日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
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低線量・低線量率
  • 香田 淳, 豊川 拓応, 石崎 瑠美, 一戸 一晃, 小木曽 洋一, 田中 公夫
    セッションID: P2-63
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    低線量率放射線長期連続被ばくの染色体への影響を明らかにするため、SPF条件下でC3Hマウスに低線量率[20 mGy/22 h/day(0.91 mGy/h)]137Csγ線を8週齢より最大400日間連続照射し、脾細胞中の染色体異常頻度と集積線量との関係をM-FISH法を用いて調べた。照射マウスでは、転座型異常と二動原体異常頻度は集積線量に依存して、8000 mGyまでほぼ直線的に増加し、またクローンが4000 mGyから出現し、6000 mGy以上で急増した。非照射対照マウスでは、8週齢より約400日後まで、加齢に伴う転座型異常および二動原体異常の増加は、殆んどみられなかった。低線量率放射線連続照射マウスおよび高線量率(890 mGy/min)照射マウスの染色体異常頻度を同一総線量(500 mGy)で比較して、線量・線量率効果係数(DDREF)を求めたところ、染色体異常の型により異なるが2.6から4.1となった。
    さらに、低線量率[20 mGy/22 h/day(0.91 mGy/h)]137Csγ線を200日間(4000 mGy)連続照射終了後、非照射SPF条件下で最大200日間飼育し、染色体異常頻度が減少するかどうかを調べたところ照射終了後150日目では、転座型および二動原体異常ともに減少したが、同週齢の非照射対照マウスの異常頻度レベルにまでは低下しなかった。不安定型染色体異常である二動原体異常頻度が低下しない理由は、脾リンパ球の寿命に伴う染色体異常頻度の減少のみでは説明できず、骨髄などからの未分化なリンパ球の脾臓への補給の可能性などほかの説明が必要である。以上の結果は低線量率放射線連続照射の脾リンパ球への影響が、高線量率放射線照射とは大きく異なることを示唆しており、照射後長期間を経ても存在する染色体異常が、低線量率放射線連続照射時に線量依存的にほぼ直線的に増加する要因になっていると考えられる。これらの知見は、低線量率放射線のリスク評価に役立つ。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
  • 高萩 真彦
    セッションID: P2-64
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    哺乳動物細胞における低線量率放射線影響の特徴は、突然変異誘発頻度などの線量率効果関係が変則的となる線量率レンジが見いだされることである。同じ総線量を与える(従って照射時間を変えた)条件で高線量率から低線量率へと照射強度を緩和していくと、その程度に応じて細胞致死や突然変異誘発頻度は漸次に低減していくが、致死効果の認められないレベルまで線量率が減弱されたとき、突然変異誘発頻度が下げ止まったり、逆に発生頻度の上昇(逆線量率効果)が引き起こされることが示されている。この反応性は一細胞周期当たりに導入される DNA 損傷数の減少とは相関しておらず、低線量率側での DNA 代謝機構の質的変化を示唆する。同様のレスポンスは種を越えて、例えばDNA 二本鎖切断(DSB)損傷に起因する遺伝子組み換えや染色体異常などの生物学的指標においても確認されており、低線量率放射線応答の分子基盤が DSB を共通項とすることの論拠を与えている(Knudson AG ら)。演者は、ある低線量率レンジにおける線量率応答の変則性に強い関心をもっており、この局面では生理的に自然発生する内在性 DSB に適した error-free 修復系と、より高い線量率で機能する非常時の修復系が拮抗しているという作業仮説を援用して、DSB 代謝因子の動態からこの実相に迫りたいと考えている。
    本研究は、突然変異誘発頻度が下げ止まる線量率レベルにおいて、DNA 代謝関連蛋白質の構造と機能に何らかの変化が生じている可能性を想定した。実験では、知見の豊富なヒトリンパ芽球様細胞を用いて、5mG/hr にてγ線を照射(総線量 ~3 Gy)し、成分解析の出発材料とした。その細胞核抽出液より DNA結合性蛋白質を選別した上で、非照射細胞との比較を行った。その結果、切断末端をもつ DNA への多因子会合性に基づく試験系において、複数の蛋白質に機能変化が生じている可能性を見出した。今回はその経過を報告する。
  • 小嶋 光明
    セッションID: P2-65
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【背景・目的】線量率効果は放射線の健康リスクを明らかにする上で非常に重要な現象である。しかし、その誘導メカニズムは明らかにされていない。我々は線量率効果の誘導メカニズムを次のように考えた。線量率は単位時間あたりの線量を意味する。従って、低線量率では単位時間あたりに生じる損傷が少なくなると考えられる。また、目的の線量に達するまでに時間がかかるため、その間に損傷と修復が繰り返し生じていると思われる。よって、低線量率では生物学的影響の誘発頻度が抑制されるのではないかと考えた。そこで、本研究ではこの可能性を検討することを目的とした。【結果・考察】まず、40~80 mGyのX線を一回照射した場合と30分毎に20 mGyを繰り返し照射していった場合で生成されるDNA初期損傷の数に差が生じるかをリン酸化ATMフォーカスを指標として検討した。その結果、繰り返し照射した方がフォーカス数の生成が抑制されることが分かった。次に、30分毎の繰り返し照射の間にDNA初期損傷の修復が起きているかどうかを検討するためにDNA 初期損傷の修復・時間関係を調べた。そして、このDNA損傷・修復モデルから、30 分毎に 20 mGy を 2~4 回繰り返し照射したと仮定した際に、理論上、何個のフォーカスになるのか計算した。その結果、2 回では 1.47 個、3 回では 2.18 個、4 回では 2.84 個となった。しかし、実際には 2 回で 0.76 個、3 回で 0.69 個、4 回で 0.72 個となり、理論値とは異なった。よって、30分毎の繰り返し照射では損傷の蓄積も修復も生じていないことが分かった。したがって、線量率効果のメカニズムはDNA損傷・修復モデルから単純に説明できないことが明らかとなった。
  • 簗瀬 澄乃, 正山 哲嗣, 須田 斎, 石井 直明
    セッションID: P2-66
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    線虫Caenorhabditis elegans (C. elegans)において、高濃度酸素への短時間暴露の反復によって寿命が延長するというホルミシス効果が認められる。我々はこれまでに、C. elegansにおけるIns/IGF-1信号伝達経路の活性化が、このホルミシスによる寿命延長効果に関与することを明らかにしてきた。このIns/IGF-1信号伝達経路の下流では、ヒトのフォークヘッド型転写因子に相同なDAF-16転写因子が作用しており、このDAF-16の標的遺伝子として抗酸化系酵素やミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に関わる蛋白などが挙げられている。従って、C. elegansで認められたホルミシスによる寿命延長効果において、これらDAF-16の標的遺伝子の発現が役立っている可能性が考えられた。
    そこで我々は、高濃度酸素暴露によるホルミシス効果が認められるage-1変異体において、SODやカタラーゼなどの抗酸化酵素活性が上昇していることを定量的RT-PCR法によって確認した。また、そのミトコンドリアにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の変化を測定し、短時間の酸素暴露に依存してその産生量が低下していること、さらに抗酸化酵素の作用を除外したサブミトコンドリア粒子(SMP)においてもその産生量が減少していることをこれまでに発表した。これらの酸素暴露に依存した抗酸化系の活性化およびスーパーオキサイドラジカル産生量の減少は、DAF-16発現を欠くdaf-16ヌル変異体においては認められなかった。即ち、ホルミシス効果を生じるためにはDAF-16の標的遺伝子候補である抗酸化系酵素が活性化され、エネルギー代謝系が抑制されている可能性の高いことを示唆している。現在、これまでに観察された酸素暴露によるage-1変異体のミトコンドリアおよびSMPにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の減少が、ミトコンドリア呼吸鎖自体の作用制御に起因しているのか、それとももっと呼吸鎖の環境的な要因が関係しているのかどうかC. elegansの酸素消費量を測定することによって解明を試みている。
  • 馬田 敏幸, 法村 俊之
    セッションID: P2-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    p53野生型マウスにトリチウム水一回投与によるβ線照射、あるいはセシウム-137γ線をシミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)により3Gyの 全身照射を行ったとき、T細胞のTCR遺伝子の突然変異誘発率は、γ線では上昇しなかったがトリチウムβ線では有意に上昇した。トリチウム水を投与されたマウスの脾臓細胞はアポトーシス活性が低下していた。染色体異常の頻度はトリチウムβ線とγ線で差はなかったが、エピジェネティックな作用が考えられるので、細胞生物学的手法によりp53活性化やそれに関わる分子を解析中である。
  • 中川 慎也, 片岡 隆浩, 迫田 晃弘, 石森 有, 吉田 昭, 山岡 聖典
    セッションID: P2-68
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】これまで我々は、ラドン吸入は抗酸化機能などの生体防御機能を亢進させ、活性酸素由来の生活習慣病の抑制に有効である可能性を示唆してきた。同様に、トロン温泉は、一般の温泉にある温熱や化学的効果などに加え放射能としての効果もある。しかし、そのメカニズムは未だ明確ではなく、更なる解明が期待されている。本研究では、抗酸化物質や疾患関連物質などを指標に、トロンおよび温熱が生活習慣病に及ぼす健康効果に関して検討した。【対象および方法】岩手県・花巻トロン温泉の浴室の湿度は90%、室温は39°C、湯温は40°Cであり、湯面近辺のトロン濃度は約4900Bq/m3との報告例がある。健常、糖尿病、疼痛性疾患を対象に、地元の各被験者は、1日計30分、週5回、2週間入浴した。全被験者に対し、試験開始前(対照)、開始1、2週間後の入浴後および3週間後にそれぞれ血圧測定および採血をし、試料に供した。試料の分析は定法に従った。なお、試験に際し、全被験者にインフォームド・コンセントを行うなどした。【結果例および考察】1)各対象群における抗酸化機能について、SOD活性が疼痛性疾患群において有意に増加した。2)糖尿病群において、糖質および腎機能関連物質に有意な変化はなかった。しかし、FFA、IRIおよびケトン体は変化に有意差はないものの、改善傾向が見られた。これより、糖尿病性ケトアシドーシスを抑制する可能性が示唆できた。3)疼痛性疾患群において、α-hANP値は増加し、血圧の降圧傾向が見られた。また、Con Aは有意に増加し、さらに、CD4陽性細胞の有意な増加とCD8陽性細胞の有意な減少が見られた。これより、組織循環の促進や免疫機能の亢進を認め、疼痛の症状緩和が示唆できた。以上の結果などにより、トロンおよび温熱による糖尿病や疼痛性疾患などの生活習慣病の症状緩和に関するメカニズムの一端を明らかにすることができた。
  • 吉本 雅章, 片岡 隆浩, 中川 慎也, 豊田 晃章, 西山 祐一, 田口 勇仁, 山岡 聖典
    セッションID: P2-69
