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田ノ岡 宏
セッションID: OD-1-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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放射線発がん率は同じ線量に対しても線量率によって大きく変化する。ヒトの経験した線量率の幅はGy/minで表現すると、環境レベルの10
-9から原爆の場合の10
9にまで達する。実験動物およびヒトについて文献で得られた線量効果関係曲線について低線量域の明確なものを選び、発がん率が有意に上昇しない最高線量(非発がん線量、Dnt)を読み取り、それらを線量率の関数として両対数目盛の上にプロットしRegression Lineを求めた。
{結果} 低LET全身照射の場合、Dnt 値は線量率1Gy/minでは100 mGy に集中し、線量率の低下とともに増大し、環境レベルでは30倍に達した。すなわち発がんリスクは1/30に減少した。高LET全身照射についても1/10低い Dnt値で線量率依存性が認められた。部分照射低LETの場合はDnt 値は全身照射に比べて5-10倍高くなり、全身照射と同様の線量率依存性を示した。部分照射高LETについては内部照射発がんデータが豊富であり、この場合にも10倍低い Dntレベルで線量率依存性が明確に認められた。総括すると発がんリスクには照射条件によって1000倍もの差がある。このことから超高線量率の原爆発がんデータと低線量率ラジウム塗布作業者の発がんデータとの大きな差異が線量率の差によって説明できた。
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小倉 啓司, 根岸 秀和, 田中 聡, タナカ イグナシャ III ブラガ, 一戸 一晃, 小木曽 洋一, 田中 公夫
セッションID: OD-1-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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(財)環境研では3つの異なる低線量率γ線を長期間(400日間)慢性照射したオス親マウスの子孫における継世代影響を調べる実験を行っている。この実験では、オス親マウスの繁殖能力維持のためにγ線照射中のオス親マウスと健常メスマウスとの交配(照射室での1週間の同居)を8週毎に行っている。この交配において、20 mGy/22 h/day照射群では、オス親マウスの照射期間の長短(集積線量の多少)に関わらず出産数の減少傾向が認められている。これにはメス親マウスあるいは受精卵(胚)への照射(総線量140 mGy)の影響が関わっている可能性が考えられた。そこで、低線量率γ線の1週間照射による胚への影響を確認するために、新たに交尾確認後のメスマウスへ直ちに低線量率 (20 mGy/22 h/day)γ線を1週間照射(総線量140 mGy)する実験を行った。交尾確認後16日から19日目にメスマウスを解剖して子宮を採取した。解剖によって妊娠が確認できたメスマウスは照射群124匹、非照射群98匹であった。外形異常を示す胎子は照射群で有意に減少(
P<0.05)していたが、平均子宮着床痕数および平均生存胎子数にはいずれも有意な差は見られなかった。しかし、子宮着床痕数が4個以下の個体や生存胎子数が3匹以下の個体は照射群で有意に(それぞれ
P<0.05,
P<0.01)多かった。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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広部 知久, 江口ー笠井 清美, 菅谷 公彦, 村上 正弘
セッションID: OD-1-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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胎生期マウスの組織細胞の分化に対する低線量放射線の影響については不明な点が多い。マウスのメラノサイトは分化形質としてメラニンという黒色の色素を持つため、放射線の影響を調べやすい。胎生18日のマウスの皮膚は、神経冠細胞に由来するメラノブラストが表皮に多く存在し、表皮メラノサイトの分化も始まり、毛球メラノサイトも見られることから、放射線のメラノサイトの分化に対する影響を調べるのに有利である。そこで本研究では、神経冠細胞の移動が始まる胎生9日に、低線量域を含む様々な線量(0.1, 0.25, 0.5, 0.75 Gy)のガンマ線をC57BL/10Jマウスに全身照射(線量率0.3 Gy/min)し、胎生18日の毛包、表皮メラノブラスト、表皮メラノサイト及び毛球メラノサイトの発生・分化に対する影響を調べた。その結果、皮膚あたりの毛包の数は、背側も腹側も0.1 Gy照射群から線量に応じて有意に減少し、背側より腹側の方で効果が大きかった。また、表皮メラノブラスト数や表皮メラノサイト数も0.1 Gy照射群から線量に応じて有意に減少し、背側より腹側の方が効果が大きかった。さらに、毛球メラノサイト数も、0.1 Gy照射群から線量に応じて有意に減少し、背側より腹側の方が効果が大きかった。これらの結果から、ガンマ線は0.1 Gyでもマウスの皮膚の毛包の発生を阻害し、表皮メラノブラストの増殖・分化、さらに表皮・毛球メラノサイトの分化を抑制することが示唆された。また、その効果は背側より腹側の方が大きいことがわかった。これらの結果から、ガンマ線は低線量域でも神経冠細胞の分化抑制、表皮メラノブラストの細胞死あるいは増殖阻害を引き起こす可能性が考えられる。
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小穴 孝夫, 高橋 孝史, 辻村 秀信
セッションID: OD-1-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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ショウジョウバエ三齢幼虫にX線を照射し、変態後の成虫において翅毛スポットテストを行い、体細胞突然変異の頻度を計測したところ、0.2Gy照射群では染色体欠失や不分離に由来する「小さな」変異スポットの頻度が非照射群よりも低く、線量応答関係が下に凸であることが示唆された。昨年の本大会では(1)アポトーシスを抑制すると変異頻度は4倍に増加するが下に凸である点はかわらないこと(2)二本鎖切断修復の欠損突然変異系統であるLig4でも下に凸であること(3)体細胞組換に由来する「大きな」変異スポットはアポトーシス抑制や修復欠損の影響を受けず、線量に対して単調に増加すること、を報告した。今回は一本鎖切断修復の欠損突然変異XRCC1において同様に翅毛スポットテストにより変異頻度を計測したところ、「小さな」スポットの頻度が下に凸でなく、線量に対して単調に増加することを見出した。これらの結果から「小さな」スポットには一本鎖切断に由来するものが含まれており、0.2Gy照射により一本鎖切断修復機構の活性化が起こっていると推測された。
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高田 真志, 須田 充, 鎌田 創, 萩原 拓也, 濱野 毅, 今関 等
セッションID: OD-1-5
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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現在、放医研では中性子の生物影響(寿命短縮、発がん感受性など)を調べるための研究が行われている。中性子場はタンデム加速器を用いた4MeV重陽子を厚いベリリウムターゲットに照射して生成される高速中性子が用いられる。この中性子をマウス、ラットなどに照射して、生物影響研究が行われており、中性子照射後の経過観察が行われている。今後、中性子影響に関する生物データが本学会でも紹介される。同じ照射が、一般的な生物照射コースと、特定菌が存在しないSPF環境下での照射コースで、可能である。
本研究では、照射された中性子線の特性を計測評価したので、それを報告する。測定された中性子エネルギースペクトルは、2MeV弱のエネルギーにピークを有して、最大9 MeVまで及ぶ連続分布になり、分布の平均値は、フラックスで2.3 MeV、吸収線量平均で3 MeVである。線量率は、最大7.6 Gy/hr(照射野2.5% 直径12 cm)である。吸収線量エネルギー分布は、マイクロドシメトリー手法で計測され、線量率のクロスチェックがなされ、中性子とガンマ線の線量比率は82_%_、18_%_である。
現在、さらなる中性子照射の要求に対応しており、外部への利用も開放して、さまざまな中性子に対するさまざまな影響評価研究に利用される。
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小林 克己, 宇佐美 徳子, 前田 宗利, 冨田 雅典
セッションID: OD-1-6
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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放射光X線マイクロビーム照射装置は細胞を充分透過するエネルギー(5.35 keV)のX線を照射できる世界で唯一の装置である。この装置のもう一つの特徴は、ビームサイズを5ミクロン角以上の任意の大きさに変えられることである。この特徴を利用して、細胞核のみ、あるいは細胞全体を、全く同じ条件で照射してコロニーを形成させて生存率を比較したところ、細胞核のみ照射した場合に低線量高感受性が非常に顕著に増大した[1]。この二つの条件の差は、細胞質に放射線のエネルギーが付与されたか否かという点だけである。一般的に、低線量高感受性はG2チェックポイントの制御によって現れると考えられており、細胞全体を照射された細胞ではG2アレストがおきやすくなり、生存率が高くなったと推測される。言い換えると、細胞質に放射線を感じるセンサーの役割をする分子があり、それ自身の分子変化が引き金となって細胞内で起きる制御系に影響を与えるということである。放射線による細胞内の応答の引き金はDNA損傷であるという考えが一般的ではあるが、我々の発見は、DNA損傷以外に細胞内の放射線応答シグナル伝達系に影響を与える因子が細胞質に存在していることを意味しており、非常に重要な知見である。
我々は細胞質内のシグナル発信因子を探すために、マイクロビーム細胞照射装置に特殊なX線マスクを組み込んで、細胞質のみを照射する方法を開発し、その手法を用いて細胞質を照射した細胞のコロニー形成能を調べた。線量―生存率関係は細胞全体を照射した時と全く異なり、線量に対して単純な指数関数となった。これはDNA以外の分子の損傷による致死作用と考えられる。現在、細胞質にある標的が何であるか探索する研究を進めている。
[1] Maeda et al. J. Radiat. Res. 2008, 49, 171-180.
