日本繁殖生物学会 講演要旨集
第109回日本繁殖生物学会大会
選択された号の論文の182件中1~50を表示しています
優秀発表賞(口頭発表二次審査)
精巣・精子
  • 梅津 康平, 平舘 裕希, 原 健士朗, 種村 健太郎
    セッションID: AW-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】近年,ウシの人工授精における受胎率の低下が問題となっており,この一要因として凍結精液の質的低下による受精の不成立が問題視されている。これまで我々は,マウスを用いた先行研究において,細胞間シグナル伝達物質のニューロテンシン(NT)が精子の受精能を正に制御することを報告した。もしウシにおいても同様の機構が保存されていれば,NTを利用した精子受精機能の人為的制御への応用が期待できる。そこで本研究では,ウシの受精現象に必要不可欠な精子の機能的変化(受精能獲得,先体反応および精子運動性)に対するNT添加の影響を明らかにすることを目的とした。【方法】黒毛和種の凍結精液について,免疫組織化学染色とウエスタンブロッティングによりNT受容体(NTR)の発現を,また,子宮および卵管におけるNTの発現を検討した。次に,ウシ精子のチロシンリン酸化を指標としてNTによる受精能獲得への影響を検討した。さらに,ウシ精子先体に特異的に結合するレクチンを用いてNTによる先体反応への影響を検討した。最後に,精子運動解析装置を用いてNTによるウシ精子運動性への影響を検討した。【結果】ウシ精子頸部においてNTRの発現を,さらに子宮および卵管においてNTの発現が確認された。また,ウシ精子のチロシンのリン酸化および先体反応精子の割合はNTの用量依存的に増加していた。一方,検討した全ての運動パラメーターにおいて有意差は確認されなかった。以上の結果より,体外培養下のウシ精子において,NTは精子上のNTRを介して受精能獲得および先体反応を促進することが示唆された。よって生体内においても,NTは受精の場である雌性生殖器内で分泌され,精子機能を助長し,受精現象に貢献していることが推察される。本研究により,NTがウシ凍結精液の制御・質的向上に貢献する可能性を示し,NT-NTRを介した雌側からの精子機能調節機構の一端が明らかになった。今後の研究により,ウシ凍結精液を用いた人工授精のさらなる発展への貢献が期待される。

  • 野田 大地, 藤原 祥高, 松村 貴史, 伊川 正人
    セッションID: AW-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】哺乳類の交尾時には,精巣上体尾部精子と副生殖腺(主に精嚢腺)由来の分泌液が混合されて,雌性生殖道内へ射出される。精嚢腺を外科的に除去したオスマウスの妊孕性が低下するので,精嚢腺分泌液はオス繁殖能力に重要とされてきたが,その実態と機能の詳細はよく分かっていない。本研究では,マウス精嚢腺から分泌される主要なタンパク質seminal vesicle secretions(SVS) ファミリーの中で,ヒトでも保存されており,精子の体内受精能力に関与することが示唆されているSvs7 [prostate and testis expression 4(Pate4)] のノックアウト(KO) マウスを作製し,その表現型解析を通して,オス繁殖能力におけるマウス精嚢腺の役割を調べた。【方法と結果】Pate4 KOオスを野生型(WT)メスと同居させたところ,交尾するにも関わらず殆ど出産しなかった [出産回数/同居した月数:コントロール(Ctrl) は2.1,KOは0.4]。交尾後の子宮内に存在するKO射出精子数はCtrlと比べて減少したことから(Ctrl:1.6×106精子,KO:0.2×106精子),KOオスと交尾した直後のメスを観察したところ,膣栓が小さく(Ctrl:30.7 mg,KO:6.1 mg),精液が漏れ出ていた。 次に,精嚢腺液の精子への付着が精子の体内受精能力に及ぼす影響を調べた。WT尾部精子を発情移行期メスの子宮内へ人工的に注入 [artificial insemination(AI)] したところ,97%の受精率が得られた。また,尾部精子と精嚢腺液を体外で付着させた尾部精子をそれぞれAIしてみたが,両者の間で精子生存性に差はなかった。【結論】精嚢腺分泌タンパク質PATE4は膣栓形成に関わる新規分子であり,膣栓形成を介してオスマウスの妊孕性を担保する。マウスにおいて,精嚢腺分泌液は精子の体内受精能力に必須ではない。

  • 小林 記緒, 岡江 寛明, 樋浦 仁, 千葉 初音, 白形 芳樹, 原 健士朗, 有馬 隆博, 種村 健太郎
    セッションID: AW-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【背景と目的】一般に精子産生の開始を以て性成熟と見なす(性成熟直後を性成熟早期とする)が,経験的に繁殖に供する最適な時期は,性成熟直後よりも多少の時間を経た時期であると考えられている(繁殖期とする)。比較的長い繁殖期を経て,さらに加齢が進むと,精子数は減少傾向を示し,やがて個体としての繁殖期を終える(繁殖晩期とする)。精子の主要なDNAメチル化様式は,受精後の胚発生における転写制御に必須であり,繁殖期の定常状態を保つとされている。近年,老齢動物由来精子において,幾つかの遺伝子のDNAメチル化様式が変化することから,受精・発生率の低下や産仔の発生発達異常のリスクの上昇が懸念されているが,加齢に伴って変化するゲノム領域の詳細は明らかになっていない。本研究は,加齢による精子のエピジェネティック変化を1塩基解像度で明らかにすることを目的とした。【方法】性成熟早期として生後8週齢(8w),繁殖期として18週齢(18w),繁殖晩期として17ヶ月齢(68w)の C57BL/6N雄マウスの精巣上体精子をスイムアップ法により採取し,ゲノム網羅的DNAメチル化解析に供し,エピジェネティック変化したゲノム領域を同定した。【結果と考察】加齢に伴い,長鎖散在反復配列(LINE)のメチル化レベルは上昇したが,18wと68wのゲノム全体のメチル化レベルに大きな差はなかった。興味深いことに,8wの精子形成関連遺伝子群のプロモーター領域と母性インプリント調節領域において,18wと68wに比べて5–10%の有意に高いメチル化レベルを示した。さらに,個々のシーケンスリードについて解析した結果,8w精子の一部がこれらの領域において,高メチル化(60–100%)されていることを示した。これは,8w精子の一部が不完全なDNAメチル化様式をもつことを意味する。以上より,性成熟直後のマウス精子にはDNAメチル化様式が不完全なものが含まれており,その様式は加齢とともに解消され,その後の繁殖期から繁殖晩期を通じて長期間維持されることを示した。

卵巣
  • 川合 智子, 星野 由美, 島田 昌之
    セッションID: AW-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【背景・目的】FSHは顆粒層細胞のLH受容体(LHCGR)形成に必須であるが, FSH刺激直後にLhcgrは発現されず,排卵刺激(LHサージ)前に発現が認められる。我々は,この時間差に着眼し,直接的な発現制御として,マウスのLhcgrプロモーター領域は,転写因子β-cateninとSp1に制御されることを見いだした。しかし,両者は共にFSHが直接的に活性化することから,何らかの間接的制御機構も存在すると仮説立てた。そこで,本研究では,Lhcgr発現のエピジェネティック制御機構について,プロモーター領域のDNAメチル化状態に着眼し,解析を行った。【方法・結果】マウスLhcgrのプロモーター領域において,Sp1結合部位にCpG配列が15個認められた。バイサルファイトシーケンス法を用いてCpG配列のメチル化状態を調べた結果,卵胞膜では,恒常的に20 %以下であったのに対して,FSH投与前の顆粒層細胞と卵丘細胞は,50 %以上がメチル化状態であった。これは,FSHにより顆粒層細胞でのみ20 %以下にまで低下し,それに伴い,Lhcgr発現が誘導された。DNAメチル化に関わる遺伝子の発現解析を行った結果,顆粒層細胞においてDnmt1(メチル化維持)発現がFSH投与により半減した。組織培養系を用いて細胞増殖との関係性を調べた結果,FSH単独ではLhcgr発現は低値であったが,DNMT1抑制剤(5azadC)との添加により,Lhcgrプロモーター領域の脱メチル化とLhcgr発現が誘導された。これらの効果は,DNA複製抑制剤(aphidicolin)により有意に抑制された。【考察・結論】卵胞発育過程における細胞種および時期特異的なLhcgrの発現は,プロモーター領域のメチル化状態により決定されていることが初めて明らかになった。さらに,発現誘導する脱メチル化は,顆粒層細胞の増殖とDnmt1発現の低下による「DNA複製時のメチル化のコピー不全」により生じることも示された。

卵・受精
  • 日下部 央里絵, 浜崎 伸彦, 永松 剛, 尾畑 やよい, 平尾 雄二, 濱田 律雄, 島本 走, 今村 拓也, 中島 欽一, 斎藤 通紀, ...
    セッションID: AW-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    生殖系列のライフサイクルは,生命が永続的であるための基本原理である。特に卵母細胞系列は発生の進行に不可欠であるため,この形成機構の解明は重要である。しかし,卵母細胞は産生数が少なく,胎仔期に分化するため解析が進んでいない。そこで本研究では,完全培養下で,ES/iPS細胞から卵母細胞を作出する培養系構築を目的とした。核型XXのES/iPS細胞をBMP4などを含む培地で始原生殖細胞(PGCLCs)に分化誘導し,卵巣体細胞と混合させ再構成卵巣を作製した。PGCLCsから二次卵胞までをin vitro differenciation(IVDi)培地,二次卵胞からGV卵までの成熟過程をin vitro growth(IVG)培地,GV卵からMII卵までをin vitro maturation(IVM)中により培養した。これらの卵母細胞系列の遺伝子発現をRNA-seqにより生体由来と比較した結果,相関係数はr=0.98以上を示した。またCOBRA法とバイサルファイトシーケンス法にてインプリントを評価した結果,ES細胞由来と生体由来のMII卵の間において差は見られなかった。さらに,得られたMII卵を用いてIVFにより個体形成能を評価した。その結果,IVFにより得られた受精卵の約60%が二細胞期胚へと発生し,これらを移植すると3.5%の割合で産仔が得られた。得られた産仔はすべて成長し,交配した個体はすべて妊孕性をもつことが明らかとなった。これらのことから,多能性幹細胞を起点とした個体形成能を持つ卵母細胞を作出することが可能となった。しかし産仔の得られる確立は未だに十分ではなく,今後も培養系の改良は必要であることが考えられる。

生殖工学
  • 中村 隼明, 今 弥生, 吉田 松生
    セッションID: AW-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】精子幹細胞は,不妊宿主の精巣内に移植すると生着して完全な精子形成のコロニーを形成できる。しかし,コロニーが形成される過程はブラックボックスとして残されてきた。また,現状では精子幹細胞のコロニー形成効率が低いことが,雄性遺伝資源の保存やヒト男性不妊症の治療への応用を阻む一因となっている。本研究は,マウスをモデルに用いて移植後の精子幹細胞の振舞いを解析し,その知見に基づいて移植効率の向上を図ることを目的とした。【方法】ライブイメージング法による連続観察およびパルス標識法による子孫細胞(クローン)の解析により,移植後のマウス精子幹細胞の振舞いを,単一細胞の分解能で解析した。続いて,精子幹細胞の分化シグナルであるレチノイン酸の一過的な合成阻害が,最終的なコロニー形成効率へ及ぼす効果を検討した。【結果】ライブイメージングの結果,移植後の精子幹細胞は基底膜上を活発に移動しており,「分裂」と細胞間橋の断裂(「断片化」),「細胞死」が定常状態と比較して高頻度で起こることが明らかになった。クローン解析の結果,移植後に基底膜上に到達した精子幹細胞のほとんどが30日以内に消失し,そのうちコロニーを形成したのはわずか1/40であることを見出した。移植後に基底膜上に到達した精子幹細胞1つ1つの運命は非常に多様であり,すべてが自己複製するのではなく,その多くは「分化」して最終的に消失することを発見した。そこで,宿主マウス精巣におけるレチノイン酸合成を一過的に阻害した結果,最終的なコロニー形成効率を4.8倍向上させることに成功した。以上より,本研究は移植後の環境を操作することで,精子幹細胞の運命を変えることに初めて成功した。

