日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
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放射線効果の修飾因子
  • 于 冬, 関根 絵美子, 藤森 亮, 落谷 孝広, 岡安 隆一
    セッションID: EP-158
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    BRCA2は腫瘍抑制遺伝子であり、乳ガン、卵巣ガン、前立腺ガン等に変異型で過剰発現している。変異型のBRCA2が過剰発現した乳ガンは放射線治療に抵抗性であり、治療後の再発率が有意に高い。放射線治療では、放射線照射により細胞にDNA double-strand breaks (DSBs)を起こし、この傷が修復されないと、最終的に細胞周期を止めることで細胞分裂を抑制する。DSBsの修復経路はNHEJ (Non-Homologous end joining)とHRR(Homologous recombination repair)の主に二つであり、BRCA2はHR修復経路に重要な遺伝子で、HR修復経路はS後期やG2期に関わる。正常細胞はG0/G1期で増殖が止まることに対し、活発に増殖しているガン細胞はSとG2期を通過する。我々は、BRCA2 siRNAを用いて、DSBs修復経路と細胞周期を阻害することで、特にHR修復経路への影響に注目した。本研究では、腫瘍の放射線感受性の変化や、修復経路機構の変化、さらに、抗腫瘍効果について研究した。さらには、in vivoで、ヌードマウス移植ヒト腫瘍モデルを用いて、腫瘍の増殖遅延からBRCA2 siRNAがHR修復を阻害することによる腫瘍の放射線増感に与える影響を調べた。本研究において、放射線抵抗性であり活発に増殖しているガン細胞をより特異的に攻撃できるかについて検討することが目的である。
  • 松瀬 美智子, SAENKO Vladimir, SEDLIAROU Ilya, ROGOUNOVITCH Tatiana, 中沢 由華, ...
    セッションID: EP-159
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    はじめに
    甲状腺ホルモン受容体 (THR)は転写因子として働く核内受容体で、様々な標的遺伝子の発現を調節し、細胞分化と代謝などに関わっている。今回我々は、THRΒ1が細胞の放射線感受性にどのような影響を与えているのか種々の培養細胞株を用いて検討した。
    材料と方法
    ヒト甲状腺乳頭癌細胞(NPA, TPC-1)、ヒト甲状腺未分化癌細胞 (ARO, FRO)、ヒト乳癌細胞 (MCF-7)及び、アフリカミドリザル腎細胞 (COS7)を用いて、Western blottingで内因性THRΒ1のタンパク質の発現レベルを確認した。次にアデノウイルスベクターを用いてTHRΒ1 (wild-type及びmutant)を細胞に導入し、コロニー形成法で放射線感受性を評価した。さらに、アポトーシス、細胞増殖、細胞老化、および細胞生存シグナル経路の関与を検討した。
    結果および考察
    内因性THRΒ1が発現しているNPA, TPC-1, FROでは、THRΒ1 (wild-type及びmutant)の導入による放射線感受性の変化は見られなかった。一方、内因性THRΒ1の発現のないARO、低発現のMCF-7, COS7では、THRΒ1 (wild-type)の導入により放射線感受性が増加し、さらに細胞増殖の抑制及び、細胞老化の促進が観察された。これらの変化は、CDKインヒビターp21及びp16の発現の上昇、Rb蛋白のリン酸化の抑制に伴って観察された。一方、THRΒ1 (mutant)を導入した細胞は放射線抵抗性に機能変化し、放射線による増殖抑制効果及び、細胞老化を減弱させた。以上から、THRΒ1は細胞の放射線感受性を変化させる要因のひとつであることが示唆された。
  • 原田 浩, 板坂 聡, 近藤 科江, 澁谷 景子, 平岡 眞寛
    セッションID: EP-160
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    目的
    正常組織内の血管系は秩序よく構築されており、組織内の全ての細胞に十分な酸素と栄養素が供給されることが約束されている。これに対し、固形腫瘍内の血管系は無秩序に蛇行し、しばしば血流量が低下することが知られている。その結果、腫瘍血管から離れた細胞群には十分な酸素と栄養素が行き渡らず、いわゆる低酸素領域が生じる。がん細胞はこの様な劣悪な環境に適応する術を持ち合わせている。その過程で中心的な役割を果たしている遺伝子が、本演題の主役である低酸素応答因子-1(Hypoxia-inducible Factor-1: HIF-1)である。HIF-1は低酸素環境下で速やかに活性化し、血管新生、転移、浸潤等に関わる遺伝子の発現を誘導し、腫瘍の悪性化を増長することが知られている。また、HIF-1の活性が亢進することによって血管内皮細胞が放射線抵抗性を示し、結果として腫瘍そのものの放射線抵抗性が増すことが報告されている。
    この様な背景の下、がんの治療成績を向上させるためには、敵であるHIF-1の特性に関して理解を深めることが肝要である。本演題では、放射線照射後の腫瘍内HIF-1活性をリアルタイムにイメージングし、その変動を時空間的に解析した結果を紹介する。
    実験方法
    HIF-1活性に依存してルシフェラーゼを発現するレポーター遺伝子(5HREp-ODD-luc)を ヒト子宮頚癌由来細胞株HeLaに安定に組込んだ。これをヌードマウス(BALB/c nu/nu)に皮下移植し、固形腫瘍を形成させた。5Gyのガンマ線(Cs-137: Gammacell 40 Exactor)を局所照射し、その後のHIF-1活性の推移をIVIS-200にてイメージングした。また、抗HIF-1α;抗体や低酸素マーカー(ピモニダゾール)等を用いて、免疫組織学的解析を行い、腫瘍内の微小環境変化にも着目して研究を行った。
    結果
    放射線照射から6時間後に腫瘍内のHIF-1活性は一過的に減少し、その後増加に転じた。この間の腫瘍内低酸素領域に対する酸素の透過度を免疫組織学的に解析したところ、HIF-1活性が減少していた放射線照射後6時間の時点では、低酸素領域の再酸素化が起こっていることが明らかになった。そして再酸素化された環境でHIF-1活性がvon Hippel-Lindau(VHL)遺伝子依存的に減少していることを明らかにした。一方、驚くべきことに、HIF-1活性が増加していた放射線照射後24時間の時点においても、腫瘍の再酸素化状態が維持されていた。
    考察
    この結果は、腫瘍の酸素環境だけでは説明ができない機序でHIF-1活性が制御されていることを示している。LY294002やRapamycinの投与によって、照射後24時間で見られていたHIF-1活性の亢進が抑制されたことから、現在はPI3K/Akt/mTORシグナル伝達系に着目して研究を進めている。本演題では、放射線照射によって引き起こされる腫瘍内の微小環境の変化、および癌細胞のHIF-1を介した環境応答機構に関して議論したい。
  • 古市 渉, 平山 亮一, 古澤 佳也, 高瀬 信宏, 村山 千恵子, 伊藤 敦
    セッションID: EP-161
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【研究背景・目的】
    重粒子線の放射線作用機構に関して、一般に重粒子線のような高LET放射線では直接作用が重要であり、間接作用の寄与が小さいといわれている。しかし、重粒子線の細胞照射において、間接作用によって生成される代表的な塩基損傷である8’hydroxy 2’deoxyguanosine (8-OHdG)が有意に検出され、高LETでの間接作用の重要性が示唆された(2006年度本大会発表)。本研究では、8-OHdG生成のLET依存性について、また、4種類の粒子線を扱うことによって、同一LETでの粒子種による生成の違いを検討した。また、高LET放射線の酸素効果減少の機構の知見を得るために、大気下と低酸素下での8-OHdG生成率の違いも検討した。
    【実験方法】
    放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置(HIMAC)より供給されたビームをヒト白血病細胞HL-60に照射し、DNAを抽出後、酵素によりヌクレオシドまで分解した。HPLCにより分離し、8-OHdGは電気化学検出器(ECD)により、またdGは紫外吸収によって定量した。8-OHdG生成率は、8-OHdG/dGとして求めた。本実験で用いたLET(keV/μm)は、炭素が20、50、80、ネオンが80、100、150、シリコンが150、200、250、鉄が440である。線量は大気下300Gy、低酸素下600Gyとした。低酸素置換は窒素95%、二酸化炭素5%の混合ガスを使用し、細胞溶液を振とうさせながら流速210ml/minで1時間吹きかけて行った。
    【結果と考察】
    8-OHdGの生成率はLETの増大とともに減少したが、LET50 keV/μmより高LETでは減少率が緩やかになった。しかし、最大LET440 keV/μmにおいても8-OHdGが有意に検出できたことより、高LET領域でも依然として間接作用が重要であることが示された。また、粒子種依存性については、昨年度よりさらにデータを蓄積した結果、LETが80 keV/μmにおいてネオンの方が炭素よりも8-OHdGの生成量が多かった。これは、炭素よりもネオンのpenumbra領域の方が大きいためと解釈できる。低酸素下での生成率はLETが低いところでは大気下での値の1/2程度であり、8-OHdG生成における酸素効果が確認できた。LETの増加とともに8-OHdG生成率も減少したが、約100 keV/μm以上の高LET領域では、大気下よりも減少率が小さくなる傾向が見られた。ただし、低酸素下でのデータについてはさらに再現性の確認が必要である。
  • 平山 亮一, 野口 実穂, 伊藤 敦, 安藤 興一, 古澤 佳也, 岡安 隆一
    セッションID: EP-162
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】 放射線の生物学的効果は、本質的には標的である生体高分子に対する障害に基づいている。放射線が生体高分子(特にDNA)に直接に作用し、DNAの原子が電離または励起され生物学的変化に導く一連の反応が始まる(直接作用)。また放射線が細胞内の水と作用し、フリーラジカルが生成され、それが生体高分子に到達し障害を及ぼす(間接作用)。我々はX線の細胞致死効果における間接作用の寄与を明らかにするためOHラジカルを特異的に捕捉するDMSOを用いて、DMSO濃度無限大における最大保護率を算出し、最大保護率から細胞致死効果に対するOHラジカル由来の間接作用の寄与率を求めた。また、ほとんど報告の無い無酸素環境下における間接作用の細胞致死効果についても同様な検討を行った。 【方法】 200kVp X線を用いてCHO細胞をDMSOで処理し大気下ならびに無酸素下で照射した。純窒素と二酸化炭素の混合ガスを細胞に吹き付けることにより無酸素条件を作成した(CHO細胞のOERは2.8)。各DMSO濃度における細胞生存率をShinoharaらの手法(Shinohara et al., Acta Oncol., 35, 869-75. 1996)でプロットすることにより、OHラジカルの間接作用の寄与率を求めた。 【結果および考察】 DMSOを用いたOHラジカルに寄る細胞致死効果に寄与する間接作用は大気下照射で70%、無酸素下照射で60%であることがわかった。OHラジカルのG値は酸素の有無によってかわらないため(C. V. Sonntag, The Chemical Basis of Radiation Biology, 33. 1987)、生成したOHラジカルと細胞内ターゲットとの反応過程に酸素が関与し、細胞致死効果にみる間接作用の寄与の違いが生じたと考えられる。
低線量・低線量率の効果
  • 山口 寛
    セッションID: FO-041
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    「中性子による生物作用は、DNA分子をとりまく媒質を構成する原子が中性子による反跳を受けてDNA分子を照射する効果によって引き起こされる」と説明されて来た。反跳原子は水分子からの陽子や酸素イオンが主なもので、少量ながら他の細胞構造体(たんぱく質や脂質)からの炭素イオン、窒素イオンなどがあると考えられている。中性子はこれら高LET粒子線を成分として持つ放射線として、X線とのRBEが放射線生物影響研究の当初から議論されてきた。中性子線は殆どの場合、エネルギースペクトルをもった状態での照射であり、媒質の原子の反跳確率も粒子ごとに異なる中性子エネルギー依存性である。反跳された原子のエネルギーもまたスペクトルを持ち、即ちLET分布を持つ。これら反跳原子(重粒子)による生物作用のデータはかなり蓄積されて来たが、単色エネルギーの重粒子についての作用機構の完全な理解には至っていない。これらの状況は上記「」内説明の検証を困難にしている。
