日本繁殖生物学会 講演要旨集
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優秀発表賞(口頭発表二次審査)
卵巣・卵子
  • 中西 寛弥, 藤内 慎梧, 山岡 愛実, 岡本 麻子, 川合 智子, 島田 昌之, 山下 泰尚
    セッションID: AW-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】排卵刺激後,顆粒層細胞(GC)はコレステロール(Cho)からプロゲステロン(P4)を産生し排卵が誘導される。我々はマウスGCにCho新規生合成酵素の転写因子SREBPが卵胞発育刺激により発現すること,SREBPが排卵期にCho新規合成とP4を産生することを報告した。しかし,卵胞発育期に発現するSREBPがなぜ排卵刺激後に機能するかは不明である。本研究ではSREBPの正の制御因子SCAPと負の制御因子INSIGに着目し,排卵刺激後にSREBPが活性化する機構を追究した。【方法】実験1. eCG投与48時間後にhCGを投与し,卵胞発育と排卵を誘導した雌マウスのGCを用いてSREBP,SCAP,INSIGの経時的発現を調べた。またhCG投与前後のGCを用いてSCAPとSREBPあるいはINSIGの結合能を調べた。さらに活性型SREBP(nSREBP)の発現と局在,標的遺伝子発現とCho量を調べた。実験2. eCG投与後のマウスにSREBP活性化阻害剤Fatostatin(Fato)を投与し,hCG投与前後のnSREBP発現,標的遺伝子発現とCho量,P4量を調べた。実験3. Fato処理したマウスにhCGとP4を投与し,排卵数と黄体数を調べた。【結果】実験1. SREBPはeCG投与後に増加しhCG投与後に減少した。SCAPは恒常的に発現した。INSIGはeCG投与後に増加しhCG投与後に減少した。SCAPとSREBPの結合能はhCG前後で変わらないが,SCAPとINSIGの結合能はhCG投与後に低下した。nSREBPはhCG投与後に増加し核へ局在化し,標的遺伝子発現とCho量が増加した。実験2. Fato投与によりnSREBP,標的遺伝子発現,Cho量,P4量が減少した。実験3. Fato投与により排卵数と黄体数が減少し,P4の追加投与によりこれらが回復した。以上から,排卵刺激後のINSIG消失に伴うSREBPの活性化がCho新規合成とP4産生,排卵に重要であることが明らかとなった。

  • 高島 友弥, 藤丸 翼, 尾畑 やよい
    セッションID: AW-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】体外成長培養(IVG)は,発生能を持たない成長期卵母細胞から機能的な卵子の作出を可能にする。これまでに低酸素条件のIVGは卵子の発生能を向上させると報告されてきたが,その機序の理解には至っていない。本研究では卵子の発生能獲得機序の理解を目的とし,異なる酸素条件で作出されたIVG卵母細胞の遺伝子発現動態およびミトコンドリア機能を解析した。【方法】10日齢BDF1マウスから単離した二次卵胞を7%および20%O2条件にて12日間IVGを行った。次にscRNA-seqにより卵母細胞の遺伝子発現動態を解析した。また卵母細胞のミトコンドリア機能は膜電位,mtDNAコピー数およびATP量により評価し,セラミド量はLC-MSにより測定した。【結果と考察】IVG卵子の受精後の胚盤胞期への発生率は20%群で40%,7%群で77%と有意に向上した。次に階層的クラスタリング解析から7%群の遺伝子発現動態は20%群よりもin vivo群に近いことが分かった。20%群における発現変動遺伝子のパスウェイ解析から,セラミド合成の異常亢進が示唆された。卵母細胞内のセラミド含量を測定した結果,in vivo群および7%群と比べ20%群で有意に増加していた。また,ミトコンドリア膜電位は20%群で顕著に低下し,mtDNAコピー数はIVG群で共通して低下したが,ATP量に差は認められなかった。セラミドはミトコンドリアの損傷をもたらすことが知られることから,酸素条件による発生能の差に寄与する一因としてセラミド代謝制御とそれに伴うミトコンドリア損傷が示唆された。またin vivo群に特に近い遺伝子発現動態を示す7%群の3検体では,IVG群で発現低下する転写因子の発現が回復し,これに成長期移行に必須なNoboxが含まれた。卵母細胞成長過程でのNoboxの機能は不明だが,発現動態の相関性から87遺伝子が下流遺伝子候補として抽出された。この中にはGdf9など卵子形成に必須なものが多数含まれNoboxの発生能獲得への関与が示唆された。

精巣・精子
  • 中野 愛里, 髙島 誠司
    セッションID: AW-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【背景・目的】血液精巣関門(BTB)はセルトリ細胞の密着結合帯によって構成され,精子形成に適切な微小環境を提供する。セミノリピドは精巣特異的な硫酸化糖脂質であり,精母細胞以降の生殖細胞の細胞膜構成成分である。今回我々は偶然セミノリピド欠損マウスの精巣においてBTBが破綻していることを発見したため,この現象の仕組みを解析した。【方法】BTBのバリア機能は,ビオチントレーサーを精巣間質に注入し,30分間麻酔下で浸透させた後,免疫染色により精細管内部への漏れ込みの有無を可視化して評価した。精巣遺伝子発現は定量的PCRによって解析した。精子幹細胞(SSC)移植では,生後5.5日のGFPマウスのSSC(WT,セミノリピド欠損)を,Busulfan処理により生殖細胞を除去したWTの精細管に移植した。2ヶ月後,GFP陽性のSSCコロニーにおけるBTB機能をビオチントレーサー試験で評価した。【結果・考察】セミノリピド欠損マウスではBTB機能が破綻していた。定量的PCRから,Cldn群の有意な発現低下が確認された。セミノリピド欠損SSCは,WTレシピエントに生着しコロニーを形成するものの,精子形成が途中で停止していた。さらにその部位はWT SSCを移植した場合と比べてビオチンが有意に流入していた。これらの結果は,生殖細胞のセミノリピドがBTBの閉門に必須であることを示している。我々は以前,移植されたSSCはCLDN3を発現することでBTBを通過することを示していた(Takashima et al., Cell Stem Cell, 2011)。しかし,生殖細胞が『閉門状態のBTBを強引にすり抜ける』のか,あるいは『BTBを開門させて通過する』のかは不明であった。今回の結果は,生殖細胞はBTBを開門して通過しさらに閉門作業を行うこと,この閉門作業にセミノリピドが必要であることを示している。今後は,セミノリピドを介した生殖細胞-セルトリ間の相互作用を詳細に解析し,BTBの人為操作に応用したい。

性周期・妊娠
  • 並木 貴文, 唐釜 春実, 寺川 純平, 大黒 多希子, 影山 敦子, 長谷川 嘉則, 小原 収, 伊藤 潤哉, 柏崎 直巳
    セッションID: AW-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】マウスの胚着床は,エストロゲンを介した白血病抑制因子(LIF)が,子宮上皮のLIF受容体(LIFR/GP130)に結合することで誘起されるが,子宮上皮のLIFシグナルに関しては,未だ明らかではない。そこで本研究では,GP130に着目し,子宮上皮特異的Gp130遺伝子欠損マウス(ecKO)を用いて,子宮の胚受容能獲得の分子機序を明らかにすることを目的とした。【方法】対照区とecKO区の雌は,野生型の雄と交配させ妊孕性を確認した。また,胚着床前日の妊娠4日目(膣栓確認日:妊娠1日目)のそれぞれの子宮を採取し,RNA-Seq解析および免疫組織化学(IHC)を用いて,胚着床関連因子(Esr1, Pgr)などについて解析を行った。【結果】ecKO区の雌からは,産仔が得られず,胚着床による胎盤形成は全く認められなかった。また,ecKOの子宮では,胚着床部位が確認できず,子宮灌流を行ったところ,胚盤胞が回収できた。RNA-Seq解析の結果から,ecKO区では対照区と比較して,胚着床前の子宮でエストロゲン(E2)受容体α(Esr1)の発現が有意に増加しており,E2応答遺伝子(Stat5a, Aqp8等)の発現増加およびプロゲステロン(P4)応答遺伝子(Areg, Alox15等)の発現低下が認められた(p<0.05)。IHCの結果から,ecKO区では対照区と比較し,間質のESR1陽性細胞数が増加していた。さらに子宮管腔上皮において,対照区では上皮間葉移行を促進するSNAIL1が発現していたが,ecKO区では発現がほとんど認められなかった。【考察】マウス胚着床時の子宮上皮GP130を介したLIFシグナルは,間質のESR1の発現を抑制すると考えられた。また,子宮上皮あるいは間質でのE2応答性を抑制し,一方で,P4応答性を促進する可能性が示唆された。さらには,LIFシグナルは,子宮上皮でのSNAIL1の発現を促進することで,子宮上皮を間葉系細胞へ変化させることで子宮の胚受容能獲得を制御していると考えられた。

臨床・応用
  • 加藤 大雅, 三浦 亮太郎, 福間 直希, 吉村 格, 柳沼 日佳里, 宮村 元晴, 鬼頭 武資, 岩田 尚孝, 桑山 岳人, 白砂 孔明
    セッションID: AW-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】約13%で存在する長期不受胎牛(RBC)は酪農経営で問題となるが,その特徴は不明な点が多い。私達はRBC血漿のメタボローム解析を行い,RBCは二次胆汁酸のデオキシコール酸(DCA)等が正常牛より低下し,腸内細菌叢が関与する可能性を示した。また,ヒトでは子宮内細菌叢解析で妊娠率等を予測できる報告もある。以上から,腸内や子宮内細菌叢がウシの受胎性に影響すると考え,①糞と子宮液の細菌叢およびRBCの細菌叢関連の特徴を把握し,②RBCの子宮液が子宮細胞機能や胚に及ぼす影響を検証した。【方法と結果】ホルスタイン種経産牛を用い,人工授精3回以内で受胎した個体を正常牛(10頭),3回以内で受胎しない個体をRBC(7頭)とした。発情周期7日目に直腸糞と子宮液を採取した。実験1:糞と子宮液でメタゲノム解析を行った。腸内細菌叢の豊富さやβ多様性指標ではRBCと正常で異なる傾向があった。網レベルの占有率では強いlipopolysaccharide(LPS)活性を有するNegativicutesがRBCで高かった。子宮液細菌叢解析では多様性に違いはないが,属レベルで炎症性サイトカインの過剰産生に関与するDoreaがRBCで多かった。実験2:ウシ子宮内膜上皮細胞(EEC)に正常やRBC子宮液を添加し遺伝子網羅的発現解析を行った。正常とRBC子宮液の影響は大きく異なり,また,炎症応答を誘導するNF-kBやTNFシグナル経路等がRBC子宮液で活性化された。実験3: EECにDCAと子宮内膜炎症を模倣したLPSを添加し遺伝子網羅的発現解析を行った。DCA添加によりLPSで誘導されたNF-kBや白血球遊走シグナル経路等が抑制された。実験4:体外受精由来ウシ桑実胚の発生培地にPBS,正常やRBC子宮液を添加し胚盤胞発生率を比較したが変化は無かった。【結論】RBCは正常牛とは異なる腸内・子宮内細菌叢の特徴を有し,子宮環境が炎症状態に成り易い可能性が考えられた。

受精・発生
  • 本多 慎之介, 池田 俊太郎, 南 直治郎
    セッションID: AW-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】Class III内在性レトロウイルス(ERVL)は哺乳類の胚性ゲノムの活性化時期において様々な遺伝子とのキメラmRNAとなって転写される。我々はこれまでの研究で,マウス2細胞期後期胚においてヒストンH3の2番目のアルギニン残基(H3R2)をメチル化することが知られているPrmt6がERVLとのキメラmRNAとなって発現していることを発見した。ERVL-Prmt6キメラmRNAでは,通常の翻訳開始コドンの上流に新たな翻訳開始コドンとなりうる配列が2か所にコードされていたため,本研究ではERVL-Prmt6キメラmRNAの翻訳開始コドンの特定を行った。【方法】マウス1細胞期胚にERVL-Prmt6キメラmRNAおよび通常のPrmt6 mRNAを顕微注入し,ウエスタンブロットによって翻訳されたタンパク質の分子量を推定した。また,2か所の翻訳開始コドンの候補の配列ATG(メチオニン)をそれぞれAAG(リジン)に置き換えたERVL-Prmt6変異キメラmRNAを顕微注入することによって,翻訳開始コドンの推定を行った。【結果】ERVL-Prmt6キメラmRNAの過剰発現胚では通常の45 kDaと異なる52 kDaのPRMT6タンパク質が増加した。また,通常の転写開始コドンから99 bpと168 bp上流の翻訳開始コドン候補配列(ATG)をそれぞれリジン(AAG)に置換したERVL-Prmt6キメラmRNAを過剰発現させたところ,168 bp上流のATGを置換したmRNAの過剰発現胚では52 kDaのPRMT6タンパク質の過剰発現が認められなかった。これらの結果から,ERVL-Prmt6キメラmRNAでは翻訳開始コドンが168 bp上流のATGに置き換わることによって通常より長いタンパク質を翻訳していることが明らかになった。胚性ゲノムの活性化時期にERVLとのキメラmRNAから翻訳されるタンパク質を探索することで,細胞分化を制御する哺乳類初期胚特有の新たな因子が見つかる可能性がある。