  • 山下 司朗, 出田 篤司, 相馬 茉莉絵, 山口 遼作, 千葉 史織, 小牧 春菜, 伊藤 哲也, 小西 正人, 青柳 敬人, 千代 豊
    セッションID: AW-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】中大型家畜に対する遺伝子改変技術の利用は,様々な有用タンパク質の生産,異種臓器移植用家畜,病態モデル家畜の作出など多岐の分野へ広がりを見せている。近年,特定遺伝子ノックアウト(KO)により臓器を欠損するような胚盤胞期胚に別個体の多能性幹細胞などを注入することにより,注入細胞に由来する臓器を持った個体を作出できることが報告された(胚盤胞補完法)。本研究ではNANOS3遺伝子KOマウスにおいて生殖細胞が特異的に欠損することに着目し,NANOS3遺伝子KO黒毛和種の生殖細胞が欠損するか,さらにはホルスタイン種の未分化細胞を胚盤胞補完することで黒毛和種の体内にホルスタイン種の生殖細胞が形成されるかを調査した。【方法】NANOS3遺伝子ホモKO(NOS3–/–)黒毛和種雌胎仔由来線維芽細胞を樹立し,体細胞核移植(SCNT)および受胚牛への胚移植後,妊娠後期に帝王切開によってNOS3–/–胎仔を回収した。また,キメラ胚の作製はNOS3–/–細胞のSCNT後,5日間体外培養した桑実期胚へ同発育ステージのホルスタイン種雌IVF胚の割球を少量入れることにより行い,前述と同様にキメラ胎仔を回収した。キメラ胎仔の各種臓器におけるキメラ率はNANOS3ゲノムを標的としたReal Time PCRにより行い,生殖細胞の確認は卵巣切片をHE染色およびNANOS3,ESR1,GDF9およびVASAを対象とした免疫染色により行った。【結果】回収胎仔の卵巣切片観察の結果,NOS3–/–胎仔においては卵胞卵子が完全に欠損することが明らかとなった。また,キメラ胎仔の卵巣においては,卵胞卵子の存在が確認でき生殖細胞補完が起きたことが示唆された。キメラ率解析の結果,キメラ胎仔の各種臓器において一定量のNANOS3ゲノムの存在が確認でき,ホルスタイン種由来細胞の寄与を示していた。さらに,形成された生殖細胞はNANOS3,ESR1,GDF9およびVASA陽性であり,機能を有したホルスタイン種由来生殖細胞であることが確認できた。

一般口頭発表
性周期・妊娠
  • 鈴木 惇文, 白水 貴大, 岩野 弘暉, 小木曽 貴季, 山内 伸彦, 栁川 洋二郎, 永野 昌志, 唄 花子, 川原 学, 高橋 昌志
    セッションID: OR1-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】ウシの子宮組織機能は発情周期及び着床期において絶えず変化している。特に,受精後14–18日では胚からIFN-τが分泌され,黄体退行が阻止されることで妊娠が維持される。そのため,この期間は妊娠認識とともに着床・妊娠の準備のための期間でもある。細胞内のタンパク質分解・再利用に関わるオートファジー機構は異化,細胞増殖,分化など,細胞内の代謝・環境変化に関わることが知られている。生殖組織においても,ステロイドホルモン依存的なオートファジー動態の変化がマウス子宮組織で見られる。しかし,ウシにおいては,オートファジーと子宮組織との関わりは未解明である。そこで,本研究では発情周期及び着床前期のウシ子宮組織におけるオートファジー及び,関連の深いリソソームカテプシンの動態を明らかにすることを目的とした。【方法】食肉検査場由来のウシ子宮を卵巣所見及び頸管粘液の状態・インピーダンス値を指標として,発情期,黄体前期,黄体中期,黄体後期のステージに分け,子宮内膜小丘間組織を採取した。また,AI後,14日及び18日で子宮灌流により胚を確認できたウシの子宮内膜組織を採取した。採取した子宮内膜組織からmRNAを抽出し,オートファジー関連因子(ATG3ATG5ATG7LC3αLC3βmTORBeclin1)及びリソソームカテプシン群(CTSBCTSDCTSLCTSZ)の遺伝子発現定量解析を行った。【結果】発情周期のウシ子宮内膜小丘間組織におけるオートファジー関連因子の遺伝子発現に変動は見られなかったが,妊娠14日及び18日ではLC3αの有意な上昇が見られた。また,リソソームカテプシン群については,発情周期間での発現動態に差は見られなかったものの,妊娠14日及び18日でCTSZの有意な上昇が見られた。以上の結果よりウシ子宮におけるオートファジー-リソソームカテプシンは,妊娠特異的に変動し,着床に向けた子宮改編への関与が示唆された。

  • 酒井 駿介, 八木 まみ, 久世 真理子, 山本 ゆき, 木村 康二, 奥田 潔
    セッションID: OR1-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】世界的な地球温暖化に伴い,夏季のウシ受胎率の低下が問題視されており,その一因として夏季のHSがウシの発情周期に影響を及ぼすことが報告されている。発情発現には黄体の存在が密接に関与しており,黄体は子宮内膜から分泌されるPGF2 alpha(PGF) により黄体退行が誘導され,PGE2により維持される。子宮内膜による黄体退行制御のためのPGs産生はoxytocin(OT) およびTNF alpha(TNF)によって調節されるが,この黄体退行制御メカニズムに対するHSの影響は不明である。本研究はHSによる発情周期の乱れの一因を明らかにするために,黄体退行を制御する子宮内分泌機能に及ぼすHSの影響を検討した。【方法】培養ウシ子宮内膜上皮細胞にOT,間質細胞にTNFを添加し,40.5°Cで10時間,38.5°Cで14時間,最後に40.5°Cで10時間培養した。1) 培養上清中のPGE2およびPGF濃度をEIA,2) 間質細胞のPG合成酵素およびTNF受容体mRNA発現を定量的RT-PCR法により測定した。【結果】1) 上皮細胞のPGE2およびPGF産生はOTにより増加したが,HSによる影響は見られなかった。一方,間質細胞においてPGE2およびPGF産生はTNFにより増加し,HS処理によりさらに増加した。また,0.6 nMのTNFを添加した間質細胞においてPGE2/PGF比はHS処理により有意に増加した。2) TNF添加によりCOX2 mRNA発現は有意に増加し,PLA2およびPGES mRNA発現は増加傾向が見られた(P=0.08,0.06)。HS処理によりPLA2PGESおよびTNFR-1 mRNA発現は有意に増加し,COX2 mRNA発現は増加傾向が見られた(P=0.09)。さらにPGES mRNA発現はTNFとHSの同時処理によってさらに増加した。また,TNFおよびHSによるPGFSCBR1およびTNFR-2 mRNA発現の変化は見られなかった。以上のことからHSによる発情周期の変化は黄体退行時の間質細胞における内分泌機能の変化が関与する可能性が示された。HSによるPGES mRNA発現増加によるPGE2/PGF産生比の増加が黄体制御メカニズムに影響したことが原因だと考えられる。

  • 大津 彩華, 田中 葉月, 白築 章吾, 岩田 尚孝, 桑山 岳人, 白砂 孔明
    セッションID: OR1-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】血中の遊離脂肪酸(FFAs)は食生活や病気で変動し,過剰なFFAsは脂肪毒性を呈することが知られている。出産直後のウシや肥満の女性では,卵胞中のFFAs濃度が高いことがわかってきた。卵胞液中のFFAsが高濃度の場合,卵子の質や妊娠率の低下が起きる。卵胞液中のFFAsは排卵時に卵子と共に卵管に取り込まれると考えられることから,卵管の細胞が高濃度のFFAsに曝された場合,過剰な炎症状態に陥るのではないかと考えた。そこでFFAsの代表であるパルミチン酸(PA)がウシ卵管上皮細胞(OEC)の炎症応答性に与える影響について検討した。【方法・結果】食肉センターで排卵後1~3日の卵管からOECを採取,培養した。①PAを添加し24時間後に培地を回収した。PA添加によって炎症性サイトカインの1つであるインターロイキン8(IL-8)分泌が増加した。PAの受容体の一種とされているToll-Like Receptor4(TLR4)がウシOECで発現していることを蛍光免疫染色で確認した。OECにTLR4阻害剤を処理すると,PA誘導性のIL-8分泌が減少した。また,炎症によって活性化される転写因子NF-kBの阻害剤を用いたところ,PA誘導性のIL-8分泌が減少した。②OECにPAを添加すると,細胞増殖活性が低下し細胞死が誘導された。この時,PAによりOECのCaspase-3タンパク発現の増加及び活性化が促された。③炎症反応には活性酸素(ROS)が関与することが知られている。PA処理後のOECではROSの上昇がみられた。抗酸化剤を用いると,PA誘導性IL-8分泌が抑えられた。④PA処理によりオートファジーマーカーであるLC3発現の増加が蛍光免疫染色で確認され,LC3タンパク質発現も上昇したことから,PA処理がオートファジーを誘導したと考えられる。オートファジー阻害剤を処理したところ,LC3タンパク質発現及びPA誘導性IL-8が減少した。以上から,ウシOECにおいてPA添加は,TLR4-ROS-NF-kB経路やオートファジーが関与することで,IL-8を過剰に産生する炎症応答を惹起することがわかった。

  • 伊藤 さやか, 小林 芳彦, 山本 ゆき, 木村 康二, 奥田 潔
    セッションID: OR1-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】卵管は受精の場,配偶子および初期胚の輸送経路である。膨大部で受精した初期胚は,卵管上皮の繊毛運動により子宮へと輸送される。卵管上皮は卵母細胞および初期胚の輸送を促す繊毛細胞ならびに,初期胚発育に必要な物質を分泌する分泌細胞の主に2種類から構成される。繊毛細胞の数は排卵時に多い一方,分泌細胞の数は黄体の生育に応じて徐々に増加する。この繊毛および分泌細胞数の変化は卵管上皮の機能を制御していると考えられるが,両細胞比の変化が生じるメカニズムは不明である。本研究では卵管の機能制御機構を明らかにするため,排卵周期にともなう細胞分裂の増減とともに,繊毛および分泌細胞の比率を制御するメカニズムをウシをモデルに検討した。【方法】排卵周期を通じたウシ卵管膨大部および峡部組織における1) FOXJ1(繊毛細胞マーカー) および 2) Ki67(細胞分裂マーカー) 陽性細胞の割合を検討した。3) Ki67とFOXJ1またはPAX8(分泌細胞マーカー) との共染色により繊毛ならびに分泌細胞における分裂能を評価した。4) 分泌細胞における繊毛細胞への分化能を評価するために,分泌細胞の表面抗原であるSSEA1の抗体を結合させた磁気ビーズを用いて単離した細胞をAir-liquid interface(ALI) 法で培養後,acetylated tubulin(繊毛マーカー) 陽性細胞を調べた。【結果】1) 膨大部においてFOXJ1陽性細胞は排卵前後に増加する一方,峡部では変化がなかった。 2) Ki67陽性細胞は膨大部では卵胞期および排卵日に,峡部では排卵前後に多かった。3) 膨大部および峡部においてKi67 陽性細胞は全てFOXJ1陰性であった。4) SSEA1陽性細胞をALI法で培養するとacetylated tubulin陽性細胞へと分化した。以上より,排卵周期を通じた繊毛および分泌細胞の比は分泌細胞の増殖・分化によって制御されることが示唆された。また,排卵前には繊毛細胞が増加する一方,分泌細胞が排卵後に増加することで,卵母細胞の輸送,受精,初期胚の輸送および発育などの,卵管内で起こる現象に対応した適切な環境を提供する可能性が示された。

  • 関 美沙都, 竹内 美紀, 福井 えみ子, 松本 浩道
    セッションID: OR1-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】本研究室では,プロラクチン(PRL),上皮成長因子(EGF),4-ヒドロキシエストラジオール(4-OH-E2)を複合添加することで,胚移植によるマウス体外受精由来胚盤胞の着床能力が有意に向上することを報告している。また,これらの処理を行った胚において,着床に関連する因子の発現が上昇することを確認した。本研究では,マウス体外受精由来胚盤胞についてPRL,EGF,4-OH-E2それぞれの添加培養を行い,胚移植することで,胚の着床能力に作用する因子について検討した。【方法】ICRマウスを用い,体外受精由来胚盤胞を作出した。基礎培地として修正KSOMを用いた。培養90時間後の胚盤胞において,培養液にPRL,EGF,4-OH-E2をそれぞれ添加し,24時間培養した。偽妊娠4日目の雌マウスの一方の子宮角に無添加区の胚,もう一方の子宮角に各因子添加区の胚をそれぞれ6個ずつ移植した。移植の2日後にブルーダイ法により,着床部位を可視化し,着床率を評価した。【結果】PRL添加区の着床率は57.6%,無添加区の着床率は47.0%であった。EGF添加区の着床率は43.9%,無添加区の着床率は43.9%であった。4-OH-E2添加区の着床率は61.1%,無添加区の着床率は52.0%であった。すべての添加区で,無添加区との間に有意な差はなかった。これまで本研究室では,PRL,EGF,4-OH-E2それぞれの添加処理をした胚において,着床関連因子の発現動態が異なることを報告している。また,上記の3因子複合添加処理を行うことで,これらの着床関連因子が同時に発現上昇することを確認している。本研究の結果から,PRL,EGF,4-OH-E2の単独添加による作用では,胚の着床能力の向上には至らないことが明らかになった。このことから,3因子複合添加処理では,マウス胚における異なる経路が同時に賦活化されることで,胚の着床能力を向上させていることが示唆された。

  • Md. Rashedul ISLAM, Yuka YOSHII, Yuko IKEGUCHI, Nobuhiko YAMAUCHI
    セッションID: OR1-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    Although a number of studies describe the in vitro co-culture model, still the positioning of embryos to the uterine lumen and examination of blastocysts attached to the endometrial tissue was not so easy due to the small size of blastocysts compared to the endometrial tissues. The current study was aimed to develop an in vitro co-culture system to study the early implantation. Rat uterine explants (1–2 mm) were isolated, cultured and further characterized. Then from uterine horns morphologically normal embryos were flushed and hatching was induced by Acidic Tyrode’s solution (pH-2.5) for 15–30 second to remove the zona pellucida. Individual hatched blastocyst and cultured explant was placed in a 96U (U shaped round bottom) well plate. Results showed that stable attachments were observed after 48 hours of co-culture, where embryos were stably attached to the explants and could not be dislodged after mild shaking and/or pipetting. Furthermore, steroid hormones are critical for endometrial receptivity and further implantation process. The steroid hormone treatment revealed that the rate of attachment of embryos to the explants were significantly increased in P4 treated group (63.63%) compared to the control or non-treated group (35.48%). On the other hand, attachments of embryos to the explants were significantly reduced in E2 treated group compared to the control group, where no stable attachments were observed in E2 treated group (0.0%). The study suggests that the co-culture model is suitable for the study of early implantation and steroid hormones influence the rate of attachment in this system.

