日本細菌学雑誌
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50 巻, 3 号
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  • 笹川 千尋
    1995 年 50 巻 3 号 p. 623-636
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    赤痢菌の病原性発現には,菌の腸上皮への侵入とその後の細胞内・細胞間拡散が不可欠である。細胞侵入と拡散は,本菌の大プラスミドがコードするIpa(IpaB,IpaC,IpaD)とVirG蛋白により各々行なわれる。Ipa蛋白の菌体表層分泌は大プラスミドのコードするMixとSpa蛋白群により行なわれるが,細胞侵入を発揮するためには菌体からIpaが遊離しIpaBC複合体を形成する事が必要である。Ipa蛋白の遊離は赤痢菌と細胞外マトリックス(フィブロネクチン等)の接触が引き金となり起こり,生じたIpa複合体は上皮細胞レセプターに作用し,最終的にアクチン系細胞骨格繊維を再構築し食作用を誘起する。ファゴゾームからの菌の脱離にもIpa蛋白が関与している。細胞質内では,赤痢菌は菌体の一極にVirG蛋白を分泌し,そこでアクチンの重合を行ない,これを原動力として菌は細胞内及び隣接細胞へ感染を行なう。これら赤痢菌の感染に重要な蛋白の発現は,その機能が合目的に働くよう厳密な調節系の元に置かれている。さらに染色体上にも多数のビルレンスに必要な遺伝子群が存在し,菌の細胞内増殖,細胞間感染,大プラスミド上の遺伝子発現調節など様々な機能に関与していることが知られている。
  • ペスト菌発見百年に因んで
    中瀬 安清
    1995 年 50 巻 3 号 p. 637-650
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    北里柴三郎が1894年(明治27年),香港のペスト流行に際し,A.J.E.Yersinとほぼ同時にペスト菌を発見してから百年になる。これを記念して,北里は当時どの様な状況下で,どの様にしてペスト菌を発見し,どの様に始末したか等に就いて述べた。先ず北里と青山胤通がペスト調査員として香港派遣に至るまでの経緯に就いて考察した。次に香港上陸後,北里が悪条件の中,ラボの設定,病原検索の確固たる方針に基づく,死体臓器と患者血液の鏡検,培養,動物試験によって,着手4日目でペスト菌を発見した経過,その公表方法,また,実験室内感染した青山と石神亨のペストへの対応と適切な処置,帰国後の始末等に就いて述べた。さらに,その5年後に始まった国内のペスト流行に際し果した,検疫,血清とワクチンの作成,接種の普及,防疫等の指導的役割,並びに,ペスト防疫での国際協力に就いて要約した。北里と門下生の論文数から見てもペストの研究は伝染病研究所設立後の北里の最重要の業績と言える。
  • 細菌学的・分子生物学的性状
    和気 朗
    1995 年 50 巻 3 号 p. 651-669
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    Yersinia pestisはグラム陰性稈菌で,芽胞(胞子)を形成せず,22°Cでも37°Cでも鞭毛を有しない運動性のない菌である。細菌細胞膜構造のリピドAには局所的,全身的シュワルツマン反応をおこす内毒素活性があるが,O抗原にあたる多糖体鎖は欠如し,単一血清型で型別は行われない。ペスト菌はエルシニア属の特徴である好冷性を示し最適発育温度は22°C-26°Cで,36°C-37°Cでは発育が遅く,エンベロープ(夾膜)抗原やV抗原,Yopsと総称される蛋白を発育温度やCa2+濃度調節に感受性のプラスミドにコードされて産生する。またO抗原を欠く結果,酸性環境では殺菌されやすく,胃酸を分泌する動物を経口感染させるためには多くの菌量を要する。したがって系統発生学的にペスト菌が大流行をおこすに至るためには,ペスト菌が体温37°Cの動物(齧歯類など),体温26°C程度の各種ノミ間の循環を確立し,ヒト社会にペストがない時期にも,生殖力旺盛な野生動物とノミから構成される生息地が世界各地に維持されている。このような絶対寄生菌は祖先細菌に突然変異が蓄積し多様に分岐したエルシニア細菌のうち動物血中とノミ消化管との循環というnichéによって選択されたものがペスト菌へと分化した。
    その系統樹は16SrDNA塩基配列に基いて解明された。ペスト菌は増殖における菌体再生産に必要な鉄元素を収集し貯蔵する装置をコードする遺伝子pgmを染色体外に持つ。