  • 青木 漱吾, 井上 裕貴, 石田 大樹, 田中 啓介, 野口 龍生, 白砂 孔明, 岩田 尚孝
    セッションID: AW-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】体外で発育した胚(体外胚)は家畜やヒトの胚移植に広く用いられる。一方で体外胚の質は体内で発育した胚(体内胚)に比べて劣る。この差は卵管環境にあると推測されるが胚発育を左右する卵管内の因子は明らかではない。ウシの体内胚と体外胚の変動遺伝子(Noguchi et al., 2019)から体内胚の上流因子として多くのmiRNAが推測された。そこで本研究では卵管液中に存在するmiRNAが胚発生を支持するのかを検討した。【方法】食肉センターより黒毛和種(4頭分)の排卵跡が確認できた卵巣側卵管から卵管液と卵管上皮細胞(OEC)を採取した。卵管液は0.2 μmのフィルター処理後細胞外小胞中RNAを集めsmall RNA-seqに供した。OECは一日培養後に培地を逆転写PCRに供した。体外胚は卵巣卵子から定法で作成した。8細胞期胚を選び,透明帯除去後miRNA mimicとLipofectamine(Invitrogen)と共培養した。miRNA mimicの導入検証はウシ顆粒層細胞に導入したpmirGLOベクター(Promega)を用いて確認し,その効果は導入胚のRNA-seqとターゲット遺伝子(TXNIP)の免疫染色による蛋白発現解析で確認した。【結果】体内胚における上流因子miRNAは,卵管液のsmall RNA-seqで確認されたmiRNAと重複し,OECの培地中にも検出された。これらのmiRNAからmiR-17-5pを選びmimicとして添加した。この mimicはベクターのターゲット配列に特異的に作用し導入が確認された。またmimic添加後2日目の胚のRNA-seqからmiR-17-5pが作用していることが確認された。またターゲット遺伝子(TXNIP)の胚中蛋白発現量は有意に低下した。さらにmimic添加により胚盤胞までの発生率が有意に増加した。本研究により卵管液中のmiRNA(miR-17-5p)は胚発生に重要な役割を果たしていることが示された。

  • Dongxue MA, Mohamed Ali MAREY, Ihshan AKTHAR, Masayuki SHIMADA, Akio M ...
    セッションID: AW-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    [Introduction] Toll–like receptors (TLRs) are innate immune cell receptors which recognize pathogens during infection. Specifically, TLR2 pathway regulates calcium mobilization through the cell. Calcium influx is essential for acquisition of sperm fertilizing competence through regulation of capacitation and acrosome reaction (AR). Human sperm express TLR2 to recognize pathogens. Recently, we reported that TLR2 is localized in the posterior segment of bull sperm head. Here, we aimed to clarify the role of sperm TLR2 on sperm–oocytes interaction during in vitro fertilization (IVF). [Materials and Methods] Frozen–thawed bull sperm were washed and treated with TLR1/2 antagonist (0, 10 and 100 µM) for 30 min to block the sperm TLR2. Then, co–cultured with intact cumulus–oocyte complexes (COCs), denuded, or zona pellucida (ZP)–free oocytes for 6 h. After 1 h and 3 h of co–culture, the number of bound or penetrated sperm to the ZP were counted. Next, AR was induced using calcium ionophore–A23187 (CaA) to evaluate the effect of sperm TLR2 on calcium influx and AR by fluorescence microscopy and flow cytometry respectively. [Results] Co–culture of TLR2 antagonist-treated sperm either with COCs or denuded oocytes, but not with ZP–free oocytes, reduced the cleavage rate and blastocyst ratio. Computer–assisted sperm analysis (CASA) analysis revealed that motility parameters were not affected in TLR2 antagonist-treated sperm. However, TLR2 antagonist reduced the ability of sperm to bind or penetrate the ZP at 1 h and 3 h. Moreover, blockage of sperm TLR2 reduced the induction of AR either in the ZP–attached sperm or in CaA–triggered AR compared to control. Notably, exposure of TLR2 antagonist sperm to CaA clearly reduced the intracellular calcium level in sperm. Overall, the results provide evidence that sperm TLR2 is involved in sperm Ca2+ influx to induce AR which enables sperm to penetrate and fertilize oocytes in cows.

生殖工学
  • Qingyi LIN, Chommanart THONGKITTIDILOK, Maki HIRATA, Quynh Anh LE, Kok ...
    セッションID: AW-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    [Introduction] Modern techniques that require costly equipment such as microinjection and electroporation are generally used to produce the mutant porcine embryos. Our previous report showed that a lipofection-mediated gene-editing system without specialized equipment could be performed in zona pellucida (ZP)-free oocytes and embryos. However, the factors that affect the system efficiency need to be further examined. In the present study, we evaluated two factors affecting lipofection transfection efficiency involved in the timing of subject CRISPR/Cas9 system into ZP-free zygotes and the duration of lipofection treatment. [Materials and Methods] To examine adequate introduction timing, the zygotes collected at 5 h, 10 h, and 15 h post-in vitro fertilization (IVF) were incubated with lipofection reagent, guide RNA, and Cas9 for 5 h. Next, to optimize the exposure duration, the 10 h post-IVF-zygotes were incubated with lipofection reagent for 0 h, 2.5 h, 5 h, 10 h, and 20 h. The developmental capacity of treated embryos and the genotypes of the resulting blastocysts were evaluated. [Results] The lipofection treatment could be performed in 10 h, 15 h post-IVF zygotes for 5 h of incubation to generate the mutant blastocysts, and there were no detrimental effects on the developmental capacity among the treated zygotes. However, in the exposure duration treatment, the blastocysts formation rates and mutation rates of the resulting blastocysts decreased as the duration increased from 2.5 h to 20 h. In conclusion, a lipofection-mediated gene transfection system is feasible, particularly when the zygotes derived from 10 h post-IVF were treated with lipofection for 2.5 h to generate mutant blastocysts.

  • 山本 琢人, 本多 慎之介, 出口 一成, 池田 俊太郎, 南 直治郎
    セッションID: AW-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】標的遺伝子のmRNAを分解する低分子二本鎖RNA(siRNA)の細胞への導入は遺伝子発現解析における強力かつ一般的な実験手法であるが,GV期から受精前の卵母細胞に対してはあまり用いられていない。その理由の一つとして,一般的に受精卵へのsiRNAの導入には顕微注入法が用いられているが,卵母細胞に導入する場合は卵丘細胞を除去する必要があるため,その影響でその後の受精操作や発生に大きな影響が出てくることがあげられる。そこで本研究ではGV期卵母細胞において卵丘細胞の有無が発生へあたえる影響を評価するとともに,より簡便な遺伝子発現解析手法を検討することを目的として,エレクトロポレーションによって卵丘細胞を除去することなくsiRNAをGV期卵母細胞へと導入する手法を試みた。【方法】ICR系統のマウスのGV期卵母細胞を用い,卵丘細胞の有無がGV期卵母細胞のその後の受精能と発生能に与える影響を評価した。GV期卵母細胞を①卵丘細胞に覆われた卵母細胞と②人為的に(i)から卵丘細胞を除去した卵母細胞に分けて体外成熟,体外受精を行い発生への影響を検討した。siRNAの導入にはNEPA21(ネッパジーン社)を用いてエレクトロポレーションによって行い,15時間の体外成熟後にRT-qPCRによって遺伝子発現解析を行った。発生能の評価には15時間の体外成熟後に体外受精を行い発生への影響を検討した。【結果】GV期卵母細胞の受精率はそれぞれ①50.8%,②3.2%,胚盤胞への発生率は①44.4%,②0%であり,卵丘細胞の除去はGV期卵母細胞の受精能と発生能を著しく低下させることが確認された。GV期卵母細胞へのエレクトロポレーションによってsiRNAを導入した結果,15時間後のMII期卵母細胞で7–9割のmRNA発現抑制が確認された。以上のことから,本研究で我々が新たに試みたGV期卵母細胞へのエレクトロポレーション法では,卵丘細胞を除去せずにsiRNAの導入が可能となり,その機能を発揮できることが明らかとなった。

一般口頭発表
卵巣・卵子
  • 竹下 百音, 園 菜々美, 田崎 秀尚, 国枝 哲夫, 大月 純子
    セッションID: OR-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【背景・目的】卵成熟過程には様々な遺伝子が関与しており,これらの異常は雌性不妊を惹起する。ENU誘発突然変異マウスであるrepro57マウスは,減数分裂時の交叉形成に関与するRnf212遺伝子に変異を有し,雌雄ともに野生型(WT)との自然交配後に不妊を呈す。repro57 (-/-)雄個体の精子形成は第一減数分裂前期で停止することが報告されている一方,repro57 (-/-)雌個体の不妊原因は未だ不明である。本研究ではrepro57 (-/-)雌マウスにおける表現型解析を目的とした。【方法】過排卵処理したWTおよびrepro57 (-/-)雌マウスのMII期卵をWT由来精子を用いて媒精し,タイムラプス観察システムにより胚発生率ならびに発生動態を解析した。また,MII期卵の染色体スプレッドを作成し,抗セントロメア抗体を用いて各姉妹染色体の倍数性/異数性および二価染色体間の動原体の距離を調べた。【結果】IVF後の受精率,胚発生率ともにrepro57 (-/-)で有意な低下が見られた(p < 0.01)。WTでは発生動態に異常が認められなかったのに対し,repro57 (-/-)ではフラグメント,細胞分裂失敗,空胞形成,不均等卵割などの形態異常が認められ,形態異常率は54.2%と高値であった(p < 0.01)。またWTのMII期卵は全て正倍数性を示し,動原体の全てが接着を保持していたのに対し,repro57 (-/-)では90.9%に異数性が認められ(p < 0.01),動原体の有意な解離が認められた(p < 0.01)。【考察】本研究よりrepro57 (-/-)雌マウスでは,受精能の低下および胚発生過程における細胞分裂の異常による胚発生能の低下が明らかとなった。また,MII期卵において動原体分離が観察されたことから,姉妹染色体の早期分離による染色体の異数性が不妊原因のひとつであることが示唆された。repro57 (-/-)雌マウスのさらなる解析は,高齢不妊患者に多く見られる染色体分離異常の解明の一助となり得る。

  • 畑村 茉穂, 国本 悠里, 塚本 智史, 堀居 拓郎, 畑田 出穂, 池田 俊太郎, 南 直治郎
    セッションID: OR-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】ほ乳類では胎児生殖腺において精子形成関連遺伝子と卵子形成関連遺伝子が拮抗して働くことで性分化が始まることが知られているが,その詳細なメカニズムは不明な点も多い。Oog1はマウスゲノム上に5コピー存在する遺伝子であり,雌胎児生殖腺において胎齢15.5日に発現を開始し,受精後2細胞期までそのRNAが存在することが分かっているが,その機能は不明である。本研究ではOog1の機能を明らかにすることを目的とした。【方法】5コピー共通な配列にgRNAを設計し,CRISPR/Cas9システムを用いてOog1の完全ノックアウト(KO)マウスの作出を行った。また,その機能を予測するためにインシリコによるOOG1の構造解析を行った。【結果】Oog1は4番染色体上に2コピー,12番染色体上に3コピー存在するため,これらを一気にKOすることは困難であった。よって4番染色体の2コピーがKOされた系統と12番染色体の3コピーがKOされた系統を樹立し,これらを交配させることにより5コピーのKO系統の樹立を試みた。また,Oog1のホモロジー解析から,ヒト遺伝子であり癌・精巣抗原であるPRAMEやそのファミリー遺伝子と相同性が高いことが分かった。OOG1は9つのLRRドメインを持ち,horseshoeの立体構造をとることが予測され,PRAMEと類似していることが判明した。PRAMEはその機能の一つとしてレチノイン酸シグナルを抑制することが報告されている。また雌の胎児生殖腺において,胎齢12.5日にレチノイン酸シグナルに応答してStra8が発現することで卵母細胞の減数分裂が開始され,胎齢16.5日にはその発現が減少し第一減数分裂前期の複糸期で減数分裂を停止することが分かっている。以上のことからOog1が胎齢15.5日に発現を開始することでレチノイン酸シグナルを抑制し,胎齢16.5日での減数分裂の一時停止に関与しているとの仮説を立て,今後の実験を進めている。最新の知見も併せて紹介する。