    我々は荷電粒子の生物作用をDNA損傷生成から記述する理論モデルを開発し前回の大会で報告した。今回はこのモデルを中性子に対して適用してみた。その結果、中性子による生物作用は、これまでいわれていた上記「」の荷電粒子による成分のみならず、DNA分子を構成する原子が反跳を受ける効果(ここではatomic deletionと呼ぶ)の成分の存在が新たに示唆された。Fission neutronsによる細胞死を例にとると、このatomic deletion効果の全体の効果に占める割合は15%(aerobic conditions)や55%(hypoxic conditions)にもなっており、atomic deletion一個のDNAへの生起することの重篤度を荷電粒子一個のDNAへ生起する損傷の重篤度と比較すると、3.1+/-1.1 倍(aerobic)であり、6.8+/-1.2倍 (hypoxic)と見積もられる。
     この中性子に対するモデルにより、中性子線による生物作用をなす2つの機構、atomic deletionと荷電粒子の電離励起作用、それぞれの寄与の仕方を中性子エネルギーごとに見積もることができる。中性子のRBEも2つの成分からなり、エネルギーが100keVより低い中性子ではこれまでと異なったRBE値を示唆している。
  • 小穴 孝夫, 岡田 美紀江, 小倉 啓司
    セッションID: FO-042
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    直線しきい値なしモデルは1930年に発表されたOliverの論文で始めて提唱された。それは伴性劣性致死突然変異法によりショウジョウバエの成熟精子に誘発される突然変異の頻度が線量に比例する、という実験結果に基づいたものであった。しかし成熟精子にはDNA修復機能がないことが現在では知られている。我々は一昨年の本大会で、修復機能を失う以前の未熟な精子では、低線量照射による変異頻度は擬似照射群よりも低くなることを示し、線量応答関係には「これ以下では突然変異頻度の増加はない」という意味でのしきい値が存在するはずであることを明らかにした。またこの現象は線量率が低い場合にのみ見られること、野生型に代えて除去修復欠損株を用いると線量率が低くても見られなくなることを報告した。擬似照射群でのバックグラウンドの変異頻度は1遺伝子あたり10-6のオーダーであるが、この頻度はX線の線量に換算するとほぼ5Gy分に相当する。低線量率・低線量照射によって活性化されたDNA修復機能がこのバックグラウンド損傷を(エラーなしに)修復するために変異頻度が下がり、X線誘発変異の増加を打ち消して実質的なしきい値を形成すると考えられる。今回は野生型においてさまざまな線量における変異頻度を測定し、線量応答曲線が実際にU字形をしていることを確認した。これらの結果から、DNA修復機能のない細胞においては線量応答曲線が直線となるが、修復機能のある場合には直線とはならないことが示唆された。したがってヒトの発がんリスクの推定に直線しきい値なしモデルを用いるのは適切でない可能性がある。
  • 小倉 啓司, 小穴 孝夫
    セッションID: FO-043
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    我々はショウジョウバエに低線量・低線量率の電離放射線を照射すると非照射に比べて突然変異の頻度が低くなることがあることを報告してきた。ショウジョウバエの未成熟精子を持つ胚に60Coを線源とし、500µGyのガンマ線を1.5分間でショウジョウバエの未成熟精子に照射し、伴性劣性致死突然変異法によって遺伝的影響を観察した。この放射線量ではDNAの二重鎖切断やそれに伴うDNAの修復はほとんど起きないと言われているが、子孫における伴性劣性致死頻度が自然突然変異頻度(0.3%程度)より有意に低下し、約0.1%であった(P<0.05)ことを昨年度報告した。この現象がどのようにして起きるのかを調べるために、この低線量刺激効果が観察できなくなる線量を調べることにした。本発表では40µGyのガンマ線を1.5分間で照射を行うと伴性劣性致死突然変異の頻度が0.29%とほぼ非照射のレベルに戻り(P=0.86)、500µGyのガンマ線照射を受けたときの突然変異率よりも変異率が有意に増加する(P<0.01)ことを報告する。さらに、500µGyのガンマ線照射を受けたショウジョウバエの胚で発現量が変動するdefense response関連の遺伝子群やアポトーシス関連遺伝子について報告する。
  • 古川 智春, 緒方 裕光, 中嶋 啓雄, 落合 淳志, 馬替 純二
    セッションID: FO-044
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    電離放射線に対する生物応答は時間に依存した反応であり、同じ線量で照射した場合にも、低線量率で長時間照射した場合と高線量率で短時間照射した場合では異なる応答を示す。我々はこれまでにヒト培養細胞の増殖と染色体断裂に対する電離放射線の影響が線量率の低下とともに指数関数的に減弱する線量率効果を観察し、これを統計的に解析することにより新規線量率効果モデル(MOEモデル)を提唱した。今回は長期間にわたり連続照射を行った場合の細胞増殖に与える線量率の影響を細胞生物学的に解析した結果を報告する。ヒト骨肉腫細胞U2OSとヒトグリオーマ細胞腫M0549Kを50,000Ciのコバルト60を擁する照射室内で培養することにより、ガンマ線の連続照射を行った。連続照射による増殖阻害効果は数ヶ月後には線量率に依存するようになり、その最小増殖阻止線量率は50 mGy/h程度であった。その時の細胞周期の分布をフローサイトメトリーで解析したところ、高線量率で短時間照射した場合にはG2期の細胞が集積するのに対し、低線量率連続照射により増殖を阻止した場合にはG1期の細胞が集積した。この細胞をバックグラウンドレベルの線量率環境に戻して一ヶ月ほど培養しても増殖速度の低下が維持される遅延性の増殖阻害が認められ、この時の転写因子の発現をウェスタンブロッティングにより解析したところ、照射直後に高進していたp53の発現とそのSer15のリン酸化は非照射細胞のレベルに低下していたが、c-Junの発現とそのSer63とSer73のリン酸化のレベルは高いまま維持されており、AP-1の活性化が遅延性の細胞増殖阻害に関与していることが示唆された。また長期間連続照射したM059K細胞では各種のアポトーシスに対する耐性を獲得しており放射線治療を行う場合には線量率と照射時間を考慮した照射条件の最適化が重要であることも示唆された。
  • 藤川 和男, 加川 尚
    セッションID: FO-045
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    高線量率放射線によって誘発される突然変異が体組織幹細胞に蓄積するか否かを明らかにするため、Dlb-1 座のヘテロマウス(Dlb-1b/Dlb-1a) に2—3週間の間隔で線量率50 cGy/minX線40 cGyを10—58週齢まで反復照射した。総線量0.4, 2, 4, 6および8 Gy照射後2週間の時点で対照と被照射マウスの小腸を採取し、、Dlb-1 突然変異アッセイに供した。このアッセイにおいて小腸幹細胞のDlb-1b 遺伝子の突然変異を絨毛表面で変異クローンとして検出した。絨毛10000あたりの変異クローンの数(F )は照射回数に応じてほぼ直線的に増加した。同様に対照群のF 値も週齢に直線比例して増加した。対照F 値で補正した線量効果関係から、変異クローン誘発率(10-4 villi·Gy-1)を4.35±0.33と推定した。この値は483日間低線量率ガンマ線を連続照射して得た誘発率の約5倍である。これらの結果は高線量率放射線による突然変異は、低線量率放射線照射の場合と同様に、体組織幹細胞に蓄積することを示唆する。
  • 馬田 敏幸, 欅田 尚樹, 法村 俊之
    セッションID: FO-046
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    トリチウムのβ線による突然変異生成に対する生体の監視機構と、低線量率照射での放射線リスクの低減化へのp53の役割を明らかにするために、マウスに3Gyのトリチウムβ線あるいはセシウム-137γ線を全身照射して、脾細胞のTCR遺伝子突然変異誘発率及びアポトーシス頻度の解析を行った。使用したのはp53(+/+)、p53(+/-)及びp53(-/-)マウスの3種類である。8週齢マウスの腹腔内に、270MBqのトリチウム水を注射し19日間飼育した。この間にマウスは低線量率で3Gyの被ばくを受けることになる。その結果、p53(+/+)、p53(-/-)両マウスにおいてトリチウム水を投与したマウスの突然変異誘発率は、非投与マウスと比較して増加した。また、従来の報告と同様に、Tリンパ球における突然変異の自然発生レベルは、p53 (-/-)マウスがp53(+/+)マウスより高い値であった。一方、γ線との比較のために、シミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)でγ線をマウスに照射し、19日目にTリンパ球の突然変異の誘発率を調べた。その結果、γ線照射によりp53(+/+)マウスでは突然変異の誘発率の増加は見られなかったが、p53(-/-)マウスでは誘発率が増加した。この結果より、Tリンパ球に生じた突然変異の増加の抑制にp53が寄与することが確認された。p53が損傷細胞の排除によって突然変異の抑制に寄与していることを確かめるために、p53(+/+)マウスとp53(+/-)マウスを照射して、12時間と24時間後の脾細胞のアポトーシス活性を調べた。その結果、p53(+/-)マウスはp53(+/+)マウスに比べてアポトーシス活性が低下していたことより、p53(+/+)マウスではp53依存性アポトーシスを介した損傷細胞の排除により、組織修復が効果的に行われていることが明らかになった。またその頻度はβ線の方が高かった。これらの結果から、低線量率での放射線照射ではトリチウムβ線のRBEは1より大きいことが推察された。
  • 杉原 崇, 村野 勇人, 田中 公夫, 小木曽 洋一
    セッションID: FO-047
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    低線量率(< 144 mGy/day)、あるいは中線量率(144 - 144,000 mGy/day)放射線を連続照射したマウスの組織における照射時間に伴う遺伝子発現変化については知られていない。我々が以前NIH/PG13細胞を用いて行なったマイクロアレイ解析結果から、p53依存性遺伝子(p21,CyclinG1)、及びp53非依存性の細胞外マトリックス遺伝子(Tnc, Col1a2 and Fbln5)に注目して、脾臓における経時的な遺伝子発現変化を観察した。C3Hメスマウスを400 mGy/22 hr/day(18.2 mGy/hr)の中線量率γ線で1-20日間照射後、遺伝子発現の時間的変化をリアルタイムPCR法で測定した。p53依存性遺伝子(p21,CyclinG1)の発現は(0.8 Gy以上)照射から4日目以降から増加したが、細胞外マトリックス遺伝子(Tnc, Col1a2 and Fbln5)の発現は(4.0 Gy以上)開始後から増加した。この結果は以前行なった中線量率放射線を照射した培養細胞の結果とほぼ同様であった。一方、20 mGy/22 hr/day(0.91mGy/hr)の低線量率γ線照射では1-40日間照射(20 mGy - 800mGy)してもp53依存性遺伝子及び細胞外マトリックス遺伝子遺伝子発現の変化は見られなかった。以上のように中線量率放射線連続照射されたマウス脾臓におけるp53依存性遺伝子の経時的発現変化は細胞外マトリックス遺伝子群とは異なっていることから、これらの遺伝子は異なる発現制御を受けていることが示唆される。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
  • 野村 崇治
    セッションID: FO-048
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    これまで我々はマウスに低線量率照射を行うと抗酸化機能が亢進することを明らかにした。また我々はII型糖尿病モデルマウス(DB)に低線量率ガンマ線(0.63 mGy/hr)を長期間連続照射することで、一部のマウスに尿糖値が正常レベルに戻り、また寿命延長効果があることを示した。尿糖値の低下について、照射によって糖毒性による膵臓の酸化的損傷を防ぎインスリン分泌機能が維持されたと推察した。ところで報告された照射期間はこれまで2週間から24週間の短期間であり、1年間を越す照射期間で報告例はない。また長期にわたる、放射線への慣れなどが考えられる。そこで我々は、長期にわたる低線量率照射でII型糖尿病に対する膵臓での抗酸化効果に及ぼす影響について実験を行った。メスDBマウスを用いて10週齢より開始し82週齢まで連続照射を行った。線源は137-Cs(314GBq)のガンマ線を0.30、0.63または1.2 mGy/hrの線量率で照射した。膵臓の抗酸化物質の活性測定、尿糖値および血糖値、血中インスリン量を測定した。
    照射により膵臓の抗酸化物質が増強された。特に1.2 mGy/hr照射群のMn-SOD活性とグルタチオン量は明らかに増加した。さらに0.63 mGy/hr照射群の過酸化脂質量は有意に減少した。血液検査の結果では、血糖値が低下する傾向を示した。一方、今回の実験では血中インスリン量の照射による効果は認められなかった。また血糖値が低下したものの尿糖値の低下には反映されなかった。線量率の違いによる効果もなかった。
    以上の結果から、1年を越す長期低線量率連続照射においても、II型糖尿病に効果があることが示された。これは長期にわたっても抗酸化物質の増強効果があり、酸化的損傷の軽減効果、また血糖値の低下効果につながったと示唆された。
  • ZHANG Hong, ZHAO Weiping, WANG Yanling, LI Ning, WU Zhenhua, LONG Jing ...
