胞の雌雄ゲノムの運命決定が行われるが、その詳細なプロセスは不明である。そこで、本研究では、E10.5および13.5の雌雄PGCにおける包括的なDNAメチル化解析を行った。 <方法>Oct4-GFPマウス胎仔をE10.5およびE13.5で回収し、性判別後、雌雄別々に細胞懸濁液を調整した。その後、セルソーター(FACS aria II)を用いて細胞懸濁液をGFPの蛍光強度によりPGCのみを回収した。得られたPGCゲノムを次世代シークエンサー(illunina Genome Analyzer)によるショットガンバイサルファイトシークエンスに供した。 <結果および考察>E10.5PGCにおける平均メチル化レベルは雄10.9%、雌12.6%であったのに対しE13.5では雄4.9%、雌2.8%と非常に低くなっており、PGCのDNAメチル化が発生の進行に従い低下することが確認できた。また、E13.5のPGCでは雄の方が雌に比べメチル化レベルが高い傾向が見られた。このような差は全ての染色体で見られた。この結果からE13.5のPGCではDNAメチル化状態に雌雄で差があることが示された。
  • 山下 翠, 新井 良和, 伊藤 修平, 大鐘 潤, 広沢-高森 瑞子, 田中 智, 八木 慎太郎, 塩田 邦郎
    セッションID: OR1-14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    GSK3 (glycogen synthase kinase 3) はセリン/スレオニンリン酸化酵素で、インスリンやIGF等の様々なシグナル経路の中心酵素である。マウスでは、2つのアイソフォーム(GSK3a,b)が存在し、Gsk3ダブルノックアウトにより、ES細胞からのEB (embryoid body) 形成能が失われることが報告されている。遺伝子の少ない領域や転写が不活性な領域に存在するゲノム凝集状態を反映した動的な構造であるヘテロクロマチンの構築はES細胞の分化過程において変化することが知られている。また、ヘテロクロマチンの変化はDNAメチル化やヒストン修飾といった様々なエピジェネティックな修飾状態が変化した結果生じる。そこで本研究では、Gsk3ノックアウトES細胞のエピジェネティック状態を知るために、ヘテロクロマチン構造について解析した。 まず、マウスの野生型ES細胞とGsk3ノックアウトES細胞で、DAPI染色により濃く染色されるヘテロクロマチンの数と面積を求めた。その結果、Gsk3aノックアウト細胞では、核あたりのヘテロクロマチンの数が低下し、面積が増加することが明らかになった。また、Gsk3bノックアウト細胞では同様な傾向だが有意な差が見られ、それぞれのGSK3アイソフォームはクロマチン構造の維持に必要と考えられた。さらに、Gsk3ダブルノックアウト細胞では有意なヘテロクロマチン数の低下と面積の増加が見られ、特にヘテロクロマチン数の低下が著しかった。これらの結果より、GSK3はエピジェネティックな変化を伴って成長因子などによる細胞分化の分子機構に関わっていると考えられる。今後GSK3a,bがクロマチン構造を維持する経路を知るためにはGSK3のターゲット遺伝子におけるエピジェネティック状態の変化を調べることが必要となる。
  • 阿部 由紀子, 早川 晃司, 広沢‐高森 瑞子, 八木 慎太郎, 田中 智, 塩田 邦郎
    セッションID: OR1-15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    マウス初期胚における核O-GlcNAcシグナル  マウス初期胚では8細胞期以降で解糖系が機能し,グルコースを主なエネルギー源とした発生が進行する。胚の体外発生では培地中のグルコース除去及び高濃度グルコースは胚盤胞期胚への到達や正常な形態形成を阻害する。グルコース代謝経路の一つであるヘキソサミン合成経路において,O結合型N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)修飾の基質であるUDP-GlcNAcはグルコースから合成され,O-GlcNAc転移酵素(Ogt)によりタンパク質へと付加される。O-GlcNAc修飾はリン酸化のようなシグナル伝達機構の一つとしてとらえられている。本研究では,マウス初期胚におけるO-GlcNAc修飾の解析を行った。
     過排卵処理後,交配を行った雌マウスから0.5日で胚を回収し,KSOM培地で96時間の体外培養を行なった。1細胞期から胚盤胞期までの各発生段階の胚についてO-GlcNAc,Ogt及びO-GlcNAcase(Oga)抗体を用いて免疫染色をした。その結果,O-GlcNAcは桑実期以降で初めて検出され,細胞質に比べ核に多く観察された。Ogaは1細胞期から胚盤胞期まで核及び細胞質全体で検出され,一方Ogtは桑実期以降から核及び細胞質で検出された。つまり,マウス初期胚においては桑実期以降でOgt及びO-GlcNAc修飾が核に多く存在するようになり,マウス初期胚発生に伴って,O-GlcNAc修飾に変化が起きていることが明らかになった。さらに,グルコース除去及び高濃度グルコース添加培地で体外培養を行った胚では桑実期から胚盤胞期への発生が阻害され,O-GlcNAc修飾タンパク質の発現時期とグルコース濃度の変化が発生に影響を及ぼす時期が一致した。これまで培地中のグルコース濃度の変動による胚発生阻害は,解糖系由来の活性酸素種の産生やミトコンドリアの機能に起因するとされてきた。本研究の結果により,解糖系に加え,胚発生におけるヘキソサミン合成経路の役割が示唆された。
  • 大塚 正人, 三浦 浩美, 木村 穣, 猪子 英俊
    セッションID: OR1-16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】受精卵の前核内にDNAを顕微注入法で導入する方法は、トランスジェニック(Tg)マウス作製法として一般的であるが、この場合、導入遺伝子の挿入位置とコピー数を制御することは困難である。その結果、導入遺伝子の発現量にばらつきが生じたり、他の遺伝子を潰している恐れもあるため、複数系統のTgラインを樹立して調べる必要がある。ES細胞での相同組換え法を介することにより、上記問題点を回避することが可能ではあるものの、Tgマウスが得られるまでに多くの時間、コスト、労力を要する。そこで我々は、受精卵への顕微注入法に部位特異的組換え系を応用し、狙った遺伝子座位へ目的遺伝子を導入することによって、再現性良い遺伝子発現を示すTgマウス作製法の開発を目指した。【方法】まず、遺伝子ターゲティング法を利用して、変異型loxP配列をゲノム上の既知の遺伝子座位(Rosa26、またはH2-Tw3)に導入した。次に、得られたノックインES細胞からマウス(種マウス)を作製し、種マウスから得られた受精卵の前核に、変異型loxP配列を有する導入べクターと、Cre発現ベクターとを同時に顕微注入した。部位特異的組換えによる遺伝子導入効率と、得られたTgマウスにおける目的遺伝子発現の再現性等を調べた。【結果】これまでに16種類の導入ベクターについて顕微注入を行った結果、全てのコンストラクトで目的のTgマウスが得られた。その導入効率は4~5%であり、またファウンダーマウスの90%以上で次世代への導入遺伝子の伝搬が確認された。様々な蛍光遺伝子を発現するTgマウスも作製したが、全ての系統において導入遺伝子の発現は強く安定していた。異なるファウンダーに由来するマウス間においても、遺伝子発現強度、パターンに再現性が見られた。さらに、本手法を用いて、再現性の良いノックダウンマウス作製にも成功している。今回開発した手法は、導入遺伝子発現の再現性の高さからも、次世代型のTgマウス作製法の一つとして期待される。
  • 林 克彦, 大田 浩, 栗本 一基, 荒牧 伸弥, 斎藤 通紀