  • 黒木 玲実, 遠藤 なつ美, 田中 知己
    セッションID: OR1-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】近年,国内での飼養頭数が増加しつつあるブラウンスイス種乳牛(B種)の栄養状態・繁殖性を解明するため,同一農場で飼育されるホルスタイン種(H種)との比較を行った。【方法】フリーバーン牛舎で混合飼育されるB種(未経産5頭,経産8頭)及びH種(未経産4頭,経産18頭)を対象とした。月別の牛群検定成績データから乳量,乳成分を調査した。分娩後の初回排卵状況は,B種6頭,H種11頭において,分娩後30~45日に直腸検査または超音波画像検査を実施し,黄体の有無により判断した。ボディコンディションスコア(BCS),飛節スコア,蹄冠スコアは毎月計測した。慢性ストレスの程度を評価するため,被毛中コルチゾール値(HC)の測定を分娩前50~30日,分娩後10~30日,70~90日,130~150日,190~210日,250~270日の期間に各1回実施した。【結果】B種はH種に比べて1乳期乳量及び最高乳量が有意に少なく,日乳量は分娩後0~49日では有意に少ないものの300日以降は有意に高かった。分娩後30~45日までに黄体が確認された牛の割合はB種では6/6頭(100%)であったのに対し,H種では5/11頭(45.5%)と有意に低くなった。BCSはB種がH種よりも未経産(3.8±0.2 vs. 3.6±0.3)及び分娩後50~99日(3.3±0.4 vs. 2.9±0.4)で有意に高く,蹄冠スコアは,未経産,経産ともにB種がH種よりも有意に低いことが認められた。分娩後70~90日または130~150日に採取した経産牛のHCは品種間の違いが認められなかったが,両品種あわせた経産牛のHCは未経産牛と比べて有意に高かった(3.7±1.2 vs. 2.3±0.7 pg/mg)。【考察】B種はピーク時乳量が少なく,泌乳持続性が高いため,泌乳前期におけるBCSの低下が少なく,分娩後の卵巣機能の回復が早かったと考えられる。経産牛におけるHCの高値は,年齢,分娩,泌乳と関連したストレスの影響を反映している可能性が推察された。

精巣・精子
  • 沖津 優, 丸山 神也, 江場 稜将, 伊藤 千鶴, 年森 清隆, 藤井 渉, 与語 圭一郎
    セッションID: OR1-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】Oligotriche(olt)マウスは,劣性遺伝により鼠径部の脱毛と精子形成不全による雄性不妊を引き起こす変異マウスである。近年,その変異部位が同定され,9番染色体の234 kbの欠失であることが判明した。この領域には,6つの遺伝子(CtdsplVillPlcd1Dlec1Acaa1bSlc22a14)が存在することが分かっているが,すでにPlcd1およびAcaa1b-KOマウスの生殖能は正常であることが報告されている。一方,我々はSlc22a14遺伝子の欠損により雄の生殖能が著しく低下することを見出したが,その表現型はoltマウスとは異なっていた。今回我々は,Dlec1をoltマウスの不妊原因遺伝子として同定したので報告する。【結果】Slc22a14CtdsplVillDlec1の発現をRT-PCRで解析したところ,Slc22a14のほか,Dlec1も精巣において生殖細胞特異的に発現しており,精子分化に伴って発現が上昇することが分かった。そこで,Dlec1の欠損マウスを作製し,交配実験により生殖能を調べたところ,Dlec1-KO雄マウスは完全な不妊であることが判明した。組織学的解析の結果,KOマウスは精子形成不全を起こしており,精巣上体に精子はほとんど存在していなかった。精子分化過程を詳しく見てみると,伸長精子細胞Step10以降の段階において鞭毛の伸長不全および頭部の形態異常が起きていることが分かった。これらの表現型はoltマウスの表現型とよく一致していた。次に,頭部や鞭毛の形態形成に関わるチューブリンの免疫染色を行ったところ,Dlec1-KO精子ではマンシェット構造に異常が生じていることが分かった。この異常は,微小管モータータンパクのひとつであるKIF3A欠損マウス精子の異常と類似していた。以上より,oltマウスにおける雄性不妊の原因はDlec1遺伝子の欠損であることが示された。また,Dlec1は微小管上の輸送に関わっている可能性が示唆された。

  • 広瀬 海里, 竹元 将晶, 田中 沙智, 下里 剛士, 濱野 光市, 関口 健司, 保科 和夫, 高木 優二
    セッションID: OR1-9
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】我々はブタ精原細胞に特異的なモノクローナル抗体PSS1を作出し,日本繁殖生物学会(2007年)において報告した。PSS1抗体は,ブタ以外の精巣には反応せず,未分化な精原細胞の細胞質および細胞膜を認識する(北信越畜産学会,2012年)。また,PSS1抗体とFACSを用いて,幼若ブタ精巣より前精原細胞を単離できることを報告した(日畜学会,2013年)。さらに, PSS1抗体と磁性ビーズ(FG-beads)を用いて,前精原細胞をより容易に短時間に90%以上の純度で単離できることを報告した(日畜学会,2016年)。今回,FG-beadsにより単離したブタ前精原細胞のFACS解析においてFG-beadsの結合した細胞の側方散乱(SSC)値が著しく大きくなること,並びに操作手順の見直しによりさらに高純度で単離できることを報告する。【方法】生後数日の幼若ブタより精巣を採取した。精巣を細切した後メッシュにて精細管を採取し,Papain酵素により分散さて,赤血球溶解処理を行って細胞懸濁液を得た。ニコデンツ密度勾配遠心分離法により細胞懸濁液から死滅細胞と細胞デブリスを除去した。精巣細胞にPSS1抗体を結合させた後,Protein Gビーズ(FG-beads,多摩川精機)を混和した。15 ml試験管をネオジム磁石スタンドに静置して磁性ビーズの付着した細胞を分取する操作を3回繰り返した。細胞はAlexa647あるいはAlexa488標識2次抗体で標識し後,細胞核をThiazole orange(TO)あるいはHoechst,死細胞核をPIで標識して蛍光顕微鏡およびFACSにより解析した。【結果】磁気分取により95%以上の高純度で前精原細胞を単離することができた。しかしながら一度に1×108以上の細胞を処理するなど取り扱う細胞数が増加すると純度が低くなる傾向があり,スケールアップは今度の課題であった。FACS解析により,FG-beadsを細胞に結合させるとSSC値が著しく高くなる傾向が認められたが,他のパラメーターには影響はなかった。

  • 中田 久美子, 吉田 薫, 吉田 学, 山下 直樹
    セッションID: OR1-10
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】我々は水素分子処置がヒト精子のミトコンドリアの膜電位を上昇させること,運動性を改善することを報告してきた。本研究では水素分子処置の作用機序を解明する一環として,電子伝達系複合体Iの阻害剤ロテノン(以下R)及び,電子伝達系複合体IIIの阻害剤アンチマイシンA(以下A)を用いて,水素分子処置のATP産生経路に対する作用部位を検討した。【方法】研究用に提供する同意の得られた治療後廃棄予定のヒト凍結精子(n=87)を用いた。本実験では85%以上の運動性を有する正常精子を材料とした。TYB(日鉱日石JX)にて凍結したヒト精子を37℃の温水で融解後,75%飽和水素含有のCleavage medium(CM,SAGE)(C+H区),水素非含有のCM(C区),Aを添加したH区(C+H+A区)およびC区(C+A区),Rを添加したH区(C+H+R区)およびC区(C+R区)で培養した。ATP量は『細胞の』ATP測定試薬(東洋ビーネット),を用いて測定し,精子数1×106当りのATP量を算出した。結果:精子ATP量はA添加群では,C+H+A区およびC+A区は,305.6±204.9および186.7±111.3(pmol /106 sperm: mean±SD),であり,C+H+A区が有意に高かった(n=30,P <0.01)。R添加群では,C+H+R区およびC+R区は,297.4±157.6および171.1±77.4(pmol /106 sperm: mean±SD)であり,C+H+R区が有意に高かった(n=30,P <0.01)。H区およびC区は,354.6±235.4および257.5±167.0(pmol/106 sperm: mean±SD)であり,H区が有意に高かった(n=60, P<0.01)。考察:水素分子処置はミトコンドリア電子伝達系複合体I とIIIの阻害を回復し,A作用部位より下流の電子伝達系,もしくは酸化的リン酸化に直接作用し,ATP産生を増加させることが示唆された。

  • 藤ノ木 政勝, 竹井 元, 今 弘枝, 寺田 節
    セッションID: OR1-11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】哺乳類精子は受精能獲得の過程で運動を変化させる。この変化を超活性化という。受精能獲得は卵管内ホルモンによる調節を受け,超活性化もその例外ではない。メラトニンは,脳・松果体より分泌され,睡眠調節や概日リズム形成に関連するホルモンであるが,卵管内にも分泌され精子や卵を酸化ストレスから保護している。また精子受精能獲得の調節にも関わっている。我々は,以前,シリアンハムスター精子に関してメラトニンが超活性化を促進する事を示しており,この作用について,今回,種差の有無を検討した。【方法】比較対象として,マウスとラットを用いた。精子はmTALP溶液で懸濁の後,通常の培養環境下に置き受精能獲得が促された。運動状態はビデオ顕微鏡で記録し,運動率と超活性化率を求めた。【結果】メラトニンは10–12~10–6Mという範囲でハムスター精子超活性化を促進するが,ラット精子超活性化の対しては影響がなかった。しかし,マウス精子超活性化に対しては10–12~10–9M位では影響を認める事が出来なかったものの, 10–6Mでは促進作用を認めた。促進を起こすか否かの閾値の濃度は10–7~10–8Mと見込まれる。これらの結果から,マウス,ラット,ハムスターの間でメラトニンの作用に違いのある事が分かった。マウスはハムスターと同様にメラトニンによって超活性化の促進が起こるが,その作用濃度はハムスターほど広くなく,かつ濃度が高かった。一方ラットでは作用がなかった。ハムスター精子ではメラトニンはメラトニン受容体を介して作用しているので,マウス精子でも同様の機構が想定される。しかし,高濃度でのメラトニンの作用はそれ自体の抗酸化作用によって起こるとされ,マウス精子で見られた促進作用は比較的高濃度であったので抗酸化作用に依っている事も否定できない。今後マウス精子でのメラトニンの作用機序について検討を行っていく予定である。

  • 竹井 元, 藤ノ木 政勝
    セッションID: OR1-12
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】哺乳類精子は,受精能獲得という一連の反応を経なければ卵と受精できない。この時,超活性化運動と呼ばれる鞭毛運動の質的な変化が起こる。ところで一般的に哺乳類の雄性内性器分泌液と雌性内性器分泌液の浸透圧やイオン環境は大きく異なり,精子は射精時に周囲環境の大きな変化を経験する。しかし,その様な細胞外環境変化が哺乳類精子にどのような影響を与えるのかは不明であった。そこで我々は,卵管内の浸透圧及びイオン環境が哺乳類精子の超活性化へ与える影響について,ハムスターを用いて検討した。【方法】排卵誘起した排卵期の卵管液,及び前立腺液,精嚢腺液,精巣上体液を採取し,浸透圧及びイオン濃度を調べた。浸透圧及びイオン環境のハムスター精子の超活性化への影響は,NaCl濃度およびマンニトール濃度を変化させたmTALP培地を用いて調べた。これらのmTALPに精子を懸濁し培養した鞭毛運動を,ビデオ顕微鏡で記録し,超活性化率を調べた。膜電位,細胞内pH,細胞内Ca2+濃度は蛍光色素を用いて調べた。【結果】卵管液の浸透圧及び組成を調べたところ,卵管液はmTALPに比べて高張であり,Na濃度も高いことがわかった。そこでNaCl濃度を変化させたmTALP培地にハムスター精子を懸濁したところ,NaCl濃度を上昇させるのに従い超活性化の発現が遅延した。この時マンニトールを加えて培地の浸透圧を変化させても,超活性化の遅延はNaCl濃度依存的に起こった。NaCl濃度を上昇させてもハムスター精子の膜電位及び細胞内pHは変わらなかったが,細胞内Ca2+濃度は減少した。更にNCXの阻害剤であるSN-6を高濃度(150 mM)のNaClを含むmTALPに加えると,細胞内Ca2+濃度が上昇しNaClによる超活性化の遅延が解除された。これらの結果は,ハムスター精子ではNa+がNCXの働きを介して超活性化を抑制しており,その抑制の解除が超活性化運動の発現に重要な働きを持つことを示唆している。

