日本細菌学雑誌
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59 巻, 3 号
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  • 大西 真
    2004 年 59 巻 3 号 p. 449-455
    発行日: 2004/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    同一の細菌種においても, 菌株間によって形質が異なる場合がしばしば存在する。このような多様性はそれぞれの菌株のゲノム情報の違いに由来すると推測されるが, その実体は必ずしも明らかではなかった。本研究では腸管出血性大腸菌O157 Sakai 株の全ゲノム配列を決定し, 非病原性大腸菌K-12ゲノムとの比較解析から大腸菌ゲノムの菌種内多様性の実体とその多様化のメカニズムの解明を試みた。Sakai 株の染色体は非病原性大腸菌K-12株に比べて約1Mb大きいが, 染色体基本骨格は高度に保存されていることを明らかにした。さらに, サンプルシークエンシングの手法を用いて, Sakai 株には予想以上に大量の菌株特異的DNAが存在すること, そしてその多くが外来性遺伝子である可能性を示した。続いて, ゲノム全塩基配列の決定およびK-12との比較解析から大腸菌染色体の基本骨格と考えられる4.1Mbの共通領域と1.4MbにおよぶO157特異配列を同定し, 大量の外来性遺伝子の水平伝達による獲得がO157の出現に大きな役割を果たしたことを明確にした。また, バクテリオファージが菌種内進化において主要な役割を果たしている可能性やO157が自然界に存在する多様なファージの生産場所となっている可能性を示した。さらに, 全ゲノムPCRスキャンニング法によりO157菌株間には高度のゲノム構造の多様性が存在することを明らかにした。特にStxファージを含むプロファージ領域に顕著な多様性が存在することを見いだし, O157のStxファージにも様々なタイプが存在することをはじめで示した。
  • 飯田 哲也
    2004 年 59 巻 3 号 p. 457-464
    発行日: 2004/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    日本で発見された病原細菌である腸炎ビブリオ (Vibrio parahaemolyticus) は, 長年日本における食中毒原因の上位を占めている。本菌は近年, かつてなかったような世界的流行をひき起こしている。腸炎ビブリオの染色体地図を作成する過程で我々は, 本菌のゲノムが2つの環状染色体よりなることを見出した。このような2つの染色体よりなるゲノム構造は Vibrio 属菌に共通の性状であった。一般に細菌は1個の環状染色体をもつとされてきたが, 我々の成績は細菌のゲノム構造がそれまで考えられてきた以上に多様でありうることを示したものであった。また, 腸炎ビブリオのゲノム解析の結果, 本菌のゲノムには pathogenicity island と考えられる領域が存在しており, その領域中には3型分泌装置の遺伝子群がコードされていることを明らかにした。神奈川現象の原因物質である耐熱性溶血毒 (TDH) を中心に行われてきた腸炎ビブリオの病原性研究が, ゲノム解析により新たな展開をみせている。以上の知見を含め, 本稿では筆者らがこれまでに行ってきた腸炎ビブリオの病原性とゲノム構造に関する研究についてまとめてみたい。
  • 度会 雅久
    2004 年 59 巻 3 号 p. 465-471
    発行日: 2004/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ブルセラ属菌は人獣共通感染症の一つであるブルセラ症の原因菌である。細胞内寄生菌であり, その細胞内増殖能と病原性には密接な関係があると考えられているが, 詳細なメカニズムは不明な点が多い。ブルセラ属菌は感染初期においてファゴソームとリソソームの融合を阻害することによって, マクロファージ内で増殖すると考えられている。菌の細胞侵入時に宿主細胞膜上に存在する分子の選別が行われ, リピドラフトを構成する分子が集積し, 殆どの膜貫通型蛋白質は排除される。リピドラフトは, 種々の細菌, ウイルスおよび原虫の感染に関与することが示され, 微生物感染のゲートウェイとしての役割が注目され始めている。細菌感染におけるリピドラフトの役割を解析することによって, 菌の細胞侵入過程がその細胞内増殖に重要な役割を果たすことが明らかとなってきた。本稿ではリピドラフトがブルセラ属菌の細胞侵入時におけるシグナル伝達の場として機能すること, そしてそこで行われる相互作用に関与する分子と菌の細胞内増殖との関係について概説する。
  • A. actinomycetemcomitans を中心として
    小松澤 均
    2004 年 59 巻 3 号 p. 473-482
    発行日: 2004/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    歯周病は細菌感染症であり, これまでに種々の歯周病原性細菌が報告されている。これまで, 細菌側の病原性因子としては主として毒素を中心に研究がなされてきた。しかし, 近年では宿主側の細菌の認識機構についての研究が進み, 細菌と宿主の相互作用についての分子レベルでの解析の重要性が期待されている。これまで細菌の表層成分であるリポ多糖については詳細な検討がなされているが, タンパク成分についてはあまり検討されていない。そこで, 歯周病原性細菌のこれまでに報告されている外膜タンパクについて要約し, 今後の歯周病原性細菌の外膜タンパクの歯周病発症への関与についての研究の一助にしたいと考える。また, 我々の行ったA. actinomycetemcomitans の外膜タンパクの病原性因子としての解析結果を紹介し, A. actinomycetemcomitans と宿主細胞の相互作用について外膜タンパクを主眼とした観点から考察を行った。
  • 猪原 直弘
    2004 年 59 巻 3 号 p. 483-496
    発行日: 2004/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    動物や植物は細菌を認識するための受容体をもち, これを介して様々な宿主応答を引き起こす。著者らが Nod ファミリーと命名した一連の細胞質タンパク質は, 免疫応答や細胞死を制御するもっとも保存された分子群である。このうち, Nod1, Nod2は細胞質内の細菌成分に対するセンサーとして自然免疫や獲得免疫において重要な役割を果たしていると考えられる。これらの Nod タンパク質は細菌の細胞壁ペプチドグリカンに関連する小分子を認識し, 特に Nod1 は特定の細菌の認識に関わる。本稿では, 最近の展開を踏まえてこれらの宿主応答を誘導する細菌成分や Nod ファミリーの発見から分子レベルでの情報伝達のしくみまでを概説する。
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