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大西 健, 窪田 宜夫, 秦野 修, 竹森 洋
セッションID: OE-1-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
植物由来生理活性物質は、フラボノイド類だけでも7000種以上存在し、その生理活性作用は未知な部分が多い。これまでに、一部のフラボノイド(apigenin、genistein、myricetin、quercetinなど)にはヒトがん細胞に対して単独での増殖抑制作用、致死作用あるいは放射線との併用で放射線増感作用のあることが報告されている。本研究では、未だその抗がん作用の不明なフラボノイドを含めて約30種類のフラボノイド類の抗がん作用(細胞増殖抑制、細胞致死あるいは放射線増感)について検討した。
【方法】
ヒト肺がん細胞(H1299)などを用いて、細胞増殖率をセルカウント法あるはMTTアッセイ法で、細胞生存率をコロニーアッセイ法で調べた。
【結果・考察】
実験に用いた約30種のフラボノイド類の中から、細胞増殖抑制、細胞致死あるいは放射線増感作用を示すいくつかのフラボノイドが新たに見出された。これらフラボノイドの作用機序やその他のがん細胞に対する抗がん作用についても今後検討する必要性が示唆された。
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女池 俊介, 山盛 徹, 安井 博宣, 松田 彰, 森松 正美, 福島 正和, 山崎 靖人, 稲波 修
セッションID: OE-1-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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【目的】放射線によって生じるDNA損傷のうちDNA二本鎖切断(DSB)が細胞致死にとって重要であると考えられている。しかし、相同組換え修復(HR)や非相同末端結合(NHEJ)などの細胞内DNA修復機構により放射線による細胞致死効果は減弱される。従って、このような修復機構を阻害することで放射線の作用を増強することができると予想される。我々は、これまでに核酸代謝拮抗剤TAS106とX線を併用することで、アポトーシス及び増殖停止を増強することを報告した。しかしながら、これまでにTAS106がDSB修復へ及ぼす影響は評価されていない。そこで本研究では、TAS106処理によりDSB修復阻害を介して放射線増感効果を誘導することができるかについて検討した。
【方法】ヒト肺がん由来A549細胞に対し、TAS106を24時間処理した後、X線照射を行った。細胞増殖死の評価はコロニー形成法により行った。DSB修復への影響はγ-H2AX foci形成により検討した。DSB修復関連タンパク質の発現の検討はウエスタンブロット法にて行った。
【結果】TAS106前処置細胞ではX線誘導細胞増殖死の増強が観察された。また、照射後に起きるDSBの修復についてもTAS106前処理により有意な抑制が見られた。DSB修復関連タンパク質の発現レベルを評価したところ、HRに関与するRad51とBRCA2の発現がTAS106 により著しく抑制されていた。そこで、BRCA2の機能が欠損したV-C8細胞を用いて放射線増感効果を検討したところ、V-C8細胞ではTAS106による増感効果は観察されなかったが、その親株であるV79細胞では放射線増感がA549細胞と同様に観察された。以上の結果は、TAS106前処理はBRCA2の発現を低下させ、HRを抑制することにより放射線増感効果を誘導していることを示唆している。
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鈴木 健之, GERELCHULUUN Ariungerel, 洪 正善, 孫 略, 盛武 敬, 坪井 康次
セッションID: OE-1-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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[目的]
COX-2はがんの転移浸潤、血管新生、放射線耐性に深くかかわる因子であり、潜在的にCOX-2が過剰発現している細胞は放射線感受性が低く悪性度が高い。特に悪性脳腫瘍ではCOX-2の発現が高く、治療抵抗性との関連が示唆されている。また、悪性脳腫瘍の多くは低酸素状態にあり放射線感受性が低く血管新生が盛んである。そこで本研究では、低酸素状態で培養した脳腫瘍細胞の放射線感受性に対する選択的COX-2阻害剤Celecoxibの効果を検討した。
[材料方法]
対象としてヒト膠芽腫細胞株A172、マウス悪性脳腫瘍細胞株GL261を用いた。通常の培養条件下で培養後、ガスパックパウチを用いてこれらの細胞を低酸素環境(O
2濃度1%以下24時間)に維持した。その後、選択的COX-2阻害剤Celecoxib (Pfizer.US)10~30μMを添加し、
137Csガンマセルを用いて5Gyのγ線を照射して、抗腫瘍効果の検討を行った。抗腫瘍効果は、増殖抑制試験、コロニー形成法で評価し、COX-2の発現はウェスタンブロットで評価した。
[結果]
通常酸素下(Normoxia)では、臨床的濃度(10~30μM) のCelecoxib単独ではいずれの細胞株においても有意な増殖抑制効果は認められなかった。また、γ線照射単独と比べ、γ線+celecoxibでは有意な細胞増殖遅延がみられ、Celecoxibの放射線増感作用が示唆された。さらに、低酸素下(Hypoxia)においてもNormoxiaと同等かそれ以上の増殖抑制効果が認められた。Celecoxib存在下でのγ線照射は、細胞の酸素状態に依らず悪性脳腫瘍細胞株に対して高い増殖抑制効果を示した。
[結論と考察]
COX-2はprostaglandin Eを介して低酸素下で放射線感受性に関わる因子HIF-1 alphaの発現を上昇させるという報告があり、また、VEGFの発現を上昇させることも知られている。今回の結果から、選択的COX-2阻害剤Celecoxibが低酸素状態にある膠芽腫細胞に対しても放射線増感作用を示したことから、Celecoxibは放射線抵抗性の膠芽腫に対する放射線治療においても増感効果を見込める優れた薬剤であることが示唆された。
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桑原 義和, 及川 利幸, 森 美由紀, 福本 基, 志村 勉, 福本 学
セッションID: OE-1-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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(目的) 放射線療法において放射線耐性細胞の存在は、治療の予後を左右する要因の一つである。発表者等は、放射線耐性細胞の性質を理解して、より有効な放射線療法を開発する目的で、2Gy/日のX線を30日以上照射し続けても増殖する、臨床的放射線耐性(臨床耐性)細胞の樹立に取り組み成功した。本研究では、放射線耐性にオートファジーが関与しているのか否かについて解析した。
(方法) アポトーシスはannexin-V染色により検出した。オートファジーは、抗LC3抗体によるオートファゴソームの免疫細胞学的解析で検出した。細胞の放射線感受性は、High density survival assayで評価した。
(結果) 10GyのX線照射後、親株及び臨床耐性細胞株ともに顕著なアポトーシスの誘導は見られなかった。しかし、オートファジーの誘導は親株で顕著であったが、臨床耐性細胞株では顕著な増加は見られなかった。オートファジーを誘導するrapamycin (RPM)を臨床耐性細胞株に処理したところ、放射線増感効果が見られた。逆に、親株にオートファジーを抑制する3-methyladenineを処理すると、放射線耐性を獲得した。
(考察) 放射線照射によって、オートファジーが誘導されること、オートファジーの誘導によって臨床耐性を抑制できることが明らかとなった。さらに、RPMが放射線耐性の克服に有効であることが示唆された。
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孫 略, 鈴木 健之, GERELCHULUUN Ariungerel, 洪 正善, 盛武 敬, 坪井 康次
セッションID: OE-1-5
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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悪性神経膠腫は放射線療法に極めて抵抗性で患者の予後も不良である.近年,さまざまな癌において腫瘍形成能をもつ癌幹細胞の概念が提唱され,脳腫瘍においても放射線照射後に癌幹細胞マーカーとされるCD133を発現する細胞の割合が増加することや,フローサイトメトリーを用いて分離したCD133陽性細胞が放射線抵抗性を示すことが報告されている.このことからグリオーマ幹細胞の存在が悪性神経膠腫の放射線治療抵抗性に関与していると推測されているが,放射線照射後生き残った細胞における癌幹細胞様性質に関する報告はまだ少ない.そこで本研究ではヒト髄芽腫細胞株ONS76を対象に,γ線5Gyを照射後に生き残り,コロニーを形成した細胞をクローンニングした.このクローンニングした細胞に再度γ線5Gyを照射しても増殖能が強かった4つのクローンに対して,コロニー形成法による生存率解析,フローサイトメトリーを用いたCD133の発現解析, 蛍光色素ヘキスト33342排出能力を指標としたSide Population (SP)解析を行い親株と比較した.クローンニングされた細胞では,生存率の有意な上昇が認められた.その中の1クローンではCD133陽性細胞の割合とSP分画の増加が認められた.以上の結果から,放射線照射後生き残った細胞の中には,幹細胞様性質を示す細胞群が濃縮されていることが示された.また,CD133陽性細胞と陰性細胞をソーティングし,それらの放射線に対する応答と細胞周期との関係について調べたので,その結果を併せて報告する.
