日本放射線影響学会大会講演要旨集
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スペシャルシンポジウム
  • 高橋 千太郎, 吉田 聡
    セッションID: SS1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    東日本大震災に伴う東京電力福島第一発電所の事故については、その収束に向けて様々な対応がなされているところである。今回の大会においても、このシンポジウムの他に、ワークショップや市民公開講座においてこの事故に関連した問題が討議されることになっている。放射線影響科学の分野として、どのようにこの問題に対応していくのか、対応すべきであるのか、きわめて重要で深刻な問題が突きつけられている。 この特別シンポジウムでは、事故の工学的な側面、環境中での放出放射性物質の挙動、事故に伴う放射線の影響、被ばくによる放射線障害のリスクなどについて、今回の事故に深くかかわってこられた専門家にご講演をお願いした。 明日には、本影響学会の会員を中心にこの事故に直接に関わってこられた方によるワークショップがあり、明後日には低線量放射線の影響という観点からの市民公開講座を予定されている。さらに、一般口演やポスターによる関連する報告も多くある。本学会におけるこの様な討議や情報交換が、事故の収束と当該地域の安全と安心に寄与できることを期待している。
  • 山名 元
    セッションID: SS1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     福島第一原子力発電所の事故は、軽水炉として世界最悪の事故となった。送電線の崩壊による外部電源6回線の全喪失、想定高さの2倍以上の津波による11台の非常用発電機の停止と残留熱冷却用海水ポンプの故障により、1~3号機において、炉心溶融と原子炉貫通が発生した。また、炉心溶融に伴い発生した水素が爆発し、1号機、3号機および4号機の建屋の上部が大破した。格納容器から漏出した放射性物質が、3月14日以降を中心に環境中に放出された。放出された主な放射性核種の量は、原子力安全・保安院により、131Iについて1.6 X 1017Bq、137Csについて1.5 X 1016Bqと推定されている。また、炉心冷却および使用済燃料冷却プールの冷却のために、注水された水が汚染水となって、その一部が海水中に漏出する結果となり、海洋にも総量として約1.5 X 1011Bqが放出されたと見られている。
    この結果、福島県をはじめとする広域の汚染広域や多くの住民の被ばくなどを引き起こしたわけであるが、事故直後の短期的被ばく影響のみならず、今後の長期の被ばく影響の評価の評価や、汚染地区の環境修復の実施に向けて、「放射性物質の発生過程」についての正確な理解が望まれる。本発表では、このような背景において、一連の事故の展開におけるプラントの状況等について、工学的な観点から、包括的に報告するものである。特に、事故発生当時の原子炉の運転状況、原子炉および使用済燃料貯蔵プールでの放射性物質のインベントリー、事故発生後のシビアアクシデント過程、放射性物質の環境への大量放出に至るメカニズム、放出核種の組成や放出量、等についての解説を行う。
  • 高橋 知之, 高橋 千太郎
    セッションID: SS1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東京電力福島第一原子力発電所の1号機から4号機では、炉心溶融や水素爆発、火災等が発生し、大量の放射性物質が大気中に放出されるとともに、炉心の冷却のために用いられた汚染水等が海洋に放出された。この事故により、原子力施設から20km圏内は避難地域に設定され、住民全員が避難を余儀なくされるとともに、20km以遠においても、一部の地域が計画的避難区域や特定避難勧奨地点に設定された。また、野菜や牛肉等から、食品衛生法における暫定規制値を超える濃度の放射性物質が検出されている。放射性物質に汚染されたがれきや、浄水、下水汚泥等の処理も深刻な課題である。
     本発表では、福島第一原子力発電所事故による影響について、大気あるいは海洋に放出された放射性物質の環境中における動態と被ばく経路に重点をおいて概説する。
  • 神谷 研二
    セッションID: SS1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     平成23年3月11日に発生した東京電力福島第1原子力発電所の事故は、国際原子力事象評価尺度でレベル7に評価され、大量の放射性物質が環境中に放出された。人類が経験したことのない長期に渡る原子力事故における、住民への低線量・低線量率被ばくによる健康影響が危惧されている。しかし、きわめて低いレベルの低線量、低線量率被ばくによる発がんリスクを推定できる精度の高い疫学資料は乏しく、低いリスクの推定には不確実性が残されている。国際放射線防護委員会は、放射線防護の立場から、、低線量域での発がんリスクの推定は、高~中線量域で認められた被ばく線量と発がんリスクとの間の直線の線量・効果関係を低線量域まで外挿し、低線量域でのリスクの推定を行っている(LNTモデル)。その際に、低線量、低線量率被ばくによる発がんリスクを推定する場合は、LNTモデルを適用して推定された値を線量・線量率効果係数(DDREF)である2で除することで補正することを勧告している。最近の研究により、細胞は、日常的に起きているゲノム損傷に対し様々な細胞応答現象を誘導し、ゲノムの恒常性を維持する機構を発達させてきたことが明らかにされつつある。低線量被ばくによる人体影響では、微量なゲノム損傷に対する細胞応答現象による修飾を受けることが想定される。本シンポジウムでは、低線量放射線影響の人体影響に関し生物学的な観点から議論する
  • 甲斐 倫明
    セッションID: SS1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    福島第一原子力発電所の事故は、「想定外」と弁解された原子炉のコントロールの問題とは別に、環境汚染が引き起こした放射線被ばくにいかに対応するかで、放射線影響・防護の専門家につきつけられた歴史的事故となった。初期に対応すべき確定的影響を抑えこむという点からは成功したといえるが、低線量における小児甲状腺疾患のリスクを適切にコントロールできたか、計画的避難区域という新しい「避難」の考え方に社会は適切に対応できたのか、食品汚染のコントロールのやり方は適切であったのか、低線量放射線被ばくの住民不安にどう対応すべきなのか。多くの放射線被ばくに関係した問題が従来放射線の専門でない学術研究者を巻き込んだ社会問題ともなった。これらの問題を検証しながら、私たち放射線の専門家に事故に際して何が求められたのか、また今後、何が求められているのかについて考える。
シンポジウム1 放射線による細胞死を考える。その2.治療戦略に向けて
  • 近藤 隆
    セッションID: S1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線による細胞死の分子機構の解明は放射線生物学の解決すべき重要課題のひとつである。その細胞死の様式は多様であり、放射線治療における寄与も様々である。昨年度の企画に続けて、「放射線による細胞死」を再考すべく、この分野の研究者に講演いただき、細胞死の機序について理解を深めるとともに、放射線治療上の問題点と対策について議論する。
  • 吉田 清嗣
    セッションID: S1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    DNAは遺伝情報の担い手であり、その正確な複製と子孫への伝達は生物の本質的特性である。従って重篤な危険性を孕むDNA損傷に対し、生物は多様なシグナル伝達機構により細胞周期を停止して損傷を修復し、修復不能な場合には細胞死(アポトーシス)を誘導し、損傷によって生ずる突然変異の蓄積を回避する。DNA損傷制御機構の破綻は、癌をはじめとする広範な疾患の原因となる。我々はこのDNA損傷におけるシグナル伝達を解明するために、中心的な役割を果たしている癌抑制遺伝子p53の機能制御について研究を行っている。p53の機能は主にp53蛋白の修飾によって制御されており、とりわけ46番目のセリン残基がひとたびリン酸化されると、アポトーシスによる細胞死という不可逆な転帰をとることが知られている。我々は近年、このセリン46をリン酸化するキナーゼとしてDYRK2を同定した。しかしこのリン酸化によって制御されるアポトーシス誘導の詳細な機構は依然として明らかにされていない。そこでセリン46のリン酸化によって特異的に誘導される標的遺伝子を同定するために、マイクロアレイとChIP-sequencingによる網羅的解析を行った。まずマイクロアレイ解析によりセリン46のリン酸化によって発現が変化する遺伝子群を網羅的に探索した。次にChIP-sequencing によりp53のプロモーター領域への結合配列を解析し、セリン46のリン酸化によってp53結合コンセンサス配列のモティーフが変化するかどうかについて検討を行った。この結果とイクロアレイによって得られた標的分子の解析結果を組み合わせることにより、セリン46のリン酸化特異的に発現が誘導される候補遺伝子の同定を行っている。本講演では、解析によって得られた候補遺伝子とその機能について、議論したい。
  • 三浦 雅彦
    セッションID: S1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    分割照射を主体とする放射線治療により、固形腫瘍内でどのような現象が引き起こされているのか、細胞死様式を含め、それぞれの時代のtechnologyを反映しながら、多くの知見が報告されてきた。Repair、Redistribution、Reoxygenation、Repopulationからなる4つのR は、1960年代に提唱され、その後も大きく進展し、DNA二重鎖切断(DSB)修復の分子機構、細胞周期チェックポイント、低酸素応答、癌幹細胞の同定につながっている。当初、放射線誘発アポトーシスは、リンパ系の細胞のみに起こるもので、固形腫瘍では起こらないと考えられていたが、アポトーシス検出感度の向上により、固形腫瘍にも頻度としては低いものの有意に認められること、さらにその頻度は、臨床における治療成績と相関するという多くの報告がなされてきた。一方、放射線治療成績を左右するのは、極めて少数の癌幹細胞であり、しかもこれらの細胞は放射線抵抗性であることもわかってきた。臨床サンプルにおいて検出されるアポトーシスのほとんどは、非癌幹細胞由来と考えられるので、癌幹細胞の概念からは、アポトーシス頻度と臨床成績との相関は説明がつかない。最近では、caspase-3活性が高い程、プロスタグランディンE2が分泌され、生残癌細胞の増殖が促進されることで、Repopulationに大きく寄与するというこれまでの概念を覆すような報告もなされている。本シンポジウムでは、照射後、固形腫瘍内で起こる細胞死に影響を与える因子の多様性と、戦略的に臨床応用することの難しさについて触れる。
  • 田内 広, 船生 悠美, 大原 麻希, 坂田 耕一, 染谷 正則, 関 良太, 飯島 健太, 小松 賢志, 晴山 雅人