    セッションID: FO-049
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    To investigate the effects of pre-exposure of mouse testis to low-dose 12C6+ ions on cytogenetics of spermatogonia and spermatocytes induced by subsequent high-dose irradiation, the testes of outbred Kun-Ming strain mice were irradiated with 0.05 Gy of 12C6+ ions as the pre-exposure dose, and then irradiated with 2Gy as challenging dose at 4 h after per-exposure. Poly (ADP-ribose) polymerase (PARPs) activity and PARP-1 protein expression were respectively measured by using the enzymatic and Western blot assays at 4h after irradiation; chromosomal aberrations in spermatogonia and spermatocytes were analyzed by the air-drying method at 8 h after irradiation. The results showed that there was a significant increase in the frequency of chromosomal aberrations and significant reductions of PARP activity and PARP-1 expression level in the mouse testes irradiated with 2 Gy of 12C6+ ions. However, pre-exposure of mouse testes to a low dose of 12C6+ ions significantly increased PARPs activity and PARP-1 expression and alleviated the harmful effects induced by a subsequent high-dose irradiation. PARP activity inhibitor 3-aminobenzamide (3-AB) treatment blocked the effects of PARP-1 on cytogenetic adaptive response induced by low-dose 12C6+ ion irradiation. The data suggest that pre-exposure of testes to a low dose of heavy ions can induce cytogenetic adaptive response to subsequent high-dose irradiation. The increase of PARP-1 protein induced by the low-dose ionizing irradiation may be involved in the mechanism of these observations.
  • 大塚 健介, 小穴 孝夫, 冨田 雅典, 田内 広
    セッションID: FO-050
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    マウスに低線量放射線を事前照射することで、後の高線量放射線に対する傷害が抑えられる現象が見出されており、これは個体レベルの適応応答としてとらえることができる。特にYonezawaらが見出した事前照射したマウスの高線量照射後の生存率の改善、そして内因性脾コロニーを指標とした造血系の抵抗性獲得現象は「米澤効果」と呼ばれ、個体の適応応答現象としてよく知られている。しかしながら、その機構はいまだ明らかにされてはいない。 我々は、造血系の細胞分化調節機構に着目し、事前照射したマウスにおいて、高線量照射後の骨髄球系細胞(Gr-1+/Mac-1+)の回復が早く起こること、それと一致するように骨髄球系への分化を刺激するGM-CSF, G-CSF, IL-1, IL-2, IL-12などのサイトカインの誘導が見られることを明らかにした。また、高線量照射後2週間以降において末梢血赤血球数の減少が抑制されることも見出した。これらの結果は、低線量事前照射によって誘導される造血機能の亢進が、骨髄球系の傷害抑制をもたらし、赤血球の減少を抑制することによって個体の生存率改善に寄与している可能性を示唆している。本大会では血球細胞の分化調節機構から明らかになった米澤効果のメカニズムについて議論する。
  • 柿本 彩七, 根井 充, 小島 周二
    セッションID: FP-239
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放射線適応応答は、予め低線量放射線(priming dose)を照射しておくことで、その後の中高線量放射線に対する抵抗性を獲得する生体の防御的反応である。放射線適応応答は、低線量放射線が中高線量放射線とは質的に異なる影響を生体に及ぼすことを意味しており、低線量放射線のリスクを評価する上で重要な生命現象である。本研究では、ヒトリンパ芽球由来細胞AHH-1におけるHPRT遺伝子座突然変異を指標とした放射線適応応答の分子機構を解析した。まず、3 GyのX線照射後のHPRT遺伝子座における突然変異頻度が0.02 Gyから0.2 Gyのpriming dose照射によって有意に低下することを観察した。一方、0.005 Gyの事前照射では有意な適応応答が観察されなかったことから、priming doseの下限が0.005 Gyと0.02 Gyの間にあることが示唆された。次に、poly(ADP-ribose)polymerase 1の阻害剤である3-aminobenzamide (3AB) は染色体異常を指標とした放射線適応応答を阻害することが報告されているが、本研究では3AB存在下でも突然変異を指標とした場合に有意な適応応答が観察された。このことから、指標によって異なるメカニズムが機能していることをが示唆された。更に、HiCEP法を用いて遺伝子発現変化の網羅的解析を行った。その結果、0.02 Gy照射6h後に有意に発現変動する遺伝子17 個が検出された。また、priming doseがchallenge doseに対する応答に影響している可能性を考えて、3 Gy照射後3hおよび18hにおける遺伝子発現を0.02 Gyの事前照射をした場合と照射しない場合で比較した。その結果、3 Gy照射後3hでは17 個、18hでは20 個の遺伝子の発現変動が確認された。遺伝子の機能検索した結果、MAPキナーゼを介する細胞内情報伝達関連遺伝子や酸化還元関連遺伝子等が放射線適応応答に相関して発現変動していることがわかり、放射線適応応答の一因を担う可能性が考えられた。
  • 王 冰, 田中 薫, ヴァレス ギヨーム, 尚 奕, 根井 充
    セッションID: FP-240
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    適応応答研究の多くは、この現象が有益な効果をもたらすものとして扱っている。多くの細胞系において、前照射は、本照射によって引き起こされる有害な影響を有意に抑える(主に遺伝子の突然変異、染色体異常、形質転換、細胞死の頻度を低下させる)ことが示されている。しかしながら、生き残った者たちが本当に正常かどうか、すなわち、遺伝学的、生理学的、機能的に非照射対照群と本当に同じかどうかはほとんど知られていない。適応応答は有益であるという先入観がある状況で見れば、細胞死が減少したという事実は、個体の生存率が増加したことを説明するのに都合がいい。しかしまた、細胞死が増加することも、こじつけて考えれば有益なことにもなる。つまり、修復できない損傷を持った細胞の除去を促進すると考えれば、ゲノムの不安定性や発癌を減らすことができることになる。実際限られたendpointや単純化された細胞系では限界があるし、in vitroのシステムだけから包括的に適応応答について述べることはほとんど不可能であると思われる。胎児を使った適応応答の研究において、endpointによって違った結果が得られた。適応応答の存在が証明されている胎児モデルの中で、適応応答の良い点としては、胎児期死亡と奇形を持った胎児の数が有意に減少したことがあげられる。しかしその結果、悪い点として、生き残ったマウスは、出生後の死亡率が非常に高くなり、神経生理学的な変化や発育遅延を起こすというようなひどい障害を被っていた。さらに、ヤングアダルトでは、米沢効果は認められず、放射線に対して高感受性であった。今回、寿命の短縮と一生涯にわたって体重が少ない状態であったことを報告する。これら個体レベルの研究から、適応応答は単純な現象ではあるが、複雑な結果を伴っていることが示された。将来人間に適応応答を適用することの可能性をについて考えるに先立ち、倫理や健康や生活の質等というようなことを十分考慮する必要があると思われる。
  • 前田 佳彦, 馬場園 将人, 佐野 幹夫, 山下 剛範, 具 然和
    セッションID: FP-241
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】本研究では、低線量放射線のホルミシス効果を調べるためにマウスを用いて免疫活性を検討した。 【方法】マウスにラドン(Rn)シートによる暴露環境の中で、放射線照射後の血球数の経時的変化、抗酸化作用、免疫活性などの放射線ホルミシスのメカニズムを検討した。 実験群は、Control群、Rnシート暴露群、2Gy群、Rnシート暴露+2Gy群の計4群とした。 白血球数およびリンパ球数、顆粒球数、単球数とした。血清中のSOD活性度の測定を行った。また、CD4およびCD8の解析を行い、免疫活性などを検討した。 【結果】2Gy群の白血球数に対して、Rnシート暴露+2Gy群に有意な放射線照射による白血球数の減少が抑制した。SOD活性度を測定したところ、Rnシート暴露群によるSOD活性度の有意な上昇が認められた。Rnシート暴露群においてCD4およびCD8も増加した。【結論】これらのことからRnシート暴露によるα線による細胞刺激は、SOD用活性だけでなく、免疫増強効果も期待できる。従って、Rnシート暴露によって刺激された細胞は、成長促進、免疫機能の向上、疾病の抑制、寿命の延長などが期待できる。
  • 小野 芙美子, 吉居 華子, 西田 典代, 鈴木 啓司, 渡邉 正己
    セッションID: FP-242
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    現在、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病の主原因のひとつである肥満が急増しており、肥満や脂肪細胞に関わる研究が注目されている。肥満は脂肪前駆細胞から分化した脂肪細胞が脂質を蓄えて肥大した状態であると考えられているので、脂肪前駆細胞の分化機構について研究することは非常に有益である。我々は、海洋微生物由来の物質が脂肪細胞分化を抑制することを発見した。驚くべきことに、それらの海洋微生物由来の物質の中には、脂肪細胞の脱分化機能を有していた。細胞周期がG1/G0期で停止することが細胞分化の引き金になることはよく知られており、さらには放射線が細胞周期停止を引き起こすことが数多く報告されている。環境ストレスの中の1つである低線量放射線に関しては、放射線照射により細胞に分裂異常が生じてG1/G0期で細胞周期が停止することがわかっていることから、適当な線量の放射線が分化を誘導する可能性がある。ゆえに、細胞分化の機構を研究すれば、細胞分化にはストレス応答が重要であることが解明され、また、肥満予防に貢献するかもしれない。今回、環境ストレスによる分化誘導と分化抑制機構について発表する。
  • 花元 克巳, 迫田 晃弘, 永松 知洋, 石森 有, 山岡 聖典
    セッションID: FP-243