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増永 慎一郎, 永澤 秀子, 劉 勇, 櫻井 良憲, 田中 浩基, 菓子野 元郎, 鈴木 実, 木梨 友子, 丸橋 晃, 小野 公二
セッションID: OE-2-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
固形腫瘍内の休止(Q)期腫瘍細胞のうちピモニダゾールで標識されない酸素化された腫瘍細胞の放射線感受性と回復能を検出する。
【方法】
EL4腫瘍を移植したC57BL/6JマウスにBrdUを連続投与し、腫瘍内増殖(P)期細胞を標識後、低酸素細胞放射線増感剤のピモニダゾールを投与し、1時間後に高線量率(2.0 Gy/min)または低減線量率(0.05 Gy/min)でγ線を照射した。全腫瘍(P+Q)細胞とQ腫瘍細胞の感受性は、BrdUに対する免疫蛍光染色法を用いる小核出現頻度とアポトーシス出現頻度で、ピモニダゾール非標識腫瘍細胞の感受性は、ピモニダゾールに対する免疫蛍光染色法を用いるアポトーシス出現頻度で評価した。
【結果】
(P+Q)腫瘍細胞においてよりもQ腫瘍細胞分画において、ピモニダゾール非標識腫瘍細胞は属している各々の腫瘍細胞分画全体よりも優位に高い放射線感受性を示した。しかしながら、ピモニダゾール非標識腫瘍細胞は、アッセイ時遅延や照射線量率低下による放射線感受性の低下を顕著に示し、やはり(P+Q)腫瘍細胞よりもQ腫瘍細胞分画において、属する各々の腫瘍細胞分画全体よりも顕著な放射線感受性の低下を示した。
【結論】
(P+Q)腫瘍細胞よりもQ腫瘍細胞において、各々の腫瘍細胞分画全体よりもより高い放射線感受性と放射線による損傷からのより高い回復能を有しているという点から考えると、ピモニダゾール非標識のおそらく酸素化したQ腫瘍細胞分画は、固形腫瘍全体としての制御のための決定的な標的の一つとも考えられる。
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新坊 弦也, 安井 博宣, 山盛 徹, 稲波 修
セッションID: OE-2-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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【目的】固形腫瘍に対する放射線治療の問題点として低酸素細胞層の存在が挙げられる。近年、血管からの酸素の拡散限界により慢性的に持続する低酸素細胞層の他に、腫瘍内血管の機能的・形態的な不完全性から起こる一時的な血流の鬱滞などにより、分~時間単位で変動する間欠的な低酸素細胞層の存在が報告されている。慢性低酸素と比較した際の間欠的低酸素の特徴として、血管新生能や浸潤能に与える影響がより強く、腫瘍の悪性化を進展させるという点が示唆されている。しかしながら、その放射線抵抗性に与える影響についてはほとんど報告されていない。そこで本研究では、慢性低酸素および間欠的低酸素に曝露した細胞の放射線抵抗性について検討を行った。
【材料・方法】細胞はC6ラット神経膠腫細胞を用いた。間欠的低酸素処理は、1時間の低酸素条件と30分の大気条件を繰り返すことにより行った。X線の照射は間欠的もしくは慢性低酸素処理後、大気条件で行った。細胞増殖死はコロニー形成法により評価した。間欠的低酸素曝露のHIF-1α発現への効果はウエスタンブロット法により検討した。
【結果】4回の間欠的低酸素に曝露した細胞では、低酸素に曝露しなかった細胞および4時間の持続的な低酸素曝露をした細胞と比較して有意な生残率の上昇が観察された。一方、低酸素細胞における放射線抵抗性の一因であるHIF-1αの発現は、間欠的低酸素の曝露回数を増すに従い増強された。以上のことから、HIF-1αの蓄積の増加が間欠的低酸素による細胞の放射線抵抗性に関与している可能性が示唆された。現在は、HIF-1αシグナル経路も含め、慢性低酸素とは異なる、間欠的低酸素曝露による細胞の放射線応答性制御機構を検討中である。
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安井 博宣, 松元 慎吾, MITCHELL James, KRISHNA Murali
セッションID: OE-2-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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【背景】固形腫瘍内に存在する低酸素領域は放射線療法の抵抗因子として最もよく知られており、現在まで拡散性の限界に伴う慢性低酸素を軽減するための治療的戦略が数多く研究されてきた。しかし近年、慢性低酸素とは異なり、分単位で増減する間欠的低酸素の存在が示唆されてきており、この間欠的な低酸素暴露が腫瘍細胞の治療抵抗性獲得や悪性化を引き起こすことが明らかとなってきている。本研究では、近年開発されたパルスESR法と酸素感受性プローブを組み合わせることで、腫瘍内酸素濃度の非侵襲的イメージングを確立し、血管構造との因果関係を明らかにする事を目的に研究を行った。
【材料と方法】移植腫瘍モデルとしては、マウス扁平上皮癌SCCVII細胞およびヒト結腸腺癌HT29細胞をマウス大腿に移植し作製した。300 MHz低周波帯でESR、MRI装置の両方に適用可能なパラレルコイル共振器に担癌大腿部を配置し、パルス照射型ESR装置により酸素濃度を測定した。この際、酸素プローブとしてTriaryl methyl radical (TAM)を尾静脈より持続的に投与した。同じ共振器を用いることでT2強調MRIによる解剖像と重ね合わせた。内皮細胞および周皮細胞に対するマーカーであるCD31やα-SMAに対する免疫染色を行った。
【結果】先の報告ではパルスESR装置を用いた10分以下の測定で十分な解像度とシグナルノイズ比で酸素画像を構築することに成功したが、今回、我々はコイル径を縮小し、TAMを持続的に投与することで、より短時間(3分未満)で変動する酸素濃度を可視化することが可能となった。SCCVII腫瘍ではHT29腫瘍に比べて低酸素領域が大きく変化しており、各ピクセルにおける時間に対する標準偏差を画像化したpO
2 SD mapから酸素濃度の変動幅も大きい事が明らかとなった。この不安定性の違いが血管成熟度によるものかを明らかにするため、血管内皮細胞に加え、血管成熟の指標となる周皮細胞に対する二重蛍光免疫染色を行ったところ、血管密度は両者の間でそれほど違いはないものの、HT29腫瘍では周皮細胞が多く出現し、血管への集族も多く観察された。
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原田 浩, 板坂 聡, 吉村 通央, 平岡 真寛
セッションID: OE-2-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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固形腫瘍内部に存在する低酸素がん細胞は放射線治療に抵抗性を示し、がんの再発を引き起こすと考えられている。この概念は主にin vitroのコロニー形成試験の結果と臨床研究に依存しており、現在までのところ、放射線治療後に低酸素がん細胞がどの様な運命を辿るのか?、また低酸素がん細胞が本当にがんの再発源であるのか?という問いに答える直接的なin vivoの研究はない。これらの問題にアプローチするため、我々は低酸素がん細胞に光標識を導入し、その挙動と運命を追跡する細胞トラッキング実験を行った。Tumor Codeを詳細に解析すると、低酸素領域はHIF-1陽性領域とピモニダゾール陽性領域に大別できる。我々はCre-loxP依存的な部位特異的組換え反応を低酸素細胞内で誘導する技術を確立し、HIF-1陽性領域とピモニダゾール陽性領域を別々に光標識することに成功した。これを利用し、各標識細胞とその娘細胞が放射線照射後にどの様な挙動を示すのかを光を指標に追跡した。HIF-1陽性細胞に光標識を入れて放射線照射を行った場合、標識細胞は放射線感受性を示し、照射4日後には腫瘍からほぼ消失した。一方、ピモニダゾール陽性細胞に光標識を入れた場合には、標識細胞は放射線照射後も残存し、Tumor Code中心部の腫瘍血管に向けて遊走した。再発腫瘍を詳細に解析したところ、ピモニダゾール陽性細胞に由来する細胞(娘細胞)が、再発腫瘍の実に60.2%を占めていた。これらの結果は、ピモニダゾール陽性 / HIF-1陰性の細胞群こそががんの再発源であることを直接的に示す実験データである。
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森 美由紀, 桑原 義和, 北原 秀治, 桃木 裕美子, 及川 利幸, 志村 勉, 福本 基, 谷口 貴洋, 橋元 亘, 江崎 太一, 越後 ...
セッションID: OE-2-5
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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(目的) 放射線治療は形態及び機能の温存に優れていることから、咀嚼や嚥下、会話などの重要な機能を果たす口腔領域の悪性腫瘍の治療において重要な選択肢の一つである。しかし、放射線治療に対して低感受性の悪性腫瘍や放射線耐性細胞の出現により、治療の失敗や再発が認められる。本研究では、腫瘍血管を標的とすることによりin vivoにおいて2Gy/dayのX線を照射し続けても増殖する臨床的放射線耐性腫瘍の克服を目指した。
(方法) ヒト口腔扁平上皮癌細胞SAS細胞及びその派生株である放射線耐性SAS-R細胞をヌードマウス背部皮下に移植してxenograft modelを作製した。mTOR阻害剤であるRAD001を経口投与すると共に、2Gy/dayのX線を30日間腫瘍部のみに分割照射した。さらに腫瘍内血管走行をトマトレクチンにて可視化し、腫瘍の組織学的解析を行った。
(結果) ELISA解析の結果から、in vitroにおいてSAS-RはSASに比べて2.5倍VEGFの産生量が高かった。また、SAS-R腫瘍はSAS腫瘍と比較し血管密度が有意に高いことも明らかになった。RAD001との放射線併用療法において、SAS-R由来の腫瘍では血管密度の減少や腫瘍内血流の遮断及び血管基底膜の残存像が多く観察され、SAS由来の腫瘍よりも早期に腫瘍体積が減少し始めた。さらに、腫瘍内血流が遮断された虚血状態をin vitroで再現しX線照射したところ、SAS-R細胞は早期に死滅した。
(考察) 臨床的放射線耐性の原因のひとつに、高いVEGF産生量とそれに伴う血管密度の高さが示唆された。従って、RAD001によるmTOR阻害効果によるVEGFの抑制は、臨床的放射線耐性腫瘍の克服に有効であることが強く示唆された。
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舟山 知夫, 横田 裕一郎, 坂下 哲哉, 小林 泰彦
セッションID: OE-3-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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高LETの重イオンは、イオントラック構造と呼ばれる飛跡に沿った密なエネルギー付与を行うことで、ガンマ線などの低LET放射線とは異なる特異な生物効果を示す。このイオントラック構造が重イオンに特異的な生物効果を引き起こすメカニズムにはまだ不明な点が多いが、従来のブロードビーム照射法を用いた低線量照射による解析では、細胞ごとのイオンヒット数に差が生じるため、正確な解析が難しい。そのため、重イオンが細胞に及ぼす影響を明らかにするためには、細胞を正確に狙い、照射することができる、細胞照射用重イオンマイクロビーム装置が必要になる。これまで、原子力機構では、コリメーション式重イオンマイクロビーム装置を用いて、最小径5 μmのビームによる細胞への重イオン照射実験を行ってきた。しかし、より精密な解析を進めるためには、より精度の高い細胞照射実験を行う必要がある。そこで、TIARAのAVFサイクロトロンの垂直ビームラインに重イオンビームを最小径1 μmまで微小化し、大気取り出しをすることができる集束式マイクロビーム形成装置を設置した。この装置を用いた、細胞への精密照準照射技術を確立することを目的に、真空窓直下に高精度細胞照準システムを設置し、このシステムを用いてHeLa細胞への照準照射実験をおこなった。実験では、イオン飛跡検出プラスチックCR39のフィルム上に播種した、蛍光染色した細胞の位置を、画像解析で自動検出し、その後、細胞に集束したネオンイオンビームを照準照射した。照射後、細胞にヒットしたイオンの位置を確認したところ、照準した細胞は3 μm以下に集束したビームで正確に照射されていた。これらの結果から、集束式重イオンマイクロビームによる細胞への照準照射技術を確立できたと考えられた。
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平山 亮一, 松本 孔貴, 野口 実穂, 高瀬 信宏, 加瀬 優紀, 鶴岡 千鶴, 松藤 成弘, 伊藤 敦, 安藤 興一, 岡安 隆一, 古 ...