  • 近藤 瑞穂, 田島 淳史, 石川 尚人, 浅野 敦之
    セッションID: OR1-13
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】精巣上体通過中に様々な機能性分子を取り込んだ精子は,膜融合プロセスを介して尾部に残存する細胞滴を遊離する。以前我々は,マウス精子が精巣上体通過により細胞滴へPantophysin(Pphn)を獲得することを明らかにした。他細胞では,PphnはSNARE複合体の構成因子であるVesicle-associated membrane protein(VAMP) 2と複合体を形成し,Ca2+依存性膜融合の制御に関与すると考えられている。今までの研究で,VAMP2および同じくSNARE複合体の構成因子であるVAMP3は,先体反応機構に関与することが指摘されているが,細胞滴における存在は不明である。本研究では,マウス精子において,VAMP2およびVAMP3の発現特性およびPphnとの関係性について調べ,さらに機能的役割を探った。【方法】実験①:ICRマウスの精巣上体尾部精子を免疫染色あるいは共免疫沈降に供し,VAMP2およびVAMP3の局在あるいは両者とPphnとの関係性を調べた。実験②:精巣上体頭部,体部および尾部精子において,VAMP2の発現量および細胞滴遊離率を調べた。実験③:0あるいは10 μM EGTA/AM処理した精子において,既報に従いショ糖密度勾配遠心分離法で細胞滴を除去後,PI染色により原形質膜の正常性を調べることで,膜融合率を求めた。【結果】実験①:VAMP2およびVAMP3は精子先体胞および尾部の細胞滴に局在した。共免疫沈降の結果,何れのタンパクもPphnと複合体を形成していることが分かった。実験②:精子におけるVAMP2発現量は精巣上体頭部から尾部にかけて低下した。一方,細胞滴遊離率は,精巣上体通過により増加した(P<0.05)。実験③:細胞滴除去後の膜融合率は細胞内Ca2+のキレートにより低下した(P<0.05)。以上の結果から, VAMP2およびVAMP3は細胞滴においてPphnと複合体を形成し,その遊離において重要な役割を果たす可能性が示唆された。

  • 高島 誠司, 正木 魁人, 黒木 俊介, 藤森 祐紀, 保科 和夫, 岡 賢二, 天野 俊康, 塩沢 丹里, 石塚 修, 保地 眞一, 立花 ...
    セッションID: OR1-14
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】GDNFに次ぐ真正の精子幹細胞増殖因子としてFGF2が同定された。本研究は,FGF2の精巣内発現動態,発現制御メカニズム及び精巣内機能をGDNFと比較することで2つの因子の役割の違いを明らかにすることを目的とした。【方法】マウス精巣サンプルについては,加齢過程,生殖細胞欠損モデル(ブスルファン(44 mg/kg b.w.)処理),再生モデル(ブスルファン(15 mg/kg b.w.)処理),レチノイン酸過剰投与モデル(750 µg/body),下垂体切除モデル(日本SLCより入手)を準備し,免疫染色,定量的RT-PCR,ウェスタンブロットに供した。セルトリ細胞は,セルトリ細胞特異的にヒトNGF受容体を発現するミュータントマウスよりMACSTMを用いて純化した。【結果】まず,精巣におけるFgf2の発現挙動を既知の自己複製因子Gdnfと比較した。Gdnfは加齢に伴い発現低下する一方,Fgf2はどの週齢でも高発現を示した。精上皮周期にそった発現挙動比較では,GDNFが中期で高発現する一方,FGF2は中期に加え前期でも高発現していた。Fgf2発現細胞は既報のセルトリ細胞ではなく生殖細胞及び精巣間質細胞であった。精巣再生モデルではGdnf同様Fgf2の発現も上昇し,精巣再生への寄与が示唆された。FGF2タンパク質の精巣内発現はヒトを含むほ乳類で保存されていた。Fgf2の発現制御メカニズムの解析では,視床下部-下垂体軸の関与が示される一方,レチノイン酸シグナルは関与しないことが示された。Gdnfについても同様の検討を行い,既報通りレチノイン酸投与によるGdnf抑制が確認されたが,下垂体切除についてはGdnf発現上昇という,定説『下垂体由来卵胞刺激ホルモンがセルトリ細胞のGdnf発現を促進する』とは逆の結果が得られた。現在,精巣におけるFGF2の機能について検討中である。

  • 武田 久美子, 小林 栄治, 西野 景知, 今井 昭, 金田 正弘, 渡邊 伸也
    セッションID: OR1-15
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】ウシでは概ね生後8.5–14ヶ月で射精を開始し,繁殖供用期へ達する時期には個体差がある。精子形成過程においてDNAメチル化は全体的に進行することが知られており,個体によりその進行に差があるのではないかと考えた。我々は,ウシゲノムのメチル化状態の差異をヒト用DNAメチル化解析チップ(HumanMethylation450 BeadChip,イルミナ社)を利用して評価できることを明らかにし(小林&武田,2016),凍結精液の精子核DNAのメチル化状態の個体差および採取時期の違いを検出可能であることを示してきた。そこで今回,ヒト用チップから得られた解析情報を基に選択したメチル化可変部位について,生後1~2歳齢の黒毛和種雄牛由来精液のメチル化状態の違いを調査した。【方法】生後12~20ヶ月齢の若い黒毛和種雄牛5頭(J1~5)から採取した精液を解析に用いた。また比較として2~13歳齢の黒毛和種雄牛5頭から採取した精液を用いた。ターゲットとするメチル化可変部位は採取時期の違いにより変化したメチル化可変部位(CpG1)および個体差を示した4箇所のメチル化可変部位(CpG2~5)とし,Combined Bisulfate Restriction Analysis(COBRA)法によりメチル化状態の差異検出を行った。【結果】J1~5から採取した凍結精液についてメチル化可変部位のメチル化度に個体による違いが検出された。また,12~20ヶ月齢に採取時期を約半年あけて採取した精液間ではCOBRA法により違いの見られた個体もいた。一方,CpG1は,これまで得られた結果同様に繁殖供用開始期の精液でやや低メチル化を示し,採取年齢の高い精液で高メチル化となる傾向がみられた。以上の結果から,繁殖供用開始期の雄牛における精子DNAのメチル化度の相違はCOBRA法により簡易検出できる可能性が示された。これらメチル化度の違いが凍結精子の受精能等へ及ぼす影響について今後検討を進める予定である。

生殖工学
  • 中井 美智子, 伊藤 潤哉, 鈴木 俊一, 淵本 大一郎, 千本 正一郎, 野口 純子, 金子 浩之, 柏崎 直巳, 大西 彰, 菊地 和弘
    セッションID: OR1-16
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
    会議録・要旨集 フリー

    目的>ブタのICSIでは,注入精子による卵活性化誘起効率が低く人為的卵活性化処理が用いられてきた。しかし,依然として胚作出効率は低いため,生理的な卵活性化を誘起させる必要があると考えられる。本研究では,ICSI卵における活性化誘起効率が低い原因を明らかにする目的で,精子内卵活性化因子phospholipase Czeta(PLCzeta)および受精や胚発生に必須と考えられるcalcium-oscillationのパターンに着目した。<方法,結果>実験1)凍結融解後のブタ精巣上体精子(無処理区)から,パーコール密度勾配遠心分離法(Noguchi et al., 2013)によりPLCzetaを有する精子を選別した(パーコール処理区)。パーコール処理区あるいは無処理区精子を各々ICSIし,その後の卵活性化誘起率および胚盤胞形成率を調べた。その結果,パーコール処理区精子をICSIに用いた場合は卵活性化誘起率および胚盤胞形成率ともに無処理区に比べ有意に高い割合を示した(P <0.05)。実験2)次に,無処理区精子を用いてICSIした卵および体外受精した卵のcalcium-oscillationのパターンを比較した。その結果,ICSI後に活性化した卵では体外受精卵と同様なパターンのcalcium-oscillation が生じていた。一方,約半数のICSI卵が活性化に失敗し,その大多数においてcalcium-oscillation は誘起されていなかった。<結論>以上の結果より, ICSI後の卵活性化誘起効率の低い原因の一つとして,ICSIに用いる精子のPLCzeta量が少ない可能性が考えられた。また,卵活性化不全を引き起こす原因として,calcium-oscillationが誘起されていないことが示唆された

  • 鎌田 裕子, 若山 清香, 若山 照彦
    セッションID: OR1-17
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【背景・目的】フリーズドライ精子は–20℃程度の冷凍庫で長期保存することが可能だが,常温保存すると短期間で産仔率が急激に落ちていくことが明らかとなっている。そこで本研究では,精子の室温長期保存を目的として,室温保存した精子による産仔率低下の要因解明を試みた。【方法】①真空のアンプルビン中のフリーズドライ精子を常温で保存し,フリーズドライ精子作製後24時間,2週間の精子を用いてICSIを行い受精率および産仔率を確認した。②真空アンプルビンを水中で開封し,試料作製方法の違いによる真空度を測定した。③実験②により真空であるはずのアンプルビンに多少の空気が混入していることが確認されたことから,産仔率低下の原因は空気の混入であると仮定し,常圧空気中で栓をしたフリーズドライ精子のアンプルビンを作製した。作製後24時間,1週間及び2週間の精子を用いてICSIを行い従来法と産仔率を比較した。【結果・考察】①真空アンプルビンを常温で2週間保存した場合,ICSIした胚の胚盤胞への発生率は24時間保存に比べ有意に低かった。②真空アンプルビンを水中で開封したところ,どのアンプルビンでも気泡が認められ,完全な真空ではないことが明らかとなった。 ③常圧空気入りフリーズドライ精子を用いた場合,2細胞期への発生率は,24時間保存では真空保存精子と差は見られなかったが,1週間保存では低い傾向が見られ,2週間保存では有意に低い結果となった。また,それらの胚を移植した場合の産仔率は,24時間保存でも真空保存精子に比べ低い傾向が見られ,1週間保存では有意に低い結果となった。これらの結果から,常温でフリーズドライ精子を長期保存できない原因は,真空と考えていたアンプルビンに混入していた空気である可能性が示唆された。空気中に含まれている酸素や水分が精子DNAや精子タンパク質を変性させてしまったのではないだろうか。今後は完全に酸素や水分を除去した保存方法について検討する予定である。

  • 越後貫 成美, 葛西 秀俊, 井上 弘貴, 饗場 篤, 小倉 淳郎
    セッションID: OR1-18
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    現在,多くの哺乳動物において遺伝子改変が可能であるものの,多くの動物種において,その長い世代サイクルが新しい系統動物樹立の障害となっている。我々は,小型霊長類マーモセットの世代交代短縮をめざし,精子細胞を用いた顕微授精技術の開発を行っている。その端緒として,マーモセット精子細胞の同定,出現時期(月齢)の観察,卵子活性化能の確認,精子細胞の凍結保存を実施した。精巣から分離されたマーモセット精子細胞は,微分干渉顕微鏡下で容易にステージ(step 1 - 8) 分類が可能であった。やや個体差はあるものの,10–11ヶ月齢で円形精子細胞が,そして12ヶ月齢で伸長精子細胞が出現していた。マウス卵子を用いて卵子活性化能の出現時期を確認したところ,初期円形精子細胞(step 1 - 4) は活性化能を持たず,後期円形精子細胞(step 5 - 6) で初めて活性化能が出現することがわかった。分離した精細胞は,マウスなどで用いる 7.5% glycerol および7.5% ウシ胎仔血清を含むPBS(Ogura et al. 1996) に 0.25 M sucroseを加えた液で凍結保存が可能であった。凍結融解後の後期円形精子細胞は,卵子活性化能を保持していた。以上のように,マーモセット精子細胞を用いた顕微授精の実施のための基礎技術は確立したと考えられる。これらの技術をもとに,マーモセット卵子および後期円形~伸長精子細胞を用いた顕微授精を実施する予定である。マーモセットの自然交配あるいは体外受精には1.5–2歳以降の雄を用いるので,本技術が実用化すれば,半年から1年の世代短縮が可能となる。本研究の一部は,AMED 「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」により実施された。

