地域漁業研究
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57 巻, 1 号
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論文
  • 北海道厚岸町のホッカイエビを用いたー試論
    濵田 信吾
    2016 年 57 巻 1 号 p. 1-25
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    ホッカイエビ(Pandalus latristris)は,北海道において夏季の特産食材として扱われる沿岸水産資源である。北海道厚岸郡厚岸のホッカイエビかご漁業は,平成19年に一年間の休漁の後に漁業規則を改定し,平成20年以降は漁獲努力可能量を大幅に削減しながらも,漁獲量と漁獲金額高の増加を実現させた。本論では,地域共同体が主体となって実践する責任ある漁業の内発的発展の厚岸ホッカイエビ漁を用いて,資源管理を環境保全と資源開発の相関的関係からとらえるエリアケイパビリティー概念の整理をおこなう。第一に,英語圏の文化・社会人類学の領域のおける自然資源利用と保全に関する研究の潮流を整理し,エリアケイパビリティー概念の学術的位置と意義を確認する。そしてホッカイエビ資源の回復と利用に関する民族学的考察では,ホッカイエビの資源回復と社会的・生態的持続可能な利用への社会過程を,生産者による科学知の享受,地域文化との整合性,異なる行為主体者が繋がった社会ネットワークの構築,そして「恥の回避」という文化的要因について論じる。その上で,エリアケイパビリティー概念の有用性とさらなる援用のための課題について考える。

  • 沖縄県国頭漁協・読谷村漁協の事例
    玉置 泰司
    2016 年 57 巻 1 号 p. 27-42
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    沖縄県国頭,読谷村の各漁協では,定置網漁業を自営して,増大した観光客をターゲットとした食堂も自営することにより,積極的な六次産業化への取組を行っている。これらの漁協ではなぜ食堂の開業に踏み切ったのか,その背景と現状について分析を行った。複数の事例を比較分析することにより,今後の課題等を浮き彫りにし,存続条件を明らかにする。

    これらの食堂ではいずれも自営定置網漁業の漁獲物を主要な食材として利用し,漁獲物に付加価値を付けている。定置網漁業では多種多様な魚介類が漁獲され,漁場が港から近いこともあり,高鮮度の漁獲物が入手できる。一般の水産物流通の場合,単一魚種でまとまった量をそろえないと,販売がむずかしいが,漁協自営の食堂の場合,少量漁獲種も食材として有効に価値を与えることができる。また食堂を自営することによって定置網以外の漁獲物の価格を下支えすることもできた。観光定置についてみると,沖縄では本土に比べ海の透明度が高く,魚体がカラフルで美しいことから,本土よりも魅力的で人気が高まっているようである。これらの六次産業化は,地域での雇用拡大にもつながっており,地域経済波及効果もある。

  • 原田 幸子, 間々田 理彦, 竹ノ内 徳人, 山本 和博, 水野 かおり, 金尾 聡志
    2016 年 57 巻 1 号 p. 43-57
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,留学生の魚食実態を明らかにすることで,養殖魚の輸出拡大に向けた訴求ポイントを探ろうとしている。その結果,中国に対しては「安全安心」を強調すること,養殖魚に対するイメージアップが必要であること,インドネシアやフィリピンに対しては機能性をアピールすることが売り方として有効ではないかと考えられた。また,ロジスティック回帰分析からは,水産物の消費において世代間格差はみられず,食材としての魚の位置づけも低くないことが分かったが,地域によっては日本の養殖魚の価値が現地では正当に評価がされない可能性もあることが分かった。このことから,ターゲットの意識にあわせたプロモーションが重要になることが示唆された。