セッションID: OE-3-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】放射線の生物への作用機序は放射線のエネルギーが標的に直接与えられ、分子それ自身が変化を受けて電離あるいは励起等を起こして細胞に障害を与える直接作用と、放射線のエネルギーが直接標的に与えられず、他の分子を介して間接的に与えられる間接作用がある。光子放射線では細胞致死における放射線作用は間接作用が主要因となることが古くから知られているが、重粒子線による細胞致死における放射線作用の寄与に関する報告は多くは無い。さらに低酸素下での報告は光子放射線での報告が数例あるだけで、粒子線による報告はほとんどない。本学会では重粒子線がもたらす細胞致死に対する放射線作用別の寄与率を明らかにすることを目的とした。また、得られた結果から、LET-RBE(生物学的効果比)曲線を放射線の直接作用と間接作用別に分け、重粒子線がもたらす高RBEを放射線作用別に解析し、放射線化学的観点から高RBEの機構解明を行った。
【材料・方法】CHO細胞を用いて細胞致死効果をコロニー形成法で調べた。放射線はX線(200 kVp, 20 mA)と放医研HIMACから供給された炭素イオン線(290 MeV)、シリコンイオン線(490 MeV)、アルゴンイオン線(500 MeV)、鉄線(500 MeV)を用い、LET領域は15-200 keV/μmとした。照射時の酸素条件は大気下と低酸素下(< 0.2 mmHg)で行った。間接作用の細胞致死寄与率の算出はDMSO法を用いて行った。
【結果・考察】間接作用の細胞致死に対する寄与率はLET増加に伴い減少する傾向を大気下および低酸素下両条件で確認した。また、RBEを放射線作用別に解析すると直接作用によって得られるLET-RBE曲線は間接作用による曲線より大きいことがわかり、重粒子線がもたらす高い生物学的効果は放射線の直接作用によることが明らかになった。
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和田 麻美, 松本 孔貴, 鶴岡 千鶴, 鈴木 雅雄, 古澤 佳也, 松藤 成弘
セッションID: OE-3-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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粒子線治療ではこれまでの放射線治療に比べて線量の局所集中性に優れることから、患者に対する負担や治療コストを低減できる少分割照射の可能性が調べられている。現在、放医研で行われている非小細胞肺がんに対する重粒子線治療の局所制御率は、18~4回分割照射はLQモデルに基づいたTCPモデルで説明できるが、1日照射はモデル計算よりも多くの線量を要する傾向にある。1日照射は、厳密に言えば20分程度のタイムラグを含む2分割照射になっており、亜致死線量修復のカイネティックスからも数分で回復がみられるように、その間に初期修復が起こっている可能性がある。また、マウスの足掌部皮膚反応をエンドポイントとし、感受性を調べるために行われた1~6 回分割照射実験では、2~6回分割の線量応答関係ではLQモデルで再現出来たが、1回照射では、高LET の高線量側で逸脱する傾向が判明している。このことからも1回照射と分割照射の間には異なるメカニズムがあると考えられる。以上のことから、本研究ではX線及び炭素線を用いて腫瘍細胞(A549)の生存率をエンドポイントとし、0~60分間隔での短時間修復効果を調べた。また、単純なLQモデルでは再現出来なかった一回照射の応答特性を調べるために、正常細胞(NB1RGB)の生存率をエンドポイントとして、1回及び2~4分割での分割/非分割効果を調べた。
本研究の結果、A549細胞では、重粒子線における2分割照射の照射間隔が0~60分以内であっても、細胞が修復することが判明した。また、この初期修復の程度は、LETの上昇と共に減少することが分かった。一方、NB1RGB細胞では、重粒子線での分割と非分割の間には初期修復の違いが見られた。両者とも、これまでに知られていた知見と合致している。今後は、腫瘍細胞では、異なる肺がん細胞の短時間修復を調べ、肺がんに特有な現象であるかを明らかにし、正常細胞では、低LETでのLQモデルの妥当性を調べることを予定している。
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松本 孔貴, 鵜澤 玲子, 平山 亮一, 小池 幸子, 岡安 隆一, 安藤 興一, 増永 慎一郎, 古澤 佳也
セッションID: OE-3-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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放医研における炭素線治療は5000件を越え、その中で悪性黒色腫や骨肉腫のように優れた局所制御が得られながら遠隔転移によりそれに見合うだけの生存率が得られない症例が見られる。炭素線治療の向上に転移の制御は必須であり、転移に対する効果を基礎的に明らかにする必要がある。本研究では、高転移能を有するがん細胞に対する放射線効果を
in vitro、in vivoの両面で評価し、炭素線と光子線の影響を比較することを目的として実験を行った。
in vitro実験において、X線に比べて炭素線(mono-peakの炭素線、LET≒13, 50, 75 keV/um)で優れた細胞致死効果が得られ、その効果比は1.3~2.5であった。一方、癌細胞の転移能に密接に関与することが知られる遊走能及び浸潤能に対する抑制効果を調べた結果、X線に対する炭素線の効果比は、ぞれぞれ2.2~10.9及び5.4~21.7の値を示し、細胞致死で比較した場合に比べより炭素線の効果が顕著に見られた。
in vivo実験では、マウスの下肢に移植した局所腫瘍(7.5±0.5 mm径)に炭素線(6cm SOBPの中心部分)とγ線を照射し、照射後の転移評価の基準として肺転移数を計数した(自然肺転移実験モデル)。その結果、線量依存的に肺転移が抑制され、その効果は炭素線の方が顕著だった。また、
in vivo-in vitro assay法を用いて腫瘍内細胞の生存率を算出し、炭素線及びγ線で同じ腫瘍内細胞致死効果を引き起こす生物学的等効果線量を求めた。その結果、等効果線量で各放射線照射後の肺転移数変化を再評価した場合も、炭素線がより顕著に肺転移を抑制した。以上の結果から、炭素線の抗転移効果は、腫瘍内細胞を死滅することだけに依存せず、生き残った細胞の転移能に対する抑制効果にも起因する可能性が示された。また、炭素線などの高LET放射線はγ線やX線などの光子線に比べ有意に転移を抑制する可能性が示唆された。
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武藤 泰子, 舟山 知夫, 横田 裕一郎, 小林 泰彦
セッションID: OE-4-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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近年、がんの重粒子線治療が注目されているが、生体免疫能の要となる免疫細胞は、がん腫瘍内・近傍に集積するため、治療による重粒子線照射が免疫細胞の連携に変化を引き起こし生体免疫能のバランスを崩すことで、治療成績に影響を与える可能性が存在する。また、高LETの重粒子線照射では、照射細胞が周辺の非照射細胞にも照射効果を誘導する現象:バイスタンダー効果の寄与が大きくなることから、生体免疫能への影響評価にあたっては、バイスタンダー効果を含めた検討が必須である。そこで本研究では、免疫細胞試料を重粒子線で全体あるいは部分的に照射し、重粒子線によるDNAや細胞膜の損傷が生体免疫能にどのように関与するかを、照射細胞が分泌する伝達物質の変化とその機構を中心に、バイスタンダー効果に焦点を当て解析した。ヒト急性単球性白血病由来細胞株THP-1をマクロファージに分化誘導し、炭素線(18.3 MeV/u、LET=108 keV/μm)を細胞集団全体に照射(0-50 Gy)した。また、試料を部分的に照射できるマイクロビーム照射で、細胞集団の一部の細胞(0.45%)のみを5 Gyの炭素線で照射した。照射後、細胞を培養し、細胞が産生した免疫細胞間シグナル伝達物質であるサイトカイン(IL-6、TNF-α)量をELISA法で定量解析した。5 Gyの炭素線均一照射試料では、IL-6とTNF-αの産生量が非照射対照と比べ50%減少した。また、マイクロビームによる部分照射でも、全体照射試料と同様にサイトカイン産生量が減少した。この結果は、照射された一部の照射シグナルを残り大多数の非照射細胞(99.55%)に伝達し照射効果を誘導したと考えられた。このことから、炭素線を低線量で照射した免疫細胞では、サイトカイン産生抑制のバイスタンダー効果が誘導されることが示唆された。
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古澤 佳也, 網野 真理, 吉岡 公一郎
セッションID: OE-4-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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重粒子線を用いた不整脈の治療法として放射線アブレーションの可能性を検討していたが、多くの虚血性心疾患や心筋症などの死因となっている根治療法のない致死性心室性不整脈の治療に炭素線が有効である事が判ってきた。
