日本細菌学雑誌
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59 巻, 2 号
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  • 清水 徹
    2004 年 59 巻 2 号 p. 377-385
    発行日: 2004/05/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    多種の毒素・酵素を産生し, それらの協調的作用によってガス壊疸を引き起こすウェルシュ菌 (Clostridium perfringens) には二成分制御系VirR/VirSシステムをはじめとした複雑な病原遺伝子発現調節機構が存在することが明らかになってきた。また, ウェルシュ菌のゲノム解析により本菌のライフスタイルがより明確になり, 本菌の生存・増殖に必須なアミノ酸などの栄養獲得機構のひとつとして毒素・酵素産生によるヒトの軟部組織破壊を引き起こすことが重要であることが示唆されている。このような生存戦略をとるウェルシュ菌にとって毒素・酵素の産生調節はきわめて重要な役割を果たすと考えられ, これまでに明らかになっているウェルシュ菌における病原性発現調節について二成分制御系システム, 転写調節RNA, 細胞外シグナリングなどの機構を中心に概説する。
  • 坂本 光央
    2004 年 59 巻 2 号 p. 387-393
    発行日: 2004/05/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    歯周疾患と口腔内細菌叢に関する研究では, 培養可能な口腔内細菌のみに着目して研究が行われ, 口腔内細菌叢の全容解明と疾患という観点からの研究は, ほとんど行われていないのが現状である。本研究では, まず, ヒト口腔スピロヘータの一種である Treponema socranskii のPCR法による迅速な検出・同定系を確立した。つぎに, 世界に先駆けてリアルタイムPCR法を利用して, 前述の T. socranskii を含む代表的な歯周病原性細菌 (Actinobacillus actinomycetemcomitans, Porphyromonas gingivalis, Tannerella forsythensis (旧名 Bacteroides forsythus) および Treponema denticola) 5種の迅速な検出・定量系を確立した。一方, 16S rRNA遺伝子クローンライブラリー法によって, 歯周病患者の口腔内は, 代表的な歯周病原性細菌が生息するとともに, 歯周疾患に関連している未分類の (培養困難な) 偏性嫌気性菌の生息しやすい環境になっていることを明らかにした。また, 培養困難であると考えられるファイロタイプを標的として, PCR法による検出を試みた結果, 特定の1種が歯周疾患と関連性があることを明らかにした。さらに, 歯周疾患と口腔内細菌叢に関する研究の初めての試みとして, T-RFLP (terminal restriction fragment length polymorphism) 法を応用して, 口腔内細菌叢の迅速な解析法を確立した。
  • 藤永 由佳子
    2004 年 59 巻 2 号 p. 395-401
    発行日: 2004/05/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ボツリヌス神経毒素は, 無毒成分との複合体としてC. botulinum により産生される。本研究では無毒成分の構造を解明するとともに, その一成分の Hemagglutinin (HA) が小腸に選択的に結合することを初めて見いだし, HAを持つ神経毒素複合体 (16S毒素) は, HAを持たない複合体 (12S) 毒素に比べ, より効率的に腸管から血中への移行および中毒発症をきたすことを報告した。そこで16S毒素はHAにより小腸上皮細胞の apical 側に結合した後, 上皮細胞層バリアをくぐり抜けて, basolateral 側に移行する効率的な機構をもつ可能性が考えられた。この問題に取り組む過程で, やはり腸管上皮細胞に結合し, 細胞質内に輸送されるコレラ毒素の輸送経路の研究に携わった。
    コレラ毒素はエンドサイトーシスされた後, ゴルジ体を経て小胞体に行き, 小胞体から細胞質まで輸送されるが, その機構は明らかではなかった。本研究では, コレラ毒素の輸送経路およびそれを決定する因子 (sorting factor) をオルガネラ特異的な蛋白質修飾を利用した方法を用いて初めて明らかにした。本研究によりコレラ毒素は, 宿主細胞の生理的な小胞輸送系をうまく利用して標的分子に到達し, その作用を発現していることが明らかになってきた。
  • 百武 晃宏, 川岸 郁朗, 本間 道夫
    2004 年 59 巻 2 号 p. 403-414
    発行日: 2004/05/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    2000年にコレラ菌の全ゲノム塩基配列が決定され, また, 2003年に日本で腸炎ビブリオ菌の全ゲノム配列が決定された。コレラ菌は走化性シグナル伝達に関わる遺伝子群を3組もつことが推測され, そのうち1組だけが走化性への関与を証明されている。また, コレラ菌を含めビブリオ属の細菌は非常に多くの走化性レセプターをもつことがわかってきた。コレラ菌の走化性シグナル伝達遺伝子や走化性レセプターの一部については, 病原性に関与することが示されている。以上のことをふまえ, ビブリオ菌における走化性関連遺伝子と病原因子についてレビューすることにした。
  • 柴山 恵吾, 荒川 宜親
    2004 年 59 巻 2 号 p. 415-424
    発行日: 2004/05/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pylori は胃に持続感染し, 多彩な病原因子の働きで胃粘膜細胞に障害を及ぼす。しかしH. pylori の病原性は宿主の細胞あるいは組織を急速に死滅させるほど強いものではない。またH. pylori は免疫機構によっても容易に排除されない。これはH. pylori が進化の過程で宿主と長期に共存出来るような機構を獲得した結果であろう。そしてその長期持続感染を成立させる機構は, この菌の特異的な病原性に深く関連すると考えられる。H. pylori は, 宿主細胞の様々な細胞内シグナル経路を活性化する作用を持つことが明らかになっている。この細胞内シグナル経路への種々の作用が, この菌の長期持続感染の成立と, それに続く様々な病態の発生にあたって重要な要因になっていると考えられる。H. pylori の病原性は, 菌側及び宿主側の複数の因子が長期的に相互に作用した複雑な系によるものと考えられ, 病態の全体像は未だ不明な部分が多い。
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