日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
選択された号の論文の360件中101~150を表示しています
化学の目で見る放射線生物学
  • 田口 光正
    セッションID: W8-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    高エネルギー重イオンはターゲット物質に対して特異的な照射効果を引き起こすことが知られており、生物影響研究の有力な“ツール”として期待されている。この特異的な照射効果は、イオン飛跡周りに高密度かつ不均一に生成する活性種の反応や拡散によるものと考えられる。生物を研究対象とした場合、水の分解によるOH(水酸化)ラジカルが主に反応に関与し、OHラジカルの反応機構の解明は照射効果を理解するために非常に重要である。本研究では、OHラジカルとの反応速度定数の大きなフェノールを選び、その水溶液に重イオンを照射し、生成物の定性・定量分析から、水中で連続的に減弱するイオンエネルギーを関数としたOHラジカル生成の微分G値を求めることにより、トラック内の反応の解析を試みた。さらに、OHラジカルの反応相手であるフェノールの濃度を変えて、すなわち照射直後における反応時間を変えて、OHラジカル収率の平均反応時間依存性を調べた。 フェノールを溶質とした水溶液試料に2-18 MeV/n程度のHe、C及びNeイオンを照射し、生成物の定性・定量分析を行った。3種類の構造異性体をもつ酸化反応生成物(ハイドロキノン、レソルシノール及びカテコール)について、その生成収量を、水中で進行方向に連続的に減弱するイオンエネルギーの関数として微分解析し、各生成物の収率(微分G値)を求めた。トラック内に生成した水素原子や水和電子とフェノールとの反応ではこれらの反応生成物は生じないので、生成物収率との比例関係から、水中放射線化学反応で最も重要と考えられているOHラジカルの収率を求めた。その収率は、水中における重イオンの比エネルギーとともに増加すること、同一比エネルギー核種では原子番号が大きくなるにつれて小さくなること、さらに平均反応時間1.5から300nsの間では時間経過に伴い小さくなることを明らかにした。
  • 山下 真一, 勝村 庸介, 林 銘章, 室屋 裕佐, 村上 健, MEESUNGNOEN Jintana, JAY-GERIN Jean-P ...
    セッションID: W8-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放医研 HIMAC からのガン治療用 GeV 級重粒子線を用いて水の放射線分解収量を測定した。ビームは 4He2+ から 56Fe26+ までの 6 種を用いて LET を 2-183 keV/μm と幅広く変化させた。試料には MV (メチルビオローゲン)-ギ酸水溶液を用い、中性の条件で照射した際の MV+• 収量を吸光分析から決定した。この系では e-aq、•OH、H• の収量の和が近似的に MV+• 収量に等しく、トラック内反応における水分解ラジカルの挙動を反映する。ここで、ギ酸濃度を変化させることにより HCOO- が •OH を捕捉する時間スケールが変化するため、トラック内反応の進行を反映した MV+• 収量の変化も観測でき、LET 増加や捕捉時間スケールの進行に伴う MV+• 収量の減少が見られた。
    収量測定と並行してモンテカルロ法シミュレーションも実施した。この際、未報告の反応を 3 つ追加することで実験結果をよく再現できた。さらに個々のトラック内反応に着目して検討を進めた結果、高 LET トラックでは水分解ラジカル同士のトラック内反応だけでなく、ラジカルが捕捉反応を介して他の生成物に置き換わったものもトラック内反応に大きく寄与することが分かった。このような反応のうち •OH が関与するものと生物学的影響との比較を試みたところ、COO-• 同士の反応が RBE と類似の LET 依存性を示した。ここで、COO-• は •OH + HCOO- → COO-• + H2O と生成するので、HCOO- を生体分子の 1 つと仮定すると COO-• は •OH による損傷と見なすことができる。COO-• 同士の反応はトラック内で近傍に生成した COO-• 同士の間で起こると考えられ、クラスター損傷に相当する指標と言えるため、重粒子線による細胞致死との関連の 1 つの説明が可能である。このような放射線化学シミュレーションによる RBE の説明はこれまでなされておらず、画期的であるが、修復機構なども含めてさらに検討をする必要がある。
  • 赤松 憲
    セッションID: W8-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    「電離放射線によって生じるDNA損傷の種類・量・分布(DNA損傷スペクトル)は線質・エネルギーによってどのように違うのか?」この問いに対する答えは、DNA損傷を発端する突然変異・発癌メカニズムを解明する上で極めて重要な情報となる。しかしながら、DNA損傷の多様さ(酸化損傷塩基だけでも80種類以上)、細胞核内におけるDNAの存在状態、ラジカルスカベンジャーの寄与、直接・間接効果の寄与率、酸素濃度、さらには、実験条件等の多くの不確定要素のため、過去数十年にわたる研究にも関わらず、この問いに関する統一見解は得られていない。DNA修復過程の研究が急速に進む一方で、放射線DNA損傷の解明が進まないもうひとつの理由は、検出可能な損傷が極めて限定されていることである。ELISA(酵素免疫定量法)的な方法、あるいは閉環状プラスミドDNAを用いた方法でいくつかの損傷については高感度検出も可能であるが、放射線照射されたDNAは温度やpHに対して極めて脆弱であるため、高感度であることが逆にartifactによる検出誤差を生む原因となりうる。そこで演者は、個々の損傷の化学構造に厳密にこだわらず、かつ照射DNAの脆弱性に影響されにくいDNA損傷スペクトル分析法を開発したので紹介する。この方法では、DNA分解酵素として、3’水酸基末端を認識し2’-deoxynucloside-5-phosphateを逐次切り出す蛇毒ホスホジエステラーゼ(SVPD)、及びウシ腸アルカリホスファターゼ(CIAP)を用いる。SVPDの基質特異性とそのMichaelis–Menten型の反応速度論的性質を活用することによって、3’鎖切断末端におけるリン酸基の有無、ピペリジン脆弱性部位(電子吸引性の損傷塩基及び脱塩基部位)というカテゴリーで損傷を分類することが可能である。本方法で分析したDNA損傷スペクトルが線源間でどのように違うかを紹介し、他の情報と合わせながら議論したい。
  • 熊谷 純, 原田 明, 宮崎 将芳, 金森 竜一, 吉川 枝里, 児玉 靖司, 渡邉 正己
    セッションID: W8-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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     我々は長寿命ラジカルを変異源とする突然変異や形質転換の非標的モデルを提唱してきたが、そのラジカル観測方法において、線量や細胞の取り扱いなど生物実験と隔たりがあった。本研究では培養シリアンゴールデンハムスター胎児(SHE)細胞を用い、放射線生物実験と同等の線量(4 Gy)で ESR直接観測実験を行った。この線量ではESR観測限界レベル以下のラジカル収率しか期待できないが、照射後の代謝の機能不全によって徐々に生成してくる“遅発性長寿命ラジカル”があれば、それらを観測できる可能性がある。本研究では、照射後の遅発性長寿命ラジカルレベルの時間依存性とその生成機構について検討した。
     コンフルエント状態であるT175フラスコ10個をγ線照射し(4 Gy)、照射後1, 5, 12時間後にESR用石英チューブに細胞を詰めて凍結し、ESR観測用試料とした。ビタミンC処理は、4 Gy照射後20分後から2時間後までの間、5 mMのビタミンCの入った培地で処理した。ミトコンドリアの電子伝達系阻害剤であるmyxothiazol(Myx)処理は、照射1時間前にMyx. 0.5 μMの入った培地と交換した。過酸化水素処理は、H2O2(1 mM)を含む無血清培地で30分間行った。未照射細胞中のラジカル濃度と比較して,照射後1, 5時間後に18, 36 %も増加することを見出した。照射後12時間後のレベルは5時間後のそれとほぼ同じであった。ビタミンC処理を行うと、照射によるラジカルの増分は未処理の半分に抑えられ、点突然変異誘発との関与が示唆された。Myx.処理した細胞を放射線照射してもラジカル濃度は増加しなかった。過酸化水素処理をすると、ラジカル濃度は31 %上がった。これらの結果より、突然変異や形質転換と関与する遅発性長寿命ラジカルの生成には、ミトコンドリア近傍で生成した過酸化水素が関与していることが強く示唆された。
  • 小林 一雄, 山上 隆平, 田川  精一
    セッションID: W8R-381
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放射線照射による遺伝子損傷の鍵となる初期過程を明らかにするために、パルスラジオリシス法によりDNA鎖上にカチオンラジカルを生成させ、その後の光吸収の変化を追跡した。DNA鎖上に生成したholeは最も酸化電位の低いグアニン(G)に移動する。このホール移動過程と、その後引き続いておきるH2OやO2との不可逆な反応過程が、DNA酸化損傷における重要な過程のひとつと考えられている。生成したGカチオンラジカルは直ちにN1位のプロトンが脱離しGラジカルが生成することが知られている。それに対して、DNA二重鎖におけるGのN1位はシトシン(C)と水素結合しているため、その挙動についてはよく分っていない。本研究ではGカチオンラジカルの脱プロトン過程を観測した。この過程はカチオンラジカルが生成後GのN1位プロトンがCに移動し、最終的に溶媒のH2Oに脱プロトン化する過程であると思われる。さらにこのことを確かめるために、Gと水素結合しているCの5位に置換基(X)を導入すると、明らかに、この過程が置換基の影響を受け、この速度定数は電子供与基のメチル基、電子吸引基のBrの順に遅くなっていることが分った。このことはG酸化に伴うN1からCへのプロトン移動がCの置換基により大きく変化していることを示している。次に溶媒による同位体効果について検討した。free のdGにおいて、H2Oにおける脱プロトン化の速度における同位体効果は1.7であった。一方オリゴヌクレオチドにおける同位体効果において、D2O中で顕著に遅くなっており、その同位体効果は3.8 であった。DNA鎖上に生成したカチオンラジカルのN1位の脱プロトン化にはいつくつかの過程から成り、そのうち観測される遅い過程はCの置換基効果、溶媒の同位体効果を顕著に受けることから、N3位のCの脱プロトン過程と考えられる。ここで問題となる点はDNA鎖中のホール移動の速度、あるいはDNA鎖Gの塩基損傷が脱プロトン化の過程に影響を与えるかどうかである。このことはホール移動の速度が脱プロトン過程に比べて充分大きいことを反映している。
  • 端 邦樹, 勝村 庸介, 林 銘章, 室屋 裕佐, 工藤 久明, 中川 恵一, 中川 秀彦
    セッションID: W8R-382
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    エダラボン(3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one, RadiCut®)は、脳虚血‐再灌流時において発生する活性酸素を除去するラジカルスカベンジャーであり、2001年から国内で使用されている。その反応性を調べるため、パルスラジオリシス法を用いてエダラボン水溶液中に様々なラジカルを選択的に発生させ、エダラボンとラジカルとの反応性を直接的に観測した。反応させたラジカルは·OH、N3·、Br2·-、SO4·-、CCl3O2·-である。この測定によって、エダラボンとラジカルとの反応速度定数を算出し、生成する反応中間体の吸収スペクトルを得た。N3·、Br2·-、SO4·-、CCl3O2·-のエダラボンの酸化による中間生成物は同一の吸収スペクトルを示し、吸収ピークはλmax = 345 nm (ε345nm = 2600 M-1cm-1)となった。水素(または一電子)引き抜き反応によるエダラボンラジカルの生成と考えられる。一方、·OHとの反応では、吸収ピークはλmax = 320 nm (ε320nm = 4900 M-1cm-1)となり、特異的なスペクトルを示した。·OHと他の酸化性ラジカルとでは異なる反応中間体を生成しているということが示唆される。これは、酸素脱気下において·OHが二重結合への付加反応を起こしているものと考えられる。反応速度定数は、·OH、N3·、Br2·-、SO4·-、CCl3O2·-それぞれについて8.5×109、5.4×109、6×108、5.1×108 M-1s-1と得られた。
  • 前山 拓哉, 山下 真一, BALDACCHINO Gerard, 勝村 庸介, 室屋 裕佐, 田口 光正, 木村 敦, 村上 健
    セッションID: W8R-383
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放射線の間接効果の主な担い手が OH ラジカル (•OH) であることや重粒子線が高い生物学的効果を有することから、重粒子線照射時に中性条件下で •OH 収量を測定することは有意義と言え、本研究ではこれに感度の高いケイ光法を適用することを目的とした。
