食中毒に関与する黄色ブドウ球菌(以下ブ菌と略称)の汚染源を明らかにするため,神奈川県下の某弁当製造販売業の健康な従業員について,季節別,部位別,性別などによるエンテロトキシン(以下Entと略称)陽性ブ菌の保有状況を調べ,あわせて分離株の性状を検討した。
1) 四季にわたつて同一従業員100人の鼻腔,咽頭,頭髪,手指および大便を検査した結果,延400人中88人(22.0%)からEnt陽性ブ菌を検出した。Ent陽性ブ菌の部位別検出率は6.0∼7.8%の範囲にあり,本菌を保有する部位数は夏および秋に多かつた(P<0.01)。なお性,年齢および職種による本菌の検出率に有意の差はみられなかつた。
2) 分離したブ菌249株中135株(54.2%)がEntを産生し,D型が57株でもつとも多く,ついでC型35株,A型16株,B型9株,BD型8株,ACD型5株,AB型3株,AC型2株の順であつた。Ent CおよびD型菌は各部位から検出された。
3) Ent陽性135株中ほとんどすべての株が溶血素,黄色々素,リパーゼおよび卵黄因子を産生し,多くの株がフィブリノリジン陽性であつた。59%の株がN.C.T.C.ファージ型別可能で,そのうちのほとんどがファージIII群あるいはIII群と他群との混合群に属した。また32%の株がPC, SM, CM, TCおよびEMに耐性を示した。
4) 個人別にEnt陽性ブ菌の推移をみると,2∼3季連続して,しかも同一部位に同一Ent型菌を保有するものがあつた。またある人では,春に鼻腔あるいは咽頭にみられたEnt陽性ブ菌が,夏および秋に他部位へ広がり,かつ定着して行く傾向が窺えた。
5) ブドウ球菌食中毒発生の起因源として,健康な食品取扱者の体表および粘膜表面などに保有されるEnt陽性ブ菌も,重要視されるべきである。
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