    セッションID: OR1-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】始原生殖細胞(PGCs)は,胚発生の初期に体細胞系列より分岐し独自の発生過程をたどる。マウスのPGCsは胎生6日目前後にエピブラストからBMP4シグナルにより分化する。PGCsでは特異的な転写因子群の働きにより体細胞化のプログラムが抑制されると同時に,多能性細胞特異的遺伝子NanogやSox2の再発現が認められる。またその後ゲノムワイドなエピジェネティックリプログラミングがおきる。本研究ではES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いて,エピブラストからのPGC分化およびPGCsでのエピジェネティックリプログラミングを体外培養系で再現することを目的として行い,その評価系として体外で分化誘導したPGCs由来の産仔を得ることを試みた。【方法】種々の成長因子存在下でES細胞およびiPS細胞を培養することにより,それらがエピブラスト様細胞に分化する培養条件を検索した。得られたエピブラスト様細胞の遺伝子発現を胚由来のエピブラストと比較した。またこのエピブラスト様細胞のBMP4刺激に応じたPGCsへの分化能を検討した。分化能の評価はPGC特異的な遺伝子StellaおよびBlimp1の発現により行った。得られたStella,Blimp1陽性の細胞について,マウスの精巣に移植することにより精子への発生能を調べた。【結果】培養条件の検討の結果、エピブラスト幹細胞の培養条件下で培養したES細胞やiPS細胞は,遺伝子発現および形態的に胚のエピブラストと類似した細胞に分化することが明らかになった。またこのエピブラスト様細胞はBMP4刺激によりPGCsと思われる細胞に分化した。得られた細胞と胚由来のPGCsの遺伝子発現は類似しており,また胚由来のPGCsで認められるエピジェネティックリプログラミングが得られた細胞においても観察された。マウスの精巣にこれらの細胞を移植した結果,精子形成が認められた。得られた精子を顕微授精することにより健常な新生仔が得られた。本研究から初期のPGC分化を体外で再構築することが可能となり、多能性幹細胞から体外で分化誘導したPGCsは産仔にまでの発生能をもつことが明らかになった。
  • 新田 卓, 阿部 朋行, 増田 茂夫, 林 聡, 花園 豊, 長尾 慶和
    セッションID: OR1-18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】多能性幹細胞を任意の組織幹細胞へ分化誘導することは、ヒト再生医療の実現に向けた重要なステップである。我々はこれまでに、ヒト造血幹細胞(HSC)または中胚葉系へ初期分化させたサルES細胞を妊娠1/3期のヒツジ胎子肝内に移植することで、骨髄内にヒトまたはサル造血をもつヒツジ(キメラヒツジ)を作出することに成功した。また、骨髄内に含まれるヒトまたはサル造血細胞の割合(キメラ率)の向上を目的に、レシピエント側の生着環境の整備として、ヒトにおける骨髄移植前処置剤であるブスルファン(BU)のヒツジ胎子への投与、移植細胞の強化として、HSCの自己複製遺伝子であるHoxB4のHSCへの強制発現ならびに霊長類HSCにのみ増殖刺激効果のあるヒト幹細胞因子(rhSCF)のキメラヒツジへの投与について検討し、それぞれ生後のキメラ率を向上し得ることを明らかにした。今回は、骨髄内に生着したヒトまたはサル造血の長期的生着に及ぼす要因について検討した。【方法】HSCおよび初期分化サルES細胞を、妊娠45-79日齢のヒツジ胎子肝内に移植した。BU群:HSC移植6日前に、BUを母体静脈内へ投与した。HoxB4群:センダイウイルスベクターによってHoxB4遺伝子を一過性に強制発現させたHSCを移植した。SCF群:生後のキメラヒツジにrhSCFを腹腔内投与した。無処置群:無処置のヒツジ胎子に対しHSCを移植した。生後約1および7-13ヶ月におけるキメラ率を、コロニーPCR法によって評価した。【結果】BU群(n=4)、HoxB4群(n=4)、SCF群(n=4)および無処置群(n=6)のキメラ率は、生後1カ月ではそれぞれ1.9±1.1、1.7±1.4、1.2±0.3および0.0±0.0%と、無処置群に対して処置群で高く(P<0.05)、処置群間に差はなかった。生後7-13ヶ月ではそれぞれ0.0±0.0、0.8±1.1、1.1±0.0および0.0±0.0%と、HoxB4群およびSCF群において高かった(P<0.05)。【結論】ヒツジ骨髄内へのヒトまたはサル造血の生着において、レシピエントの生着環境の整備は短期的には有効だが、長期生着には移植細胞に対する直接的刺激が効果的であることが示唆された。
  • 鏡味 裕, 中村 隼明, 宮原 大地, 森 貴史, 渡辺 晴陽, 大西 翔, 砂岡 耕平, 田中 健生, 田村 芽依, 小野 珠乙, 松原 ...
    セッションID: OR1-19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】鳥類幹細胞を採取し分化制御を行った。これにより、鳥類生殖工学に関する新規研究戦略の開拓を試みた。【方法】初期胚から多能性を保持する幹細胞を分取した。これらの幹細胞をドナーとし、レシピエントに移植した。キメラ胚を全胚培養した。こうして生殖細胞キメラの作出や臓器再生を試みた。【結果】キメラにおいては、ドナー幹細胞の生殖系列細胞への効率的な発生分化が確認された。また、ドナー幹細胞由来の臓器再生が可能となった。新規に確立したこれらの研究戦略は、鳥類生殖工学や臓器再生に貢献するものと思われた。
  • SARENTONGLAGA Baorejigin, 田口 依子, 加藤 翼, 長尾 慶和
    セッションID: OR1-20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】ウシ体外受精技術のフィールドの応用の一つとして、屠畜時の個体別の体外受精があげられる。しかしながら、屠畜時に個体毎に採取した卵子の体外受精率あるいは胚発生率には個体差が大きく、産子が得られないケースも多い。そこで本研究では、卵子の発生能に個体差が生じる要因について、屠畜時のウシの肝臓の状態に着目し、肝臓疾病と卵巣内卵子の初期発生能および卵胞液組成の関連について検討した。【方法】実験1:屠畜時の卵巣に肉眼的異常がない個体について、屠畜検査にあたる獣医師の診断により肝臓が全廃棄された個体を肝臓疾病群、廃棄されなかった個体を正常群とし、それぞれ個体毎に卵巣内卵子を採取し、顕微鏡下で良質卵子を選別し、体外成熟・体外受精後に、胚盤胞への発生率を比較した。また、卵子採取時に得られる卵胞中の卵胞液の組成を調べた。実験2:正常群から得られた良質卵子について、体外成熟および体外発生培養液中にγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)あるいはβ-ヒドロキシ酪酸(BHBA)を種々の濃度で添加し、胚盤胞への発生率を検討した。統計解析には、発生率についてはANOVAとFisher.s PLSD、卵胞液組成についてはt検定を用いた。【結果】実験1:肝臓疾病群において、良質卵子率および胚盤胞発生率が正常群に比べて低かった(P<0.05)。肝臓疾病群と正常群の小卵胞液中のγ-GTP濃度はそれぞれ 133.0U/Lおよび45.6U/L、BHBA濃度はそれぞれ39.9 mg/Lおよび27.4 mg/Lで、いずれも肝臓疾病群で高かった(P<0.05)。実験2:γ-GTPおよびBHBAの成熟培養液への添加は、いずれも胚盤胞発生率に影響しなかった。発生培養液への添加は、γ-GTPは50U/L以上、BHBAは50 mg/L以上の濃度において、胚盤胞発生率を抑制した(P<0.05)。【結論】肝臓に疾病を有する個体に由来する卵子の初期発生能は、健康な個体に比較して低いことが明らかとなった。また、その要因として卵胞液中のγ-GTPおよびBHBA濃度の関与が示唆された。
  • 田中 伸明, 上迫 努, 江藤 智生