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】我々は前回、マウスに低線量X線を事前照射した場合、凍結脳損傷に伴う脳浮腫が抑制される可能性が高いことを報告した。本研究では、脳組織の病理学的観点からこの抑制効果に関して検討した。【方法】8週齢・雄のBALB/cマウスに、Sham照射あるいは0.5GyX線の全身均等照射を行い、その4時間後に、常法に従い右脳に凍結損傷モデルを作製した。凍結損傷1、4、24、あるいは48時間後の脳を試料とし、hematoxylin-eosin染色、kluver-barrera染色、およびterminal dUTP in situ nick end labelling (TUNEL) 染色を施した。その後、脳中の単位面積あたりの細胞数および無構造域を画像解析により定量した。【結果例と考察】1)凍結損傷部位の大脳皮質において核の萎縮や空胞変性が見られ、脳浮腫の特徴的な病理像を示した。2)損傷部位の細胞数は、Sham照射の場合に凍結損傷4、24、48時間後で有意に減少し、0.5Gy照射の場合に24、48時間後で有意に減少した。同部位における無構造域は、Sham照射および0.5Gy照射いずれも凍結損傷4、24、48時間後で有意に大きくなった。この内、4時間後では0.5Gy照射の方がSham照射に比べ有意に小さかった。これより、0.5Gy照射は凍結損傷に伴う脳浮腫を抑制する可能性が示唆できた。さらに、3)損傷部位のアポトーシスを起こした細胞数は、凍結損傷1時間において0.5Gy照射した方がSham照射に比べて有意に少なかった。また、4) 損傷部位の神経細胞数は、Sham照射および0.5Gy照射いずれにおいても、24、48時間後で有意に減少した。これより、凍結脳損傷により、グリア細胞の方が神経細胞よりも早期に減少することが示唆できた。以上の所見より、病理学的観察からも0.5Gy照射により脳浮腫を抑制、遅延する可能性が高く示唆でき、前回の報告を支持する結果が得られた。
  • 片岡 隆浩, 迫田 晃弘, 野村 崇治, 石森 有, 豊田 晃章, 西山 祐一, 吉本 雅章, 光延 文裕, 田口 勇仁, 山岡 聖典
    セッションID: P2-70
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】我々は今までに、マウス肝臓において、ラドン吸入や低線量X線照射により抗酸化機能などが亢進し、アルコール性急性障害や四塩化炭素誘導障害が緩和する可能性のあることを報告してきた。しかし、酸化障害の緩和の最適ラドン吸入条件についての報告はない。このため、本研究では四塩化炭素誘導肝障害モデルマウスを用い、ラドン吸入による緩和効果の最適ラドン吸入条件について検討した。【材料と方法】約8週齢・雄のBALB/cマウスに四塩化炭素を腹腔内投与し、四塩化炭素誘導肝障害モデルを作製した。例えば、四塩化炭素の投与6時間前、投与直後および投与18時間後に20000Bq/m3のラドンを6時間吸入させた。それぞれ投与24、48時間後に採血・肝臓摘出をし、肝機能、抗酸化機能、および病理観察により障害の程度とその抑制効果に関する比較検討をマトリックス的に行った。【結果例と考察】例えば、1) 20000Bq/m3の6時間のラドン吸入により肝臓中の総グルタチオン量などが有意に増加し、抗酸化機能が亢進したことが示唆できた。2)四塩化炭素投与24時間後に血清中のグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ活性およびグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ活性が有意に増加し、肝障害が誘導された。これは病理学的観察からも確認できた。その他のラドン吸入条件による肝障害の抑制効果と比較検討し、最適ラドン吸入条件について言及する。
  • 豊田 晃章, 片岡 隆浩, 西山 祐一, 吉本 雅章, 田口 勇仁, 山岡 聖典
    セッションID: P2-71
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】我々は今までに、マウスに低線量X線を照射した場合、諸臓器中の抗酸化機能が亢進し、過酸化脂質量が減少することを報告してきた。一方、アルコールの摂取は、代謝の過程におけるスーパーオキシドアニオンなどの活性酸素種の産生や、その副産物であるアセトアルデヒドの除去による肝臓中のグルタチオン量の低下・枯渇が生じることに伴う脂質過酸化抑制能の低下など、酸化障害の一因となる。本研究では低線量X線照射による慢性アルコール障害の抑制効果の有無について検討した。【方法】8週齢・雌のC57BL/6JマウスにShamまたは0.5Gyを全身照射した。その直後からそれぞれに、Lieber-Decarliの方法に従いコントロール液体飼料または5%アルコール液体飼料を2週間与え、肝障害モデルを作製した。その後、マウスを屠殺し血液を採取するとともに肝臓を摘出し、試料に供した。肝機能や抗酸化機能などの分析は、常法に従った。【結果例と考察】アルコール液体飼料群はコントロール液体飼料群に比べ、血清中のグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ活性およびグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ活性が有意に高くなったことから、脂肪肝を発症して肝機能が低下することが確認できた。同様に、肝臓中の総グルタチオン量が有意に減少したことから、アルコール摂取に伴う抗酸化機能の低下も示唆できた。これに対して、事前に0.5Gyを照射し場合の肝障害の抑制効果の有無について言及する。
  • 木村 真三, Rakwal Randeep, 遠藤 暁, Sahoo Sarata Kumar, 福谷 哲, 増尾 好則, 今中 哲二
    セッションID: P2-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    国際原子力機関(IAEA)をはじめ、幾つかの機関では「防護措置が必要のない線量」を決定している。陸上植物に関しては、IAEA(1992)、国連放射線影響科学委員会(1996)、米国エネルギー省(1999)は10 mGy/day、カナダは2000年に3 mGy/dayと定義づけている。これらの機関が決定した値は、防護措置が必要のない線量率として求めているのだが、植物の生体応答反応を見ているわけではない。
    そこで演者らは、チェルノブイリの汚染土壌を外部線源として、イネの葉を水生培養させながら極低線量の放射線(5.34μGy/day)を4日間遮蔽体内で照射し、mRNAを抽出したものをDNAマイクロアレイにかけ、コントロール(0.49μGy/day)と比較した。
    その結果、516遺伝子の発現が確認され、そのうち194遺伝子が増加を示し、322遺伝子が抑制を示した。
    機能別に見ると、大きく3つのカテゴリーに分かれており、Infomation strage and processing (Up2%/Down7%), Cellar processing and signaling (Up15%/Down7%), metabolism (Up13%/Down19%)であった。
    その中で、興味を引く遺伝子として、重金属、オゾン、二酸化イオウ等により誘導される遺伝子PBZ1(OsPR10a)の発現量が、もっとも大きかった。一方、エネルギー代謝系のGAPDH、RuBisCoの小サブユニット、ATPase イプシロン鎖mRNAの抑制が強く見られた。
    現在、イネに対する極低線量放射線の影響をより詳しく観察するため、セシウム137面線源を作成し種々の線量率(2~100μGy/d)で照射実験を実施している。それらの結果については共同演者のRandeep Rakwalが、今大会のワークショップ「様々な生物の放射線応答―その多様性と共通性」で報告する。
    参考文献
    1. Kimura S, Shibato J, Agrawal GK, Kim YK, Nahm BH, Jwa NS, Iwahashi H, and Rakwal R.: Microarray analysis of rice leaf response to radioactivity from contaminated Chernobyl soil.: Rice Genetics Newsletter, 24: 52-54, 2008.
    2. Rakwal R, Agrawal GK, Shibato J, Imanaka T, Fukutani S, Tamogami S, Endo S, Sahoo SK, Masuo Y, Kimura S.: Ultra Low-Dose Radiation: Stress Responses And Impacts Using Rice as a Grass Model: Int. J. Mol. Sci., 10: 1215-1225, 2009.
放射線応答・シグナル伝達
  • 田中 薫, 王 冰, VARES Guillaume, 尚 奕, 藤田 和子, 二宮 康晴, 江口 清美, 根井 充
    セッションID: P2-73
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線誘発適応応答(AR)の存在は、数多くの生物系においてすでに知られている。AR誘導に不可欠な条件の研究は、リスク評価に対して重要な科学的根拠を供給し、また新たな生物学的防御機構への重要な洞察を提供する。したがって、ARの研究はきわめて重要である。しかしながら、個体レベルでの研究では、そのほとんどが、X線照射によって行なわれたものである。進行中の一連の研究の中で、高LET重粒子線での照射によるARの誘導が可能であるか、in vivoでの実験ではyoung adult マウス、in utero(子宮内)での実験には胎仔マウスを使用して、両方について調べた。
    1) 低線量X線での前照射が、高線量の重粒子線による本照射によって引き起こされた成長遅延、死亡、奇形という有害な影響を減少させることができるのか。2) 低線量の重粒子線照射が、高線量のX線照射によって引き起こされた有害な影響に対して、ARを誘導できるのか。3) 低線量の重粒子線照射は、高線量の重粒子線によって引き起こされた有害な影響に対して、ARを誘導できるのか。
    重粒子線は、HIMACによって発生させたmono-beamの炭素イオン線、シリコンイオン線、鉄イオン線の3種類で、LET値はそれぞれ約15、55、 200 keV/マイクロメートルのものを使った。
    前回我々は、低線量のX線前照射が、高線量の重粒子線での本照射によって引き起こされた有害な影響を、減少させることができることを報告した。今回我々は、in vivoでの重粒子線照射によるARの誘導について得られた、新たな結果を示すつもりである。これは、ARが、高LET放射線による低線量前照射により誘導されることを、個体レベルで実証した最初の成果である。興味深いことには、ARの誘導に成功するための必須な条件は、照射する粒子とLET値の両方、あるいはそのどちらか一方に依存しているように思われることである。
  • 府馬 正一, 中森 泰三, 石井 伸昌, 久保田 善久, 吉田 聡, 藤森 亮
    セッションID: P2-74
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    これまで放射線防護の対象は人間であり、放射線影響研究もヒトを含む哺乳類が中心で、それ以外の生物種に関する研究は限られていた。しかし、近年、ICRP、UNSCEAR、IAEAなどの国際機関が、ヒト以外の生物種や環境を対象とした防護体系を構築するための活動を積極的に行うようになった。そこで、本研究では、環境中で生産者として重要な植物プランクトンに着目し、γ線応答遺伝子をゲノムスケールで同定することにした。
    研究対象は、化学物質の環境毒性評価に最もよく使われている生物種の一つである緑藻類Pseudokirchneriella subcapitata(ムレミカヅキモ)とした。P. subcapitataのゲノム情報はほとんど皆無だったので、AFLP(増幅断片長多型)を基本原理とし、ゲノム情報を必要としないトランスクリプト-ム解析手法であるHiCEP1)を用いることにした。対数増殖後期まで64時間培養したP. subcapitata60Coγ線を100、150、300 Gy急照射し、2時間培養後に抽出したTotal RNAをHiCEP法で解析した。
    検出された転写産物は約7000種類であった。このうち約800-900種類の転写産物は、γ線によって有意な発現変動(非照射の対照と比較して2倍以上発現が上昇または1/2以下に低下)を示した。発現が上昇した転写産物のうち、41種類のDNA塩基配列を決定したところ、2種類に関しては、DNA修復に関与しているDEAD/DEAH box helicaseとSNF2/RAD54 familyおよびRAD26と有意なホモロジーが見られた。また、21種類の転写産物について、定量的RT-PCRを行ったところ、20種類ではγ線による発現上昇の再現性が確認できた2)。従って、本研究で検出された放射線応答遺伝子の特性を明らかにすることは、緑藻類の放射線応答機構の解明とバイオマーカー遺伝子の選定に寄与すると考えられる。
    1) 安倍真澄他、蛋白質 核酸 酵素 48, 1443-1449, 2003.
    2) Fuma et al., Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology 83, 301-306, 2009.