    Coumarin は •OH を捕捉し、そのうち 5 % 程度がケイ光物質 7-hydroxy-coumarin になり、数 10 nM の高感度で測定できることが 60Co γ 線を用いて報告されている。しかし、溶解度の低さから捕捉時間スケールがトラック内反応よりも遅い。そこで本研究では溶解度の高い類似化合物 Coumarin-3-carboxylic acid (CCA) を用いた。水分解ラジカルとの反応性や反応機構は Coumarin に比べてあまり知られていないため、事前に電子線パルスを用いた過渡吸収スペクトル測定や 60Co γ線照射時の最終生成物の分析を行った結果、CCA は •OH とだけでなく水和電子とも反応性が高く拡散律速であること、7OH-CCA 生成には溶存酸素の有無によって 2 つの異なる経路があること、•OH の時間挙動推定には開放系が妥当であること、などが分かった。
    次いで、放医研 HIMAC において GeV 級のエネルギーを有する重粒子線 (12C6+28Si14+40Ar18+56Fe26+) をこの条件で照射し、逆相クロマトグラフィにより最終生成物を分離し、365 nm で励起、445 nm でケイ光検出し、7OH-CCA を定量した。LET 増加および時間の進行に伴い 7OH-CCA 収量が減少し、このことからトラック内反応の増加および進行が確認できた。•OH を捕捉した CCA のうち 5 % が 7OH-CCA となると仮定して •OH 収量も評価した結果、文献値とよい一致を示し、重粒子線照射時の •OH 収量の指標に適用できる目処が立った。今後は反応機構のさらに詳細について把握する必要がある。
  • 山下 真一, 勝村 庸介, 林 銘章, 室屋 裕佐, 前山 拓哉, 村上 健
    セッションID: W8R-384
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    水は生体の主成分であるため、放射線が生物に与える影響を検討する上でその放射線分解収量は基礎となる。しかし、近年ガン治療に用いられている重粒子線のような GeV 級高エネルギー重粒子線に対して、このような知見は十分でない。さらに、生体に近い実用上重要な中性の条件での報告となるとほとんどない。
    そこで本研究では放医研 HIMAC からのガン治療用 GeV 級重粒子線を用い、水の放射線分解収量を主要な三つの生成物 (e-aq、•OH、H2O2) について測定した。重粒子線には核子あたりのエネルギーが数 100 MeV/u の 4He2+ から 56Fe26+ までの 6 種を用いた。HIMAC では GeV 級重粒子線のパルス照射が困難なため定常照射を行った。この際、反応性が高く短時間で消滅してしまう水分解生成物の収量および時間挙動を評価するために捕捉剤を用いた。さらに、PMMA 製エネルギー吸収材を用いることで重粒子線エネルギーを下げ、LET を増加させ、よりブラッグピークに近い重粒子線の条件も照射に用いた。照射セルには通常 1 cm 幅のものを用いたが、エネルギーを下げた場合には LET 変化がなるべく小さくなるように 2 mm 幅のセルを照射に用いた。これにより、試料内での LET 変化は小さく一定と見なせ、2-700 keV/μm と幅広い範囲で LET を変化させ微分 g 値を測定した。
    以上の測定から LET 増加に伴うラジカル収量の減少と分子収量の増加が見られ、LET 増加に伴うトラック構造の高密度化ならびにこれに付随したトラック内反応の増加が確認できた。さらに、同程度の LET で異なるイオン種の照射を比べると、軽いイオンの方が低いラジカル収量、高い分子収量になった。このことから軽いイオンの方が飛跡の近傍のより狭い領域により密なトラックを形成し、トラック内反応が起こり易くなっていることが示唆された。
    さらに、これらの測定結果を拡散モデルシミュレーションで再現することに挑戦したり、モンテカルロシミュレーションを用いた報告値と比較したりしており、時間的にも空間的にも微視的な観点からトラック構造を検討することで重粒子線照射の特徴解明を試みている。
  • 付 海英, 室屋 裕佐, 勝村 庸介, 林 銘章
    セッションID: W8R-385
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    水溶液中のdGMP (deoxyguanosine monophosphate)のOHラジカル付加物に対するシリビンとシリビン誘導体の修復のメカニズムを解明するためのパルスラジオリシス実験を実施した。0.01mMのシリビン、2mM dGMPを含む中性水溶液をN2Oで飽和して用いた実験の結果、dGMPのOHラジカル付加物の吸収スペクトルの減衰と平行してシリビン類のフェノキシラジカルの生成を観測した。これは、dGMPのOHラジカル付加物のシリビンによる修復作用を示しており、その反応速度定数を1×109M-1s-1と決定出来た。また、4種のシリビン誘導体の修復反応の速度定数も測定し、その中ではシリビンが最も高修復効率を持つことを示した。これらはフェノキシ系抗酸化剤の一般的な非酵素の迅速修復機構を示している。
マイクロビームを用いた研究の多様性と将来への展開
  • 冨田 雅典, 小林 克己
    セッションID: W9-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    細胞1個1個を狙い撃ちできるマイクロビーム照射装置は、バイスタンダー応答をはじめとする放射線応答を解明する上で有効なツールである。その一方で、バイスタンダー応答研究以外については取り上げられる事が少なく、各施設では装置の開発・改良とともに、ビームの特徴を生かした新しい研究のアイデアやユーザーの獲得に向けて、さまざまな応用の可能性を模索している。本ワークショップでは、マイクロビーム研究の多様性と将来性を検討する。
     電力中央研究所では、バイスタンダー応答を含めた低線量・低線量率放射線に対する応答機構解明のため、マイクロビームX線照射システムを導入した。α線等の粒子線マイクロビームを用いた研究については、すでに数多く報告されているが、X線については、LETが高い粒子線とは細胞応答が異なることが推測できるものの、十分明らかにされていない。
     本装置の特徴は、(1)デスクトップ型(2)フレネルゾーンプレート(FZP)を用いた集光系(3)共焦点レーザー顕微鏡を装備した点である。本システムは加速器を用いないため、通常の実験室に設置可能である。X線は、電子銃(オメガトロン社製)を用いて電子線をアルミニウムターゲットに照射して発生させる。X線ミラーで反射させた特性X線(1.49 keV)をFZPにより回折させ、マイクロビームを形成する。シンチレーターを用いた測定では、直径2-3 μmのビームが安定して得られた。顕微鏡には、オリンパス社の共焦点レーザー顕微鏡FV300を装備し、照射の瞬間からの鮮明な蛍光画像が取得できる。本装置の物理測定結果などを踏まえ、研究の展望を紹介する。
  • 前田 宗利, 冨田 雅典, 宇佐美 徳子, 小林 克己
    セッションID: W9-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    [概要] 我々は、放射光単色X線(5.35 keV)マイクロビーム細胞照射装置を用い、低線量放射線の生物影響研究を行っている。本装置の光源である放射光は指向性に優れており、スリットを用いて容易に5ミクロン角以上の任意のサイズのビームを得ることができる。この特徴を利用して、細胞あるいは細胞核の一部などの任意の標的を照射し、それらを個別に追跡して照射効果を検出することができる。我々は、低線量域における細胞死のメカニズムと照射領域の関係を明らかにするために細胞核あるいは細胞全体をX線マイクロビームで照射し、照射された細胞の生存率と周辺の非照射細胞(バイスタンダー細胞)の生存率を測定した。
    [方法] 専用のディッシュに2000個のV79細胞を播種し、一定領域(6ミリ角)内の全て、バイスタンダー実験の場合は5個、の単独細胞の細胞核あるいは細胞全体をそれぞれ10ミクロン角、50ミクロン角のX線で照射した。照射後60時間培養し、個々の細胞のコロニーあたりの細胞数から細胞の生死を判定し、細胞核平均吸収線量を用いて線量-生存率曲線を作成した。
    [結果] 細胞核を照射した場合、細胞全体を照射した場合と比べ、低線量高感受性が明らかに増強されることをすでに昨年の本大会で報告した。バイスタンダー細胞死は、細胞全体を照射した場合には線量の増加と共に単調に減少し、その後線量と無関係に安定したが、細胞核を照射した場合には低線量域で一過的に増大し、その後線量の増加と共に回復し安定することが新たに明らかとなった。照射細胞の細胞死、バイスタンダー細胞死共に、細胞質へのエネルギー付与がない場合に、低線量域での致死の増大が起きることから、両者の誘導には共通のメカニズムが関与していると考えられる。細胞質へのエネルギー付与によって誘導される細胞内の反応が、低線量域において細胞の生存に重要な働きをすることが示唆された。
  • 小林 克己, 宇佐美 徳子, 前田 宗利, 前澤 博, 林 徹, 檜枝 光太郎, 高倉 かほる, 古澤 佳也
    セッションID: W9-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射光は任意のエネルギーの単色X線を実用的な強度で取り出す事が出来るので、ランダムに起きる放射線生物作用の初期過程の解明に非常に有効である。単色X線のエネルギーを生体構成元素の内殻吸収端に合わせる事によって、その元素に選択的に内殻吸収が起き、それに続いて起きるオージェ効果によってその元素周辺に高密度にエネルギーが付与される。これによって複雑で生物にとって重篤な損傷が生成されるので放射線治療の観点からも興味深い。このような照射を元素選択的照射と呼ぶことが出来る。一方で、我々は最近、放射光を用いて最小サイズ5ミクロンのX線マイクロビーム照射装置を開発してバイスタンダー効果等の研究を開始した。この装置では細胞の生理的条件保持を優先させてX線をシリコン結晶の回折を用いて垂直方向にはね上げているためにX線エネルギーは5.35keVに限定されている。この手法は位置選択的照射と呼ぶ事が出来る。この二つの照射法を組み合わせて、エネルギー付与過程とそれによる生物影響の関係をより詳細に解明するために、我々はX線エネルギー可変のマイクロビーム照射装置を開発した。水平に出射してくる単色放射光X線をそのまま利用するために、試料ステージ(および照射サンプル)を含むすべてのコンポーネントは水平な光軸に沿って並べられた。細胞試料はガラス底をもつディッシュに付着させ、照射直前に培地を取り除き、乾燥除けのカバーをかけた状態で垂直に保持されて照射される。予備実験ではこのような方法で細胞の健全性が保たれる事がわかったので、いくつかのプロジェクトが開始されており、近いうちにこの装置を用いた第一報が発表される予定である。
  • 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 及川 将一, 佐藤 隆博, 横田 裕一郎, 和田 成一, 神谷 富裕, 横田 渉, 小林 泰彦
    セッションID: W9-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    高LETの重イオンは、γ線などの低LET放射線と比較して大きな生物効果を示す。この重イオンの生物影響を明らかにすることは、重イオンのがん治療応用や、宇宙放射線の人体影響評価をおこなううえで極めて重要である。そこで、私たちは原子力機構・高崎量子応用研究所・TIARAのAVFサイクロトロンの垂直ビームラインにコリメーション方式のマイクロビーム装置を設置し、バイスタンダー効果研究などで一定の成果を挙げてきた。しかし、コリメーションによるマイクロビーム形成では、コリメーター周辺部での散乱イオンの割合がコリメーター径の微細化につれ増加すると同時に、コリメーターそのものの物理的加工の限界から形成できるビームサイズに限界がある。現在、マイクロビーム利用研究では、細胞や細胞膜そのものに加え、ミトコンドリアなどの細胞内小器官への放射線障害が細胞死に与える影響にも関心が高まっており、より径の小さいビームを形成することが求められている。そこで、私たちは磁気レンズによる収束式ビームを利用するマイクロビーム装置を従来のコリメーション式ビームとは異なる垂直ビームラインに新規に設置した。収束式ビームはサブミクロンのビームが形成可能でかつコリメーションによる散乱がない。加えて、ビームスキャナによるビームの高速なスキャンをおこなうことで、細胞への高速連続照射が実現可能になる。この収束式マイクロビーム装置をもちいて、私たちは直径1 μm以下の20Ne13+ (13.0 MeV/u, LET = 380 keV/μm)ビームを真空中で形成することに成功した。形成したビームを大気中に取り出し、CR39によるビームの分布を測定したところ、大気中でも、従来のマイクロビーム装置よりも微細な5 μm径以下のビームを得られることがわかった。講演では、現在構築中の細胞照射用ステーションの現状もあわせて報告する。
  • 坂下 哲哉, 鈴木 芳代, 浜田 信行, 池田 大祐, 深本 花菜, 横田 裕一郎, 舟山 知夫, 簗瀬 澄乃, 東谷 篤志, 石井 直明, ...