    セッションID: OR1-21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】生殖細胞の顕微操作は高度な操作技術が必要であり、操作の熟練者を養成するには多大なコストが生じる。そのため、簡易な操作技術のトレーニングで、再現性の高い顕微操作が期待できるマニピュレータ(以下、NSK)を開発した。本発表では、NSKの機器の特性と作業の簡易化について報告する。 【方法】NSKは独自開発した透明体や細胞の穿孔に用いる圧電アクチュエータを備え、対物レンズの交換操作以外全て電動駆動可能な構成である。顕微操作は、顕微鏡に装着したカメラの画像をコントローラ画面上でみながらジョイスティックで行うため、従来法に比べ楽な姿勢で操作できる。さらに、卵細胞を認識し顕微鏡視野下の操作位置へ自動でセッティングする画像処理機能や、容易に培地間を往来しガラス針を操作位置にセッティング可能な培地間移動機能も開発した。検討は2種類の顕微操作を対象とした。DNA注入は、マウスC57BL/6Jの前核期受精卵を用いた。ES細胞注入は、マウス129系統のES細胞とC57BL/6Jの胚盤胞を用いた。 【結果】開発した画像処理機能を使用することで前核期受精卵交換操作とインジェクション操作位置へのガラス針のセッティングの自動化で、自動機能が無い場合(以下、無機能)に比べてDNA注入の作業効率は11% 向上した。Tg個体作製効率は、従来法に比べ有意差がなかった。胚盤胞の穿孔操作は、独自に開発した圧電アクチュエータの使用で、従来法と同様に可能だった。開発した画像処理機能を使用することで、無機能に比べES細胞注入の作業効率は20%向上した。さらに培地間移動機能の使用でES細胞をサンプリングする一連の操作は、無機能に比べ作業効率が67%向上した。またキメラ作製効率は、従来法に比べ有意差がなかった。自動化による作業効率の向上した部分は、技術習得が不要な部分になる。そのため、NSKの使用により動物の作製効率は変わらず、技術修得の労力が軽減可能なことが示唆された。現在、これら開発した機能を応用したICSI操作の検討を行っている。
精巣・精子
  • 原 健士朗, 吉田 松生
    セッションID: OR2-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【背景】
    哺乳類の精巣では日々多数の精子を作ることによって確実に子孫を生み出し、種を維持している。しかし、その基盤となる精子幹細胞システムを構成する未分化型精原細胞(以下、Aundiff)の行動原理は全く解明されていない。Aundiffはその形態から、単独で存在するAsingle (As)、2個の細胞が連結したApaired (Apr)、4個以上の細胞が連結したA aligned (Aal) に分類される。現在、Asは唯一の精子幹細胞であり、AprおよびAalは不可逆的に分化した細胞群であるとする決定論的なAsモデルが広く信じられている。しかし、この概念は、固定標本の観察結果に基づく推測であり、確たる証拠は示されていない。我々は、生体内における精子幹細胞システムの実体を正しく理解するために、経時的なAundiffの観察に基づいてAsモデルを再検討する必要があると考えた。
    【材料と方法】
     近年、我々はAundiffで発現するマーカーとしてGFRα1を同定した。そこで、本研究では同遺伝子陽性細胞でGFPを発現するマウスラインを用いて、Aundiffの挙動を組織非侵襲的に48時間追跡し、行動の素過程(細胞分裂等)を抽出した。
    【結果と考察】
     Asモデルに従えば、幹細胞の自己増殖と定義される「As⇒2×As」の分裂(Asが1個増加)と、分化細胞の供給と定義される「As⇒Apr」(Asが1個減少)は同じ頻度で観察されるはずである。まず、Asの分裂パターンを観察した結果、殆どのAsは分裂後、Aprになることが明らかとなった。これは、Asが減少することを意味しており、Asの数を維持するためには、分化した細胞群からのAsの供給(脱分化)がないと説明がつかない。これに対し、興味深いことにAalにおいて細胞間橋の断片化によって新たなAsがうみ出される様子が観察された。これは、従来、不可逆的に分化した細胞であると考えられてきたAalが幹細胞としても機能しうる細胞群である可能性を示している。以上の結果、実際のマウス精子幹細胞システムにおいて、Asモデルの論拠となる細胞形態による幹細胞の機能的定義が必ずしも適切でないことが推察された。
  • 塚本 智史, 久万 亜紀子, 岸 千絵子, PHAM NGUYEN Quy, 太田 有紀, 西川 哲, 岡崎 絵里子, 南 直治郎, 水島 ...
    セッションID: OR2-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    精子形成の最終段階(精子完成過程)では、先体の形成、ミトコンドリアの再編成、尾部の構築、精子核の凝縮などが起こり、最後に余分な細胞質は残余小体として取り除かれる。このように精子完成過程では、精子細胞の形態は劇的に変化する。オートファジーは、リソソームを分解の場とする細胞質成分の大規模な分解系である。これまで、精子形成過程におけるオートファジーの生理機能は全く不明であった。我々は、GFP-LC3(オートファジーモニター)マウスを用いた観察や電子顕微鏡解析から、精子完成過程においてオートファジーが誘導されることを見いだした。そこで、精子細胞特異的にオートファジーを欠損するノックアウトマウス(精子細胞特異的Atg5欠損マウス)を作製し、精子形成過程におけるオートファジーの生理機能を解析した。まず、精細胞特異的Atg5欠損雄マウスと野生型雌マウスを一定期間同居させたところ、このノックアウトマウスは17週齢頃から不妊傾向を示すことが分かった。次に、このノックアウトマウスの精巣上体尾部から成熟精子を回収して、精子の形態や運動性を解析した。その結果、オートファジーを欠損精子は形態異常を示し、結果的に運動性や受精能も低下することが明らかとなった。オートファジー欠損精子に観察された異常の原因をより詳細に調べるために、ノックアウト雄マウスの精巣の病理学的な解析を行ったところ、精細管の内腔側に複数の精子細胞質の集合体から成ると考えられる異常構造体が週齢依存的に蓄積していることが明らかとなった。この異常構造体中には残余小体に多く含まれる成分が蓄積していることも明らかとなった。以上の結果は、オートファジーは精子完成過程に誘導され、精子細胞質のリモデリングに関与している可能性を示唆している。
  • 李 智博, 平野 達也
    セッションID: OR2-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】減数分裂は生殖細胞だけが行う特殊な分裂であり、特に減数第一分裂では染色体は特徴的な動きを示す。前期に相同染色体が対合・組換えを起こす結果、分裂中期には二価染色体が形成され、後期には相同染色体が分離する。姉妹染色分体の接着はコヒーシンと呼ばれるタンパク質複合体によって担われており、減数分裂においてはこの時期に特異的に発現してくるコヒーシンサブユニットがその特徴的な染色体動態の制御に貢献している。我々は今回新たにマウスにおいて新規のコヒーシンサブユニットRAD21L (RAD21-like protein)を同定したので、減数分裂におけるその時空間的な動態を調べた。【方法】マウスの精巣由来のcDNAライブラリーからPCR法により、RAD21L cDNAをクローニングした。また、RAD21Lに対する特異的抗体を使用した免疫蛍光染色法により、生殖巣の凍結切片あるいは精母細胞の染色体スプレッドにおいて、RAD21Lの発現および局在を観察した。さらに、精巣抽出液を材料に、免疫沈降法とイムノブロット法により、コヒーシン複合体の種類とサブユニットの構成を決定した。【結果】RAD21Lは卵母細胞あるいは精母細胞において特異的に発現しており、シナプトネマ構造上に局在した。しかし、他のコヒーシンサブユニットとは異なり、減数第一分裂前期のレプトテン期からパキテン期の中頃まで存在し、その後消失した。興味深いことに、RAD21LとRAD21はお互いに減数分裂の時間軸に沿って排他的に存在した。RAD21Lが検出される時期はもう一つのパラログであるREC8が現れる時期と一部重なるが、両者のシナプトネマ構造上での局在はほとんど重ならなかった。また、パキテン期におけるRAD21Lの消失は、 MSH4(組換え中間体の指標)の消失あるいはMLH1 (crossoverの指標) の出現と同期した。【考察】これらの結果から、RAD21Lは第一減数分裂における相同染色体の結合の確立に寄与している可能性が考えられる。また、第一減数分裂前期では、数種のコヒーシン複合体の時空間配置が、一連の染色体動態の制御に関連するとのモデルを提唱する。
  • PITIA Ali Mohammed, SAGATA Dai, KONISHI Hirokazu, MINAGAWA Itaru, SI q ...
