拡張型心筋症(DCM)の末期患者に対して, 救命手段として左心補助人工心臓(LVAS)を装着し, その後反復性脳梗塞, 心不全で死に至るまでの190日間使用した. 症例は44歳, DCMの男性で, 内科的治療をうけていたが1992年12月心原性ショックのため緊急搬入された. カテコラミン投与, IABP, 人工呼吸, CVVH等により一時改善をみたが再度心不全の増悪, 多臓器不全の発生をみたため, LVAS(東洋紡社製補助人工心臓システム)を使用した. 術前の心拍出量係数, 平均肺動脈圧, 肺血管抵抗, 肺毛細管圧は1.89l/min/m
2, 52mmHg, 4.4Wood unit, 38mmHgといずれも異常値を示した.特に肺血管抵抗値は4.4Wood unitと高く, この時点では心移植の適応と考えにくかったが, LVAS装置後各パラメーターは著明に改善しそれぞれ2.88l/min/m
2, 17mmHg, 2.5Wood unit, 5mmHgとなった. また術前代謝面でも総ビリルビン, BUN, クレアチニンはそれぞれ6.1, 73, 3.1mg/dlと肝・腎機能の著しい悪化がみられたが, LVAS装着後, クレアチニン, BUNは2週間以後, 総ビリルビンは4週目以後それぞれ1.2, 11, 0.6mg/dlとなり正常化した. 術後早期の経過は良好でありLVASにより血行動態と諸臓器機能の著名な改善がみられ肺血管抵抗からみても心移植適応状況に改善した. しかし, ヘパリンを用いた抗凝固療法, 141日目のポンプ交換にもかかわらず, 術後9日目, 57日目, 175日目に脳塞栓症を繰り返し発症し, 術後190日目に意識障害と心不全により死亡した. わずか一例の長期使用経験であるが今回使用したシステムは心移植ブリッジ使用目的には抗血栓性に問題が感じられ, ポンプの材質改良と左室心尖脱血が可能なシステムの開発が望まれる.
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