    セッションID: W9-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    培養細胞を用いたマイクロビーム照射研究は、バイスタンダー効果などの放射線生物学研究の進展に大きく貢献してきた1)。マイクロビームの利点は放射線を局所的に照射できることであり、細胞の場合には、核、細胞質、膜などが放射線影響の比較対象であった。一方、私たちは多細胞モデル生物として知られる線虫を対象として、個体の重イオンマイクロビーム照射研究を進めている。私たちが用いている炭素イオンマイクロビームの水中飛程は約1.2 mmであることから、体長約1 mm・幅数十μmの線虫のすべての細胞と組織が照射対象になる。ただし、照射試料を載せる倒立顕微鏡の照明系と垂直ビームライン末端部との干渉による局所照射部位の観察能力の制限と、マイクロビーム形成に用いるマイクロアパーチャーの最小径の限界から、現在は直径数十μm程度の領域への照準照射を行っている段階である。本装置を用いて、杉本らは、線虫の生殖細胞へのマイクロビーム照射を行い、照射域での細胞周期の停止・アポトーシスの誘発を報告した2)。私たちは、さらに線虫の神経系をターゲットとし、学習行動(food-NaCl連合学習3))に与える放射線局部照射の影響を明らかにすることを目的とした研究を進めている。しかし、60Coγ線の線虫個体全体への照射がfood-NaCl連合学習に与える影響を調べたところ、学習中に照射した場合のみ放射線影響が観察された。そのため、杉本らが用いた線虫の神経麻酔による固定の代替法が必要である。現在、「線虫が動いている状態で重イオンマイクロビームを照射する方法」の開発に取り組んでいる。
    References: 1) Shao et al., FASEB J 17, 1422-7 (2003), 2) Sugimoto et al., Int J Radiat Biol 82, 31-8 (2006), 3) Saeki et al., J Exp Biol 204, 1757-64 (2001).
  • 中嶋 敏, 蘭 利, 菅野 新一郎, 安井 明
    セッションID: W9-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    DNA損傷の中でもDNAの単鎖切断は最も発生頻度の高い損傷で、この損傷が重なった場合やそのまま複製に至ると二重鎖切断をもたらし細胞死やゲノム不安定性の原因となる。我々はレーザーマイクロ照射による蛋白質の動態解析とプロテオミクスやデータベース解析、あるいはヒト核蛋白質の集積スクリーニングを組み合わせ、DNA損傷に応答する新規蛋白質の同定と機能解析から、DNA単鎖切断や二重鎖切断がヒト細胞中でどのように修復されるかを解析している。この報告では、最近我々が発見した新規蛋白質とそれらの機能を紹介する。PALF蛋白質はFHAドメインとCYRドメインと名付けた新規のZinc-finger likeドメインを持ち、このCYRドメインがAPエンドヌクレアーゼと3’-5’エキソヌクレアーゼの活性を持ち、単鎖切断部位に直ちに集積し、ポリADPリボースポリメラーゼ1(PARP1)を活性化し、修復を進行させる。PALFはまた、二重鎖切断のNHEJに関わるKU86やLigase4およびリン酸化されたXRCC4に結合し、二重鎖切断の末端を平滑化する能力を持つ。このような解析とは別に、レーザーマイクロ照射を用いて損傷集積蛋白質のスクリーニングする事により、全く新規の損傷応答蛋白質を検索することが出来る。そのようにして得られた新規二重鎖切断応答蛋白質についても報告する。

    参考文献
    (1) Kanno, S, Kuzuoka, H, Sasao, S, Hong, Z, Lan, L, Nakajima, S, and Yasui A. A novel human AP endonuclease with conserved zinc-finger-like motifs involved in DNA strand break responses, EMBO J. 26, 2094-2103, 2007
    (2) Nakajima, S, Lan, L, Kanno, S, Usami, N, Kobayashi, K, Mori, M, Shiomi, T, and Yasui, A. Replication-dependent and -independent responses of RAD18 to DNA damage in human cells. J. Biol. Chem. 281, 34687-34695, 2006
一般演題
DNA損傷と染色体異常
  • 横谷 明徳, 漆原 あゆみ, 藤井 健太郎, 鹿園 直哉
    セッションID: AO-001
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    我々は、高密度電離放射線の照射により誘発される複雑なDNA損傷(クラスター損傷)の構造の解明を目指している。今日まで主要なDNA損傷として、1本鎖切断(SSB)、2本鎖(DSB)切断及び塩基除去修復酵素を用いて鎖切断に変換することで可視化され得る酸化的塩基損傷などが、closed circular構造を持つプラスミドDNAをモデル分子として用いることで定量されてきた。しかしこれらの方法では、以下のような損傷検出の限界がある。すなわち、DSBを誘発するほど近接していないが両鎖にSSB(塩基除去修復酵素の作用で生じた付加的なSSBを含む)が生じた(>6 bp)場合でも、通常の1本鎖切断の結果生じるopen circular構造になるため、過去のシミュレーション研究で予測されている多重SSBは検出できない。この問題を克服するため、DNAの変性を利用する新しいアッセイ方法を開発した。照射したプラスミドDNAを、制限酵素(Hind III)で処理することで直鎖状にした後にホルムアミド(50% v/v)を加え、熱脆弱部位の切断が生じないよう37℃、5分間という穏やかな変性条件で処理することで1本鎖DNA(SS-DNA)にした。この後アガロース電気泳動法により放射線照射で切断されずに残存した無傷のSS-DNAの量を定量した。間接効果が支配的で1ヒット理論が十分適応できる希薄溶液試料に対してX線照射した場合には、予想通りDNAの方鎖だけが切断され相補鎖は無傷であることが、残存S S-DNAの線量効果曲線から結論された。講演では、これらの結果を高LETイオンビーム照射の結果と比較し、新しい方法がクラスターDNA損傷の直接観察に有効であるかどうかを議論する。
  • 寺東 宏明, 平山 亮一, 古澤 佳也, 井出 博
    セッションID: AO-002
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    電離放射線によるDNA傷害の特徴は、そのトラック構造に依拠した個々の損傷の局在化(クラスターDNA損傷)であり、孤立損傷に比したその修復の困難さと高い複製阻害能が、放射線の生物効果に大きく作用すると考えられる。しかし、私たちのこれまでの検討により、試験管内におけるクラスターDNA損傷の収率はLET増加と相反する結果が得られている(第49回大会WS2-1)。このことは、RBEとクラスターDNA損傷が単純な数的関係では結びつけられないことを示唆している。
    そこで、細胞内においても同様な傾向が認められるかどうかを、重粒子線をはじめとした異なるLETをもつ放射線で照射した培養細胞内に生じるクラスターDNA損傷の収率と生存率を比較定量することにより検討した。対数増殖期にあるChinese hamster ovary細胞AA8株に対し、ガンマ線(gamma:0.2 keV/μm)、炭素イオン線(C:13 keV/μm)、硅素イオン線(Si:55 keV/μm)、鉄イオン線(Fe:200 keV/μm)を照射した。ガンマ線照射は広島大学工学部コバルト60照射装置にて、その他重粒子線照射は放医研HIMACにて行った。照射細胞の生存率は室温照射した細胞を再播種し、コロニーフォーメーション法により求めた。照射細胞におけるクラスターDNA損傷生成収率は、低温(4℃)でDNA修復能を抑制した状態で照射し、アガロースゲルプラグに包埋、酵素処理により細胞を溶解させた後、スタティックフィールドゲル電気泳動法によりプラグからの溶出画分を算出することにより求めた。その結果、生存率はLETの増加とともに低下したが、照射細胞内におけるクラスターDNA損傷生成収率とLETとの間には逆相関の関係があることが分かった(gamma > C > Si > Fe)。以上の結果は、先の報告と合わせ、重粒子線をはじめとした高LET放射線が示す高いRBEの表出に、クラスターDNA損傷の細胞内プロセスによる悪性度増加ならびにクラスターDNA損傷の微細構造の差異など、その数的ファクター以外の要因が重要であることを示唆している。
  • LI Ping, ZHOU Libin, JIN Xiaodong, HE Jing, LI Qiang
    セッションID: AO-003
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Lewis lung carcinoma cells were exposed to 89.63MeV/u carbon ion and 6MV X-ray irradiations respectively, and cell reproductive death and DNA damage were examined. Lewis lung carcinoma cells were shown to be more sensitive to the carbon ion beam from the measured survival data using clonogenic assay. The relative biological effectiveness (RBE) value of the carbon ion beam at 10% survival level was up to 1.77, indicating that the damage induced by the carbon ion irradiation was more remarkable than that induced by the low linear energy transfer (LET) X-rays. The dose response curves of "Tail DNA (%)" (TD) and "Olive tail moment" (OTM) detected with comet assay for the carbon ion irradiation showed a saturated effect beyond about 8 Gy, while it was not found in the case of the X-ray irradiation. There was an inverse correlation that the high-LET carbon ion beam produced a lower survival fraction at 2 Gy (SF2) value and a higher initial Olive tail moment at 2 Gy (OTM2) than those for the X-ray irradiation. In conclusion, carbon ion beams having high LET values produced more severe cell reproductive death and DNA damage in Lewis lung carcinoma cell in comparison with X-rays and comet assay could be a predictive assay solely applied or combining with clonogenic assay to assess the radiosensitivity of cancerous cells prior to clinical therapy.