  • 根井 充, 柿本 彩七, 中島 徹夫, 王 冰
    セッションID: P2-75
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    あらかじめ低線量放射線で細胞等を処理することにより、その後の高線量放射線に対する抵抗性が誘導される。このいわゆる放射線適応応答の分子機構は、これまで主として阻害剤を用いて研究されてきたが、最近はマイクロアレイ技術を用いて放射線適応応答条件下で特異的に発現変動する遺伝子が網羅的に調べられるようになり、PARP1、p27Cip/Kip、HSP25,70、PBP74、CDC16, STAT1/3等、放射線抵抗性の誘導に直接機能する実行因子の他、p53、PKC、MAPK、NO、増殖因子等、初期刺激(おそらくDSBと考えられている)と実行因子をつなぐ架け橋の役割を果たすと考えられる多くのシグナル因子が明らかにされてきた。しかし、得られている知見はまだまだ断片的であり、今後も引き続き放射線適応応答に関与する因子を探索しつつ、蓄積する知見を整理し、多様な放射線適応応答の機構を実験系ごとに解きほぐしていく必要がある。我々は昨年度マイクロアレイ解析を行い、ヒトリンパ芽球由来細胞AHH-1におけるHPRT遺伝子座突然変異を指標とした放射線適応応答にdeath inducer-obliterator 1(DIDO1)遺伝子が関与している可能性を示唆した。DIDO1はM期のチェックポイント制御に機能しており、また最近長崎原爆被爆者において被爆距離依存的に有意に高い発生率が報告された骨髄異形成疾患(MDS)の原因遺伝子であると考えられていることから、低線量放射線のリスクを検討する上で大変興味深い。今年度はマイクロアレイの解析を更に進め、放射線適応応答条件下で統計的に有意に変動する遺伝子の機能分類を試みた。その結果、AHH-1における突然変異を指標とした放射線適応応答には、“centrosome”、“metal ion binding”、“nucleoside biosynthesis”、“protein dephosphorylation”、“mitochondria”等に関わる細胞機能が関連していることを示唆した。
  • 王 冰, 田中 薫, Vares Guillaume, 尚 奕, 藤田 和子, 中島 徹夫, 根井 充
    セッションID: P2-76
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線誘発適応応答(AR)は、放射線と生物の間の複雑な相互作用であり、多様な環境的・遺伝的要因によって修飾される。特に、遺伝的背景はARの誘導を左右する重要な因子であるが、異なる系統のマウスを組み合わせた実験系は人間の個人差を研究するのに良い動物モデルとなる。これまで、成体マウスを用いたin vivoでのARの研究において、明らかな系統特異性が観察されており、一方in utero(子宮内)での研究では、系統の違う胎仔マウスの間で前照射の効果に違いが出ることが示されている。ARが誘導される条件と誘導されない条件で遺伝子調節を比較することにより、異なる系統間でARの分子機構の類似点と相違点を明らかにすることが可能であり、将来的にオーダーメード医療へのAR応用の端緒を開くと期待される。本研究において手始めとして、いくつかの系統の胎仔マウスにおいて、胎仔死亡、肉眼的奇形、出生前発育遅延を指標として、in utero(子宮内)でのARの誘導について調べた。C57BLマウスでは、ARを誘導するために有効な前照射線量が2種類存在するが、C3HとBALB/cの純系胎仔マウスにその2種類の線量を前照射として用いた。さらに、C57BLの雌とC3Hの雄、C3Hの雌とC57BL雄、そしてその他の組み合わせの雑種胎仔マウスにもその2種類の線量を前照射として用いた。その結果、ICRや C57BLと異なり、C3HとBALB/cではARは見られなかった。興味深いことに、雑種胎仔マウスはそれらの前照射に対して多様な反応を示した。これらの結果は、胎仔マウスのAR誘導における複雑な系統依存性を示している。
  • 小林 彩香, 上原 芳彦, 山内 一己, 柿沼 志津子, 島田 義也, 小野 哲也
    セッションID: P2-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    マウスの放射線感受性は臓器や照射時のageに依存し、マウスの肝癌の発症率は、生後0―7日目に照射を行うと最も高くなる。本実験では、肝癌発症を指標としたageによる放射線感受性の違いを、遺伝子発現変動によって説明することを目的として、網羅的遺伝子解析を行った。具体的には、生後7日目に3.8Gyの全身照射を行ったマウス群(肝癌高発)と、10週令で3.8Gy照射したマウス群(肝癌低発)、および非照射のマウス群の3群それぞれを、癌の発症率を低下させることが知られているカロリー制限を行った群と通常飼育群に分けた。これら6群のマウスについて10ヶ月令の時点で肝臓の遺伝子発現レベルを調べた。マイクロアレイ解析とRT-PCRの結果、生後7日目に照射したマウスの肝臓で、3つの遺伝子の発現変化を見つけることができた。3つの遺伝子のうち、2つの遺伝子発現レベルは増加し、1つが減少していた。10週令で照射したマウスの肝臓でも同じような遺伝子発現変化を示したことから、この3つの遺伝子の発現変化は癌化に関係しているとは考えられず、3.8Gy照射の影響ではないかと推測された。また、照射後カロリー制限を行ったマウスの肝臓における3つの遺伝子の発現変化は、2つの遺伝子では放射線による遺伝子発現変化を抑制する傾向を見せ、1つの遺伝子では影響を与えず、単純な解釈のできる結果ではなかった。今回の実験から、肝癌発症を指標としたageによる放射線感受性の違いを説明できるような遺伝子発現変化は見つけられなかった。しかし、放射線を照射した後長期経過しても、発現レベルの変化が見られる3つの遺伝子を見つけることができた。
  • 田中 泉, 薬丸 晴子, 田中 美香, 石渡 明子, 佐藤 明子, 横地 和子, 鈴木 桂子, 石原 弘
    セッションID: P2-78
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    造血組織は放射線感受性が高く、放射線被ばくによる組織障害が明瞭に現れやすい組織である。造血組織における初期障害の定量化は、被ばく障害の程度を予測するための指標となることが期待されている。我々は、組織におけるRNAの定量精度を高め、p21(waf1), mdm2, bax, pumaおよびc-mycを指標としてX線照射線量と遺伝子発現量の相関を調べた。
    鋳型RNA量の管理、逆転写反応条件の最適化、標準plasmidの使用、およびreal-time PCRの偏差管理により、指標遺伝子/gapdhのmRNA比を求めることで、再現性の良い微量RNA測定方法を確立した。第一の測定モデル系として、マウスマクロファージ系細胞であるRAW264.7細胞を使用した。この細胞にX線を照射したところ、2時間後にapoptosisの指標であるpuma mRNA量の増加が見られた。4時間後には増殖抑制の指標であるmdm2およびp21のmRNA量の増加と、増殖の指標であるc-myc mRNA量の減少が見られた。各種mRNAのgapdh比は0.1Gyから1.0Gyにかけて線量依存性を示した。mdm2とp21の一過性増加、およびc-myc mRNAの減少は、BrdU取り込み細胞の減少速度と一致した。また、TUNEL陽性細胞の増加ピークは、puma mRNAの増加ピークよりも後の4時間後に見られた。第二の測定モデル系として、X線を全身照射したC3H/Heマウスから採取した微量の末梢血液および骨髄細胞を使用した。照射4時間後では、p21, mdm2, baxおよびpuma mRNA量は線量依存的に増加し、c-myc mRNA量は減少した。照射時刻を一定とした場合では、0.1Gyから1.0Gyにかけて線量依存性を示した。末梢血液では概日リズムの影響により照射時刻の違いで発現量が著しく変動した。一方、骨髄細胞では、bax, pumaの発現は概日リズムの影響をあまり受けなかった。
    以上のことから、適切なRNAを選択し高精度定量することにより細胞の障害程度が早期に推定できるのみならず、被ばく線量推定への利用の可能性が示唆された。
  • 渡辺 嘉人, 久保田 善久
    セッションID: P2-79
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [目的] 放射性物質の汚染地域に自生する植物では、放出放射線に長期間にわたり曝露されることにより成長低下などの障害が発生しうる。しかし、このような長期連続被ばくの影響に関わる植物の放射線応答について知見は少ない。本研究ではモデル植物シロイヌナズナを用いて、長期連続照射の成長への影響とそれに伴う遺伝子の発現変化を調べた。
    [方法] 播種5日後のシロイヌナズナ植物体に対して3週間にわたり2-100 Gy/dayの137Csガンマ線を照射し、重量の経時変化を調べた。また遺伝子発現の変化を、マイクロアレイ(Affymetrix ATH1 Genome Array)およびリアルタイムPCRを用いて解析した。
    [結果と考察]ガンマ線連続照射の線量率に依存したシロイヌナズナの成長阻害の程度は、照射線量率20Gy/dayを境に大きく変化した。20Gy/dayでは照射開始2週間後までの成長はコントロールと変わらないが、その後に顕著な成長低下が認められた。これより高い線量率では照射開始後早期より成長が著しく低下し、逆に低い線量率では照射開始3週間後まで成長の変化は認められなかった。20Gy/dayでの照射開始2週間後における植物の遺伝子発現解析において、56個の遺伝子がコントロールに比べて2.5倍以上の有意な発現増加を示した。このうち30個の遺伝子は急性照射1.5時間後にも発現増加が報告されており、その多くは照射開始1日後までに発現増加を示す早期応答性の遺伝子であった。一方、残りの26個の遺伝子の多くは照射開始後1週間程度経ってから発現が増加する晩期応答性の遺伝子であり、連続照射による障害に関係して特異的に発現変化する遺伝子が含まれると考えられた。早期応答性の遺伝子にはDNA修復に関わるものが多いのに対して、晩期応答性の遺伝子は代謝や発現制御に関わるものなど多様であった。これら遺伝子について他のストレス下で見られる発現変化に関する既知データと比較することで、連続照射による障害の進展とそれに対する植物の応答について考察する。
  • 金行 由樹子, 門前 暁, 高橋 賢次, 柏倉 幾郎
    セッションID: P2-80
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】電離放射線の生物学的作用には直接作用と間接作用があり、X線などの低LET放射線では活性酸素種(reactive oxygen species、 ROS)による間接作用が主体となる。この時ミトコンドリアは呼吸代謝を含むROSの発生源であると同時にROSの標的器官となる。造血幹細胞は放射線高感受性細胞として知られているが、放射線曝露細胞内ROS産生やミトコンドリア機能の関与等その詳細は不明な点が多い。本研究では造血幹細胞の放射線感受性、細胞内ROS産生及びROSの標的器官であるミトコンドリア量について検討した。
    【方法】ヒト臍帯血から有核細胞を回収し、さらに磁気ビーズ法にてCD34+細胞を分離・精製した。造血前駆細胞のコロニーアッセイは、至適サイトカイン存在下メチルセルロース法で行った。細胞内ROSは、細胞を2',7'-dichlorofluorescein diacetateで処理し、ミトコンドリア発光量は、蛍光プローブMitotracker Green FMで染色後フローサイトメーターにより解析した。放射線照射は、X線発生装置を用いて150 kv, 20 mA, 0.5 mm Al + 0.3 mm Cuフィルター、90~100 cGy/minの条件で行った。
    【結果・考察】CD34+細胞のROS産生は、放射線照射直後では観察されず、サイトカイン刺激下3~6時間後においてわずかな産生が観察された。同様の実験を、ヒト単球系前駆細胞株U937及びヒト正常繊維芽細胞株WI-38において検討したところ、照射直後でCD34+細胞の10~20倍のROS産生が認められた。また、CD34+細胞のミトコンドリアの発光量は2つの細胞株の半分以下であった。この時、ミトコンドリアの発光量と4 Gy照射造血幹細胞の生存率の間には正の相関が観察された。以上の結果から、造血幹細胞ではROS産生が極端に低いか、もしくは強力なROSの除去機構を有している可能性が示唆され、この現象にミトコンドリアが関与している可能性が考えられた。
  • 白石 一乗, 朝日 菜都美, 原 正之, 石崎 寛治, 児玉 靖司
    セッションID: P2-81
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    目的:幹細胞とは未分化な状態を保ったまま複製する能力を維持しており、かつ必要な刺激によって適当な方向に分化する能力を持った細胞と定義される。近年、がん細胞が幹細胞あるいは未熟な前駆体細胞を起源とする考え(がん幹細胞起源説)が示されてきた。また、iPS 細胞を代表とする再生医療応用にも幹細胞は注目されている。一方で、幹細胞を in vitro で維持することの難しさから、その放射線応答機構は明らかにされていない。我々は、neurosphere 法の導入によって、神経幹細胞(前駆体細胞も含む)を in vitro で培養することを可能とした。本研究ではneurosphere 法によって得られた神経幹細胞にヒトテロメラーゼ触媒サブユニット(hTERT)遺伝子を導入することで安定した神経幹細胞株を樹立し、幹細胞の放射線感受性を明らかにすることを目的とした。
    方法:14.5日齢ICRマウス胎児の線条体組織から神経幹細胞を含む neurosphere を調整した。この細胞に hTERT 遺伝子をレトロウィルスベクターにより導入した。導入後細胞のテロメラーゼ遺伝子の発現と活性は、それぞれPCR および ELISA 法により調べた。また、放射線感受性は軟寒天コロニー形成法により測定した。
