地域漁業研究
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50 巻, 3 号
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論文
  • 産地の視点,水産業全体の視点
    三木 奈都子
    2010 年 50 巻 3 号 p. 1-12
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    輸入水産物の増加等に伴う魚価低迷を少しでも打破しようと1990年代から産地側から開始された水産物のブランド化の取り組みは,2000年代以降は地域ブランドも加わり,現在,乱立といえるほどに多数である。このような個別産地のブランド化の取り組みに対しては,水産物の価格向上や地域の活性化が期待されることから,これまで研究者も無批判に支援しがちであったが,現在,水産物流通や漁業全体の構造に与える影響も含めてその効果と課題について冷静に考えることが必要なのではないだろうか。このシンポジウムでは,水産物のブランド化の取り組みについて天然生鮮水産物を中心に,産地と水産業全体の両方の視点から効果と課題について検討する。

    第一の論点は,供給の量や質,その継続性など制御できない部分が大きく,製品開発,販売チャネル管理が難しいという水産物の基本的な性格を持つ天然生鮮水産物ブランドの差別化と主体のあり方である。第二にはブランド化の取り組みを行う産地の取り組みの効果と問題である。第三に2000年代になって展開してきた地域ブランドの意味と効果についてである。第四に,少数品目の直接販売を促す性格を持つ水産物ブランドの取り組みが漁業構造全体や水産物流通に与える影響についてである。

  • 「間人ガニ」を事例に
    副島 久実
    2010 年 50 巻 3 号 p. 13-28
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    現在,地域の農林水産業が衰退傾向を示しつつある中で,ブランド化の取り組みの中でも,特に「地域ブランド」が,それらの生き残り方策の一つのキーワードとして脚光をあびている。そのような中で,2006年からスタートした地域団体商標制度は,「地域ブランド」化の取り組み状況を把握する一指標として捉えられている。水産業界においても,地域団体商標を登録しようとする動きが活発である。

    そこで本稿では,水産物のブランド化の取り組みの中でも地域団体商標制度を取り上げ,その効果と課題を検討し,水産物のブランド化という取り組みの中で,地域団体商標制度は,地域や地域の漁業にとってどのような意味を持つのかを実証的に考察した。具体的には,第1に,水産物(水産加工品を含む)の地域団体商標の全体状況を把握し,その特徴を明らかにした。第2に,京都府の丹後町漁協で取り組まれている間人ガニのブランド化の事例を取り上げ,当該事例における地域団体商標制度の効果と課題を示した。第3に,事例からみる水産物のブランド化の取り組みの意味と課題について考察した。

  • 佐野 雅昭
    2010 年 50 巻 3 号 p. 29-52
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    現在の水産物「ブランド」化事業は、国内水産物市場の全体的な拡大や水産業の総体的な経営向上をもたらすものではない。あくまで産地間競争のツールであり、縮小する市場を奪い合うライバルを切りすてるための武器である。その点で個別経営の生き残り戦略においては合理的な存在であるが、業界全体がそこに向かって進んでいけるような性格のものでは全くないであろう。個別「ブランド」化事業の効果や成否という微視的視野に立つ限り、水産物流通における「ブランド化」現象の本質は理解し得ない。水産商品の本質的理解と、それとの整合性を失いつつある水産物流通の総体的変容を理解した上で、そこにおける「ブランド」化の意義を冷静に評価する視点こそ必要ではないのか。

  • 櫻井 清一
    2010 年 50 巻 3 号 p. 53-65
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿の目的は,農産物における地域ブランド化の現状を考察することである。水産物に比べ,農産物は品種・栽培それぞれの段階で製品の品質をコントロールしやすいこと,複数品目を組み合わせた類としての地域ブランド化が実態として多いという特徴を有する。そのため細かな製品戦略を設定しながら多様な地域ブランド化の取り組みが展開しているが,消費者・実需者の評価を獲得していない自称地域ブランドも数多い。また農産物地域ブランドは産地の立地する地域社会の魅力や特殊性もブランドを形成する重要な要因となっている。しかし住民が主観的にわが地域と了解するコミュニティと実際の居住地との間にズレが生じている。このことが産地の立地する地域が期待する住民および一般消費者の地域ブランドへの評価と実際の評価との乖離を生じさせている。また地域団体商標制度に対する農産物産地の期待は高く,出願が相次いでいるが,実際の登録率は低い。最後に京野菜を対象とするケーススタディを行った。地道な販売促進活動の重要性,試験研究機関がブランド管理に果たす役割などについて整理を行うとともに,ブランド化の成果として売上額の漸増と一部産地の経営複合化の進展を指摘した。

報告
大会後記
  • シンポジウム「水産物の地域ブランド化の取り組みの効果と課題」より
    大谷 誠, 三輪 千年
    2010 年 50 巻 3 号 p. 87-98
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    水産物のブランド化が,全国各地で推進されている。この状況について,水産物の商品特性や水産業の構造的変容との関係を踏まえて,個別経営や産地のみならず水産業全体への影響を検証する必要がある。

    このため本稿は,水産物のブランド化について,産地と水産業全体の両視点から捉えて,個別経営体の経営不振や産地の衰退,あるいは変容する水産物流通や消費者ニーズに対応するツールとして,どのような役割や意義を果たしうる存在なのかを批判的に検証している。

    この結果,ブランド化の内実として,鮮度保持や販路拡大,情報提供など多様な取り組みが併存していることから,ブランド化の方向性を検証する際には,これらを整理して類型化することが求められること。また,分析視角として,経営学的に個別経営体や産地の視点からの捉え方と,流通経済学的に水産物流通の視点からの捉え方を整理することが重要なことを明らかにしている。そして,水産業の有する課題の中で,ブランド化で対応可能な部分と不可能な部分の仕分けをして,前者については方法論の検証,後者については対置させるべき方策の検討が必要なことを提案している。

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