  • 増田 雄司, 鈴木 美紀, 朴 金蓮, 顧 永清, 釣本 敏樹, 神谷 研二
    セッションID: AO-004
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
     放射線によって引き起こされる重要な生物影響の一つは突然変異の誘発であり、その分子メカニズムの解明は放射線影響研究の重要課題である。放射線は多種多様なDNA損傷を引き起こすが、DNA損傷自体は変異ではなく、突然変異はDNA複製(おそらくは損傷塩基を鋳型とした複製)の課程で起こる生化学的反応の帰結である。DNA複製を忠実に行う複製型のDNAポリメラーゼ(Polδ またはPolε)は損傷塩基により阻害されるが、損傷塩基を乗り越えてDNA合成を再開、継続する分子機構の一つが損傷乗り越えDNA合成経路である。損傷乗り越えDNA合成経路では、複製型のDNAポリメラーゼが、損傷乗り越え型のDNAポリメラーゼと交換することでDNA合成を回復するが、この過程が塩基置換を高頻度で引き起こすと考えられる。我々は、DNAポリメラーゼの交換反応の分子機構を明らかにするため、polδ, RFC, PCNA, RPAによるDNA合成反応の詳細な解析を行った。その結果、polδはプライマー末端での結合と解離を繰り返しながら、DNA伸長反応を進行し、RFCはこの複製の間、プライマー末端付近から解離することなく複製装置と共に移動した。polδの解離に伴いPCNAはこのRFCにより保持され、次のpolδが溶液中から取り込まれる際に再利用されることが示唆された。これらの結果から、ポリメラーゼ交換反応の分子機構について考察する。
  • 堀 美香, 石黒 智恵子, 鈴木 哲矢, 中川 紀子, 布柴 達男, 倉光 成紀, 山本 和生, 葛西 宏, 原島 秀吉, 紙谷 浩之
    セッションID: AO-005
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 放射線によって生成した活性酸素によりDNA 前駆体 (デオキシリボヌクレオチド) に化学的修飾が生じ、損傷 DNA 前駆体が生じる。損傷 DNA 前駆体は DNA 中に取り込まれた後、DNA 修復酵素により除去される可能性が考えられる。本研究では、DNA 修復酵素の一つであるヌクレオチド除去修復酵素 UvrABC が、in vivo において酸化損傷ヌクレオチドにより誘発される変異の抑制に関与しているのか検討した。
    [方法] uvrAuvrBuvrC 欠損大腸菌に酸化損傷ヌクレオチド 8-hydroxy-dGTP、2-hydroxy-dATP を直接添加して取り込ませ、抗生物質リファンピシン耐性獲得を指標として、rpoB 変異体率を算出した。また、mutT/uvrAmutT/uvrB 二重欠損大腸菌に過酸化水素による酸化ストレスを負荷し、同様の方法で変異体率を算出した。次に、UvrABC 蛋白質が酸化損傷ヌクレオチドの取り込まれた損傷鎖ではなく、その相補鎖を切断して変異を固定しているという仮説をたて、精製 Thermus thermophilus HB8 UvrABC 蛋白質を用いて8-hydroxyguanine や 2-hydroxyadenine を含む DNA の切断活性を評価した。
    [結果] uvrAuvrB 欠損大腸菌においては、酸化損傷ヌクレオチド導入により、野生型と異なり変異体率の上昇がほとんど観察されなかった。一方、uvrC 欠損大腸菌においては大きな効果が見られなかった。また、mutT 欠損大腸菌においては過酸化水素処理により変異体率は上昇したが、二重欠損大腸菌においてその上昇は 1/3 ~ 1/4 に低下した。また、UvrABC 蛋白質を用いて8-hydroxyguanine や 2-hydroxyadenine を含む DNA の切断活性を評価したが、切断活性は観察されなかった。
    [結語] 本研究により、UvrA と UvrB 蛋白質は UvrC 蛋白質に依存しない未知のメカニズムにより、酸化損傷ヌクレオチドによる変異の誘発に関与している可能性が示唆された。
  • 安井 学, 小山 直己, 高島 良生, 小泉 朋子, 桜庭 真弓, 坂本 浩子, 杉本 憲治, 林 真, 本間 正充
    セッションID: AO-006
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
     小核の起源は,細胞分裂の後期において,染色体分離で遅れた染色体断片(あるいは染色体自身)によるものと推測されている。しかしながら,その発生の瞬間とその後の追跡を観察した者はいない。近年,蛍光物質で標識したタンパク質を生きたままの細胞で観察できる蛍光顕微鏡が開発され,細胞中の生体組織の動態をリアルタイムで観察できるようになった。本研究では,γ線照射による小核の形成メカニズムを明らかにするために,まず,ヒストンH3をmCherry(赤色),チューブリンαをEGFP(緑色)の蛍光物質で標識させた2色可視化細胞(ヒトリンパ球細胞TK6)を作製し,次に,その細胞をγ線照射した後,前中期の細胞をターゲットとして,染色体(mCherryの赤)と微小管(EGFPの緑)の3次元画像を経時的に撮影した。その結果,細胞分裂の後期において,γ線による小核形成の瞬間をリアルタイムで観察することができた。その小核の出現頻度は,固定標本で行う小核試験の出現頻度とおおよそ一致した。また,小核試験の陽性対象として用いられるマイトマイシンC,および微小管重合阻害剤であるビンクリスチンに関しても,同様の実験を行なったところ,γ線による小核の出現様式とは異なる特徴が観察できた。我々は,これら作用機序の異なる3種の各エージェント(γ線,マイトマイシンC,ビンクリスチン)による小核出現の一部始終を動画で紹介する。
  • 劉 翠華, 川田 哲也, 斎藤 正好, 井上 幸平, 古澤 佳也, 伊東 久夫
    セッションID: AO-007
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々はX 線、重粒子線Si-490MeV/u、Fe-200MeV/uとFe-500MeV/u を照射したヒト正常線維芽細胞のquiescent G0期およびproliferating G1期細胞の染色体修復kineticsを比較検討した。また照射後12時間修復したG0 期とG1期細胞染色体修復の差異FISH法を用いて検討した。 【材料と方法】ヒト正常線維芽細胞であるAG1522 を用い、X線、Si、Feイオンをそれぞれ2 Gy 照射した。照射後37℃で修復させた細胞(G0 )と照射後直ちにsubcultureした細胞(G1)の染色体断片数を経時的に測定した。 染色体異常はFISH法にて解析をした。 【結果・考察】低LET 及び高LET 照射ではsubcultureの有無に関わらず細胞の染色体修復kineticsはほぼ同じであり、照射後12時間までに90%以上の修復が認められた。またFISH法における染色体異常において低LET照射直後にsubcultureして修復された細胞では、照射後subculture せずにG0のままで12時間修復した細胞と比較し、異常頻度の増加が認められた。しかし高LET照射(145keV/μm 、440keV/μm:Fe)では染色体異常頻度に差が見られなかった。すなわち、LET が高くなるとG0 期と G1期ともに誤修復は増加し、LET 145keV/umで検出頻度がピークに達した。以上の結果は低LETではNHEJ(Non-Homologous End Joining)を介するrepair はG0 期の方がG1 期より正確であることを示唆し、高LET ではG0 、G1いずれもNHEJは同様にerror proneであることを示唆された。
  • 細谷 紀子, 半谷 匠, 西村 智子, 宮川 清
    セッションID: AO-008
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    悪性腫瘍においては多種類の染色体異常が観察される。中でも異数体や倍数体などの数的異常は極めて高頻度に観察され、その分子機構を解明することは悪性腫瘍の本態を知る上で重要である。一方、シナプトネマ複合体は、減数分裂期に特異的に発現して相同染色体の対合や交叉・組換えに重要な役割を果たす、減数分裂時の染色体の挙動の正確な制御のための必要不可欠な構造である。その主要構成タンパク質の1つであるSCP1については、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病などにおいて異所性に発現していることが報告されており、腫瘍と精巣に選択的に発現する抗原(腫瘍/精巣抗原)である可能性が示唆されてきた。しかしながら、シナプトネマ構造構成蛋白質の体細胞における異所性発現が発癌に果たす役割は不明である。今回、我々は、別のシナプトネマ構造構成蛋白質の1つである SCP3に関して、腫瘍細胞での発現解析と体細胞での異所性発現による機能解析を行った。SCP3蛋白は様々な組織由来の腫瘍細胞株において発現していた。また、網膜色素上皮細胞に SCP3蛋白を強制発現させた細胞株を樹立したところ、SCP3安定発現株においては、野生株に比べ、細胞増殖速度の低下、一倍体、三倍体、四倍体などの染色体の数的異常の頻度の増加、ならびに、放射線に対する感受性の亢進を認めた。以上より、減数分裂期特異的なシナプトネマ構造構成蛋白質の体細胞における制御の異常が、染色体不安定性を来たし、発癌に関与する可能性が示唆された。
  • 桂 真理, 友田 義崇, 宮川 清
    セッションID: AO-009
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    複数の相同組換え修復関連蛋白変異体株において、相同組換えの頻度低下、放射線およびDNA阻害剤に対する高感受性、染色体異常などに加え、染色体数的異常が報告されている。染色体数的異常は、異数体形成と倍数体形成とに大別されるが、いずれも癌細胞における増加が報告されており、発癌およびその進展において重要な意味を持つことが想定される。我々は、ヒト大腸がん細胞株HCT116を用い、相同組換え修復に関与するRad51パラログの変異体を作成した。Rad51パラログはRad51B、 Rad51C、 Rad51D、 XRCC2、 XRCC3の5つのメンバーからなり、BCDX2およびCX3の2つの集合体を形成することが知られている。我々は、Rad51B+/-/-/-, Rad51C+/-/-/-およびXRCC3-/-ノックアウト細胞を作成し、その機能解析を行った。その結果、これらの3種類の変異体でみられる染色体数的異常には、変異株間における差が観察された。Rad51B+/-/-/-およびRad51C+/-/-/-では中心体断片化が見られ、異数体の増加が見られたのに対し、XRCC3-/-ではこれらは観察されず倍数体が増加していた。また、Rad51B+/-/-/-およびRad51C+/-/-/-では細胞周期チェックポイントの活性化による増殖速度の低下が見られたのに対して、XRCC3-/-ではその増殖速度は野生株と差がなかった。これらの結果に基づき、相同組換え修復関連蛋白変異体株における染色体数的異常のメカニズムについて議論する。
  • 渡辺 立子, 佐藤 理, 久保田 あさ子, 船曳 淳, 斎藤 公明
    セッションID: AP-201
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    高LET放射線である重粒子線による生物効果が、低LET放射線に比べて重篤であることの原因は、修復されにくいクラスターDNA損傷が形成されやすいためであると考えられている。しかし、クラスター損傷を実験的に測定しようとする試みには、さまざまな点で限界があり、現段階では直接測定は困難である。我々は、これまでに、主に低LET放射線によるDNA損傷の生成過程を、飛跡構造シミュレーションを出発点として直接作用と間接作用を段階を追ってモデル化しシミュレーションするシステムを確立してきた。今回、我々は、新たにプロトンからウランまでのいずれの核種の荷電粒子も扱える飛跡構造シミュレーションコードを構築した。これにより、重粒子線微視的なエネルギー付与分布についての詳細情報を得ることができるようになった。また、これまでに確立したDNA損傷生成過程のモデルを重粒子線に対して適用し、重粒子線によるDNA損傷をシミュレーション計算により推測することができるようになった。本研究の目的は、この新たに構築したシステムを用いて、重粒子線によるエネルギー付与の微細構造がDNA損傷の初期生成スペクトル(損傷数および損傷間の位置関係)にどのように反映され、また、飛跡内でどのようにDNA損傷が分布するかを推測し、LETおよびイオン核種による生物効果の違いとの関連性を探ることである。本発表では、構築した重粒子線シミュレーションコードの概要について述べるとともに、細胞環境、水溶液、および凝集状態のDNAサンプルを想定した条件下で、ヘリウム、炭素、ネオンの核種について計算したDNA損傷スペクトルのLET依存性を示す。さらに、これまでに報告されているDSB収率や細胞致死等のRBEとの関連性についても議論する。