    セッションID: OR2-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    [Aim] Relaxin-like factor (RLF), also known as insulin-like factor 3 (INSL3), is a novel member of insulin-relaxin gene family, but its function in adulthood is unknown. Our group has shown that testicular Leydig cells are the sole source of RLF mRNA and the protein in male goats. Moreover, we have reported the partial cDNA sequence of RLF receptor, LGR8, and characterized its expression in the testis; however, the cell types that express the protein encoded by LGR8 gene have not yet been clarified. The aim of this study was to identify the cellular expression of LGR8 protein, and examine the functionality of the receptor expressed therein. [Methods] Testes were collected from postnatal, prepubertal, pubertal and adult Saanen goats. The cellular expression of LGR8 was investigated by immunohistochemistry. The percent area occupied by LGR8-expressing cells was determined by morphometric analysis. The functionality of LGR8 receptor was evaluated using in situ ligand binding assay. [Results] Using a characterized antibody, LGR8 was localized in the Leydig cells at all stages of development. LGR8 was also visualized in the germ cells that were identified as spermatocytes within the seminiferous tubules through prepuberty onwards. LGR8 molecules in the spermatocytes were stage-specifically expressed in primary spermatocytes. The cellular LGR8 expression level and the percentage of LGR8-expressing cells increased as sexual maturation progresses to reach high values in adulthood. Binding assay showed that RLF binds to the LGR8-expressing cells. [Conclusion] The present study clarified the cellular expression of LGR8 in the testis, and demonstrated that the receptors therein are functional.
  • GHANEM Mohamed Elshabrawy, EL-GAWISH Rania
    セッションID: OR2-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    This study was carried out to investigate the adverse effects of different doses of cadmium chloride (CdCl2) on reproductive functions in male rats. Forty male albino rats weighted 100-130 g were equally divided into 4 groups. The control group received distilled water throughout the experimental period, while the three treated groups received 5, 50 and 100 ppm of CdCl2 in drinking water for consecutive 100 days. At Day 100, all rats were sacrificed and immediately the reproductive organs were dissected and the relative weight of each organ was estimated. The epididymis was minced and treated for estimation of sperm concentration and abnormalities. Section of the testis was kept in 10% formalin saline for histopathology. The relative weight of the testis of treated rats was reduced compared to control rats but not reach to significant difference. The weights of epididymis, seminal and prostate glands were significantly (P<0.001) decreased particularly in rats received 100 ppm of CdCl2. Moreover, the sperm concentration was significantly (P<0.001) declined in treated rats in dose dependent manner, while the number of abnormal sperms was significantly (P<0.01) increased in rats treated with 50 and 100 ppm of CdCl2. In rats received 100 ppm of CdCl2, the diameter of the seminiferous tubules was markedly reduced compared to control rats. Additionally, multinucleated giant cells as well as sloughing of the germinal epithelium of the seminiferous tubules were observed in testes of rats received 100 ppm of CdCl2. In conclusion, administration of CdCl2 for 100 days in drinking water even in low doses could adversely affect the reproductive functions in male rats.
  • 陳 黙, 蔡 立義, 加藤 たか子, 和泉 俊一郎, 樋口 雅司, 加藤 幸雄
    セッションID: OR2-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【背景】我々は以前の本大会で、ブタFSHプロモーターにヘルペスウイルスの一つであるHSVチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子を連結して作成したトランスジェニック(TG)ラットが雄性不妊を示す事を報告している。その原因を調べると、精巣では、FSHプロモーターに依存せずにウイルスTK遺伝子に内在する精巣特異的な転写開始点により異所性に円形精子細胞でHSV-TKが発現されることにより精子形成異常を示すことを確認した。つまり、ヘルペスウイルスに感染したヒトの精巣では、HSV-TKの発現により精子形成に影響が出て男性不妊になる可能性が考えられる事になる。そこで、男性不妊患者の精液から回収したDNAを調べる事で、ウイルス感染の有無を調べることにした。 【方法】今回は、ヒトの男性不妊患者153名(年齢21-40代)の精巣から採取した精液をより調製したDNAについて、Nested-PCR法による増幅反応を行い、増幅物については塩基配列の測定を行った。また、不妊患者の精液における精液量、精子数、精子運動性などの測定を行った。 【結果】検査した不妊患者でウイルスDNAが確認された。その感染率は、HSVが39例(26%)、CMVが33例(22%)で、EBVとHHVは共に4%以下であった。しかも、感染者全体(59名)の37%の感染者にウイルスの2重感染が認められ、そのほとんどはHSVとCMVの2重感染であった。一方、ウイルス感染者と非感染者の間には、疫学的に精子異常の差が認められなかった。 【考察と結語】不妊患者の精液にウイルスDNAを高頻度に検出した。しかも、その4割弱に2種類のウイルスが重感染していることを発見した。ウイルス感染者おける精子異常性には特に有意な差が認められなかった。つまり、非感染者とは原因が異なるにもかかわらず、男性不妊患者の精子は非感染の状態と同じと言うことになる。ウイルス感染者における不妊の機序を解明するには、1)HSV-TK遺伝子が精巣で実際に発現している事を確認することが急務で、その上で、2)HSV-TKの標的分子とその下流の出来事を調べる必要がある。