    セッションID: S1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線は、細胞内のDNAに様々な損傷を生じさせる。中でもDNA二重鎖切断DSは、がん放射線治療における細胞致死効果の主要因でもある。DNA二重鎖切断の修復機構には、切断端を再結合可能な形にプロセッシングして結合する非相同末端結合(NHEJ)と姉妹染色分体を用いて元通りに修復することが可能な相同組換え(HR)修復の少なくとも2種類が存在している。NHEJは全細胞周期を通じて機能している一方で、HR修復は姉妹染色分体が存在するDNA合成期(S期)後半からG2期にかけて機能する経路であると考えられている。我々は、放射線によるDNA二重鎖切断の修復機構の研究する中から、HR修復の部分的阻害をがん放射線治療に応用する可能性を見出し、その効果を解析している。もし、DNA二重鎖切断修復経路に機能するタンパクの特異的阻害剤によって、特定のDNA損傷修復経路が完全阻害されるのであれば、細胞毒性が強すぎるために臨床応用への可能性は小さくなる。それゆえ、我々は、あるタンパクの特定機能のみを標的として、修復機構を部分的に阻害することにより、細胞毒性を抑えた、新たながん放射線増感剤の開発を提唱したいと考えている。本発表では、DNA損傷修復を部分的に阻害する作用の有用性とともに、それに関連する新たながん放射線増感剤の作用機序について紹介したい。
  • 長谷川 正俊, 片山 絵美子, 井上 和也, 浅川 勇雄, 玉本 哲郎, 大西 武雄, 村上 健, 加藤 真吾, 大野 達也, 中野 隆史
    セッションID: S1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    実際の放射線治療において細胞死の詳細を明確にすることは容易でなく、臨床ではアポトーシスとその他の細胞死を十分に区別できていないことが多い。放射線治療による癌の細胞死では、アポトーシスが注目されている一方で、むしろそれ以外の分裂死、壊死等の関与の方が大きいと考えられてきたが、半減期が短いアポトーシスが過小評価されている可能性もあり、さらに細胞死の概念、分類についての議論も多い。臨床例や動物実験におけるin vivoの検討では、悪性リンパ腫のように特に高感受性の腫瘍と、リンパ球、小腸のクリプト細胞、精巣の精原細胞等の正常細胞では、小線量照射後でも早期に高率なアポトーシス誘発を認め、腫瘍、臓器の急速な縮小を伴うことが多いが、その大部分がp53依存性で、p53ノックアウトマウスでは著しく減少する。その他の大部分の腫瘍、正常組織では、通常、確認できるアポトーシスは非常に低率であり、アポトーシス関与の詳細は不明である。なお、高感受性の腫瘍、臓器でも幹細胞は相対的にやや抵抗性であることが示唆されている。ヌードマウスに移植したヒト由来腫瘍の検討でも、比較的未熟で放射線感受性の上衣芽腫や原始神経外胚葉性腫瘍では、低LETのX線、高LETの炭素イオン線のいずれでもp53依存性アポトーシスが高率に誘発される。一方、p53変異型で放射線抵抗性の膠芽腫では、放射線の種類にかかわらずアポトーシスは低率であるが、炭素イオン線ではp53非依存性アポトーシスの相対的な増加が示唆され、RBEが比較的大きいとされている。ただし、cDNAアレイ解析等ではp53、Caspase、Fas、TRAIL等に有意な変化を認めず、むしろアポトーシス抑制に関与する可能性のあるNF-kBやIAP等の発現が示唆され、さらに実際の増殖遅延から評価したRBEはアポトーシスから評価したRBEに比してそれ程大きくないことも推定されている。
シンポジウム2. 放射線健康リスク制御に貢献する次世代バイオドジメトリー
  • 吉田 光明
    セッションID: S2-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線被ばく事故における被災者の被ばく放射線量を推定する事は、急性障害や晩発性障害の程度を予測し、治療や障害予防に役立てる上で極めて重要とされている。線量評価は物理学的方法と生物学的方法の2つがあるが、生物学的方法には被ばく者の臨床症状や血球数を算定する手法、末梢血リンパ球における染色体異常解析する手法が有る。生物学的な線量評価法の中でも特に染色体異常とりわけ二動原体染色体(dic : dicentric chromosome)の出現頻度を指標とした線量評価法は”Gold Standard”と呼ばれ、dicの頻度が放射線の線量と相関関係を示すことから、現在、最も信頼される手法とされている。染色体線量評価法は解析の指標とする染色体異常(二動原体染色体、染色体転座、環状染色体)によって主に3種類の手法が有る。中でも二動原体染色体を持つ細胞は、被ばく後、時間の経過と共に減少する事から不安定型染色体異常と呼ばれ、一方、染色体転座を持つ細胞は被ばく後、時間が経過しても長期間体内に残り続けることから安定型異常と呼ばれている。これらの異常の持つ性質を基に、dicは主として急性外部被ばく(全身被ばく)の線量評価に、また、染色体転座は過去の被ばく事例あるいは長期間にわたる慢性被ばくの場合の線量推定に用いられている。第3の方法はPCC (Premature Chromosome Condensation:未成熟染色体凝縮)-ring法である。一般に、細胞が高線量の放射線を被ばくすると、細胞周期がG2期で停止したり、アポトーシスが誘導され細胞が死滅する。このようなケースでは、細胞周期が染色体を形成するM期まで進行しないため染色体異常を観察する事が出来ない。 PCC-ring法は化学物質を用いて間期核DNAを強制的に凝縮させ、染色体異常とくに比較的容易に観察できる環状染色体を対象として線量評価を行う方法である。被ばく事故の状況や被ばく者の臨床症状を的確に判断しながら、どの手法を用いて線量評価を行うかを考え、選択しなければならない。また、最近、動原体に特異的なDNAやPNAプローブを用いたFISH法が応用されるようになり、より正確にdicを検出するという手法が試みられている。これらの手法も合わせて紹介する。
  • リードン クリストフ, 中村 麻子, ラーマン アリファー, ブラッケリー ウィリアム, ボナー ウィリアム
    セッションID: S2-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    There is a crucial shortage of methods capable of determining the extent of accidental exposures of human beings to ionizing radiation. However, knowledge of individual exposures is essential for early triage during radiological incidents to provide optimum possible life-sparing medical procedures to each person. We evaluated an immunocytofluorescence-based quantitation of gamma-H2AX foci as a biodosimeter of total-body radiation exposure (60Co gamma-rays) in a rhesus macaque (Macaca mulatta) model. Peripheral blood lymphocytes and plucked hairs were collected from 4 cohorts of macaques receiving total body irradiation (TBI) doses ranging from 1 Gy to 8.5 Gy. Each cohort consisted of 6 experimental and 2 control animals. Numbers of residual gamma-H2AX foci were proportional to initial irradiation doses and statistically significant responses were obtained until 1 day after 1 Gy, 4 days after 3.5 and 6.5 Gy, and 14 days after 8.5 Gy in lymphocytes and until 1 day after 1 Gy, at least 2 days after 3.5 and 6.5 Gy, and 9 days after 8.5 Gy in plucked hairs. Based on data obtained from the TBI study we introduce a partial-body irradiation (PBI) exposure analysis method. We established standard curves for PBI using Qgamma-H2AX (mean number of gamma-H2AX foci per damaged cell) and Fgamma-H2AX (fraction of damaged cells). Our findings indicate that quantitation of gamma-H2AX foci may make a robust biodosimeter for analyzing exposure to ionizing radiation in humans and could help clinicians prescribe appropriate types of medical intervention for optimal individual outcome. This research was supported by the NIAID Radiation/Nuclear Countermeasures Program, the Intramural Research Program of the National Cancer Institute, Center for Cancer Research, NIH and the Armed Forces Radiobiology Research Institute under research work unit number BD-13 (RBB4AR).
  • 鈴木 啓司, 山内 基弘, 鈴木 正敏, 山下 俊一
    セッションID: S2-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    細胞遺伝学的線量評価法は、最も信頼のおける生物学的線量評価法として広く用いられている。しかしながら、細胞の持つDNA損傷修復能により、初期に生成したDNA二重鎖切断は再結合されて検出できなくなり、誤修復の結果生成した二動原体染色体や転座型染色体等の染色体異常が、被ばく線量評価の指標として測定される対象になる。このことが、細胞遺伝学的線量測定法の感度を下げる要因となるため、生じたDNA二重鎖切断数を分裂中期染色体上で評価できる技術が望まれている。  近年、放射線により誘導されたDNA二重鎖切断が、ATMの活性化と引き続くリン酸化を介して、DNA損傷応答因子の局所的リン酸化と集積を誘導することが明らかになった。これら、DNA損傷応答因子の集積は、顕微鏡下で可視化できるサイズのフォーカスを形成する。我々は、DNA損傷応答因子のフォーカスの中でも、リン酸化H2AXおよびMDC1フォーカスが分裂期でも維持されることを見いだしたことから、これらDNA損傷分子マーカーが細胞遺伝学的線量推定法に応用できるのではないかと考えた。特に、リン酸化H2AXのフォーカス数は、被ばく線量に応じて直線的に増加し、推定されるDNA二重鎖切断数に対応することが多くの研究により報告されていることから、リン酸化H2AXフォーカスを染色体上で検出する手法の確立を検討し、照射直後に検出される染色分体型切断部位の95_%_以上で、リン酸化H2AXフォーカスを検出する技術を確立した。本発表では、この技術の次世代線量評価への応用について議論する。
  • デイヴィッド ブレナー, ガイ ガーティー, ヘレン ターナー, オレクサンドラ リュールコ, アントネラ ベルトゥッシー, エム タベラス ...