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々はこれまでに、ラドン療法解明の一環として、ラドン療法で世界的に有名な三朝(鳥取県)やバドガスタイン(オーストリア)の温泉地周辺に存在する天然放射性鉱石から水中への222Rn溶出に影響を及ぼす環境諸因子について検討し、報告してきた。しかし、これら鉱石から空気中への222Rn散逸に関する研究はなされていない。そこで、本研究では、ラドン温泉地周辺に存在する鉱石から空気中への222Rn散逸に及ぼす環境諸因子の影響を明確にするために、様々な条件下において鉱石からの222Rn散逸率をγ線スペクトロメトリにより測定した。【方法】試料として、岡山大学病院三朝医療センター・高濃度ラドン熱気浴室の源泉泥(0.9±0.0 Bq/g)、およびバドガスタインで採取した鉱石(6.4±0.0 Bq/g)を用意した。また参考のために、人形峠近辺の土壌(10.8±0.3 Bq/g)も用意した。本研究で検討する環境因子として、温度(5、25、40、60、80°C)、および粒径(<63、63-250、250-500、500-1000、1000-2000 μm)を考えた。実験手順は次の通りである。各粒径の乾燥試料を共栓ガラス瓶に入れ密栓し約30日間静置した後、高純度ゲルマニウム検出器によるγ線測定を行った。その後、各温度条件下で2日間静置し、さらに、同温度下で瓶の栓を開け222Rnを外へ逃がし、再びγ線測定を行った。2回測定における214Pbあるいは214Biから放出されたγ線のカウント比を取り、222Rn散逸率を算出した。【結果と考察】鉱石からの222Rn散逸率は環境温度に依存して上昇した。これは、温度が高いほど222Rnの粒子表面への吸着量は減少し、気相に存在しやすいためと考えられる。一方、温度に依存して222Rnの拡散係数は増大するが、固体内での222Rnの拡散係数は非常に小さいため、これが散逸率の上昇の直接の原因とは考えにくい。222Rn散逸率の粒径依存性については、本大会で発表する。
  • 迫田 晃弘, 花元 克巳, 永松 知洋, 石森 有, 山岡 聖典
    セッションID: FP-244
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】従来、鉱石からの222Rn散逸率の測定は、鉱石を密閉容器に入れ、気相中の222Rnから放出されるα線を測定することにより行われてきた。この方法は、散逸222Rnそのものを測るため、散逸率の低い試料でも比較的精度良く測ることができるが、専用の222Rn測定器とその正確な校正が必要である。一方、未校正のNaI(Tl)シンチレーション検出器によるγ線測定を2回行うことで、簡便に222Rn散逸率を測定する方法が考案された。しかし、試料にTh系列核種が含まれる場合には220Rnの影響を受ける可能性があった。そこで、本研究では、220Rnの影響を完全に除去し、γ線スペクトロメトリによる222Rn散逸率の測定を行った。また、測定値の比較としてα線測定による222Rn散逸率も求め、当該測定法の結果の評価も行った。【方法】試料として、岡山大学病院三朝医療センター・高濃度ラドン熱気浴室の源泉泥(0.9±0.0 Bq/g)、およびオーストリアのバドガスタインで採取した鉱石(6.4±0.1 Bq/g)を用意した。222Rn散逸率の測定手順は次の通りである。(1)γ線測定:乾燥試料を共栓ガラス瓶に入れ密栓し約30日間静置した後、高純度ゲルマニウム検出器によるγ線測定を行った。その後、瓶の栓を開け222Rnを外へ逃がし、再びγ線測定を行った。2回測定における214Pbあるいは214Biから放出されたγ線のカウント比を取ることで、220Rnの影響を受けることなく222Rn散逸率を算出した。(2)α線測定:乾燥試料と電離箱型ラドン測定器をデシケータに入れ、その中の222Rn濃度を約2週間測定し、得られた222Rn成長曲線から散逸率を算出した。【結果と考察】α線測定より求めた222Rn散逸率は、三朝源泉泥が30%、バドガスタインの鉱石が2%であった。γ線測定より求めた222Rn散逸率とα線測定により求めたそれとの比較結果や、試料の222Rn散逸率に関する検出限界については本大会で発表する。
  • 中川 慎也, 片岡 隆浩, 迫田 晃弘, 水口 優子, 吉本 雅章, 石森 有, 花元 克巳, 光延 文裕, 山岡 聖典
    セッションID: FP-245
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】岡山大学病院附属三朝医療センター(鳥取県)で実施されているラドン療法の適応症には活性酸素に由来する生活習慣病が多く、その機構の更なる解明が期待されている。このため、汎用性があり当該施設とほぼ同様の医学的効果が再現できる動物実験用ラドン曝露装置の構築は意義が大きい。今回は、我々が試作した当該装置を用いマウスへのラドン吸入による抗酸化機能の変化特性を検討した。【方法】ラドン曝露装置(尾図計画(岡山)との共同開発)を用い、装置内の温度を25℃、湿度を80%、ラドン濃度を400Bq/m3あるいは4000Bq/m3にそれぞれ設定した。BALB/cマウス(雄、7-8週齢)にラドンを8、16、24あるいは48時間吸入させ、終了直後に対象臓器を摘出し試料に供した。【結果例】1)肝臓において、ラドン濃度が400Bq/m3の場合、抗酸化系酵素であるSODとカタラーゼの活性はともに吸入48時間後に有意に増加した。4000Bq/m3の場合、両活性はともにいずれの吸入時間後においても有意に増加した。これらの増加幅も、4000Bq/m3の方が400Bq/m3に比べ概ね大きかった。2)腎臓においても肝臓の場合と概ね同様の変化を示したが、両活性の増加幅は肝臓の方が概ね大きかった。3)脳と肺においても概ね同様の変化をしたが、肝臓や腎臓とは異なり、両活性の増加幅は400Bq/m3の方が大きかった。【考察】本ラドン吸入条件下において、マウス諸臓器において抗酸化機能の亢進を認めた。その増加幅は肝臓の方が腎臓に比べ大きかった。これは、ラドンは脂溶性が高く、相対的に脂肪含有量が高い肝臓に集積し易いことに起因すると考えられた。また、脳や肺は、肝臓や腎臓に比べラドン濃度の低い方で抗酸化機能が大きく亢進したことから、相対的にラドン由来の活性酸素に対する感受性が高いことが示唆できた。本報告では、他の抗酸化機能関連指標の変化特性についても言及する。
  • 青山 裕, 片岡 隆浩, 迫田 晃弘, 中川 慎也, 石森 有, 花元 克巳, 光延 文裕, 草地 省蔵, 山岡 聖典
    セッションID: FP-246
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々はラドン療法による変形性関節症などの適応症の症状緩和に関し現象を確認するとともに、その機構を解明しつつある。他方、三朝ラドン温泉療法レベル(約2000 Bq/m3)のラドン濃度を再現することは難しい。このため、規制値以下のラドンミストを発生させる装置を製作した((株)尾図計画(岡山)との共同開発)。本装置を用い、今回は高血圧症に対するラドン効果と温熱効果の比較に関して基礎的検討をした。【方法】高血圧症と正常血圧の各被験者(各8名)は、1日計30分、隔日にラドン浴室(1496 Bq/m3、30℃(以下、ラドン群))あるいは温熱浴室(ラドン濃度;33 Bq/m3、室温;42℃(以下;温熱群))に横臥し吸浴した。試験前(対照)、試験開始2、4週間目のそれぞれの吸浴後に採血し、試料に供した。また、血圧は毎回の吸浴前に測定した。【結果例】1)高血圧症の被験者の最高血圧と最低血圧がともにラドン群、温熱群いずれも有意に降圧し正常血圧(基準値内)になった。2)血管拡張作用やNa利尿作用のあるhuman atrial natriuretic polypeptide (hANP)は、両被験者ともに試験開始4週間後にラドン群の方が温熱群に比べ基準値内で有意に増加した。3)抗利尿作用を有するホルモンであるarginine vasopressin (AVP)の値は、試験開始4週間後に高血圧症の被験者のラドン群のみで有意に減少し基準値に近づいた。【考察】本吸浴条件の場合、温熱群・ラドン群ともに高血圧症の被験者のみに対し、血圧降圧作用のあることが示唆できた。これは、ラドン群でhANPとAVPが作用していることが示唆できた。三朝ラドン温泉療法での同様の試験結果と比べ、今回は室温が相対的に6℃低い条件下で実施したため、ラドン効果の程度が前回に比べ小幅であることがわかった。本報告では、ラドン効果と温熱効果の相乗効果などについても言及する。
  • 水口 優子, 片岡 隆浩, 中川 慎也, 吉本 雅章, 川辺 睦, 田口 勇仁, 山岡 聖典
    セッションID: FP-247
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は前回、マウスに低線量X線を事前照射した場合、虚血-再灌流障害である浮腫が形態学的に抑制したことを報告した。今回は、本抑制効果についてマウスの足骨格筋の細胞間隙の大きさを病理学的に観察することなどにより検討した。【方法】7週齢・BALB/cマウスへshamまたは0.5GyのX線を全身照射し4時間後に、常法に従い輪ゴムを足に10回巻き虚血させた。虚血時間は0.5、1、または2時間とし、再灌流0.5、1、2、3、または24時間後に浮腫の程度をそれぞれ測定した。次に、浮腫に伴い増大する足骨格筋の細胞間隙を検討するため、hematoxylin-eosin (HE) 染色を行った。さらに、血清中SOD活性の測定をした。【結果】1) 浮腫は、虚血が0.5または1時間の場合、0.5Gy照射により抑制され障害の回復もshamに比べ早かった。2) 足骨格筋の細胞間隙は、虚血が0.5または1時間の場合、0.5Gy事前照射によりshamに比べ有意に減少し無処置に近づいた。また、 筋細胞間隙は、虚血が1時間で再灌流0.5、2、24時間後において、0.5Gy事前照射によりshamに比べ有意に減少し無処置に近づいた。3)虚血(1時間)-再灌流(1時間)後の血清中SOD活性は、0.5Gy照射した方が有意に高かった。【考察】0.5Gy照射により足骨格筋の細胞間隙が有意に増大したことから、低線量の事前照射は虚血-再灌流障害を抑制することが病理学的観察からも示唆できた。これは0.5Gy照射によりSOD活性が有意に増加したことから、虚血-再灌流障害の抑制効果は抗酸化機能の亢進が一因していることも示唆できた。本報告では、虚血-再灌流障害の病理学的観察としてperiodic acid methenamine silver (PAM)染色による毛細血管の変化結果などについても言及する。
  • 片岡 隆浩, 中川 慎也, 水口 優子, 吉本 雅章, 川辺 睦, 田口 勇仁, 山岡 聖典
    セッションID: FP-248
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は今までにマウスへの低線量X線の事前照射により虚血-再灌流障害が抑制されることを報告してきた。また、臓器を移植した後に虚血-再灌流障害が生じること、虚血時にはATPレベルが低下することが報告されている。このため、本研究では低線量X線照射による移植臓器の抗酸化機能の変化特性について検討した。【方法】BALB/cマウスより摘出した肝臓にSham、0.25、0.5、1.0、あるいは5.0GyのX線をそれぞれ照射した。その直後から保存(Via Span)液または生理食塩水に4、8、24、あるいは48時間浸漬保存(4℃)し、抗酸化機能の分析をした。【結果例】1)浸漬24時間における照射線量依存性について。抗酸化系酵素であるSODとカタラーゼの両活性は、生食に浸漬した場合には0.25または0.5Gyで、保存液に浸漬した場合には1.0Gyで、それぞれ有意に増加した。抗酸化系物質であるグルタチオン量は、生食または保存液に浸漬した場合、それぞれいずれの照射線量でも有意に減少した。2) 0.5Gy照射後の浸漬時間依存性について。生食に、SOD活性は4または24時間、カタラーゼ活性は8時間以上、それぞれ浸漬した場合、ともに有意に増加した。また、グルタチオン量は、生食または保存液に4時間以上浸漬した場合、ともに有意に減少した。他方、過酸化脂質量は生食に8時間浸漬した場合に有意に減少した。【考察】摘出した肝臓に低線量X線を照射した場合、抗酸化機能が亢進することが明らかにできた。また、保存液にはグルタチオンが含有しているため、その分、SODやカタラーゼの活性を増加させる線量域が保存液の方が生食に比べ有意に高くなったと考察された。他方、生食または保存液に浸漬した場合にグルタチオン量は有意に減少したが、これはグルタチオンの合成にATPが関与するため虚血時のATPレベルの減少によりグルタチオン量が低下したのではないかと考察された。
実験治療と治療生物学
  • 林 幸子, 畑下 昌範, 松本 英樹
    セッションID: GO-051