  • 永田 修大, 山口 仁希, 井上 裕貴, 田中 啓介, 白砂 孔明, 岩田 尚孝
    セッションID: OR-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【緒言】卵胞液(FF)は卵子発育の唯一の環境であり加齢によってその性状は変化する。FF中のmiRNAが卵子発育に重要な役割を果たしている事が示されており,本研究ではFF中のmiRNA頻度に加齢が及ぼす影響と,その変動miRNAが卵子体外発育に及ぼす影響を調べた。【方法】食肉センター由来から採取した若齢(25–50カ月)黒毛和種卵巣の初期胞状卵胞(直径0.5–0.7 mm)から卵子顆粒層細胞複合体(OGCs)を回収し16日間培養した。このOGCsから顆粒層細胞(GCs)と培養液を集めた。また若齢と加齢(140ヶ月以上)ウシ各5頭の卵胞(直径3–6 mm)からFFを回収した。FFと培養液はフィルター(0.2 μm)処理後SeraMirで集め,GCsからはNucleoSpin(Takara)でmiRNAを集めsmall-RNAseqに供した。mimic導入の検証は,ターゲット配列を有したpmirGLOvector(Promega)とmimic導入GCsのRNA-seqで行った。miRNAの導入はLipofectamine2000を用いた。【結果および考察】FF中に高濃度で存在するmiRNAのほとんどは,GCsやGCの培養液中に確認できた。FF中ではmiR10b,miR423,miR1246やmiR19b等に月齢間で有意な差が認められた。若齢FFに多いmiR19bを添加に用いた。GCsにmimicを添加するとベクターのターゲット配列に作用することが確認された。さらに添加後の変動遺伝子(RNAseq)ではmiR19bが上流因子として推測され,変動遺伝子に関連付けられるPathwaysはmiR19bのターゲット遺伝子群(Targetscan)と重複していた。mimic添加は,体外発育卵子の直径を有意に増加させ,H4K12アセチル化レベルを上昇させた。また成熟後の核成熟率は高い傾向にあった。本研究ではmiR19bは卵子の発育を支持するが加齢によって卵胞液に占める頻度が減ることが示された。

  • 坂口 謙一郎, 大谷 祐紀, 河野 光平, 栁川 洋二郎, 片桐 成二, TELFER Evelyn E
    セッションID: OR-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】がん治療における卵巣機能の低下による不妊を避けるため,治療開始前に卵巣組織を凍結保存し,治療後の患者卵巣に再移植する妊孕性温存療法が行われている。しかし,妊孕性温存療法には,卵巣組織の再移植時に腫瘍細胞を再移植してしまう恐れがある。そのため,患者由来の卵巣組織を培養し,卵巣組織内の原始卵胞を体外で受精可能な段階まで発育させる体外発育培養技術の開発が求められている。アミノ酸代謝解析は,胚や卵子のアミノ酸の要求量の評価に有用であり,発生能の予測にも用いることが可能である。本研究は,ヒトと同様に単排卵動物である牛をモデルとし,体外発育培養において,多数の原始卵胞が二次卵胞に発育する場合と,二次卵胞への発育がみられない場合におけるアミノ酸代謝を比較し,卵胞発育能の指標となるアミノ酸とその代謝物を探索した。【方法】食肉検査場用由来の牛卵巣を1 mm程度に薄切し,短冊状に卵巣皮質を切り出し,4 × 2 × 1 mm程度の薄切片にした。それらの卵巣組織を6日間培養し,培養前後の卵巣組織を組織学的に解析した。培養前後の各発育ステージの卵胞数を計数し,二次卵胞数の上位3検体(7–11個)をMany群,下位3検体をFew群(0–1個)として,それらの卵巣組織薄切片の使用済み培養液中の遊離アミノ酸とその代謝物の濃度を,高速アミノ酸分析計を用いて測定した。【結果】検出された33種のアミノ酸とその代謝物のうち,13種のアミノ酸の濃度は増加し(P < 0.05),ホスホエタノールアミンとα-アミノアジピン酸(α-AAA)の濃度は減少した(P < 0.05)。また,α-AAAの濃度はFew群がMany群よりも高く,メチオニン,リシン,アルギニンの濃度はMany群の方がFew群よりも高かった(P < 0.05)。【考察】α-AAAは,リシンの代謝中間体であるが,リシンの濃度はMany群で高く,α-AAAは逆にFew群で高かった。したがって,培養下においてリシンの代謝が活発な場合,原始卵胞の二次卵胞への分化は抑制される可能性が示唆された。

  • 杉本 彩嘉, 井上 裕貴, 田中 啓介, 岩田 尚孝
    セッションID: OR-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】生体内と生体外における卵子の発育環境の違いの一つに,基質の硬さが挙げられる。過去に我々は,ポリアクリルアミドゲルや食品等に用いられる増粘多糖類を用いた柔軟な基質がブタ顆粒層細胞(GCs)の増殖を増強し,卵母細胞の発育能力を改善したことを報告している。本研究では,この基質がウシ初期胞状卵胞由来卵子の体外発育に及ぼす影響とその分子背景を遺伝子発現解析にて検討した。【方法】卵子顆粒層細胞複合体(OGCs)は初期胞状卵胞(EAF,直径400–700 µm)から回収した。キサンタンガム(1%)およびローカストビーンガム(1%)(株・三晶より提供)を等量混合してゲルを作成した。OGCsは個別で従来のプラスチックプレート(プレート区)およびゲル上(ゲル区)で16日間体外発育し,GCsおよび発育卵子を比較した。卵子のミトコンドリア(Mt)膜タンパク質量(TOMM20)は免疫染色で,脂質量はBODIPY染色で比較した。また体内発育の対象区として胞状卵胞(AF,直径3–6 mm)とEAFから採取した卵子を用いた。さらに体外発育後16日目のOGCsからGCsを採取しRNAseqに供した。【結果】ゲル区とプレート区間では,GCsの数および生存率はゲル区で有意に高かった(P<0.01)。卵子直径はゲル区で有意に大きかった(P<0.01)。体外成熟率には差が認められなかったが(33.3 vs 28.9%),正常受精率はゲル区で有意に高かった(P<0.01)。さらに卵子のMt量は,AF卵子,ゲル区,プレート区,EAF卵子の順で高い値を示し,脂質含量は,ゲル区,AF卵子,プレート区,EAF卵子の順になった。RNAseqによる変動遺伝子をGO解析すると,Focal adhesionやActin cytoskeleton,Hippo-singlingに関連する増殖経路がゲル区で活性化している事が示された。本研究から,増粘多糖類基質は卵子の体外発育を支持し,その背景であるGCsの性状変化を示すことができた。

受精・発生
  • 原 駿介, 井上 裕貴, 田中 啓介, 野口 龍生, 白砂 孔明, 岩田 尚孝
    セッションID: OR-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】体外成熟を行った卵子は体内成熟した卵子に比べて発生能力が劣る。体内と体外の培養条件の差の一つに基質の堅さが考えられる。本研究では,植物由来の増粘多糖類で作成したゲル基用いて卵子を体外成熟させ,胚発育能力や顆粒層細胞と卵子の遺伝子発現を検討した。【方法】PBSに合計1%のXhanthangumとLocustbeangum(三晶より提供)を加え,撹拌・加熱溶解した。その後96ウェルプレートに滴下(80 μl/ウェル)・冷却し,ゲルを作成した。ゲルはovernightし,使用前に,培地を交換して用いた。実験では,卵巣から吸引採取した卵子を,プレート上(プレート区)とゲル上(ゲル区)で培養した。その後,体外授精を行い,胚盤胞期胚まで培養して,成熟率,受精率及び発生率を比較した。胚盤胞期胚は,細胞数を比較した。また,体外成熟後の卵子のミトコンドリアDNAコピー数(RT-PCR),ATP含量を比較した。また,卵子中の脂肪含量とFアクチン量は蛍光顕微鏡下で比較した。さらに,成熟前卵子,ゲル区とプレート区の成熟後の卵子及びそれらの顆粒層細胞からRNAを抽出しRNAseqに供した。【結果】卵子の成熟率はゲル区とプレート区間で有意差はなく,正常受精率,発生率及び細胞数はゲル区で有意に高かった(P<0.05)。成熟後の卵子のATP含量とミトコンドリアDNAコピー数は差が無かったが,脂質量やFアクチン量はゲル区で有意に高かった(P<0.05)。成熟卵子の顆粒層細胞において,ゲル区で増える遺伝子はステロイド合成や脂質代謝経路に関連づけられ,ゲル区で減る遺伝子はFocal adhesionやMAPK signalingに関連付けられた。成熟卵子において,ゲル区で増える遺伝子は酸化的リン酸化やプロテアソーム,減る遺伝子はUbiquitin mediated proteolysisやRas signaling 経路などに関連付けられた。本研究では,ゲル基質を成熟培養に用いることで卵子の発生能力改善に役立つことが示された。

  • 影山 美桜, 伊藤 洵, 白砂 孔明, 岩田 尚孝
    セッションID: OR-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】胚盤胞期胚中のミトコンドリア(Mt)数は胚の質を決定する要因であるが,この数を制御する分子背景は明らかになっていない。本実験ではMt-由来の活性酸素のレベルを低下させることがブタ胚のMt生合成へ及ぼす影響を検討した。【方法】未経産ブタの卵巣卵子を成熟後,活性化処理し,活性化後2日目の分割胚(>4細胞)まで培養した。これらの胚を0.1 μM MitoTEMPOL(MitoT),0.5 μM Mitoquinol(MitoQ),対象区(溶媒,エタノール)を添加した発生培地にて5日間培養し,胚盤胞期胚までの発生率を測定した。胚盤胞期胚中のMt数はリアルタイムPCRにて評価した。活性化後5日目の胚(桑実胚期)のNRF2核内発現レベルは免疫染色にて評価した。さらに,胚中のPGC1αとTFAMのmRNA発現レベルは逆転写PCRで評価した。【結果】MitoTとMitoQ添加24時間後,胚の活性酸素量は減少したが,胚盤胞胚までの発生率に影響はなかった。胚盤胞期胚中のMt数はMitoTを添加した胚で有意に減少し,MitoQ添加により減少傾向が認められた。胚盤胞期胚中のATP含有量はMitoT添加により減少傾向が認められ,MitoQ添加により有意な減小が観察された。また,MitoT,MitoQ添加はいずれかも,NRF2核内発現レベルと胚中のPGC1αおよびTFAMの発現レベルが低下した。これらの結果から,MtのROSレベルの低下は,胚中のミトコンドリア生合成を低下させることが示唆された。

  • 小林 陽歌, 小野寺 梨紗, 鈴木 宏志, 渡部 浩之
    セッションID: OR-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】雌雄の産み分け技術は様々な産業での応用が期待されており,バイオプシー法による初期胚の性判別や性判別精液はすでに実用レベルにまで到達している。しかし,バイオプシーによる胚の損傷やレーザー照射による精子DNAへのダメージおよび精子数・運動性の低下が問題視されている。そのため,非侵襲的な方法による性判別の実用化が望まれる。近年,我々は,マウスにおいて5細胞への発生スピードが速い胚の大部分が雄であることを報告した。本研究では初期胚の発生動態と性比の関連をより詳細に検討するために,タイムラプスインキュベーターを用いてマウス体外受精卵の培養を行った。【方法】性成熟したICRマウスから精子および卵子を回収し,TYH培地中で体外受精を行った。媒精後,受精卵をmW培地へ移し,タイムラプスインキュベーターを用いて37℃,5% CO2,95%空気下で精子添加後120時間まで培養した。各胚の発生動態は15分間隔で写真を撮影することで得た。培養終了後,全ての胚を個別にPCR-高分解能融解曲線解析で雌雄を判定した。【結果】媒精後24時間で2細胞へ分割した胚は100%(433/433),48時間で4細胞へ分割した胚は91%(395/433),120時間で胚盤胞になった胚は81%(352/433)だった。各胚は媒精後40–86時間(平均53時間45分)の間で,5細胞へ分割した。各胚の雌雄を判定したところ,雄胚の割合は51%(163/318)であった。49時間未満に5細胞へ分割した胚では雄が82%(23/28)と有意に(P < 0.01)多くなった。その後,雄胚の割合は徐々に減少し,53時間未満に5細胞へ分割した胚では雄が52%(83/160)となり,性比の偏りが見られなくなった。以上の結果から,タイムラプスインキュベーターを用いた発生動態の詳細な観察により,性判別のための指標を決定することができた。ICRマウスでは5細胞への発生スピードを指標(媒精後49時間未満)とすることで,雄胚の選別が可能であることが示された。