    セッションID: S2-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    Both immediately after a large-scale radiological event, or in support of longer-term epidemiological studies after an event such as at Fukushima, there is a pressing need for ultra-high throughput biodosimetry. A logical approach to achieve this is complete automation of standard biodosimetric assays that are currently performed manually. We will discuss progress to date on the RABiT (Rapid Automated Biodosimetry Tool), designed to score micronuclei, γ-H2AX fluorescence, and other related endpoints in lymphocytes derived from a single drop of blood from a fingerstick. The RABiT is designed to be completely automated, from the input of the capillary blood sample into the machine to the output of a dose estimate, and to cover a wide dose range. Improvements in throughput are achieved through use of a single drop of blood, optimization of the biological protocols for in situ analysis in filter-bottomed multi-well plates, implementation of robotic-plate and liquid handling, and new developments in high-speed imaging. The current RABiT potentially provides up to a 30,000 sample per day throughput. Automating well-established bioassays represents a promising approach to high-throughput radiation biodosimetry, both because high throughputs can be achieved, but also because the time to deployment is potentially much shorter than for a new biological assay. We will describe the ongoing development of the RABiT, current work on overall calibration and validation, as well as the infrastructure that would be required for its implementation. Garty G, Chen Y, Salerno A, Turner H, Zhang J, Lyulko O, Bertucci A, Xu Y, Wang H, Simaan N, Randers-Pehrson G, Yao YL, Amundson SA, Brenner DJ. The RABIT: a rapid automated biodosimetry tool for radiological triage. Health Phys. 98:209-17 (2010)
シンポジウム3 International Session for DNA Repair
  • Jeggo Penny
    セッションID: S3-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    ATM is required for the slow component of DNA double strand break (DSB) repair in mammalian cells. In previous studies, we have shown that this represents the repair of DSBs located within or close to regions of heterochromatin (HC). The damage response mediator proteins including H2AX, MDC1, the Mre11/Rad50/NBS1 complex, RNF8, RNF168 and 53BP1 are required for this component of DSB repair. We have shown previously that 53BP1 is required to tether ATM at DSBs and that this promotes dense phosphorylation of KAP1, generating pKAP-1, at HC-DSBs. Here we examine how pKAP1 enables the repair of HC-DSBs. Previous studies have shown that KAP1 is a sumo ligase and undergoes autosumoylation. Significantly, the sites undergoing sumoylation are close to the S824, the ATM-dependent phosphorylation site. Sumoylated KAP-1 interacts with the sumo-interacting motif (SIM) on the larger isoform of CHD3, a component of the NURD remodelling complex. Strikingly, we show that phosphorylation of KAP-1 at S824 does not impact upon sumoylation of KAP-1 but does impair the interaction between sumoylated KAP-1 and the SIM motif on CHD3. SUMO-SIM interactions are charge dependent and we suggest that the unstructured C-terminal region of KAP1, when phosphorylated, can out compete the SUMO-SIM interaction between KAP-1 and CHD3 via a charge-dependent reaction. Loss of CHD3 causes relaxation of the heterochromatic superstructure. siRNA of CHD3 overcomes the need for ATM for DSB repair, similar to the impact of siRNA KAP1. These findings represent a novel impact of phosphorylation and provide insight into the role of ATM in promoting the repair of DSBs. Interestingly, this mechanism for relaxing HC superstructure does not necessitate any changes to the epigenetic code.
  • Allenn Christopher, Sharma Neelam, Nie Jingyi, 藤森 亮, Nickoloff Jac
    セッションID: S3-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    Metnase (also known as SETMAR) is a fusion gene expressed only in anthropoid or higher primates that contains a histone methyltranferase (SET) and a transposase domain derived from the Mariner transposase (MAR). Metnase improves the integration of foreign DNA, enhances DSB repair via the NHEJ pathway potentially through interaction with DNA Ligase IV, promotes replication-fork restart through interaction with PCNA, interacts with and stimulates TopoII alpha-dependent chromosome decatenation and suppresses chromosomal translocations Metnase is expressed higher levels in several cancer cell lines. To explore the role of Metnase in response to equitoxic doses of photon (2Gy 137Cs) or hadron particle (1Gy carbon and iron ion) radiation we constructed normal (BJ1 hTERT) and cancer (HT1080) human fibroblast cell lines bearing stably-integrated Metnase shRNA expression vectors. We examined replication recovery over time after irradiation by monitoring the incorporation of the nucleoside analog EdU in wild type and Metnase knockdown cells. We found that carbon and iron ion treatment suppressed replication recovery in both normal and cancer fibroblasts regardless of Metnase expression levels. Interestingly, Metnase knockdown promoted replication recovery in normal fibroblasts in response to gamma treatment suggesting that Metnase may have, as yet undetermined roles in cell cycle checkpoint in response to gamma radiation. These data also suggest that hadron-particle radiation evokes a stronger checkpoint response that may not be influenced by Metnase.
  • 高田 穣
    セッションID: S3-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
  • YAJIMA Hirohiko