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] ハイパーサーミア治療における癌細胞の温熱耐性誘導による温熱抵抗性についてヒト肺腺癌A549細胞を用い細胞死に関与するNF-κBをターゲットとする生薬の成分Parthenolide (PTL)を用いて細胞の温熱増感効果を検討した。又そのメカニズムとしてPTLのNF-κB活性の抑制によるアポトーシス誘導への温熱耐性誘導物質hsp70蛋白および癌抑制遺伝子p53の関与を解析し、PTLのNF-κB機能の抑制によるカスパーゼ経路やJNK経路を介した温熱増感効果との関連を解析する。 [方法] 野生型p53及び変異型K-ras遺伝子を有するヒト肺癌A549細胞を用いて40℃、42℃あるいは44℃加温とPTLを連続併用し、温熱増感効果をコロニー形成法により検討した。また42-44℃ step-up加温にPTLを併用し、耐性誘導の抑制効果を検討した。hsp70及びp53蛋白誘導動態をwestern blot法により行った。PTL併用による温熱増感効果についてアポトーシス誘導動態を蛍光色素(Höchst33342)染色法により解析した。また同様にnecrosis誘導動態についても二重染色法により行った。 [結果] PTL及びハイパーサーミアは共に温熱化学増感効果を示した。A549細胞のstep-up加温(42℃-44℃)においてPTLは42℃加温による温熱耐性の誘導を抑制しその後の44℃加温の致死効果を増感した。western blot法によるhsp70蛋白は加温単独により著しく誘導されたがPTL単独によって誘導されず併用によっても温熱単独と比較し有意に変化しなかった。またp53蛋白はPTLによって誘導されず、温熱によって誘導され、それらの併用においては温熱単独との有意差は認められなかった。 [総括] 変異型K-ras遺伝子及び野生型p53遺伝子を有するヒト肺腺癌A549細胞における温熱抵抗性はNF-κBをターゲットとする生薬の成分PTLを併用することにより温熱増感効果が認められた。NF-κB活性の抑制によるアポトーシスあるいはネクローシスの誘導動態及び温熱耐性を誘導する蛋白hsp70及び癌抑制遺伝子蛋白p53の誘導について解析しNF-κBシグナル伝達経路への関与について検討した。
  • 蜂谷 みさを, 柴田 知容, 宮村 太一, 渡辺 恵子, 吉田 緑, 明石 真言
    セッションID: GO-052
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    Tumor necrosis factor α(TNFα)は炎症時に産生されるcytokineであり、様々な生理活性を持つ。敗血症やショック状態では、TNFαが過剰に産生され,血液凝固の促進や微小循環障害を引き起こす。またTNFαの血液中の濃度と患者の予後とは相関する。一方、TNFα阻害薬では予後の改善を報告しているものもあり、被ばく時にその産生が過剰に増加することを考えると高線量被ばくによる重篤な炎症におけるTNFαの役割は重要と思われる。今回、TNFα knockout (TNFα-/-)マウスを用い、in vivoでの放射線障害におけるTNFαの影響について検討した。BALB/c wild type (TNFα+/+)またはTNFα-/- マウスに全身照射し生存率を調べた。TNFα+/+に比べTNFα-/-群の生存期間に顕著な短縮が観察された。5Gy照射のTNFα+/+では生存率が5、10、30日後ではそれぞれ、95%、90%、65%である。これに対しTNFα-/-では75%、35%、15%であった。小腸クリプトアッセイで、生細胞数がTNFα-/-マウスでは低値を示す傾向があった。また体重、臓器重量、血清AST、ALTレベルなどの肝機能、血球数では差が認められなかった。生存率曲線からはTNFαは放射線障害の治癒機構に必要かつ重要な働きをしていると考えられ、現在さらに死因とそのメカニズムについて組織学的検査、抗酸化酵素、たんぱく質発現について解析中である。
  • 道川 祐市, 野宮 琢磨, 田巻 倫明, 大塚 好美, 塩見 尚子, 塩見 忠博, 岩川 眞由美, 今井 高志
    セッションID: GO-053
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    マウス扁平上皮癌SCCVII、およびNR-S1は、γ線及び炭素線を用いたin vivo腫瘍増殖遅延アッセイにおいて、SCCVIIは放射線高感受性を示し、一方のNR-S1は放射線低感受性を示す。この違いはin vitroコロニー形成法にても保持されていた。本研究の目的は、in vitro培養系における両者の放射線応答様式を時系列で比較解析することにある。  まず、対数増殖期のSCCVIIとNR-S1にそれぞれ0Gy(非照射)・4 Gy・8 GyのX線を照射してからトリプシン処理を行い、一定数の細胞を新しい培養ディッシュに播種した。CO2インキュベーター内で24時間培養後にタイムラプス位相差顕微鏡観察を開始した。5分間隔でハロゲンランプ照射による可視光撮影を行い、48時間の観察期間内に計576枚の画像を取得した。SCCVIIとNR-S1のそれぞれにおいて、取得した画像内に収められている細胞個々の挙動を時系列解析して比較を行った。  SCCVIIは、X線非照射の条件において個々の細胞が独自のタイミングで独立性を保ったまま分裂を繰り返し、分裂中及び分裂後の細胞が融合することはほとんどなかった。4 Gyもしくは8 Gy照射により多くの細胞に分裂遅延がもたらされ、細胞サイズの巨大化が認められるようになったが、このような状況でも分裂する際は細胞個々の独自のタイミングで起こり、細胞融合は稀な現象であった。一方のNR-S1では、X線非照射の条件において隣り合った細胞同士が高頻度で同調分裂を示した。これら同調分裂中の複数の細胞は融合し、ひとつの分裂中間体を形成した後、最終的に複数個の細胞を生み出すことがたびたび観察された。4 Gyもしくは8 Gy照射時においてもこのような分裂様式は保持された。さらに、分裂遅延や細胞サイズの巨大化はSCCVIIにおいて見られたほど顕著ではなかった。今後、放射線応答様式と放射線感受性との因果関係について解析を進める予定である。
  • 武藤 光伸, 大野 由美子, 古澤 佳也, 小山田 敏文, 鈴木 雅雄, 八木 直人, 小池 幸子, 鵜澤 玲子, 柿崎 竹彦, 和田 成一 ...
    セッションID: GO-054
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】<BR/>  薄い平面状放射光X線を多層スリット状に照射するmicrobeam radiation(MR)は、新しいがん治療法として期待されており、MRの腫瘍や正常組織に対する影響の解明が試みられている。<BR/> 【目的】<BR/>  マウス線維肉腫(NFSa)に対してMRを施し、腫瘍治療効果と正常組織の耐容線量について検討する。<BR/> 【材料と方法】<BR/>  実験は大型放射光施設SPring-8の共用ビームラインBL28B2で行った。ビームラインに輸送される白色X線を175 µm厚のタングステンと25 µm厚のカプトンフィルムの多層スリットコリメータに通過させて、多層の薄いスリット状のビームを形成した。照射8日前にNFSaをC3Hマウスの後肢に移植した。一部のマウスは照射部位を剃毛し、皮膚反応を観察した。なお、皮膚の評価はSkin Reaction Scoreに基づいて行った。<BR/> 【結果】<BR/>  腫瘍体積が1 cm3に達するまでの日数は、対照群に比べ、MRで有意に延長した。他方、スリットを通さないbroadbeam radiation(BR)では、組織に対する吸収線量が同一の場合でもMRよりさらに増殖抑制効果が強かった。<BR/>  皮膚に対する影響は、約200 Gyの照射において、MR後10日目には、BRよりもScoreが高くなったが、14日目以降にはBRよりもScoreが低くなる傾向が認められた。<BR/> 【考察】<BR/>  同等の増殖抑制効果を持つMRとBRであっても、MRでは実際の照射面積はBRの1/8と少なく、かつビーム幅も極めて狭いことから細胞の補填効果などで細胞の修復が早くなる。一方、BRでは照射面積が大きく、正常組織も多くの障害を受けることから皮膚の治癒も遅くなると考えられた。
  • 増永 慎一郎, 安藤 興一, 鵜澤 玲子, 平山 亮一, 古澤 桂也, 櫻井 良憲, 永田 憲司, 鈴木 実, 菓子野 元郎, 木梨 友子, ...
    セッションID: GO-055
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】γ線及び原子炉中性子線照射と比べた加速炭素イオン線照射に対する固形腫瘍内休止期及び全腫瘍細胞の反応を解析する。
    【材料・方法】担SCCVII腫瘍マウスに、6cmSOBP(拡大ブラッグピーク)のさまざまな深さで、LET(線エネルギー付与)=74,50,43,18 keV/μmの290MeV/u加速炭素イオン線を約1.0Gy/分または約35mGy/分で照射した。比較として、約2.5Gy/分または約35mGy/分でγ線を、約36mGy/分で原子炉熱外中性子線または熱中性子線を照射した。照射直後と12時間後に、細胞分裂死と密接に関連する小核出現頻度(MNfr)とBrdUの連続投与による休止期(Q)腫瘍細胞の同定とを結合した選択的Q腫瘍細胞反応検出法を用いて、腫瘍内Q細胞と全(P+Q)腫瘍細胞への殺腫瘍細胞効果をMNfrと腫瘍細胞生存率で評価した。
    【結果】いずれの条件下でもQ腫瘍細胞は(P+Q)細胞よりも低い感受性を示し、γ線照射下で認められる両細胞間の感受性の大きな差は、原子炉中性子線照射または加速炭素イオン線、特に高LETを有する炭素イオン線照射によって顕著に縮小された。γ線照射下においてQ腫瘍細胞により顕著に認められるPLDRや照射線量率低下による感受性の低下は、加速炭素イオン線、特に高LETを有する炭素イオン線照射によって効率的に押さえられた。減弱させた線量率照射下では、高LETを有する加速炭素イオン線照射に対する感受性は、原子炉中性子線照射下とほぼ同様であった。
    【結論】Q細胞をも含んだ腫瘍全体としての殺腫瘍細胞効果から見て、加速炭素イオン線、特に高LETを有する炭素イオン線照射は、精緻な線量分布と共に、腫瘍内不均一性に起因する腫瘍細胞の不均一性な感受性の抑制に非常に有効である。
  • 斉藤 正好, 川田 哲也, 井上 幸平, 劉 翠華, 神應 百重, 安藤 興一, 伊東 久夫
    セッションID: GO-056
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    『目的』脳に対する重粒子線照射の障害についてラットの視床下部に炭素線を照射して自発運動活性の変化から照射の影響につて検討した。 『材料および方法』動物は8週齢の雄ラットを用いた。照射にはHIMAC(放医研)の炭素線で290MeV/nucleon、Mono Beamを使用し、ラット視床下部へ5mm立方の照射野に60Gyの単一照射を実施した。炭素線の照射位置はイメージングプレート法によって確認した。ラットの自発運動活性は車回し運動を採用し、測定直前に運動活性増強作用を有するメタンフェタン(MAP)を投与して90分間の運動量を計測した。 『結果および考察』MAPによる車回し運動の増加効果はMAP2.0mg/kg投与で最も高い運動量の増加が得られ、本実験を通してこの投与量を採用した。MAP投与による車回し運動活性は照射群および対照群で初回の測定が最も高い行動量が測定された。対照群では投与頻度に依存した運動量の低下が2回目(照射6週後)から5回目(照射22週後)でみられた。しかし、照射群ではMAPの投与回数に依存した低下傾向がみられなかった。このことは1)対照ラットではMAP投与による自発運動活性増加効果に対する耐性が投与回数に依存して獲得されている可能性を示しており、2)脳の炭素線照射ラットではこの耐性獲得が阻害されていることを示唆する。3)この照射ラットに対するMAPの自発運動活性増加効果は、照射26週間以後に消失することから大線量照射による急性期障害(脳浮腫)が照射局所に発現している可能性を示唆し、その浮腫による血行障害を周囲の血流を促進することによって補っていると推測された。
  • 小池 幸子, 安藤 興一, 鵜沢 玲子, 古澤 佳也, 平山 亮一, 松本 孔貴, 渡邊 雅彦, 岡安 隆一
    セッションID: GP-163
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    本研究の目的は、腫瘍不均一性の意義について実験的に調べることである。2種類の肉腫#6107 と#9037細胞を同系C3H雄マウスに移植し、これが生着して成育した腫瘍を摘出して単一細胞浮游液を作製した。適切な混合比率にて2種類の肉腫細胞数を調整し、マウス下肢皮下移植した。腫瘍が7.5-8.0mm径に達した時点で、下肢腫瘍を290MeV/n炭素線にて一回照射した。腫瘍増殖(TG)時間を腫瘍毎に調べ、腫瘍増殖遅延時間を計算し、線量―効果関係を求めた。炭素線RBEは対照ガンマ線との比較にて求めた。腫瘍治癒率は照射150日後における結果に基づいて計算した。移植時の細胞数混合比を変えて作製した腫瘍の増殖時間は一定ではなく、#6107と#9037の混合比が9:1,5:5そして1:9の場合には、それぞれ8.3、3.8および6.1日であった。照射による増殖遅延が15日になる線量を5種類の混合比間で調べると、ガンマ線は18から48Gyまで、そして炭素線は8から18Gyまで分布していた。混合比9:1の腫瘍はガンマ線抵抗性を示し、親細胞単独の腫瘍よりもガンマ線低感受性となっていた。しかし炭素線に対しては中程度感受性であった。腫瘍治癒で調べた中間結果データでも混合比9:1の腫瘍は1:9の腫瘍よりも炭素線高感受性を示していた。こうした細胞間の相互作用は低酸素細胞ないし細胞周期を介している可能性が考えられるが、どのようなシグナルが関与するかについては不明である。腫瘍不均一性は高LET放射線のRBEに強く影響する、ということが結論された。
  • 安井 博宣, 桑原 幹典, 小倉 亜希, 浅沼 武敏, 松田 彰, 稲波 修
    セッションID: GP-164
