地域漁業研究
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50 巻, 1 号
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論文
  • その生産体制と共販流通
    野中 健, 片岡 千賀之
    2009 年 50 巻 1 号 p. 1-20
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    長崎県は煮干加工業において全国屈指の産地である。まき網など地域の漁船漁業と密接な関係を保ち,設備投資や技術革新により生産性を向上させ,漁村加工業として地域経済に寄与している。小論では,長崎県の煮干加工業の体制と持続発展に係るシステムについて,生産体制と共販流通の両面から考察した。

    生産体制では,長崎県では,煮干主原料のカタクチイワシなど前浜原料が中小型まき網を中心に比較的安定して漁獲され,施設整備や技術革新により生産が維持された。まき網と煮干加工の両者は歩合制に基づく委託加工制で結びつき,このシステムは生産性の向上,製品の高品質化,投資・経費の節減などに対するインセンティブが働き,生産を刺激している。地域ごとの条件に照らして,委託加工と自己採捕,量産型と品質重視型などの組み合わせで経営が構成されている。

    流通体制に関しては,県漁連共販に大きく依存し,高い共販率が維持されている。県漁連共販出荷は年間を通して行われ,取扱量や入札参加者が多いため,価格形成において優位性があり,代金回収が確実であるなど,長崎県の地理的不利や小規模加工業者が多く販売力が乏しいなどの隘路を補っている。また,共販は,指定商社および付属商社制度をとることによって,煮干の全国販売,用途別利用配分を容易にし,そのことがまた,集荷力を高め,多様な煮干加工形態を支えている。

  • フェロー諸島における捕鯨の実態と捕鯨がになう多面的な役割
    宮脇 和人
    2009 年 50 巻 1 号 p. 21-48
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    本稿の目的はフェロー諸島で行われている国家管理による捕鯨の実態を記述し,捕鯨が島民のなかでどのような役割を担っているかを考察することにある。フェロー諸島では,ゴンドウクジラの自給的捕鯨が連綿と行われてきた。フェロー諸島の捕鯨の特徴は,1)国家管理である点,2)ゴンドウクジラの季節的で気まぐれな来訪にまかせるいわば受け身の捕鯨である点,3)伝統的な技法を用いる点,4)諸島民に鯨を平等に配分する点があげられる。

    捕鯨とその用具,配分は法規で決められている。鯨が発見されたならば,地域単位で編成された船団が湾に鯨を追い込み捕獲する。捕鯨に使用される資本は既存資本を援用し,伝統的な用具を使用する。捕獲した鯨の配分は,捕鯨で中心的な役割を果たした人びとと公共施設への配分が優先され,残りはその他の参加者,地域住民に対して平等に行われる。

    配分量は,当然のことながら,鯨の群れの大きさと配分を受ける人口に規定される。鯨の群れが小さかった場合,鯨は公共施設に譲られる。フェロー諸島の人口が増加したため,一人あたりの地域配分の割合は低下した。このため,鯨製品を希求する人びとは,減少分を参加報酬によって捕填しようとするであろう。捕鯨の伝統的で単純な技法は多数が捕鯨に参加することを可能にしている。

    フェロー諸島における捕鯨は,地域社会の人びとが自然のサイクルに従い,伝統を再現し維持する場であり,弱者優先かつ平等な配分が行われる場でもある。このようにフェロー諸島の捕鯨は,島民を国家,自然,伝統のなかに位置付ける役割を担っていると考えられる。しかし,近年の島民の消費生活の多様さや鯨の化学物質汚染の指摘は,フェロー諸島の捕鯨のありかたに変化をもたらすとも考えられる。

  • PIFWA に見るはじめの一歩
    川辺 みどり
    2009 年 50 巻 1 号 p. 49-66
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    「ペナン浅海漁民福利協会(PIFWA)」の10数年来の活動の検討から,零細漁民が協働管理に向かうエンパワメントについて考察した。PIFWAの活動は,第Ⅰ期(1980年代後半~1994年11月):未組織化の時期,第Ⅱ期(1994年11月~1999年):マングローブ伐採・エビ養殖場拡大反対運動,第Ⅲ期(2000年~2005年):マレー半島で漁民委員会を中心に活動を広げた時期,そして,第Ⅳ期(2006年~):NGOから自立した時期,の4つの局面を経て現在に至る。発足当初はNGOから物心両面の支援を受けていたが,漁民自身が運営主体となり,経済的にもNGOから自立をして組織として成長した。さらに,政府機関と協調的な関係を構築しつつあることは,協働管理の基盤構築として重要である。また,長年の悩ませられてきたトロール船の漁場への侵入,水質汚染,近年のエビ養殖場建設に伴う海岸環境改変に対して自ら資源管理的行動を起こし,従来,否定されてきた漁民の組織化・資源管理能力を示した。今後,将来の協働管理に向けて,政府以外の利害関係者とも協議する糸口を探ること,独自の経済事業を考えていくことが必要となろう。

