島嶼地域科学
Online ISSN : 2435-757X
2 巻
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • その学術的資料と手紙から読み解く
    宮里 厚子
    2021 年 2 巻 p. 1-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    19世紀中頃に琉球王国に滞在した8人のフランス人宣教師の中で,ルイ・テオドール・フュレ神父は6年3か月の最も長い期間琉球で過ごした。本来の目的であるキリスト教の布教活動ができない状況の中,フランス人宣教師たちは後の日本上陸に向けて語学学習に励んだが,フュレ神父はそれ以外にも学術的関心を持って多岐にわたる活動を行い,その資料や記録を残している。本稿では,まずフュレ神父の気象学,地震学,民俗学等における学術的活動の記録を紹介する。次に6年以上に渡る滞在中,フュレがどのように琉球王府との良好な関係作りに腐心していたかをパリ外国宣教会に残る手紙から読み解き,その滞在における方策を明らかにする。
  • 比嘉 吉志
    2021 年 2 巻 p. 19-39
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    琉球史における人口研究は,18世紀後半以降の総人口の減少と,一貫した町方人口の増加という特徴を挙げてきた。しかし,本稿はこれら先行研究のもとになった史料の数字を批判的に再検討するものである。具体的に,「琉球一件帳」や「中頭方取納座定手形」を取り上げ,従来の数字の解釈を批判的に検討し,総人口と地域人口の推移を整理した。 18世紀後半以降の琉球の人口推移は,総人口で増加傾向にあったが,町方人口は一貫して増加ではなかった。沖縄島で大きな人口増加が見られる一方,離島地域は人口の減少と停滞が顕著だった。このように,近世琉球の人口は多様な地域性をはらんで推移していったのである。
  • 前田 勇樹
    2021 年 2 巻 p. 41-61
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    本稿は,明治後期(1890~1910年代)の沖縄での感染症流行と,それに対する防疫対策や衛生対策について新聞資料および松下禎二(京都帝大教授)による衛生視察記録を中心に分析を行ったものである。明治期の沖縄では感染症流行に対する前近代的な慣習や患者の隠蔽などが根強い一方で,この時期になると基礎的な防疫対策(清潔法と隔離)の浸透が見受けられる。その背景には,日清戦争後から始まる沖縄の同化政策の本格化と新聞による情報の流布が挙げられる。また,近代日本の植民地となった台湾との間での人の移動の活発化は,沖縄の感染症対策に大きく影響を及ぼすものであった。
  • 高橋 環太郎
    2021 年 2 巻 p. 63-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    本研究は長崎県の島嶼地域における航路網についてネットワーク分析を行い,観光需要との関係を考察した。長崎県は多くの島嶼を抱えており,観光による地域振興が行われているが,交通の利便性が課題となっている。最初に航路の結びつきから空間構造を明らかにするため,中心性の測定を行った。島嶼地域側の中心性が高いのは五島列島の福江島,中通島,小値賀島となり,対岸の都市側では佐世保市が高い値を示した。次に中心性の値と各島の観光客数との関係を分析した結果,中程度の相関関係がみられた。これらのことから,島嶼地域の観光振興においては島内の観光資源を整備するだけではなく,島外の結びつきを考慮した取り組みの重要性が示唆された。
  • 参加型アクション・リサーチとしての事例研究
    トッピング マシュウ・W
    2021 年 2 巻 p. 79-96
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,参加型アクション・リサーチ(PAR)の方法論を適用した質的実践研究である。本稿ではパーソナルインタビューおよび消滅危機言語継承活動の観察を通して沖縄県石垣市の2つの地域において,八重山地方の伝統的な「しまくとぅば」に対して研究参加者が持つ言語イデオロギーと活動の実践方法を詳述する。継承活動として「マスター・アプレンティス語学学習」という危機言語再活性化の手法を応用している。また,PARは社会科学研究の協調性を強調するため,本研究の方法論として採用した。本稿を含む調査結果は,八重山諸島や琉球諸島をはじめ,世界の他の地域の消滅危機言語再活性化への示唆があるといえよう。
  • 「移動」を経験した琉球諸語話者の内的体験から
    安元 悠子
    2021 年 2 巻 p. 97-116
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,琉球諸語から日本語標準語への言語シフトの過程を経験した個人の言語レパートリーに影響を及ぼした言語イデオロギーの記述・分析をおこなう。琉球諸島における「離島」で生まれ育った琉球諸語の話者は,人生において拠点の移動を経る中で,「中央へのまなざしと周縁性の自覚」,「言語の階層性」といった標準語イデオロギーと対峙しながら,「地域基準」「社会基準」にもとづいた言語使用をおこなっていることが明らかになった。言語的多様性を特長とする琉球諸語において,個人の言語体験に注目し詳細を記述することは,言語の衰退プロセスを紐解く鍵となり,今後の言語維持継承の一助になると考える。
  • 玉元 孝治
    2021 年 2 巻 p. 117-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    本稿は,金武方言の名詞類(名詞・代名詞・数量詞)と,名詞類を修飾することを主な機能とする二つの語類(形容名詞・連体詞)の特性を明らかにすることを目的とした記述的研究である。各語類は,統語的分布と機能の基準に基づいて定義される。従来の琉球語学では「第二形容詞」として扱われることが多かった語類について,名詞に近い性質をもつ独立した語類「形容名詞」とする新たな品詞論を提示する。5章では,指示語と疑問語の体系を概観し,6章では,名詞の形態法に関するさまざまなトピック(接辞付加・他品詞の名詞化・複合・重複)について概観する。
  • 落合 いずみ
    2021 年 2 巻 p. 139-162
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    20世紀初頭に収集されたアタヤル語群(アタヤル語とセデック語)の語彙集を基に,アタヤル祖語とセデック祖語における「家」と「屋内」の形式を再建し,その結果,それらが同源語でないことがわかった。アタヤル語の「家」は四つの形式(ŋasal, saliʔ, muyaw, imuu)が見られるが,ŋasalが本来の形式で,saliʔはこれから派生された。imuuはツォウ語からの借用形であり,muyawは本来「屋内」を表す語である。セデック祖語の「家」は*sapahで,「屋内」は*ruanである。セデック語の「内側にある」はtə-rumaというが,語根rumaはオーストロネシア祖語*Rumaq「家」の反映形だろう。幾つかの台湾オーストロネシア諸語では*Rumaqの反映形に接辞を附加することにより「屋内・内側」を派生するからである。
  • ズラズリ 美穂
    2021 年 2 巻 p. 163-181
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
    筆者は現在,博士研究の一環として,Hintonのマスター・アプレンティス言語学習プログラムを参考にして,琉球諸語の新しい話者の支援に焦点を当てたMAI-Ryukyusプロジェクトを実施している。研究の問いは,新しい話者が琉球諸語を話す原動力,琉球諸語の多様性を可能な限り温存した言語習得,琉球の世界観に基づいた思考の枠組み(研究パラダイム)の探究である。本稿では,その中間所見に基づいて,琉球諸語話者が抱える心理的トラウマ,琉球諸語の言語運用能力を高め多様性を温存する方法,琉球の思考の枠組み,現行の日本国行政の問題点について考察した。
  • L. G. Eldredge“Japanese translations available at the Micronesian Area Research Center”(1977)をもとに
    佐藤 崇範
    2021 年 2 巻 p. 183-197
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
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