  • 柴﨑 郁江, 鎌田 裕子, 鳥飼 昂平, 長友 啓明, 水谷 英二, 若山 照彦
    セッションID: OR1-19
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】近年,初期胚における染色体分配の様子は,ライブセルイメージングなどでの観察が可能となり,染色体分配異常(ACS)の有無や発生時期は,産仔率と関係があることがわかっている。In vitroによる胚作出は基礎研究,農業,医療など多方面で広く一般に普及している非常に有用な技術であるが,体外胚生産でのACS発生頻度は自然な受精の場合と比較して高いことが知られており,特にクローン胚をはじめ,顕微操作を伴った胚においてその頻度は高い。しかしながら,核から遊離した染色体は,染色体の一部が断片化したのか,1本がそのまま遊離しているのか,遊離する染色体に規則性はあるのかといったことは,未だわかっていない。そこで本研究ではマイクロマニピュレーターを用いてマウス2細胞期でのACS胚から遊離している微小核を摘出し,同定を試みることでACSの発生理由について理解を深めることを目指した。【方法】顕微授精に用いる精子は,染色体異常が高頻度で起こる,フリーズドライ精子を採用した。定法に従い顕微授精により胚を作出した。染色体を蛍光により可視化するためH2B-mCherry融合タンパクのmRNAを注入し,2細胞期でACSの有無を蛍光観察で判定した。見つかったACS胚の遊離微小核はマイクロマニピュレーターにセットした外形8–10 μmのガラスピペットで抜き出した。分離した微小核は極体と核を除去した未受精卵に注入し,早期染色体凝集(PCC)させることで染色体解析を可能にした。【結果および考察】2細胞期ACS胚からの遊離微小核の摘出は,サイトカラシンとコルセミドを添加した操作培地を用いることで可能となった。遊離微小核を顕微操作により胚から抜き出す際,それが核本体と離れていて簡単に回収できるものと,核本体と結合していて分離できないものの2パターンがあった。回収した微小核は,除核未受精卵へ注入後数時間で早期染色体凝集(PCC)を形成した。本研究によりACS胚の核から遊離した微小核は単離でき解析可能なことが示唆された。今後,PCCを起こした微小核注入卵を用いてより詳細な解析をしていきたい。

  • 桑山 拡樹, 田邊 圭啓, 若山 照彦, 岸上 哲士
    セッションID: OR1-20
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】体細胞核移植によりクローンマウスを作る際にはドナー細胞が必要となる。これまでドナー細胞としては卵丘細胞や脳細胞,血液中の白血球やリンパ球などがあげられる。しかし,これらのドナー細胞を回収する際に安楽死や採血するためマウスに対しては侵襲的であり,個体に対して負担である。そこで本研究では個体に対してより低侵襲的であり,かつ容易に多くの細胞を回収できるドナー細胞として膣垢細胞に着目し,膣垢細胞が体細胞核移植のドナー細胞になりうるか検討した。【方法】B6D2F1種の雌マウスに7.5 IU PMSGを腹腔内に注射し,その48時間後7.5 IUのhCGを腹腔内に注射して,過剰排卵処理を施すことでレシピエント卵子を得た。レシピエント卵子を除核した後,B6D2F1の雌マウスから回収ならびに洗浄した膣垢細胞の核を顕微注入した。この再構築胚をSrCl2(5 mM), LatA(5 µM)およびTSA(50 nM)を添加したCa-CZB培地で培養することで活性化の誘起と初期化の促進を行い,体外発生率ならびに偽妊娠メスへ移植した後の産仔率を調べた。【結果】発情期を除く膣垢細胞を用いた核移植の胚盤胞への発生率は,卵丘細胞(コントロール)を用いた場合より低い(発情前期13%,発情後期20%,発情休止期25% vs. control 40%)が,いずれも胚盤胞が得られた。特に発情休止期の膣垢細胞を用いたクローン胚の発生率が最も高かった。さらに移植後発情休止期の膣垢細胞を使用した場合に1匹ではあるが“正常な”クローン産仔が得られたことから,少なくとも発情休止期の膣垢細胞はクローン産仔作出のドナー細胞になりうることが示唆された。

  • 田邊 圭啓, 桑山 拡樹, 岸上 哲士, 若山 照彦
    セッションID: OR1-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】近年,クローンマウスの作出は交雑種のみでなく,近交系を含む様々な系統の体細胞からでも可能なことが明らかとなっている。しかし,レシピエントとなる卵子の系統については,依然交雑種のものでしか作出が報告されていない。そこで本研究では,動物実験において広く用いられる系統のICR(クローズドコロニー)卵子をレシピエントとして,クローンマウスの作出が可能であるかを検討した。【方法】レシピエント卵子,ドナー細胞には,BDF1およびICRマウス由来の卵子と卵丘細胞を用いた。各系統の除核卵子および卵丘細胞を用いて相互に核移植を行い,4通りの組み合わせで再構築卵を作製した。その後,SrCl2およびTSAによって活性化・初期化促進処理を施し,クローン胚の初期発生や偽妊娠雌へ胚移植を行いクローンマウスの作出が可能か調べた。また,上記以外の系統でもICR卵子からクローン個体を作出可能か調べるため,新たにBD129F1(B6D2F1×129X1/SvJ)マウス卵丘細胞をドナー細胞とした実験も行った。【結果・考察】BDF1およびICR除核卵子への核移植を行った結果,桑実期胚・胚盤胞期胚への発生率は,卵丘細胞の種類によらずICR卵子を用いたものの方が低かった。一般にICRの受精卵はBDF1に比べ体外培養には適していない。そこで長期培養を避け,クローン胚を2細胞期で偽妊娠雌の卵管へ移植したところ,ICR卵子を用いた場合でもF1卵子の場合と同程度の成績で,合計12匹の健康なクローンマウスの作出に成功した。また,BD129F1卵丘細胞をドナー細胞として用いた場合でも多数のクローン産仔を得ることが出来た。ICR卵子から得られたクローン産仔すべてに,クローンマウス特有の胎盤の巨大化が観察された。以上より,核移植胚にICR卵子を用いる方法は,体外培養をできるだけ避けることでF1卵子を使った場合と同程度の出産成績を出せることが明らかとなった。ICRマウスは安価で広く実験に使われている。今回の結果により,今後核移植の実験にもICRが用いられるようになるのではないだろうか。

  • 的場 章悟, Shen Li, 小倉 淳郎, ZHANG Yi
    セッションID: OR1-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】マウスの体細胞クローン胚は,初期化異常によりほとんどが発生途上で停止し,1–3%程度の胚のみが出生に至る。これまで我々は,ドナー体細胞核に存在するヒストンH3の9番目リジンのトリメチル化(H3K9me3)が核移植後の初期化を阻害することを見出した(Matoba et al., 2014)。このH3K9me3は,ヒストン脱メチル化酵素(Kdm4d)を過剰発現させることで取り除くことができ,その結果クローン胚の胚盤胞期までの発生効率を受精胚に近いレベル(約90%)にまで引き上げることに成功した。ただし,Kdm4d処理をしたクローン胚も,着床後に約90%が発生を停止してしまい,産仔に至る胚は8–9%程度である。そこで本研究では,クローン胚の着床後の発生異常の原因を見つけることを目的とした。【方法】まず,クローン胚の着床後の発生異常の一因として,Xist遺伝子が異所性に発現することが同定されている(Inoue et al., 2010)。そこで本研究では,Xist遺伝子の異所性発現を避けるため,Xistノックアウトマウスの体細胞をドナーとして作製したクローン胚に,Kdm4d処理を組み合わせ,発生に対する相乗効果の有無を検討した。さらに,着床後の発生異常の原因をゲノムワイドに調べるため,胚盤胞期の受精胚およびクローン胚のDNAメチル化を全ゲノムバイサルファイトシークエンス法によって比較した。【結果】Xistノックアウト細胞とKdm4d処理を組み合わせた結果,ある程度相乗効果が認められたものの,未だ70%以上の胚が着床後に発生停止した。そこで,胚盤胞期胚のDNAメチロームを解析した結果,1)クローン胚では受精胚と比べて低メチル化領域が多く認められること,2)さらに一部の遺伝子のプロモーター領域はクローン胚特異的に高メチル化されていることを見出した。本研究により新たな初期化異常が同定されたことから,今後のさらなる初期化効率の改善および初期化メカニズムの理解に繋がることが期待される。

  • 小沢 政之, 大久津 昌治, 三好 和睦
    セッションID: OR1-23
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    動脈硬化症は死亡率第2,3位の心臓,脳血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞)の原因となる疾患である。したがって,その治療法の開発を行うことは,社会的ニーズも緊急性も高い。新しい治療法をいきなりヒトで試す訳にはいかないので,ヒトに近いモデル動物を使って臨床前試験を行う必要がある。血中の高濃度リポプロテイン(a) [Lp(a)] はヒト動脈硬化症の危険因子である。Lp(a)は低密度リポプロテイン(LDL)にアポリポプロテイン(a) [apo(a)]が結合したもので,apo(a)はヒトを含む霊長類にしかないため,適当な動物モデルがない。今回演者らは体細胞核移植法(SCNT)を用いて,ヒトapo(a)発現ミニブタの作出に成功したので報告する。LDLへのapo(a)の結合は本来の合成部位である肝臓だけでなく,血中でも起こることが報告されていた。そこで,肝臓を含むubiquitousな部位での発現を可能にするCAGプロモーターの下流にインフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)タグを付加したヒトapo(a) cDNAを置き,ミニブタ細胞に導入した。apo(a)発現ベクターにあるneo遺伝子の標的であるG418で選別を行い,独立したコロニーを単離し,HA抗体による免疫医染色によりapo(a)発現細胞を同定した。なお,apo(a)発現細胞は小胞体が染色され,合成されたapo(a)の80%以上が分泌されることなく分解されているとする報告と合致する。また,腎臓由来の上皮細胞では安定発現細胞クローンが得られたが,胎児由来線維芽細胞等では得られなかった。apo(a)発現腎細胞をドナーとしてSCNTを行い,導入したapo(a)遺伝子を持ったミニブタの作出に成功した。この個体(F0)の血中Lp(a)濃度は有意に高く(>400 mg/dL),その仔ブタ(F1)4頭の内,2頭にはその形質が伝わっていた。従って,今回得られたヒトapo(a)トランスジェニックミニブタは,ヒト動脈硬化症発症のモデル動物となる可能性がある。

  • 富岡 郁夫, 皆川 栄子, 尾張 健介, 中谷 輝美, 野上 尚武, 永井 義隆, 関 和彦
    セッションID: OR1-24
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】様々な神経変性疾患の中でポリグルタミン病は,ハンチントン病や脊髄小脳失調症など9疾患の総称であり,原因遺伝子内のグルタミンをコードするCAGリピート配列の異常伸長が原因であることが明らかになってきた。こうした知見を基に,異常遺伝子を導入した様々なトランスジェニックマウスモデルが開発され,神経変性疾患の発症分子メカニズムの解明や治療法開発研究に貢献してきたが,ヒトとげっ歯類では脳の構造や機能,代謝経路が大きく異なり,またマウスなどの寿命内では最終的な神経症状・病理像の完成にまで至らず,神経症状の解析やバイオマーカー開発には不向きであった。そのため,げっ歯類より長寿命であり,かつ脳構造や代謝経路がヒトに近い霊長類モデルの開発が必要である。そこで本研究は,小型霊長類のマーモセットを用いてポリグルタミン病モデルを作出した。【方法】ポリグルタミン病のうち脊髄小脳失調症3型(SCA3)の原因遺伝子について,CAGリピート配列を異常伸長(120回以上)させた変異遺伝子を合成した。この変異遺伝子をレンチウイルスベクターを介してマーモセット受精卵へと導入した。【結果】計66個の遺伝子導入受精卵を仮親へ胚移植し,7頭(MJD1-7)の産仔が得られた。PCRを用いて遺伝子導入と発現を解析した結果,全ての個体で導入遺伝子が確認され,MJD3を除く6頭でその発現が認められた。また,各個体の導入遺伝子の発現量を比較した結果,MJD1,2,および7の3頭において高い発現量が認められ,この3頭はジャンプ力の低下やケージからのずり落ち・落下など神経疾患症状の発症が確認された。発症個体において症状の進行に伴い握力や活動量の低下が観察され,病理解析の結果,小脳および脊髄おいて神経細胞の変性や脱落などが認められた。以上,本研究では進行性の症状を呈するポリグルタミン病モデルマーモセットの獲得に成功した。

