日本細菌学雑誌
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64 巻, 2 号
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平成21年黒屋奨学賞受賞論文
  • 高橋 英之
    原稿種別: 平成21年黒屋奨学賞受賞論文
    2009 年 64 巻 2 号 p. 291-301
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/27
    ジャーナル フリー
    髄膜炎菌は化膿性髄膜炎の起炎菌の中で唯一流行性の髄膜炎を起こす危険な病原菌である。我々は,髄膜炎菌の簡易分類マーカーとして知られ,近年では他の病原性細菌においても病原性に関与することが明らかとなったγ-glutamyl aminopeptidase(GGT)に着目してその髄膜炎菌における病原性やその生化学的性質や分子進化に関して解析を行ない,他の病原性細菌には認められないユニークな特徴を持つことが明らかにした。また,すべての国内の髄膜炎菌臨床分離株を分子疫学的に解析し,それらの典型的な株のヒト培養細胞への感染能を検討した結果,海外での大流行の起炎菌株や国内患者由来株は感染能が高い一方で,健常者由来株は感染能が低いことを見出した。さらにその患者由来株の高感染性に起因する因子を探索する過程で髄膜炎菌のリポオリゴ糖(LOS)のLipid Aにphosphoethanolamine(PEA)を付加する酵素LptAにより髄膜炎菌のヒト培養細胞への接着能が亢進される機構を見出した。
  • 児玉 年央
    原稿種別: 平成21年黒屋奨学賞受賞論文
    2009 年 64 巻 2 号 p. 303-309
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/27
    ジャーナル フリー
    腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)は,わが国における主要な食中毒原因菌である。本菌の病原性発現に関わる主要な因子として,疫学的および遺伝学的研究から,耐熱性溶血毒(TDH)が中心的役割を果たすと考えられてきた。しかしながら,本菌が2セットの3型分泌装置(Type III secretion system: TTSS)遺伝子群を保有すること,そのうちの小染色体上にコードされるTTSS(TTSS2)が腸管毒性活性に関与することや,これらの遺伝子群が臨床分離tdh遺伝子陽性株に特異的に存在することから,本菌の新たな病原因子としてTTSS2の重要性が認識されつつある。本研究ではまずTTSS2がある種のヒト腸管上皮由来細胞に細胞毒性活性を示すこと,このTTSS2依存的細胞毒性活性に関与するエフェクターとしてADP-ribosyl transferase(ADPRT)活性を持つVopTを見出した。さらにTTSS2依存的分泌タンパク質として新たにVopB2およびVopD2を同定し,それらがTTSS2のtranslocon protenとして機能し,本菌のTTSS2を介した下痢原性に必要不可欠な因子であることを明らかにした。
  • 三室 仁美
    原稿種別: 平成21年黒屋奨学賞受賞論文
    2009 年 64 巻 2 号 p. 311-317
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/27
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pyloriH. pylori)の病原性タンパク質CagAは,胃炎,胃MALTリンパ腫などの病態発症に深く関連することが報告されている。近年の研究で,CagAは,菌の持つIV型分泌装置によって細胞内に注入されると,種々の宿主タンパク質と結合して様々な生物活性を示すことが明らかになっている。本研究では,CagAが,SRE/SRF転写活性亢進に引き続き,感染上皮細胞のアポトーシス抑制性タンパク質Myeloid cell leukemia sequence-1(MCL1)の発現を誘導することで,感染胃上皮細胞のアポトーシスによる剥離を抑制することを明らかにした。CagAによる胃上皮細胞ターンオーバーの抑制によって,菌体付着の足場となる胃上皮細胞の脱落が抑制され,最終的に胃上皮細胞への菌体定着が促進されることが,本菌の慢性感染の一因として重要であることが示唆された。
総説
  • 菖蒲池 健夫, 片桐 菜々子, 宮本 比呂志
    原稿種別: 総 説
    2009 年 64 巻 2 号 p. 319-330
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/27
    ジャーナル フリー
    レジオネラは自然界の水系・土壌に広く生息するグラム陰性桿菌で,ヒトの肺炎(レジオネラ肺炎,在郷軍人病)やインフルエンザ様の熱性疾患(ポンティアック熱)の原因菌である。レジオネラ症患者から分離される菌種の90%以上はLegionella pneumophilaで,その8割以上を血清群1に属する菌が占めている。本菌が病原性を発揮するうえで最も重要な性質は,生体防御の第一線で働くマクロファージの殺菌に抵抗し,その中で増殖し,結果的にその細胞を殺す能力を持っていること(細胞内増殖能)である。マクロファージの殺菌機構からのL. pneumophilaのエスケープ機構と増殖機構について,細菌側と宿主側の両側からのアプローチがこれまで行われてきた。巧妙な菌の戦略とそれに対抗する宿主の応答が分子レベルで解明されつつある。本総説では,宿主側からのアプローチで明らかになったL. pneumophilaの細胞内増殖制御機構について,レジオネラ感染に対するマウスの自然抵抗性遺伝子(Lgn1/Naip5/Birc1e)を中心に解説した。
  • 長 環
    原稿種別: 総 説
    2009 年 64 巻 2 号 p. 331-337
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/27
    ジャーナル フリー
    Candida albicansのバイオフィルムは,酵母形細胞,仮性菌糸,菌糸,さらに菌体外物質が複雑に絡み合った細胞集団である。その構造の強固さは本菌の多形性と細胞間の接着性によると考えられる。最近バイオフィルム内における細胞間の接着に接合が関与するという考え方が導入されつつある。また菌密度を感知するクオラムセンシング機構が,バイオフィルムの成熟期に働き,酵母細胞のバイオフィルムからの分散,そして新たな感染場所への転移に寄与している可能性が考えられている。
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