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 現在広く行われている放射線治療は、白血病などには一定の治療成績を上げているが、固形腫瘍に対しては未だ十分であるとは言えない。この抵抗性の一因として腫瘍内低酸素細胞が挙げられ、転写因子HIF-1αの活性化を通して腫瘍を生存の方向へ向かわせる。従って低酸素細胞を標的とすることは、腫瘍の完治を目指す上で重要となる。我々は前学会で、移植固形腫瘍に対して、RNA合成阻害剤であるTAS106がX線による腫瘍成長抑制効果を増強することを報告した。また低酸素条件下においても、TAS106は放射線誘導アポトーシスを増強することが明らかとなった。本研究では、低酸素細胞に対するTAS106の効果をより詳細に検討した。
    [方法] TAS106処理およびX線照射されたMKN45細胞を低酸素下で培養した後、細胞死および低酸素誘導蛋白質の発現を検討した。HIF-1αの機能を明らかにするため、特異的アンチセンスオリゴを導入した細胞における低酸素誘導細胞死への影響を調べた。また0.5 mg/kgのTAS106と2 GyのX線で処置した固形腫瘍内の低酸素領域を描出し、HIF-1α発現への効果を組織学的に検討した。
    [結果] HIF-1αをノックアウトすることにより、低酸素条件下でアポトーシスの増加が観察され、これはX線により増強された。また0.1 μMのTAS106処理によって低酸素誘導性のHIF-1α発現が抑制されていた。さらに、in vivo実験系では、併用処置により低酸素領域の縮小、低酸素細胞死ならびにHIF-1α発現の抑制が観察された。以上のことから、HIF-1αが低酸素細胞のアポトーシス抵抗性に重要な役割を担っており、TAS106がHIF-1αを抑制することで低酸素細胞に細胞死を誘導していることが示唆された。
  • 浜田 信行, 原 孝光, 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 片岡 啓子, 楚良 桜, 鈴木 芳代, 深本 花菜, 横田 裕一郎, 大村 素子, 小 ...
    セッションID: GP-165
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    重粒子線は、低LET放射線に比べて、生物学的効果が高く、線量分布の集中性にも優れていることから、がん治療に利用されている。本研究では、抗アポトーシス因子として知られているBcl-2を高発現するがん細胞の放射線抵抗性に及ぼす重粒子線の効果を明らかにすることを目的とした。ヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞にBcl-2を過剰発現させたHeLa/bcl-2細胞は、薬剤耐性遺伝子のみを導入したHeLa/neo細胞よりも、LET = 0.2 keV/μmの60Coガンマ線と16 keV/μmの重粒子線には抵抗性であったが、76-1610 keV/μmの重粒子線照射後の生存率は両細胞で一致したことから、Bcl-2の高発現に起因する放射線抵抗性は高LET重粒子線の照射により消失することがわかった。さらに、吸収線量あたりの殺傷効果が最も高かった炭素線(108 keV/μm)を照射したHeLa/bcl-2細胞では、HeLa/neo細胞に比べ、有意なアポトーシス誘発率の低下とともにG2/M期停止の延長が認められたことから、Bcl-2は、抗アポトーシス因子であるだけではなく、細胞周期チェックポイントにも関与している可能性が強く示唆された。今後は、Bcl-2が重粒子線照射後のG2/M期停止を引き起こす分子機序を明らかにしていきたい。
  • 北島 正一朗, 中村 英亮, 安井 善宏, 石崎 寛治
    セッションID: GP-166
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    重粒子線治療は悪性腫瘍に対しての高い有効性が認識されつつある。しかしながら人口の約1_%_を占めると考えられるAT-heterozygoteの重粒子線被曝に対する影響はいまだ明らかにされていない。そこで我々はこれまでに、ヒト不死化AT-heterozygote細胞株に対して、40および200keV/μmの重粒子線照射による影響を検討し、正常細胞と比較してRBE増加が認められることを報告した。今回は様々なLETで照射した場合のRBEを比較、検討した。 実験にはhTERT遺伝子を導入した、正常人由来細胞株、AT-heterozygote細胞株、およびAT細胞株を用いた。それぞれの細胞株に24, 40, 50, 60, 200keV/μmのLETで照射を行なった。その後Corony formation assayにより生存率をもとめ、X線照射時における生存率をもとにRBEを算出し比較した。また、 γH2AXフォーカス形成を正常人由来細胞と比較した。 その結果、正常人由来細胞株は24~40keV/μmでは変化が認められず40keV/μm以上でRBEが増加したのに対して、AT-heterozygote細胞株では24keV/μm以上のエネルギーでLET依存的なRBEの増加を示した。一方AT細胞株では24~40keV/μmまではLETに応じてRBEが増加したが、それ以上ではプラトーとなりRBEは増大しなかった。γH2AXフォーカス形成では正常人由来細胞とAT-heterozygoteの間に差は認められず、DSBの修復についても差はなかった。 これらの結果からAT-heterozygoteの重粒子線に対する感受性は非常に高く、重粒子線治療の際には正常人に対して影響がより大きいと考えられる。今後AT-heterozygoteの放射線高感受性の分子生物学的メカニズムについて明らかにしていく必要がある。
  • 劉 勇, 工藤 幸清, 阿部 由直, 青木 昌彦, 鬼島 宏, 胡 東良, 中根 明夫
    セッションID: GP-167
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに:癌における低酸素と血管形成については癌治療の関点からよく検討されている。In vitroで、低酸素細胞と放射線の影響について注目されており重要な領域である。一方で、血管形成といえば癌の悪性増殖に必要なだけではなく、正常組織の成長、或いは組織障害の回復の場合においても、非常に重要と考えられる。近年、放射線に誘導された低酸素について、正常肺、あるいは神経組織の放射線障害への役割が報告されている。放射線治療の場合、放射線腸炎は一つの合併症としてよく見られる。そこで今回、われわれは放射線直腸炎における低酸素、更に血管形成の影響を検討した。 材料・方法:C57BL/6N マウス(12週齢♀)を照射ジぐに固定し、直腸部分に25 GyをX線で1回照射した。照射後の1日目、7日目、14日目、30日目、更に90日目で、サンプルを採取した。Transforming growth factor beta1 (TGF-beta1)、hypoxia-inducible factor-1 alpha (HIF-1 alpha)、vascular endothelial growth factor (VEGF)、血管内皮細胞マーカーCD31のmRNAの変化と組織変化をrealtime PCR、H.E 或いはAZAN染色で検討した。また、HIF-1 alpha、VEGFとCD31の発現を免疫染色、或いは免疫蛍光染色で観察した。更に、TGF-beta1とVEGFはモノクローナル抗体でHIF-1alphaは抑制剤であるYC-1でそれそれの発現を抑制した影響を検討した。 結果:非照射コントロールと比べて、X線照射後の90日目から腸管粘膜と粘膜下組織で、コラーゲンが増加し、線維化を伴った。因子の発現について、TGF-beta 1は照射後の14日目から増加したが、HIF-1 alpha、VEGFとCD31は照射後30日まで、有意な変化が見つけられなかった。しかし、照射後の90日目で線維化の形成による、TGF-beta 1、HIF-1 alpha、VEGF及びCD31の増強が見られた。 更に、二重免疫蛍光染色では、HIF-1 alphaとVEGF、またはHIF-1 alphaとCD31は線維化を示したサンプルの同じ部分で発現された。TGF-beta、HIF-1alphaまたはVEGFの抑制で線維化の誘導を減少することが確認された。 考察・結論: これらの結果により、放射線により誘導された低酸素は放射線晩期直腸障害に影響を及ぼしており、放射線による晩期効果発現の一因と考える。
  • 楚良 桜, 浜田 信行, 舟山 知夫, 坂下 哲也, 小林 泰彦
    セッションID: GP-168
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    低LET放射線に比べて、重粒子線は、物理学的特性に優れており、殺細胞効果も高いことから、がん治療に用いられている。しかし、線量分布の集中性に優れているといえども、腫瘍組織の内部や周囲に存在する正常組織への照射は避けられない。放射線治療に伴う線維症の誘発は、正常細胞の分化の促進に起因すると考えられているが、重粒子線による分化の誘導効果はこれまでに明らかとされていない。そこで、本研究では、60Coのガンマ線(LET=0.2 keV/μm)または炭素線(108 keV/μm)を照射したヒト正常線維芽細胞における形態学的分化の誘導を解析した。その結果、照射後5日目での分化の誘導に対する炭素線の生物学的効果比が、約4であることがわかった。今後は、線維芽細胞の放射線照射による分化促進のLET依存性と、その機序について明らかにしていきたい。
  • 趙 慶利, 藤原 美定, 近藤 隆
    セッションID: GP-169
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]温熱と高濃度10 mM nitroxide TempoによるU937細胞のcaspase-independent pyknotic cell death (CICD)を報告した (Zhao et al, 2006)。より低濃度5 mM Tempoと温熱によるcaspase依存アポトーシスの増感分子機構の探究。[方法]U937細胞をTempo (5 mM、10 mM)または温熱 (44°C-10分、44°C-30分)の単独、同時併用処理後、種々の細胞・タンパク分子学的方法によって機構を解析。[結果・考察](1) 5 mM Tempoまたは44°C-10分処理はU937細胞アポトーシスをおこさないが、両者の併用は処理後6 hで44°C-30分と同程度の70-80%に温熱アポトーシスを増強した。(2)その機構はBaxの活性化(Bax 6A7 mAb 免沈)とミトコンドリア(MT)への転位促進、cytochrome c (Cytc)の遊離によるcaspase-9-caspase-3の活性化であった。しかし、(3) biotin-zVAD-fmk前処理細胞の温熱・併用処理後の抽出液をstrepavidin pulldownすると、caspase-9活性化のみならず、Cytcに依存しないcaspase-8とcaspase-2のinitiator caspasesをも活性化するという新機構が明らかになり、この阻害剤は温熱と併用による誘発アポトーシスを有効に抑制した。(4) ゲルダナマイシンによるHSP70誘導は温熱細胞死を完全に阻害。(5) 44°C-30分、5 mM Tempo-44°C-10分処理後のMT膜電位低下はzVADで防げたが、10 mM Tempo-44°C-30分処理はzVAD抵抗性低下をおこし、Bnip 3のMT発現と関連してCICDの一因となった。
  • 七條 和子, 三浦 史郎, 松山 睦美, 中島 正洋, 中山 敏幸, 坂本 雅志, 佐藤 浩, 高橋 利一, 関根 一郎
    セッションID: GP-170
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    子宮頸癌の放射線療法で晩期障害として発生する放射線腸炎は遅延し、難治性である。近年、骨髄幹細胞が肺や消化管の上皮細胞に分化するとの報告がある。放射線大腸炎モデルの修復過程における骨髄由来幹細胞の関与について検討した。1)Wild typeのWistarラットをレシピエント、Green Fluorescent Protein (GFP)遺伝子導入されているWistarラットをドナーとして骨髄移植を施行した。レシピエントラットの大腸にX線22.5Gyを局所照射し、放射線腸炎の修復過程を検討した。免疫染色により、抗GFP抗体陽性のドナー由来の細胞が大腸上皮細胞に僅かながら認められた。Western blotにより、大腸のX線照射部位にGFP蛋白の高発現が認められた。2)レシピエント雌性ラット、ドナー雄性ラットを用い同様にして、FISH(Y/12 chromosome)法にて骨髄由来細胞を同定した結果、Y chromosomeを陽性の大腸上皮細胞を認めた。以上より、放射線大腸炎モデルにおいて再生上皮における骨髄由来幹細胞の関与が明らかになり、再生医療の一環として骨髄移植があげられる可能性が示された。
  • 辻 厚至, 曽川 千鶴, 須尭 綾, 須藤 仁美, 金 朝暉, AUNG Winn, 豊原 潤, 小泉 満, 古川 高子, 原田 良信, 樋 ...