  • 坂下 陽彦, 西村 千秋, 小林 久人, 外丸 祐介, 河野 友宏
    セッションID: OR1-25
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】哺乳動物の性分化は遺伝的性に支配され,妊娠中期の生殖巣支持細胞においてY染色体上から発現するSRYが雄への性分化を決定する。SRYの発現により下流の雄性決定因子が逐次的に活性化し,始原生殖細胞(PGC)を精子形成へと導く。SRY機能の欠損は,生殖巣環境を雌型へ転換させ,XY雌へと性転換する。しかしながら,XYsry–卵子は卵胞数の減少および性染色体不対合の多発などの異常を呈し,性転換雌マウスの妊孕性は喪失することが報告されている。本研究では,XYsry–PGCおよび卵母細胞の網羅的転写産物解析を介して,XYsry–雌性配偶子形成の分子機構を明らかにしようとした。【方法】C57BL/6受精卵へSryターゲティングベクターを顕微抽入し,XYsry–性転換雌マウスを作製した。胎仔期(E13.5),新生仔期(P1)の野生型およびXYsry–雌マウスからFACSソーティングにより生殖細胞を回収し,RNA抽出を行った。次いでSMART法によりcDNAライブラリを構築し,HiSeq2500を用いて高速シークエンスを行った。【結果】作出したXYsry-雌マウスの生殖巣は形態的に完全に雌型を示していた。RNA-seq解析の結果,XYsry–雌マウスE13.5 PGCおよびP1卵母細胞は野生型雌雄と比較し明らかに異なる転写産物群を保有していることが明らかになった。発現変動遺伝子を抽出した結果,発現上昇遺伝子群にWNTシグナル関連遺伝子群などが,発現低下遺伝子群に細胞周期および減数分裂関連遺伝子群などが有意に濃縮されていた。さらに免疫染色の結果,核内に安定的なβ-カテニンが存在し,細胞周期を遅延させている可能性が示された。また,P1卵母細胞では,レトロトランスポゾンの活性化と減数分裂の異常が検出された。これらの解析から性転換雌マウス生殖系列では胎仔期からのXYsry–卵子機能不全に繋がる遺伝子発現が惹起され,多様な生殖細胞削減プロセスが活性化されていることが明らかとなった。

  • 隈本 宗一郎, 雉岡 めぐみ, 高橋 望, 外丸 祐介, 小川 英彦, 尾畑 やよい, 河野 友宏
    セッションID: OR1-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】我々は,マウス12番染色体遠位部のDlk1-Dio3インプリンティングドメインの発現制御機構およびmiRNAを多数含むインプリント遺伝子の機能解析を進めている。IG-DMR-Rianまでの150 kbを含むBAC-TGマウスを作出したところ,母方伝達した場合に致死性を見いだし,その原因究明を進めてきた。本研究ではBAC-TGマウスにおけるnon-coding RNAの作用を明らかにするために,まずmiRNAの発現解析を実施した。【方法】BAC(pBACe3.6 C3H)を用いてIG-DMRからRianの一部(約150 kb)を含むBAC-TGマウス(75J10)を作出した。75J10 BAC TGマウスの胎齢11.5日胚をそれぞれ3検体ずつ採取しtotal RNAを抽出した。これらのサンプルをTruSeq Small RNA Library Kitを用いてアダプターおよびインデックス配列を付加しライブラリーとした。次世代シークエンサーに供しmiRNA-Seqを行った。発現変動遺伝子検出にはDESeq2を用いた。【結果】父方伝達したマウス(Pat-TG)と比較して発現変動が有意(p < 0.05)に認められた遺伝子をスクリーニングした結果,母方伝達したマウス(Mat-TG)では発現比が上昇したmiRNAを37種,減少したmiRNAを47種特定した。導入BAC配列中に存在する19種のmiRNAの内,12種において1.5–3倍の有意な発現比上昇が明らかになった。12種のmiRNAの予測ターゲットとなっている203遺伝子中,68遺伝子がKOマウスにおいて成長遅延,胎生,出生後致死,低体重を示すことが報告されており,Mat-TGの成長遅延及び出生後致死の原因である可能性が考えられる。

  • 山崎 渉, 天野 朋子, 唄 花子, 高橋 昌志, 川原 学
    セッションID: OR1-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】哺乳類において三倍体や四倍体の多倍体胚は胎生致死となる。また,片親性発現を示すインプリント遺伝子の正常な発現は哺乳類の個体発生に必須であり,過去にマウス三倍体胎子におけるインプリント遺伝子発現異常を確認している(Yamazaki et al., 2015)。インプリント遺伝子発現の主要な制御機構として,父母ゲノムの性特異的なDNAメチル化修飾が知られ,メチル化修飾を受ける領域はメチル化可変領域(DMR)と呼ばれる。植物ではゲノム多倍体化によりDNAメチル化レベルが変化するが,哺乳類ゲノムでは倍数性とDNAメチル化レベルの関係は不明である。そこで,本研究では,マウス四倍体および三倍体胎子について,インプリント遺伝子のDMRメチル化レベルと発現レベルを解析した。【方法】マウス四倍体胚は二細胞期胚における電気融合法により作出した。三倍体胚は前核期卵の核移植により作出した。胎齢10.5日で回収した胎子からRNA,DNAを抽出し,H19Gtl2Igf2rGrb10Zim1,Igf2Dlk1Peg3SnrpnNdnIpwの11インプリント遺伝子の定量PCRを行った。さらに,バイサルファイトシークエンスにより4か所のDMR(H19-,IG-,Igf2r-,Snrpn-)のメチル化解析を実施し,アリル発現解析(Igf2Gtl2Dlk1)も行った。【結果および考察】マウス四倍体胎子のインプリント遺伝子発現レベルを二倍体胎子と比較すると,9遺伝子で発現レベルが有意に変化していた。しかしながら,解析した4か所のDMRメチル化レベルは,四倍体,三倍体胎子共に性特異的なメチル化様式を維持していた。また,四倍体胎子におけるアリル発現解析においても,解析した3遺伝子については片親性発現を維持していた。これらの結果から,マウス胚の多倍体化はインプリント遺伝子発現には影響を及ぼすものの,DMRメチル化状態,および,片親性発現の維持には影響を及ぼさないことが明らかとなった。

  • 関根 雅史, 小林 記緒, 白形 芳樹, 岡江 寛明, 樋浦 仁, 平舘 裕希, 原 健士朗, 有馬 隆博, 種村 健太郎
    セッションID: OR1-28
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】近年,個体を取り巻く特定の環境変化による精子エピゲノム様式変化が,次世代へ伝達される可能性が示され,要因として精子残存ヒストンと精子DNAのメチル化領域の変化が挙げられる。エピゲノム様式修飾の変化・相互作用が遺伝子発現を制御することから,精子エピゲノム様式修飾の改変が可能になれば,次世代個体の表現型制御につながり,動物生産領域で,遺伝子改変を伴わない優良個体作出への貢献が期待できる。一方,特定のエピゲノム様式に影響を及ぼす化合物が知られている。本研究では精子エピゲノム様式改変を目指し,モデル化学物質としてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸(VPA)を選択し,マウスへの投与による精子エピゲノム様式の改変が可能かを検討した。【方法】C57BL/6雄マウスを用いて,4週齢時および8週齢時からVPA(100 mg/kgBW/day)を2週間連続腹腔内投与した(対照群には生理食塩水を投与)。各群のマウスを12週齢時に解剖し,精巣の一方をメタカン固定後,パラフィン包埋切片を作成し免疫蛍光染色に供した。もう一方の精巣は,ウェスタンブロット法に供した。また,精子を精巣上体から採取しRRBS法により各群の精子DNAの次世代シークエンスデータを得て,それぞれのプロモーターとエンハンサーにおけるメチル化量を測定した。【結果と考察】免疫蛍光染色像およびタンパク発現解析から,いずれの投与群でもVPA投与群のマウス精細胞および精巣全体におけるヒストンリジンアセチル化が対照群と比較して有意に上昇していた。また,対照群と投与群の精子のプロモーターとエンハンサー領域のメチル化を比較した結果,DNAメチル化量に有意な差をもつ領域を特定した。これは,バルプロ酸投与により,分化過程の精細胞,および精子DNA上の特定遺伝子発現の制御部位に影響が生じたことを示している。即ち,VPAにより精子エピゲノム様式改変の誘導が可能と考えられた。現在,VPA投与マウス精子エピゲノム様式に生じた変化についてバイオインフォマティクス解析を進めている。

  • 堀居 拓郎, 森田 純代, 木村 美香, 寺脇 直美, 木村 博信, 末武 勲, 田嶋 正二, 安部 由美子, 畑田 出穂
    セッションID: OR1-29
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】Ten-eleven translocation(Tet)タンパクはTet1, Tet2およびTet3のファミリーからなり,DNAの能動的脱メチル化に関与する。しかし,個々のファミリーの働きについては詳しく分かっていないことが多い。本研究では,マウスES細胞とCRISPR/Cas法を用いて,Tetファミリー遺伝子単独ノックアウト(KO)株,ダブルKO(DKO)株およびトリプルKO(TKO)株を樹立し,機能解析を行った。【方法と結果】多能性幹細胞の初期分化では転写因子Nr2f2(COUP-TFII)の発現が上昇し,未分化維持遺伝子であるOct4の上流に直接結合することで,Oct4の転写を抑制することが知られている。しかし,Tet-TKO株では,分化誘導に伴うNr2f2の発現上昇が遅延し,Oct4の発現が高いままであった。一方,Tet-TKO 株にNr2f2を強制発現させて分化させると,Oct4の速やかな減少が確認された。このことから,Nr2f2発現の上昇が初期分化に必要であることが分かった。そこで,Nr2f2プロモーター領域のDNAメチル化状態を調べたところ,Tet-TKOやTet1/2-DKO株では高メチル化状態となっていた。一方,Tet2/3およびTet3/1-DKOでは低メチル化状態のままであったことから,Tet1とTet2の両方が本領域の脱メチル化状態の維持に必要であることが示された。【考察】Tetタンパクは転写因子Nr2f2プロモーター領域を積極的に脱メチル化することによりES細胞の多能性を維持していることが明らかとなった。

  • 後藤 哲平, 山口 智之, 佐藤 秀征, 原 弘真, 小林 俊寛, 中内 啓光, 平林 真澄
    セッションID: OR1-30
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】我々は膵臓欠損(Pdx1 KO)マウス体内にラットiPS細胞由来の膵臓を作製することに成功したが,KOマウス体内で出来たラット膵臓はマウスサイズだったので,移植によりその機能的正常性を検証するだけの膵島を確保できなかった。異種動物に移植臓器を再生させる研究を推進するため,本研究ではTALENによってラットのPdx1遺伝子をKOし,胚盤胞補完によってマウスiPS細胞に由来する膵臓の再生を試みた。さらに,糖尿病モデルマウスの腎皮膜下に移植したマウスiPS細胞由来膵島の血糖値制御能を検討した。【方法】Pdx1遺伝子上に設計したTALEN Right鎖・Left鎖のRNA,およびExo1 mRNAをCrlj:WIラット由来前核期卵に顕微注入し,Pdx1変異個体を作製した。Pdx1ヘテロ変異個体の交配によって得られた胚盤胞にGFPマウス由来iPS細胞を顕微注入することで,ラット-マウス異種キメラを作製した。キメラ個体の膵臓をコラゲナーゼ処理し,回収した膵島をストレプトゾトシンにより糖尿病誘発したマウスの腎皮膜下に移植し,血糖値の動態を追跡した。【結果】TALENにより7匹のPdx1遺伝子ヘテロKOラットを得ることに成功した。ヘテロKO個体同士の交配により作製した219個の胚盤胞へマウスiPS細胞を顕微注入し,63匹の生存キメラを得た。Pdx1遺伝子の解析によりこのうち6匹がPdx1ホモKOラットで,その体内でマウスiPS細胞由来の膵臓が再生されていたことがわかった。糖尿病モデルマウスへ移植したマウスiPS細胞由来膵島は,野生型マウスと同程度にまで血糖値を下げる効果を1年以上にわたって持続した(移植後5日間を除き,免疫抑制剤投与は必要なかった)。以上,胚盤胞補完によってPdx1 KOラット体内で作製したマウスiPS細胞由来膵島は正常なインシュリン分泌能を有すると証明され,ブタなどの異種動物体内で作製したヒトiPS細胞由来膵島が1型糖尿病の移植治療に使用される可能性を現実的なものにした。