  • 後藤 恵美, 浅田 眞弘, 隠岐 潤子, 本村 香織, 本田 絵美, 今村 亨
    セッションID: AP-202
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    繊維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーは細胞の増殖・分化を制御し、生存を維持することが報告されている。このため、米国ではガン患者に放射線化学療法の副作用として生じる口腔粘膜炎を治療する薬剤としてFGF7 (KGF) が既に認可されている。FGFファミリーの中で、FGF7は上皮細胞に作用特異性を有するのに対し、FGF1は最も広範な受容体特異性を有するため、上皮細胞を含む多種の細胞に作用すると期待される。本研究では、ヒト角化細胞HaCaTの紫外線(UV)誘導性アポトーシスに対する抑制効果をFGF7とFGF1で比較解析した。
    細胞にUV-Bを照射し(10 mJ/cm2)、24時間培養後に全細胞を回収し、アネキシンVで染色されるapoptotic細胞をフローサイトメーターで解析した。HaCaT細胞はUV照射によって約半数の細胞がアネキシンV陽性となった。UV照射の18時間前に各種FGF及びヘパリンで細胞を刺激すると、アネキシンV陽性細胞は減少し、その効果は用量依存的であった。FGF1によるアポトーシス抑制効果は、既に報告があるFGF7によるものより、より効果的であった。一方、アポトーシス関連遺伝子の発現変動をリアルタイムPCRで解析したところ、c-jun、IL-6遺伝子の発現が、HaCaT細胞をUV照射後24時間まで経時的に上昇することが認められた。これら遺伝子の発現上昇も細胞をUV照射の前に各種FGF及びヘパリンで処理することによって抑制された。いずれの解析系においても、実験した条件においてはFGF7よりもFGF1の方が効果的であった。以上の結果から、UV照射により誘導されるHaCaT細胞の障害は、FGFの前投与によって抑制できることが示された。現在、その活性に関与すると考えられるFGF受容体を介したシグナル伝達系の解析を進めている。
  • 櫻井 智徳, 宮越 順二
    セッションID: AP-203
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】現在、日本においては、臨床で使用されているMRI装置の定常磁場の磁束密度は1.5~3テスラであるが、米国ではすでに6テスラのMRI装置が臨床に応用されている。さらに、実験レベルでは、9テスラを超える装置が検討され始めている。このような、強定常磁場の普及に伴い、世界保健機関は環境保健基準(EHC)の作成を実施したが、強磁場の生体影響に関する研究は非常に少なく、検討の基礎になる論文が少ない問題も残っていた。一方、生活習慣の欧米化に伴い、日本における糖尿病罹患率は増加の一途を辿っている。本研究では、近年曝露機会が増えているにもかかわらず基本的なデータが不足している強定常磁場の生体影響に関して、罹患率の増加が著しい糖尿病の発症に密接に関連したインスリン分泌細胞への影響という観点から検討した。
    【方法】グルコース刺激応答性を維持しているインスリン分泌細胞株INS-1を、磁束密度3, 6または10テスラの強定常磁場曝露下で30分、1時間または2時間培養し、曝露直後のミトコンドリア活性、細胞内インスリン含量、培養中の培地へのインスリン分泌量を、磁束密度0.5マイクロテスラ以下(擬似曝露)の場合と比較して評価した。
    【結果】3, 6または10テスラいずれの磁束密度においても、最長2時間の強定常磁場曝露においては、ミトコンドリア活性、細胞内インスリン含量に変化が見られなかった。培養中の培地へのインスリン分泌量は、強定常磁場曝露によってわずかながらの減少が見られた。これらのことから、強定常磁場がインスリン分泌細胞に与える影響は小さいものと考えられる。
  • 川村 研二
    セッションID: AP-204
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】膀胱癌細胞に放射線を照射した場合、細胞死におちいった細胞は形態学的に、微小核形成、核の分葉状の形態を示し、あたかもアポトーシスが生じたかのように思われた。ところが、これらの細胞をTUNEL染色で検討した場合、TUNEL陽性細胞は、ほとんど認めなかった。これらの特徴的な形態をとる細胞死のメカニズムについて検討した。 【対象と方法】膀胱癌細胞株KK47、HT1197、HT1376に放射線を照射し、まずビデオ撮影で細胞の形態の変化を観察した。次に、サイトメトリーにより細胞周期について検討し、これらの細胞死が、細胞分裂死であることを確認した。細胞分裂死の生じる原因についてヒト線維芽細胞CCD32SKを用いてiRNA法で検討した。 【結果】膀胱がん細胞株は放射線照射24時間目以降にG2停止となった後、細胞分裂死が生じた。また、放射線照射後に生じる、染色体異常(リング、二動原体)が分裂時の染色体架橋形成を生じさせ、分裂障害を生じさせていた。CCD32SKでは放射線照射でG1/G2停止が生じ間期死となった。iRNA法を用いたp53のサイレンシングにより正常線維芽細胞にも細胞分裂死が生じることを見出した。p21のサイレンシングでは、ごく一部の細胞に細胞分裂死が生じた。 【結論】がん細胞にDNAダメージが生じたとき細胞分裂死が生じた。この細胞分裂死にはp53の機能が関与することが明らかとなった。
  • 江口 清美, 辻田 瑛那, 林 京子, 森 雅彦
    セッションID: AP-205
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    重粒子線などの高LET 放射線により生じたDNA損傷は、低LET放射線と比較して局所に限定し、かつ複雑な形状を持つために修復しにくいと言われているが、具体的なモデルはまだ確立されていない。われわれは、昨年に引き続き、ほ乳類培養細胞を用いて、DNA修復因子rad51とDNA障害を反映すると言われるリン酸化型H2AX(γ-H2AX)の重粒子線照射後の動態を調べた。【材料と方法】ヒト正常繊維芽細胞NB1RGBおよびGFP標識Rad51遺伝子を導入したチャイニーズハムスターCHO細胞にX線もしくは放医研HIMACにより加速したC線(30および88 keV/μm)、Siイオン線(250 keV/μm)、Arイオン線(95 keV/μm)、Feイオン線(440 keV/μm)を照射した。H2AXリン酸化は、アルコール固定後H2AXのリン酸化部位に対する抗体を用いて検出した。【結果と考察】フローサイトメーター(XL-II, Beckman Coulter)による解析では、X線照射直後からγ-H2AXが上昇し、30分付近で最大となった後減少し、2時間から10時間ではかなり少なくなっていた。SiおよびFeイオン線では、照射直後からかなりのγ-H2AXが生成した。30分後に比較するとSiとFeは同程度のシグナルを示し、X線よりも生成率が高かった。これに対し、顕微鏡下で観察したγ-H2AXフォーカス数ではすべての放射線で照射30分後に同程度の生成を示した。X線では照射直後にははっきりしたフォーカスは観察されないが、粒子線では照射直後からフォーカスを観察できた。一方rad51フォーカスは照射直後には観察されず、照射後約1時間後から観察でき、10時間程度後まで残存した。フォーカスが観察されない細胞が一定の割合で存在し、ほぼフォローサイトメーターで調べたG1細胞の割合と一致した。
  • 加藤 宝光, 藤井 義大, 藤森 亮, トンプソン ラウリー, ベッドフォード ジョエル, 岡安 隆一
    セッションID: AP-206
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    重粒子線の作る複雑な特別なDNA損傷とその修復機構について研究するため、様々なDNA修復酵素欠損CHO細胞に対して、X線、重粒子線(炭素線290MeV,LET13or 70keV/μm、鉄線500MeV, LET200keV/μm)を照射、あるいは薬剤(マイトマイシンC, シスプラチンなど)を投与した。 DNA修復酵素欠損細胞として、DNA二本鎖切断修復欠損細胞であり、NHEJ修復欠損であるV3 (DNA-PKcs), xrs5(Ku80)やHR修復の欠けた51.D1(rad51D)、またクロスリンク損傷に感受性であるファンコニ症候群の遺伝子を欠損したKO40などを使用した。 細胞は対数増殖期において放射線を照射、あるいは薬剤は一時間投与された。コロニー形成法を行い、生存曲線をもとめ、それぞれに対して、どのような感受性を持つのかを調べられた。 結果は、学会で報告される。
  • 勝部 孝則, 森 雅彦, 辻 秀雄, 塩見 忠博, 小野田 眞
    セッションID: AP-207
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    Reactive oxygen species (ROS) are generated within cells by ionizing radiation via primary ionizing events as well as through secondary amplification systems including metabolic synthesis. Mediating oxidation of cell components, ROS not only cause dysfunction of the target molecules but also perturb intra- and inter-cellular signal transduction pathways. Our ultimate aim is to elucidate the contribution of ROS in cellular events, especially DNA damages, elicited by ionizing radiation. In the current study, we compared cellular responses to hydrogen peroxide (H2O2) and X-rays in DNA repair-deficient cells. XRCC4-deficient mutant cells exhibited lower survival rates than XRCC4-proficient parental cells after exposure to either H2O2 or X-irradiation. The LD37 values of the XRCC4-/- and parental cells after a 1-hr treatment with H2O2 were 8.5 and 11.1 µM and those for X-irradiation were 0.5 and 1.7 Gy, respectively. XRCC4 is a component of the non-homologous end-joining, a predominant repair pathway for DNA double-strand breaks (DSBs). To date, no other functions of XRCC4 have not been reported yet. Thus, marked increases in death of the XRCC4-/- cells exposed to H2O2 or X-irradiation must be attributed to DSBs. Consistently, γH2AX staining revealed a dose-dependent formation of DSBs in the X-irradiated cells (~50 DSBs/cell/Gy). However, the formation of DSBs was not so significant just after a 1-hr exposure to 0-50 µM H2O2 in both the mutant and parental cells. DSBs might be formed at later stages in the H2O2-treated cells through some long-term cellular response.