第50回ミニシンポジウム
  • 萩市らしく,そして萩ならではの
    三輪 千年, 三木 奈都子
    2009 年 50 巻 1 号 p. 67-80
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    本論は,2008年度学会ミニ・シンポ「山口県萩市における地域資源の有効利用と道の駅萩しーまーと -地域振興と水産業-」の狙いを地域経済視点から提起したものである。

    山口県萩市は,水産業の振興策を立案するに当たって,地域の資源(地域が有する生産対象資源,金融資源,技術・人材資源等の経済・経営資源の他に,地域の景観や風景などの自然環境資源,歴史や伝統,更には地域の人々が共有する信頼や人情などの人的ネットワークといった利用可能なあらゆる資源)を有効に活かした振興計画(町づくりの一環とする地域興し)を策定した。中でも,2001年8月に萩地方水産物卸売市場に隣接して設けられた道の駅「萩しーまーと」を,単なるイベント広場や観光施設としてではなく,萩市民にとっての農・水産物の「地産地消」の場として水産業振興計画に組み込み,「市民の中に浸透させた振興計画」として実践している。

    また,全国の沿海部に位置する地方自治体(人口規模5~10万人程度の地方都市・市町村)が水産業振興計画を策定するに当たって留意すべき事柄や課題についても提示している。とは言え,これらの留意点や課題を抽象的に論じても,市町村の中での水産業の位置づけや,背景とする市町村の経済的・社会的構造などの違いによって,採るべき振興計画や行政施策は違うのは言うまでもない。そこで,水産業の振興計画を立案するに当たって,水産業及び流通・加工業者などの水産関係者(生産・供給サイド)に限定せずに,幅広く市民各層(消費者サイド)の視点も取り入れた,独自の水産業振興計画を策定した山口県萩市の事例を紹介することで,地方自治体(市町村)が水産業振興計画を策定するに当たって留意すべき点や問題を整理した。

  • 漁業生産構造を視点として
    板倉 信明
    2009 年 50 巻 1 号 p. 81-94
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    本研究の目的は,萩地域の漁業が持つ「地域資源」(以下,単に地域資源と記す)としての有効性を拡大させるための課題を考えることである。とりわけ本研究では,第1に萩市場に水産物を供給する地域漁業の特質について生産構造に注目して検討すること,第2に把握されたその特質に基づいて,当該漁業経営体が地元水産物市場に求める役割を検討すること,以上2点を課題とする。考察対象は,萩市内および阿武町内の漁業経営体とした。

    検討の結果,萩地域漁業は脆弱な漁業生産構造に担われているため,地域資源として現時点で貢献できているとしても,長期的視点からみると持続的発展が危惧される状況にあることが分かった。そこで,地元水産物市場に期待される役割は,小規模・零細な経営体による鮮魚形態,小ロット,多魚種の漁獲物を確実に現金化すること,しかも漁業経営体の再生産を安定的にできる価格水準での取引を常に成立させること,と同時に地元に存在する量産型漁業種の漁獲物に対する価格形成力も求められてもいることが分かった。

    以上の検討を基に萩地域漁業が地域資源としてその有効性を拡大させるためには,漁業生産構造の脆弱性の克服が喫緊の課題である。そのためにも,地元水産物市場がそれを可能とするため上記役割を充分に果たすことが重要となっている。

  • 甫喜本 憲
    2009 年 50 巻 1 号 p. 95-107
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    本論文は,山口県萩市における水産物産地市場の再編状況を把握し,また,直販施設である「萩しーまーと」の果たしている役割を検討することを目的とする。

    萩市では,2001年に,市場価格の上昇や取扱量の増大を求め,8つの産地市場を廃止し,漁獲物を1つの市場に集中させようとした。しかし,再編後,人件費の削減以外に明瞭な影響は見られなかった。他方で,少量他品種な水産物がより流通しにくい状況が起こっている。「萩しーまーと」は,経営の安全性を確保した上で,そのような水産物を出来るだけ販売しようと心がけていることが特徴である。

  • 貞光 一成
    2009 年 50 巻 1 号 p. 109-113
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
  • 地物水産物を核とした地域振興の総合プロデュース
    中澤 さかな
    2009 年 50 巻 1 号 p. 115-119
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
ミニシンポジウム報告
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