地域漁業研究
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55 巻, 2-3 号
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論文
  • 常 清秀
    2015 年 55 巻 2-3 号 p. 1-18
    発行日: 2015/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,水産資源の過度利用と世界規模で水産物需要の増大が同時に進行している中で,漁業生産を維持し,水産物を安定供給するために,海面養殖に大きな期待が寄せられている。

    しかし,日本国内の漁業総生産量の33%を占めている海面養殖の生産量(2013年)を世界平均レベルの5割近く(49%)までに引き上げることは可能なのか。そのためには,海面養殖の現状とその歴史的発展過程を再度確認する必要性がある。そこから今後の方向性を探り出す必要がある。

    なぜならば,日本の海面養殖生産は1960年代の30万トン程度の規模から80年代後半の140万トンを超えるほど大きな発展を遂げたが,その発展過程において依然として多くの課題を抱えているからである。現段階において,少なくとも①漁業生産の漁場利用の競合問題 ②大規模経営者と小規模家族経営との地域内での共存・調整の問題 ③養殖経営主体の経営改善の問題という三つの基本的な課題が残されている。これらの本質的な問題点,あるいは課題が解決されない限り,海面養殖のさらなる発展は期待できない。

    本論文は,地域マネジメントという視点から,既存研究の整理を通じて,海面養殖業が抱えている諸課題の解決の糸口を探ることを目的としている。

  • 南伊勢町神前浦を事例に
    松井 隆宏
    2015 年 55 巻 2-3 号 p. 19-35
    発行日: 2015/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,南伊勢町神前浦の事例を通して,漁業者(漁協/漁連)が主体的に大規模魚類養殖に携わっていくことの意義と可能性を,2つの方向から検討した。

    ブルーフィン三重は,全国で初めて漁協/漁連が主体的にクロマグロ養殖に取り組んだ事例であるが,聞き取り調査の結果から,単に系統の手(資金,人材)による会社というだけでなく,種苗の購入や漁場使用料等の支払い,民間養殖会社に対する競争力の強化等,多様な面から地域漁業への貢献を果たしている一方で,直接的にローカルな地域漁業を支えるものではないことが明らかとなった。

    また,マダイ養殖業者に対するアンケートおよび選択実験の結果からは,神前浦において,小規模な養殖業者が集まり協業化/企業化を通して大規模魚類養殖に向かっていく可能性は,少なくとも,船の共有や会社の設立を進めるような段階にはなく,営業・販売活動や仕上げ工程の標準化といった,部分的な取り組みから始めていく必要があることが明らかとなった。

    養殖業経営の体質強化の必要性が高まっており,大規模化や協業化,企業化に期待が集まるが,地域の特性に合わせながら,適切におこなっていかなくてはならないと考えられる。

  • 愛媛県遊子地区の事例
    長谷川 健二
    2015 年 55 巻 2-3 号 p. 37-66
    発行日: 2015/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文は,海面養殖業の導入によって地域の活性化が図られた愛媛県宇和島市遊子地区の事例研究である。遊子漁村は,マダイを含む海面養殖業により就労機会の拡大,養殖魚種を生かした漁村の活性化を図り,家族労働力を土台とした小規模経営が維持されている。

    周知のように遊子地区は,1960年にイワシ網漁業の共同経営が衰退し,多数漁民の就労機会が失われた。こうした“漁村経済の崩壊の危機”をきっかけに漁協の強力な指導の下に養殖真珠,養殖ハマチを導入し,多数の漁民が着業した。しかし,1979年にハマチ価格の暴落以降,当時2,000円台とかなりな高価格であり,病気にも強いとされたマダイ養殖業の導入がはかられた。そして,三重県のように“漁村丸ごと”養殖ブリ類から養殖マダイへと転換したわけではない。1994年には魚類養殖経営の約半分がマダイ養殖業を中心とした経営となったが,主な養殖は,マダイであるが,多魚種の養殖経営となっている。そして,現在でも数量的には,ハマチが多い。さらに2000年,遊子では,「マリンコ-プゆす」という名称の加工工場を設立した。これは,当時,養殖マダイの生産が300万尾にもなり,生産過剰となったため,加工し,主に関東方面の市場の仲買業者に出荷するようになった。