  • 木村 吉拓, 金田 正弘, 岡江 寛明, 杉村 智史
    セッションID: OR-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】体外受精卵移植技術(IVF-ET)によって誕生した子牛には,過大子(LOS)が発生しやすいことが報告されている。この原因として,ゲノムインプリンティングの破綻(LOI)によるインプリント遺伝子の発現異常がウシ胎子組織を用いた研究によって示唆されている。本研究では,ウシIVF胚盤胞におけるインプリント遺伝子のアレル特異的な遺伝子発現を解析することで,IVF-ETがゲノムインプリンティングの制御に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】ウシ胚盤胞において発現しているインプリント遺伝子について,NCBIのデータベースからBos.taurusBos.indicusとの間でSNPsを保有している配列を特定し,増幅領域にSNPsを含むようにプライマーを設計した。黒毛和種あるいは交雑種(Bos.taurus)の卵巣から卵丘細胞卵子複合体(COCs)を採取し,ブラーマン種(Bos.indicus)の凍結精液を用いて,体外成熟,体外受精,体外発生を経てF1胚盤胞を作製した。発生培地には5%子牛血清を含むCR1aaを用いた。作製された単一の胚盤胞からゲノムDNA(gDNA)とRNAを抽出した。gDNAおよびcDNAをテンプレートにPCRを行い,目的配列を増幅した。電気泳動で特異的な増幅を確認した後,PCR産物を精製し,サンガーシーケンス法により該当する配列のSNPsにおける波形を解析した。【結果および考察】作製したF1胚盤胞のgDNAを用いてSNPsを確認したところ,着目したインプリント遺伝子のうち,SNRPNにおいてデータベース上のSNPとの一致が確認できた。SNRPNは雄性アレル発現として知られているが,今回cDNAを解析した4つ全てのIVF胚において,雄性アレル発現が認められた。以上,ウシIVF胚盤胞では,LOIを介したSNRPNのアレル特異的発現異常は生じていない可能性が示された。今後,他のインプリント遺伝子や培養条件の違いによるアレル特異的な遺伝子発現を解析する予定である。

  • 守田 昂太郎, 畑中 勇輝, 井橋 俊哉, 浅野 雅秀, 宮本 圭, 松本 和也
    セッションID: OR-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    受精直後の胚は核内のリプログラミングを経て,分化全能性を獲得する。これまでに我々は,ヒストンアルギニンメチル化修飾の一つが受精卵のDNA脱メチル化に必須であることを報告し,広く研究されてきたリシンに加えアルギニンのメチル化がリプログラミングにとって重要な働きを担うことを発見している。近年,アルギニンメチル基転移酵素のPRMT5及びPRMT7が卵子や受精卵で高発現することが報告されているが,受精卵におけるアルギニンメチル化修飾の役割は十分に明らかにされていない。そこで本研究では,PRMT5及びPRMT7によって修飾されるヒストンのアルギニンメチル化に焦点を当て,受精後におけるリプログラミングへの関与を調べた。PRMT5及びPRMT7がメチル化する4種のヒストンの変異体をマウス受精卵にそれぞれ発現させ,内在性ヒストンの核内への取り込みを阻害した結果,H3R2Aの発現によりH3R2me2sの取り込みを阻害した受精卵の発生が2細胞期で停止した。免疫染色の結果から,内在性H3R2me2sはユークロマチンを示唆する領域で認められ,受精卵の転写活性に関与している可能性が考えられた。H3R2Aを発現させた受精卵の雄性前核では,新規RNA合成の指標となるBrUTP及びPol IIの伸長反応の指標となるリン酸化レベルが有意に低下し,受精卵の胚性ゲノム活性化(minor ZGA)で転写されるMuERV-Lの発現量も有意に低下した。さらに,阻害剤やsiRNAによりPRMT5,PRMT7を同時に阻害した場合でも転写活性の抑制が認められた。これらのことから,H3R2me2sは受精卵のminor ZGAに重要な働きをすることが示唆された。次に,minor ZGAに関与することが明らかになっているH3K4のメチル化との関係をH3K4Mの発現で調べたところ,雄性前核におけるH3R2me2sのシグナルが有意に低下した。以上のことから,H3R2me2sはH3K4のメチル化と共にminor ZGAに関わる新たな修飾であることが示唆された。

  • 伊藤 洵, 白砂 孔明, 岩田 尚孝
    セッションID: OR-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】母体の加齢に起因するミトコンドリア(Mt)機能の低下は,卵子や胚の質低下の原因となる。我々は,若齢・加齢ウシ卵子から体外授精(IVF)を用いて8細胞期胚を作成し,この胚にガラス化-加温処理を行ったところ,Mt機能障害が生じ,得られた胚盤胞期胚中のMt数が若齢ウシ由来胚では減少した。一方,加齢ウシ由来胚では,この減少は認められなかった。このことから,Mt機能障害により亢進するMt品質管理機構は加齢に伴い減退することが推測される。本研究では,脱共益剤(CCCP)を用いてMt機能障害を引き起こし,母体の加齢に伴うMt品質管理機構の減退が同様に認められるのかを検討する。【方法】黒毛和種(若齢:25–50ヶ月齢,加齢:140ヶ月齢以上)由来の卵巣-卵子を用いて,IVFにより8細胞期胚を作成し,1 hの10 µM CCCP処理を施した。その後10 µLの5%ウシ血清添加SOF培地にて5日間の個別培養を行い,培養完了時に胚盤胞期胚率と総細胞数を指標に胚発生能を評価した。さらに,リアルタイムPCRを用いて,得られた胚盤胞期胚と培地中のmtDNAコピー数を測定した。また,培養期間中の培地へのmtDNAの放出が盛んな時期を特定するために,若齢区の胚を対象にCCCP処理後の24 hごとの培地を回収し,mtDNAコピー数を測定した。【結果】若齢区では,CCCP処理による胚発生能への影響は認められなかったが,胚盤胞期胚中のMt数は減少し,培地中のmtDNA量は増加した。一方,加齢区ではCCCP処理により胚発生能は低下した。さらに胚中Mt数の減少は認められず,培地中のmtDNA量は増加した。また,CCCP処理・未処理区のどちらでもmtDNAの放出量はIVF後から6–7日の間に最も増加し,さらにCCCP処理区のmtDNAの放出量は未処理区と比べて有意に高い値を示した。これらのことから,ガラス化-加温後にも認められた加齢に伴う不良Mtの除去機能の減退は,薬剤による膜電位低下処理後でも観察されることが示された。

  • 芦部 詩織, 菅野 はるか, 山本 千晶, 長尾 慶和
    セッションID: OR-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】顕微授精(ICSI)では,運動能を指標として選択された精子が卵子内に注入されることが多い。我々はこれまでに運動能が高い精子はミトコンドリア(MT)活性が高く,活性酸素種(ROS)を多く放出することから,胚発生に悪影響を及ぼす可能性を指摘してきた(第106回日本繁殖生物学会)。本研究では,ICSI時の精子MT活性の動態を継時的に解析し,初期発生に及ぼす影響を検討した。【材料と方法】と体卵巣由来ウシ卵丘卵子複合体を成熟培養後,体外受精(IVF)およびICSIに供試した。[実験1]凍結融解精子をJC1添加の修正BO液中で培養後,IVFおよびICSIに供試した。IVF胚と,活性化運動精子を注入したICSI胚の精子MT活性を比較するために,精子侵入または注入0から4時間後のIVF胚およびICSI胚を共焦点レーザー顕微鏡により観察し,レシオメトリック解析にて精子MT膜電位を定量した。[実験2]凍結融解精子をCellROX,JC1およびヘキストにより3重染色を行い,共焦点レーザー顕微鏡にてMT膜電位およびROSの輝度を算出し,精子から放出されるROSの定量を行なった。[実験3]IVF胚とICSI後の2–4細胞期胚のDNA断片化率を検討した。ICSIには,人為的に活性化を誘導あるいは抑制した精子を用いた。【結果と考察】[実験1]精子注入直後のICSI胚における精子MTの膜電位は1.01±0.06で,精子侵入直後のIVF胚の膜電位0.28±0.04に比較して高い値を示した(P<0.05)。[実験2]精子MTの膜電位とROS量に正の相関が認められた(P<0.05)。[実験3]活性化運動精子を注入したICSIの2–4細胞期胚のDNA断片化率は,MT活性抑制活性化運動精子を注入したICSI胚およびIVF胚に比べ高かった(P<0.05)。以上より,ICSI時に注入された精子は卵子内で一定時間高いMT活性を維持しており,その間に放出されるROSが初期発生時のDNA断片化を誘発する可能性が示唆された。

  • Boyang AN, Tomonori KAMEDA, Takuya IMAMURA
    セッションID: OR-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    [Introduction] Expansion and folding in the neocortex are associated with unique cognitive abilities that distinguish human from other mammalian species. At present, a set of human- or primate-specific genes have been proven that promote cortical expansion and folding, such as TMEM14B. Since cortical folding emerges progressively during evolution, multiple genes, not only specific genes, but also conserved genes, should be involved in this process. In parallel, we have previously reported that promoter-associated non-coding RNAs (pancRNAs) transcribed from bidirectional promoter act on cis-acting elements in the transcriptional regulation of neighboring genes. Among such pancRNAs, we are focusing on pancCD63 because it is expressed in the human, but not in the mouse neural stem cells (NSCs). CD63, known as an exosomal marker, is also expressed much higher in human NSCs. [Materials and Methods] Human NSCs, AF22 cell line, were infected by lentivirus in knockdown experiments. Immunostaining detecting active caspase3 and cell cycle labeling assay using EdU were performed to analyze cell apoptosis and proliferation, respectively. As a gain-of-function experiment, in-utero electroporation was performed on E13.5 mouse embryos, and plasmid DNA was microinjected through the uterus into the lateral ventricle. [Results] Knockdown of pancCD63 reduced expression level of CD63, suggesting that pancCD63 can be as a regulatory molecule to affect CD63 expression. Knockdown of either CD63 or pancCD63 resulted in a dramatical decrease in EdU+ cells and an increase in active caspase3+ cells, which suggests that pancCD63-CD63 pair promote human NSC proliferation. Overexpression of CD63 in mouse brain increased number of basal progenitors marked by Pax6. It is to be noted that, at E18.5, CD63 overexpression generated a large number of upper layer neuron and showed a folding-like structure. In summary, pancCD63-CD63 pair plays a key role in cortical development and folding.

  • 安東 明莉, AN Boyang, 徳永 真結莉, 槇村 有紗, 森下 文浩, 亀田 朋典, 今村 拓也
    セッションID: OR-15
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    ほ乳類の脳発生期には,細胞系列にしたがった代謝リプログラミングが起こる。未分化期は代謝経路として解糖系が優位である一方,分化後には酸化的リン酸化を用いるようになる。ヒトとマウスでは大脳新皮質の機能や形態が大きく異なっていることから,種差形成には,神経幹細胞の自己複製・分裂様式の変化とそれに伴う代謝リプログラミング経路の適応が起こってきたことが想定される。本研究では,ミトコンドリアの内膜で発現するタンパク質であり,ヒトにおいて長期に及ぶ神経幹細胞期を支える解糖系に必須であるMitochondrial Uncoupling Protein 2(UCP2)に着目し,その発現制御がもたらす細胞機能の解析を行った。まず,ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞株であるAF22を用いて,遺伝子発現制御に関与しうる分子を探索したところ,UCP2とペアで発現するプロモーターノンコーディングRNA(pancRNA: pancUCP2)を発見した。一連の解糖系関連遺伝子のpancRNAの発現をヒト・マウス神経幹細胞のRNA-seqにより調べたところ,pancUCP2はヒト特異的分子であり,そのようなpancRNAは他遺伝子には殆ど存在しなかった。興味深いことに,ヒトとマウスの神経幹細胞におけるUCP2の発現を比較すると,マウスにおいてヒトの3.13±0.5%しかなく,pancUCP2の発現と相関していた。したがって,UCP2はpancUCP2により発現誘導され,ヒト特異的神経幹細胞機能に関与することが想定された。そこで,UCP2をノックダウンし,EdU取り込み実験とactive Caspase3抗体染色を行ったところ,30%程度細胞増殖が抑えられ,3倍程度細胞死が亢進することが分かった。以上より,UCP2はヒト特異的代謝制御を通して幹細胞性の維持に関わると考えられた。現在,ヒトUCP2過剰発現ベクターをin utero electroporationを用いてマウスの胎仔脳に導入し,ヒト的形質を賦与できるか検討しているところである。

  • 徳永 真結莉, 安 博洋, 安東 明莉, 槇村 有紗, 森下 文浩, 亀田 朋典, 今村 拓也
    セッションID: OR-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    NEURENSIN2(NRSN2)は脳でよく発現する,2つの膜貫通ドメインを有するタンパク質である。Akt-mTORシグナルを介して細胞内の小胞維持や輸送と細胞の増殖に関係している。この遺伝子の近傍にはSRY-BOX TRANSCRIPTION FACTOR 12(SOX12)が位置し,SOX12-NRSN2領域が欠損すると,小頭症や発達障害症状を呈する。NRSN2の欠損によりSOX12の発現も欠損することから,NRSN2の神経系細胞における役割と発現制御メカニズムを理解することが病態の理解に必須である。本研究では,ヒト神経幹細胞におけるNRSN2の役割を解析することとした。まず,ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞であるAF22を用いて,NRSN2のshRNAによるノックダウンを行ったところ,約8.00±3.04%の細胞増殖低下,及び40.54±13.11%の活性化カスパーゼの増加が認められた。よって,NRSN2はヒト神経幹細胞の増殖と生存に機能的であると考えられた。ところが,トランスクリプトーム解析によりヒトとマウスの神経幹細胞におけるRNA転写量比較したところ,マウスNrsn2はヒトNRSN2と比較して,0.68±0.14%程度しか発現していないことが分かった。ヒトとマウスの脳は形状や体積など異なる点が多く,幹細胞増殖の観点から見たとき,ヒトは幹細胞性を維持させている期間がマウスよりも長い。したがって,ヒトとマウス神経幹細胞の異なる増殖・生存能はNRSN2により制御され,ヒト特異的な脳の形態形成及び機能発現に関与する可能性が考えられた。このような種特異的転写制御に関与する分子を探索したところ,ヒトNRSN2プロモーターにNRSN2の転写開始点とは逆方向に転写されるlncRNA(promoter-associated lncRNA: pancRNA)を発見した。このpancRNAはマウスのNrsn2には存在せず,現在ヒトとマウスにおける発現差異の形成機序に関与している可能性を検討しているところである。