    結果:hTERT 導入細胞は PCR によって導入が確認された。また、テロメア伸張活性は導入前細胞、マウス繊維芽細胞に比較して上昇していた。この細胞株は、1% 血清刺激による分化誘導後にグリア細胞に分化することが確かめられた。現在、この細胞株の連続継代培養を行い、安定株を維持できるか否か検討中である。我々は、軟寒天コロニー形成法を用いた放射線感受性試験により、マウス初代神経幹細胞、およびp53欠損株、ATM 欠損株での放射線感受性を調べるとともに、hTERT 導入不死化神経幹細胞の放射線感受性も調べたので報告する。不死化神経幹細胞株による放射線応答の知見は発がん機構における幹細胞の役割や再生医療における幹細胞利用のリスク評価に貢献すると考えられる。
  • 後藤 恵美, 隠岐 潤子, 本田 絵美, 鈴木 理, 浅田 眞弘, 萩原 亜紀子, 中山 文明, 明石 真言, 今村 亨
    セッションID: P2-82
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    我々は、多種類の細胞に対して細胞増殖促進・細胞死抑制活性を示すFGF1(繊維芽細胞増殖因子-1)が、放射線障害の予防・治療に有効であることを示すために、様々な放射線障害の評価系の構築とその系におけるFGF1の効果を検証してきた。これまでに、マウス小腸上皮の増殖性細胞集団であるクリプトがX線全身照射により受ける障害は、FGF1を腹腔内に前投与することにより緩和されることを報告した。今回は、腸管よりも低線量から顕著な放射線障害を受ける骨髄造血細胞の障害に着目し、X線照射後のマウス骨髄の細胞と組織におけるアポトーシスに関わる分子群を経時的に解析し、さらにFGF1の前投与がもたらす効果について解析したので報告する。
    BALB/c マウス(8週齢、♂)に8~16 GyのX線を全身照射し、一定時間(2~18時間)後に単離した大腿骨について、骨髄細胞の採取と組織標本の作成を行った。まず、骨髄細胞の総タンパク質をウェスタンブロティングに供し、放射線細胞障害・アポトーシス関連タンパク質の発現レベルを解析した。その結果、DNA double strand break直後の早期修復反応の一つであるヒストンH2AXのリン酸化のシグナルが、照射線量の増加に伴って増加し、cleaved caspase-3のシグナルも増強していた。また、大腿骨を固定・脱灰・包埋した組織標本について免疫組織学的な解析を行ったところ、ウェスタンブロティングで得られた上記の結果を確認することができた。さらに、TUNEL法でアポトーシス細胞の検出を試みたところ、そのシグナルが経時的に増強していることが確認できた。一方、X線照射の24時間前にFGF1を腹腔内投与した個体では、これらアポトーシス関連のシグナルが減弱していることが認められた。これらから、骨髄造血細胞の放射線誘導細胞死に対してもFGF1が抑制効果を示すことが示された。
  • 中山 敏幸, 平川 宏, 柴田 健一郎, 大園 恵都子, 関根 一郎
    セッションID: P2-83
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    背景
    放射線照射は腸管粘膜上皮細胞でアポトーシスによる細胞死を誘導し、腸管内腔における多くの抗原に対する生理的防御機構の不備を引き起こす。アンギオポエチンは、Tie2受容体チロシンキナーゼを介して作用する血管形成因子として知られている。アンギオポエチン(Ang)-1は、細胞内シグナリングの調節により、血管内皮細胞の無血清によるアポトーシス誘導を抑制するという報告がある。
    目的と方法
    正常腸管上皮細胞におけるアンギオポエチンの保護効果を明らかにするために、IEC-18細胞は10GyのX線照射前にAng-1とAng-2処理を行い、PI3KとMAPKの活性化による細胞生存率の検討を行った。細胞生存率はトリパンブルー染色とTUNEL染色により行った。
    結果
    X線照射はIEC-18細胞の細胞死を誘導した。Ang-1非処理細胞と比較して、X線照射されたIEC-18 細胞はの生存率はAng-1処理により上昇し、PI3K系のS6RPのリン酸活性化が誘導された。p90RSKやp38MAPK系はAng-1処理に誘導されなかった。X線照射によるCaspase-3の活性化はAng-1処理により抑制された。しかし、Ang-2処理では、X線照射によるIEC-18の細胞死に保護効果はなかった。Ang-2処理は、IEC-18細胞にPI3K、p90RSK、p38MAPK系の活性化を起こさなかった。
    結語
    これらの結果は、Ang-1が、放射線照射による腸管障害の保護効果をもつ可能性があることを示唆している。
  • 柴田 知容, 蜂谷 みさを, 明石 真言
    セッションID: P2-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    腫瘍壊死因子(TNFα)は、体内に存在する生理的物質であり、被ばくによりその産生は増加する。TNFα投与は照射マウスの生存率を上げることが報告されている一方、臓器の障害を助長することも知られている。このように、放射線障害におけるTNFαの役割はいまだ明瞭ではない。昨年の当大会において、TNFα-/-マウス (TNFα-/-)ではTNFα+/+マウス(TNFα+/+)に比べ、全身照射(6 - 6.5 Gy)後の生存率が有意に減少し、TNFα-/-にTNFαを投与すると照射前ばかりでなく照射後でも生存率が上昇することを報告した。また、両マウスでは照射後の白血球数には差が認められなかったが、TNFα-/-ではTNFα+/+よりも赤血球数、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)値が有意に減少し、飽和鉄結合能(TIBC)は差がなかったが、血清鉄値の上昇と不飽和鉄結合能(UIBC)の減少が認められた。今年度はこの機序をさらに明らかにするために、TNFα-/-にTNFαを照射前に投与したところ、赤血球数、Hb、Ht値が改善するとともに、血清鉄、UIBCが改善された。また、照射したマウスから骨髄細胞を採取し、赤血球系造血能を両マウスで比較した。TNFα-/-では、未熟な細胞からなる赤芽球バースト形成能(BFU-E)、そしてより成熟した赤芽球コロニー形成能(CFU-E)はともに非照射マウスでは差が認められなかったが照射マウスでは有意に低下していた。以上のことよりTNFαが被ばく後の赤血球系の分化段階で、鉄の利用に重要な役割を担っていることが示唆された。
  • 二宮 康晴, 于 冬, 関根 絵美子, 平山 亮一, 野口 美穂, 加藤 宝光, 高橋 千太郎, 丹羽 太貫, 藤森 亮, 岡安 隆一
    セッションID: P2-85
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [目的] 最も高発(約30%)な脳腫瘍であり放射線抵抗性としても知られる異形性グリオーマに対する、ヒ素による放射線増感効果のメカニズムを解析している。ヒ素は、異形性グリオーマに対してin vitro及びin vivoで相乗性の増感効果が示されている数少ない薬の一つである。しかし、その作用機序は、不明な点が多い。昨年に、本年度は、放射線とヒ素による老化様細胞増殖停止の差異についてを報告した。本年度は、ヒ素による老化様細胞増殖停止に関連したヘテロクロマチン形成機構の詳細について検証した。
    [結果] 異形性グリオーマ細胞株U87MGに、ヒ素の単独処理により解析を行った。その結果、添加後6時間以降にγH2AXfociの形成が観察された。このことからヒ素によるDNAダメージは直接的でなく間接的に引き起こされると考えている。また、二重染色により、ヒストンH3のリン酸化及びメチル化は、γH2AXfociの検出された細胞に観察されたことから、ヒ素によるヘテロクロマチン形成は、DNAダメージにより引き起こされていると考えている。
    次に、ヘテロクロマチン形成のp53依存性に関して解析を行った。その結果、、p53を不活化した脳腫瘍細胞においては、γH2AXfoci形成及びヒストンH3のリン酸化は、引き起こされるが、その後のヒストンH3のメチル化が抑制されていることを明らかにした。
  • 鈴木 正敏, 鈴木 啓司, 山下 俊一
    セッションID: P2-86
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線誘発細胞死としてアポトーシスが広く知られているが、それ以外の細胞死経路に関する知見は多くない。正常ヒト線維芽細胞では、非アポトーシス型細胞死である老化様増殖停止が放射線により誘導される主要な細胞死経路であることから、本研究では放射線によるがん細胞への非アポトーシス型細胞死誘導の有無を検討した。
    ヒト乳がん細胞であるMCF-7に10GyのX線を照射後、個々の細胞をタイムラプスイメージングにて照射5日後まで追跡し、継時的な観察を行った。照射後5日間では約6割の細胞が分裂期へ進まず、残りの4割は分裂期を一度だけ通過した。いずれの場合においても、照射直後の細胞形態と比較すると照射後の時間経過とともに徐々に細胞の肥大化が認められた。
    まず、照射後最初の20時間以内では分裂期へ進行した細胞は全く観察されないが、その後に分裂期細胞が出現し始めた。このように分裂期に進行した細胞では複数の小さな細胞核を伴う分裂異常を示すmitotic catastropheが必ず生じ、興味深いことにmitotic catastropheを生じた娘細胞同士が高頻度に細胞融合した。また分裂期への進行の有無に関わらず、それぞれの場合において12%程度の細胞にネクローシスが誘導された。一方、アポトーシスを示す細胞は全く観察されなかった。次に老化様増殖停止の誘導を調べるために照射後のMCF-7細胞で老化関連βガラクトシダーゼ (SA-ß-gal)染色を行うと、照射1日後では60%、3,5,7日後で70%以上がSA-ß-gal陽性を示した。分裂期進行の有無に関わらずSA-ß-galが発現しており、さらに SA-ß-gal陽性を示した細胞の一部ではネクローシスが生じていることが確認された。以上の結果より、がん細胞でも放射線によって非アポトーシス型細胞死が誘導された。その主要な経路は老化様増殖停止であったが、正常細胞とは異なり、老化様増殖停止誘導後にネクローシスがさらに誘導されることも同時に示された。
  • 加藤 健吾, 高橋 賢次, 門前 暁, 丸山 敦史, 伊東 健, 柏倉 幾郎
    セッションID: P2-87
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】放射線によるDNA損傷過程の一つとして、細胞内で発生する活性酸素による損傷経路が知られている。また、造血幹細胞は放射線感受性が高く、幹細胞にとって抗酸化システムによる活性酸素の制御が極めて重要である。特に酸化ストレス応答遺伝子であるNrf2転写因子による活性酸素の制御は重要であり、酸化ストレス応答タンパク質および異物代謝第二相酵素群の発現を統一的に制御する。本研究では、X線曝露ヒト臍帯血由来CD34+細胞を用いて、酸化ストレス応答遺伝子であるNrf2によって誘導されるHO-1およびNQO1の応答を検討した。さらに、X線曝露造血幹細胞の放射線感受性との関連性について検討する。
    【方法】本研究は、弘前大学医学研究科倫理委員会の承認を得て行った。母親のインホームドコンセントが得られた正期産の臍帯血を採取した。臍帯血は採取後24時間以内にリンホセパールに重層・遠心後、CD34+細胞(造血幹細胞)を分離・精製した。X線を2 Gy照射後、サイトカイン非存在下で6時間インキュベート後にRNAを抽出した。HO-1及びNQO1の測定は、定量的リアルタイムPCRで行った。また、この細胞を遺伝子組換ヒトサイトカイン(GM-CSF, G-CSF, EPO, IL-3, SCF)を含むメチルセルロース培地に懸濁し、X線照射後14日間培養した。培養後、コロニーを白血球系、赤血球系及び混合系前駆細胞にそれぞれ分類して計数した。
    【結果・考察】X線曝露ヒト造血幹細胞における総コロニー数は、2 Gy照射した場合、非照射群に比べ83%減少した。また、HO-1, NQO1 mRNAの発現量は、非照射に比べて有意に増加した。このことから、造血幹細胞の放射線感受性と、放射線照射によるヒト造血幹細胞におけるHO-1, NQO1の発現との間に関連性が存在する可能性が示唆された。現在、このHO-1, NQO1及びその他の酸化ストレス応答遺伝子の発現の程度や発現量の増加と放射線感受性の個体差との関係について検討している。
  • 林 直樹, 高橋 賢次, 中村 敏也, 柏倉 幾郎
    セッションID: P2-88
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    間葉系幹細胞には造血幹/前駆細胞の細胞増幅促進及び未分化維持能が報告されている。最近になって我々は、臍帯血由来間葉系幹細胞様ストローマ細胞が放射線非曝露造血幹/前駆細胞だけでなく放射線曝露細胞の回復に対しても有効であることを明らかにした1)。本研究では、この共培養系における造血幹/前駆細胞造血回復に関与する因子、特に造血細胞に対する増殖促進作用や分化制御能が報告されている細胞外マトリックス成分について検討した。造血幹/前駆細胞は、ヒト臍帯血より磁気ビーズ法を用いてCD34+細胞を分離精製して用いた。また、その際に排出した有核細胞をシャーレに撒き、FBS及びbFGF存在下で培養し、接着・増殖してきた細胞を間葉系幹細胞様ストローマ細胞として共培養実験に用いた。ストローマ細胞を24 wellプレートに撒き、その上に無血清培地で懸濁した放射線非照射もしくは照射CD34+細胞を播種し、IL-3、TPO及びSCF存在下で14日間培養した。その結果、ストローマ細胞との共培養により、生存細胞数及び前駆細胞数はストローマ非存在下と比べ有意に増加した。また、ストローマ細胞との共培養により未分化マーカーの増加と共に分化マーカーの発現が低下傾向を示した。一方、サイトカインを培養開始16時間後に添加するとストローマ非存在下、放射線照射細胞における造血は同時添加と比べて劇的に低下したのに対し、ストローマと共培養によりサイトカイン同時添加と同等の造血を示した。さらに、共培養によりヒアルロン酸濃度はストローマ非存在下と比較して有意に増加した。一方、硫酸化グリコサミノグリカン濃度は、放射線非照射細胞と比較して放射線照射CD34+細胞単独培養において有意に増加した。以上の結果から、臍帯血由来ストローマ細胞はヒト放射線曝露CD34+細胞の造血回復において、CD34+細胞とストローマ細胞との接触刺激が重要であると共に、細胞外マトリックス成分産生が大きく関与している可能性が示唆された。
    1) Life Sci. 84: 598 (2009).