  • 河井 一明, 李 云善, 葛西 宏
    セッションID: AP-208
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    酸化ストレスは、がんや心臓病を始めとする生活習慣病の発症を高める要因として注目されている。その中で、DNA中の8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OH-dG)が生体内酸化ストレスマーカーとして広く測定されてきた。しかし、その分析値は、再現性や正確さの点でしばしば問題となることがある。本研究で、DNA中の8-OH-dG分析サンプルを10℃に保存すると、時間とともに8-OH-dG値が増加することが明らかとなった。測定サンプルの保存温度が、測定値の再現性や正確さに大きく影響すると考えられる。DNA中8-OH-dGの測定サンプルは、測定直前まで−80℃に保存することが推奨される。一方で、最近、当研究室では、陰イオン交換カラムと逆相カラムを組み合わせたHPLC-ECD全自動分析システムの開発により、尿中8-OH-dGの正確な分析が可能となった。この方法は、尿中あるいは血清中の遊離塩基8-ヒドロキシグアニン(8-OH-Gua)の分析にも応用できる。これらの分析法を用いて、X線を2 Gy 全身照射したマウスの生体内酸化ストレスの測定を試みた。照射後24時間採取した尿中の8-OH-dGレベルを分析した結果、非照射コントロール群に比べてX線2 Gy照射群では4.2倍高い値となった。さらに、血清中8-OH-Guaレベルも2 GyのX線照射で増加が見られた。これまで、比較的高線量(数十Gy)の照射での報告が多かった放射線照射による生体内酸化ストレスが、2Gy 程度の照射線量で観察できるようになった。今回示す分析法は、生体内酸化ストレスの測定法としてさらなる応用が期待される。
  • 古川 章
    セッションID: AP-209
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    われわれは、低線量放射線の影響研究への利用と被ばく事故時の緊急対応への応用を目指して、放射線により生じる二動原体染色体を、大量のスライドグラス標本を走査して自動的に検出する全自動光学顕微鏡と画像認識コンピュータからなるシステムを試作してきた。 そのうち、メタフェーズファインダは自動顕微鏡と画像処理装置を組み合わせて血液中の白血球のうち分裂中のものを自動的に検出する装置であり、染色体を顕微鏡で観察し、異常な二動原体染色体の出現率を求める被曝線量測定法の前段階として用いられる。
    われわれが開発したメタフェーズファインダはすでに国内7箇所(今年1箇所増)と海外1箇所において使用されているが、今年もさらなる改良を同時に進めている。
    今年は、画像処理に用いるカメラを、従来は自動焦点用カメラと共用していたものを、専用の高解像度カメラに置き換えて使う同装置を製作したので報告する。解像度を落とさずに低倍率のレンズを使うことができ、1枚の画像により広い面積を撮像できるため、その結果、全体の処理がより高速にできるようになった。
     また、多数の判定者が一致した判定結果を出せるように、正常・異常な染色体をデータベース化して表示する「トレーニングソフト」を国内の研究所に配布する。
  • 横山 和也, 中濱 泰祐, 松尾 陽一郎, 清水 喜久雄, 日高 雄二
    セッションID: AP-210
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    本研究では、ガンマ線を照射した量子線照射産物がDNA合成に与える影響について検討を試みた。実験方法としては、牛血清アルブミンへガンマ線を5 kGy照射し、生じた量子線照射産物が存在する条件でDNA合成を行った。その反応によって生成される変異について、LacZ 領域のgap-filling反応の後、カラーセレクション法を用いて変異率を測定し、シークエンス解析を用いて変異様式を調べた。
    コントロールでの突然変異率は7.35×10-5で、量子線照射産物が存在する条件で合成反応を行った場合、突然変異率は8.40×10-4であった。DNA合成時に量子線照射産物が存在する場合、変異率が11.4倍増加したことがわかった。量子線照射産物を加えた場合に得られた27の変異プラークからDNAを抽出してシークエンス解析を行った結果、30の変異が得られた。主にLacZ 領域の91番目のCがTに変化するという置換変異が起こっていた。突然変異は連続した塩基配列の後に生じる傾向が見られ、量子線照射産物が引き起こす突然変異には規則性があることが示唆された。この効果は量子線照射産物中に存在する長寿命ラジカルによるものと考えられる。
  • 縄田 寿克, 白石 一乗, 松本 真里, 押村 光雄, 児玉 靖司
    セッションID: AP-211
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【緒言】
     放射線が被曝した生存細胞の子孫に遅延性染色体異常を誘発することはよく知られている。そこで本研究は、被ばくした1本のヒト染色体を被ばくしていないマウス受容細胞に移入する手法を用いて、被ばく染色体が遅延性染色体異常誘発にどのような役割を果たすのかを明らかにすることを目的として行った。
    【材料と方法】
     遅延性染色体異常誘発に被ばく染色体が果たす役割を知るために、軟X線により4Gyを照射したヒト6番、及び8番染色体を被ばくしていないマウス不死化細胞に微小核融合法を用いて移入した。その後、微小核融合細胞における移入ヒト染色体の安定性を、ヒト染色体に特異的な蛍光DNAプローブを用いた蛍光着色法により解析した。
    【結果と考察】
     被ばくしていないヒト6番、及び8番染色体を移入した微小核融合細胞では、染色体移入後のヒト染色体の構造異常は全く見られなかった。このことは染色体移入過程で染色体構造が不安定化することはないことを示している。しかし、被ばくしていないヒト8番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、3種で8番染色体のコピー数が倍加していた。同様の変化は被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞のうち3種でも見られた。この結果は、ヒト8番染色体は数的変化を起こしやすいこと、さらに、放射線被ばくはこの変化に関与しないことを示唆している。一方、被ばくヒト6番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、4種において移入後に2~7種類の染色体異常が生じていた。これに対して、被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞では、移入後に2種類以上の染色体異常が生じていたのは1種のみであった。以上の結果は、被ばくヒト染色体が遅延性染色体異常誘発の引き金を担っていること、さらに、放射線による遅延性染色体異常誘発効果はヒト6番染色体と8番染色体では異なることを示唆している。
  • 鶴岡 千鶴, 鈴木 雅雄, 古澤 佳也, 岡安 隆一, 安西 和紀
    セッションID: AP-212
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】高LET放射線の生物効果に関して、同様のLET値のイオンビームであっても照射される核種が異なると、LET-RBE曲線の形が異なるという報告がされている。昨年までの本学会において、炭素、ネオン、シリコン、鉄イオンの4種類の加速核種において細胞致死及び突然変異誘発のLET-RBE曲線は加速核種が異なることにより異なることを報告した。さらに、hprt遺伝子座の欠失のパターンが加速核種により異なることも報告した。本年は、これまでと同様の加速核種及び細胞を用い、クロマチン誘発効果におけるLET・加速核種依存性を明らかにすることを目的とした。
    【方法】細胞はヒト胎児皮膚由来正常細胞を用いた。加速核種は放医研HIMACで実験可能な炭素、ネオン、シリコン、鉄イオンを用いて、それぞれの核種において4から6種のLETについて調べた。クロマチン損傷は早期染色体凝縮法(PCC法)を用い、照射直後と、照射後24時間後の修復されずに残ったクロマチン切断について調べた。
    【結果】照射直後に観察されたクロマチン切断誘発頻度のLET-RBE曲線はLET及び加速核種に関係なくほぼフラットな曲線を示した。一方、照射24時間後に修復されずに残ったクロマチン切断誘発頻度のLET-RBE曲線は、炭素、ネオン、シリコンイオンではそれぞれ85 keV/micrometer、105 keV/micrometer、113 keV/micrometer付近でピークを示す曲線を示したのに対し、鉄イオンでは200~400 keV/micrometerの範囲でLETの上昇と共にRBEも上昇した。これらの結果から、異なる加速核種の生物効果におけるLET・加速核種依存性は、照射後に起こる修復過程に密接に関係していると示唆される。
  • 高島 良生, 高田 実佐紀, 穐山 美穂, 吉田 光明
    セッションID: AP-213
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    人体が被ばくした際、その被ばく線量を正確かつ迅速に求めることは治療方針の決定に対して非常に重要である。現在、生体反応に基づく放射線被ばくの線量評価は、被ばくから一定時間後に末梢血リンパ球を採取し、染色体異常を指標として全身の平均線量を求めることによって行われている。しかし放射線源近傍における被ばくなどにより被ばく部位が身体の局所に限られている場合、被ばくしたリンパ球細胞は血液の循環により非被ばく細胞と均一化されてしまっているので、この方法から被ばくした局所の正確な線量を求めることは困難である。そのため局所被ばく線量を求めるためには、末梢血に代わる、被ばく部位の生体組織を用いる必要がある。本研究では局所被ばく線量を低侵襲に求めるための方法として、毛根細胞を用いた生物学的線量評価法の開発を試み、細胞の採取方法、放射線被ばくの検出方法などを検討した。その結果、ヒトから採取した毛根細胞を酵素的な処理により短時間に単細胞化をすることができ、この細胞を用いてコメットアッセイを行うことによりγ線によって誘発されたDNA損傷を検出することができた。また、採取した毛根細胞を生体外で培養することができた。毛根細胞を培養することが可能であることは、現在確立されている線量評価法である、DicentricおよびRing染色体を指標とした線量評価法を毛根細胞にも適用できる可能性を示すものである。これらの結果から毛根細胞は局所被ばく線量評価の指標として有用であると考えられる。
  • 穐山 美穂, 中田 章史, 高島 良生, 高田 実佐紀, 吉田 光明
    セッションID: AP-214
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    緊急被ばく事故等における被ばく者の線量推定法として末梢血リンパ球における染色体異常とくに二動原体染色体の出現頻度を用いた方法が一般的に用いられている。染色体標本はG0期にあるリンパ球を分裂促進剤であるフィトヘマグルチニンで刺激し,細胞周期を開始させた後,染色体が認識される分裂中期で細胞周期を停止させ,細胞を固定する。 線量推定に用いる染色体異常として二動原体染色体が用いられているが,これは1本の染色体上に動原体領域の指標である第1次狭窄が2個認められる染色体である。従って,二動原体染色体を解析するためには染色体上に第1次狭窄が明瞭に認められなければならない。この第1次狭窄が明瞭に認められるか否かは分裂停止剤であるコルセミドの濃度や処理時間に影響されることが一般的に認識されている。そこで本研究では,コルセミドの濃度や処理時間の染色体の凝縮度への影響を調べることを目的として以下の実験を行なった。 フィトヘマグルチニンで細胞周期を開始させたリンパ球を4種類の濃度(0.01, 0.03, 0.05, 0.1μg/ml )で2時間,24時間,48時間処理を行い,染色体標本を作製、第2番染色体の相対的長さを測定しコルセミドの影響を調べた。その結果,0.01μg/mlの濃度ではいずれの処理時間でも比較的伸長した染色体が得られた。また,24時間,48時間処理では0.03,0.05,0.1μg/mlの濃度では第2染色体の相対的長さに有意な差は認められなかった。これまで,一般的に高濃度で長時間処理をすると染色体の極度の凝縮を誘発すると考えられてきいたが,今回の実験の結果,末梢血リンパ球を対象とした場合,少なくとも0.03~0.1μg/mlの濃度範囲では染色体の凝縮度に有意な差は認められなかった。
  • 中田 章史, 穐山 美穂, 高島 良生, 高田 実佐紀, 吉田 光明
    セッションID: AP-215
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    緊急被ばく事故等における被ばく者の線量評価は被ばく後の医療措置を進める上で極めて重要である。現在,被ばく線量の推定法として被ばく者の末梢血リンパ球における染色体異常とくに二動原体染色体の出現頻度を用いた方法が用いられている。この手法は分裂中期で停止させたリンパ球の染色体をスライド上に展開させ,ギムザ染色液で染色体を均一に染めた後に二動原体染色体を顕微鏡下で解析する方法である。この解析を進める上での重要な条件として染色体上の一次狭窄である動原体領域が明瞭に識別できることである。しかしながら,実際の染色体標本では細胞周期が同調されていないことから,染色体の凝縮度が様々であり,極度に凝縮した染色体や凝縮が進んでいないいわゆる前中期の染色体など解析には不適格と思われる染色体像も見られる。そこで本研究では動原体領域を分染するバンド法であるC-分染法の改良を試み,線量評価への適用性を調べた。従来,一般的に用いられていたC-分染法は染色体標本の塩酸による前処理(1時間)-水洗-水酸化バリュム処理(5~15分)-水洗-2xSSC処理(1時間)-ギムザ染色(1.5時間)と処理過程が煩雑でありかつ特殊な技術を要する。今回我々はFernández等が2002年に発表したフォルムアミド溶液中での熱処理を用いたC-バンド法に改良を加え,より簡便にかつ比較的短時間で動原体領域を識別する方法を見出した。この手法を照射した末梢血リンパ球に適用し,二動原体染色体の頻度をギムザ染色による方法を比較した結果,二動原体染色体の出現頻度には有意な差は認められなかった。今回の解析における改良型C-分染法は,処理時間としてはギムザ染色単独の方法よりは時間を要するものの,染色体さえ十分に展開していれば染色体の凝縮度に関わり無く確実に異常染色体の解析が可能となるという利点がある。
  • 須堯 綾, 辻 厚至, 須藤 仁美, 曽川 千鶴, 相良 雅史, 荻生 俊昭, 原田 良信, 佐賀 恒夫