    セッションID: S3-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    Human cells are continuously threatened by endogenous and exogenous assaults on DNA. Following various DNA damages, PI3-kinase related protein kinases (PIKKs), including ATM, ATR and DNA-PKcs, take key roles in the DNA damage response (DDR). DNA double strand break (DSB) is a deleterious damage for cell survival and genome integrity, and major pathways for its repair are non-homologous end-joining (NHEJ) and homologous recombination (HR). ATM is critical for checkpoint signaling and DSB repair, especially HR, and DNA-PKcs is an essential component of NHEJ. ATR is activated by RPA-coated single-stranded DNA (ssDNA) that appears at a stalled replication fork (replication stress), and phosphorylates downstream factors in the S-phase checkpoint. However, recent studies have revealed that these PIKK family kinases function in conjunction with each other in DDR. For example, in response to DSB induced by ionizing radiation (IR), ATR is activated by ssDNA resulting from DNA end resection in ATM-dependent manner. We have shown that DNA-PKcs is phosphorylated by ATM and ATR in response to exposure to IR and ultraviolet light (UV), respectively. In addition, contrary to the rapid activation of the ATR pathway, delayed activation of ATM and DNA-PKcs kinases after UV-induced replication stress was found, suggesting that DNA double strand end (one-ended DSB) produced by replication fork collapse triggered their kinase activity. With a focus on our recent works, roles of PIKKs and their substrates in DSB response will be discussed.
  • 加藤 宝光, 前田 淳子, ステファン ジェネ
    セッションID: S3-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
スペシャルワークショップ1. 福島第1原子力発電所事故に対する諸活動から見えてきたもの
  • 酒井 一夫
    セッションID: SW1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    福島第1原子力発電所の事故により大量の放射性物質が環境中に放出された。放出された放射性物質による一般住民の被ばくは、低線量域の長期にわたる被ばくととらえることができる。また、内部被ばくの可能性とその影響や胎児や子どもに対する影響が大きな関心事となっている。ここでは以上のような論点について、これまでの知見をまとめて紹介し、放射線影響研究の中で今後取り組むべき課題について議論するきっかけを提供したい。
  • 佐々木 康人
    セッションID: SW1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    1.被ばく状況に基づく防護体系  ICRP2007年勧告は、計画被ばく状況、緊急時被ばく状況、現存被ばく状況という3つの状況に分けて防護体系を整え、1990年勧告の行為と介入という行動(procedure)に基づく体系を変更した。  総論的勧告(勧告物103)の内容を補完する刊行物109が緊急時被ばく状況での人々の防護、刊行物111が現存被ばく状況での公衆の防護であり、放射線攻撃時の対応についての刊行物96も含めて、福島原発事故の防護対策計画作成に当たり参照された。  ICRPは放射線被ばくを、職業被ばく、公衆被ばく、並びに患者の医療被ばくに区分して、防護の3原則、正当化、最適化、線量限度(医療被ばくを除く)を適用している。福島原発事故に関連して、緊急時及び現存被ばく状況での防護対策を述べる。 2.福島原発事故の特徴  ベントと原子炉建屋の水素爆発により多量の放射性物質が環境に放出されたとは言え、多大の努力により予想し得る最悪の事態を起こさずこれまで来たが、原子炉の低温停止には未だ数カ月を要するといわれている。  一方、非常事態が月単位で遷延したことにより様々な問題が生じた。これまでの日単位で収束した事故体験に基づくICRPの非常事態シナリオにはない、新たなタイプの原発事故であると言える。前例のない事態への対応の我が国での経験は国際的に注目され、将来国際的基準の変更を促すであろう。 今回の経験に基づいてリスク・危機管理体制の再構築とリスクコミュニケーションのあり方への展望が求められる。
  • 保田 浩志
    セッションID: SW1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    東京電力福島第一原子力発電所(福島原発)事故により大量の放射性物質が大気中に放出された。その総放出量はI-131について約1.3×1017Bq、Cs-137について約6.1×1015Bqとされる。これらの放射性物質は広大な領域に拡散し、雨水に取り込まれるなどして地表に沈着した。その汚染の拡がり方は単純な同心円とは大きく異なり、最も外部被ばく線量率の高い地域は福島原発から北西方向へ伸び、続いて比較的レベルの高い地域が福島市東部から南西方向へ長く伸びる形状を呈している。 文部科学省は3月15日から福島原発より20km以遠の空間線量率(1cm周辺線量当量率)を測定し、同日夜には北西約20kmの地点で0.33mSv/h、北西約30kmの地点でも3月17日に0.17mSv/hという高い値を観測している。周辺住民の被ばくについては、北西方向約30kmの地点において、3月23日正午から5月30日10時まで連続滞在した場合の積算線量を36mSvと推計している。一方、福島原発から南南西方向では、事故初期に濃度の高い放射性雲(プルーム)が通過したが、空間線量率の下がり方が早く、積算線量は比較的低いレベルに留まっている。 内部被ばくについては、国の現地対策本部が3月下旬に福島県内の小児1,080人の甲状腺被ばくを調査し、全員スクリーニングレベルを下回っていることを確認している。また、福島県は放医研の協力を得て住民122人のホールボディカウンター測定を6月末から7月にかけて実施、体内の放射性セシウムによる預託実効線量は全員1mSv未満であったと報告している。
  • 松本 英樹, 渡邊 正己, 田内 広, 立花 章, 鈴木 啓司, 宇佐美 徳子, 松本 義久
    セッションID: SW1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    平成23年3月11日午後2時46分、宮城県沖の海底を震源とする観測史上最大のマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生した。この地震により波高10メートル以上、最大遡上高40.5メートルにも上る大津波が発生し、関東地方及び東北地方沿岸部に甚大な被害をもたらした。この地震および大津波により東京電力福島第一原子力発電所では全電源を喪失し、原子炉を冷却することが出来なくなり、1、3、4号機の建屋内で水素爆発が起こり、85万テラベクレルもの放射性物質が放出され、広範囲に亘って食物、飲料水、土壌、海水等が汚染された。
    3月中旬には日本放射線影響学会会員有志グループ(Q&A対応グループ)により一般の方々からの放射能・放射線に関するメールによる問い合わせに回答する活動が始まった。そして頻度の高い質問、公表すべき質問およびそれらに対する回答を京都大学原子炉実験所のサーバーを利用してQ&Aサイトを立ち上げ、このQ&Aサイトは日本放射線影響学会ホームページに移管され、刻々と変わる情勢に合わせてブラッシュアップを繰り返しながら発信を継続させている。さらに現在、福島県および近隣県でのQ&A対応グループによる講演会の開催を検討中である。
    ワークショップでは、Q&A対応活動および講演会活動を通じて見えてきた原発事故の社会的影響について概説し、今後日本放射線影響学会が担うべき役割と活動の展望について議論できればと考えている。
  • 佐々木 正夫
    セッションID: SW1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    低線量影響の虚像と実像:社会的使命と学会に期待する今後の課題 佐々木正夫 京都大学名誉教授 東京電力福島第一原子力発電所の事故は我が国における放射線影響研究の現状を直撃し、研究者を震え上がらせる大きな出来事であった。研究者としての研究面での使命と、即応できる研究体制の構築の2点につて学会の今後に期待することを述べる。(1)社会的に関心が集中した放射線防護・規制基準の学術的な裏付けの脆弱性が浮き彫りにされ研究者の対応の軸足も大きく揺れた。ここでは、その原点となる原爆放射線の発がん影響を改めて新しい統計手法により解析した結果として、背景にある低線量「しきい値」、年齢効果、内部被ばく、線質効果、環境変異原との相互作用、DNA切断に働く修復経路選択などが統合的に働く生体制御という新しいパラダイムを提供し、低線量発がんリスクの定量化と新しい研究の深化に期待する。(2)我が国の影響研究はビキニ事件による環境汚染と人体影響から始まった。原子力利用に舵を切った我が国における大学を中心とした影響研究の推進と若手研究者の育成は放射線影響学会の悲願であり日本学術会議は多くの勧告、要望、対外報告を行政府に行ってきた。しかし、2001年の行政改革により従来のような機能は望めなくなった。上記の放射線影響の具体例が示すように放射線影響の研究は生命科学の最先端を巻き込んだ一種の巨大科学となる。経済的低成長時代における有効な戦略的研究の推進として文部科学省は共同利用・共同研究拠点制度を設けた。これらの研究拠点およびCOEが相互に連携し、全国の大学・研究所をネットワークとして巻き込んだ重点研究として放射線影響研究を推し進めることで全国的にポテンシャルを高め、研究が加速されることを望む。原子力開発のミッションには馴染まない大学の社会的使命でもある。
ワークショップ1. 放射線影響に及ぼすビタミンCの効果に関するワークショップ
  • 菓子野 元郎, 玉利 勇樹, 岡田 卓也, 西浦 英樹, 田野 恵三, 渡邉 正己