  • 奥平 裕一, 佐々木 真也, 舟橋 弘晃
    セッションID: OR2-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】哺乳類精子には種々のRNAが含まれ、精子内RNAは精子機能や雄の妊性に関与している報告がある。しかし、特定遺伝子(mRNA)の発現と精子機能との関連を検討した報告はあるが、精子内RNA量と精子機能の関連については明らかでない。そこで本研究では、ブタ精液採取時に従来の精液評価とともに精子(精液)内RNA量を測定し、精液評価パラメータと精子内RNA量間の相関の有無について検討した。
    【方法】2010年10月18日から12月27日に、岡山県畜産研究所の種雄豚(デュロック種)を用いて週1回採精を行い、精液量、精子濃度、総精子数、精液pH、精子活力、RNA量を測定した。各項目の測定は、精子数は血球計数装置、pHはpH試験紙、活力は精液性状検査板、RNA量はQuant-iT RNA BR Assay Kitを用いた。なお、RNA量に関しては、精液原液およびTL-HEPES-PVA液で洗浄後の精子浮遊液を測定した。
    【結果】8頭の雄個体から合計44回採精を行い、RNA量と他のマラメータについて相関の有無を調べた。その結果、精子活力と108精子当たりのRNA量の間に正の相関がみられ、洗浄前の相関はR=0.58(p<0.05)、洗浄後の相関はR=0.52(p<0.05)であった。一方、総精子数と108精子数当たりのRNA量の間に負の相関がみられ、洗浄前の相関はR=-0.58(p<0.05)、洗浄後の相関はR=-0.52(p<0.05)であった。また、洗浄前のRNA量と洗浄後のRNA量には正の相関(R=0.65, p<0.05)がみられた。
    【結語】 以上の結果から、豚精液評価の指標として精子内RNA量の適用の可能性が示された。
  • 野口 倫子, 彦野 弘一, 鈴木 千恵, 菊地 和弘, 吉岡 耕治
    セッションID: OR2-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】精子のパーコール(PC)分離法は,活力良好精子を効率よく回収できることから体外受精などに利用されるが,PC分離により回収されたブタ凍結融解精子の性状は不明瞭な点が多い。本実験では,PC分離後のブタ凍結融解精子の膜損傷性および運動性を解析するとともに,これらの精子性状が体外受精および発生に及ぼす影響について検討した。【材料および方法】6個体から作製した凍結精液を供試した。38°Cで融解した精液は,50%PC液と混和後,80%PC液に重層し,遠心分離した。80%PC層の最下部の精子は,体外受精培地を用いて2回洗浄した(PC区)。対照区では,融解後の精液をモデナ液と混和後,遠心分離により回収された精子をPC区と同様に洗浄した。それぞれの方法で洗浄した精子は,野口ら(2010)の方法に従い,原形質膜および先体膜の損傷性をフローサイトメトリーにより、運動性については精子運動解析装置を用いて解析した。さらに洗浄後の精子は,体外成熟卵子と体外受精を行い,受精率,媒精後48時間目の卵割率および5日目の胚盤胞への発生率を調べた。【結果および考察】PC区の運動精子の割合および直進性は,対照区に比べて有意に上昇した。PC区の原形質膜および先体膜がともに損傷していない精子(正常精子)の割合は,対照区に比べて有意に高く,原形質膜損傷精子および先体膜損傷精子の割合は,対照区に比べPC区で有意に減少した。PC区の精子を用いて体外受精を行った場合の精子侵入率,正常受精率および多精子受精率は対照区に比べて有意に高かった。卵割率および胚盤胞への発生率も,PC区では対照区に比べて有意に高い値を示した。精子侵入率,卵割率および胚盤胞への発生率は対照およびPC両区で個体による差が認められ,PC区では,それぞれについて正常精子の割合と有意な正の関係性が認められた。以上のことから,PC分離により,運動性に優れ,正常な膜を有しているブタ凍結精子を回収できることが明らかになった。また,PC分離した精子の膜性状は,体外受精能および発生能に関与している可能性が示唆された。
  • 三塚 愛美, 齊藤 陽介, 鈴木 洋祐, 菅野 弘基, 遠藤 成美, 沼辺 孝, 小林 仁
    セッションID: OR2-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】凍結精子では,新鮮精液にくらべ運動性が劣ることが知られている。この原因の一つに,凍結・融解による精子の酸化ストレスがある。本研究では,ROSの中でも細胞障害性が最も強いとされるヒドロキシラジカル(OH)を選択的にスカベンジする水素分子が,凍結・融解精子の酸化ストレスに及ぼす影響について調べた。【方法】ウシ精液(5頭)を,水素分子(H2)で飽和させた凍結保存液で希釈した凍結精液(水素処理区)と無処理の凍結保存液で希釈した凍結精液(無処理区)をそれぞれ調製した。凍結精子を融解し,パーコール濃度勾配層で分離した後,洗浄し精子のROSの発生量,膜の過酸化脂質発生率,生存性,運動性,ATP産生量を測定した。精子のスーパーオキシドアニオン(O2),OH,過酸化脂質および精子生存性の測定は,それぞれジヒドロエチジウム(MOP),HPF(積水メディカル),BODIPY C11(MOP)およびPIの蛍光プローブを用いた。精子の蛍光量の測定は,蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーにより行った。【結果】O2の発生量は,無処理区と水素処理区でそれぞれ51.3と50.6%となり,水素処理の影響は認められなかった。一方,OHの発生量は,無処理区と水素処理区でそれぞれ61.6と53.3%となり,有意に減少した。また,死滅細胞を示すPI陽性精子率は,無処理区と水素処理区でそれぞれ45.2と41.2%を示し,水素処理区で精子の生存性が上昇することが認められた。精子運動性は,水素処理区が融解直後から2時間後まで高く推移した。電子伝達系阻害剤(ロテノン)を添加すると,無添加区および水素処理区の過酸化脂質の発生量は,30と120分後にそれぞれ57.0および50.4%と95.8および90.9%を示し,水素処理区で減少することが認められた。以上のことから,水素分子はOHを選択的に減少させることで凍結・融解精子の酸化ストレスを軽減し,過酸化脂質の発生を抑制し精子の運動性を高めることが明らかとなった。
卵・受精
  • 大串 素雅子, 山中 香織, 糸井 史陽, 山縣 一夫, 若山 照彦, 斎藤 通紀
    セッションID: OR2-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】核小体はリボソームの生合成の場としてよく知られている核内構造体であるが,近年それ以外の様々な機能が報告されている。哺乳類卵母細胞の核小体は初期胚発生進行に必須であるが,その詳細な機能,構成成分はわずかしか知られていない。そこで核小体を除去した受精卵の動態を詳細に解析することで核小体の機能に迫ろうと考えた。【方法】十分に発育したマウス卵母細胞から顕微操作により核小体を除去し,体外成熟を行った。成熟後プローブとなるmRNAを顕微注入し,顕微授精もしくは活性化後,卵の動態をライブセルイメージングにより詳細に観察した。また,核の動態,染色体構造の解析を免疫蛍光染色により行った。【結果および考察】核小体を除去した卵では雌性前核と雄性前核が形成されるがその内部に核小体構造が構築されない。さらに両前核でヘテロクロマチンの高次構造に異常が見られた。また,これらの受精卵は第一分割で細胞周期進行が遅れかつ染色体分離に異常を示す。以上のことから,卵母細胞の核小体成分は受精後のクロマチンと相互作用し正常なヘテロクロマチン構築制御,分裂期染色体構造構築,染色体分離に関わっているのではないかと考えられる。
  • 浜崎 伸彦, 上坂 将弘, 阿形 清和, 今村 拓也
    セッションID: OR2-11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    in vitro 卵操作した胚の発生において、エピジェネティック修飾に異常が見られるケースが多数報告されている。哺乳類の遺伝子のプロモーター領域を鋳型として、mRNAとは逆方向に転写されるpromoter-associated noncoding RNA(pancRNA:>200nt)が存在し、例えば、Sphk1 遺伝子のpancRNAの強制発現系では、配列特異的DNA脱メチル化/遺伝子発現上昇が認められる。本研究ではマウス初期発生胚のエピゲノム形成に関わるpancRNAを同定し、in vitro 活性化に伴う動態を明らかにすることを目的とした。 RNA-seqから、マウス初期胚におけるpancRNAは、未受精卵で3051種、4細胞期卵で2278種存在することが分かった。未受精卵に対し4細胞期卵で5倍以上発現上昇するpancRNAは1357種であった。このうち、mRNA/pancRNA発現が相関する遺伝子座は392(29%)しかなかったが、残りの965のうち747(77%)遺伝子座において、4細胞期卵に対し成体大脳で、mRNA発現が上昇していた。pancRNAに遅れて発現上昇する遺伝子について、DNAメチル化状況を初期胚において調べたところ、例えばIl17d ではpancRNA(panc-Il17d )発現に即応したDNA脱メチル化が認められた。これにより、発生ステージの進行に必要な遺伝子について、pancRNAが先立ってアクティブなクロマチン構造形成・維持に関与するモデルが考えられた。興味深いことに、panc-Il17d はSrCl 2 活性化卵において発現が検出できなかった。逆に、SrCl 2 活性化胚で異常発現するpancRNAも存在し、Cercam Cap2 遺伝子座に認められた。したがってpancRNAは卵のin vitro 活性化状態をモニターできるマーカー分子となりうるだけではなく、その配列特異的エピゲノム変換能を活用することで、全く新しい卵操作法の開発が期待できると考えられた。
  • 畑中 勇輝, 西川 慧, 清水 なつみ, 西原 卓志, 加藤 里恵, 天野 朋子, 岸上 哲士, 佐伯 和弘, 細井 美彦, 松本 和也