    セッションID: AP-216
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Long-Evans Cinnamon(LEC)ラットは放射線高感受性で肝がんのモデルとしても知られているが、いまだ遺伝子の同定には至っていない。我々はラットゲノムクローンの一つをLEC由来細胞に導入すると放射線照射後の生存率やDNA修復が正常レベルに戻ることを明らかにし、放射線感受性領域を129kbに限定してきた。この129kbの領域のゲノム配列を正常ラットのFischer 344(F344)と比較したが、この領域の既知の翻訳遺伝子の配列には差がなかった。しかし、F344にはないintronless Rpl36aの配列がLECのゲノムに挿入されていることがわかった。Rpl36aの発現はF344よりLECの発現量が低く、他のintronless Rpl36aと同様に偽遺伝子であることが示唆された。偽遺伝子の挿入により周囲の遺伝子の発現が影響を受けることが報告されているため、この領域にある遺伝子発現断片(EST)を調べた。一つのEST(EST#4)がF344細胞では発現しているがLEC細胞では発現していないことから、EST#4がLECの放射線高感受性に関与することが示唆された。EST#4の7種類のsiRNAをF344細胞に導入したところ、3種類のsiRNAで発現が50%以下に下がった。この3種類のsiRNAをF344由来細胞に導入し、照射後の生存率を比較したがコントロールと比べて減少しなかったため、EST#4が放射線感受性に関与しているかどうかはわからなかった。今後はEST#4の全長クローニングと抑制効果が高いsiRNAの検討を行っていく。
突然変異と発癌の機構
  • 桑原 義和, 馬場 泰輔, 井上 和也, 栗原 愛, 福本 学
    セッションID: BO-010
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 近年、がん治療において放射線療法が注目されている。ここで、放射線耐性細胞の出現は、放射線療法の予後を左右する重要な因子である。昨年、私たちは標準的な放射線療法に用いられる2Gy/dayのX線を照射し続けても死滅しない細胞株(HepG2-8960-R cells)の樹立を報告した。本研究では、親株であるHepG2細胞と放射線耐性細胞株であるHepG2-8960-R細胞を用いて、X線で誘発されるDNAの2本鎖切断(dsbs)修復を解析した。
    [方法] ヒト肝がん由来のHepG2細胞株とその亜種であるHepG2-8960-R細胞株を用いた。X線誘発DNA dsbsの修復動態は、comet assay(中性法)を用いた。さらに、2Gy/day, 5日間のX線を照射して、小核形成とgamma-H2AXのフォーカス形成を比較した。
    [結果] X線照射後、6時間以内におけるdsbsの修復動態をcomet assayを用いて調べた結果、HepG2におけるX線誘発DNAのdsbs修復動態は2相性を示した。しかし、HepG2-8960-Rにおいては、1相性であった。2Gy/dayのX線を照射後に形成される小核は、HepG2細胞では増加するものの、HepG2-8960-R細胞では、増加しなかった。この傾向は、2Gy/dayのX線を照射後に形成されるgamma-H2AXのフォーカス形成においても同様であった。
    [考察] 放射線耐性細胞においては、より正確な修復機構である相同組み換え修復を主に使用していることが示唆されたが、このことを示すためには更なる研究が必要である。いずれにしても、小核形成やgamma-H2AXのフォーカス形成に関する実験から、放射線耐性細胞では、DNAの2本鎖切断の修復能が高いことが示唆された。また、小核やgamma-H2AXのフォーカスは、細胞の放射線感受性を予測するための指標になる可能性が示唆された。
  • 宮崎 将芳, 原田 明, 児玉 靖司, 渡邉 正己, 熊谷 純
    セッションID: BO-011
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】我々は放射線による突然変異やガン化が、細胞内のタンパク質中に生じた長寿命ラジカルによって誘発される非標的仮説を提唱してきた。我々は培養シリアンゴールデンハムスター胎児(SHE)細胞内ラジカルの電子スピン共鳴法(ESR)による直接観測に成功し、4Gy照射後に5時間以上の時間をかけて増えてくるSlow-Releasing Long-lived Radicals(SRLLRs)を発見した。照射細胞中のSRLLRsレベルはビタミンCの照射後添加で下がり、遅延突然変異誘発と関わっていることが示唆される。本研究では細胞内の過酸化水素分解酵素の阻害剤を添加し、照射細胞内の過酸化水素によるSRLLRsの生成挙動を検討したので報告する。 【実験】グルタチオン及びカタラーゼの機能阻害剤として、DL-Buthionine-(S,R)- sulfoximine(BSO)及び3-Amino-1H-1,2,4-Triazole(AT)をそれぞれ0.1,10mM加えた培地でコンフルエント下のSHE細胞を24時間処理した。処理細胞を名大Co60γ線照射室にて照射し(4 Gy)、T175フラスコ10個分のSHE細胞をESR測定チューブに詰めESR測定試料とした。 【結果と考察】BSO又はATを処理した後にγ線照射すると、照射後1時間後でそれぞれ86, 42%と大きく細胞中のSRLLRs濃度が上昇した。未処理のものでは照射後1, 5時間後でそれぞれ18, 36%増加に留まった。これらの結果は、グルタチオンとカタラーゼのどちらかを欠損すると過酸化水素の分解能力が下がり、細胞内のSRLLRs濃度が高くなったと考えられる。ミトコンドリアの電子伝達阻害剤を加えるとSRLLRs生成は抑制されるため、SRLLRsは照射によって機能不全となったミトコンドリア経由で生成する過酸化水素によってそのレベルが上昇すると考えられる。
  • 岡崎 龍史, 大津山 彰, 法村 俊之
    セッションID: BO-012
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    p53(+/+)マウス8週齢時に3Gyの線量を照射すると、8から10日後にT-cell receptor (TCR) 変異頻度は最大となり、以後速やかに減少し、1ヶ月後には自然発生レベルに戻る。その後、52週齢までにTCR変異頻度は自然発生レベルを維持しているが、60週齢以降加齢に伴う突然変異の誘発と思われるTCR変異頻度の上昇がみられ、その傾向は若年時に3Gy照射したマウスでは顕著であった。一方、p53(+/-)マウスの3Gy照射群では40週齢よりTCR変異頻度の再上昇がみられ、遅延型突然変異誘発においてもp53遺伝子の関与が示唆された (Igari, K., et. al., Radiat Res, 166:55-60, 2006) 。前回の学会で、遅延型突然変異は、アポトーシス活性の低下により、異常細胞が排除できなくなるためであり、それは活性型p53タンパク発現量の低下に起因することを報告した。さらにp53遺伝子の存在する11番染色体の転座率が増加していることから、p53遺伝子機能の異常によるものと示唆した。そこでp53遺伝子配列異常の検出するために当初、まるごと脾臓細胞からDNAを抽出し、Exon 4, Exon 5-6, Exon 7, Exon 8-9に分けてPCR産物を作製し、遺伝子配列の解析を試みていたが、異常をみいだすことはできなかった。今回、TCR変異頻度の指標としている脾臓細胞中のCD3-CD4+細胞であり、その選別を試みた。まず磁気分離システムにてCD4+細胞をpositive selectionし、さらにフローサイトにてCD3-細胞分離し、最終的にCD3-CD4+細胞のp53遺伝子配列異常の検出を試みたので報告する。
  • 栗原 愛, 王 ル, 井上 和也, 桑原 義和, 山本 雄造, 福本 学
    セッションID: BO-013
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】最近、我々は培養細胞を用いて、放射線被ばくに特異的なミトコンドリアDNA(mtDNA)の欠失を報告している。この欠失はα線源であるトロトラスト(ト)を投与された患者に誘発された肝悪性腫瘍に見出されたが、非ト症では検出されなかったことから、放射線に被ばくしたことを示す一つの指標になるのではないかと考えられている。本研究では、放射線被ばくに特異的なDNAの損傷を新たに見出すために、塩基置換が多いとされているmtDNAの調節領域であるD-loop領域をシークエンス解析し、放射線被ばくに特異的な遺伝子多型または欠失が存在するのか否かを検討した。 【材料と方法】ト症血管肉腫(AS)と肝内胆肝癌(ICC)、及び非ト症のAS、ICCと肝細胞癌(HCC)の病理標本を解析に用いた。腫瘍部と非腫瘍部のそれぞれから定法に従いDNAを抽出した。次に、PCR法によりD-loop領域を特異的に増幅し、シークエンス解析を行った。 【結果と考察】今回解析した、D-loop領域における変異はすべてトランジション型であった。ト症ASとICC、及び非ト症ASでは、高頻度でheteroplasmyが観察され、その割合は非腫瘍部に比べ、腫瘍部で高かった。一方、非ト症のICCとHCCでは腫瘍部、非腫瘍部に関わらずheteroplasmyが観察されなかった。各症例における変異数は、組織型によっては差がみられたものの、ト症と非ト症間では差がみられなかった。ト症に共通する遺伝子多型も欠失も観察されず、各腫瘍の組織型に特異的な変化も見出されなかった。これらの結果から、D-loop領域においてα線被ばくに特異的な変異は誘発されないこと、変異頻度は腫瘍の組織型によって決まっていることが示唆された。
  • 本間 正充, 桜庭 真弓, 林 真
    セッションID: BO-014
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線等の環境変異原によるDNA損傷はゲノム中にランダムに生じるため、真の遺伝的変異の特徴と程度を明らかにするためには、全ゲノムにわたって解析する必要がある。本研究では、近年利用可能となったゲノムDNAマイクロアレイを用い、ほ乳類体細胞中に生じた放射線による遺伝的変異をゲノム全体にわたり網羅的に解析し、その特徴や程度、ホットスポットなどを同定することを目的とする。ヒトリンパ芽球細胞株TK6にガンマ線5Gyを照射し、生存、増殖した細胞をランダムに25個クローニングした(細胞生存率0.1%)。Agilent社のaCGHアレイ(244K)、およびAffimetrix社のSNPアレイ(10K、250K)を用いて生存クローン細胞のゲノムをTK6と比較した。前者は欠失、増幅によるコピー数の変化、後者はLOH変異の検出に有用である。25クローン中、12クローンで数Mb以上の染色体の変化が観察され、これら染色体異常はSpectrum Karyotyping (SKY)解析の併用により、欠失、増幅、転座、もしくは染色体の異数化として同定された。1つのクローン中には複数の変異が高頻度に観察されることから、1つのDNA損傷が、別の損傷を連鎖的に引き起こすことが示唆された。また、欠失領域と増幅領域は比較的連続して観察されることが多く、連鎖反応の一部としてDNAの2本鎖切断によるBrekage-Fusion–Bridge (BFB) Cycleの関与が考えられた。変異を持つ12クローン中4クローンは16番染色体長腕q11.2付近をBreakpointとする不均衡型の転座が観察されたことから、この領域には放射線感受性領域が存在する可能性がある。今後、Breakpointを塩基レベルで解析し、放射損傷によるゲノムの切り口の構造を明らかにしたい。
  • 伴 信彦, 柿沼 志津子, 大町 康, 甲斐 倫明
    セッションID: BO-015
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    目的 放射線誘発マウス骨髄性白血病については、ここ数年の間に分子病態の理解が進み、Sfpi1(PU.1)遺伝子の突然変異が白血病化の重要なステップであることが明らかとなった。白血病発症における放射線の作用を考察する上で、この変異が生じる頻度や時期を調べることが重要である。そこで本研究では、LNA(locked nucleic acid)プローブで正常遺伝子をマスクするwild-type blocking PCR法により、多数の正常細胞に混在するごく少数の変異細胞を選択的に増幅・検出することを試みた。
    方法 変異細胞としてC3H/Heマウス白血病由来の8016細胞と7926細胞を、正常細胞としてDBA/2マウス骨髄由来のFDC-P1細胞を使用した。いずれの細胞も、ウマ血清20%、WEHI-3 conditioned medium 10%を含むD-MEM中で、37℃, 5%CO2で培養した後、ゲノムDNAを抽出し、PCRの鋳型として使用した。マウスの骨髄性白血病におけるPU.1の変異は、コドン235における点突然変異が大半を占めることから、この領域を含む443bpのDNA断片を増幅するプライマーを設計し、変異のホットスポット領域をマスクする11merのLNAプローブを反応溶液に加えてPCRを行った。
    結果 100μLの反応溶液中、鋳型DNA量が1μgのとき、0.1μMのLNAプローブを加えることによって正常遺伝子の増幅はほぼ完全に抑制された。それに対して、変異遺伝子の増幅は2μMのLNAプローブでも阻害されなかった。変異細胞と正常細胞のDNAを混合したサンプルを使用した場合、2段階のPCRを行うことで、変異細胞の割合が10-3でも検出が可能であった。この手法を用いて、白血病発症前のマウス造血細胞を解析した結果について報告する。
  • 辻 秀雄, 石井 洋子, 久保 ゑい子, 野田 攸子, 古瀬 健, 巽 紘一
    セッションID: BO-016
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    [目的]ヒトT細胞リンパ腫やマウス胸腺リンパ腫の発生に転座などの染色体再編成が関与する。またマウス胸腺リンパ腫の発生にRag依存性と非依存性の経路がある。Rag関連経路はがん関連遺伝子の変異の形成に関与すると考えられるが、それらの遺伝子変異機構は良く解っていない。我々は、V(D)J組換えおよびDNA修復不全マウスを用いて胸腺リンパ腫の発生経路を調べ、がん遺伝子Notch1をモデル遺伝子としてそれらの経路が関係する遺伝子変異機構を明らかにした。
    [材料および方法]Atm欠損マウス、scidマウス、およびRag2欠損マウスとの二重変異マウスを非照射、あるいは2Gyの放射線照射後、終生飼育し、胸腺リンパ腫の発生頻度を調べた.胸腺リンパ腫におけるNotch1の変異部位をサザン法、PCR、およびゲノムウォーキングで分離し、切断点の塩基配列特異性から変異機構を推定した。Notch1のheterodimerization およびPEST domainの突然変異を決定した。