    セッションID: W1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    バイスタンダー効果は、照射細胞から放出される分泌因子の作用により、または細胞間でギャップジャンクションが形成されている場合にはそこでシグナルが伝達されることにより、そのシグナルが作用した細胞で影響が引き起こされる現象である。生物学的意義を考えると、放射線照射によるストレスを細胞が感知し、それを周りの細胞へ伝えるという、細胞集団全体でシグナル伝達により応答機構を活性化しているように思われる。我々のこれまでの研究から、X線とUVによりバイスタンダー効果が引き起こされることがわかった。バイスタンダー効果がDNA二重鎖切断、細胞死を誘発するレベルはわずかであり、それよりも細胞内の環境変化に及ぼす非致死的影響が大きいことがわかった。一方、ビタミンCは抗酸化剤として幅広い作用が知られている。ビタミンCが細胞内でどのように抗酸化作用を発揮しているのか興味が持たれるが、我々が解析した結果、DNA二重鎖切断のような極めて重篤な傷に対しては効果が弱く、突然変異や染色体異数化のような非致死的影響には顕著な効果を示すことがわかった。また、ビタミンCはバイスタンダー効果を顕著に抑制することが複数の実験結果から明らかとなった。ミトコンドリアは細胞内酸化度の調節に重要であり、その膜電位は細胞内のエネルギー産生に関係する。ビタミンCは、ミトコンドリア膜電位を低下させることがわかった。さらに、バイスタンダー反応によるミトコンドリアへの影響(膜電位やROS生成)もビタミンC処理で抑制されることがわかった。我々は、バイスタンダー応答を含めた放射線応答機構において、ミトコンドリアを介したストレス応答機構が極めて重要であると考えている。その機構において、ビタミンCが如何なる作用を示すのかについて詳細を解明したいと考えている。
  • 熊谷 純, 見置 高士, 菓子野 元郎, 渡邉 正己
    セッションID: W1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    ビタミンCの反応性については、G.R. Buettner等が詳しく研究している。L-アスコルビン酸(AscH2)のフラン環の2つのOH基はpKaが4.1と 11.8であるため,弱アルカリ性の生体内では1つのプロトンが解離してL-アスコルビン酸アニオン(AscH)の形で存在している。脂溶性抗酸化剤として知られるビタミンE(α-トコフェロール)は,酸化脂質を還元する一方で自身は酸化されてα-トコフェロールラジカルとなり、その性質はわずかに酸化剤の性質を持つようになるが,AscHはα-トコフェロールラジカルを還元してα-トコフェロールへと戻す役割を果たす。その際,AscHは水素原子(あるいは電子とプロトン)をα-トコフェロールラジカルに渡してアスコルビン酸ラジカルアニオン(Asc・)となる。Asc・は不対電子が3つのケトンを含むπ共役系にあるため、その還元力は低く酸素を還元してsuper oxideを生成することはない。さらに、Asc・は不均化反応でAscHとフラン環の2つのOH基がジケトンになったDHAとなり、AscHが回収される。DHAは生体内においてGSHとの酵素反応によってAscHへと還元される。我々は放射線照射や培地移動放射線バイスタンダー効果によってハムスター細胞内に生成する長寿命ラジカルをESRで直接観測し、ビタミンCを照射後あるいは培地移動時に加えると突然変異を抑制し、長寿命ラジカルの生成も抑えられることを報告してきた。照射された細胞中に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCまたはN-アセチルシステイン(NAC)のどちらでも消去できたが、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞中に生成するそれは、ビタミンCしか消去能がなかった。培地に加えられたビタミンCまたはNACは細胞質に取り込まれる。照射細胞に生成した長寿命ラジカルは細胞質に生成していると推測される。一方、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCを取り込む機能を有する膜タンパク(例えば、ミトコンドリアではDHAを取り込む働きのあるGLUT-1が知られている)をもつ細胞小器官に生成しているものと推測される。本結果は、長寿命ラジカルが関わるバイスタンダー効果の突然変異誘発機構を探る上でも重要な結果である。
  • 岡田 卓也, 菓子野 元郎, 田野 恵三, 渡邉 正己
    セッションID: W1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景】X線により誘発される微小核形成の多くは、DNA二重鎖切断生成に起因すると一般的に考えられている。しかしながら、DNA二重鎖切断を持つ細胞はチェックポイント機構により細胞周期進行が阻害されるので、分裂期経過を必要とする微小核形成につながりにくい。この明らかに矛盾する2つの事象を調和させるために、G1期で生じたDNA二重鎖切断が微小核形成につながるのか否かについて、アスコルビン酸(ビタミンC)を用いて調べた。
    【方法】細胞は、ヒト正常胎児線維芽様細胞(HE17)を用いた。細胞をコンフルエント状態で1週間維持し、細胞周期をG1期に同調しX線照射した。照射後のDNA二重鎖切断を可視化するために、所定照射時間(15分 ~ 24時間)後に細胞をホルマリン固定し、蛍光免疫染色法により53BP1を染色した。また、微小核形成については、照射24時間後に細胞固定し、DAPI染色により可視化した。さらに、照射24時間後の微小核内の状態を蛍光免疫染色法及びセントロメアFISH法により観察した。本研究では、放射線防護効果の異なる2種類のラジカル消去剤を使用することにより、DNA二重鎖切断と微小核形成の関連性を調べた。ジメチルスルフォキシド(DMSO)は、照射由来の活性ラジカルを捕捉し細胞死を抑制することから、DNA二重鎖切断を抑制するラジカル消去剤として使用した。一方のビタミンCは、放射線による致死作用を抑制しないことから、DNA二重鎖切断を抑制しないラジカル消去剤として使用した。
    【結果】はじめに、ラジカル消去剤による放射線防護効果をコロニー形成法で調べた。その結果、2%(256 mM)DMSO照射前処理により放射線防護効果が観察された。一方、5 mMビタミンC処理においては、未処理時の生存率と変わらなかった。さらに、53BP1によるDNA二重鎖切断の評価において、DMSO照射前処理は53BP1フォーカス数を有意に抑制したが、ビタミンC処理では抑制しないことが明らかとなった。これらの結果より、DMSOは照射時の活性ラジカルを抑制することにより、DNA二重鎖切断生成を抑制し細胞致死効果を軽減させるものの、ビタミンCにはそのような効果が見られないことが分かった。次に、ラジカル消去剤によるX線(0.5 ~2 Gy)誘発微小核形成の抑制効果を調べた。その結果、DMSO照射前処理では微小核形成を抑制せず、ビタミンC処理は微小核形成を有意に抑制した。もしも、X線誘発微小核形成の多くがDNA二重鎖切断生成に起因するならば、DMSO処理により微小核形成も抑制されるはずである。実際は、DNA二重鎖切断を抑制しないビタミンCが微小核形成を抑制した。また、照射により生成される微小核内にセントロメアが観察されたことから、細胞分裂機構の異常が照射後の微小核生成に関与することが示唆される。
  • 長岡 伸一
    セッションID: W1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     ダブルミキシングストップトフロー分光法を用いてビタミンCやユビキノール(還元型CoQ10)による天然ビタミンEの再生反応の速度論的研究を行った。ユビキノールに対して大きな重水素化効果が観測された。α-トコフェロール(ビタミンEの一種)の再生反応においてユビキノールを重水素化すると活性化エネルギーが6.1kJ/mol増加し、二次反応速度が1/18.3に減少した。この結果から、ユビキノールによるビタミンEの再生反応においてトンネル効果が重要な役割を果たしていることがわかる。それに対して、ビタミンCによるα-トコフェロールの再生反応ではそのような大きな重水素化効果が観測されなかったので、我々の実験条件下ではトンネル効果は重要な役割を果たしていない。しかし、α-トコフェロールではなく活性部位を保護したビタミンEのモデルを用いると、ビタミンCでも大きなトンネル効果が観測された。講演ではトンネル効果が重要な因子になる条件を議論する。ビタミンEはトンネル効果を利用して細胞膜における脂質過酸化を抑制しているかもしれない。微視的な量子論的効果であるトンネル効果が巨視的な生体機能に関与しているとすれば大変興味深い。これは一見我々の直感には反するが、生体は量子力学をよく知っていて、トンネル効果を上手に使って効果的に生体膜を保護しているのかもしれない。
ワークショップ2. 個体および幹細胞集団へのマイクロビーム局所照射による生物影響研究
  • 小林 泰彦, 舟山 知夫, 田口 光正, 田中 淳, 和田 成一, 渡辺 宏, 古澤 佳也, 木口 憲爾, 深本 花菜, 坂下 哲哉, 柿崎 ...
    セッションID: W2-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    重イオンマイクロビームを用いて任意の標的細胞に対して任意の個数の粒子(線量)を照射することによって、従来のランダムな照射方法で余儀なくされていた「平均値としての照射効果」の解析から脱却し、個々の細胞に対する真の放射線生物学的効果を追求することが可能となる。また、重イオンマイクロビームを用いることによって、標的細胞におけるイオンのヒット位置と細胞応答の関係を正確に把握でき、高LET重イオンによる生物効果を理解する上で極めて重要なイオンのトラック構造との関連を追求することが可能となる。さらに、重イオンマイクロビームは、生物組織中の特定の組織、器官、細胞を外科手術的に摘出する代わりに、体外からマイクロビームを照射して局部的に殺滅あるいは不活性化し、それによって生体に引き起こされる影響を解析するためのラジオマイクロサージャリ技術として、植物の生理機能やカイコの発生・分化過程の研究にも利用されてきた。本講演では、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)で開発した重イオンマイクロビーム照射装置の概要と、生物機能解析研究への応用例を紹介する。
  • 坂下 哲哉, 鈴木 芳代, 武藤 泰子, 横田 裕一郎, 舟山 知夫, 浜田 信行, 深本 花菜, 小林 泰彦
    セッションID: W2-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線被ばくにより、学習障害など神経系に影響をもたらされることが示唆されている。私たちは、これまで神経系に対する放射線被ばくの影響を明らかにすることを目的として、神経系のモデル生物として知られる線虫(C. elegans)を用いて、嗅覚順応、化学走性学習、及び運動と学習行動との関係について、行動とその変化に対する低LET放射線(γ線)の影響を調べてきた。これまでに、全身被ばくした線虫の化学走性学習行動が、特定の条件下においてのみ影響を受けることを明らかにしたが、線虫のどの部位における放射線被ばくが、線虫の化学走性学習行動の変化を誘導するかは未だ明らかでない。一方、マイクロビーム照射技術は、細胞あるいは組織レベルでの直接的な放射線の影響を調べるための有効なツールである。そこで、我々は、炭素イオン(18.3 MeV/u, LET = 119 keV/µm)マイクロビームを用いて、線虫の化学走性学習に対する直接的な放射線の影響部位を明らかにすることを目的として研究を開始した。線虫でのマイクロビーム照射実験を実施するために、シリコン製小動物用マイクロデバイスを用いることで、線虫の動きをマイクロビーム照射時においてのみ抑制する方法を導入した。また、神経機能を麻痺させる麻酔下でのマイクロビーム照射実験を実施し、神経活動の状態の違いによる結果の比較を行った。本発表では、この実験系による炭素イオンマイクロビーム照射実験の成果について報告する。
  • 小西 輝昭, 蔡 詠恩, 余 君岳, 及川 将一, 磯野 真由, 酢屋 徳啓
    セッションID: W2-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放医研マイクロビーム細胞照射装置SPICEは、タンデム型静電加速器を用いてプロトンを3.4MeVまで加速し、90°偏向磁石を用いて垂直方向(細胞底面から細胞上部)に照射できることから、通常の細胞培養と同様の状態で照射実験を行える。そして、三連四重極電磁石(Qマグネット)を用いた収束方式であるためエネルギーの均一な線質の奇麗なマイクロビーム用いることができる。現在の性能は、ビームサイズは2μm程度であり、さらにプロトンを1個からほぼ100%の精度で照射粒子数の制御が可能である。さらに、一分間におよそ400個の細胞の狙い撃ちが可能な高速性も持ち合わせている。このようにSPICEは、哺乳類培養細胞をターゲットとして設計・開発された。このSPICEで得られるプロトンマイクロビームをin vivo 研究へも応用するために、ゼブラフィッシュ胚を試料として開発を開始した。具体的には、試料観察系、粒子数制御システム及び試料設置方法等について開発を進め、ゼブラフィッシュ胚の細胞核に照射を実現した。次に、このSPICEを用いて放射線適応応答に関する研究を開始した。まず一回目の照射にSPICEを用い、受精後5時間後(5 hpf)のゼブラフィッシュ胚の細胞へ照射をし、培養器(28℃)もどし、10hpf胚になったところで硬X線を2Gy照射した。その後、24hpf胚におけるアポトーシス誘発細胞数を計数することで、放射線適応応答を評価した。数100個のプロトン照射によって、ゼブラフィッシュ胚は放射線に適応することを確認した。