  • 谷 こん, 曽 子峰, 松本 洋平, 本間 信, 緲 軍, 高辻 俊宏
    セッションID: P2-89
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】
    タマネギ発芽種子に観察される小核は放射線の線量に従って増加するが、さらに増やすと減少する。タマネギの成長に目立った影響がないことから、小核の減少の主な原因は、細胞死ではなく、放射線照射された直後の細胞分裂が遅延するためだと考えられる。このことを明らかにするため、放射線の種類や線量と小核発生の遅延の時間の関係を調べた。
    【方法】
    放射線医学総合研究所の重荷電粒子及び長崎大学先導生命先導生命科学研究支援センターアイソトープ実験施設のセシウムを線源としたガンマ線を用いて、タマネギ発芽種子に当てて、発生した小核の数を時刻を変えて観察した。
    【結果及び結論】
    同種の放射線で当てた細胞は線量が高いほど、小核が出現するピークが遅くなる。
    同じ線量で照射した細胞はLETが高いほど、小核が出現するピークが遅くなる。
  • SU Xiaoming, 高橋 昭久, 大西 健, 大西 武雄
    セッションID: P2-90
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    本研究はp53遺伝子背景の異なる2種の肺がん細胞を用いて、放射線誘導細胞死と染色体異常におけるNOラジカルの影響を明らかにすることを目的とした。p53欠損型のヒト肺がん細胞H1299に正常型(wt)p53と変異型(m)p53遺伝子を導入した細胞を用いた。細胞は異なる濃度のisosorbide dinitrate (ISDN, NOラジカル発生剤)と1,3-dihydroxy-4,4,5,5-tetramethyl-2-(4-carboxyphenyl) tetrahydroimidazole (c-PTIO, NOラジカル消去剤)で処理後、X線照射した。細胞感受性はコロニー形成法で、アポトーシス頻度はHoechst33342染色法で、染色体異常は二動原体出現頻度で調べた。wtp53細胞はISDNの低濃度(2-10 μM)で放射線抵抗性の獲得、放射線誘導アポトーシスおよび染色体異常の軽減が認められた。c-PTIOの添加はISDNによるこれらの反応を完全に抑制した。ISDNの高濃度(100-500 μM)では放射線感受性になり、放射線誘導アポトーシスおよび染色体異常の亢進が認められた。一方、これらの反応はmp53細胞ではいずれのISDN濃度でも認められなかった。これらの結果から、NOラジカルがp53遺伝子発現調節を介して、細胞の生死の運命を決めていることが示唆された。
  • 石川 智子, 音在 信治, 亀井 保博, 藤堂 剛
    セッションID: P2-91
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線や化学物質など環境因子の生物影響を考える上で、突然変異は重要な位置を占める。分子生物学的解析の進展により、突然変異生成のメカニズム、またそれに関わる遺伝子群について、細胞レベルでその詳細が明らかにされてきている。しかしながら、突然変異は極めてまれな事象である為、個体レベルでの解析、つまり実際の体組織・体細胞の中でどの様な頻度でそれらが生成され、またどの様なタイプの細胞で起こった変異が発がん等個体レベルでの重篤な帰結につながるのか、についての解析は未だほとんどなされていない。本研究は、「突然変異」の個体・組織レベルでの解析系をメダカにおいて確立することを目指している。
    環境因子の多くはDNAに損傷を与える。細胞はこれらDNA損傷を認識し、細胞周期の停止、損傷の修復あるいはアポトーシス等様々な応答を誘導することにより、損傷の軽減を計る。しかしながら、最終的に損傷が残存し、それらが突然変異につながる。我々はこの一連の突然変異生成機構のうち、まずチェックポイント関連遺伝子として、ATM, ATR, p53のメダカ突然変異体をTILLING法を用いて作製した。変異体ライブラリーのスクリーニングの結果ATM,ATRではナンセンス変異体を一つずつ、p53では二つのナンセンス変異体を得ることができた。現在これらの変異個体の作成し解析を行っている。これまでの結果について報告したい。
  • 早田 知永, 山内 基弘, 岡 泰由, 鈴木 啓司
    セッションID: P2-92
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線照射細胞で活性化するG1チェックポイントは、ゲノム損傷を有する細胞に永続的細胞周期停止を誘導する。G1チェックポイントのシグナル伝達経路としてはATM-p21-p53経路が知られているが、この経路が不可逆的なG1アレストの維持にも関与しているかどうかは未だ不明である。本研究では、G1チェックポイントを維持するための「シグナル安定化機構」が存在するという仮説を立て、これを立証することを目的とした。
    まず、G1チェックポイントシグナル安定化にATM機能が関与しているかどうかを検討した。照射線量については、照射後ほとんどすべての細胞でG1アレストがかかる10 Gyとした。G0 期に同調した正常ヒト二倍体細胞にγ線を照射後すぐに同調を解除し、照射12時間後からATM阻害剤KU55933(以下KU)を後処理し、照射24時間後に、チミジンのアナログであるエチニルデオキシウリジン(以下EdU)の取り込みを指標にして、S期進行細胞の割合を検討した。その結果、放射線照射により低下したS期進行細胞の割合は、KUを照射後高濃度で処理しても回復しなかった。次に、KU処理時間を、照射96時間後まで延長したところ、S期進行細胞の割合は、24時間後には非照射群が24.6 %に対して4.8 %, 48時間後は59.5 %に対して19.1 %、72時間後は57.5 %に対して33.4 %、96時間後は54.8 %に対して36.2 %と、経日的に回復した。
    以上の結果から、G1チェックポイントの維持機構にはATMが必須であること、ATM依存的なG1アレストの解除は非常に緩やかであることが明らかとなった。
  • 松井 理, 橋本 光正, 岩淵 邦芳
    セッションID: P2-93
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    53BP1は電離放射線や薬剤処理によって誘発されたDNA二重鎖切断部位に集積し、その後DNA損傷チェックポイントやDNA修復に関与していることが強く示唆されている。近年、53BP1がDNA損傷部位へどのようにして集積するのか、その作用機序が急速に解明されつつある。しかし一方、53BP1がDNA損傷部位へ集積してから以降、DNA損傷チェックポイントやDNA修復までをつなぐ分子機構については未だ不明である。そこで、我々はDNA二重鎖切断部位に集積した53BP1が、同時にどのような蛋白質と相互作用するかに着目し、まず53BP1のC末端領域に存在するBRCTドメインに結合する蛋白の検索、同定を試みた。実験方法として、FLAG-HAタグの下流に核移行シグナルを含む53BP1のBRCTドメインを融合させた組換え蛋白質をU2OS細胞内で発現させた後、抗FLAG(またはHA)抗体によってこの蛋白質と共沈する蛋白質について解析を行った。本会ではその結果について報告するとともに、その作用機序について議論したい。
  • 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 横田 裕一郎, 小林 泰彦
    セッションID: P2-94
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    重イオンビームは、イオンが通過した近傍に非常に密なイオン化を引き起こす。そのため、重イオンは、ガンマ線など低LET放射線とは異なる生物効果を示す。しかし、重イオンビームの生物効果のメカニズムにはまだ不明な点も多い。従来のブロードビーム照射法で低線量の重イオンを細胞に照射すると、イオントラック分布がポアソン分布に従いランダムにヒットするため、細胞ごとのイオントラックのヒット数に明確な差が生じるようになる。そのため、重イオン一つが細胞に及ぼす影響を明らかにするためには、細胞一つ一つを正確に狙い、あらかじめ設定した個数のイオンを照射することができる、細胞照射用重イオンマイクロビーム装置が必要になる。そこで、私たちの研究グループでは、これまでコリメーション式重イオンマイクロビーム装置を用いた細胞照射応答の研究を進めてきた。しかし、コリメーション式重イオンマイクロビーム装置では、金属板に一つだけ空けたピンホールでビームを微小化する際に生じる、ピンホールエッジでの散乱を避けることができないため、照準できるビームサイズに限界があった。そこで、原子力機構TIARAのAVFサイクロトロンの垂直ビームラインに新たなマイクロビーム装置を設置した。このマイクロビーム装置は、四重極磁気レンズで重イオンを真空中で最小径1 μmまで微小(マイクロビーム)化し、大気取り出しをすることができる。このビームを用いて、細胞への照準照射を実現するために、ビームライン直下に細胞照準用倒立顕微鏡と、細胞試料用電動ステージを設置した。照射にあたり、集束ビームの位置は、試料ステージに設置したプラスチックシンチレータで検出した。細胞は、イオン飛跡検出プラスチックCR39のフィルム上に培養し、8 μm厚のカプトン膜でカバーし乾燥を防止した。照射したイオン数は、倒立顕微鏡レボルバに取り付けた、半導体検出器を用いてカウントし、高速シャッターと連動させることで、照射イオン数を制御した。このシステムを用いたHeLa細胞への照準照射実験の現状について報告する。
  • 菅谷 茂, 郭 文智, 佐藤 守, 朝長 毅, 野村 文夫, 日和佐 隆樹, 瀧口 正樹, 喜多 和子, 鈴木 信夫
    セッションID: P2-95
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    細胞のDNA合成レベルが放射線照射後低下することは、生物種を問わない普遍の現象である。ところが、X線照射後にDNA合成レベルが上昇するという現象をゴーリン患者由来細胞で我々は見出した(Fujii et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 240, 269–272, 1997)。
    さらに、ゴーリン患者由来細胞において、X線照射後に発現レベルが低下する遺伝子として、ユビキチン様タンパク質SUMO-2 を同定し、正常ヒト細胞においてアンチセンスオリゴ処理によりSUMO-2遺伝子の発現を抑制すると、X線照射後にDNA合成レベルの上昇することを見出している(Mutat. Res. 578, 327-332, 2005)。HeLa細胞においても、SUMO-2のSiRNA処理により、SUMO-2遺伝子の発現を低下させると、X線照射による合成の誘導現象を再現させることに成功している。そこで今回は、X線照射後に細胞内含有量が変動するタンパクを2次元電気泳動法による網羅的解析で探索したところ、腫瘍転移抑制因子NM23-H1を同定した。さらに、ウェスタンブロッティング解析より、SUMO-2遺伝子の発現を抑制した細胞において、X線照射後のNM23-H1タンパクの減少を確認できた。また、NM23-H1のSiRNA処理により、X線照射によるDNA合成の誘導現象がみられた。一方、X線照射後にNM23-H1タンパクのSUMO化がみられた。以上の結果から、X線照射後のSUMO-2が関わるDNA合成上昇にNM23-H1も関わることが示唆された。
  • 前田 宗利, 冨田 雅典, 宇佐美 徳子, 小林 克己
    セッションID: P2-96