    [結果]野生系統マウスは胸腺リンパ腫を発生しないのに対して、Atm欠損、scid、およびRag2欠損マウスは自然および放射線誘発胸腺リンパ腫を高発した。Rag2欠損Atm欠損マウスの胸腺リンパ腫の発生頻度および潜伏期はAtm欠損マウスとRag2欠損マウスの中間に位置し、Atm欠損マウスはRag2依存性および非依存性の両経路により胸腺リンパ腫を発生することが判った。Rag2欠損scidマウスのリンパ腫の頻度および潜伏期はscidマウスと同等であり、scidマウスは主にRag2非依存性経路によりリンパ腫を発生した。突然変異と再編成を合わせたNotch1の変異頻度は80_%_を超え、Notch1は胸腺リンパ腫の発生に関わる主要ながん遺伝子であった。Rag2依存性Notch1変異機構には不正V(D)J 組換え、Rag2介在欠失があり、Rag2非依存性機構にはmicrohomology対合末端結合、IAP挿入、塩基付加欠失、転座、逆位、および重複があった。これらの変異機構は変異マウスのV(D)J組換えやNHEJ修復の不全を反映して作用することから、V(D)J組換え誤りや修復誤りはがん関連遺伝子の変異を誘発し、リンパ腫の発生に関与すると考えられる。
  • 續 輝久, 磯田 拓郎, 山内 一己, 中別府 雄作, 中津 可道
    セッションID: BO-017
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    電離放射線や環境中に存在する化学物質さらには生体内での通常の代謝活動によって活性酸素が生じている。これらは様々な作用を生体にもたらすが、中でもDNAの酸化は突然変異や発がんさらには生体の老化に深く関わっていることが示唆されてきた。そこで活性酸素によるDNA傷害に焦点を絞り、8-オキソグアニンの排除・修復に関与する酵素の遺伝子群の中で、Mutyh遺伝子欠損マウスでの突然変異並びに発がんの解析を進めることで、酸化的DNA損傷による発がんを抑制する分子機構の解明を目指して取組んでいる。ラットにおいて腎発がんを誘発することが知られている酸化剤である臭素酸カリウムを、生後4週齢の野生型並びにMutyh遺伝子欠損マウスに20週間連続して飲水投与し、24週齢の時点での腸管における腫瘍の発生について解析を行い、Mutyh遺伝子欠損マウスの十二指腸・空腸で多数の上皮性腫瘍の発生を認めた。Mutyh遺伝子欠損マウスは消化管における酸化ストレス誘発腫瘍の分子病態を解析する上で有用なモデル系であると考え、酸化ストレスによって誘発される小腸腫瘍の発生に関わる標的遺伝子の検索、変異解析を進めた。62個の腫瘍組織からPCRでDNAを増幅して解析を行ったところ、ほとんどが、Apcあるいはβカテニン(Ctnnb1)の遺伝子にG:C→T:A型トランスバ-ジョン変異を有していた。以上の結果は、Mutyh遺伝子欠損マウスでは、酸化ストレスによりApcあるいはCtnnb1遺伝子のどちらかに突然変異が誘発されることによって、Wntシグナル伝達系の制御が破綻し、その下流にある遺伝子の発現制御異常がもたらされ、小腸腫瘍が発生することを示唆しており、最近の劣性の遺伝子大腸腺腫症患者でMUTYH遺伝子の変異が見出され、腫瘍組織においてAPC遺伝子に高頻度でG:C→T:A変異が検出されるとの報告と一致している。
  • 今岡 達彦, 石川 顕一, 山下 聡, 西村 まゆみ, 飯塚 大輔, 牛島 俊和, 今井 高志, 島田 義也
    セッションID: BO-018
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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     診断・治療における胸部の放射線被曝は乳癌のリスク・ファクターである。放射線を初めとする発がん要因は環境中に無数に存在するが、そのリスク評価および規制は、相互作用が相加的であるとの仮定のもと、個別の物質ごとに行われている。我々は過去に、ラット乳腺腫瘍モデルを用いた放射線とメチルニトロソ尿素(MNU)の複合曝露実験を報告した。その結果は、複合曝露による発がん機序が予想外の複雑性を示すことを示唆していた(Int J Cancer 115:187-193)。今回はマイクロアレイにより複合的な発がんの機序を解析した。Sprague-Dawley雌ラット(7週齢)にガンマ線1Gy照射、MNU 40mg/kg腹腔内投与、あるいは両者の複合処置を実施し、高コーン油飼料にて50週齢まで、定期的に触診を行いながら飼育した。腫瘍の触知された個体より病巣を摘出し、一部を病理検査に使用した。癌と診断されたものについて、腫瘍の残りを用いて制限酵素断片長にもとづくH-ras遺伝子変異解析およびマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った。その結果、H-ras遺伝子の変異は放射線により誘発された腫瘍、MNU誘発腫瘍、複合曝露による腫瘍のそれぞれ0%, 54%, 78%に見られ、後者では前二者より有意に高く(P<0.05)、複合曝露によりH-ras変異を有する腫瘍が増加することが示された。次にその機序を探るため、変異の有無に留意して、腫瘍の遺伝子発現をマイクロアレイによって検討した。その結果、H-ras変異のある腫瘍の中で複合曝露によるもののみに特徴的に過剰発現する遺伝子が存在し、H-ras変異のない腫瘍ではその変化は見られなかった。したがってMNUとの複合曝露下においては、これらの遺伝子の過剰発現が、放射線によるH-ras変異腫瘍の発生促進に関与していると考えられる。
  • 周 光明, SMILENOV B. Lubomir, NIE Jing, BAKER A. Ronald, HALL J. Eric
    セッションID: BO-019
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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     Heterozygosity leading to haploinsufficiency for proteins involved in DNA damage signaling and repair pathways plays a role in tumorigenesis. Animals haploinsufficient for a specified protein have as low tumor development rates as their wild-type counterparts in normal conditions, however, they show much higher tumor incidence rates after DNA is damaged by exogenous stimulations. Mice heterozygous for DNA repair genes have a similar life span to the wild-types when not challenged with mutagens like ionizing radiation, nevertheless, individuals of different genotypes respond differently to the same stress conditions. Predisposition to cancer of individuals heterozygous for a specified gene is age-dependent and results in tumor development not in early stage but in aged one. Population carrying a certain heterozygous gene is close to tumor incidence while that carrying homozygous mutated gene is extremely lower. Apparently heterozygosity when one allele of a gene is inactivated contributes to tumorigenesis. Since one human cell has 20,000-25,000 protein-coding genes, it is quite possible that an individual carries more than one heterozygous gene. We suppose that heterozygosity for two or more genes critical for pathways controlling DNA damage signaling, repair, cell cycle checkpoints, apoptosis, and so on, may enhance tumor initiation.
     To verify this hypothesis, cells heterozygous for ATM, BRCA1, and both, were taken as experimental models since the both genes are key factors involved in DNA damage signaling and repair and related with each other. In particular, clinical statistics revealed that breast cancer in AT family is 1.5-14 times higher. In order to minimize the difference in genetic background except for the interested genes, mouse and mouse embryonic fibroblast (MEF) cells were isolated from littermates.
     The transformation of MEF cells exposed to 0.5Gy of 1GeV/n Iron was scored by morphological recognition. Transformation frequency of ATM/BRCA1 double heterozygotes was 7.2-, 3.5- and 2.0-fold higher than that of wild-type cells, ATM single heterozygotes and BRCA1 single heterozyogotes, respectively.
     Thymocytes are sensitive to radiation and they die in an apoptotic way. The main sub-population of thymocytes (CD4+CD8+ cells) was measured by using flow cytometer. The amount of wild-type cells, ATM single heterozygotes, and BRCA1 single heterozygotes decreased 86.5-, 44.0-, and 38.1- times, respectively, in 24 hours after exposed to 5Gy of γ-rays while that of ATM/BRCA1 double heterozygotes decreased only 9.8- times.
     γH2AX focus forming reflects DNA double strand breaks. Foci in wild-type cells exposed to 0.5Gy of γ-rays reached to the maximum as rapidly as 15min but it took ATM/BRCA1 double heterozygous cells 30min, which verified that double haploinsufficiency for ATM and BRCA1 had negative impact on DNA damage signaling.
     Four kinds of cells showed various kinetics of cell cycle progression although all of them were arrested in G2/M phase after exposed to the same dose of γ-rays. G2/M block was prolonged in ATM single heterozygotes but abrogated in BRCA1 single heterozygotes. Double heterozygotes for ATM/BRCA1 showed a compromised cell-cycle dynamics and the curve was similar to that of wild-type cells.
     In summary, haploinsufficiency resulted from heterozygosity for ATM and/or BRCA1 has negative impact on various pathways. It increases cell susceptibility to exogenous stress like ionizing radiation in transformation induction by disturbing cell cycle checkpoint, delaying DNA repair, and suppressing apoptosis. Consequently unrepaired lesions are transmitted to daughter cells, which leads to cell transformation and tumor initiation. Double heterozygosity multiplies the probability of tumor formation.
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