  • 鈴木 啓司, 尾関 あゆみ, 鈴木 正敏, 山下 俊一
    セッションID: W2-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線照射を受けた細胞だけでなく、放射線のエネルギーを直接吸収しなかった細胞にも、間接的に放射線照射の影響が誘導されることが明らかにされてきた。放射線による非標的効果の誘導である。これまで、細胞死やゲノム変異に関する研究が数多く行われてきたが、細胞分化に及ぼす非標的効果の影響は不明である。一方、頭蓋照射は、脳腫瘍の治療法として幅広く行われているが、認知障害などの中枢神経系の副作用を引き起こす。これらは海馬の機能障害に起因することから、神経幹細胞の放射線障害による神経分化の異常がその原因であると考えられている。そこで本研究では、神経幹細胞の分化に及ぼす非標的効果を、長崎大学X線マイクロビーム照射装置を用いて検討した。実験には、胎生14.5日齢のSDラット大脳皮質より採取された神経幹細胞を用いたが、増殖培地中で、ほぼ全ての細胞が神経幹細胞のマーカーであるNestinに陽性であることを確認した。神経幹細胞の分化は、分化因子を含む分化培地中で7日間細胞を培養することにより行ったが、80_%_近くの細胞がアストロサイトのマーカーであるGFAPに陽性になり、用いた神経幹細胞では、アストロサイト系の分化が起こりやすいことが明らかになった。次に、神経幹細胞をマイクロビーム照射用のマイラー薄膜上で培養し、200μm直径の範囲内の細胞をX線マイクロビームにより局所照射し、増殖培地中で7日間培養した後、照射野から約1000μ_m_離れた領域の細胞において、GFAPの発現を検討した。その結果、約25_%_の細胞がGFAP陽性になることを確認した。神経幹細胞の分化は液性因子により制御されていることから、照射を受けた細胞からの分泌因子を介した非標的効果により、非照射神経幹細胞の分化が促進されたと考えられる。
ワークショップ3. 放射線生物学と活性酸素(酸化ストレス)―ミトコンドリアの役割―
  • 近藤 隆
    セッションID: W3-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線の生物作用の主因は間接効果とされ、水分解で生じた活性酸素が重要な役割を担う。一方、放射線によるアポトーシスのように間接効果だけでは説明できない現象も明らかとなってきた。細胞内における活性酸素生成の分布は多様であり、これを担う細胞内小器官が、また、活性酸素の時間的・空間的分布が鍵となる。本ワークショップでは特にミトコンドリアにスポットをあて、この分野の研究者に講演いただき、放射線生物学における活性酸素の役割について議論する。
  • 馬嶋 秀行, 犬童 寛子, 稲波 修, 幸村 知子, 中川 靖一, 松本 謙一郎, 小澤 俊彦
    セッションID: W3-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、ミトコンドリアのマンガンスーパーオキシドジスムターゼ (MnSOD) をStableに発現している細胞株を用い、コロニー形成法とアポトーシスの検出により細胞の生残率を解析し、MnSODが放射線照射に対して防護的役割を果たす可能性を報告した (Cancer Res. 61:5382-5388, 2001) 。この結果、MnSODの過剰発現が、ミトコンドリアにおけるROSの産生と細胞内リン脂質の過酸化物 (4-Hydroxy-2-nonenal; HNE) の量を減少させ、アポトーシスを防ぐことを示した。このMnSODによる放射線防護は、MnSODのtransient transfection、また、照射後のビタミンE投与により再現された。また、MnSODは、ミトコンドリアのROSの産生と細胞内脂質過酸化を制御することにより、放射線により引き起こされるアポトーシスに対して細胞を防御する重要な役割を果たすことが示唆された。ミトコンドリア内膜には電子伝達系が存在し、この電子伝達系から電子がもれることにより活性酸素が発生することが示された。ESRによる実験では、ミトコンドリアからスーパーオキサイドが産生される事を証明した。それでは、ミトコンドリア内膜に存在するcardiolipin がX線照射により酸化し、結果として電子伝達系より電子がもれて活性酸素が発生することが考えられた。しかし、cardiolipin にX線を照射しても、cardiolipin が酸化されることは認められなかった。X線照射による活性酸素発生および、アポトーシスには、in situ構築による機構が存在することが示された。
  • 秋山(張) 秋梅, 細木 彩夏, 橋口 一成
    セッションID: W3-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線照射によって細胞中に多くの活性酸素(ROS)が生じる。代謝の過程でミトコンドリアから漏れ出す活性酸素もある。これらの活性酸素は細胞中のDNAやタンパク質、脂質などの生体分子に損傷を与えて、細胞死や突然変異などの障害を起こす原因になっている。また、突然変異の蓄積は細胞をがん化する重要な原因の一つでもある。低線量放射線照射および細胞代謝で生じる活性酸素が複合作用として細胞にどのような影響を与えているのか、それに対して,細胞の酸化ストレスに対する防御機構がどう応答するのかに関しての研究はまだ不十分である。本研究では、(1)活性酸素防御酵素 SODや細胞内の酸化還元状態(レドックス)を維持する酵素グルタレドキシン(Grx)に焦点をあてて、まず、ヒト細胞でのそれぞれの高発現株を樹立し,それらの細胞の放射線に対する細胞応答の変動を調べる。さらに,(2)核DNA損傷、ミトコンドリアの障害、細胞質でのタンパク質の酸化を指標にした低線量放射線の細胞への作用、細胞障害への影響を調べる。  結果:SOD1を過剰発現させた細胞株では放射線への抵抗性がみられなかったが、SOD2を過剰発現させた細胞株は放射線抵抗性であった。そこで次にDSB量を測定した。SOD2過剰発現株でDSB量が減少するという興味ある結果がえられた。また、ROSによる酸化ストレス障害にSOD2の高発現がどのように影響を及ぼすのかを調べた。タンパク質の酸化量、H2O2によって発現が誘導されるOXR1タンパク質の量的変化、細胞全体での活性酸素量、またミトコンドリアの機能維持の有無を形態変化から測定したところ、全てにおいて抑制効果がみられた。 ミトコンドリアに局在している抗酸化酵素は細胞内の恒常性維持や細胞の生存に重要であると考えられる。そこで、同様にミトコンドリアに局在するGrx (Grx2) を過剰発現する細胞株における放射線障害への影響を調べた。この結果もあわせて報告する。
  • 山盛 徹, 安井 博宣, 稲波 修
    セッションID: W3-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     細胞に放射線が照射された際に、細胞内の水の励起・電離により活性酸素種(ROS)の生成が起こることは非常によく知られているが、それ以外に照射数時間後から細胞内ROS産生の亢進が生じることが報告されている。近年、この二次的に生じるROSが、アポトーシスシグナルや遺伝子不安定性の誘導、バイスタンダー効果といった種々の放射線の生物作用に寄与していることが明らかになり、その意義が注目されている。しかしながら、この放射線照射により引き起こされる二次的なROSの発生メカニズムについては十分明らかにされていない。我々は、これまでヒト肺線がん由来A549細胞を主な材料に、この放射線誘発ROS産生のメカニズムについて検討を行ってきた。放射線照射によりミトコンドリアに由来するROSレベルの上昇が引き起こされ、この際、細胞内ATP量、酸素消費率、ミトコンドリア膜電位といったミトコンドリア電子伝達系(ETC)活性の指標はすべて増加し、放射線照射はETC活性を上昇させることが明らかとなった。この放射線によるETC活性の上昇は、ETC複合体酵素活性の変化ではなく、細胞内ミトコンドリア含量の増加と関係していることが示唆された。放射線照射を受けた細胞では、チェックポイント機構の働きにより細胞周期が停止する。我々は、細胞周期とミトコンドリアROSおよびミトコンドリア含量との関係を検討し、両指標ともG2/M期の細胞ではG1、S期の細胞と比べ常に高いことを見いだした。したがって、放射線照射によるG2期停止の結果、細胞内ミトコンドリア含量の高いG2期に集積する細胞が増えることが、放射線によるミトコンドリアROSレベルの上昇に寄与していることが示唆された。
     また、がん細胞は正常細胞に比べて抗酸化活性が低く、酸化ストレスに対して脆弱であると考えられている。そこで我々は、放射線によるミトコンドリアからのROS産生を促進させる薬剤を利用することにより、がん細胞の放射線感受性を増加させることが可能なのではないかと考え、現在いくつかの候補化合物を用いた検討を行っており、本発表ではこの結果についても紹介したい。
  • 渡邉 正己, 菓子野 元郎, 熊谷 純, 渡邉 喜美子, 田野 恵三
    セッションID: W3-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    現在、放射線発がんは、「DNA損傷→染色体異常および突然変異→細胞がん化」の経路をとると考えられている。しかし、我々のこれまでの結果は、DNA損傷を起源とする経路以外にDNA損傷を起源としない経路が存在し、その経路が圧倒的に主経路であることを強く示唆している。そこで、今回、我々は、ヒト、マウスおよびハムスター由来の初代培養細胞を用いて、放射線被ばく後、染色体異常、基質非依存性増殖能、無限増殖能などがん形質の発現と細胞内生理活性変化の関連を調べた。その結果、低線量放射線被ばく時には、一時的にミトコンドリア機能撹乱が起こり電子伝達系から大量の電子が漏洩し、テロメア、サブテロメアおよび中心体など重要分子の構造異常が観察されることが判った。放射線被ばく後、遅延的にがん化した細胞では、細胞の由来動物種に関わらず染色体異数化が共通して観察されるので中心体の構造異常に伴う染色体分配異常誘導が低線量被ばく時の細胞がん化の主たる経路であると予想される。この経路は、基本的に自然発がん経路と区別できず、低線量放射線の発がんの大半は自然発がんの嵩上げであると考えられる。 *この研究は文部科学省科学研究費 (21310036) および内閣府原子力安全研究補助金によっておこなった。
ワークショップ4. マイクロスケールとマクロスケールの放射線応答をつなぐ線量を考える
  • 坂下 哲哉
    セッションID: W4-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    低線量・低フルエンス照射実験では、細胞集団の個々の細胞がポアソン分布に従い不均一に被ばくする(マクロスケール)。一方、近年研究が盛んに行われているマイクロビーム照射実験では、1細胞の核を狙って一定量の放射線を照射することが可能であり、1細胞ごとの正確な被ばくを評価し解析を行うことができる(マイクロスケール)。しかし、このマイクロスケールとマクロスケールの放射線影響には、バイスタンダー効果の有無や吸収線量Gyの適用限界のため、両者をつないで議論することには、未だ多くの課題が存在する。各論であるバイスタンダー効果、放射線エネルギー分布の不均一性、さらにはマイクロドジメトリに触れる前に、これらの課題を分かりやすく概説したい。
  • 松本 英樹, 冨田 雅典, 大塚 健介, 前田 宗利, 畑下 昌範
    セッションID: W4-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    ある細胞集団へのX線あるいはγ線のブロードビームによる低線量・低線量率照射では、個々の細胞がポアソン分布に従って不均一に被ばくする。この細胞集団の中には全く被ばくしていない細胞が37%含まれているが、それらを識別することは非常に困難である。一方、近年国内のX線や粒子線のマイクロビーム照射装置の発展に伴い、マイクロビームにより、ある特定の細胞を照準して照射し、被ばく細胞と非被ばく細胞を識別して分析することが可能となり、従来からの細胞の放射線に対する応答現象へのバイスタンダー応答の関与等が盛んに研究されてきている。当該ワークショップでは、低線量ブロードビーム照射によって得られる事象とマイクビーム照射によって得られる事象とを比較することができる線量概念の設定における課題を洗い出し、解決する方策を議論するものである。