    セッションID: OR2-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】受精におけるリプログラミングによって、生殖細胞に終末分化した精子及び卵子は、全ての細胞へ分化可能な全能性を獲得するが、、この受精におけるリプログラミング機構の詳細は未だ明らかになっていない(Hemberger et al., 2009)。このリプログラミング機構を明らかにするために、当研究室では、M_II_期卵子と受精後15時間の胚におけるディファレンシャルディスプレイ解析を行ない (Matsumoto et al., 2001)、生殖細胞特異的に発現する新規遺伝子GSEを同定した(Zhang et al., 2002; Mizuno et al., 2006)。これまでの研究から、GSEは、初期発生過程のリプログラミングに関与するPRMT活性を有すると予想される新規遺伝子GIAP (GSE interacting protein)と相互作用することが明らかになった。本研究では、初期発生過程でリプログラミングされる初期胚及び始原生殖細胞 (PGCs)形成過程におけるGSEとGIAPの発現解析を行なった。【方法】体外受精により得られた初期胚並びに、自然交配により得られたE9.5からE11.5胎子を供試した。初期胚では、Western blot解析と免疫組織化学的解析により発現プロファイルを獲得し、E9.5からE11.5胎子では、in situ hybridizationと免疫組織化学的解析により各遺伝子の発現を検討した。【結果】初期胚において、GSEは前核期胚でのみ核で局在し、GIAPは核と細胞質で局在することが認められた。さらに、前核期の雄性前核で強いGSEのシグナルが認められた。また、PGCs形成過程において、Gse mRNAは、PGCsに限定して観察された。さらに、免疫組織化学的解析では、E10.5でのみ、雄性と雌性PGCsで局在パターンが異なり、GSEは雄性PGCsの核に、一方雌性PGCsでは細胞質に、それぞれGSEのシグナルが局在することを認めた。本研究結果から、GSEとGIAPの発現プロファイルに性差がみられる時期は、初期胚とPGCs形成時期のリプログラミングの時期であったことから(Albert and Peter et al., 2009; Popp et al., 2010)、GSEとGIAPはこの時期に何らかの重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
  • 阿部 宏之, 小川 拓, 渡邊 剛広, 黒谷 玲子
    セッションID: OR2-13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】ミトコンドリアは細胞のエネルギー生産やアポトーシスなどの重要な生物現象に関与しているが、胚におけるその役割は不明な点が多い。本研究では、胚のミトコンドリア呼吸機能を明らかにするために、マウス初期胚における、(1)酸素消費量、(2)活性型ミトコンドリア局在、(3)ATP含量、(4)呼吸鎖複合体IV(COX)タンパク質の局在、(5)COX遺伝子の発現、(6)ミトコンドリアの微細構造を調べた。【方法】B6C3F1及びBALB/cA雌マウスから2細胞から胚盤胞までの各発生ステージの胚を回収し、以下の実験に供した。(1)単一胚の酸素消費量は、受精卵呼吸測定装置(HV-405)を用いて非侵襲的に測定した。(2)胚をMitoTracker Orange CMTM-Rosで染色し、共焦点レーザー顕微鏡により活性型ミトコンドリアの局在を調べた。(3)ATP含量の測定は、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応に基づく測定キット(BacTiter-Glo Microbial Cell Viability Assay kit: Promega)を用いて行った。(4)胚を4%パラフォルムアルデヒドで固定し抗COX6b1 IgGで染色し、COXタンパク質の免疫組織学的に局在を調べた。(5)ミトコンドリアDNA由来COX遺伝子としてCOX1、2および3、核ゲノム由来COX遺伝子としてCOX4,5a、5b及び6bの合計7遺伝子の発現をRT-PCRにより解析した。(6)透過型電子顕微鏡により胚のミトコンドリアの微細構造を観察した。【結果】桑実胚から胚盤胞期にかけて酸素消費量及び成熟ミトコンドリアの顕著な増加が観察された。胚のATP含量は2細胞期から発生に伴い増加し8細胞期でピークに達したが、桑実胚期以降は減少した。一方、COXタンパク質及びCOX遺伝子の発現は、いずれも胚盤胞において2細胞期胚と比べて顕著に増加した。以上の結果から、マウス胚におけるミトコンドリア呼吸機能に関連する生物学的指標の多くは、胚発生に伴って上昇もしくは増加することが示された。
  • 池田 俊太郎, 杉本 実紀, 久米 新一
    セッションID: OR2-14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    [目的]哺乳動物の受精卵はメチオニン代謝回路の酵素群の遺伝子を発現しており、周囲あるいは内因性のメチオニンを代謝していると考えられる。本研究では、ウシ受精卵におけるメチオニン代謝の役割を明らかにするため、メチオニンの代謝拮抗物質(エチオニン)がウシ体外受精卵の発生に及ぼす影響を検討した。合わせてDNAのメチル化と細胞分化関連遺伝子の発現に及ぼす影響を検討した。[方法]食肉市場で採取したウシ卵巣より未成熟卵母細胞を回収し、アミノ酸を含む修正合成卵管液(SOFaa)を基礎とした培地を用いて体外成熟・受精・発生を行い、受精後3日目の5-8細胞期胚を得た。得られた5-8細胞期胚をエチオニン添加あるいは無添加SOFaa(対照区)で受精後8日目まで培養し、受精後6日目における収縮桑実胚および8日目における胚盤胞への発生率を評価した。受精後6日目の収縮桑実胚について、両区におけるDNAのメチル化の程度を抗メチル化シトシン抗体を用いた免疫蛍光染色により比較した。さらにOCT4NANOGCDX2およびTEAD4のmRNA発現について半定量的RT-PCRを用いて比較した。[結果]両区の収縮桑実胚への発生率には差が無かったが、胚盤胞発生率は無添加対照区38.5%に対しエチオニン添加区1.5%であり、エチオニンによる著しい発生阻害が見られた。S-アデノシルメチオニン(SAM;メチオニン代謝回路におけるメチオニンの最初の代謝産物)をエチオニンとともに加えた区では、低率(11.9%)ながら有意(p<0.001)な胚盤胞発生の回復が見られた。エチオニン添加区の収縮桑実胚では対照区に比べDNAのメチル化の程度が低く、またNANOGおよびTEAD4の発現が上昇していた。以上の結果から、メチオニン代謝はウシ受精卵の胚盤胞発生、特に桑実胚から胚盤胞への移行において重要な役割を担っており、その役割は少なくとも部分的にはSAMを介したものであることが明らかとなった。またメチオニン代謝の阻害はDNAの低メチル化と細胞分化関連遺伝子の発現の異常を引き起こすことが示唆された。
  • 若井 拓哉, Fissore Rafael
    セッションID: OR2-15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    Ca2+ is the universal signal for the egg activation and initiation of embryo development in all species studied to date. The sarcoendoplasmic reticulum Ca2+ ATPase (SERCA), which is located in the endoplasmic reticulum (ER) membrane, imports Ca2+ into the lumen of the ER. Despite the pivotal role of SERCA in Ca2+ homeostasis in the cell, its function has not been investigated in mammalian oocytes. Herein we demonstrate that SERCA2b plays crucial roles in an increase in the ER Ca2+ stores during oocyte maturation and subsequent Ca2+ oscillations after egg activation. The inhibition of SERCA by cyclopiazonic acid (CPA), a specific inhibitor of SERCA, prevented the accumulation of Ca2+ into ER during oocyte maturation. Expression of GFP-tagged SERCA2b isoform showed that SERCA2b is redistributed during oocyte maturation to form an organized reticular network in mature oocytes. The overexpression of SERCA2b increased the oocyte’s ER Ca2+ sequestering ability. Furthermore, the direct ER Ca2+ measurement by a FRET-based Ca2+ sensor reveals that SERCA is required for Ca2+ oscillations via the rifiling of ER Ca2+. Collectively, our results suggest that the increase in ER Ca2+ stores via SERCA2b may underpin the robust Ca2+ release from the ER at fertilization. In addition, the pump’s activity makes possible and the refilling of the transiently depleted Ca2+ stores to maintain the persistent Ca2+ oscillations required for the initiation of embryo development.
