日本細菌学雑誌
Online ISSN : 1882-4110
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63 巻, 4 号
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平成20年浅川賞受賞論文
  • 山口 明人
    原稿種別: 平成20年浅川賞受賞論文
    2008 年 63 巻 4 号 p. 437-446
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    院内感染による多剤耐性菌が問題になっている。その多剤耐性の大きな原因の一つが異物排出タンパクである。異物排出タンパクは,生物界に広く存在して,細胞レベルの生体防御因子として機能しているが,何らかの原因で発現が高進すると多剤耐性を引き起こす。その特徴は,広範な毒物・薬物を排出する能力にある。私たちは,グラム陰性細菌の代表的異物排出タンパクAcrBの結晶構造を解くことにより,多剤認識の構造的基礎が,基質の脂質二重層からの排出とマルチサイト結合であることを明らかにした。異物排出タンパクは一つの細胞に何種類も存在する。私たちは細菌の異物排出タンパク遺伝子を網羅的に解析し,その発現制御機構を詳細に解明した。その結果,細菌の環境感知応答システムである二成分情報伝達系による異物排出遺伝子発現制御を発見すると共に,異菌種間センシングによる発現制御を見いだした。さらに,異物排出タンパクは,薬物・毒物を排出するだけでなく,生理的に重要な働きをしており,細菌の病原性発現とも密接な関わりを持つことを明らかにした。このように,構造・機能・制御と生理的役割を総合的に解析することにより,異物排出タンパクワールドの総合的理解が可能になり,それらを克服する新しい治療戦略が明らかになるものと期待される。
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