    その議論のための話題として、HIMAC(放医研)を用いて行った様々なLETを有する粒子線照射による適応応答の誘導へのバイスタンダー応答の寄与に関するデータおよびTIARA(原研高崎)の細胞局所照射装置を用いたマイクロビーム照射による適応応答の誘導に関するデータを提供し、当該ワークショップの議論の口火となればと考えている。
  • 小林 克己, 宇佐美 徳子
    セッションID: W4-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、放射光単色X線(5.35 keV)マイクロビーム細胞照射装置を開発し、低線量放射線の生物影響について研究を進めている。本装置は、指向性に優れた放射光を光源としているため、スリットを用いて容易にビームサイズを変更することができる。この特徴を利用すると、細胞あるいは細胞核の一部などの任意の標的を照射し、それらを個別に追跡し照射効果を検出することが可能である。ビームの大きさを変えて細胞内のエネルギー付与領域を変えた実験から、照射された細胞の増殖死、および照射されていないバイスタンダー細胞の増殖死のどちらの場合についても細胞質へのエネルギー付与があるか否かで線量効果関係が、特に低線量域で、異なった。このことから、細胞質へのエネルギー付与によって誘導される細胞内の反応が低線量域での細胞死誘導メカニズムにおいて重要な役割を担っていると考えられる。この仮説を検証するためには、細胞質のみへ効率よくX線を照射する手法を開発する必要がある。そこで、我々は、使用中の培養細胞の細胞核の大きさを考慮して、直径15ミクロンの金の円柱を薄い窒化シリコン基板上に重層したX線マスクを作成した。5.35 keVのX線は、この窒化シリコン基板を99_%_以上透過する一方で、金が重層された15ミクロンの領域では透過するX線は0.1_%_未満となる。このX線非透過領域を、照射標的細胞の細胞核位置に合わせて照射することで、細胞質のみへエネルギーを付与することが可能となる。我々は、従来の細胞照射装置に改良を加え、照射用ステージの直下に、電動ステージにセットしたX線マスクを設置し、50ミクロン角のビーム内の中心に非透過領域を作り、標的細胞の細胞核をこの領域に合わせて照射する手法を開発した。このマスクを用いた照射手法により細胞質のみを照射した細胞の生存率を、細胞質に与えた吸収線量(細胞核には線量ゼロ)に対してプロットすると、線量に対して肩の無い指数関数的な関係が得られた。このことは細胞質のみ照射した時の致死の原因はDNA損傷ではないことを示している。  我々の開発したマイクロビーム照射装置では、以上の様に、細胞全体、細胞核のみ、細胞質のみ、という3種の照射方法が可能であるが、この照射法で得られた結果を比較する時には、どのような横軸(線量)を定義すべきか、という問題が提起されている。
  • 佐藤 達彦
    セッションID: W4-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    マイクロドジメトリの分野では,DNAや細胞スケールの微少空間内の吸収線量はspecific energy ”z” として定義され,マクロスケールの吸収線量”D”とは区別される。zとDの違いは,確率的な分散を持つか持たないかであり,zの平均値がDとなる。この分散の概念を導入すれば,マイクロビームとブロードビーム実験の違いは,各細胞や細胞内部における吸収線量分布(すなわちz分布)の違いで数学的に表現することができ,両実験結果は同一のモデルで解析できるようになる。発表では,マイクロビームとブロードビームを用いた細胞生存率の測定結果を,染色体と細胞核の2つのレベルでのz分布から再解析した結果を紹介するとともに,z分布の分散が生存率に与える影響について考察する。
ワークショップ5. 生体組織に対する低線量(率)放射線影響の解明に向けて
  • 小笹 晃太郎, 清水 由紀子
    セッションID: W5-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    背景:放影研では被爆者追跡調査(寿命調査:LSS)による放射線による健康後影響の評価を行ってきた。対象者の被曝線量は低線量域から高線量域の広範囲であるため、低線量域での影響をさまざまな視点から検討することができる。
    方法:当初120,321人のLSS集団の生存および死因について1950年より2003年まで追跡した。2002年線量体系(DS02)によって個人線量の推定されている86,611人を解析対象として、総固形がんの線量反応関係をポアソン回帰モデルによって推定した。
    結果:総固形がんリスクは、全線量域での線量反応関係は線形モデルが最も適合したが、2Gy未満の線量域では線形二次モデルが最も適合した。すなわち、単位線量あたりのリスクが低線量被曝では高線量被曝に比べて小さいことが示唆された。しかし、この上側に凹の曲線は、0.5Gy付近で直線モデルより低い推定値が得られるためであり、線量域を0.1Gy未満に限った場合には、ERR/Gyは有意ではないものの、その点推定値は全線量域での推定値よりもむしろ大きな値を示した。また、総固形がんの過剰相対リスクが有意となる最小線量範囲は約0.2Gy以上であった。
    結論:放影研の被爆者追跡調査では、最も長い追跡期間の今回の結果においても、過去の結果と同様に、低線量域での有意な結果は得られなかったが、直線非閾値モデルを支持すると考えられた。低線量域での放射線影響を明らかにするためには、放射線の効果と交絡や交互作用を生じる生活習慣などの因子や、医療放射線被曝などを考慮した解析が求められる。
  • 冨田 雅典, 小林 純也, 野村 崇治, 松本 義久, 内海 博司
    セッションID: W5-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    線量率効果は、線量率が低くなると、総線量は同じでも、生物効果が低くなる現象であり、長い照射時間の間に亜致死損傷の回復が起こるためであると古くから考えられている。しかしながら、低線量率放射線照射下におけるDNA2重鎖切断(DSB)修復の分子機構は、いまだに十分解明されていない。高等真核生物では、DSBは非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)により修復される。我々は、さまざまなDSB修復遺伝子欠損細胞を用いて、線量率効果におけるDSB修復機構の役割について検討を進めている。NHEJに関与するKU70、HRに関与するRAD54、およびKU70RAD54をともに欠損したニワトリDT40細胞を用い、γ線連続照射に対する影響を解析した結果、低線量率域でもっとも高い感受性を示した細胞はKU70-/-細胞であった。この要因を広い線量率範囲で解析するために、京都大学放射線生物研究センターの低線量長期放射線照射装置を用いて重点領域研究を開始した。これまでの研究から、0.1 Gy/hのγ線照射下において、RAD54-/-RAD54-/-KU70-/-細胞と比較して、KU70-/-細胞ではより顕著なG2 arrestが起こり、その後アポトーシスが生じることを明らかにした。今後、線量率を下げて変化を解析する予定である。 また、NHEJに関与するDNA-PKcsを欠損したヒト脳腫瘍細胞を用い、低線量率照射後の細胞生存率を解析した結果、照射開始後ある一定レベルまで低下した後は、照射を継続してもそれ以上変化しないことが明らかになった。この結果は、低線量率放射線の生体影響を考える場合、細胞のターンオーバーが重要な要因となることを示している。 低線量率放射線の組織への影響を考える場合、幹細胞への傷害の蓄積性が問題となる。特にdormantな幹細胞では、NHEJが重要な役割を担うと考えられ、NHEJを欠損したマウスの造血系幹細胞が加齢に伴い枯渇することも報告されている (Nijnik et al. 2007、他)。細胞での結果をもとに、低線量率放射線の生体組織影響におけるDNA修復機構の重要性について議論したい。
  • 笹谷 めぐみ, 徐 衍賓, 本田 浩章, 濱崎 幹也, 楠 洋一郎, 渡邊 敦光, 増田 雄司, 神谷 研二
    セッションID: W5-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線の重大な生物影響の1つに発がんがある。広島長崎の原爆被ばく者の疫学研究から、放射線が発がんリスクを増加させることが明らかにされているが、100mSv以下の低線量域においては有意な増加は得られていない。放射線発がんの分子機構の解明は、発がんのリスク評価につながると考えられているが、放射線照射後の細胞内で誘発された損傷がどのように発がんに結びつくかは明らかではない。 我々は、放射線発がんの分子機構を解明するために、実験動物モデルを用いてより単純化した系での解析を行うことを試みた。実験動物モデルとして、修復機構の1つである損傷乗り越えDNA合成に着目し、その中で中心的な役割を担うRev1を過剰発現するマウスを作成し、発がん実験を行った。また、ヒト家族性大腸ポリポーシスのモデルマウスであるAPCMin/+マウスを用いて掛け合わせを行った。 研究の先行している化学発がん実験結果や、放射線分割照射により誘発された胸腺リンパ腫を用いた解析から、がん抑制遺伝子であるikaros領域の欠失および、それに伴うikarosスプライシングバリアントの出現が放射線分割照射における特徴的な損傷として検出された。損傷乗り越えDNA合成機構の異常は、このikarosスプライシングバリアントの出現頻度に寄与していると示唆される結果を得ている。 また、損傷乗り越え合成機構の異常は、APCMin/+マウスモデル系における自然発生腸管腺腫を有意に増加させる結果が得られ、損傷乗り越えDNA合成機構がゲノムの安定性を維持するために機能していることが明らかになった。 今回はこれらの結果について報告したい。
  • 杉原 崇, 村野 勇人, 山内 一巳, 一戸 一晃, 田中 公夫
    セッションID: W5-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中線量率[400 mGy/22h/day (18.2 mGy/h)]γ線を1-40日間連続照射したマウスでは、p53依存的に白血球数の減少が生じることを以前報告したが、低・中線量率γ線連続照射による生体内血清中の生理活性物質への影響はほとんど調べられていない。本実験ではマウスから血清を採取し、低・中線量率γ線連続照射による血清中の生理活性物質への影響について解析を行った。 【方法】血清中の因子の生理活性の判定には、マウス胎仔線維芽細胞(MEFs)に照射マウス由来の血清を添加し、MEFsでの遺伝子発現量を指標とする方法(cell-based-assay)を用いた。中線量率γ線を(10日間及び20日間)連続照射した群のマウス血清の添加による遺伝子発現と同日齢の非照射群マウスから採取した血清添加による遺伝子発現とを比べ、2倍以上遺伝子の発現量に差のある遺伝子群を遺伝子発現パターン解析に用いた。また、低線量率[(20 mGy/22h/day (0.91 mGy/h)]γ線を400日間連続照射したマウス血清も用いた。【結果と考察】MEFs中で2倍以上の発現量差がある遺伝子として、中線量率γ線を10日間照射(集積線量4 Gy)したマウスの血清では613個の遺伝子が、20日間の照射群(集積線量8 Gy)では1202個の遺伝子が検出された。20日間の照射で発現量差の見られる遺伝子群について遺伝子発現経路解析を行ったところ、カベオリンシグナル経路とインシュリンレセプターシグナル経路の活性化が見られた。また、抽出された遺伝子群は脂質代謝や循環器系疾患に関係する遺伝子群と発現パターンの類似性が見られた。抽出された遺伝子のうち高線量率γ線照射による影響が報告されているLipocalin2に注目し、中線量率照射(集積線量8 Gy)したマウス血清中の実際の含有量を測定したところ、非照射群と比較して有意に減少していた。一方、400日間低線量率γ線を連続照射(集積線量8 Gy)したマウス血清中のLipocalin2量に関しては中線量率照射で見られるような減少は見られなかった。これらの結果から、中線量率γ線を連続照射したマウスの血清中では、生理活性物質量や質が変化し、生体内で代謝系などに放射線応答変化を引き起こしている可能性がある。(本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。)
  • 中島 徹夫, 王 冰, 上原 芳彦, 小野 哲也, 中村 慎吾, 一戸 一晃, 田中 聡, 小木曽 洋一, 田中 公夫, 松本 恒弥, 根井 ...
