日本細菌学雑誌
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61 巻 , 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 川岸 郁朗
    2006 年 61 巻 3 号 p. 293-304
    発行日: 2006/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    大腸菌走化性シグナル伝達系は, 全ての構成タンパク質が同定されており, 生化学的性質や立体構造に関する情報も蓄積していることから, 一つのシステム全体を分子レベルで理解するという課題を追求するうえで秀れたモデル系である。細胞外からの刺激は, 細胞膜の走化性受容体によって受容され, 細胞内シグナル伝達経路を経て, 最終的には鞭毛モーターの回転が制御され, 菌は望ましい方向に移動する。走化性受容体は, 刺激に応じてヒスチジンキナーゼ CheA の活性を制御する酵素共役型受容体であり, 感覚受容体として最もよく解析されているものの一つである。細胞内シグナル伝達経路のうち, CheA と応答調節因子 CheY, CheB は, 細菌, 古細菌, 真菌, 植物などに広く使われている二成分調節系に属している。これらの因子は細胞内でばらばらに存在するのではなく, 走化性受容体・アダプター CheW・キナーゼ CheA の複合体が, クラスターを形成して桿状細胞の極に局在することがわかってきた。このクラスター形成により, シグナルの増幅や一定の刺激に対する適応が起こるのではないかと考えられている。私たちは, 現在までに, 受容体のクラスター形成や下流因子との相互作用に関して, 緑色蛍光タンパク質 (GFP) との融合タンパク質を用いた解析を行っている。また, 部位特異的ジスルフィド架橋を用いた解析により, 受容体ダイマー間相互作用を検出し, それがシグナル伝達に関与することを示唆する知見を得た。本稿では, これらの成果を中心に紹介し, 走化性シグナル伝達系におけるタンパク質の局在と相互作用ネットワークの動態について議論する。
  • 小松澤 均
    2006 年 61 巻 3 号 p. 305-315
    発行日: 2006/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    黄色ブドウ球菌はヒトに種々の疾患を引き起こす代表的な病原菌の一つである。この菌による感染症の治療には化学療法剤が使用されるが, メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) の出現によりその治療が困難な状況になっている。MRSAの耐性因子はmecAであることはすでに明らかであるが, 臨床分離株におけるメチシリン耐性度の多様性は説明がついていない。さらに, 今日ではMRSAの治療薬として有効であるバンコマイシンに対して耐性あるいは低感受性菌の報告もなされている。現在のところ, バンコマイシン耐性あるいは低感受性菌が蔓延している状況ではないが, MRSAのメチシリンやバンコマイシンに対する多様な応答についての解析はMRSAの薬剤への適応機構の解明につながることが考えられる。これまでに, 多くの研究がなされ, メチシリンあるいはバンコマイシン感受性に影響を及ぼす因子が同定されている。それらの多くは細胞壁合成関連因子あるいは細胞壁合成系に影響を及ぼす因子であった。今回, 私の同定した新規細胞壁合成関連遺伝子を中心としてメチシリンおよびバンコマイシン感受性に影響を及ぼす因子について概説したい。
  • 中川 一路
    2006 年 61 巻 3 号 p. 317-324
    発行日: 2006/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    A群レンサ球菌は様々な化膿性疾患や, 非化膿性疾患を引き起こすことが知られているが, 1980年代後半より, 劇症型A群レンサ球菌感染症と呼ばれる突発的な敗血症性ショック病態を引き起こし, 非常に高い致死率からも世界的に注目されている。そこで, 日本で分離されたM3型のSSI-1株の全ゲノム解析を行い他株との比較解析を行った。SSI-1株の全ゲノムは1,894,275bpからなる環状の染色体のみをもち, そのうち1.7Mbの領域は, 比較対象としたM1型 (SF370株), M18型 (MGAS8232株) と非常に高い相同性を示し, また米国で分離されたM3型 (MGAS315株) とはほとんど同一の塩基配列であった。しかし, SSI-1株ではrrn-comX1領域と2つのプロファージ領域の相同性領域の部分で, 分裂軸に対称に, 完全に染色体が入れ替わっていた。プロファージ領域の相同性領域にはA群レンサ球菌の病原性遺伝子が多数含まれており, この領域で染色体が入れ替わると同時に新たな病原因子をもつプロファージ領域が形成されることが明らかとなった。
  • 楠本 晃子, 小嶋 誠司, 本間 道夫
    2006 年 61 巻 3 号 p. 325-337
    発行日: 2006/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    細胞の分裂面がどのように決まるかなど, 細胞のトポロジー決定は, 生物が形を決める上での根源的な問題である。単純な細菌細胞でも, 細胞の形の決定やべん毛の局在化の問題は, 現在も多くの謎があり, 研究が進められている。本総説では, はじめに, 細菌細胞の形の決定で重要な働きをしている骨格タンパク質についての研究の現状を紹介する。さらに, 細胞の極に局在する構造体やタンパク質を中心に研究を紹介する。明らかになりつつあるさまざまな構造物やタンパク質の極局在メカニズムについてレビューしたい。
  • 真下 千穂
    2006 年 61 巻 3 号 p. 339-344
    発行日: 2006/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    20世紀中ごろより抗生物質が医療現場で使用されるようになり, 我々は感染症に対して多くの恩恵に与ったが, その反面で薬剤耐性菌との長い戦いが続いている。薬剤耐性に関する研究が多くなされ, インテグロンに代表されるような細菌の外来遺伝子獲得機構が少しずつ明らかになってきた。その中で, 細菌が外環境に素早く順応するためのプラットフォームと考えられるような染色体上の構造が Vibrio cholerae で発見され, スーパーインテグロンと名づけられた。本稿ではスーパーインテグロンの特徴・機能を中心に薬剤耐性とインテグロンの関わりについて紹介したい。
  • 松本 壮吉
    2006 年 61 巻 3 号 p. 345-352
    発行日: 2006/08/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    結核菌は人類の1/3に潜伏感染しており, 時に内因性再燃を引きおこす。成人の肺結核の多くがこの機序で発症し, 現在, 年間約200万人の命が失われている。潜伏感染菌は通常休眠することで, 菌と宿主双方の生存を確保し, 且つ薬剤抵抗性を獲得する。結核菌はヒトを住処としており, ヒト以外の生物や自然環境下での生存は難しい。したがって潜伏感染菌の根絶は根本的な結核対策となる。潜伏感染菌対策を講じるために休眠機構を解かなければならない。細胞を凍らすように菌の代謝を生理的温度下においていかに抑制するのか? 休眠機構は“謎”に包まれていたが, 我々は菌の増殖を停止させる分子MDP1を同定した。加えてMDP1が接着分子として菌の潜伏感染細胞への接着/侵入を促すことを明らかにした。MDP1の活性を中心として, 接着分子を標的とした新しい治療/予防法開発の可能性を紹介する。
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