    また110kbpのfraプラスミドにコードされるFra1(エンベロープ)は,菌を食細胞から防御する。食細胞(マクロファージ)のファゴリソゾーム内微小nichéで菌の70-75kbpプラスミドがV,Yopsの37°Cにおける産生と22°Cにおける抑制をコードするのはniché中のCa2+濃度が10-6M以下の場合で,低カルシウム反応(LCR)領域が発現する。プラスミノーゲンアクチベーターPlaをコードする9.5kbpプラスミドPlaはエルシニア属中ペスト菌に固有で,Yopsを加水分解するPlaはV抗原を露呈する。菌側因子のV,Yops,Pla,リピドAと動物体,人体側因子のヘモグロビン,ヘミン,フィブリン,補体のC5a,C3aとの相互作用によってペスト敗血症(DIC)の病状が発展する。各病巣地のペスト菌がどの菌側因子をどのように産生するかによってペスト菌の病原性の多様性が理解できる。
  • 中川 善之
    1995 年 50 巻 3 号 p. 671-685
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    酵母Candida albicansは,日和見感染の原因菌としてごく普通に見られる代表的真菌である。近年,C.albicansを材料とする従来の多くの研究課題に,遺伝子を中心とする分子生物学的手法が取り入れられようとしている。その遂行のために不可欠となる基礎的な事項をここでまとめてみた。C.albicansをはじめとする数種のCandida属酵母は,核の遺伝暗号で通常ロイシンに翻訳されるCUGを,セリンとして読むことがわかってきた。現在までに多くの遺伝子が単離されているが,中でも自律複製配列が単離されてベクターに組み込まれることにより,形質転換の系も整備されつつある。パルスフィールドゲル電気泳動と稀切断制限酵素Sfi Iの組み合せにより,大まかなゲノムマップが作成され,単離された遺伝子が存在する染色体の特定と物理的マッピングが可能になってきた。以上のような情報を載せたCandida albicans serverがインターネット上で構築され,公開されている,等について紹介する。また,我々をはじめとする幾つかの研究室で取り上げられているC.albicansゲノム内の反復配列群についても言及する。
  • 冨岡 治明
    1995 年 50 巻 3 号 p. 687-701
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    結核をはじめとする抗酸菌症はその患者数や死亡者数が多く未だもって極めて重要な感染症であり,最近ではHIV感染者における多剤耐性結核や全身播種性Mycobacterium avium complex (MAC)症が問題になってきている。本稿では,こうした抗酸菌症のうち,特に結核とMAC症とに焦点を当て,何故にこれらの感染症が難治性であるのかという問題について,特に宿主マクロファージ(Mφ)と抗酸菌との関わりあいに焦点を当て,(1)宿主Mφ内での感染菌の挙動,言葉を変えればMφ内殺菌メカニズムからの菌のエスケープという問題と,(2)抗酸菌感染Mφの殺菌能のサイトカインカスケードを介しての制御,特にMφ不活化サイトカインによるdown-regulationという2つの観点から論じた。約めて言えば,難治性慢性感染症としての抗酸菌症の特異な病像を規定するものは,抗酸菌の極めて強いMφ内殺菌抵抗性と免疫原性であり,これが故に必然的に誘導されるTh2タイプのサイトカインカスケードの活性化が抗酸菌症の難治化にさらに拍車をかけているものと言えよう。
  • 小田 紘, 吉家 清貴
    1995 年 50 巻 3 号 p. 703-715
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    Q熱はリケッチアの一種であるCoxiella burnetiiによって起こる人獣共通感染症である。本疾患は世界中に分布しているが,これまでわが国ではほとんど関心がはらわれてこなかった。1988年に国内でQ熱の患者からC.burnetiiが分離されたのを機に血清疫学的調査が開始され,わが国にもQ熱が存在していることを示す証拠が蓄積されてきた。したがって,今後はわが国においても,熱性疾患の診断に際しては本疾患を鑑別診断の一つにあげることが必要である。
    一方,C.burnetiiは宿主・微生物相互作用を考えるうえで興味深い多くの生物学的特徴を有している。欧米では活発な研究が行われているが,なお未解決の問題が数多く残されている。
    このような状況をふまえ,本稿ではC.burnetiiの特徴とQ熱のアウトライン,およびQ熱の微生物学的診断を中心に述べる。
  • 構造と機能の観点から
    中島 良徳
    1995 年 50 巻 3 号 p. 717-736