  • 水産庁と鹿児島県が編纂した公的資料の分析
    佐々木 貴文, 國吉 まこも
    2016 年 57 巻 1 号 p. 59-78
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    尖閣諸島を巡っては,日本と中国,日本と台湾との間で問題が生じている。漁業分野に与える影響も大きく,マグロ延縄漁業やマチ類一本釣り漁業では,日本の漁業者に経営面で影響がでている。本研究は,こうした状況において,内閣官房「領土・主権対策企画調整室」が委託元となった「尖閣諸島に関する資料調査」事業に協力するなかで得られた成果をまとめたもので,第二次世界大戦終結からの約10年間における,尖閣諸島漁場での日本漁船の漁場利用および操業の実態を明らかにすることを目的とした。この調査で新たに発見,または内容を精査できた一次資料は,水産庁福岡駐在所『東支那海底魚資源調査要報』の昭和22年度上巻や第3巻,鹿児島県水産試験場『事業報告書』(昭和24・27・28・29年度)等であった。

    かかる資料を分析した結果,本論文では,マッカーサー・ラインの拡張直後からすでに多くの日本漁船が尖閣諸島漁場で操業していたことを証明することができた。とくに,これまで確認されていなかった水産庁が作成した農林漁区を利用した資料からは,尖閣諸島周辺といった曖昧な概念ではなく,まさに“尖閣諸島の漁業”と言えるだけの操業証拠が確認された。同時に,終戦から間もない時期に鹿児島県の水産試験場が調査対象に尖閣諸島を位置づけ,活発に調査活動を展開していたことも明らかになった。

  • 4村の比較調査より
    鳥居 享司, キトレレイ ジョキム
    2016 年 57 巻 1 号 p. 79-93
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2020/06/26
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    フィジーの沿岸集落では,自給自足を目的にした漁業操業が盛んに行われてきた。しかし,人口増加,需要の増加などによって販売を目的にした漁業操業が広がるにつれて,漁獲圧力の高まりによる資源水準の低下が懸念されるようになった。一部の沿岸集落においては,漁獲量の減少や漁獲魚のサイズ小型化などが確認されている。

    そこで本稿では,フィジーにおける資源管理制度に対する沿岸住民の認知度を明らかにすることを目的とした。そして,複数の漁村において,資源管理制度の具体的内容と制度への認知度を分析した。

    フィジーにはコミュニティを起因とする慣習と,統一的な漁業管理制度が存在するが,調査の結果,村人はいくつかのルールしか認知しておらず,漁業規制に対して十分理解が浸透していない実態が明らかとなった。

    実効性ある制度運用のためには,村民への周知・教育体制の検討が必要であるが,政府によるトップダウン的なアプローチではなく,沿岸住民の行動規範に強い影響力を持つ集落の役割と機能に留意することが肝要であることを提起した。

研究ノート
  • 林 紀代美
    2016 年 57 巻 1 号 p. 95-113
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2020/06/26
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    本研究では,地域で特徴的,伝統的利用がなされてきた「海藻類」と「魚醤」を取り上げ,購入や消費の世代別動向を把握することを目的とする。

    「海藻類」は,比較的プラスのイメージ・評価で多くの地域住民に認知され,一定量の購入・消費が継続されていた。「海藻種」を,季節や資源特性,食事場面を踏まえて多様な献立に調理していた。しかし世代間では,高齢層の購入・消費傾向と比して,若年層のそれでは,選択される「海藻類」が限られ,利用頻度も低い傾向にある。調理が容易な種や流通量が多い種は,若年層でも食事への取り入れが盛んである。しかし,逆の特性を持つ種では利用の活発さは高齢層のそれとのギャップが広がる。

    一方「魚醤」では,全体的に利用頻度は低位にとどまり,全世代で「海藻類」利用状況より低調であった。過去との頻度の比較でも,(消極的あるいは低水準での)維持やさらなる減少が目立つ。食材に対するイメージ・評価も,マイナス観点により強く反応がみられた。昔から食べ慣れている高齢層では比較的利用頻度や買い置き傾向が高い。しかし,若年層では「魚醤」の利用経験が乏しく,大半のものが台所に「魚醤」を置いていない。その背景として,家庭内での食の伝承が充分ではなく,食べつけてこなかった食材と位置付けられ,食材へのマイナスイメージの先行も相まって,「魚醤」の購入や利用を試みる動機づけが働きにくくなっている可能性が考えられる。

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