  • 片山 雅史, 平山 貴士, 堀江 健吾, 清野 透, 土内 憲一郎, 谷 哲弥, 竹田 省, 西森 克彦, 福田 智一
    セッションID: OR1-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】アメリカ平原ハタネズミは特定のパートナーと共にpair bondingする行動が認められ,社会行動のモデル動物として知られている。アメリカ平原ハタネズミの行動に関わる遺伝子群を破壊すれば,そのような社会行動に関わる遺伝子を個体レベルで明らかにできると期待される。我々はそのようなゲノム改変のためのツールのひとつとしてアメリカ平原ハタネズミ由来の人工多能性幹細胞の樹立を試みた。【方法】ハタネズミ由来の線維芽細胞へリプログラミングを行うために,Oct3/4,Klf4,Sox2,c-Myc,Lin28,NanogをコードするPiggyBacトランスポゾン(PB-6F),またN末端側にMyoD遺伝子の転写活性化ドメインを融合させた改変型Oct3/4(以後M3O-Oct3/4と記述)を含む6因子をコードするPiggyBacトランスポゾン(PB-R6F)の2種類を導入した。導入後,細胞をハイグロマイシンにて選択し,フィーダー上に播種した。得られたコロニーをpick upし,細胞継代を継続した。【結果】遺伝子導入後,約3週間後に蛍光を発するコロニーが出現し,立体的な細胞増殖が認められた。それらのコロニーをピックアップし,MEFフィーダー上に播種したところ,35コロニーから26のラインを得た。その後の継代経過で野生型Oct3/4を含むPB-6Fでは平坦なコロニーに形態変化が認められたが,改変型Oct3/4を含むPB-R6Fで作成したコロニーは比較的立体的なコロニー形態を維持した。分化能力や細胞学的性質についても現在,検討中である。

  • 由良 諒佑, 真方 文絵, 宮本 明夫, 清水 隆
    セッションID: OR1-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】乳牛において,分娩後の子宮への細菌感染によって起こる炎症性子宮疾患は,子宮機能や卵巣機能を著しく低下させる。子宮への主な感染細菌はグラム陰性菌であり,この菌から放出されるリポポリサッカライド(LPS)はToll様受容体4(TLR4)によって認識され,炎症反応を誘導する。本研究室では,炎症性子宮疾患牛の卵胞液中にLPSが存在することを明らかにした。成熟卵胞の排卵過程において,卵胞から卵丘細胞—卵母細胞複合体(COC)が放出されるとともに卵胞液も卵管へ放出されることから,卵胞液中のLPSが卵管へと放出され,卵子の受精や発生に影響すると考えられる。そこで本研究では,卵子の体外受精(IVF)および体外発生技術を用いて,卵子の受精および胚発生におけるLPSの影響を検証した。【方法】3–5週齢の雌ICRマウスに過排卵処理を行い,卵管からCOCを回収し,IVFに供した。14–20週齢の雄ICRマウスから採取した精子をIVFに供した。IVFおよび胚発生にはTYH培地およびmW培地を用い,0(対照区),1および10 µg/mlのLPSを培地に添加した。また,IVF時あるいは胚発生時のみにLPSを添加した処理区も設けた。LPS処理下で発生した胚盤胞の栄養膜細胞(TE)と内部細胞塊(ICM)の細胞数をHoechstとPIによる二重染色法により計測した。【結果】IVF時のLPS添加は受精率に影響しなかったが,桑実胚以降の発生率が対照区に比べ有意に低下した。胚発生時のみのLPS添加は,対照区に比べ胚盤胞の発生率を有意に低下させた。IVFおよび胚発生時の連続的なLPS添加は,対照区に比べ4細胞期胚以降の発生率を有意に低下させ,胚盤胞におけるICM細胞数が対照区に比べ有意に減少し,TE細胞数に差は認められなかった。以上の結果から,LPSは受精には影響しないが胚発生を阻害すること,またICM細胞数に影響することが明らかとなった。

  • 江村 菜津子, 櫻井 伸行, 高橋 一生, 東間 千芽, 皆川 修人, 橋爪 力, 澤井 健
    セッションID: OR1-33
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】哺乳動物胚は桑実期から胚盤胞(BC)期にかけて内部細胞塊(ICM)と栄養膜細胞(TE)への最初の組織分化が起こる。マウス胚においてTead4はTE形成に必須であることが明らかとなっている。一方ブタ胚では,BC期胚においてTEAD4の発現が認められることから,組織分化にTEAD4が重要な役割を担うことが示唆されているが,その発現動態および機能は不明である。そこで本研究では,ブタ胚におけるTEAD4の発現動態を明らかにし,さらにRNA干渉法を用いてTEAD4の発現抑制を行うことで,TEAD4の役割について検討した。【方法】ブタ卵巣から卵丘細胞-卵子複合体を吸引採取し,体外成熟後,媒精により体外受精胚を得た。卵子および1-細胞期からBC期胚にかけてのTEAD4 mRNA発現量を解析した。1-細胞期胚の細胞質にTEAD4発現抑制用siRNA(TEAD4 siRNA)もしくは遺伝子発現抑制効果を有しないControl siRNAを注入した。さらに,いずれのsiRNAも注入しないUninjected区を設け,BC期までの胚発生率を調べた。遺伝子発現解析は桑実期胚をサンプルとし,TEAD4および組織分化関連遺伝子であるOCT-4SOX2について実施した。【結果および考察】各発生ステージにおけるTEAD4発現量は8-~16-細胞期にかけて上昇した後,低下した。TEAD4 siRNA注入区においてControl siRNA注入区およびUninjected区と比較してTEAD4発現量は有意(P<0.01)に低い値を示した。胚発生率において桑実期では各実験区間に差は認められなかったが,BC期への発生率はTEAD4 siRNA注入区がControl siRNA注入区およびUninjected区と比較して有意(P<0.05)に低い値を示した。OCT-4発現量はいずれの実験区間においても有意な差は認められず,SOX2発現量に関してはTEAD4 siRNA注入区がControl siRNA注入区およびUninjected区と比較して有意(P<0.05)に高い値を示した。以上の結果からブタ初期胚の桑実期からBC期への発生においてTEAD4が必須であることが明らかとなり,組織分化にTEAD4が関与する可能性が示された。

  • 田村 香菜, 堀越 裕佳, 椋木 歩, 竹尾 透, 中潟 直己
    セッションID: OR1-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】二細胞期胚の冷蔵輸送は,簡便かつ安価な遺伝子改変マウスの輸送法として利用されている。しかし,現在のところ,マウス二細胞期胚は,保存期間の延長により発生能が低下し,72時間以上の保存は困難である。細胞や臓器の冷蔵保存において,酸化ストレスによる細胞質中還元型グルタチオン(GSH)量の低下が生じることが知られている。また,初期胚におけるGSH量の低下は,胚の発生能を低下させる原因となることも報告されている。そこで本研究では,冷蔵保存したマウス二細胞期胚の細胞質中GSH量と胚の発生能の関係を検討し,抗酸化剤であるN-アセチル-L-システイン(NAC)が冷蔵胚の細胞質内GSH量および発生能の改善に対する効果を評価した。【方法】C57BL/6Jマウスから採取した卵子および精子を用いて体外受精を行い,二細胞期胚を作製した。二細胞期胚の冷蔵保存は,M2培地あるいはM2培地にNACを添加した保存液中で行った。二細胞期胚の細胞質内GSH量は,チオール選択的蛍光試薬であるViVid Fluor Cell Blue CMACにて細胞質内チオール基を標識後に蛍光顕微鏡下で観察し,蛍光強度を評価した。また,冷蔵した二細胞期胚の発生能は,体外培養および胚移植により評価した。さらに,NACを添加したM2培地を用いて,冷蔵輸送実験(旭川医科大学-熊本大学間)を行い,輸送された胚の発生能を評価した。【結果・考察】二細胞期胚は,M2培地での保存期間の延長に伴って,発生率及び細胞質中GSH量が低下した。一方,NAC含有M2培地は,二細胞期胚の細胞質中GSH量の低下および発生率の低下を抑制した。さらに,NAC含有M2培地で96時間冷蔵保存した二細胞期胚は,胚移植により産子へと発生した。また,本法を用いて冷蔵輸送された二細胞期胚の移植によっても,産子が得られた。以上,本研究により,マウス二細胞期胚の冷蔵保存における細胞質中GSH量の低下が発生能の低下に関与し,NACが二細胞期胚の保存期間の延長に有用であることを明らかにした。

  • 諸白 家奈子, 谷本 連, 佐々木 恵亮, 林 克彦, 平尾 雄二, 尾畑 やよい
    セッションID: OR1-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】哺乳動物の卵巣内に大量に存在する卵母細胞を有効利用するため,未成熟卵母細胞を体外で発育し成熟卵を得る培養技術の開発が試みられてきた。我々は,始原生殖細胞のみを含むマウス胎仔卵巣を器官培養し,その後得られた二次卵胞を卵胞培養することにより,産仔の獲得に成功した(第108回宮崎大会シンポジウム)。しかし,この培養方法は一度に大量の成熟卵の産生が可能であることから,ガラス化保存法を用い,卵巣断片あるいは培養卵胞を保存することで必要に応じて卵母細胞を利用することが望まれる。そこで本研究では,マウス胎仔卵巣をガラス化保存後,体外培養し成熟卵および産仔を獲得することを目的とした。【方法】胎齢12.5日のBDF1マウス卵巣を10% Ethylene Glycol(EG) + 10% DMSOを添加したL15培地で平衡後,17% EG + 17% DMSO + 0.75 M Sucroseを含むL15培地で平衡し,ガラス化保存した。融解は,0.5 M,0.25 M,0.125 M Sucrose溶液で順次行った。融解卵巣はTranswell-COL上で10%FBS 添加αMEMにて器官培養し,培養5–11日目にEstrogen受容体インヒビターICI182,780添加培地で培養を行った。器官培養17日目に卵胞を単離し,Millicell上で5%FBS,0.1 IU/ml FSHおよび2% PVP添加αMEMにて卵胞培養を行った。卵胞培養14日後,卵胞から卵丘−卵母細胞複合体(COC)を採取し成熟培養(IVM)を行い,体外受精(IVF)に供試した。得られた2細胞期胚を偽妊娠雌マウスに移植し,産仔への発生能を解析した。 【結果】器官培養後,卵巣4個から87個の二次卵胞が単離された。さらにこれらを体外で卵胞培養した結果,44.8%の卵胞からCOCが採取され(39/87),IVM・IVF後,21.8%の卵が正常に受精した(19/87)。得られた2細胞期胚15個(17.2%)を卵管移植したところ2匹の産仔を得ることに成功した。以上の結果から,マウス胎仔卵巣の体外成長培養系のガラス化保存技術への応用が可能であることが示唆された。

卵・受精
  • 吉岡 匠, 神長 祐子, 大畠 一輝, 加藤 容子, 小池 佐, 小林 久人, 河野 友宏
    セッションID: OR2-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】体細胞クローン技術に認められる産子への低発生率や胎仔・胎盤の形成異常などが知られおり,エピゲノムのリプログラミングエラーに起因すると理解されている。我々は,体細胞クローンマウス精子の包括的DNAメチローム解析を実施し,メチル化異常を検出した。本研究では,卵丘細胞体細胞クローンの卵子を用いて包括的メチローム解析を実施し,雌生殖系列におけるリプログラミングエラーについて検証した。【方法】成熟雌マウス(BDF1)の卵丘細胞をドナー細胞として排卵卵子(BDF1)に核移植して体細胞クローンマウス(n=16)を作出した。作出された体細胞クローンは10–12週まで飼育したのち,過剰排卵処置して排卵卵子を回収しDNAメチローム解析用試料とした。DNAメチローム解析は,PBAT(post bisulfite adaptor tagging)法を用いてライブラリーを作製後,次世代シークエンサー(HiSeq2500,Illumina社)を用いてシークエンスした。DNAメチル化データの比較解析にはMOABSプログラムを用いた。【結果】シークエンスデータをリファレンスゲノム(mm10)上にアライメントしたところ,有効なリード数はコントロール雌マウス卵子では約1.1億リード(20.3%),体細胞クローンマウス卵子では約0.92億リード(13.7%)であった。5 depth以上配列の読まれた領域は全ゲノムに対してコントロール卵子では22.0%,体細胞クローンマウス卵子では16.7%であった。3 CpGサイト以上を含む領域(ただし近接するCpGサイトとは±300 bp以上離れている)を単位に比較解析したところ,有意に高メチル化が認められた領域が167箇所および有意に低メチル化が認められた領域が309箇所検出された。体細胞クローン由来卵子において,生殖系列のリプログラミングを回避したDNAメチレーションエラーの存在が明らかとなった。