    セッションID: GP-171
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    悪性中皮腫は、胸膜や腹膜の中皮細胞から発生し、アスベスト暴露が原因とされている。現在のところ発症率は低いが、今後世界中で患者の増加が予想されており、大きな社会問題となっている。様々な治療法が試されているが、中間生存期間が8~18ヶ月と予後はたいへん悪いことから、新たな治療法の開発が強く望まれている。新しい治療法の開発には、その治療効果を非侵襲的にかつ早期に判定する画像診断法の開発が重要である。F-18標識フルオロデオキシグルコースを用いるポジトロン断層法 (FDG-PET) は腫瘍の診断に広く使われている。しかし、FDGは炎症性変化にも集積するために、治療部位に反応性炎症が発生した場合にも集積が見られるため、治療効果の早期判定には限界があり、炎症の影響の少ない他のトレーサーの検討が求められている。F-18標識フルオロチミジン(FLT)とC-11標識チオチミジン(S-dThd)はともにチミジン誘導体の核酸代謝トレーサーであり、FDGに比べ炎症部位に集積しにくいと報告されている。本研究では、中皮腫の同所移植モデルマウスを作成し、上述の3種類のPETトレーサーでの胸膜中皮腫のイメージングを比較検討したので報告する。
  • 曽川 千鶴, 辻 厚至, 須堯 綾, 須藤 仁美, 小泉 満, 古川 高子, 原田 良信, 佐賀 恒夫
    セッションID: GP-172
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor, GIST)は食道・胃・小腸・大腸などの消化管壁から発生する腫瘍である。その多くは、消化管ペースメーカー細胞に発現している受容体型チロシンキナーゼをコードするc-kit遺伝子の機能獲得型突然変に起因し、消化管ペースメーカー細胞の増殖による腫瘍化がGIST発生の主な原因と考えられている。GISTの多くにはFDGの高集積を認めるため、腫瘍の存在診断だけでなく、イマチニブ(グリベック)治療の効果判定にもFDG-PETが広く使われるようになってきている。しかし、グリベックによる治療効果により腫瘍が縮小し、FDG-PETで陰性化した患者のなかに再発する症例が報告されている。これらは病理診断の結果c-kit陽性であったことから抗c-kit抗体を画像診断のプローブとして利用することができれば、再発の診断能の向上に貢献すると期待される。そこで、抗c-kit抗体のPET/SPECT診断への応用の第一歩として、in vitro での評価系を構築し、抗体をI-125で標識して培養細胞での評価を行った。 プローブ評価用モデル細胞作成のため、GISTと同じ機能獲得型突然変異c-kitの発現ベクターを構築し、大量培養に適したヒト胎児腎臓由来HEK293細胞へ導入して恒常的に機能獲得型突然変異c-kitを発現する細胞株を樹立した。抗c-kitモノクローナル抗体をI-125で標識し、細胞結合実験と競合阻害実験を行ったところ、細胞への特異的結合が確認できた。次に、抗体の細胞内局在を経時的に追跡したところ、細胞膜に結合した抗体の多くが内在化し、その後脱ヨード反応により遊離したヨードが細胞外に排出される事が示唆された。このことから、ヨード標識抗体ではなく、細胞内貯留性の高いインジウム等の金属核種での標識が適していると考えられた。
被ばく影響とその評価
  • 荘司 俊益
    セッションID: HO-057
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放射線のヒトに対する影響をみる場合、重要視される分野の一つが、母親の妊娠中の放射線被曝の影響である。これまでの放射線による異常発生の研究でもよく観察されている小頭症・中枢神経系形成障害等と比べると、妊娠母体に放射線を照射し、その胎児への神経堤の機能異常、上皮-間葉転移(EMT)の異常並びに心・大血管異常の発生を詳細に調べる研究はあまり報告されていない。我々は、異常発生の予防と治療、並びに放射線防護・安全性対策についての基礎的資料を得る観点から、各種放射線照射の生物学的作用の特異性、特に種々な線量や照射日と異常発生との関係について検討する必要があると考えている。今回は以上の点を留意し、放射線を用いてDNA損傷、上皮-間葉転移、神経堤障害と催奇形感受性の関連性を明らかにするために、ガンマ線とトリチウム水を妊娠ラットの母体に全身照射し、種々な線量によって形成された生存胎仔の異常発生、特に心・大血管系異常及び外表奇形との関係について報告する。本研究では、妊娠母体の照射日によって照射群に異常発生、特に心・大血管および顔面異常の発生が高頻度に認められた。ガンマ線照射群での胎仔の唇裂、口蓋裂など顔面、胸腺などの異常の発生頻度はいずれも線量依存性に増加した。心室中隔欠損、肺動脈幹低形成(Fallot四徴症)、両大血管右室起始症、騎乗大動脈、右側大動脈弓、大動脈弓狭窄、房室弁中隔異常など心・大血管系異常の発生頻度にも線量依存性の増加が認められた。一方、トリチウム水投与群での胎仔の顔面、胸腺の低形成、肺・気管、四肢など異常の発生頻度も線量依存性に増加した。また、心室中隔欠損、Fallot四徴症、両大血管右室起始症、騎乗大動脈、房室弁中隔異常、右側大動脈弓、大動脈弓狭窄など心・大血管系異常の発生頻度も線量依存性に増加した。これらの結果から、ガンマ線照射群実験の特長は胎仔の異常、いわゆる神経堤障害Neurocristopathy症候群、特に、心室中隔欠損、Fallot四徴症、両大血管右室起始症、騎乗大動脈、房室弁中隔異常、右側大動脈弓、大動脈弓狭窄並びに大動脈弓分岐異常の形成において極めて感受性が高いことが示された。他方、トリチウム水投与群胎仔の異常発生、いわゆる神経堤障害によるトリチウム水HTO症候群、特に肺・気管系異常、心室中隔欠損、Fallot四徴症、両大血管右室起始症、騎乗大動脈、房室弁中隔異常、右側大動脈弓、大動脈弓狭窄の形成においても極めて感受性が高いことが示された。これらのスペクトラム並びにトリチウム水HTO症候群の表現型はヒトの神経堤障害症候群に類似しており、神経堤の機能異常並びに上皮-間葉転移の異常が関与することが考えられる。またこれらの心・大血管系異常の各型とその頻度はヒトの心・大血管疾患のそれと極めて類似しており、このことからヒトの神経堤障害、上皮-間葉転移の異常並びに心・大血管異常の形成には放射線などの関与が大きいことが示唆される。因みにこのような症侯群は、ヒトではDiGeorge並びにAlagille症侯群と呼ばれており、環境への事故の影響を考える時、これらに対する放射線汚染などの影響を考慮することは不可欠である。この動物モデルは、これらのヒトの形成異常の発生機構並びに形成異常生物学的効果比の値の解明にも有用であると考えられる。
  • 広部 知久, 江口ー笠井 清美, 村上 正弘, 菅谷 公彦
    セッションID: HO-058
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    我々はマウスの皮膚のメラノブラストの分化及び個体の発生に対する重粒子線の影響を調べている。シリコンイオン線による、主として白斑形成については第48回本大会(広島)で発表した。今回は、アルゴンイオン線(500 MeV/u, LET=100 KeV/μm)について調べた。C57BL/10J系統のマウスの9日齢の胎児にアルゴンイオン線を照射すると、0.5 Gyから出産率が低下し、0.75 Gyでは100%致死であった。ガンマ線照射では1 Gyまで出産率の低下が見られず、2 Gyで100%致死であったので、アルゴンイオン線はガンマ線に比べてかなり致死効果が強いことがわかる。腹部白斑(メラノブラストに対する致死作用)出現頻度については、これまでの報告によると(Hirobe, 1994)、ガンマ線では0.5 Gy照射個体の白斑頻度は44%であった。ところが、アルゴンイオン線では0.2Gy照射群で33%であり、ガンマ線より効果がかなり強かった。一方、腹部白斑部域の面積は0.5 Gyガンマ線が4.4 mm2であったのに対し、アルゴンイオン線は0.2 Gyで9.7 mm2であった。従って、アルゴンイオン線はガンマ線よりメラノブラストに対する致死作用がかなり強いと考えられる。一方、重粒子線の胎児への致死効果、発生異常の頻度を調べるために胎生18日に胎児を取り出し、体重、発生異常、メラノサイト数について調べた。シリコンイオン線照射個体では胎児の体重が0.75Gy照射群から減少した。さらに、四肢形成異常や尾の折れ曲がり、小眼、尾や四肢の付け根の内出血などの発生異常の頻度は0.1 Gyから線量に応じて増加し、表皮メラノブラスト・メラノサイト数は0.1 Gyから減少した。アルゴンイオン線でも同様の傾向が見られた。以上の結果から、シリコンイオン線やアルゴンイオン線は低線量照射でもマウスの発生に影響を与え、四肢、尾、目、血管、皮膚等の形成異常を引き起こすことが示唆される。
  • 西 信雄, 杉山 裕美, 坂田 律, 船本 幸代, 古川 恭治, 清水 由紀子, 早田 みどり, 陶山 昭彦, 笠置 文善, 児玉 和紀
    セッションID: HO-059
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】結腸と直腸は隣接した臓器で、両部位ともがんの主要な組織型は腺癌である。しかし、放射線影響研究所が長期の追跡調査を行っている寿命調査集団では、がん罹患に関して統計学的に有意な放射線のリスクは結腸にしか認められていない。本研究は、寿命調査集団において結腸の詳細部位別に放射線のリスクを明らかにすることを目的とした。
    【対象と方法】対象を1958年時点でがんの既往がなく、個人線量(DS02)が推定されている寿命調査集団の105,427人とし、1998年まで追跡した。がんの罹患は、広島市・広島県、長崎県のがん登録により把握した。粘膜がんは分析から除外した。結腸は近位結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)と遠位結腸(下行結腸、S状結腸)の2つに区分した。放射線に関連した過剰相対リスクは、ポアソン回帰モデルにより都市、性別、到達年齢、出生年、被曝場所で補正して求めた。
    【結果と考察】結腸がん1,196例(近位550例、遠位646例)が把握された。近位と遠位の結腸がんの過剰相対リスク(到達年齢70歳において1Gyあたり)は、それぞれ男性で0.35と0.64、女性で0.39と0.24であった。近位結腸をさらに2つに分けると、1)盲腸、上行結腸(394例)と2)横行結腸(156例)の過剰相対リスク(到達年齢70歳において1Gyあたり)は、それぞれ男性で0.00と0.87、女性で0.01と1.21であった。上記のいずれの過剰相対リスクも統計学的に有意ではなかったが、がん罹患における放射線のリスクは盲腸、上行結腸で最も低いことが示唆された。
  • 三浦 史郎, 中島 正洋, 伊東 正博, 近藤 久義, セリック メイルマノフ, 林 徳真吉, 早田 みどり, 松尾 武, 関根 一郎
    セッションID: HO-060