心筋梗塞に伴う心室頻拍・心室細動(VT/VF)には,心外膜直下の心筋や神経の機能異常が原因で発生するものが多い。我々は平成10 年より本研究に着手し,マイクロスフェアの冠動脈内への注入によって心筋梗塞を起こさせたモデル動物(家兎)を用い、その心臓の左心室20 x 20mmの領域に炭素線(290MeV/u SOBP)を10Gy前後照射すると,その後VT/VF が誘発されにくくなる事を見いだした。心表面電位マッピングでは梗塞部周囲心筋の再分極不均一性が重粒子線の照射によって軽減し,MIBG 核医学検査では交感神経終末のノルエピネフリン代謝が減弱した。さらに免疫染色法では心筋全体にConexin43の発現がみられ、心筋の一部だけが照射されたのにも拘わらずバイスタンダー効果様に心筋全体に渡って、細胞間信号伝達の更新が改善されている事が示唆され、さらにこの効果は年オーダーの長期にわたって続いた。一方、副作用としては照射線量30 Gy 以上で照射部位の皮膚炎症が出現、50 Gy 以上で心外膜下心筋の軽度線維化が生じたが、左室収縮能・造血機能・全身状態は不変であった。本研究は心筋梗塞後のVT/VF に対する重粒子線治療の有効性を確かめ、ヒトへの臨床応用をめざすものである。
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平川 博一, 崔 星, 矢島 浩彦, 藤森 亮, 古川 高子
セッションID: OE-4-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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脳腫瘍の難治性の理由の一つに、腫瘍に含まれるがん幹細胞の生物学的な性質があると考えられている。本研究は、脳腫瘍に由来する細胞株A172のがん幹細胞マーカー陽性細胞分画と陰性細胞分画の両者における放射線感受性の比較を通じて、がん幹細胞の仮説を検証する。また、両者の放射線感受性に関する修復能の違いにも着目して、脳腫瘍の治療の向上に役立てることを目的とする。脳腫瘍細胞株U87MGおよびA172を培養し、ソーティングによりCD133およびCD44陽性細胞の単離・純化を行った。これらの細胞では、CD44がん幹細胞マーカーの陽性細胞が観察された。これらの細胞においてはCD44陽性細胞のコロニー形成能がより高く、shere形成能も高かった。そこで、CD44陽性細胞分画とCD44陰性細胞分画の各種放射線に対する感受性(炭素イオンビーム、鉄イオンビーム)をγH2AXフォーサイの形成によって比較した。治療レベル線量の炭素線照射後6-12時間後の残存フォーサイ数は、CD44陽性細胞が陰性細胞に比べて少なかった。従って、脳腫瘍由来培養細胞においても、がん幹細胞マーカー陽性細胞は、放射線治療抵抗性であることが示唆された。
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崔 星, 大西 和彦, 藤森 亮, 平川 博一, 山田 滋, 古澤 佳也, 岡安 隆一
セッションID: OE-4-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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食生活の欧米化に伴い、日本を含むアジア諸国では大腸癌が急増している。本研究は、大腸癌細胞株HCT116、 SW480を用い、放射線抵抗性や薬剤耐性と強く関与するとされる癌幹細胞を分離・同定し、これら癌幹細胞に対して、炭素線或いはX 線照射前後のコロニー形成能、spheroid形成能、DNA損傷の違いを調べ、またSCIDマウスに移植し、腫瘍形成能、移植腫瘍に対する増殖抑制や治癒率の違いについて比較検討した。HCT116、 SW480細胞においてCD133+、CD44+/ESA+細胞はCD133-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意にコロニー形成数が多くやDNA損傷マーカーgammaH2AX fociは少ないが、 spheroid形成はCD133+、CD44+/ESA+細胞のみに認められた。CD133+、CD44+/ESA+細胞は、X 線或いは炭素線照射に対しともに抵抗性を示すが、炭素線はより強い細胞殺傷能力が認められた。またCD133+、CD44+/ESA+細胞はCD133-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意な腫瘍形成能を示し、炭素線はX線照射に比べより強い腫瘍増殖抑制や高い治癒率が認められた。以上より、大腸癌細胞において、CD133+、CD44+、ESA+細胞は明らかに自己複製や放射線抵抗性を示しており、炭素線はX線照射に比べより強く癌幹細胞を殺傷することが示唆された。
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佐々木 正夫
セッションID: OF-1-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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「目的」飛跡平均LETを変数とする放射線線質係数、Q(R)、は放射線影響評価基準の設定の土台となっているにもかかわらず、その生物学的定量基盤は極めて弱体である。最近、我々は染色体異常を指標とした放射線荷重係数を単純型DNA二重鎖切断の二成分誤修復(binary misrepair)のLET依存の確率密度関数として数量化した。ここでは、それをマイクロドシメトリー量と連結することにより中性子のRBE推定に用いる。
「方法」染色体異常の反応断面積とDNA二重鎖切断の反応断面積のLET依存関係から放射線Xのγ線に対する最大RBE(RBE
M)はLET(L)の関数として以下のように表すことができる(Sasaki, M. S., Int. J. Radiat. Biol., 85:26, 2009)。
RBE
M={[F(L
X)L
X2n-1]/[F(L
g)L
g2n-1]}exp{-2q
1(L
X-L
g)-2q
2(L
X2-L
g2)}、
F(L)はDSBの二成分反応と染色体異常の割合のLET関数。qはそれぞれover-killingと複雑型DSBに起因する細胞死による修飾係数。nはLETに対するDSB反応断面積の勾配。文献に見られる中性子マイクロドジメトリーデータから線エネルギー(y)の確率密度分布(f(y))を求め、r(y)=RBE
M(L)として中性子のRBE,RBE
M=∫r(y)f(y)dy/∫f(y)dyを求める。
「結果・考察」RBE
Mは、2MeV以上の単色中性子ではエネルギーとともには小さくなるが、2MeV以下の中性子では核分裂中性子・熱外中性子も含めRBEMは殆ど変わらない。この結果は中性子による染色体異常の線量効果をよく説明する。
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土居 主尚, 吉永 信治
セッションID: OF-1-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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回帰モデルは統計解析モデルの中でも最もよく使われるモデルの一つである。線量反応関係を調べる回帰モデルにおいて、反応である結果変数の誤差はモデル中に含まれている一方で、線量である説明変数の誤差はモデルに含まれていない。放射線影響研究における線量測定ではしばしば線量に誤差が含まれ、そのまま解析を行うとリスク係数の過小評価に繋ることが知られている。そのため、線量に含まれる誤差の大きさを定量化し、リスク係数の過小評価を補正するモデルが提案されており、測定誤差モデルと呼ばれている。放射線疫学の分野では線量測定における不確実性として2種類の誤差(Berksonとclassical)が知られており、これらの誤差を仮定したモデルが複数存在する。本研究では原爆被爆者のデータに近い状況を設定し、測定誤差モデルの性能比較を行う。
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巽 紘一, 大島 澄男, 工藤 伸一, 三ヶ尻 元彦, 吉本 恵子, 石田 淳一, 野村 保, 青木 芳朗
セッションID: OF-1-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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放影協では、低レベル電離放射線被ばくの人体影響について科学的知見を得ることを目的として、日本の原子力発電施設等における放射線業務従事者のコホート調査を行ってきた。手法は、従事者の住民票写しによる生死追跡と、人口動態調査死亡票転写分との照合による死因の確認および解析である。今回は、1999年3月末までに放射線従事者中央登録センターに登録され、2009年3月末までの前向き生死追跡を基に2007年12月末まで観察した男性(平均観察期間10.9年)約20.4万人(223万人年)を対象に死亡率(全死亡14,224名、全がん5,711名)を解析した。このコホートの被ばく累積線量は10mSv未満が多く(74.4%)、100mSv以上は3.0%、平均は13.3mSvである。日本人一般男性(20-85歳未満)死亡率に対する本コホートの標準化死亡比は、CLLを除く白血病では有意の増減は見られないが、白血病を除く全がん1.04(1.01-1.07)では有意に高く、これは肝がん1.13(1.06-1.21)、肺がん1.08(1.02-1.14)の寄与が大きい。がん死亡率(O/E比)と累積線量の傾向性検定では、白血病(CLLを除く)は有意でなく(p=0.841)、白血病を除く全がん(p=0.024)、食道がん(p=0.039)、肝がん(p=0.025)、肺がん(p=0.007)、非ホジキンリンパ腫(p=0.028)、多発性骨髄腫(p=0.032)が有意であった。白血病を除く全がんから、肝がんまたは肺がんを除外した場合には有意でなかった(p=0.097, 0.171)。さらに喫煙関連がん(p=0.009)は有意であったが、非喫煙関連がん(p=0.830)は有意でなかった。また、別途コホート内の約8万人に実施した生活習慣アンケート調査では、喫煙者の割合が高線量群に高率であったことからも、全がん死亡率と累積線量との関係には交絡因子の関与が強く疑われる。よって、低レベル電離放射線ががん死亡率に影響を及ぼしている明確な証拠は見られなかったと言える。本調査を今後も継続し、死亡数が十分に増加した時点で、喫煙習慣による直接的調整を伴う検定を行うことが国際的にも期待されている。
