地域漁業研究
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54 巻, 1 号
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論文
  • 山口県椹野川干潟・河口域を事例として
    遠藤 愛子
    2013 年 54 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    これまで日本の沿岸域の大部分は,沿岸漁業者により利用・保全されてきた。言い換えれば,沿岸漁業者が沿岸域を管理する役割を大きく担ってきたが,今後,漁協組合員の高齢化・組員数の減少が進む中,日本の沿岸漁業が抱える諸問題の解決に向けて,これまでの漁業・水産政策の枠組みの中だけではなく,沿岸域総合的管理,つまり,海洋政策という大きな枠組みに漁業・水産政策を位置付けて,問題解決を図るしくみづくりが必要となるのではないだろうか。

    山口県椹野川流域では,陸域の環境変化や人間活動が,海域である干潟・河口域を含む海域の資源や自然環境に影響を及ぼし,その結果,漁業資源であるアサリ資源が減少していた。アサリ資源を回復させるためには,干潟・河口域の自然再生に取組む必要があり,陸域と海域を一体的に捉えて管理する必要がある。山口きらら支所の漁業者は,「山口湾の干潟を守る会」を組織して,山口県が設置する椹野川河口域・干潟自然再生協議会の活動に協力し,干潟耕耘作業を主催している。つまり,漁業者が椹野川干潟・河口域の自然再生に果たす役割は,アサリ資源の回復のみならず,干潟環境の回復や,生物多様性・生物生産性回復のための取組みに,関係者と協働して,主体的に参画しているとともに,環境学習の場や,交流の場を提供する役割を担っていると言える。言い換えれば,これまで,沿岸漁業者が中心となって利用・保全・管理してきた沿岸域環境を,沿岸漁業者が関係者と協働して,流域を含めた地域全体で利用・保全・管理していくしくみが構築されている。

  • フィジー、トンガ、ソロモンを事例として
    タポウ-タウファ サロメ, 佐野 雅昭, 久賀 みず保
    2013 年 54 巻 1 号 p. 25-53
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    生鮮マグロ輸出は、太平洋島嶼国の経済発展にとって重要な手段である。本論文では、太平洋島嶼国における生鮮マグロ輸出を促進するためにどのような改善策をとれば良いかという問題意識から、日本向けの生鮮マグロ輸出の現状を分析する。また、生鮮マグロ流通の改善するための主な要因を明らかにしていく。このような流通改善について考察することは、太平洋島嶼国の発展経済を持続的に支えるものであり、研究の意義は高いといえる。そこで生鮮マグロ流通において実績を重ねている代表的な3カ国、フィジー、トンガ、ソロモンを分析対象とし、流通関係者への聞き取り調査をもとに上記の目的に接近した。

    分析の結果、生鮮マグロの流通において最も重要な要因は品質管理であることが明らかになった。収益はマグロの品質によって左右されることから、水揚げ後の品質管理が非常に重要である。いかに品質を最も良い状態で管理できるかによって、流通チャネルが構築されている。また、生鮮マグロを扱う上でいかに迅速な流通を行うかということも重要であることが明らかになった。このような品質管理をより確実に実現するためには、主に2つの手段が考えられる。第1に、流通手段である航空便の利便性を高めること、第2に倉庫や加工施設、氷製施設や空港などのインフラ整備である。これらが実現されることで、マグロの品質管理がより容易になるであろう。そして販売先への円滑なマグロの高鮮度流通が行えるのではないだろうか。効果的な流通チャネルというのは、短時間で行うことが重要である。そうした迅速な流通は、上記の2つの手段が可能となることで達成されるであろう。

研究ノート
  • 楽 家華, 増井 好男
    2013 年 54 巻 1 号 p. 55-71
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    中国における養殖イガイの生産量は山東省が最も多く,広東省,福建省,浙江省と続いているが,浙江省の舟山列島に属する嵊泗県のイガイ養殖業のウエイトはすこぶる高く,地域の重要な産業となっている。嵊泗県のイガイ養殖業の発展は,嵊泗県が岩礁域のためイガイの生息に適しており,天然種苗が採捕される条件を備えていた立地要因のあったことに加えて,漁船漁業による漁獲強度が漁業資源の減少をもたらしたために,国および浙江省政府が漁業転換政策を導入し漁船漁業の漁獲強度の抑制を図りつつ,養殖漁業への転換を進めたことが大きな成立要因となった。さらに,中国での所得水準が上昇し,食料消費の質的転換が進み,水産物の需要が高まりイガイの販売市場が拡大したことも重要な成立要因となった。とくに,上海市,寧波市などの大都市が舟山列島に近接した距離にあることも有利な条件となった。また,国内市場が中心であるが,海外市場もわずかずつ拡大しつつある。さらに,養殖漁業の収益性が漁船漁業に比較して高いうえ,労働の強度が漁船漁業よりも軽く,年齢が高齢化しても就業できるメリットも大きい。

    イガイ養殖業を今後発展させるためには漁場利用の適正な管理による漁場の豊度を持続させるとともに漁業者の組織的な対応策を図ることが課題であろう。

実態調査
  • 林 紀代美
    2013 年 54 巻 1 号 p. 73-97
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    本稿では,金沢市中央卸売市場の「朝セリ」で扱われる石川県内産鮮魚を活用して2012年4月から取り組まれている「石川の朝とれもん」プロジェクトとそこに参加した業者による「見える化」活動に注目した。

    その結果,多くの業者の場合,販促ツールを用いた「見える化」が意識的に,活発に行われたのは半年後までであった。ロゴシール貼付や商品棚へのPOP掲示も,各社その継続は乏しく,メニュー提案や試食への取り組みは少なかった。構築されたブランドを最終的に消費者に発信する販売段階での「見える化」の意識的なとりくみとその継続の難しさが見て取ることができた。鮮魚仲卸・販売店や寿司店では,積極的な声掛けや「朝セリ」「朝とれもん」の解説が継続的に行われていた。これと比して量販店は,「朝セリ」「朝とれもん」の活用の継続に消極的な感想やマイナス面での意見が目立ち,1年経過後に活動がみられる場合も店舗により散発的,断続的なものであった。また,生産者の関わりは,出荷以外では具体的な姿となっていない。「朝セリ」を多く活用している支所でも,「朝とれもん」活動に対する強い意識や,積極的な関与がなかった。そして,消費者の「朝セリ」「朝とれもん」の認知が低いことも判明した。資源活用や流通環境の改善には関係主体間での「学び・伝達・働きかけ」の充実と連携が必要となるが,消費者の学習姿勢やコスト感覚が未成熟である点への懸念もみられた。

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