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線の生物影響は、細胞に生じたDNAの放射線損傷とその修復の結果として、被ばくした細胞にのみ誘導されると考えられてきた。近年の研究から、被ばくした細胞の周辺に存在する放射線に暴露されていないバイスタンダー細胞においても放射線による生物影響が現れることが明らかになった。このような生物応答はバイスタンダー応答と呼ばれ、細胞生存率の減少、突然変異の誘発など、種々の生物作用を誘導することが報告されている。また、バイスタンダー応答は、低線量域において顕著に誘導されることが知られている。低線量放射線の生物影響を正しく理解するためには、その誘導メカニズムを明らかにする必要がある。著者らは、放射光X線マイクロビームを用いて細胞核あるいは細胞全体を照射し、細胞質へのエネルギー付与の有無によってX線に暴露された細胞の細胞死やバイスタンダー細胞死の誘導頻度が低線量域で大きく異なることを見出した。
    すでに昨年までの本大会において、細胞質へのエネルギー付与がない場合、低線量域でバイスタンダー細胞死が線量依存的に増大し、その後、線量の増加と共に回復して安定する「U字型の線量応答」を示すこと、このバイスタンダー応答のメディエーターが一酸化窒素(NO)であることを報告している。本研究では、細胞質へのエネルギー付与の有無のみならず、バイスタンダー細胞の被照射細胞からの距離に着目して、致死および生存バイスタンダー細胞の分布について詳細な解析を実施した。その結果、U字型の細胞死の増大が、照射した細胞から1 mm以内における細胞死の増大を反映していることが明らかとなった。培養環境中におけるNOの拡散範囲を考慮すると、このU字型の細胞死の増大は、照射された細胞から放出されるNOが直接届く範囲内で生ずると考えられる。本大会では、細胞質へのエネルギー付与の有無とバイスタンダー細胞死の距離依存性について議論を深めたい。
  • 杉原 崇, 村野 勇人, 中村 正子 村野, 石崎 瑠美, 一戸 一晃, 小木曽 洋一, 田中 公夫
    セッションID: P2-97
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    γ線を照射した細胞はp53リン酸化に関与するATM依存的なシグナル伝達経路が働くことがよく知られている。しかし、ATM非依存性の放射線応答経路についてはよくわかっていない。4.32 Gy の高線量率(0.9 Gy/min)または中線量率(60 mGy/h)γ線を照射したATM欠損マウス胎子線維芽細胞(MEFs)と正常MEFsの遺伝子発現をマイクロアレイ解析により比較したところ、ATM 欠損MEFsへの照射によって発現上昇が見られる遺伝子としてIrf7Stat1 などのインターフェロン関連遺伝子が検出された。ATM特異的阻害剤(KU55933)存在下で高線量率または中線量率γ線照射を行った正常MEFsでもIrf7Stat1遺伝子の高い発現上昇が確認された。また、ATM阻害剤存在下で非照射の正常MEFsや、ATM阻害剤不在下で高線量率γ線照射した正常MEFsでもこれらの遺伝子発現上昇は確認された。一方、ATM阻害剤不在下で中線量率γ線照射した細胞では発現上昇が見られなかった。次に、高線量率γ線照射した正常MEFsの培養上清を非照射正常MEFsに添加したところ、Irf7Stat1遺伝子発現の亢進が見られた。現在、ATMを不活化したMEFsの培養上清に関しても検討中である。本結果から、ATMの不活化や高線量率γ線照射は正常MEFsでのIrf7Stat1遺伝子の発現を亢進させることと、γ線照射後のIrf7Stat1遺伝子の発現上昇は液性因子を介したバイスタンダー効果による可能性が考えられた。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
  • 伊丹 淳, 前澤 博, 金 世洸, 佐藤 浩之, 古澤 佳也, 平山 亮一
    セッションID: P2-98
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    研究目的及び背景:細胞の遊走・浸潤はX線照射により亢進する例があり、また遊走・浸潤に関与するmatrix metalloproteinaseの生成および細胞の伸展などにはp53機能の関与がいわれている。本研究は、がん由来細胞の遊走・浸潤能が炭素線照射されたときに亢進するのか否か、その変化はp53の機能と関連するのか否かを知ることを目的とする。
    材料・方法:細胞は小細胞肺癌由来H1299(p53欠失(neo)、p53野生型(wt)、p53変異型(mt)、大西武雄教授(奈良医大)より供与)および肺腺癌A549(p53野生型)を用いた。細胞は培養フラスコ内で接着培養し、炭素線を照射した。炭素線照射はHIMACの290MeV/nのモノピークビーム、LET=100keV/μmで行った。細胞生残率曲線を得るため、細胞を照射直後に酵素処理、単細胞分散した後にコロニーアッセイを行った。遊走・浸潤能測定はマトリゲル(1mg/ml、日本BD)でコートしたカルチャーインサート(8μmポアサイズ)を用い評価した。放射線照射後24時間培養した細胞を、インサート内(0.1%牛血清アルブミン含有DMEM)に播種し、さらに16時間培養後にインサート膜の下面(DMEM+10%FBS培地側)に移動した細胞数を計数し、移動率から遊走・浸潤能の大きさを評価した。
    結果:炭素線100keV/µm照射による細胞生残率曲線から、X線(150kV)に対するRBE(10%生残線量の比較)は2.2~3.2であった。遊走・浸潤能については、炭素線0.5~4Gy照射されたH1299neo、野生型および突然変異型いずれの細胞もマトリゲルコート膜下面への移動率は減少し、4Gy照射によって約60%前後にまで浸潤能の低下が認められる。A549細胞においても同様の傾向を示した。X線8Gyではそれぞれの細胞は約50%~60%に浸潤能が低下した。
    まとめ:炭素線では明確な遊走・浸潤の亢進は認められず、4GyではX線8Gyと同程度の抑制効果を認めた。
  • 小橋川 新子, 鈴木 啓司, 山下 俊一
    セッションID: P2-99
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線照射が、細胞内の活性酸素種(ROS)のレベルを一時的に増加させることはよく知られているが、我々のこれまでの研究で、放射線照射正常ヒト二倍体細胞において、遅延的にROSの産生が再上昇することを見いだし、遅延的なミトコンドリアの機能不全が起こっているのではないかと予想した。これまでに、ミトコンドリアは間期の細胞においては互いの膜と膜が結合し、チューブ状の構造をしていることがわかっており、分裂期やアポトーシス誘導時にはチューブ状の構造がフラグメント化することが報告されている。特にアポトーシス誘導時にはミトコンドリアがフラグメント化することでミトコンドリア膜透過性が亢進していることが報告されている。そこで本研究では、ミトコンドリアの形態がミトコンドリア機能において重要であると考え、ガンマ線照射によるミトコンドリア形態変化を検討した。
    細胞は正常ヒト二倍体線維芽細胞(BJ-hTERT)を用いた。ガンマ線照射後の細胞内の酸化ストレスの測定にはaminophenyl fluorescein(APF)試薬を用いた。また同時に、MitoSox Redにより、ミトコンドリアに局在するO2-レベルの測定を行った。さらに、ミトコンドリアの形態については、MitoTrackerを用いてミトコンドリアを可視化し、蛍光顕微鏡下で観察することにより検討した。
    今回使用したBJ-hTERT細胞ではガンマ線照射によりアポトーシスが誘導されないにもかかわらず、6 Gy照射3日後に約50 %の細胞においてミトコンドリアのフラグメント化が観察された。そして照射4日後以降、再びチューブ状のミトコンドリアを持つ細胞の頻度が増加した。APFにより細胞内酸化ストレスを測定した結果、照射2~3日後から酸化ストレスが増加し、このとき、2 Gy照射細胞では非照射細胞の1.4倍、4 Gy照射細胞では2倍、6 Gy照射では3倍程度までそのレベルが増加した。また、ミトコンドリアからのO2-の産生量も同様の傾向を示し、照射1日後から次第に増加し、照射3日後に最大となった。
    以上の結果より、ガンマ線照射数日後に誘導される遅延性のミトコンドリアの形態変化が原因となってミトコンドリア機能不全がおこり、その結果、細胞内酸化度が遅延性に増加したと考えられる。
  • 島田 幹男, 小林 純也, 小松 賢志
    セッションID: P2-100
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線による細胞内DNAへの損傷はゲノムの不安定性をもたらし、発癌のリスクを高める。放射線による主なターゲットはDNAであるが、近年DNAの損傷を起点として染色体分配の際のゲノム維持機構にも異常が生じる事が明らかになってきた。その一つに中心体複製異常が挙げられる。中心体は核外に存在する細胞小器官であり、細胞分裂時に極の形成中心として機能する。中心体の挙動は細胞周期と密接に関係しており、DNA複製期に中心体も複製する。しかし、放射線によりDNA損傷が生じ、細胞周期チェックポイントが活性化されると中心体の複製機構と細胞周期の関係が破綻し、中心体の複製異常が生じる。今回、放射線の線量率効果が中心体の複製機構に与える影響、またDNA修復タンパク質がそれらの機構ににいかに関わっているかを検討した。
    高線量率 (1 Gy/min) 及び低線量率 (0.5 mGy/min) で細胞に放射線照射後、免疫染色法によりγ-tubulin抗体をマーカーとして中心体異常を持つ細胞数を計測し、それぞれの線量率の影響を比較した。その結果、低線量率による放射線照射は高線量率による放射線照射よりも過剰複製した中心体を持つ細胞の割合が少なかった。
    次に、DNA修復タンパク質が中心体複製に与える影響を検討する為にDNA修復タンパク質欠損マウス細胞を用いて、放射線照射後の過剰複製した中心体をもつ細胞数を計測した。その結果、相同組換え修復に関与するNBS1、BRCA1を欠損したマウス細胞では放射線照射後、相補細胞と比較して顕著に過剰複製した中心体をもつ細胞数が増加した。一方、非相同末端結合修復に関わるDNA-PKcs、Ku70を欠損したマウス細胞では放射線照射後、相補細胞と比較しても過剰複製した中心体を持つ細胞の割合に有意な差は見られなかった。
    今回の結果より相同組換え修復タンパク質欠損細胞では低線量率照射よりも高線量率照射の方が過剰複製した中心体を持つ細胞が顕著に増加した。これらから相同組換えタンパク質は中心体の複製制御に関与している為に、高線量でさらに過剰複製した中心体を持つ細胞の割合が増加したと考えられる。
  • 鈴木 芳代, 服部 佑哉, 坂下 哲哉, 菊地 正博, 舟山 知夫, 横田 裕一郎, 辻 敏夫, 小林 泰彦
    セッションID: P2-101
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    神経系のモデル生物である線虫C. elegansに、ガンマ線(< 1000 Gy)を照射すると、線量に依存して運動が低下する [1], [2]。従来より、線虫の運動性の評価には、20秒あたりの頭部の屈曲回数(Body bends)[3]が用いられており、照射線虫の評価も非照射線虫に準じてBody bends を指標として行われてきた [1], [2]。しかし、体幹後部のくねりが緩くなり、移動の範囲が非照射線虫に比べて狭くなるなど、照射線虫に観られる全身的な運動の微妙な変化は、Body bends では評価できなかった。そこで、本研究では、放射線の運動への影響をより詳細に理解することを目的として、照射直後の線虫の動画像から、全身17点(頭部から尾部までを均等に16分割)の座標を導出し、全身の動きを詳細に捉える新たな方法を提案した。本手法により、これまでは評価できていなかった頭部-尾部間の距離や体幹のくねりの振幅、運動速度の変化等に基づく放射線影響の詳細かつ定量的な評価が可能となった。本発表では、放射線照射線虫の運動を新旧2つの方法によって評価した結果を示し、線虫における放射線生体影響をよりよく評価するための指標の重要性について議論する。[1] Sakashita, T., et al. (2008) J. Radiat. Res. 49: 285-291. [2] Suzuki, M., et al. (2009) J. Radiat. Res. 50:119-125. [3] Sawin, E.R., et al. (2000) Neuron 26: 619-631.