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    マクロライド抗生物質(マクロライド)はリボソーム50S亜粒子に1:1で結合し,その結合及び作用様式からマクロライドはアシル-tRNAないしは用済みtRNAの3'末端構造類似体とみなすことができる。このことはマクロライドが原始地球においてペプチド合成促進能を持った機能化石であったことを示唆する。
    マクロライドに共通に見られる(恐らくジメチルアミノ糖やラクトン環構造による)阻害は,アシル-tRNAがA部位からP部位への転位時そのtRNAを脱離させることにある。加えてマクロライドは,そのラクトン環に対する糖鎖の結合様式の違いによって23SrRNAのA2060近辺のペプチジルトランスフェラーゼ領域すなわちリボソームに対する不可逆的排他結合を形成し,ペプチジルトランスフェラーゼ活性を阻害する(例:カルボマイシンやロキタマイシン)。以上述べた如くマクロライドはその構造の特性によりリボソーム親和性と結合安定性が決まり,タンパク質合成を阻害する。
  • 清水 徹
    1995 年 50 巻 3 号 p. 737-744
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ガス壊疽の起因菌,ウェルシュ菌は多種の毒素を産生し,これら毒素の協調的作用によりその特徴ある病態を形成すると考えられる。近年,分子生物学的手法の進歩によりこれらの毒素遺伝子が次々とクローン化される中で,本菌における毒素遺伝子の発現調節機構の解析も進んできた。これまでに毒素産生の調節遺伝子として,θ-毒素の産生を正に調節するpfoR遺伝子,多種の毒素をグローバルに調節する二成分制御系に属するvirR-virS遺伝子が発見され,また,α-毒素遺伝子の発現を調節すると思われる調節因子の存在などが明らかとなっている。その他の調節系として,ウェルシュ菌の産生する低分子物質が関与すると思われる毒素産生調節機構の存在も示唆されている。ウェルシュ菌の病原性については未だに混沌としているのが現状であるが,これらの調節遺伝子,あるいは調節機構がどのように結びついて毒素産生が調節されているのかを明らかにすることは,本菌の病原性を解明する上でのもう一つのアプローチとして重要と考えられる。
  • 宿主との相互関係を中心として
    吉田 真一, 宮本 比呂志, 小川 みどり
    1995 年 50 巻 3 号 p. 745-764
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    レジオネラ属菌はグラム陰性の好気性桿菌であり,1993年までに38菌種が正式に命名されている。基準種はLegionella pneumophilaである。レジオネラ属菌は水中,土壌中及び細菌捕食性原虫内で増殖しつつ自然界に棲息し,ヒトに肺炎(在郷軍人病)やインフルエンザ様症状(ポンティアック熱)を起こす病原性を持っている。レジオネラ属菌の性質を明らかにするために,L.pneumophilaの性質を基準とし(i)レジオネラ属の菌種間での性質の共通点と相違点(ii)レジオネラ属菌と他の微生物(特に通性及び偏性細胞内寄生性病原体)との共通点と相違点,を宿主との相互関係を中心に述べた。さらに,レジオネラ属菌に対する宿主側の反応の種や系統間での比較も行い,細菌学,生態学,さらに感染症学,生体防御学の立場からレジオネラ属菌の位置づけができるよう比較生物学的に総説した。
  • 太田 美智男, 一山 智
    1995 年 50 巻 3 号 p. 765-775
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
  • 中澤 晶子
    1995 年 50 巻 3 号 p. 777-786
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
  • 誰が最初の発見者か
    田口 文章, 滝 龍雄, 会田 恵
    1995 年 50 巻 3 号 p. 787-791
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
  • 今西 二郎
    1995 年 50 巻 3 号 p. 793-801
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
  • 江崎 孝行, 渡辺 治雄
    1995 年 50 巻 3 号 p. 803-838
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
  • 小迫 芳正
    1995 年 50 巻 3 号 p. 839-857