  • 有冨 大輝, 武田 久美子, 尾畑 やよい, 平尾 雄二
    セッションID: OR2-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】マウス胎仔卵巣の器官培養と卵胞培養を組み合わせることで始原生殖細胞(PGC)から成熟卵子の作出が可能となった(第108回宮崎大会シンポジウム)。本研究では,断片化した卵巣組織内で卵母細胞を分化させることにより卵巣の潜在能力をできるだけ損なうことなく,成熟卵子へとする培養系の開発を目的とした。【材料と方法】12.5日齢のBDF1雌マウス胎仔の卵巣原基を9日間器官培養した後に断片化し,さらに25日間の組織培養を行った(計34日)。器官培養中,dbcAMPを50 µMの濃度で添加し,組織培養では0,10,50および100 µMとした。培養21日後と28日後にコラゲナーゼ処理を施し,卵胞構造を破壊した。培養9,14,21,28および34日後に卵母細胞数の推移を調べた。培養34日後に性腺刺激ホルモンを含む培養液に置換して体外成熟(IVM)を誘起し,IVM開始から20時間後に第一極体を放出していた卵母細胞を成熟卵子とした。さらに,体外作出した成熟卵子を体外受精(IVF)に供し,胚発生能を調べた。【結果】卵巣1個あたりの成熟卵子数はdbcAMP 0,10,50および100 µM添加区でそれぞれ8.0個,15.2個,29.0個および40.7個であり,0 µM区と100 µM添加区の差は有意であった。培養9日後の卵母細胞数は2213個/卵巣であったが,その数は培養14日後にかけて減少し,0 µM区および100 µM添加区でそれぞれ276個および459個となった。その後の減少はわずかであり,培養34日後では0 µM区と100 µM添加区でそれぞれ254個と428個となった。IVFに供した成熟卵子から胚盤胞への発生率は0 µM区および100 µM添加区間で差は認められず,いずれも約13%であった。100 µM添加区由来の2細胞期胚65個を胚移植した結果,6匹の産仔が得られた。【結論】PGCを成熟卵子へと分化させる簡便な培養系の開発に成功し,卵巣の潜在的卵子生産能力の解析に資する手段となることが示された。

  • Ahmed Z. BALBOULA, Hanako BAI, Manabu KAWAHARA, Tomoya KOTANI, Masashi ...
    セッションID: OR2-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    Vitrification of mammalian oocytes is an indispensible approach for assisted reproductive technologies. However, the underlying mechanisms responsible for low developmental competence of vitrified germinal vesicle (GV) oocytes remain unknown. We show here that vitrified oocytes had a significant increase of chromosomal misalignment and abnormal spindle either at Metaphase (Met) I or II. Using monastrol assay, vitrified GV oocytes showed an increased incidence of aneuploidy at Met II. The high incidence of aneuploidy suggests that Spindle Assembly Checkpoint (SAC) is perturbed in vitrified oocytes. To investigate our hypothesis, we conducted nocodazole (NOC) and DNA damage assays. In contrast to control oocytes, vitrified oocytes extruded first polar bodies (PBs) in the presence of NOC or etoposide which are known to induce SAC activation. We then examined the localization of Mad2, an essential regulator of SAC signaling. Under NOC-induced Met I arrest status, in contrast to Mad2 localization at kinetochores in control oocytes, vitrified oocytes showed diffused localization across chromosomal arms. These results indicate that SAC is no longer functional in vitrified oocytes. Importantly, we found that vitrification stimulated the activities of cathepsin B and caspase 3 which are the putative pathways of impaired SAC function. This hypothesis was confirmed by restoring Mad2 localization and SAC function in vitrified oocytes treated with E-64, a cathepsin B inhibitor. These results provide the first demonstration that vitrification perturbs faithful chromosome segregation by impairing SAC function through activation of cathepsin B in mouse oocytes.

  • 岡部 友香, 高橋 素子, 宮田 哲, 藤井 順逸, 木村 直子
    セッションID: OR2-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】アルデヒド還元酵素(Akr1a)は,有害アルデヒドの代謝と,アスコルビン酸(AsA)合成過程でD-グルクロン酸をL-グロン酸へ変換する働きをもつ。我々は,Akr1a遺伝子欠損(KO)マウス卵では,内在性AsA含量は低いものの,IVMFC後の胚盤胞への発生率が野生型(WT)の1.5倍以上高いことを報告している。本研究では,この要因を明らかにするために,Akr1aKO卵に蓄積されるグルクロン酸を基質とするヒアルロン酸(HA)合成能とグルクロン酸抱合能を検討した。【方法】ICR系WT及びAkr1aKOマウスに過排卵処理を行い,得られた卵丘-卵母細胞複合体(COCs)を18時間IVMした。その後IVFCし,2細胞期胚と胚盤胞期胚を得た。卵丘細胞及び各発生ステージの卵よりmRNAを抽出後,HA合成酵素(Has2,Has3)とグルクロン酸抱合仲介酵素(Ugt1A)の発現量をリアルタイムRT-PCRで測定した。またIVM後のCOCs及び培地のHA含量をELISA法で測定した。胚盤胞期胚のUgt1Aタンパク質発現量と局在をウエスタンブロッティング及び蛍光免疫染色により解析した。さらにAkr1a阻害剤Sorbinil添加下でIVMFCを行い,WT卵の初期発生能を評価した。【結果及び考察】卵丘細胞ではHas2,卵ではHas3のmRNAが高く発現していた。IVM後の卵丘細胞におけるHas2の発現は,WTと比較してAkr1aKOで有意に高かった一方,Has3の発現にゲノタイプ間で有意な差はみられなかった。IVM後のHA含量は,Akr1aKOのCOCsでWTと比較して高い傾向がみられ,Akr1aKOの培地でも有意に高かった(WT:6.7 vs Akr1aKO:17.9 ng/ml)。一方,Ugt1Aタンパク質は,ゲノタイプに関わらず卵細胞質に局在していた。Ugt1Aタンパク質発現量は,胚盤胞期で増加し,Akr1aKOでWTの約2倍高かった。さらにIVM培地への1–500 μM Sorbinil添加は,WT卵の発生能を上昇させた。本研究から,Akr1aKO卵では,HA合成の促進による卵細胞質成熟の亢進,及び初期発生過程でのグルクロン酸抱合により解毒が促進されることで初期発生能が高くなるものと考えられた。また培養系でのAkr1aの阻害は卵初期発生能を改善する可能性が示唆された。

  • 木村 直子, 石井 実佳, 石塚 美咲, 小原 太樹, 藤井 順逸
    セッションID: OR2-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    【目的】老齢個体卵では,減数分裂時の紡錘体矮小化が増加し,染色体不分離や姉妹染色分体の早期分離などによる異数性が増加することが知られている。一方,我々は成熟培養(IVM)後に異数性を頻発するSOD1遺伝子欠損マウス卵では,染色体分離に関わる紡錘体形成チェックポイント(SAC)構成因子BubR1のMI期動原体における局在が低下していることを報告しており,老齢卵でも同様にSAC機能が低下していることを予測している。最近,ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の生体投与は,加齢で減少するBubR1をNAD依存性脱アセチル化酵素SIRT2を介して回復させることが報告されている。そこで本研究では,老齢卵のレスキューIVM系の構築を目的に,SIRT経路を介しBubR1の発現量を増加させるβ-NMN添加の効果について検討を行った。【方法】野生型の2ヶ月齢あるいは13~15ヶ月齢のC57BL系マウスから,卵核胞期卵を採取し,10 mM β-NMNの添加培地で,18時間IVM後,卵および卵丘細胞におけるSirtuinファミリー(Sirt1,2,4,6)mRNAの発現,卵の紡錘体形態,IVMFC後の発生能の評価を行った。【結果及び考察】β-NMNを添加した老齢卵では,対照区に比較し,MII期染色体の不整列が顕著に減少し,紡錘体の長径および面積が有意に上昇していた。また早まり気味であった老齢卵の卵核胞崩壊期が,若齢卵の時間に近づく傾向がみられた。SirtuinファミリーmRNAの発現は,卵丘細胞では月齢およびβ-NMN添加による顕著な影響はみられなかった一方,卵ではSirt1とSirt6の発現レベルが高く,β-NMN添加により上昇する傾向がみられた。老齢卵ではβ-NMN添加により,卵割率,胚盤胞への発生率は上昇していた。現在,SAC因子の発現動態は解析中であるが,今回の結果から,成熟培地へのβ-NMNの添加は,老齢卵の減数分裂の進行および紡錘体形態を改善し,受精後の発生能を上昇させることが明らかとなった。

  • Pilar FERRE, Xuan Khanh NGUYEN, Thi Tra Mi BUI, Takuya WAKAI, Hiroaki ...
    セッションID: OR2-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    This experiment was conducted to assess the effect of cumulus cell removal after 20 h of in vitro maturation (IVM) in porcine oocytes from small follicles when they are supplemented or not with vascular endothelial growth factor (VEGF). Cumulus-oocyte complexes from small follicles (< 3 mm in diameter) were cultured in the absence or presence of 200 ng/ml of VEGF during the first 20 h of IVM. The oocytes were then denuded from cumulus cells and continued the IVM culture for further 24 h. At the end of IVM, the meiotic progression of the oocytes was examined and only mature oocytes were cultured for 5 days after parthenogenetic activation. On days 2 and 5, cleavage and blastocyst rates were assessed respectively. The cell number in blastocysts was also counted by DAPI staining. Data from 6 replicated trials were analyzed by 2-way ANOVA. Denuding the oocytes after 20 h significantly increased the maturation rate regardless of the presence or not of VEGF when compared with the control (63.9%, 65.1% vs 45.6%, respectively). However, the removal of cumulus cells did not affect the percentages of cleavage and blastocyst formation following parthenogenetic activation. The cell number of the blastocysts was also similar amongst the groups. From these results, we conclude that removing cumulus cells 20 h after the start of IVM improves maturation rates of oocytes from small follicles, but does not affect the developmental competence, regardless of the presence of VEGF during the first 20 h of culture.

  • 伊丹 暢彦, 植田 愛美, 白砂 孔明, 桑山 岳人, 岩田 尚孝
    セッションID: OR2-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    [背景]高脂肪食マウスの肝臓細胞では,SIRT3発現の低下を介したミトコンドリア(Mt)タンパク質の高アセチル化が観察されているが,この現象はMt機能の低下と深く関連している。母体の肥満は卵母細胞(卵子)のMt機能を低下させるが,これがMtタンパク質の高アセチル化と関係しているのかは定かでない。本研究では,ヒト卵胞液中において肥満に伴い唯一増加する脂肪酸であるパルミチン酸を用い,これがブタ卵子内Mtに及ぼす影響について検討した。[方法]BSAに結合させたパルミチン酸をブタ卵子体外成熟培地に添加し,Mt機能とその関連因子に及ぼす影響について検討した。培養には完全合成培地であるPorcine Oocyte Mediumを用いた。[結果・考察]パルミチン酸0.5 mMの添加により卵子内への脂質蓄積の亢進と成熟率の低下,活性酸素(ROS)量の増加とATP量の低下が観察された。一方パルミチン酸添加は卵子内Mt DNAコピー数に影響しなかった。次にパルミチン酸の添加がMtタンパク質のアセチル化に及ぼす影響を検討するため,Mt外膜のTOM20とアセチル化リジンの抗体を用いて共染色を行い,共局在を検討したところ,2つのシグナルが共在する程度がパルミチン酸添加卵子において有意に高く観察された。さらにパルミチン酸添加卵子ではMtタンパク質の脱アセチル化を制御するSIRT3の発現が減少しており,SIRT3の上流因子であるリン酸化AMPKの量も減少していた。そこでAMPKの活性化剤であるAICAR(250 µM)を成熟培地に添加したところ,パルミチン酸添加によって減少していたSIRT3発現とリン酸化AMPK量が非添加区と同程度まで回復し,さらに卵子内ROS量の減少とATP量の増加も観察された。これらのことからパルミチン酸は,AMPKやSIRT3の抑制を介して卵子内Mtタンパク質の高アセチル化を引き起こし,Mt機能を低下させる可能性が示唆された。

  • 辰巳 嵩征, 山本 篤, 塚本 智史
    セッションID: OR2-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
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    オートファジーとは,隔離膜と呼ばれる二重膜で取り囲んだ細胞質成分をリソソームでまとめて分解する経路である。オートファジーの主な役割は飢餓時における栄養供給や細胞質の品質管理である。オートファジーによる分解は原則的には非選択的であるが,一部のオルガネラ(例えば,変異したミトコンドリアなど)は,オートファジーの分解基質を介して選択的に排除されることが明らかとなっている。以前に我々は,受精直後に活発に起こるオートファジーが着床までの初期胚発生に必須であることを報告した。一方,卵細胞質には多くの脂肪滴が存在することが古くから知られている。昨年の本大会において,我々は脂肪滴可視化マウスを用いて受精後の胚発生過程で脂肪滴がダイナミックに形態を変化させることを報告した。本研究では,受精後に活発に起こるオートファジーを利用することで,脂肪滴の選択的分解が可能か否か及び胚発生への影響を検討した。野生型(B6)マウス由来の受精卵(受精3~4時間目の1細胞)の細胞質に脂肪滴局在化シグナルを付加したオートファジー分解基質のタンパク質をコードするmRNAを合成後に顕微注入し,胚盤胞期までの胚発生を観察した。その結果,胚発生自体は正常に進行するものの,顕微注入前に細胞質全体に観察された小さな脂肪滴の塊が発生の進行と共に消失することが明らかとなった。また,細胞膜周辺に巨大な脂肪滴の塊と考えらえる構造体が出現することが分かった。現在,この構造体の微細構造とリソソームとの局在について解析している。オートファジーの分解基質を介した受精誘導型オートファジーによる脂肪滴の選択的分解の可能性について発表したい。

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