    セッションID: W5-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    低線量・低線量率放射線による生体への影響を知る上で分子レベルでの変化の解析がこれまで行われてきた。特に生体内での機能に直接関わるタンパク質の発現解析は影響評価に有益な情報を提供する。しかしながらタンパク質発現の変化についてはある特定条件下での変化を見た報告はあるが、体系的・網羅的には解析されてきていない。我々はこれまでに低線量率・長期照射マウスにおける肝臓においてその発現が変化するタンパク質の報告をしてきた。一方で同線量を急照射した場合と長期照射した場合との比較、あるいは被ばく後の変化についてなどタンパク質発現の変化を多角的に解析しておくことは生体をひとつのシステムと考えた際の生体反応系の理解に非常に重要な情報を提供する。ここでは亜致死線量である4Gyを照射された場合のマウス肝におけるタンパク質発現変化、あるいは致死線量8Gy照射を受けたマウスにおける発現変化タンパク質についての解析を行い、生体反応における違いを解析した。また8Gyを400日間で照射されたマウスにおける変化タンパク質についても解析し、その反応性を急照射の場合と比較した。加えて長期被ばくにおける8Gy照射はマウスにとって致死線量ではないことから、被ばく直後に生じた変化のその後の経時的推移について解析した。方法としては、2次元電気泳動ゲル比較法により変化のみられたタンパク質スポットの同定、また抗体アレイによるタンパク質発現変化の網羅的解析を試みた。線量の違いによる影響の差とともに急照射、長期照射での違い、また致死線量でも長期被ばくによって生存する場合の生体内タンパク質変化の情報から、生体の放射線に対する反応性とその防御戦略について議論したい。
  • 馬田 敏幸
    セッションID: W5-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    核融合反応の原料であるトリチウムは、核融合炉の事故時だけでなく正常運転時にも環境中に放出される可能性がある。その放出されたトリチウムによる被曝は低線量率被曝であることが予想されている。我々は低線量率でのトリチウムのβ線による突然変異生成に対する生体の監視機構をp53に着目して研究を行っている。8週齢のp53(+/+)およびp53(-/-)マウスの腹腔内に、270MBqのトリチウム水を注射し19日間飼育した。この間にマウスは低線量率で3Gy被ばくすることになる。その結果、両マウスにおいてトリチウム水を投与したマウスの脾細胞のTCR遺伝子突然変異誘発率は、非投与マウスと比較して増加した。また、従来の報告と同様に、Tリンパ球における突然変異の自然発生レベルは、p53(-/-)マウスがp53(+/+)マウスより高い値であった。一方、γ線との比較のために、シミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)でγ線をマウスに照射し、19日目にTリンパ球の突然変異の誘発率を調べた。その結果、γ線照射によりp53(+/+)マウスでは突然変異の誘発率の増加は見られなかったが、p53(-/-)マウスでは誘発率が増加した。この結果より、Tリンパ球に生じた突然変異の増加の抑制にp53が寄与することが確認された。p53が損傷細胞の排除によって突然変異の抑制に寄与していることを確かめるために、p53(+/+)マウスとp53(+/-)マウスを照射して、12時間と24時間後の脾細胞のアポトーシス活性を調べた。その結果、p53(+/-)マウスはp53(+/+) マウスに比べてアポトーシス活性が低下していた。以上の結果から、p53(+/+)マウスではp53依存性アポトーシスを介した損傷細胞の排除により、組織修復が効果的に行われていることが明らかになった。またその頻度はβ線の方が高かったことより、低線量率での放射線照射ではトリチウムβ線のRBEは1より大きいことが推察された。
ワークショップ6. 放射線誘発によるDNA損傷の修復機構を考える
  • 菅澤 薫
    セッションID: W6-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     生物のゲノムDNAはさまざまな内的・外的要因によって絶えず損傷を受けている。中でも放射線はDNA鎖切断に加え、主に活性酸素分子種の発生を介して種々の塩基損傷を間接的に引き起こす可能性がある。放射線発がんの抑制において、DNA鎖切断修復のみならず、除去修復経路も重要な役割を担っていると考えられる。
     ヌクレオチド除去修復(NER)は紫外線や化学物質による塩基損傷に加え、シクロデオキシプリンのような酸化損傷も対象とする重要なDNA修復経路である。C群色素性乾皮症の原因遺伝子産物であるXPCタンパク質は、ゲノム全体を対象とするNERにおいてDNA損傷の認識と修復反応の開始に必須の役割を果たしている。XPCは損傷塩基そのものではなく、正常な塩基対を形成できない遊離塩基と相互作用することで汎用的な損傷認識因子として機能する。その後、基本転写因子TFIIHがXPCとの相互作用を介してリクルートされ、そのサブユニットの一つであるXPDヘリカーゼがDNA鎖上を5'→3'方向に走査することにより、実際に損傷が存在するかどうかが最終的に確認される。
     我々はXPCがDNAの構造異常を認識して結合した時、仮にそこにNERの対象となるべき損傷が存在しない場合でも、そこから少し離れた場所に存在する損傷が認識されて修復されうることを見出している。このことは、ゲノム中で一本鎖状態を取りやすい配列部位や内因性のDNA損傷部位などにXPCが結合することにより、これを足場としてゲノム中の損傷の発生を常時監視する哨戒システムの存在をも示唆する。低線量放射線のNERに対する影響を含め、その生物学的意義について議論したい。
  • 増田 雄司, 鈴木 美紀, 神谷 研二
    セッションID: W6-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    DNAは、環境中の低レベルの放射線や化学物質に日常的に暴露され、慢性的に障害を受けている。さらに、生体内の代謝産物もまたDNA損傷を引き起こす主要な原因の一つである。このような恒常的に内在するDNA損傷の多くは、DNA合成を強く阻害するにもかかわらず、細胞は正常にDNA複製を完了することができる。この分子機構は複製後修復と呼ばれ、2つの経路が知られている。一つは、損傷特異的なDNAポリメラーゼにより、損傷塩基に対してDNA伸長反応を行う損傷乗り越えDNA合成経路(translesion DNA synthesis, TLS)であり、もう一つは、既に合成されたもう一方の娘鎖を鋳型とする鋳型鎖交換反応を介した経路(template switch, TS)である。我々はこれまでに、これらの反応を試験管内で再構成する実験系を構築し解析を行ってきた。今回は複製後修復経路の制御機構についての最新の成果について紹介したい。
  • 中津 可道
    セッションID: W6-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    生体内の代謝活動の過程で種々の活性酸素種が生じ、遺伝子DNAを酸化する。また、放射線が生体内の水分子に作用して生じる水酸化ラジカルも遺伝子DNAを酸化する。このようにして生じた酸化DNA損傷は突然変異を引き起こし、発がんの原因になると考えられている。酸化DNA損傷の中で最も多く生成するグアニンの酸化体8-オキソグアニンはDNA複製を阻害しない損傷で、複製過程においてシトシンと同程度にアデニンとも対合できるので強い突然変異原性を示す。8-オキソグアニンに起因する突然変異の抑制に関与しているMutyh, Ogg1, Mth1遺伝子をそれぞれ欠損したマウスを用いて、酸化剤KBrO3を飲水投与することにより酸化ストレス誘発発がん実験を行った結果、Mutyh欠損マウスでの小腸上皮性腫瘍の発生頻度は劇的に上昇していたのに対し、Ogg1あるいはMth1欠損マウスではそのような劇的な上昇は認められないことが判明した。またDNA損傷を認識して細胞死を引き起こすことが知られているミスマッチ修復系を欠損するMsh2欠損マウス、およびプリン塩基の酸化体であるサイクロプリンの修復を行うヌクレオチド除去修復機構を欠損するXpa欠損マウスを用いて酸化ストレス誘発発がん実験を行った結果、小腸上皮性腫瘍の発生頻度の上昇はMsh2欠損マウスでは顕著に認められたが、Xpa欠損マウスでは全く認められなかった。 これらの実験結果とこれまでに得られている知見を合わせて紹介し、酸化ストレスにより誘発される消化管発がんの抑制におけるDNA修復機構の役割について考察する。
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