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】原爆被爆者の腫瘍発症に関する分子異常と機構の解明を目標としている。我々は放射線誘発甲状腺癌にRET遺伝子増幅を見出した。甲状腺乳頭癌でのRET遺伝子増幅は新規異常であり遺伝子不安定性に基づく現象と推察する。乳癌と放射線との因果関係はよく知られている。本研究では被爆者乳癌でのHER2,C-MYC遺伝子増幅と被爆との関係を解析した。【対象と方法】1961-1999年に病理診断された乳癌を対象とし被爆情報とリンケージを行った。病理標本を収集し新「取り扱い規約」に準じ再検討した。パラフィン切片 を用い,HER2,C-MYC増幅のためのFISH解析とHER2, ホルモン受容体発現のための免疫染色を行った。罹患率, 病理学的因子, HER2, C-MYC, ホルモン受容体発現と被爆距離との相関を解析した。【結果】593例の被爆者乳癌を抽出した。粗罹患率は54.1/10万人・年で近距離被爆との間に有意な相関(RR: 1.472, 95% CI: 1.304-1.663)がみられた。近距離群(1.5km以下、n=35)では遠距離群(1.5km以上,n=32)や非被爆者群(n=30)に比し,HER2とC-MYC遺伝子増幅頻度が有意に高率であった。共遺伝子増幅頻度はさらに高率で、多変量解析による3群間比較でのRRは22.923であった。組織異型度因子中、核の大きさと分裂像は近距離群で有意に高度であり、遺伝子増幅と相関した。【考察と結語】近距離群でのHER-2及びC-MYC遺伝子増幅頻度の亢進は、原爆放射線被曝の関与を示唆している。一般的に固形癌での癌原遺伝子増幅は高悪性度群で観察され遺伝子不安定性と関連する。近距離群では放射線被曝後障害としての遺伝子不安定性が比較的高度で、結果として遺伝子増幅頻度と組織学的悪性度が亢進しているのかもしれない。
  • 加茂 憲一, 高田 純
    セッションID: HO-061
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    地表核爆発となる核兵器テロに対する放射線防護を研究している。今回は、先に求めた線量空間分布を東京都に適用し1、生存者の超過がん死亡を、Wumらが提唱した生命表の方法で予測した2,3。がん統計として2000年東京都5歳階級別人口とがん死亡数のデータを使用し、東京都の区市町村別の昼間人口データを役場の座標により10メートル単位で平滑化した人口分布データベースを作成した。  威力1キロトンの核爆発後、実効風速毎時24kmで核の灰が輸送され地表に降下する条件での、線量レベル分布を楕円形等高線で表現し、被災人口を求めると、A(4Sv以上)が5万人、B(1-3Sv)11万人、C(0.1-0.9Sv)69万人である。生存が厳しいレベルAを除くレベルBとCの生存者に対し予測した。その結果、生涯がん死亡超過リスクは、レベルCとBに対し、男性が0.8%、3.4%で、女性が 0.6%、2.5%となった。  これら生存群の寿命短縮を推定すると、レベルCとBに対し、男性が0.09歳、0.36歳で、女性が0.07歳 、0.29歳なった。すなわち、高線量を受けた生存者の寿命短縮は、顕著ではないことが予測された。なお、予測結果は1945年8月6日に空中核爆発を受けた広島の近距離生存者に対する調査結果と矛盾はない。 1 高田純. 東京に核兵器テロ! 講談社, 2004. 2 Wum LM., Merrill RM., Feuer EJ. Estimating lifetime and age-conditional probabilities of developing cancer. Lifetime Data Anal. 4 (1998) 169-186. 3 加茂憲一,金子聰,吉村公雄,祖父江友孝.日本におけるがん生涯リスク評価.厚生の指標 52-6 (2005) 21-26.
  • 横田 賢一, 三根 真理子, 柴田 義貞
    セッションID: HO-062
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】飲酒、喫煙に関する情報は原爆被爆者の疫学研究に不可欠な生活習慣要因である。これらの情報の確かさを検討するため、異なる調査方法により収集した回答の一致度について検討することを目的とした。
    【対象と方法】長崎市は2003年3月、市内在住の原爆被爆者に対して自記式質問紙による郵送調査を実施した。また被爆者定期健診の際には毎回受診の度に飲酒、喫煙状況の聞き取りが行われている。郵送調査の有効回答者35,065人のうち、2002年4月1日から2004年3月31日までの間、原爆被爆者定期健診を受診し、回答の比較が可能な21,341人(男8,468人、女12,873人)を対象とした。対象の調査時年齢は男女共に56歳以上で平均年齢(標準偏差)は男69.4歳(7.2歳)、女71.5歳(7.9歳)であった。性、年齢別に郵送調査の回答に対する聞き取り調査の回答の一致度を調べた。また、被爆状況別の傾向の違いについても検討を行った。
    【結果と考察】男の飲酒については、郵送調査では毎日飲酒は35.9%、時々飲酒26.9%、非飲酒37.2%に対し、聞き取り調査では毎日飲酒44.8%、時々16.5%、非飲酒38.8%であった。男女共に聞き取り調査では時々飲酒の回答が減っている。時々飲酒の一致度は男で43.8%、女で35.3%である。特に女の場合は時々飲酒が非飲酒へ偏っていた。また、喫煙については、男は比較的一致していたが、女は郵送調査では現在喫煙が4.9%、過去喫煙4.4%、非喫煙90.6%に対し、聞き取り調査では現在喫煙が4.5%、過去喫煙0.7%、非喫煙94.9%と聞き取り調査では過去喫煙が特に低くなっており、一致度は11.2%で非喫煙に偏っていた。飲酒、喫煙の割合および回答の一致度について直接被爆(距離別)、入市、救護、胎児等の被爆状況による違いは見られなかった。
  • 三根 真理子, 横田 賢一, 太田 保之, 藤田 邦行
    セッションID: HO-063
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  長崎県は県内に在住する65歳以上のひとり暮らし被爆者を対象に、心の悩み、生活上の困りごと、医療・福祉の問題などに関する総合的な心身のサポート事業を立案した。 【方法】平成18年3月に3,291人に対し、訪問相談員の訪問を希望するか否かの確認を郵送により調査した。回答のあった2,010人のうち、596人が訪問を希望していた。1年目は361人を対象に訪問活動を行った。  訪問時には、被爆体験聞き取り調査項目、精神的健康度を評価するGHQ(12項目)、被爆体験のインパクト度を評価するIES-R(22項目)、生活の質を評価するWHO-QOL(26項目)などを用いた情報も収集された。  今回は、データ入力を完了した255人のうち、GHQ、IES-R、WHO-QOLのいずれかの無回答があった84人を除外し、残り171人を最終的な解析対象として中間報告を行う。  IES-Rを低得点群(24点以下)と高得点群(25点以上)の2群に区分し、2群間でWHO-QOL得点およびGHQ得点の比較を行った。平均の比較にはウィルコクソン検定を、頻度の比較にはカイ二乗検定を用いた。 【結果】  IES-R高得点群におけるGHQ平均点は3.17点、IES-R低得点群におけるGHQ平均点は1.42点となっており、IES-R高得点群のGHQ平均点は有意に高かった。また、IES-R高得点群におけるWHO-QOL平均点は2.90点、IES-R低得点群におけるWHO-QOL平均点は3.13点となっており、IES-R高得点群のWHO-QOL平均点は有意に低かった。 これらの結果から、被爆体験がトラウマとして強く残っている被爆者は、そうでない被爆者に比較すると、現在の精神的健康度が悪く、日常生活の質が低いことが確認された。
  • 日野 幸胤, 豊田 新, ROMANYAKHA Alexander, TARASOV Oleg, PIVOVAROV Sergey, 星 正 ...
    セッションID: HO-064
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    イメージングプレート(Imaging Plate;IP)に一定期間90Srを含む歯を置くと、β線放出核種の濃度の分布がわかる。これは、IPが輝尽性発光現象を用いたディジタルラジオグラフィと呼ばれる二次元の放射線イメージセンサシステムで、各種放射線に対して高感度・広いエネルギー領域での測定が可能であるからである。
     今回は、今現在の汚染地域の汚染状況を知るために、旧ソ連の汚染地域の動物の歯を用いて実験を行った。ロシアのウラル地方は、1957年にMayakで起きた化学的爆発により高レベル放射性廃棄物の飛散で汚染された地域である。また、カザフスタンのセンパラスチンスク核実験場では、1949年から40年の間に計467回核実験が行われた。これらの地域から採取した動物の歯をIPで測定し、それぞれの90Srの濃度を求めた。採取した試料をダイヤモンドカッターで1mmの厚さにスライスし、スライスした歯と濃度既知標準試料を同じIPに乗せ、鉛で作られた箱に1週間放置したのち、IP測定装置である富士フィルム株式会社製BAS-1800_II_で測定した。また、画像処理ソフトであるMulti Gauge V3.0で画像処理を行い、信号強度を求め、標準試料との比較から90Srの濃度を得た。
     この結果を既知土壌汚染レベルと比較を行うと、ロシアでは、土壌汚染レベルが高いとされるOzyorskoeで10.0Bq/gと90Srの濃度が高く、低い土壌汚染レベルとされるArgayashでは0.03Bq/gと90Srの濃度が低いという結果が得られた。このことから、一般的には土壌汚染レベルが高くいほど90Srの濃度が高くなると思われる。また、同様にカザフスタンも比較を行うと、爆心地で付近では1.87Bq/gと90Srの濃度が高いという結果が得られた。また、爆心地以外の地域であるMaysk districtでも0.50Bq/gと90Srが含まれている結果が得られ、今なお汚染が続いていることが認められた。

    Keywords
    イメージングプレート 90Sr 放射線事故
  • 田上 恵子, 内田 滋夫
    セッションID: HO-065
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射性廃棄物地層処分における安全評価および生物圏評価モデルでは、土壌から農作物への移行係数(Transfer Factor, TF)が重要なパラメータである。これまで我が国ではIAEAから1994に発行されたTechnical Report Series No.364などの環境中の放射性核種移行パラメータ集を利用してきた。このデータ集には主に欧米を主とした温帯のデータがまとめられているが、我が国の主食であるコメへの移行係数のデータはほとんど記載されていない。 IAEAでは2003年から2007年の5年間のプロジェクトEnvironmental Modelling for Radiation Safetyが行われており、このWorking GroupにおいてTRS-364の改訂に関する議論が進められている。ここでは、温帯のデータのみならず、より広い気候帯に幅を広げ、また、いろいろな種類の農作物試料についてのパラメータを集め、農作物の種類別にデータをまとめていく予定である。しかし、コメについては水管理の違いを考慮し、小麦を含む穀類に分類せず、独立したパラメータを提示することになった。 我々はこれまで特にアジアを中心としてコメへのTFを蓄積してきた。しかし、トレーサー実験では核種が限られており、放射性廃棄物地層処分に関わる重要長半減期核種の情報は十分得られていない。長半減期核種の場合は長期間環境と接することから、天然に存在する安定同位体と同様の挙動を示す可能性がある。そこで我々は放射性核種に代わって天然に存在する安定元素を測定することにより、放射性核種のTFを類推するために利用できるのではないかと考え、データを収集した。本発表では、コメへの種々の元素の移行係数について報告する。
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