日本細菌学雑誌
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63 巻, 2 号
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追悼
平成20年黒屋奨学賞受賞論文
  • 柴山 恵吾
    原稿種別: 平成20年黒屋奨学賞受賞論文
    2008 年 63 巻 2 号 p. 387-390
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/29
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pyloriは胃に持続感染し,胃炎,胃潰瘍,胃癌の発症の原因となる。我々は,H. pyloriが産生する蛋白で胃上皮細胞にアポトーシスを誘導する活性を持つものを精製,同定した。この蛋白はγ-glutamyltranspeptidase(GGT)だった。GGTは分泌蛋白で,菌体外に存在する物質を基質としていた。GGTは,グルタミンとグルタチオンに対して非常に強い加水分解活性を示し,Km値が1 μM以下だった。宿主細胞にとって,環境中のグルタミンとグルタチオンが加水分解により消費される事は,細胞内でそれらを合成するためにATPの消費を課すことになるとともに,グルタチオンの欠乏は,宿主細胞を酸化ストレスにさらすことになる。これらのことは,宿主細胞に対する障害メカニズムの一つと考えられる。一方H. pyloriはグルタミントランスポーターを持たず,細胞外のグルタミンをGGTの働きによりグルタミン酸に加水分解して取り込んでいた。H. pyloriのGGTによる病原性は,菌自身の代謝に必要な酵素が同時に宿主に対して障害性を示すというものだった。
  • 寺尾 豊
    原稿種別: 平成20年黒屋奨学賞受賞論文
    2008 年 63 巻 2 号 p. 391-398
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/29
    ジャーナル フリー
    A群レンサ球菌(Group A Streptococcus pyogenes; GAS)は,咽頭炎・扁桃炎の起因菌として古くから知られている。1980年頃から侵襲性および劇症型GAS感染症等の重症化例が報告されているが,重症化に転じる機構は不明であり,したがって予防法や治療法は確立されていない。侵襲性および劇症型GAS感染症の発症には宿主細胞への侵入,自然免疫と獲得免疫の回避,各種組織への伝播と外毒素の産生が必須であると考えられる。そこで本研究では,劇症型GAS感染症患者由来株から新たな侵入因子を同定し,さらに免疫回避に寄与する分子群を同定した。その結果,血清型M1およびM3由来株から,それぞれGASの組織への付着・侵入に寄与するFbaAおよびFbaBを見出した。また,補体免疫の中心的な役割を担うC3bおよびC5aを分解するGASプロテアーゼ群を同定し,自然免疫系を回避する機構について解析した。その結果,GASは分泌型システインプロテアーゼSpeBの作用でC3およびC3bを分解し,オプソニン化を妨げることが明らかになった。さらに,菌体表層に局在するGAPDH分子とセリンプロテアーゼScpAの協調作用で走化性因子C5aを消化し,好中球の遊走阻害を果たすことが示された。
総説
  • 遠藤 雄一, 藤田 禎三
    原稿種別: 総 説
    2008 年 63 巻 2 号 p. 399-405
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/29
    ジャーナル フリー
    フィコリン(Ficolin)は,重合体構造をもつレクチンである。単量体は約35 kDaの分子量をもち,コラーゲン様ドメインとフィブリノーゲン様ドメインからできている。フィコリンは,ヒトでは3種類,マウスでは2種類が知られている。フィコリンは,共通してフィブリノーゲン様ドメインでN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を認識する。血中では,マンノース結合レクチン(MBL)と同様に,セリンプロテアーゼMASPと複合体を形成して存在し,病原体表面のPAMPsを認識すると考えられている。この異物認識に伴って,MASPが活性型に転換し,補体系が活性化される。この経路は,補体レクチン経路と呼ばれ,自然免疫の生体防御システムとして,重要な役割を担っていることが示唆されてきた。
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