    遊子漁村の養殖業における最大の特徴は,営漁計画に基づく漁場保全と経営の安定化を図っていることである。そして養殖魚販売,餌料・稚魚購買における養殖業者の自主性の尊重と,生産者による価格交渉を行っている。以上のような漁協による地域管理が可能な条件として次の点が重要である。第1に,伝統的な共同体原理である平等主義が生き続けていることである。第2には,養殖経営の目的が企業的利潤を目指しているのではなく,所得の確保となっていることである。第3は,漁協の持つ様々な機能が養殖経営を支えていることである。

  • 現代的市場環境におけるブリ養殖の展開と地域を超えた再編
    佐野 雅昭
    2015 年 55 巻 2-3 号 p. 67-90
    発行日: 2015/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    養殖経営不調の原因は,価格形成の不調にある。グローバル化が進む現代的市場への対応という視点から養殖経営のあり方を検討することが必要だろう。本報告ではブリ類養殖を事例とし,上記のような視点から再編問題に接近した。成功例と考えられる上層養殖経営体に対し実態調査を行い,経営体制の内容を明らかにした。

    養殖生産体系の本質は,漁業生産体系の不安定性の克服つまり供給の大量化,安定化と計画化である。高級魚だったはずの養殖対象魚は発展とともに希少性や高価格性を急速に喪失してきたが,組織型小売業における大衆商品として巨大市場を獲得することに成功した。こうした養殖業の基本的性格から考えると,生産規模拡大と市場拡大を持続的に行う必要があり,海外市場の開拓が不可避であろう。

    実態調査からも海外市場アクセスを軸とした再編が進んでいることが明らかである。地域外インテグレーターとの関係性を強めてグループ化するケース,漁協が地域の養殖業者を結集するケース,企業が新規参入し養殖業再編を一気に進めようとするケースなどが見られるが,いずれも海外市場アクセス確保がその鍵となっている。

    養殖業再編の大きな潮流は,海外市場へのアクセス確保を軸として進んでいる。地域社会に基盤を置きつつ,国内市場だけではなく海外市場へのアクセスを確保することでグローバル経済を十分に利用できるような,バランスのよい養殖経営が求められている。

報告
  • 新魚種「マハタ」の養殖技術の開発を中心に
    青木 秀夫
    2015 年 55 巻 2-3 号 p. 91-105
    発行日: 2015/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    三重県の熊野灘沿岸域では,各湾でマダイを中心として魚類養殖業が営まれ,本県南部地域における重要な地場産業となっている。しかし近年では,飼料価格の高騰や魚病発生による生残率の低下により養殖魚の生産コストが上昇しているのに加え,主要魚種であるマダイの魚価は大きく変動しており,魚類養殖業者の経営状態は不安定で低迷している。そこで三重県では1996年から新たな養殖魚種としてマハタの種苗生産と養殖技術の開発に着手した。種苗生産技術では,親魚の安定確保に必要な性転換技術,ふ化仔魚の好適な飼育環境の解明と初期餌料の開発,ウイルス性神経壊死症(VNN)の発生防止技術を開発し,これにより優良種苗の安定生産が可能となった。これらの技術は三重県尾鷲栽培漁業センターに移転され,2009年以降は毎年30万尾前後の種苗が生産され,中間育成したのちに10万尾以上が魚類養殖業者に販売されている。また養殖技術では,成長の特性把握,給餌条件の解明のほか,マハタ養殖推進の大きなネックとなっていたVNNに対する有効なワクチンの開発に成功して,2012年にワクチンの製造販売承認がなされた。このような取り組みにより,三重県ではマハタの安定した養殖生産のための技術が実用化されている。

  • 三重県の事例
    藤吉 利彦
    2015 年 55 巻 2-3 号 p. 107-117
    発行日: 2015/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
  • 小野 征一郎
    2015 年 55 巻 2-3 号 p. 119-142
    発行日: 2015/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
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