  • 久保田 善久
    セッションID: P2-102
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    C3Hマウスのマクロファージに系統特異的に惹起される放射線誘発アポトーシス(他系統マウスのマクロファージでは誘発されない)は、放射線によってタンパク質合成能が低下し、その結果、代謝回転の極めて速いことが知られているアポトーシス抑制タンパク質Mcl-1が顕著に減少するために生ずることを明らかにしてきた。また、この放射線誘発アポトーシスがDNA2重鎖切断によることを制限酵素やDNA2重鎖を切断する試薬で処理することにより証明してきた。本研究は、放射線によってC3Hマウスのマクロファージの蛋白質合成が抑制される生化学的経路を同定することを目的とした。種々のストレスによってリン酸化修飾を受け、それによって細胞のタンパク質翻訳能を制御することが明らかになっているeIF2αに着目し、放射線によるeIF2αのリン酸化をウェスタンブロットにより調べたところ、C3Hマウスのマクロファージでは線量依存的にリン酸化が昂進したが、B6マウスのマクロファージでは放射線に全く応答しなかった。eIF2αのリン酸化酵素として同定されている4種のタンパク質(PKR、PERK、GCN2、HRI)のうち、酵素活性とリンクした自己リン酸化部位のリン酸化を認識する抗リン酸化抗体が開発されているPKR、PERK、GCN2について自己リン酸化が放射線により亢進するかイムノブロットで調べたところ、PKR、PERKは放射線に全く応答しなかった。一方、GCN2は発現量が少なく通常のイムノブロットでは検出不能であったが、免疫沈降による濃縮後イムノブロットで検出するとC3Hマウスのマクロファージで特異的にリン酸化が放射線により顕著に亢進した。GCN2は細胞内のアミノ酸欠乏によりアミノアシル化されないtRNAがGCN2分子のC末に存在するHistidyl-tRNA Synthetase-related domainに結合することにより活性化されると考えられている。放射線により細胞内のアミノアシル化されていないtRNAが増加するのか、現在検討中である。
  • 森田 明典, 山元 真一, 王 冰, 田中 薫, 鈴木 紀夫, 青木 晋, 伊藤 あずさ, 七尾 友久, 大谷 聡一郎, 吉野 美那子, 榎 ...
    セッションID: P2-103
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    我々はチロシンホスファターゼ阻害剤として広く用いられているオルトバナジン酸ナトリウム(バナデート)が、DNA損傷誘導アポトーシスを抑制し、その抑制作用の標的分子がp53であることを明らかにした。これ迄に、バナデートのp53に対する抑制機構として、その構造を不活性型構造に変化させること、不活性化されたp53にはDNA結合能がなく、照射後のp53標的遺伝子の転写活性化が阻害されること、さらにp53遺伝子型の異なる細胞株、およびp53 shRNAの細胞内恒常発現によって得られたp53ノックダウン細胞株の比較から、バナデートの抗アポトーシス作用のp53特異性を報告している。
    さらに、他のp53転写阻害剤との比較や、ミトコンドリア局在シグナルを付加した改変p53ベクター導入実験等による詳細なp53経路の解析結果から、他のp53阻害剤に勝るバナデートの抗アポトーシス効果は、近年注目されているp53の転写非依存的なミトコンドリア経由のアポトーシス誘導作用を抑制することに基づくものであることを見出した。具体的には、転写非依存性経路に対するバナデートの効果としてp53とBcl-2の結合を抑制することを見出した。また、バナデート投与マウスの放射線照射後の急性障害抑制効果についても代表的なp53阻害剤であるピフィスリンαを凌ぐ防護効果が得られた。この発見は、効果的なアポトーシス制御を達成する為にはp53の転写活性を抑制するだけでなく、p53の転写非依存性の経路も抑える必要があることを意味し、より効果的なp53阻害剤を開発する上で非常に重要な知見であると考えられる。
非電離放射線
  • 陳 仕萍, 喜多 和子, 金 元虎, 佟 暁波, 菅谷 茂, 鈴木 敏和, 鈴木 信夫
    セッションID: P2-104
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [目的]分子シャペロンheat shock protein 27(HSP27)は、種々のストレスに対応することが知られているが、紫外線(UVC)に対する応答への関与は報告されていなかった。しかし、HSP27がヒト細胞のUVC抵抗性に関わる知見を得、その結合タンパク質としてannexin IIを見出した。そこで、両タンパク質によるUVC抵抗化の分子メカニズムを解明した。
    [方法] UVC致死高感受性培養ヒト細胞RSaとその派生株の抵抗性細胞APr-1を用いた。両細胞あるいはHSP27の細胞内含有量を変動させた細胞におけるUVC照射後のannexin IIの含有量および細胞内局在をウェスタンブロット法により解析した。さらに、両タンパク質量を変動させた細胞のUVC致死感受性をコロニー形成法で、UVC損傷DNAの除去能力を損傷DNAに特異的な抗体を用いて調べた。
    [結果と考察] RSa細胞では、UVC照射数時間後annexin II量が減少したが、annexin IIを過剰発現させると、UVC致死抵抗化が認められた。HSP27を過剰発現させると、致死抵抗化と連動しannexin II量の減少が抑制された。一方、APr-1細胞では、UVC照射後annexin II量は減少しなかったが、HSP27の発現を抑制すると、致死感受性化と連動しannexin II量の減少が認められた。HSP27とannexin IIの複合体は、UVC照射前は主に細胞質画分に、照射後は核画分に見出された。また、siRNA処理によりannexin II発現を抑制すると、UVC損傷DNAの細胞内除去能力が低下し、致死感受性化した。以上の結果より、UVC致死感受性に関わる過程では、照射後早期にannexin II量の減少があることが示唆された。annexin IIは損傷DNA修復に関わり、一方、HSP27はシャペロンとして、annexin IIの細胞内量の減少抑制や局在の調節を介してUVC致死抵抗性に関わる可能性が示唆された。
  • 櫻井 智徳, 清川 倫子, 宮越 順二
    セッションID: P2-105
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【背景】MRI装置の定常磁場の磁束密度は、S/N比の改善、微細な原子核環境の差異の検出を期待して、現在の1.5テスラから高い磁束密度へと移行しつつある。米国ではすでに7テスラのMRI装置が診断に応用され始めている。その一方で、高磁束密度の定常磁場(強定常磁場)が生体に及ぼす影響に関しては、これまでほとんど研究報告がなく、強定常磁場の生体影響は明らかになっていない。本研究では、強定常磁場がアストロサイト前駆細胞に及ぼす影響に関して評価した。
    【方法】定常磁場ばく露装置は、磁場発生装置(ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)JMTD-10T150M)をベースに、細胞培養環境を構築するための装置を組み込み、本実験に使用した。定常磁場ばく露条件は、装置最高磁束密度の10テスラと、装置最大磁場勾配の42テスラ/メートル(磁束密度は6テスラ)を検討した。アストロサイト前駆細胞を強定常磁場ばく露下で30分間培養後、TGF-β1でアストロサイト前駆細胞へ2日間分化誘導し、cystatin C mRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法で、GFAPの発現を蛍光免疫染色により評価した。
    【結果】cystatin C mRNA発現量に対する強定常磁場ばく露の影響は見られなかった。GFAPを用いた蛍光免疫染色においても、強定常磁場ばく露の影響は認められなかった。
  • 西浦 英樹, 田野 恵三, 渡邉 正己
    セッションID: P2-106
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】
    紫外線等により皮膚組織で誘導される活性酸素種(ROS)は、細胞内外で酸化ストレスを引き起こし、マトリックスメタロプロテアーゼの活性化やメラノジェネシスなどの光老化現象、及びメラノーマなどの光発がんを誘導することが示唆されている。一方、皮膚における紫外線応答の1つとしてメラノサイトにおけるメラノジェネシスが知られており、このメラノジェネシスの亢進反応は、ケラチノサイトから放出されるエンドセリンやα-MSHなどのサイトカインがメラノサイトを刺激することが関与していると報告されている。しかし、紫外線によるROS誘導とサイトカインとの関連については、未だよくわかっていない。そこでメラノーマ細胞、ヒト正常メラノサイト、ヒト正常ケラチノサイトを用い、紫外線照射によるROS誘導とメラノジェネシスの関係について調べた。
    【方法】
    マウスB16メラノーマ細胞を過酸化水素処理あるいは紫外線照射し、メラニン産生量、細胞内チロシナーゼ活性、およびウェスタンブロッティングにてメラノジェネシスへの影響を調べた。
    【結果・考察】
    30μMの過酸化水素処理によってROSを誘導すると、24時間後に、細胞内チロシナーゼ活性は約2.1倍、メラニン量は約1.3倍、48時間後には約1.6倍にまで増加した。このことは、マウスB16メラノーマ細胞では、酸化ストレスによってメラノジェネシスが誘導されることを示している。本発表では、紫外線照射により発生したROSがヒト正常メラノサイト及びケラチノサイトへ及ぼす影響について併せて報告する。
  • 吉江 幸子, 池畑 政輝, 廣田 憲之, 竹村 太郎, 箕輪 貴司, 花方 信孝, 早川 敏雄
    セッションID: P2-107
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    3T(テスラ:1T=10,000Gauss)を超える高解像度MRIなど,公衆が強磁場に曝露する機会が増加しているが、定常強磁場の生体影響評価は未だに充分ではなく、健康リスク評価のための研究が求められている。一方、これまでの研究では、磁場曝露による突然変異頻度の増加や化学変異原の変異原性に対する微弱な増強効果(助変異原性)が認められた場合があり、それらの機序として酸化ストレスの付与や活性酸素種(ROS)の寿命への効果が示唆されている。本研究では、ROSの1つであるsuperoxideに着目し、大腸菌のSOD遺伝子欠損株を用いることにより、細胞内のsuperoxideに対する定常強磁場の影響について、変異原性および助変異原性を指標として評価することを目的とした。
    定常磁場曝露装置として、温調装置を組み込んだ超伝導磁石(JASTEC社製JMTD-10C13E-NC)を用い、37°Cで最大13Tの磁場を曝露した。試験株として、大腸菌E. coli QC774 (sodA sodB, Cmr Kmr)とその野生株GC4468を用いた。変異原性試験では、試験株をLB培地に接種し、5、10、13Tの定常磁場に24時間曝露した。また、同時に磁場の助変異原性を評価するため、Superoxideを発生するPlumbaginをLB培地に添加(25μM)し、同様に曝露した。曝露後、チミン非要求性(Thy+)から要求性(Thy-)を指標として遺伝子変異頻度を算出した。