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中山 亜紀, 篠本 祐介, 佐々木 克典, 米田 稔, 森澤 眞輔
セッションID: OF-1-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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化学物質のリスク評価方法は現在大きな転換を求められている。
放射線のリスク評価が広島・長崎の原爆生存者調査という膨大なヒトのデータに基づいているのに対し、化学物質のリスク評価の多くは動物実験に頼ってきた。しかし、コスト・時間・動物倫理の面から、in vitro毒性試験に基づいたリスク評価の開発が望まれている。
そこで我々は、「放射線等価係数」という概念によるリスク評価方法を提案したい。
この方法ではin vitro毒性評価試験系により対象物質の毒性を等価な放射線量に換算した放射線等価係数を決定し、さらに対象物質のターゲット臓器における曝露量と放射線の発がん確率からその臓器における発がんリスクを推定するものである。
DDT及びX線について行ったin vitroトランスフォーメーションアッセイから肝臓がんリスクを評価したところ、Slope Factor(1mg/ kg 体重/日の用量で生涯にわたり経口曝露した時の発がんリスク)として0.143~0.152が得られ,US.EPAの呈示するSlope Factorと比較して良好な値であり、「放射線等価係数」によるリスク評価方法が妥当である可能性を確認した。
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楠 洋一郎, 久保 美子, 山岡 美佳, 吉田 健吾, 林 奉権, 中島 栄二
セッションID: OF-2-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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原爆被爆者において放射線ひばくが関係したと考えられるT細胞恒常性の撹乱が観察されている。今回、免疫防御や炎症に働く能力を持つT
H1, T
H2, T
C1, T
C2細胞などのヘルパーおよびキラーT細胞サブセット(それぞれT
HおよびT
C) に及ぼす年齢、性差、ならびに放射線量の影響を検討した。AHS協力者3,800名より供与された末梢血リンパ球をフローサイトメトリーにて測定した。肝炎ウイルスがこれらのT細胞サブセットの割合に強く影響していたので(未発表データ)、HBs抗原あるいはHCV抗体が陽性であった300名のデータを除いて解析を行った。その結果、T
H1 および T
H2 細胞の割合はいずれも年齢および放射線量とともに増加していた。また、T
H1/T
H2比においては年齢および女性で低下がみられたが放射線量の影響はなかった。一方、T
C1 および T
C2 細胞の割合は年齢や女性でそれぞれ増加および低下していたが、いずれにおいても放射線量の影響はみられなかった。以上の結果はT
H1/T
H2 あるいは T
C1/T
C2 バランスと放射線の関連性を示唆しないが、原爆放射線がT
Hの機能的分化に影響を与えて被爆者の炎症性サイトカインの産生を亢進したという仮説を支持する。
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吉岡 進, 飯塚 大輔, 河合 秀彦, 鈴木 文男, 西村 まゆみ, 島田 義也, 泉 俊輔
セッションID: OF-2-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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近年,原子力発電所の増加など我々が放射線被曝するリスクは拡大しているが,そのトリアージ法(識別救急)は未だ確立されていない。本研究では,このような災害時でも採取が容易な尿検体から,被ばく線量を推定できるバイオマーカーとなるペプチドを探索するため,被ばくマウスの尿プロテオミクス解析を行った。
B6C3F1マウス(8週齢)に対し,
137Csを線源として0.25 Gy~4.0 Gyのγ線を照射した。被ばく後4 , 8および24時間後に採取した尿についてHPLC分取し,MALDI-TOF MS測定した結果,
m/z 2820のペプチドが被ばくマウス尿中で特異的に増加した。このペプチドをESI-Q-TOF MSによりMS/MS測定し,相同性検索を行ったところhepcidin 2であることがわかった。次に被ばく後の尿中hepcidin 2濃度の経時変化をみたところ,0.50 Gy以上の場合には被ばく後24時間で3~5倍に増加していた。また0.25 Gyの場合では,被ばく後4~8時間でhepcidin 2の一時的な増加(約2倍)が見られたが,24時間後には被ばく前と同程度まで回復する傾向にあった。この結果と被ばく後24時間での肝臓におけるhepcidin 2のmRNA発現量を比較したところ,その増加傾向は類似していた。
Hepcidinは体内の鉄代謝を制御するホルモンとしての役割をもつことが報告されており
1),また放射線被ばくにより骨髄の機能障害が引き起こされることも知られている。したがって今回のhepcidin 2の増加は放射線による骨髄の造血機能低下がもたらした血液中の鉄バランスの変動が原因ではないかと考えられる。以上の結果からhepcidin 2は放射線被ばくのバイオマーカーの一つとなりうることが示唆された。
1) Nemeth E
et al., Science,
306, 2090-2093 (2004)
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武田 志乃, 寺田 靖子, 鈴木 享子, 春本 恵子, 小久保 年章, 西村 まゆみ, 島田 義也
セッションID: OF-2-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】近年、劣化ウラン弾汚染や世界的に原子力エネルギーが注目される情勢、それに伴う原子力資源獲得競争による環境負荷の懸念などを背景に、ウランの毒性影響に関心がもたれている。特に子ども影響に関する科学的根拠は乏しく、放射線防護の観点から早急な対応が求められている。これまで我々は、標的臓器である腎臓のウランの挙動を調べ、ウランが近位直尿細管に選択的に蓄積し、組織損傷を引き起こしていることを示した。そこで本研究では、微小ビームを用いた近位尿細管におけるウラン局在量解析を試み、組織影響との関係からウラン腎臓の幼若毒性の特性について検討した。
【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラットを用いた。生後3日目に一腹あたり6匹として飼育し、7日目(1週齢、新生ラット)あるいは25日目(3週齢、若齢ラット)に酢酸ウラン(天然型)を背部皮下に一回投与(0.1-2 mg/kg)した。成熟ラットには10週齢の動物を用いた。経日的に屠殺して腎臓を摘出した。ウランの分析:腎臓中ウラン濃度は誘導結合プラズマ質量分析により測定した。腎臓内ウラン分布および局所量の解析は高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XRF)により調べた。アポトーティック細胞の検出: TUNELおよびヘマトキシリン染色を行い、髄質外帯部から皮質にかけての領域の尿細管における陽性細胞を計数した。
【結果】新生および若齢ラットいずれも用量依存的に腎臓中ウラン移行量は増加した。成熟ラットの投与後15日目の腎臓当たりのウラン蓄積量は1日目の14%であるのに対し、新生および若齢ラットではそれぞれ170%および68%であり、幼若ラットでは腎臓におけるウラン残存量が高かった。腎臓中ウラン濃度は成熟ラットが最も高く、次いで若齢ラットであり、新生ラットは成熟ラットの1/4程度であったが、ウラン局所解析により新生ラットの近位尿細管においても成熟ラットと同等のウラン濃集部位が認められた。腎臓中ウランとアポトーシス誘導との量-反応関係についても合わせて報告する。
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浅川 順一, 上口 勇次郎, 金岡 里充, 中本 芳子, 辻 隆弘, 三嶋 秀治, 三浦 昭子, 金子 順子, 羽場 博, 今中 正明, 片 ...