  • 槇村 有紗, 安 博洋, 安東 明莉, 德永 真結莉, 森下 文浩, 亀田 朋典, 今村 拓也
    セッションID: OR-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    ヒトの大脳発達は,神経幹細胞(NSC)の継続的増殖に支えられ,形態的にも機能的にも他のほ乳類とは一線を画している。ヒト脳特異的遺伝子としては,ARHGAP11BやNOTCH2NLBなどが知られているが,このような例は少数である。むしろ多くの生物種において,発生過程を規定する遺伝子セットは進化的によく保存されている。そこで本研究では,まず,ゲノムレベルの種差に加えて,NSCにおけるエピゲノム修飾を規定する因子の発現に種差が存在するかを網羅的に調べた。ヒト及びマウスの大脳NSCのRNA-Seqデータにおいて,130個のエピゲノム修飾関連因子の発現のうち,例えば,ZFP57, MYBBP1A, BMI1はヒトにおいてマウスよりも50倍以上発現が低いことが分かった。このうちBmi1の場合,ポリコーム群タンパク質をコードする遺伝子であり,NSCの自己複製に機能することが報告されている。そこで,マウス胎生11日目の前脳から調製したNSCを用いて,Bmi1をノックダウンし,増殖マーカーとしてEdUの取り込み度合,及び,細胞死マーカーである活性化Caspase3の発現を免疫抗体染色により解析した。その結果,増殖は37.7±4.1%低下したが,アポトーシスには変化が見られなかったことから,Bmi1はNSCの生存性を変化させずに増殖を促進することで自己複製に機能することが分かった。興味深いことに,BMI1遺伝子座では発現量の変化だけではなく,ヒトにおいて遺伝子構造が変化しており,隣接する遺伝子COMMD3を取り込んだCOMMD3-BMI1キメラタンパク質がNSCで発現することを発見した。マウスにおいてもこの遺伝子領域を調べたところ,NSCにおいて,プロモーター領域に由来するノンコーディングRNA(pancRNA)をBmi1遺伝子に発見した。このpancRNAのヒトオーソログは認められなかったことから,pancRNAの種特異的獲得/喪失が,COMMD3-BMI1キメラタンパク質の発現と関連する可能性が考えられた。

生殖工学
  • 堀居 拓郎, 森田 純代, 木村 美香, 畑田 出穂
    セッションID: OR-18
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】CRISPR/Cas9システムはゲノム編集だけでなく,DNAメチル化やヒストン修飾などのエピゲノム編集を可能にする。これまでに私たちはdCas9-SunTagシステムを用いた高効率エピゲノム編集法を開発し,このシステムを受精卵に応用することでH19遺伝子のDNAメチル化可変領域(H19-DMR)が脱メチル化したエピゲノム疾患モデルマウスを作製することに成功した。特にエピゲノム編集ベクターを組み込んだトランスジェニック(TG)マウスは,エピゲノムの編集効率が高く,トランスジーンを受け継いだ子孫もエピゲノム編集されるため,エピゲノム疾患モデルマウスの系統を樹立する最適な方法である。一方,従来のTGマウス作製法では作製効率が約10%程度と高くはなく,さらに効率を改善する余地が残っていた。【方法】本研究では,トランスポゾンによるゲノムへの組み込みが可能なpiggyBacシステムを用いてエピゲノム編集マウスの作製を試みた。piggyBacエピゲノム編集ベクター(17.7 kb)およびトランスポゼースのHyPBase(RNA)を様々な濃度の組み合わせで受精卵の細胞質に注入し,得られた11.5日胚を用いてTGマウス作製に最適な濃度条件を検討した。続いて最適条件を用いてTG産仔を作出し,DNAメチル化解析や表現型解析を行った。【結果】11.5日胚の解析結果から,1 µlあたりベクター1 ngとHyPBase 7 ngを含む液を受精卵に注入した場合に,最も高いTG作製効率が得られることが分かった(56.4%, n=55)。この条件で産仔を作出したところ,従来のTG作製法と比べて高効率でTGマウスを得ることができた(37.0% vs 13.0%)。このTGマウスは標的領域であるH19-DMRの脱メチル化とそれにともなう遺伝子発現変化,子宮内発育不全や摂食障害,血糖値異常などの表現型を示した。本研究により,piggyBacシステムを用いることで従来法より効率良くエピゲノム編集マウスを得られることが示された。

内分泌
  • 樋口 雅司, 小口 藍
    セッションID: OR-19
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】成長,繁殖および泌乳などのプロセスに深く関わる下垂体前葉ホルモンを合成・分泌する細胞(ホルモン産生細胞)は,下垂体に存在する転写因子Sex determining region Y-box 2(SOX2)陽性の幹・前駆細胞が分化して供給されると考えられている。しかしながら,これは齧歯類やヒトにおける知見であり,世界中の人に乳や肉を供給する代表的な動物である牛において未だに下垂体幹・前駆細胞は同定されていない。そこで本研究では,乳牛下垂体にSOX2陽性細胞が存在するか解析した。【方法】12ヶ月齢ホルスタイン種未経産牛から下垂体を摘出し,抗SOX2抗体を用いて免疫蛍光分析を実施した。【結果】免疫蛍光分析により,SOX2陽性細胞は下垂体全体に広く分布し,特に,遺残腔に接する細胞層Marginal Cell Layer(MCL)および前葉実質の細胞クラスターにおいて高密度に存在することが明らかになった。次に,MCLおよび細胞クラスターにおけるSOX2陽性細胞の特徴を調べたところ,SOX2陽性細胞のほとんどは齧歯類で報告のある下垂体幹・前駆細胞ニッチマーカー(E-cadherinおよびCytokeratin 8+18)および転写因子paired-related homeobox 1(PRRX1)陽性であったが,その全てが齧歯類の成体幹細胞マーカーS100β陰性の亜集団であった。また,一部のSOX2陽性細胞は細胞増殖マーカーKi67陽性だった。そして,前葉実質において低頻度ではあるがSOX2と下垂体前葉ホルモンの二重陽性細胞が観察された。【考察】以上の結果から,乳牛下垂体におけるSOX2陽性細胞は,ホルモン産生細胞へ分化する下垂体幹・前駆細胞であることが示唆された。現在,乳牛下垂体に存在するSOX2およびPRRX1二重陽性細胞を分離し,その性質と分化能を解析している。

  • 堀口 幸太郎, 藤原 研, 塚田 岳大, 中倉 敬, 吉田 彩舟, 長谷川 瑠美, 瀧上 周
    セッションID: OR-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【背景・目的】下垂体前葉は,5種類のホルモン産生細胞と,SOX2陽性の幹・前駆細胞,濾胞星状細胞,毛細血管などから構成される。これらの細胞群の中で,SOX2陽性細胞は,ラトケの遺残腔に接するMarginal Cell Layer(MCL)や実質層に局在し,前葉細胞を供給すると考えられている。我々は,ラット下垂体MCLと実質層の大半のSOX2陽性細胞が膜タンパク質CD9とCD81を発現することを見出し,それらがSOX2陽性細胞の増殖に関わることを報告している。また,Cd9及びCd81 ダブルノックアウトマウスの成体下垂体は野生型と比較して小さく,プロラクチン(PRL)産生細胞数の著しい減少が見られた。この結果は,CD9,CD81,SOX2陽性(CD9/CD81/SOX2陽性)細胞がPRL産生細胞供給に関わることを予想させた。本研究では,妊娠,泌乳期に増加するPRL産生細胞がCD9/CD81/SOX2陽性細胞からの供給によるものかどうかを明らかにすることを試みた。【方法・結果】ラット下垂体MCL及び実質層でのCD9/SOX2陽性細胞,分化移行期と考えられるCD9/PRL陽性細胞を二重蛍光免疫染色によって観察し,それぞれの細胞数の割合を計測した。その結果,妊娠,泌乳期ともに,MCLと実質層においてCD9/SOX2陽性細胞が減少し,CD9/PRL陽性細胞の割合は増加した。またラット下垂体前葉のCD9陽性細胞を抗体ビーズトラップ法により単離し,pituisphereの形成を行い,妊娠・泌乳期に増加するエストロゲンを添加することで,PRL産生細胞への分化が促進することを確認した。【考察】妊娠・泌乳期におけるPRL細胞の急激な増加はCD9/CD81/SOX2幹前駆細胞からの分化が一因であることが示唆された。

  • 森山 隆太郎, 池田 隼也, 原 尚輝, 萩原 央記, 和田 哲幸
    セッションID: OR-21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】GPR120は長鎖脂肪酸を天然リガンドとするGタンパク質共役型受容体の1つである。これまでに当研究室ではマウスやウシ下垂体のゴナドトロフにGPR120が局在することを組織学的に報告している。しかし,GPR120に対する特異的なリガンドが存在しなかったことから,ゴナドトロフにおけるGPR120の生理的機能解析は進んでいなかった。本研究では新規に開発されたGPR120特異的アゴニストTUG891とアンタゴニストAH7614を用いて,ゴナドトロフのGPR120活性化が性腺刺激ホルモン合成と分泌に与える影響を検討した。【方法】実験にはゴナドトロフ株化細胞LβT2を用いた。実験群としてTUG891暴露群(TUG891群),TUG891とAH7614共暴露群(TUG891+AH7614群),およびコントロール群を作製した。これら群の培養液中LHとFSH濃度測定,および細胞内LhbFshb mRNA発現量の定量を行った。さらに,LβT2細胞がTUG891暴露により受容体を介した細胞活性を起こすか,ERKリン酸化と細胞膜電流を指標として検討した。【結果】 TUG891暴露群において培養液中LHおよびFSH濃度がコントロール群に比べて統計的有意に増加した。この増加はTUG891とAH7614の共投与群では見られなかった。また,TUG891暴露群ではFshb mRNA発現量が低下したが,TUG891+AH7614投与群ではこの低下は見られなかった。次に,細胞膜電流を測定したところ,TUG891暴露した細胞で–40 mV付近をピークとした内向き電流の増加を観察した。さらに,TUG891暴露した細胞において暴露後10分をピークとしたリン酸化ERKのバンドを観察した。これらの結果は,下垂体のゴナドトロフには機能的GPR120が存在し,MAP kinase経路等を介して,LHおよびFSH分泌を誘起すると共に,Fshb mRNA発現を抑制するメカニズムの存在を示唆するものである。

  • Safiullah HAZIM, Yoshihisa UENOYAMA, Hiroko TSUKAMURA, Naoko INOUE
    セッションID: OR-22
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    [Introduction] Kisspeptin neurons in the anteroventral periventricular nucleus (AVPV) of the hypothalamus are considered to regulate gonadotropin-releasing hormone (GnRH)/luteinizing hormone (LH) surge in female rodents. Our previous studies showed that purinergic signaling involves GnRH/LH surge and then ovulation in female rats. The present study, thus, aims to identify the purinergic neurons that project to the vicinity of AVPV kisspeptin neurons.[Materials and method] Adult Wistar-Imamichi female rats (n = 4) were stereotaxically injected with fluorogold (FG), a retrograde tracer, into the AVPV. Then, the animals were ovariectomized and primed with diestrous levels of estradiol-17β (E2) for 5 days followed by proestrous levels of E2 for 2 days. Seven days after the FG injection, the animals were perfused with 4% paraformaldehyde and 50-μm brain sections including the hypothalamus and hindbrain were made using a cryostat. The brain sections were subjected to double-immunohistochemistry for FG and vesicular nucleotide transporter (VNUT), a marker of purinergic neurons. [Results] VNUT-immunoreactive cells were mainly found in the hypothalamic arcuate nucleus and medial part of supramammillary nucleus (SuM), and brainstem A1, A2, A6 regions and area postrema (AP). FG- and VNUT-co-immunoreactive cells were found in the majority of VNUT-ir cells in the A1, around one-third of VNUT-ir cells in the A2, one-tenth of VNUT-ir cells in the A6, and few VNUT-ir cells in the SuM. These results suggest that the purinergic neurons located in the A1, and A2 may project their axons to the vicinity of AVPV kisspeptin neurons and possibly play a role in an induction of GnRH/LH surge, and then ovulation in female rats.