    この結果、全ての磁場曝露群において変異頻度は非曝露群と同様であり、変異原性は認められなかった。また、助変異原性については、磁束密度の上昇に伴い変異頻度が下がる傾向が見られたが、有意な差ではなかった。これらの結果より、13Tまでの定常強磁場は、SOD欠損大腸菌に対して変異原性を示さないこと、また、superoxideが原因となる変異原性に対して影響を及ぼさないことがわかった。従って、磁場の変異原性/助変異原性はsuperoxide以外の要因によることが示唆された。
  • 趙 慶利, 藤原 美定, 近藤 隆
    セッションID: P2-108
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [目的]温熱ストレス(44°C/30分)あるいはSOD作用をもつニトロキシドTempo(10 mM)はアポトーシスを誘導する。両者の併用はU937細胞の温熱アポトーシスを不可逆な非アポトーシス細胞死にスイッチする。この細胞死変換メカニズムの解明が目的。
    [方法] ヒト白血病細胞株U937細胞において、温熱とTempoの単独と併用による細胞死、tBid/Bax活性化、cytochrome c (Cytc) 遊離、caspasesの活性化、autophagy、ROS, permeability transition pore (PTP)などの検出と定量解析。
    [結果・考察] U937細胞では44°C/30分ストレスはinitiator caspases-2, -8, -9およびcaspase-3の活性化によるアポトーシスを高率に起こした。10 mM Tempo+44°C/30 分併用はtBid/Bax活性化によるCytc遊離を起こしたにも拘わらず、温熱アポトーシスをcaspase非依存性のオートファジー細胞死に変換した。その基本機構は、併用10 mM TempoのSOD様作用中に生じる、強い酸化能をもつ中間体oxo-ammoniumがすべてのcaspasesに共通な活性化部位CysSHを酸化不活性することであると考えられた。温熱・Tempo併用によるオートファジー誘導はBNIP3Lのミトコンドリアにおける発現、内膜透過性(PTP)の亢進とミトコンドリアの深刻な機能低下によると考えられた。アポトーシスを伴わないオートファジー細胞はPI陽性のネクローシス細胞死をたどり、完全に細胞増殖を抑制した。ミトコンドリアのカルシウムの取込を抑制するRuthemium redとBAPTA、あるいはcyclophilin Dと結合するcyclosporin Aはいずれもオートファジー細胞のネクローシス細胞死へ変換を促進した。一方、5 mM Tempo-44°C/10 分併用および44°C/30 分単独処理は典型的なtBid/Bax依存—caspase依存性アポトーシスをおこした。したがって、Tempoはユニークな温熱増感剤としてアポトーシスおよびオートファジー細胞死を増強する活性をもつ。
  • 清川 倫子, 櫻井 智徳, 宮越 順二
    セッションID: P2-109
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    近年、我が国でも電磁界と健康について研究が進められている。このような中、中間周波数帯(IF)電磁界の曝露に関しても、その生体影響について議論され始めている。低周波や高周波帯電磁界の生体影響研究は活発に行われてきているが、中間周波数帯電磁界については研究が極めて少ない。しかしながら、現在IF領域を用いた装置は、広く普及しているので、健康への影響を評価することは重要である。
    我々は既に磁束密度532μTrms(国際非電離放射線防護委員会ガイドラインの85倍)、2時間曝露で細胞の遺伝毒性に与える影響がないことを報告している[1]。本研究では中間周波数帯電磁界の生物学的影響評価の一環として、高磁束密度6 mTrms(国際非電離放射線防護委員会ガイドラインの960倍)曝露による熱ショックタンパク質(Hsp27、リン酸化Hsp27、Hsp70)の発現について解析・評価をした。
    ウエスタンブロッティング法により評価した熱ショックタンパク質の発現量は、中間周波高磁界曝露群とsham群に統計的な有意差は認められなかった。蛍光免疫染色法においても評価した熱ショックタンパク質に関して、曝露群に核移行および発現量の変化は認められなかった。一方、蛍光免疫染色法により陽性対照の温熱処理で、熱ショック蛋白質の核移行が確認された。
    以上の結果より、磁束密度6 mTrmsでの中間周波数帯電磁界曝露で、検討した熱ショックタンパク質発現に関して影響はないものと考えられる。今後、他の細胞機能に対する影響の可能性や磁束密度、曝露時間の異なる中間周波数帯電磁界の細胞影響について、さらに研究を進める予定である。
    <参考文献>
    [1] Miyakoshi J, Horiuchi E, Nakahara T, Sakurai T. 2007. Bioelectromagnetics. 28: 529-537.
  • 張 玉閔, 池畑 広伸, 横井 雅幸, 花岡 文雄, 小野 哲也
    セッションID: P2-110
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [背景]紫外線はゲノムにシクロブタン型ピリミジンダイマーなどの有害なDNA損傷を与える。DNA損傷への防御策の1つとしてtranslesion DNA synthesis(TLS)がある。色素性乾皮症(XP)バリアント群(XPV)はTLS特異的DNA polymeraseの1つPol.η (遺伝子Polh)を欠損する。本研究ではPolh欠損マウスを用いUVBゲノム毒性に対する皮膚の防衛反応におけるPol.ηの役割解明を試みた。[方法]大腸菌のlacZ遺伝子を組み込んだTgマウスMutaマウスを用い、Polh-/-の遺伝子型をもつMutaマウスの皮膚に紫外線UVB(280~320 nm)(東芝FL20S.Eランプ)を0~1 kJ/m2照射した。照射4週間後に皮膚を採取し、表皮・真皮に分離後、ゲノムDNAを抽出した。in vitro packagingによるlacZトランスジーン回収の後、大腸菌を用いたP-gal positive selectionによりlacZの突然変異頻度(mutant frequency; MF)を評価し、また、DNA sequencingにより塩基配列変化を検出し突然変異スペクトルを解析した。[結果]表皮と真皮の両方において紫外線照射により突然変異が誘発された。表皮においては0.3 kJ/m2まで線量依存的にMFは上昇し、その後は線量が強くなってもMFは飽和状態となり一定となった。真皮では1 kJ/m2照射までMFは線量依存的に上昇した。MFは野生型(WT)に比べて高い値を示し、1 kJ/m2では表皮・真皮ともにWTの約4倍のMFを示した。また、1 kJ/m2までの照射で誘発されるMFの最高値は表皮の方が真皮より高く約2倍である。更に、MFが最高値を示した0.3 kJ/m2 UVB照射表皮のmutant cloneのDNA塩基配列を解析し、得られた変異スペクトルについても発表する予定である。
放射線発がん
  • 郷 梨江香, 森田 慎一, 広瀬 哲史, 木南 凌
    セッションID: P3-111
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線4回分割照射後に生じるリンパ腫前駆細胞の特徴、細胞生物学的特色や発がんに関わる遺伝子変化の解析を、野生型(wt)マウスの胸腺を対象に行なってきた。照射後最初に観察できる変化はがん抑制遺伝子Bcl11b/Rit1のLOH(アレル消失)である。この時点では、TCRβ座のVDJ組み換えパターンは正常胸腺細胞と同じく多様なパターンを示す(Tタイプ)。すなわち多種類細胞への分化能を持つ異常増殖細胞の出現である。次にVDJ組み換えパターンの多様性を欠く細胞の出現が見られ、これは多種類細胞への分化能を消失した細胞である(Cタイプ)。なお、どちらもCD4/CD8-DPまで分化した胸腺細胞からなっている。一方、Bcl11bのLOH検出から予想されるように、Bcl11bKO/+マウスはwtと比べて早期に胸腺リンパ腫を発症する。今回、Bcl11bKO/+マウスを用いて上述した異常増殖細胞の出現とその時期の検討を行い、これらの変化に対するBcl11bKO/+遺伝子型の影響について考察した。10週齢マウスにγ線3Gy 1回照射を行い、30日後に胸腺の解析を行なった結果、Bcl11bKO/+マウスでは胸腺細胞が減少し、VDJクローナル増殖(Cタイプ)が半数に見られた。さらに個々の胸腺の特徴は3群に分類され、(1)正常類似(Tタイプ)の細胞、(2)CタイプでCD4/CD8-DPまで分化した細胞、(3) CタイプでCD4/CD8-DPまで分化できない細胞、をもつ胸腺である。wtで行なった4回分割照射の結果と比べると2つの違いが観察される。(2)で示す細胞が早期に出現すること、(3)で示す未分化な新しい細胞腫の出現である。この結果から、Bcl11bKO/+遺伝子型はVDJクローナル増殖胸腺細胞の出現を加速し、胸腺分化を停止させることが示唆され、これが発がん感受性を与えると考えられた。同様に4週齢マウスでも解析を行なったが、このような変化はほとんど見られなかった。これは、週齢によりBcl11bKO/+マウスの放射線感受性が異なることを示す。
  • 飯塚 大輔, 今岡 達彦, 西村 まゆみ, 高畠 貴志, 柿沼 志津子, 河合 秀彦, 鈴木 文男, 島田 義也
    セッションID: P3-112
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】女性における乳がんは世界的に高い発症率を示している。原爆被爆者の疫学調査において、女性における乳がん発症リスクが最も高い事が知られている。しかしながら放射線による乳がん発症メカニズムについては未だに明らかになっていない。近年、非コードRNAの中でもマイクロRNA(miRNA)が腫瘍化を引き起こす因子として同定されてきている。本研究では放射線によって引き起こされる乳がんのmiRNA発現異常を捉えることにより、放射線誘発乳がん発生メカニズムに関わるmiRNAの探索を目的としている。
    【方法】7週齢Sprague-Dawleyラット(♀)に放射線(γ線;2 Gy)を照射した後、発生した乳がんから、8腫瘍を選定した。また、比較対象として自然発生の腫瘍(8腫瘍)を選定した。正常乳腺組織も7組織選定した。選定された腫瘍よりmirVana miRNA Isolation Kit RNA (Applied Biosystems)にて全RNAを抽出し、 Rat miRNA microarray、8x15K (Agilent)を使用し、マイクロRNA発現を検出した。定量PCRはMicroRNA Assays (ABI)を用いて解析した。
    【結果】クラスター解析により、正常乳腺組織と乳がんは区別されたが、自然発生の腫瘍と放射線誘発の腫瘍とを区別することはできなかった。放射線誘発乳がん8腫瘍と自然発生の8腫瘍についてmiRNA発現を比較したところ、7個のmiRNAが有意差を示した(p<0.05)。これらのmiRNAは正常乳腺組織や自然発生腫瘍に比べ放射線被ばくで増加していた。このうち発現量が3倍以上変動していた2個のmiRNAに関して発現量を定量PCRにて検討したところ、マイクロアレイと同様の傾向が見られ、miR-135bに関しては有意差が認められた。今後、培養細胞を用いmiR-135bの乳腺ならびに乳がんでの機能を明らかにする予定である。
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