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
  • 小熊 惠二
    1995 年 50 巻 3 号 p. 859-861
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
  • 島田 俊雄, 荒川 英二, 伊藤 健一郎, 小迫 芳正, 沖津 忠行, 山井 志朗, 西野 麻知子, 中島 拓男
    1995 年 50 巻 3 号 p. 863-870
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    1994年7月,琵琶湖の生け簀で青白く光るスジエビ(所謂ホタルエビ)が大量に発見され新聞やテレビで報道されるなど注目された。採取後発光したスジエビは次第に衰弱し,その殆どがその日のうちに死亡した(所謂エビの伝染性光り病)。死んだエビの甲殼から発光細菌が分離された。
    同一のエビから分離された発光性4菌株は,TCBS寒天培地上で白糖非分解性の青色集落,PMT寒天培地上ではマンノース分解性の黄色集落を形成し,無塩ブイヨンおよび42°Cで発育した。トリプトソーヤ寒天およびブイヨンで,22°C培養で最も強い発光が見られたが,30°Cでは弱かった。これらの菌株はその形態・生理・生化学的性状がVibrio cholerae non-O1またはVibrio mimicusに類似していたが,その代表株(838-94)によるDNA相同性試験ではV.choleraeの基準株(ATCC14035)と高い相同性(79%)を示したが,V.mimicusのそれとは低い相関しか認められなかった。従って,これらの分離菌株はルミネセンス産生性V. cholerae non-O1と同定され,またその血清型はいずれもO28と型別された。一方,該菌株はコレラ毒素(CT)を産生せず,またCTおよびNAG-STのいずれの遺伝子も保有していなかった。
  • 谷 佳都
    1995 年 50 巻 3 号 p. 871-879
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    細菌感染モデルの動物体内における感染菌の分布とその消長を細菌学的に観察できるオートバクテリオグラフィー(ABG)を用いて,黄色ブドウ球菌の静脈内接種マウスにおける感染経過を検討した。感染菌はそのリファンピシン(RFP)耐性株を分離して用い,RFPを添加した選択培地平板上に感染動物の凍結切片(厚さ40μm)を転写して培養することにより,各部位における感染菌の分布密度を簡便に観察することが出来た。Staphylococcus aureus Smith diffuse型のRFP耐性株を静脈内接種したマウスのオートバクテリオグラム(ABGM)では1日後で菌は全身に分布したが,3日後では全身的に菌は減少し,肝臓にわずか,脾臓,腎臓および腸管に多数の菌が検出された。7日,14日,21日後には肝臓と脾臓から菌は消失し,腎臓および腸管に多数の菌が残存した。腎臓および腸管の菌残存はS. aureus Smith compact型のRFP耐性株のABGMにおいても確認された。また,内容物を含む腸管組織のホモジネートの培養により感染菌は主として小腸下部,盲腸および大腸に検出され,菌は腸管内に定着状態にあることが推察された。
  • 柴田 淑子, 八柳 潤, 斉藤 志保子, 斉藤 博之, 森田 盛大, 天野 憲一
    1995 年 50 巻 3 号 p. 881-888
    発行日: 1995/07/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    食中毒の主要な原因菌であるCampylobacter jejuniの血清型別に用いられているLior標準株26株とTCKシステム標準株4株さらには臨床分離株のDNAを用いて,RFLPパターンによる分類を試みた。標準株30株は各々異なったパターンを示したが,血清型別で同一であると分類された標準株と臨床株は必ずしも一致しなかった。又,C.jejuniの特異的タンパクをコードしているDNAプローブを用いて,サザンブロット及びスロットブロットを行ったが,全てのC.jejuniのDNA HindIII断片のうち1.8kbp付近の断片とハイブリダイズし,他のCampylobacterあるいは腸内細菌のDNAとは反応しなかった。以上の結果より,C.jejuniの血清型別とRFLPパターンの間には相関性がみられなかった。一方,今回用いたDNAプローブはC.jejuniを検出するための有効な手段となり得る事が明らかになった。
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