セッションID: OF-2-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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精原細胞を標的細胞としたマウスモデルは、ヒトの男性被曝のモデルとなり、ヒトにおける放射線の遺伝的リスクの推定に用いられている。しかしマウスの未熟卵母細胞は、放射線に対する細胞死に関して感受性が極端に高く、数Gyといった高線量放射線による突然変異誘発実験は成り立たない。私たちは、ラット未熟卵母細胞がマウスと異なり、極端に放射線高感受性ではなく、数Gyのガンマ線を照射したメス親Sprague Dawley (SD) ラットからもF
1ラットが産まれることを確認した。このラットの系に2次元電気泳動法を適用すれば、ヒト女性被曝の遺伝的影響評価のためのモデル実験が可能になると考えた。2.5 Gyのガンマ線を照射したメスSDラットを照射後80日以降に非照射オスBNラットと交配した。照射時に未成熟であった卵母細胞に由来する750頭のF
1および同数の対照群F
1ラットの脾臓よりDNAを抽出し、2次元電気泳動を行った。1頭に付き1次元目の
NotI-
EcoRV断片の大きさが1-5 kbと5-12 kbの2種類のゲルを作製し、コンピュータ画像解析を行った。SD由来、BN由来それぞれ約1,500個の突然変異の検索に適していると判定されたスポットを選び、量的(遺伝子コピー数の変化)あるいは位置的変化を示す突然変異候補スポットを検索した。突然変異候補については分子レベルで遺伝子解析を行い、生殖細胞突然変異であることを確認した。照射群1,500枚、対照群1,500枚、合計3,000枚の画像について解析した(各220万遺伝子座検査に相当)結果、照射群に11、対照群に13、合計24例の突然変異を検出した。これらの突然変異の殆どはマイクロサテライトに生じたものであり、欠失突然変異は各群2例ずつであった。照射群の2例の欠失突然変異はオス親由来と確認され、メス被曝による放射線の遺伝的影響は認められなかった。
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中村 慎吾, 田中 聡, タナカ イグナシャ III ブラガ, 坂田 直美, 中矢 健介, 田中 公夫, 小木曽 洋一
セッションID: OF-2-5
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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低線量率(20 mGy/ 22 h/ day)のγ線を連続照射したB6C3F1雌マウスでは、肝臓、血清、脂肪組織中の脂質含有量が増加して組織の脂肪化が起こること、それに伴う脂肪組織重量の増加が、連続照射マウスの体重増加の原因であることが分かった(Nakamura S. et al. Radiat. Res. 173, 333-341, 2010)。今回、この体重増加の原因を明らかにする目的で、低線量率γ線を9週齢から連続照射したB6C3F1雌マウスを経時的に解剖し、体重、脂肪組織、肝臓、血清中の脂質含有量の測定及び卵巣の病理組織学的解析を行った。連続照射マウスでは、照射開始後28週(37週齢)に非照射対象マウスと比較して有意な体重増加及び組織の脂肪化が認められ、連続照射マウスではそれらに先立って卵巣の萎縮が起こることが分かった。また、照射開始後34週(43週齢)の連続照射マウスには、性周期が観察されず、早期の閉経が起こっていると考えられた。以上の結果は、低線量率γ線への長期連続照射で生じた卵巣の障害が、副次的に照射マウスの体重増加、組織の脂肪化の原因になることを示唆している。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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石井 恭正, 宮沢 正樹, 安田 佳代, 尾内 宏美, 柳原 倫太郎, HARTMAN Philip S., 石井 直明
セッションID: OF-2-6
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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近年、細胞内酸化ストレスによる細胞障害の蓄積は、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病、癌や神経変性疾患などの加齢性疾患を発症する原因の一因子として十分に知られるようになった。このような酸化ストレス障害の大部分は、ミトコンドリア電子伝達系で漏出した電子が近傍の酸素と反応することで発生する活性酸素に起因すると考えられている。
これまでに我々は、ミトコンドリア電子伝達系複合体IIのSDHCサブユニットにアミノ酸点変異(線虫G71E,マウスV69E)を有したモデル動物を用いて、過剰なミトコンドリア活性酸素の発生に伴う生体変化のメカニズムを明らかにしてきた。詳しくは、線虫
mev-1変異株では神経変性疾患様の表現型を呈し短寿命となり、マウス胎児線維芽細胞のSDHC E69細胞株では過剰なアポトーシスを生じる一方で、高頻度にDNA変異を生じ形質転換することを明らかにした。ヒトのSDHC変異は、家族性(傍神経節腫)パラガングリオーマを引き起こすことが報告されており、SDHC E69細胞株の結果はそれを証明する成果となった。
最近我々は、
mev-1同様のアミノ酸点変異(SDHC V69E)をコードする遺伝子の発現を任意に誘導することが可能な
Tet-mev-1コンディショナルトランスジェニックマウスを作製した。この
Tet-mev-1マウスには独自に開発したTet-On/Offシステムを用いており、SDHC V69Eの遺伝子発現量を内因性のSDHCと同等の量で制御することを可能とした。その結果、
Tet-mev-1マウスはミトコンドリア活性酸素の発生に伴い過剰なアポトーシスが誘導され低出生体重仔として産まれ、生後12週齢まで成長遅延を生じることが明らかとなった。また、性成熟後、妊娠率や出産率の低下が生じ、時には妊娠母体死にいたることも確認された。
以上の結果を踏まえ、本発表では、
Tet-mev-1マウスが高齢者不妊あるいは胎児や新生児へのミトコンドリア酸化ストレスの影響を明らかにするためのモデルとして有用であると考え、酸化ストレスの不妊・発生への影響について考察する。
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田代 聡, 鎌田 七男, 木村 昭郎, 三原 圭一郎, 大瀧 慈, 星 正治, 川上 秀史, 神谷 研二
セッションID: OF-3-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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[目的] 広島大学原爆放射能医学研究所(当時)は広島県・広島市の行う原子爆弾被爆者実態調査(昭和35年、昭和40年、昭和48年、昭和50年など)の企画、集計、結果報告に協力してきた。その結果、昭和57年に広島県・市を含め全国被爆者約29万人のリスト(ABSファイル)を完成させることができた。しかし、昭和48年に行われた「家族調査」に関する集計の結果はまだ報告されていない。原爆被爆者の子供数は原爆被爆実態の一部と見做されるものであり、今回報告する。[方法] 昭和48年「家族調査」の入力とデータのチェックを行い、リスト(FAM-Zファイル)を作成した。父・母親をABSファイルから同定し、父・母親の被ばく状況・被ばく線量(DS86-GEN)を把握した。これらより昭和21年5月1日より昭和48年12月31日までの年次別出生数、父・母親別被ばく状況別出生数、父・母親別被ばく線量別出生数を集計した。[結果と考察] 昭和48年12月末日までの子供数は119,331名で両親被ばく22,256名(男児 11,489、女児 10,767)、父親のみ被ばく 43,852名(男児22,594、女児 21,258)、母親のみ被ばく53,223名(男児 27,361 女児25,862)であった。被ばく線量500 mGy以上に該当する父親は 2,935名、母親4,921名であった。500 mGy以上被ばく母親は同線量被ばく父親に比して、約20年間子供の出産を躊躇していたと示唆される所見がみられた。
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荘司 俊益, SHOJI Isao, SHOJI Toshihiro
セッションID: OF-3-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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原爆放射線による被爆者の遺伝子の変化並びに被爆と被爆者からの児の先天異常との関連性については不明点が多い。Neelらによる1956年の長崎での調査で否定的な報告もされている。しかし奇形全体の発生頻度を総合的に考慮する際、外表奇形と内臓奇形との関連性の剖検例による検討が重要である。本研究では剖検結果による検索を被爆影響の一指標とし、被爆地域での早期剖検例で原爆放射線がヒトに及ぼす影響を検討した。剖検例は選択的に行われたものではなく、医師らあるいは家族の任意的ご好意によるものであったことを考慮すれば、本研究の剖検例は無作為的に得られたものと考えられる。その結果、長崎・広島の被爆者、非被爆者から得られた流・早・死・産児及び新生児死の剖検所見(1946-1984年)に関しての各臓器の奇形概要については、先天奇形図譜(丸善広島出版サービスセンター)に纏められている。被爆地域での早期剖検例で被爆群において生じた異常発生では、高頻度の頭部顔面・咽頭弓奇形や心臓血管系奇形などが認められる。転写因子や遺伝子の異常・変異、心臓形成領域・神経堤障害・機能異常、内皮・上皮-間葉転移の異常並びに心・大血管異常、咽頭弓部異常などの疾患の形成に原爆や放射線など環境ストレスが関与する可能性を示唆している。次世代児における被爆影響に関して仮に影響があるとすれば、致死または成年期か老後期での疾患発症の原因ともなりうる事が推測される。しかしながら、被爆影響に関する明確な結論を出すには更に数次世代におけるそれらと関連のある調査が必要であると考えられる。従って将来的には疾患発症に関与する候補遺伝子を考察し、それぞれの疾患の原因となる疾患発症原因遺伝子の役割解明を試みる。その制御機構におけるガイダンス因子の役割が包括的に理解されることにより、今後の疾患発症の予防、治療薬剤の開発や臨床応用への道が開かれることが期待される。
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三根 真理子, 横田 賢一, 柴田 義貞
セッションID: OF-3-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
長崎市被爆者の平均年齢は2009年3月末で75.4歳となった。2003年に長崎市が行った被爆者健康調査のデータを用いて、前期高齢者(65歳から74歳)、後期高齢者(75歳から84歳)、超高齢者(85歳以上)の調査後7年間の死亡を用い、前期、後期、超高齢者における死亡と生活環境との関連を検討した。
【方法】
長崎市が実施した調査には35,035人が回答し、そのうち調査時年齢が65歳以上の者は26,381名であった。全ての項目に回答した16,486名を解析の対象とした。2010年1月までに死亡したのは2,661名であった。各年齢層における生活習慣や環境の違いによる死亡率を比較した。
【結果】
前期高齢者、後期高齢者、超高齢者ともに死亡との関連を示した項目は性別、運動の有無、受診の有無、ADLの程度であった。主観的健康度、飲酒の有無、喫煙の有無については超高齢者では関連を示さなかった。飲酒については「飲まない」、「飲む」、「やめた」の順に死亡率が高かった。喫煙に関しては「吸っている」と「やめた」の2群における死亡率はほぼ等しく、「吸わない」群の死亡率より高かった。また精神的健康度と死亡については、前期高齢者においてのみ関連がみられた。
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大谷 敬子, 大瀧 慈, 佐藤 健一, 冨田 哲治, 川野 徳幸
セッションID: OF-3-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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2005年に広島大学と朝日新聞社の共同事業により38061人を対象として行われたアンケート調査結果が行われた.質問内容は主に,‘被爆状況’,‘こころ’,‘からだ’,‘くらし’から成り立っている.被爆者自身あるいはその子孫の健康に対する不安感に及ぼす背景要因についての解析を行った.急性症状や原爆症の発症に加え,被爆による母親の死や被差別体験などのその後の生活状況が健康不安を高めている要因になっていることが明らかになった.