  • THANH Lam Thi Ngoc, 舟橋 弘晃
    セッションID: OR2-16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】 中小卵胞から採取後にグルコース6リン酸脱水素酵素(G6PD)活性の指示薬であるBrilliant cresyl blue(BCB)を用いて評価した卵母細胞の特徴を明らかにするために、RNA量およびその局在と体外成熟能を調べた。
    【方法】 ブタ卵巣表層の存在する小卵胞(SF; 直径1-2 mm)および中卵胞(MF; 直径3-6 mm)から採取した卵母細胞卵丘細胞塊(OCCs)を卵細胞質中G6PD活性の有無により2区(それぞれLBおよびDB)に分類した。その後、既報に従って体外培養(IVM: eCG, hCG, dbcAMP存在下で20時間、不在化で24時間)を行うとともに、Quant-iT RNA BR Assay Kit およびSYTO RNA select greenを用いて卵内RNA量およびその局在をそれぞれ調べた。
    【結果】 採取直後にOCCsをBCBアッセイで評価したところ、DB細胞質を有する卵母細胞の割合はSF 由来 (53.6%)よりもMF由来OCCsで高かった(72.5%)。また、IVM後の卵成熟率は、OCCs由来卵胞の直径に関係なく、LBよりDB細胞質を有する卵母細胞で高かった(SF-LB 52.8%, MF-LB 50.9%, SF-DB 64.0%, MF-DB 72.1%)。また、IVM開始20時間に卵核胞内にRNAシグナルが明らかに認められない卵母細胞の割合が、LBよりDB卵で高かった(MF-DB 66.1%, MF-LB 26.8%, SF-DB 47.9%, SF-LB 17.9%)。IVM開始直前の卵内RNA量は、SF-DBよりもMF-DB卵で高く、SF-LBおよびMF-LB卵で最も低かったが、IVM開始後20時間および44時間には、すべての区で顕著に低下し、区間に差がなくなった。
    【結語】 以上の結果から、中小卵胞から採取され、BCBアッセイで分類された卵母細胞中のRNA量およびその局在が大きく異なることが明らかとなり、それらの違いが体外成熟能に関係している可能性が示唆された。
  • DORJI Dorji, 大久保 幸弘, 三好 和睦, 吉田 光敏
    セッションID: OR2-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】春機発動前後のウシ由来卵子の発生能は性成熟個体由来に比べて低いが、その原因は明らかでない。本研究では卵巣採取個体の性成熟状況の違いがウシ体外成熟卵の遺伝子発現状況に及ぼす影響についてマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。【方法】黒毛和種ウシ卵は食肉センター由来の性成熟個体(24~35ヶ月齢)(MO)または経腟卵巣割去法により採取した春機発動直前個体卵巣(9~10ヶ月齢)(IMO)から採取した。総RNAは採取直後の卵核胞期(GV)および25mMHepes添加TCM199+10%FBSにて22時間体外培養後に採取した第2成熟分裂中期(MII)の卵から抽出し、GeneChip Bovine Genomeアレイおよび定量RT-PCR法を用いて遺伝子発現状況を解析した。【結果】アレイで解析可能な24,072個のウシ遺伝子を比較した結果、GV卵間において遺伝子発現変動が見られたのは333個であった。このうちMO由来卵に比べ、IMO由来卵で発現量が少ない遺伝子は157個であった。一方、MII卵間において発現変動が見られたのは549個であり、このうちMO由来卵子に比べ、IMO由来卵子で発現量が少ない遺伝子は237個であった。さらに、クラスター解析の結果、遺伝子発現状況が卵巣採取個体の性成熟状況により2グループに明確に分かれた。一方、アレイ解析にて性成熟状況により遺伝子発現変動が大きかった一部の遺伝子について、定量RT-PCR法で発現状況を比較したところ、アレイ解析結果と一致した。以上の結果から、卵巣採取個体の性成熟状況によってウシ卵の遺伝子発現状況が異なり、本培養条件下では体外成熟後により顕著となることが明らかとなった。
  • 名古 満, 小田嶋  和治, 藤井 順逸, 木村 直子
    セッションID: OR2-18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】これまで我々は、抗酸化酵素であるSOD1の遺伝子欠損マウス(SOD1KO)卵を体外成熟(IVM)-受精させた場合、卵成熟過程での酸化ストレスにより、受精後、第2減数分裂中期(MII期)から終期で発生停止することを報告している(2010年度第103回大会)。本研究では、この受精障害の原因究明に当って、減数分裂過程に注目し、減数分裂の進行速度、紡錘体の形態について調べた。また酸化ストレス障害を受けている細胞周期制御分子を明らかにする目的で、減数分裂再開に関与するPI3K-Akt経路の活性化を制御する PTENの発現動態についても調べた。 【方法】ICR系SOD1KOおよび野生型マウス(WT)から卵核胞(GV)期卵を採取し、20% O2下で18時間のIVMを行った。その間2時間毎に卵をサンプリングし、α-tubulin抗体による蛍光免疫染色を行い、核相を評価した。またIVM18時間での卵の紡錘体極間距離、紡錘体面積、MII期染色体整列について評価した。さらに各核相ステージでのPTENの発現局在についても蛍光免疫染色により調べた。 【結果および考察】IVM 4時間で、WT卵では、32.5%がGV期、62.5%が卵核胞崩壊(GVBD)期、5%がMI期であるのに対し、SOD1KO卵では、2.6%がGV期、55.3%がGVBD期、42.1%がMI期であり、早期にGVBDが起こるためにMI期への進行が早いことが明らかとなった。MII期への進行は、WT卵ではIVM 10時間以降でみられたのに対し、SOD1KO卵では、IVM 8時間からみられた。卵の紡錘体極間距離および紡錘体面積は、WT卵に比較しSOD1KO卵で有意に小さく、SOD1KO卵では染色体分散が有意に増加した(43.8%)。一方、PTENは、GV期では細胞質全体に、特にNSN(non-sorrounded nucleous)では核付近に強い局在がみられた。また、M期では紡錘体上に局在がみられた。WTとSOD1KO卵では、局在に大きな違いはみられなかったものの、M期ではSOD1KO卵で発現が低下している傾向がみられた。以上の結果から、卵成熟培養系でのSOD1の欠損は卵核胞崩壊の早期化と紡錘体の矮小化を引き起こすことが示された。現在、これらの現象へのPTENの関与についてさらに解析を進めている。
  • 佐藤 康子, 末永 真奈美, 藤井 順逸, 木村 直子
    セッションID: OR2-19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】我々は哺乳類の卵成熟過程における酸化ストレスの影響を明らかにする目的で,抗酸化酵素であるSOD1の遺伝子欠損マウス(KO)卵をモデルに培養系の発生能について検討してきた。これまでに,20%O2濃度下で体外成熟-受精させたSOD1KO卵では,第2減数分裂中期~終期で発生停止し,還元剤または抗酸化物質の添加によっても解除されないことを報告している(2010年度第103回大会)。この時SOD1KO卵では,野生型(WT)卵と比較し,多数の精子の透明帯付着がみられたことから,今回はSOD1KO卵の多精子受精について,詳細を調べたので報告する。【方法】ICR系未成熟雌のWTおよびSOD1KOマウスに過排卵処理を行い,排卵卵子および体外成熟(IVM)卵子を得,同系のWT精子を用いて体外受精を行った。受精6時間後にα-tubulin抗体を用いた蛍光免疫染色を行い,核相および透明帯内侵入精子,多精子受精を評価し,さらに透明帯の厚さや囲卵腔の面積を計測した。またSrCl2による卵活性化処理後,表層顆粒の分布およびCaMK_II_の活性化,透明帯の構造変化を評価した。【結果および考察】排卵卵子ではWT卵,SOD1KO卵いずれも前核形成率(約66%),透明帯内多精子侵入率(19~25%),多精子受精率(10~12%)に有意な差はみられなかった。一方,IVM卵子ではWT卵の前核形成率85.3%に対し,SOD1KO卵は全て第二減数分裂中期から終期にあった。また,IVM卵子の透明帯内多精子進入率はWT卵22.7%に対し,SOD1KO卵75.5%となり,SOD1KO卵で有意に高くなったが,多精子受精率(13~14%)に有意な差はみられなかった。さらに,囲卵腔面積は排卵卵子と比較してIVM卵子で有意に小さくなり,透明帯の厚さはIVM後のSOD1KO卵で有意に小さくなったが,表層顆粒の分布やCaMK IIの活性化に大きな違いはみられなかった。以上から,SOD1KO卵でみられる透明帯内多精子侵入は,受精シグナル後の不完全な透明帯ブロック反応に起因する可能性が考えられた。
  • 原 弘真, HWANG In-Sul, 桑山 正成, 平林 真澄, 保地 眞一