  • 長江 麻佑子, 小林 俊寛, 三宝 誠, 平林 真澄, 水野 直彬, 中内 啓光, 榎本 悠希, 井上 直子, 束村 博子, 上野山 賀久
    セッションID: OR-23
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    我々は,遺伝子改変ラットを用いた弓状核特異的なキスペプチン遺伝子(Kiss1)ノックアウトおよび弓状核特異的なKiss1レスキューによるKNDy(キスペプチン/ニューロキニンB/ダイノルフィンA)ニューロンの復元により,哺乳類の卵胞発育を司るGnRHパルスジェネレーターの本体がKNDyニューロンであることを証明した。本研究では,KNDyニューロンにおけるGnRHパルス発生の分子メカニズムの解明に向けて,新たに2系統の遺伝子改変ラットの作製を試みた。Kiss1プロモーター制御下でCre組換え酵素を発現するKiss1-Creラットを,胚性幹(ES)細胞を用いたジーンターゲティング法により作製した。Kiss1のコーディング領域をCreに置き換えたターゲティングベクターをラットES細胞へエレクトロポレーションにより導入し,相同組換えの生じたES細胞をPCR,サザンブロット法により選別した。相同組換えES細胞をWistar系ラットの胚盤胞へマイクロインジェクションして得られた雄キメララット3頭をWistar系雌ラットと交配し,2頭のキメララットから相同組換えES細胞に由来するKiss1-Creラットを得た。さらに,κオピオイド受容体遺伝子(Oprk1)プロモーター制御下でκオピオイド受容体とCre組換え酵素を発現するOprk1-Creラットを,CRISPR/Cas9およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて作製した。Oprk1を認識するgRNAとCas9タンパク質の複合体をWistar系ラットの前核期胚にエレクトロポレーションにより導入し,その後,Oprk1の終止コドンを自己切断ペプチドをコードするT2ACreに置き換えたターゲティングベクターを発現するAAVを含む培地で一晩培養し,レシピエントの卵管に移植した。得られた16頭の産仔についてPCRおよびシークエンス解析により遺伝子型を判定し,6頭のOprk1-Creラットを得た。以上のように,新たに2系統のCre発現ラットの作製に成功した。

  • 後藤 哲平, 宮道 和成
    セッションID: OR-24
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    哺乳類メス個体は良好な栄養状態に到達した個体のみが性成熟を迎え,生殖機能を維持できる。性成熟期の制限給餌によって体重増加が抑制されると性成熟に至らないが,制限給餌を解除して自由摂食に戻すと急激に体重が増加して性成熟に至ることが知られている。性成熟後の生殖機能は視床下部弓状核のキスペプチンニューロンによって第一義的に制御されるが,性成熟期の制限給餌条件下,そして自由摂食に戻した時のキスペプチンニューロンの活動動態は分かっていないため,本研究はこれを明らかにすることを目的とした。離乳後のマウスに対し,通常の70%給餌量にすると生後28日齢ごろから体重の増減が見られなくなったため,この条件で制限給餌実験を進めた。Cre/loxP組換えシステムを用いてマウス弓状核キスペプチンニューロン特異的にCa2+インディケーターを発現させ,その直上に光ファイバーを留置して生体内Ca2+イメージングを行った。生後37日から40日齢における明暗周期サイクルのそれぞれ6時間を記録した。5匹のマウスには38日時点から制限給餌を解除して自由摂食とし(自由摂食群),残りの4匹のマウスは制限給餌を続けた(制限給餌群)。体重は生後39日以降に自由摂食群と制限給餌群間で有意に差があった。キスペプチンニューロンの活動は制限給餌中の明期暗期ともに記録6時間中に平均して2–3回のパルス状の活動がみられた。一方,生後38日齢で自由摂食に切り替えた直後から,キスペプチンニューロンのパルス状活動が亢進し,記録6時間中に平均して6–7回となった。生後39日,40日齢の暗期に自由摂食群のキスペプチンニューロンの活動亢進が見られた。自由摂食群は44日齢までに性成熟の指標の一つである初回発情を示した。以上の結果より,制限給餌下ではキスペプチンニューロンのパルス状活動は抑制され,自由摂食によってこの抑制が解除され活動が亢進した。そして,暗期にキスペプチンニューロン活動が亢進することで性成熟に至ると考えられた。

  • 滝沢 麻里奈, 上野山 賀久, 井上 直子, 束村 博子
    セッションID: OR-25
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】泌乳ラットでは,生殖中枢である弓状核キスペプチンニューロンにおけるキスペプチン遺伝子(Kiss1)発現が抑制され,その結果,黄体形成ホルモン分泌が抑制される。これらの抑制は,泌乳後期(約20日間の泌乳期中の分娩後10日以降)には,エストロゲン依存性である。そこで本研究では,泌乳ラットのエストロゲン依存性のKiss1発現抑制を担うエストロゲン受容体α(ERα)共役因子の探索を目的とした。ERα共役コリプレッサーのひとつである核内受容体コリプレッサー2(Ncor2)に着目し,泌乳ラットのKiss1発現細胞におけるNcor2発現の有無を検討した。【方法】Wistar-Imamichiラットを用い,分娩後に卵巣除去し,生理的濃度のエストロゲンを処理した泌乳ラット(泌乳群)および分娩後に乳仔を取り除いた非泌乳ラット(非泌乳群)を設け,分娩後16日目に脳を採取した。両群のラットの脳切片を用いて,(1)Kiss1Ncor2との蛍光二重標識in situ hybridization(ISH),および(2)Kiss1と共発現することが知られるニューロキニンB遺伝子(Tac3)とNcor2との蛍光二重標識ISHにより,弓状核キスペプチンニューロンにおけるNcor2発現を検討した。【結果および考察】(1)非泌乳群では,約9割のKiss1陽性細胞において,泌乳群では,約8割のKiss1陽性細胞においてNcor2の共発現が認められた。(2)非泌乳群では,約9割のTac3陽性細胞において,泌乳群では,約9割のTac3陽性細胞においてNcor2の共発現が認められた。以上の結果から,非泌乳,泌乳にかかわらず,殆どの弓状核キスペプチンニューロンにNcor2が発現することが明らかとなった。これらの結果から,泌乳後期におけるエストロゲン依存性のKiss1発現抑制にERαコリプレッサーであるNcor2が,ERαと共役してKiss1発現の抑制を仲介する可能性が示唆された。

  • 土田 仁美, 井上 直子, 上野山 賀久, 束村 博子
    セッションID: OR-26
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】泌乳期において生殖機能は抑制される。これは吸乳刺激により,生殖中枢である弓状核キスペプチンニューロンにおけるキスペプチン遺伝子の抑制,ひいては性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)/性腺刺激ホルモンのパルス状分泌が抑制されることに起因する。本研究では,泌乳によるGnRH/黄体形成ホルモン(LH)のパルス状分泌の抑制におけるダイノルフィンA(Dyn)ニューロンの役割を明らかにすることを目的とした。【方法】分娩後に卵巣除去および低濃度17β-エストラジオール処置を施した泌乳ラットを用い,泌乳16日目の泌乳ラットの第3脳室内にDyn受容体拮抗剤を投与し,血漿LH濃度を測定した。また,泌乳ラットから24時間乳仔を離した後,乳仔を戻し吸乳刺激を1時間与えた泌乳ラット(再吸乳刺激負荷ラット)から脳を採取し,脳切片を用いて二重in situ hybridizationによりDyn遺伝子とニューロン活性化マーカーであるc-Fos遺伝子の共発現を検討した。【結果および考察】Dyn受容体拮抗剤の脳内投与により,泌乳ラットにおけるLHパルス抑制が解除されたことから,吸乳刺激によるLHパルス抑制は,Dyn受容体により仲介されることが示唆された。さらに再吸乳刺激負荷ラットにおいて,視床下部室傍核のDyn遺伝子とc-Fos遺伝子の共発現細胞数が,対照群(吸乳刺激なし)に比べ有意に増加したことから,吸乳刺激は室傍核のDynニューロンを活性化することが示唆された。また以前の研究により,弓状核キスペプチンニューロンの多くにDyn受容体が発現することを明らかにしている。以上の結果から,泌乳期には室傍核を起始核とするDynニューロンが活性化され,Dynが弓状核キスペプチンニューロンを直接抑制することにより,GnRH/LH分泌が抑制され,生殖機能が抑制されることが示唆された。

性周期・妊娠
  • 山本 ゆき, 窪田 早耶香, 木村 康二
    セッションID: OR-27
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】哺乳動物の卵管峡部は,受精前は精子を,受精後には初期胚を輸送する。この輸送には平滑筋収縮が重要であり,排卵前後に活発になると言われているがその詳細は明らかでない。筋収縮は,電気刺激の発生と細胞間伝達,筋細胞の収縮という過程からなり,我々はこれまでに複数のイオンチャネルとギャップ結合がウシ卵管自発収縮に関与することを確認している。本研究ではこれらの因子が発情周期中の卵管収縮制御に関与するかを検討し,卵管収縮制御機構の一端を明らかにすることを目的とした。【材料と方法】1) 排卵直後(E:排卵1–4日後),黄体中後期(ML:排卵11–17日後),排卵前(F: 排卵1–3日前)のウシ卵管峡部を用いてマグヌス法による収縮試験を行い,各発情ステージにおける長軸方向の収縮頻度および振幅を検討した。2) ウシ卵管自発収縮に関与すると推定されるイオンチャネル(Cacna1c, IPTR1, RyR3, ATP2A2, ANO1, KCNN2, KCNN3)とギャップ結合因子(Cx43)について,定量的RT-PCR 法により卵管峡部平滑筋組織におけるmRNA発現量を検討した。3) 発情ステージ間で遺伝子発現量の異なる因子を選抜し,ウェスタンブロット法によりタンパク質発現量を検討した。【結果および考察】1) 発情ステージ間で,収縮頻度に有意な差は認められなかった。一方,振幅はE,ML期に対しF 期で有意に高い値を示した。排卵前の卵管峡部における振幅の増大は,精子輸送をサポートすると考えられる。2) 振幅制御に関与する各因子の遺伝子発現量を検討したところ,Cx43がF期においてML期より有意に高かった。他の因子では有意な差は認められなかった。3) Cx43タンパク質発現量は,F期でE 期よりも有意に高い値を示した。以上より,ウシ卵管峡部平滑筋において振幅の増大する排卵前にギャップ結合タンパク質の発現量が増加することが示された。ギャップ結合による細胞間刺激伝達の増加が,排卵前の振幅増大を引き起こすメカニズムの一つであると推察された。

  • 窪田 早耶香, 山本 ゆき, 木村 康二
    セッションID: OR-28
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】適切なタイミングでの配偶子や胚の卵管輸送は妊娠の成立に不可欠であり,これは卵管平滑筋の収縮弛緩運動によって制御されている。ヒト不妊の改善法の一つとして当帰芍薬散(TSS)が処方されているが,その科学的根拠は定かでない。TSS は卵管収縮弛緩運動の促進因子として働くエストラジオール-17β(E2)様作用を有するため,E2 の受容体を介して卵管輸送能の向上に貢献する可能性がある。本研究では,TSS がG protein-coupled estrogen receptor 1(GPER1)を介してウシ卵管収縮弛緩運動に与える影響を検討した。【方法】卵巣の所見によりウシ卵管峡部を排卵直後,黄体期,排卵前の 3 つのステージに分け,長軸方向で収縮試験(マグヌス法)を行った。低濃度(100 µg/ml)および高濃度(1000 µg/ml)TSS エキス添加後1時間までの各ステージの卵管における収縮頻度,収縮弛緩力,緊張度を経時的に測定した。また,TSS 添加 20 分前に低濃度(2.5 µM)および高濃度(25 µM)の GPER1 アンタゴニスト(G-15)を添加し,同様に測定した。さらに,ウエスタンブロット法を用いて各ステージの卵管平滑筋における GPER1 のタンパク質発現量を測定した。【結果・考察】TSS は,どのステージの収縮頻度および収縮弛緩力にも有意な変化を及ぼさなかった。一方で,全てのステージにおいて有意な緊張度の増加が認められ,特に排卵直後の卵管においてその効果が高かった(P < 0.05)。また,TSS と G-15 の共添加では,高濃度 G-15 添加区において TSS 誘導性の緊張度増加は有意に抑制された(P < 0.05)。GPER1 のタンパク質発現量はステージ間で有意な差が見られなかった。以上の結果より,TSS は GPER1 を介して緊張度を増加させることで卵管収縮弛緩運動に影響する可能性がある。しかし,ステージ間で TSS の効果が異なるメカニズムについては未だ明らかとなっていないため,さらなる検討が必要である。