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奥村 覚二, 木梨 友子, 岡安 隆一, 高橋 千太郎, 小野 公二
セッションID: PA-1
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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【目的】中性子線によるDNA損傷とその修復については種々不明な点が残っている。CHO細胞およびその突然変異株でKu80欠損細胞であるxrs5細胞を用い、京都大学原子炉(KUR)重水設備による中性子照射によって誘発されるDNA損傷、特にγ-H2AXおよび53BP1フォーカス形成を指標としたDNA二重鎖切断(DNA-dsb)の誘発と修復を明らかにすることを目的とした。
【方法】CHO-K1およびxrs5細胞は常法に従い培養し、KUR重水設備を用いて熱中性子を主とする中性子とγ線の混合場で照射(約2Gy/50min)した。また、対照として
60Coのγ線照射(約2Gy/2min)を行った。照射後、経時的にγ-H2AXおよび53BP1抗体を用いて免疫染色し、フォーカス数を計数することによりDNA-dsbの誘発と修復を評価した。
【結果】中性子線2Gyまたはγ線2Gy照射1時間後におけるγ-H2AXおよび53BP1フォーカス数を比較すると有意な差はみられなかったが、照射条件(特に線量率)を考慮するとDNA-dsbは中性子照射で多く誘発されたものと思われた。また、中性子照射およびγ線照射のいずれにおいても、照射終了後1時間におけるフォーカス数はxrs5細胞でCHO細胞に比べ有意に多かった。現在、照射後の時間を変化させて修復様態に関する詳細な検討を行っている。
【結論】今回用いたKUR重水設備の中性子場は、熱中性子、熱外中性子、速中性子およびγ線の混合場であり、中性子のみの影響を明確にすることは難しいが、少なくとも、KUR重水設備により供給される中性子場におけるDNA-dsbの誘発と修復の様態はγ線と異なっており、また、Ku80欠損細胞であるxrs5細胞では修復が遅れる傾向が観察された。
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勝部 孝則, 森 雅彦, 辻 秀雄, 塩見 忠博, 小野田 眞
セッションID: PA-2
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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DNA二本鎖切断(DSB)は放射線の最も危険な生物影響のひとつである。高等真核生物では,相同組換え(HR)と非相同末端結合(NHEJ)の2つのDSB修復機構が知られている。HRが細胞周期S期後期からG2期に特異的なのに対して,NHEJは細胞周期に依存しない。放射線高感受性齧歯類細胞の解析から同定されたXRCC4は,NHEJ主要因子の一つである。我々は,ヒト大腸癌由来のHCT116細胞を用いて,ジーンターゲティング法により
XRCC4遺伝子欠損(
XRCC4-/-)細胞を構築した。ヒト
XRCC4-/-細胞はDSBの修復に重篤な欠陥があり,放射線高感受性である。一方,HRには異常が無いことを示す結果が得られており,ヒト
XRCC4-/-細胞はNHEJ不全と考えられる。今回,ヒトの放射線影響への活性酸素の関わりを明らかにすることを目指して,
XRCC4-/-細胞の過酸化水素(H
2O
2)に対する細胞応答を検討した。H
2O
2処理後の
XRCC4-/-細胞の生存率は,親株に較べ有意に低くかった。DSBのマーカーとされるγH2AXフォーカスについて検討したところ,親株と
XRCC4-/-細胞の両方で,H
2O
2処理によるγH2AXフォーカスの誘導が確認された。しかし,X線で誘導されるフォーカスと異なり,H
2O
2によるγH2AXフォーカスは必ずしもATMフォーカスと共局在しないことから,X線によるDSBと質的に異なる可能性が示唆された。さらに,染色体異常の発現頻度を経時的に検討したところ,G1期後期~S期前期の
XRCC4-/-細胞が,H
2O
2に極めて高感受性であることが示唆された。G1期後期~S期前期にH
2O
2により生じたDNA損傷が,DNA複製を介してDSBに変換される可能性がある。また,そうしたDSBの一部は,NHEJによって修復される可能性がある。
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洪 正善, GERELCHULUUN Ariungerel, 加瀬 優紀, 盛武 敬, 栄 武二, 安西 和紀, 櫻井 英幸, 坪井 康次
セッションID: PA-3
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
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【目的】 高エネルギー陽子線のplateau部分(P点)とBragg peak近傍(B点)ではLineal energy(y*)値が異なり、生物学的効果も異なる。そこで本研究では、155MeV陽子線の異なる2点でy*値を測定し、それに対応するDNA塩基損傷とDNA二本鎖切断(DDSB)を定量的に明らかにすることで、陽子線治療における物理・生物学的評価システム構築の基礎的研究を行った。
【対象、方法】 155MeVの陽子線の7.2mm(P)と132mm(B)の深度でy*値(keV/micron)を測定した。同じ部位でDNA溶液と培養腫瘍細胞MOLT-4を照射し、塩基損傷はDNAに生じる8-Hydroxydeoxyguanosine (8-OHdG)の生成量を定量化した。DDSBは照射後のDNAを電気泳動しそのパターンの変化を画像処理にて定量化した。また、MOLT-4ではDDSBを示すgamma-H2AXフォーカスを免疫蛍光染色法により可視化し、画像解析にてその数を定量化した。さらに、ラジカル消去剤3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one (エダラボン)を添加した状態で同様の検討を行った。
【結果】 吸収線量を同じにした場合、照射後の8-OHdGの産生は、P点>B点で、エダラボンの8-OHdG産生抑制効果もP点>B点であった。陽子線照射後のgamma-H2AXフォーカスの数はP点とB 点では有意な差はなかったが、エダラボン添加後にはP点のほうが少なくなる傾向が認められた、電気泳動ではP点よりもB点の方がDDSBを多く生じる傾向が認められた。
【結論と考察】 陽子線治療の標準化には陽子線のマイクロドシメトリと、それに基づく信頼性の高い生物学的エンドポイントからなる物理・生物学的効果評価システムを確立することが望まれる。今回の結果からy*値の測定と微視的なDNA損傷の結果を融合した物理・生物学的評価システムのか構築が可能であることが示唆された。
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大野 みずき, 中西 恵美, 中津 可道, 續 輝久
セッションID: PA-4
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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放射線被曝の影響は線量によって、臓器によって、さらに細胞の種類や細胞周期の状態によっても異なることが知られている。このような放射線への感受性の差はDNA損傷自体の量や質の違い、損傷応答やDNA修復機構の違いなど複数の因子に起因すると考えられている。核酸への放射線影響にはDNA鎖切断等の物理的損傷を引き起こす直接作用と、生体内の水に放射線が作用し生じる活性酸素種による間接作用がある。X線のような低LET放射線の影響は一般的には2/3が間接作用によるものと考えられており、照射後長時間持続する酸化ストレスは遺伝情報変異の誘発要因となる。体細胞での遺伝情報変異はがんや種々の病因となり、一方生殖細胞系列で生じた変異は子孫に受継がれると、遺伝病や先天異常の原因となる。放射線照射後の核酸の酸化損傷とその修復機構を異なる臓器、異なる細胞種で解析する事を目的として、私たちはマウス個体に異なる線量のX線を照射し、それぞれ一定時間経過後の酸化損傷塩基やDNA鎖切断の検出、DNA修復遺伝子の発現、さらに細胞死と細胞増殖の状態を腸管と精巣の病理標本を用いて解析を進めている。0.5, 1, 2, 4 GyのX線照射後2日後、7日後の精巣ではgH2AX, 53BP1, Rad51の免疫染色性の亢進とBrdU陽性細胞の低下を認めたのに対して、腸管ではこのような応答が見られなかったことから、照射後、より早い時間での応答の可能性が示唆された。各組織および細胞種における核やミトコンドリアDNA中に存在する8-オキソグアニン量の解析とその修復遺伝子の発現状態の解析についても合わせて議論する。
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菅谷 雄基, 白石 伊世, 椎名 卓也, 藤井 健太郎, 横谷 明徳
セッションID: PA-5
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/01
会議録・要旨集
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数keV以下の軟X線は、DNAを構成する元素の内殻電子の励起を引き起こすエネルギー領域を含んだ電磁波である。我々は、放射光を光源として用い、軟X線のエネルギーの違いがどのようなDNA損傷の違いをもたらすかについて、その生成過程を含めて研究している。昨年の本大会で、窒素及び酸素のK殻イオン化領域の軟X線を照射することで、DNA内に選択的に鎖切断あるいは塩基損傷を引き起こせることを報告した。内殻電子の励起の後、外殻の電子が内殻に遷移してくるとき、オージェ電子が外殻軌道から放出される。オージェ電子の飛程は短く、励起した原子の近くの原子をさらに励起・イオン化すると考えられているが、これらの2次電子の効果はまだ明らかにされていない。本研究では、鎖切断や塩基損傷に加えAPサイトを定量し、内殻イオン化により生じる光電子やオージェ電子が選択的損傷生成に果たす役割を明らかにすることを目的とする。試料には、プラスミドDNA(pUC18)を用い、ピリミジン塩基損傷、プリン塩基損傷及びAPサイトの検出は、それぞれNth、Fpg、Nfoの3種類のDNAグリコシレースで処理しSSB(single strand break)に変えることで定量した。2次電子の効果については、オージェ電子と同程度のエネルギーの電子線をDNA薄膜に照射することで調べた。本講演では、それぞれの損傷収率を報告し、内殻イオン化によるDNA損傷の物理的な生成機構について議論する。
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