    セッションID: OR2-20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【目的】ウシ成熟卵母細胞を超急速ガラス化法によって保存すれば加温・体外受精後に胚盤胞を得ることができるが,その発生率には改善の余地が残されている。ウシやヒトなどの哺乳類では精子由来の中心体を起点にして星状体ができ,そこから伸長するチューブリン繊維網が雌雄前核の接近に重要な役割を演じる。本研究ではガラス化・加温したウシ卵子に体外受精を施し,精子由来の中心体を正常な微小管形成中心 (MTOC) として機能させているかどうかを調べた。【方法】屠場由来のウシ卵巣から回収した卵丘卵母細胞複合体を22時間成熟培養し,卵丘細胞層を除去した後に第一極体の確認できた卵子を集めた。15% エチレングリコール,15% DMSO,0.5 M シュクロース,20% FBSを含むガラス化液を用い,クライオトップをデバイスとしてこれらの裸化卵子を超急速ガラス化保存した。加温卵子は1〜2時間の回復培養を行った後に6時間媒精し,さらに4時間後にαチューブリンに対する免疫染色とDAPIによる核染色を施した。共焦点レーザー顕微鏡によりスタック画像を取得し,星状体形成卵子率,前核間距離,ならびに前核のサイズを解析した。【結果】新鮮対照区とガラス化区とのあいだで胚盤胞発生率に有意差が認められた (34 vs 10%)。星状体の形成卵子率はいずれの試験区も90%以上であったが,複数の星状体が観察された接合子の割合がガラス化区において有意に多かった (28 vs 66%)。さらに複数の星状体が観察されたこれらの接合子では,ガラス化の有無に係わらず雌雄前核の接近,および前核の成長が阻害されていた。媒精から免疫染色までの時間を5.5および8時間に短縮したところ複数の星状体は雄性前核近傍でのみ観察されたので,複数認められた星状体は卵子由来のものではないと思われた。精子中心体をMTOCとして機能させるための段取りに異常を生じさせる卵子環境がガラス化行程によって誘起され,発生率低下の一因となっているかもしれない。
  • 谷原 史倫, 中井 美智子, 野口 純子, 金子 浩之, 菊地 和弘
    セッションID: OR2-21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    ブタ卵母細胞(以下,卵)において,体外受精(IVF)時の多精子侵入は他の哺乳類に比較して頻発し,受精卵の発生率が低い原因の一つである。そのため,多精子侵入を防ぐ有効な手段の確立が求められている。本研究では,多精子侵入を防ぐ機構として知られる透明帯反応と,マウス卵で報告のある卵細胞膜による多精子拒否がブタ卵において機能しているかを検討した。また,ウシ卵で精子と卵細胞膜の接着因子としてフィブロネクチン(Fn)の重要性が報告されている。FnのIVF液への添加が受精に及ぼす影響を検討した。 【方法】体外成熟培養後,第一極体を放出し透明帯を有する成熟卵(ZP(+)卵)と,ZP(+)卵をプロナーゼ処理後に機械的に透明帯を除去した卵(ZP(-)卵)を用いた。実験1ではZP(+)卵とZP(-)卵に,4頭の種雄豚からの凍結精巣上体精子にてIVFを行い,IVF開始10時間後に固定し染色後に精子侵入状況を調べた。実験2では,うち1頭からの精子を用いてZP(+)卵とZP(-)卵において1,2,3,4,5および10時間での精子侵入状況を確認した。実験3ではZP(-)卵を用い,媒精時間を延長した2実験区(5時間,対照区は3時間)について,3,5および10時間後の精子侵入状況を確認した。実験4ではZP(-)卵を用い,ウシ血漿由来のFn(0 nM(対照区),10 nM,100 nMならびに500 nM)を添加してIVFを行い,10時間後の侵入精子数を調べた。 【結果】4頭中3頭の種雄豚において,ZP(+)卵と比較しZP(-)卵で精子侵入率・侵入精子数共に有意(P<0.05)に低かった(実験1)。ZP(+)卵,ZP(-)卵共に時間経過に伴い精子侵入率が増加し,ZP(+)卵では侵入精子数も増加した(実験2)。IVF5時間の区では対照区と比較し10時間後の精子侵入率・侵入精子数が有意(P<0.05)に増加した(実験3)。Fnの濃度が上昇すると侵入精子数は減少し,0 nM区と500 nM区の間に有意差(P<0.05)が認められた(実験4)。 【結論】ブタでは透明帯反応と卵細胞膜による多精子拒否は十分に起きてはおらず,透明帯の存在が精子の侵入を促進する可能性が示された。さらに,ブタにおいてもFnが関与している可能性が示唆された。
性周期・妊娠
  • 齋藤 恭佑, 福井 えみこ, 吉澤 緑, 松本 浩道
    セッションID: OR2-22
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々はマウス着床遅延モデルを用いて、breast cancer 1 (Brca1) のmRNAおよびタンパク質が、着床誘起胚において着床遅延胚より高い発現を示すことを報告した。本研究では、マウス胚盤胞における通常の体内発生胚盤胞および体外培養系で作出した胚盤胞におけるBrca1の発現動態を検討した。マウス胚盤胞はエストロゲンの一過性の作用を受け着床能力を獲得する。そこで、エストロゲン作用前後の体内発生胚盤胞におけるBrca1の発現動態を検討した。また、体外受精 (IVF) 胚盤胞におけるBrca1の発現動態を検討した。次に、Brca1の発現が低いIVF胚を、体外培養系でBrca1の発現誘起が可能であるか検討した。また、体内で着床遅延状態を維持したBrca1の発現が低い着床遅延胚を、体外培養系でBrca1の発現誘起が可能であるか検討した。【方法】膣栓確認日を妊娠1日目とし、妊娠4日目の10時、18時、23時に体内発生胚を回収した。IVF胚は、培養開始後96時間および120時間の胚盤胞を回収した。Brca1発現解析は免疫蛍光染色で行った。次に、IVFによって得た胚盤胞または着床遅延胚を、4-hydroxyestradiol (4-OH-E2)、epidermal growth factor (EGF)、prolactin (PRL)を添加した体外培養系で培養し、Brca1発現を解析した。【結果および考察】体内発生胚盤胞におけるBrca1は、エストロゲンの作用前である10時の胚およびハッチング前後である18時の胚において低い発現を示したのに対し、着床直前である23時の胚盤胞における栄養外胚葉 (TE) の核で高い発現を示した。一方、IVF胚におけるBrca1は低い発現を示した。体外培養系に4-OH-E2、EGF、PRLを添加した結果、IVF胚におけるBrca1はTEの核で発現上昇を示した。また、体内で発生した着床遅延胚を、体外培養系に4-OH-E2、EGF、PRLを添加した結果、Brca1はTEの核で発現上昇を示した。本研究により、IVF由来および着床遅延由来のいずれの胚盤胞における低Brca1発現状態に対し、4-OH-E2、EGF、PRLがBrca1発現を誘起できることが示された。
  • 山本 ゆき, 山本 達也, ALLEN Twink, STANSFIELD Fiona, 渡辺 元, 永岡 謙太郎, 田谷 一善
    セッションID: OR2-23
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
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    【背景と目的】ゾウの生殖メカニズムには未解明な点が多く,妊娠維持機構もその一つである。ゾウの妊娠期間は,約22ヶ月間と,陸上哺乳類で最も長く,卵巣には,妊娠期を通して複数の大きな黄体が存在している。アフリカゾウの胎盤では,ステロイドホルモンの合成が行われていないと考えられており,妊娠全期間を通して,プロジェステロン(P)は黄体から分泌されていると推察される。しかし,妊娠期中の黄体を刺激する因子は未だ発見されていない。私共は,ゾウの妊娠後半期に、血中プロラクチン(PRL)濃度が高値を示し、胎盤中にはPRL様物質が含有されていることを明らかにしてきた。本研究では,ゾウの妊娠維持機構の解明を目的として,アフリカゾウの全妊娠期間を通した胎盤中PRL様物質の局在を解析し,P分泌との関連性を検討した。 【材料と方法】南アフリカ共和国およびジンバブエで淘汰された妊娠アフリカゾウ38頭から,妊娠初期から末期にかけての胎盤および子宮内膜を採取し,抗ヒトPRL抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。 【結果】着床前の,子宮内膜に接着している栄養膜細胞において,明瞭なPRL様物質の陽性反応が認められ、子宮内膜腺にもわずかに陽性反応が認められた。着床以降の胎盤組織においても,全妊娠期間を通し胎盤の栄養膜細胞に明瞭な陽性反応が認められた。 【考察】これらの結果から,アフリカゾウの妊娠期において,着床前の段階から栄養膜細胞がPRL様物質を分泌していると推察された。今回局在が認められたのが栄養膜細胞であることから,胎盤性ラクトージェン(PL)である可能性が示唆された。ゾウでは,排卵後、血中P濃度は上昇するがその後一時的に低下,着床の起こる妊娠約7週に再度上昇し,分娩まで高値を維持する。これらの結果を総合すると,ゾウでは着床以降,栄養膜細胞のPRL様物質がパラクリン的に黄体に作用し,P分泌を刺激して22ヶ月間の妊娠を維持しているものと推察された。 本研究は,乾太助記念動物科学研究助成基金によって支援された。
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