  • 杉野 耀亮, 伊藤 さやか, 山本 ゆき, 木村 康二
    セッションID: OR-29
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】卵管上皮組織における繊毛細胞と非繊毛細胞の構成比は発情ステージを通して変化し,胚輸送や発達のための最適な環境を生み出している。その詳細なメカニズムは未だ不明であるが,生体組織をそのまま用いてそのメカニズムを解明することは困難であるため,3次元培養法による体外モデルの作出が必要となる。卵管のような管腔を有する組織の上皮細胞は3次元培養下で生体組織を再現するシスト(内腔有する細胞塊)を形成する。本研究は,体外ウシ卵管上皮モデルの確立を目指し,ウシ卵管上皮細胞シストの性質を免疫組織化学にて評価した。【方法】ウシ卵管を4つの発情ステージに区分し(Irelandら, 1980),各ステージの卵管膨大部上皮細胞を 2% マトリゲル含培養液で培養した。形成したシストの Cytokeratin,Vimentin,FOXJ1,PAX8 および Acetylated-α-tubulin(AcTUB)発現を免疫組織化学を用いて検討し,上皮間葉系細胞の区分,シスト1つあたりの FOXJ1,PAX8 および AcTUB 陽性/陰性細胞割合を発情ステージ間で比較すると同時に AcTUB の局在を評価した。【結果・考察】全てのシストは Cytokeratin 陽性細胞のみで構成されていたが細胞形態の扁平化や多層化が認められた。生体組織とは異なりシスト1つあたりの FOXJ1 陽性/PAX8 陰性細胞,FOXJ1 陰性/PAX8 陽性細胞および AcTUB 陽性/FOXJ1 陽性細胞割合は発情ステージを通して変化せず,生体組織には存在しない PAX8 陽性/FOXJ1 陽性細胞や PAX8 陰性/FOXJ1 陰性細胞が認められた。また,生体組織には見られない AcTUB の細胞内凝集やシストを構成する細胞の内腔側だけでなく外部側での存在も認められた。以上から,本研究において体外で作出したウシ卵管上皮細胞シストは生体組織とは異なる性質を持つことが示唆された。

  • Chisun YUN, Tao PAN, Nobuhiko YAMAUCHI
    セッションID: OR-30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    [Introduction] CCL2 (C-C motif chemokine ligand 2), which is known to recruit immune cells to the sites of inflammation, has been reported to be expressed in the bovine endometrium. We have reported that CCL2 induced proliferation and stimulated the expression of prostaglandin (PG) synthases in cultured endometrial cells. However, the details of how CCL2 involved in the implantation mechanism are still unclear. The purpose of present study is to analyze the functional properties of CCL2 in the bovine endometrium and embryo. [Materials and Methods] Bovine endometrial tissue, epithelial (BEE) and stromal (BES) cells, and bovine blastocyst-derived trophoblastic (BT) cells were used for the analysis. Recombinant bovine CCL2 was used for in vitro experiments. Gene expressions were analyzed by RT-PCR or qPCR. [Results] Since the previous results showed that both expressions of PGESs and PGFSs were high, we focused on the analysis of PG transporter genes (MRP4 and PGT). The amount of MRP4 and PGT were significantly high in CCL2 treated BEE and BES in vitro. The mRNA of chemokine receptors (CCR1, CCR2 and CXCR3) were detected in BT. The amount of PCNA and IFNt were significantly high in BT treated with CCL2. CCL2 significantly increased the attachment rate of BT vesicles to BEE in in vitro co-culture system. The amount of OPN increased in BEE, and ICAM-1 increased both in BEE and BT by CCL2 treatment. These results indicated that CCL2 has the potential to regulate the circulation of PGs in bovine endometrium and embryo growth. In addition, CCL2 has a possibility of regulating the process of bovine embryo attachment to endometrium by modulating expression of binding molecules.

  • 鈴木 彩英, 平田 良樹, 高橋 宏典, 岩田 尚孝, 桑山 岳人, 白砂 孔明
    セッションID: OR-31
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】免疫応答は妊娠の調節に重要であるが,適切な免疫機能の破綻は流産などの異常妊娠の発症につながる。これらの疾患には胎盤炎症が関与し,炎症性サイトカインIL-1βを制御するNLRP3インフラマソーム機構(NLRP3・ASC・Caspase-1)の関与が注目されている。一方,ケトン体のβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)がこの機構を阻害し,炎症性疾患を抑制する。本研究では,胎盤におけるNLRP3インフラマソーム活性化に対するBHBの効果を検証した。【方法と結果】実験1:健常妊婦の胎盤組織を培養し,BHBまたは炎症誘導物質のLipopolysaccaride(LPS)を添加した。LPS刺激によって胎盤組織でIL-1βのタンパク質発現が増加し,培養液中ではIL-1β分泌が増加した。しかし,BHBの前処理によってこれらは抑制された。実験2:不死化ヒト絨毛細胞株(SW71)にNLRP3インフラマソーム活性化因子を添加するとASC凝集体形成とCaspase-1活性が誘導され,IL-1β分泌が刺激されたが,これらはBHB処理によって抑制された。実験3:ICR雌マウスの妊娠Day1からDay14までにBHBまたはPBSを腹腔投与後,Day14にLPSを投与し,Day 17で剖検を行った。PBS区と比較し,BHBを投与することでLPS誘導性の胎仔吸収率が有意に低下した。また,BHB区ではLPS誘導性のIL-1βmRNA発現およびIL-1β産生が抑制された。実験4:BHBはNLRP3インフラマソームを抑制することで異常妊娠を改善させていると考え,NLRP3欠損マウスで解析した。野生型妊娠マウスにLPSを投与した群と比較し,NLRP3欠損妊娠マウスにLPSを投与した群では,胎仔吸収率が有意に抑制された。【結論】BHBは胎盤内のNLRP3インフラマソーム活性化を抑制することによってIL-1β産生と分泌を減少させ,LPS誘導性の流産を低減させる可能性が明らかになった。

  • 山之口 瑛悟, 北原 豪, 小林 郁雄, 邉見 広一郎, 菱川 善隆, CHOIJOOKHUU Narantsog, 山口 良二, 大澤 健 ...
    セッションID: OR-32
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】分娩に伴う頸管熟化には生理的な炎症反応を伴うこと,さらにⅠ型コラーゲンの変化が頸管熟化に関連することがヒトやマウスでは示唆されているが,牛では不明である。牛の臨床現場では長期在胎や陣痛微弱による難産と死産が問題となっており,このような問題を防ぐために頸管熟化を促進させる方法の開発と応用が期待される。そこで,本研究では牛における正常な子宮頸管熟化機構と関連する変化の一端を明らかにすることを目的として,妊娠後期から分娩までのコラーゲンの変化に注目した試験を実施した。【材料と方法】宮崎大学農学部附属牧場の2~14産目の黒毛和種経産牛14頭を供試した。人工授精から分娩までの日数は293±4(平均±SD)日であった。人工授精後200(±3)日,260(±3)日,274(±3)日,288(±3)日,以降7日間隔で分娩直前(0~6日前)まで子宮頸管組織をパンチ生検で採取,さらに子宮頸管粘液を用手で採取した。頸管組織はピクロシリウスレッド染色し,偏光顕微鏡で観察と撮影を行い,得られた画像を用いⅠ型コラーゲンを示す領域が組織の総面積に占める割合を画像処理ソフト(ImageJ)で算出した。頸管粘液はディフクイック染色で有核細胞400個に対する多形核好中球の割合(PMN%)を算出した。【結果】Ⅰ型コラーゲンの組織に対する割合は,初回採材(分娩の12~13週間前)時点で94.8%から最終採材時では72.5%と低下した(p<0.05)。頸管粘液中のPMN%は初回採材時に最も低く(0.01%),分娩4~5週間前までに22.0%と上昇(p<0.05)し,分娩1週間前までに最高値(50.9%)を示した。【考察】以上の結果より,牛の頸管熟化には頸管組織におけるⅠ型コラーゲンの減少が関与していることが示唆された。また,頸管粘液中のPMNの増加の後にコラーゲンが変化し始めていることから,PMNによる炎症とPMNが分泌するコラゲナーゼが頸管熟化に影響することが推察された。

臨床・応用技術
  • 土田 萌衣, 古村 奈瑚, 吉原 達哉, 川崎 雄大, 桜井 大地, 中潟 直己, 鈴木 宏志
    セッションID: OR-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】イヌは1年に1~2回しか発情期を迎えず,効率的な繁殖のために有効な発情誘起法の確立が求められる。イヌにおけるeCGとhCG投与効果は不定で,eCGの高用量・複数回投与による高エストロゲン症等の副作用の発現も課題である。本研究では,eCG と抗インヒビン血清(IAS)の併用による無発情期の雌犬の発情及び過排卵の誘起を試みた。【方法】無発情期の雌犬を以下の3群に分け,それぞれ,1. IAS(0.1 ml/kg),2. eCG(50 IU/Kg),および3. IAS(0.1 ml/kg)とeCG(50 IU/Kg体重)の混合溶液を筋肉内注射し(Day 0),2.及び3.ではDay7にhCG(500 IU)を投与した。次いでDay0から14まで陰部の腫脹及び発情出血の有無,血中プロゲステロン(P4)濃度の測定,超音波検査装置による卵巣の観察を行い,発情状況を評価した。【結果】 1.群(n=3)では陰部の腫脹及び発情出血,卵胞発育は見られず,血中P4濃度は2 ng/mlを超えた個体があったがそれ以上の上昇は見られなかった。2.群(n=3)では陰部の腫脹及び発情出血,卵胞の発育が観察された。平均卵胞数は7.7個で,自然発情時(n=32,7.4個)と同様だったが平均排卵数は2.7個と少なかった。血中P4濃度はDay 7~8に2 ng/mlを超えLHサージが起こったと推定されたが,その後のP4濃度の上昇は自然発情と比べて小さかった。以上からeCG単独投与では発情が誘起されるもののP4濃度が正常に上昇せず排卵率が低いことがわかった。3.群(n=6)では陰部の腫脹及び発情出血,卵胞の発育が観察された。平均卵胞数は8.8個,平均排卵数は8.7個であった。血中P4濃度はDay7~9に2 ng/mlを超え,LHサージ後のP4濃度の上昇はeCG単独投与群と比べて顕著に大きかった。以上からIASとeCGの混合投与によって発情が誘起され過排卵に至る可能性,またeCG単独投与で見られたP4濃度の低値及び排卵率の低下を改善できる可能性が示唆された。

  • 河原 直哉, 遠藤 なつ美, 田中 知己
    セッションID: OR-34
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】黄体機能の評価においては血中プロジェステロン(P4)濃度の測定が有用であるが,臨床現場においては超音波検査による黄体サイズ,黄体血流,主席卵胞サイズの測定がなされている。しかし,これらの指標の変動要因は明らかでなく,また,比較的新しい評価指標である黄体血流の測定値の臨床的意義についても不明な点が多い。本研究では,ホルスタイン種泌乳牛の発情後7日における卵巣超音波検査所見および血中P4濃度を測定し,各種指標間の関係およびそれらと栄養代謝因子との関係について調査した。【方法】山形県内の2農場で飼養されているホルスタイン種泌乳牛37頭を供試した。自然発情後の排卵日をD1とし,D0とD7に卵巣の超音波検査を,D7に採血を行った。超音波検査においては,D0に排卵前の卵胞面積を,D7に黄体組織面積,黄体血流面積,相対血流面積(=黄体血流面積/黄体組織面積),主席卵胞面積を測定した。血液検査においては,P4,Glu,BUN,TCho,NEFA,インスリン濃度を測定した。【結果】黄体組織面積はP4濃度と正の相関(R=0.526, P<0.001)を示したが,黄体血流面積,相対血流面積はP4濃度と関連はみられなかった。一方,D7における黄体の相対血流面積は,D0における卵胞面積と負の相関(R=–0.371, P<0.05)を示した。栄養代謝因子との関係では,P4濃度はGluと正の相関(R=0.352, P<0.05)を,BUN,NEFAと負の相関(BUN:R=–0.401, P<0.05,NEFA:R=–0.331, P<0.05)を示した。一方,黄体組織面積はこれらの血液検査所見とは関連がみられなかった。【考察】発情時の卵胞の大きさは発情後7日における黄体の相対血流面積に影響し,P4濃度は黄体血流に関わる指標よりも黄体組織面積との関連が深いことが明らかとなった。また,P4濃度は栄養状態に伴い変化するものの,その関連を超音波検査により評価することは困難であると考えられた。

  • 福田 康義, 東谷 美沙子, 小畑 孝弘, 矢野 愛美, 及川 剛宗, 川辺 敏晃, 尾野 恭一, 岡本 洋介, 西島 和俊, 関 信輔
    セッションID: OR-35
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】ゲノム編集技術の開発により,簡便にゲノム編集動物作出が可能になった。そこで,CRISPR/Cas9システムを導入するための哺乳類1細胞期胚のガラス化保存法の開発が望まれる。しかし,新鮮胚同様の高い発生率を示すラット1細胞期胚ガラス化保存法の報告は高価なクライオトップを用いた方法に限られている。これまでの研究により,我々はガラス化保存の成功には急速冷却よりも急速融解が重要であることを示している。そこで,急速融解に着目し,クライオチューブを用いたラット1細胞期胚ガラス化保存法の開発を行った。【方法】ガラス化溶液には,エチレングリコール(EG, 10% v/v),フィコール(27% w/v),0.45 M スクロース添加PB1液であるEFS10を用いた。5%EG液で前処理(23℃, 10分間)し,EFS10に40秒間浸している間に,胚を含むガラス化溶液(5 μl)をクライオチューブに入れ,液体窒素に直接浸すことでガラス化保存した。融解は,室温で1分間静置し,それぞれの温度(25,37あるいは50℃)の0.3 M スクロース液1 mlを添加することで,それぞれの速度(0.47秒,0.35秒あるいは0.16秒)で融解した。融解後,体外培養による胚盤胞期への発生率あるいは1細胞期での胚移植による産仔率により発生能を確認した。【結果】体外培養による無処理の胚の胚盤胞期までの発生率(51.9%)と比較して,25℃あるいは37℃のスクロース液での融解(0.47秒あるいは0.35秒)では,胚盤胞期胚への発生率(11.9–12.1%)は低かった。しかし,50℃のスクロース液を用いた急速な融解(0.16秒)では,無処理の胚と同様の胚盤胞期への高い発生率(58.1%)を示した。そして,急速融解した胚を仮親へ移植したところ,無処理の胚の産仔率(48.6%)と同様の産仔率(50.0%)で正常な産仔を得ることができた。急速融解に着目することでクライオチューブを用いたラット1細胞期胚ガラス化保存法の開発に成功した。

  • 谷田 孝志, 佐藤 弘子, KYAW Hay Mar, 栁川 洋二郎, 田上 貴祥, 片桐 成二
    セッションID: OR-36
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】我々は精漿に含まれるオステオポンチン(OPN)がリピートブリーダー(RB)牛の子宮内膜での上皮成長因子(EGF)濃度異常を解消し,受胎性を回復させることを明らかにしてきた。本研究では,その理由を検討するため,組換えOPN(rOPN)が子宮内における胚の生存性と発育に及ぼす影響を調査した。【方法】ホルスタイン種経産牛のうち,発情後3日目の子宮内膜EGF濃度が低値(< 4.7 ng/g組織重量)を示すRB牛およびEGF濃度が正常な対照牛に,1回目のEGF濃度検査から4~6日目に性腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤を投与し,その7日後にプロスタグランジン製剤を投与して発情を同期化した。発情発見後4~12時間目にRB牛にはrOPN 1 mg(17頭,rOPN群)またはPBS(18頭,PBS群)を,対照牛(18頭,正常群)にはPBSをそれぞれ人工授精用シース管を用いて腟円蓋付近に投与した。発情後3日目にEGF濃度を再測定し,同7日目に凍結融解胚を2~3個黄体側子宮角に移植して同14日目に胚を回収した。【結果】処置後子宮内膜EGF濃度が正常化した牛の頭数(割合)はrOPN群およびPBS群でそれぞれ10頭(58.8%)および8頭(44.4%)であった。胚が回収された牛の割合は処置群間で違いはなかったが,rOPN群と正常群の胚回収率(58.7および 59.6%)はPBS群(32.0 %)に比べて高かった(p<0.05)。また,処置群によらず,EGF濃度が正常化した牛の中で胚が回収された牛の割合およびその胚回収率(77.1および63.5%)は,異常が持続した牛(22.2および16.7%)に比べて高かった(p<0.01)。一方,rOPN群から回収された胚の長径はPBS群と正常群の中間であった。しかし,牛毎のEGF濃度と胚の長径との間に相関はみられなかった。【考察】rOPNは子宮内膜EGF濃度を正常化することで,発情後14日目までの胚の生存性を向上させるが,その濃度の違いは胚の大きさに反映されないことが示唆された。

精巣・精子
  • 小西 夏生, 中野 愛里, 角田 茂, 久和 茂, 髙島 誠司
    セッションID: OR-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】哺乳類の精子形成は精子幹細胞を起点とし,精細管内で精上皮周期に従い同調しながら進行する。精子幹細胞を含む未分化型精原細胞はGDNF刺激により自己複製し,周期的なレチノイン酸(RA)刺激により分化する。恒常的な精子形成にはこの自己複製-分化の適切なバランス制御が必須となる。当研究室では,GDNFに次ぐ第二の自己複製因子としてFGF2を発見した。これにより精子幹細胞には,幹細胞活性の高いGDNF依存性精原細胞(G-SPG)と,分化誘導感受性の高いFGF2依存性精原細胞(F-SPG)という2つの亜集団が存在することが明らかになった。本研究では,加齢がこれら精子幹細胞集団の動態に与える影響を解析した。【方法】2日齢C57BL/6J(B6J)マウスにRA合成酵素阻害剤WIN18,446を9日間連日皮下注射し,生後11日目にRAを単回皮下注射して精巣組織全体の精上皮周期を同調させた。その後各周期の精巣及び7週齢,2年齢B6Jマウス精巣の遺伝子発現量を定量的PCRで解析した。また7週齢及び2年齢B6Jマウス精巣にホールマウント免疫染色を実施し,GFRA1抗体とRARG抗体によりG-SPG・F-SPGを可視化した。またPNAによりアクロソームを可視化して精上皮周期を同定し,周期毎のG-SPG・F-SPGの細胞密度を計測した。【結果】若齢精巣では分化が起こる精上皮周期ステージVI-VIIIでFgf2/Gdnf比が上昇し,同時期にF-SPGの増大が認められた。このことからF-SPGは分化に加担する幹細胞亜集団であることが示唆された。一方,老齢精巣ではFgf2/Gdnf比の上昇とF-SPGの増大傾向が見られた。また興味深いことに,老齢精巣では精上皮周期の一周の長さが有意に短縮していた。加齢によるFgf2/Gdnf比変化や精上皮周期の乱れが幹細胞動態に影響したと推測される。今後は加齢で亢進する炎症性サイトカインのシグナルを過剰入力または欠損させた老齢ミュータントマウスを用いて同様の解析を行う予定である。

  • 遠藤 墾, 江森 千紘, 小林 清訓, 松村 貴史, 小沢 学, 石川 祐, 河本 新平, 原 英二, 伊川 正人
    セッションID: OR-38
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】哺乳類のメスでは加齢に伴い生殖能力(卵巣及び卵子の機能)が低下・消失するが,オスの加齢が妊性・生殖器官・生殖細胞に及ぼす影響についての詳細は不明である。本研究ではオスマウスを用いて解析を行った。【方法】C57BL/6J系統のオスマウス用い,2ヶ月齢から24ヶ月齢まで交配試験を行い,加齢による妊性の変化を解析した。また,オスの加齢による血中テストステロン濃度の変化を測定した。続いて,精巣や精巣上体の加齢兆候について,組織学的観察に加え,加齢マーカーであるSA-β gal染色やDNAダメージマーカーであるγH2AXの免疫染色による解析を行った。さらに,加齢オス精子を用い,形態観察,運動性測定,体外受精・体外培養(IVF・IVC),コメットアッセイ法によるDNAダメージの検出を行い,精子の品質を評価した。【結論・考察】精巣や精巣上体において種々の加齢兆候がみられ,生産される精子数の低下や,精子の品質低下なども確認された。これらの結果として,加齢オスにおいて妊性が低下することが示唆された。

  • 中川 俊徳, 吉田 松生
    セッションID: OR-39
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】精子幹細胞は長期に渡って安定的にかつ大量の精子を続ける,繁殖にとって重要な細胞である。定常状態において,どのような特徴や性質を持つ細胞が精子幹細胞として振舞うのか,それらがどのような振る舞いをすることで長期に精子幹細胞プールが維持されるのかについて,十分には理解されていない。そこで本研究では,精子幹細胞集団を含むGFRα1陽性細胞集団のヘテロジェナイティーに注目し,GFRα1陽性集団における亜集団の振る舞いの解明を目的とした。【方法】GFRα1陽性細胞の亜集団に発現する遺伝子を同定し,それぞれの細胞集団の挙動(長期精子形成への寄与,亜集団間の関係)をタモキシフェン作動性Creレコンビナーゼを発現するマウスを用いて解析した。また,得られた実験データを使って,数理モデルを構築した。【結果】本研究で,GFRα1陽性集団にPlvapまたはSox3を発現する相互排他的な集団を見出した。これらの集団の挙動を追跡し,数理モデルと組み合わせることで,次のことを明らかにした。すなわち,精子幹細胞の状態は一様ではなく,自己複製に偏っている(renewal biased)状態と分化に偏っている(differentiation primed)状態があり,定常状態ではそれら異なる状態を行き来している。このような状態の転移は確率的に起きており,これが不均一な精子幹細胞のpoolを維持する基盤となる。興味深いことにrenewal biased状態の精子幹細胞は細胞周期が遅く,differentiation primed状態になると早くなる。以上のような特性や挙動により,精子幹細胞は分裂回数を少なく保ちながら多くの精子を作り出し,一方で実質的な幹細胞の密度が高く保たれ精子幹細胞プールが安定して維持されると考えられる。

  • 内田 あや, 鈴木 穂香, 高瀬 比菜子, 平手 良和, 平松 竜司, 宮東 昭彦, 秋元 義弘, 金井 正美, 金井 克晃
    セッションID: OR-40
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】哺乳類の精巣で作られた精子は,精細管から精巣網へ運ばれ,輸出管へと排出される。精巣網が精子の輸送を担う導管としての役割を持つ事は知られていたが,その精子発生制御における機能的役割は明らかになっていなかった。今までの研究で我々は精巣網と精細管をつなぐ境界部であるセルトリバルブ領域に精原幹細胞ニッチが存在することを見出し,当領域の形成には精巣網由来のシグナルが重要である事を解明した。今回,我々は網羅的遺伝子発現解析によりマウス精巣網上皮で転写因子Sox17が恒常的に発現する事を明らかにし,精巣網上皮特異的なSox17欠損雄マウスが不妊となる事を見出した。本研究では,精巣網におけるSOX17の機能解析を主軸として,精巣網を介したセルトリバルブ・精子発生制御機構の解明を目的とする。【方法】精巣網特異的なSox17欠損マウス(cKO)を作出し,その表現型解析を生後精巣において経時的に行った。解析は主に各種マーカーによる免疫組織化学染色により行い,cKO精巣網における発現変動遺伝子の検出はRNA seq(Nova seq 6000)により行った。【結果】精巣網上皮特異的にこのSox17遺伝子発現を欠損させたcKOマウスでは,生後4週齢以降,精巣重量の有意な低下がみられた。cKOマウスではCDH1等の各種精巣網上皮マーカーの発現は見られる一方,上皮細胞の増殖能の低下が観察された。cKO精巣網に隣接するセルトリバルブ領域では弁様構造の破綻,および異所性の円形精子細胞の出現が観察された。また,cKOマウスでは曲精細管における精細胞のアポトーシスの増加,および伸長型精子細胞以降の精細胞減少による精子発生異常が観察された。以上より,精巣網におけるSOX17が ①精巣網の生後発生における増殖制御を担う事,②セルトリバルブ領域の構築に寄与する事,さらに ③精子発生を含む精巣全体のホメオスタシス制御に密接に関わる事が示唆された。本発表では精巣網上皮のSox17発現を介したセルトリバルブ・精子発生制御の分子基盤に迫りたい。

  • 三上 夏輝, 村田 知弥, 依馬 正次, 高橋 智, 水野 聖哉, 杉山 文博
    セッションID: OR-41
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/13
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    【目的】真核生物の細胞内では輸送小胞を介してタンパク質や膜成分の輸送が行われている。小胞輸送では,輸送小胞が標的膜に繋留されたのちに小胞と標的膜との融合が起こることで物質が細胞小器官や細胞膜へと輸送される。本研究では繋留因子の1つであるExocyst複合体に着目した。Exocyst複合体はヘテロ8量体のタンパク複合体であり,リサイクリングエンドソーム由来の輸送小胞の繋留に重要な機能を持つことが知られている。当研究室の先行研究において,Exocyst複合体の構成因子の1つであるExoc1を雄性生殖細胞特異的に欠損させた(Exoc1 cKO)マウスでは正常な精子形成が見られず,EXOC1がマウス精子形成で重要な役割を果たすことが明らかとなった。最近の研究で,EXOC1はExocyst複合体の構成因子としての機能だけでなく,別の働きも持つ多機能タンパクであることが報告された。そこで,精子形成過程においてEXOC1がExocyst複合体の構成因子として機能しているのか否かを検討することを目的に本研究を実施した。【方法】EXOC1以外のExocyst複合体の構成因子をコードする2つの遺伝子(ExocXExocY)のfloxマウスと,雄性生殖細胞特異的にCreを発現するNanos3-Creマウスを交配し,雄性生殖細胞特異的な2系統のcKOマウスを作成し,その表現型を解析した。【結果】ExocX cKOマウス精巣ではExoc1 cKOマウスで見られる異常な細胞塊である凝集合抱体が確認されたが,精子形成は確認された。一方,ExocY cKOマウスではExocX cKOよりも高頻度に凝集合抱体がみられ,精子形成は確認されなかった。以上の結果から,マウス精子形成においてEXOC1は8量体Exocyst複合体として機能するのではなく,Exocyst複合体中の一部の構成因子と協調して機能する可能性が示唆された。今後精子形成が確認されなかったExocY cKOマウス精巣のより詳細な解析を行う予定である。

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